資 料 1 学校における同和教育指導資料 学校における同和教育の推進と差別事象に関する指導について 1994(平成6)年7月・文部省初等中等教育局小学校課発行 第Ⅰ節 同和教育と部落差別事象の現状 「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり日本国憲法によって保 障された基本的人権にかかわる課題である 。」(昭和 40 年 8 月同和対策審議会答申、以下「同対審答 申」という。) 同和問題の本質は、同対審答申によれば 、「日本社会の歴史的発展の過程において形成された身 分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態に おかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理 として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻 にして重大な社会問題である」とされている。 同対審答申は 、「部落差別は、半封建的な身分的差別であり、わが国の社会に潜在的または顕在 的に厳存し、多種多様の形態で発現する。それを分類すれば、心理的差別と実態的差別とにこれを 分けることができる」としている。 その上で 、「心理的差別とは、人々の観念や意識のうちに潜在する差別であるが、それは、言語 や文字や行為を媒介として顕在化する。たとえば、言葉や文字で封建的身分の賤称をあらわして侮 蔑する差別、非合理な偏見や嫌悪の感情によって交際を拒み、婚約を破棄するなどの行動にあらわ れる差別である。実態的差別とは、同和地区住民の生活実態に具現されている差別のことである。 たとえば、就職・教育の機会均等が実質的に保障されず、政治に参与する権利が選挙などの機会に 阻害され、一般行政諸施策がその対象から疎外されるなどの差別であり、このような劣悪な生活環 境、特殊で低位の職業構成、平均値の数倍にのぼる高率の生活保護率、きわだって低い教育文化水 準など同和地区の特徴として指摘される諸現象は、すべて差別の具象化であるとする見方である。 このような心理的差別と実態的差別とは、相互に因果関係を保ち相互に作用しあっている。すな わち、心理的差別が原因となって実態的差別をつくり、反面では実態的差別が原因となって心理的 差別を助長するという具合である。そして、この相関関係が差別を再生産する悪循環をくりかえす わけである 。」と分析している。 それから 28 年余り 、3 回にわたる特別措置法が制定 、施行され 、地域改善対策が推進されてきた 。 さらに、平成 4 年 3 月には、地域改善対策協議会の意見具申「今後の地域改善対策について」(平 成 3 年 12 月、以下「3 年意見具申」という。)を踏まえ、特別措置法の有効期間が 5 年間延長され ている。 これらの特別措置法に基づく地域改善対策の成果は「全体的には着実に進展をみている」(3 年 意見具申)が、なお、この部落差別の現状に関しては、3 年意見具申は、「心理的差別の解消は、 同和関係者と一般住民との婚姻の増加がみられるなど改善の方向にあるものの、結婚や就職などに 関連した差別事象が依然としてみられ、十分な状況とはいい難い。 同和問題が国民的課題であるという趣旨は、国民の一人ひとりが本問題に主体的に取り組むこと によって初めてその最終的な解決が可能となるということであるが、現況では、必ずしも国民的課 題として普遍化しているとはいえない 。」と分析した上で、地域改善対策の重要な課題として「こ れからは、就労対策、産業の振興、教育、啓発等非物的な事業に重点をおいた施策の積極的な推進 が重要な課題である」としている。 そして 、「国際的に人権尊重思想が普及する中で、心理的差別の解消に向けて努力を重ねていく ことが以前にも増して重要となっている。このため、改めて創意工夫を凝らして、啓発活動をより 積極的に推進していくよう努めるべきである 。」とし、心理的差別の解消を図るため 、「学校教育、 社会教育のより効果的な推進が必要である 。」と指摘している。 文部省においては、同和問題の重要性にかんがみ、従来から、学校教育及び社会教育を通じ広く 国民の基本的人権尊重の精神を高めるとともに、同和地区における教育上の格差の解消と教育・文 化の水準の向上に努めることを基本としてその推進に努めてきたところであるが、学校教育の場に おける差別事象もいまだに発生しているという状況が見られる。 文部省では、毎年各都道府県教育委員会の協力を得て、各都道府県教育委員会が把握している学 校教育の場における差別事象について調査している。 この調査によれば、ここ数年間は、年によってばらつきはあるものの、150 から 250 件位の差別 事象が学校教育の場において発生したとの報告がなされている。そのほとんどが「言葉や文字で封 建的身分の賤称をあらわして侮蔑する差別」(同対審答申)である。 この調査においては、差別事象を児童生徒の発言に関わるもの、教職員の発言に関わるもの、差 別落書に関わるもの、その他に分類しているが、毎年の傾向を見ると、児童生徒の発言に関わるも のが 7 割程度、教職員の発言に関わるものが 1 割弱、差別落書に関わるものが 2 割程度、残りがそ の他となっている。 本来、学校教育の場では、法の下の平等の原則に基づき、社会の中に根強く残っている不合理な 部落差別をなくすため、人権尊重の教育が行われ、人権意識の高揚が図られるべきであり、このよ うな差別事象が発生していることは誠に遺憾である。 学校においては、差別事象の解消のため、その実態把握に努め、背景、原因等の分析を行い、学 校教育活動全体を通じて適切な指導を行うとともに、次節で述べるような留意点に十分配慮し、同 和教育の一層の改善・充実に努めることが必要である。教育委員会においては、学校におけるこの ような取組みを適切に指導・助言し、支援していくことが求められる。 そして最後に第Ⅲ節では、小学校、中学校、高等学校において発生した部落差別事象を、それそ れ 1 つずつ取り上げる。それらについて背景・原因等の分析、当該事例における指導に当たって留 意した事項など、差別事象への取組みを具体的に示した。 第Ⅱ節 学校における同和教育推進のための留意点 学校における同和教育は、人間形成期にある児童生徒に対して同和問題に対する正しい理解と認 識を深め、社会に根強<残る不合理な部落差別を許さない人権意識の確立を図るものであり、心理 的差別の解消に大きな役割を果たしている。また、同和問題の最終的解決のためには、本問題に国 民一人ひとりが主体的に取り組むことが必要であり、このため同和教育のより効果的な推進が求め られている。このような同和教育の目標を達成し、学校における差別事象の解消などを図るには、 何よりも日常の教育実践の中で、偏見や差別のない学級経営が行われ、個を生かす学習指導が行わ れることが基本となる。 すなわち、学校や学級などにおいて、児童生徒同士あるいは、教師と児童生徒が相互に共感と信 頼に基づく温かい豊かな人間関係をつくり、一人ひとりが尊重され、自らよさや可能性を発揮し、 豊かな自己実現を図る学習指導を充実する必要があり、そのことによって日常生活に見られる偏見 や差別をなくしていくことが求められる。 また、このような同和教育は、同和問題の解決のみならず、同時にすべての人々の基本的人権を 保障することをめざす教育を実現していくことでもある。 学校における同和教育は、こうした教育活動の実践を基本としながら、同和教育についての基本 的指導方針である「同和教育の推進について」(文部省 同和教育資料)に則りつつ進める必要が ある。その際、以下の点に十分配慮し、同和教育の一層の改善・充実に努めることが必要である。 1.児童生徒の発達段階に即し、各教科等の特質に応じた同和教育の充実 (1)学校教育活動全体を通じた取組み 学校における同和教育は、同和地区の有無にかかわらず、全国すべての学校において基本的 人権尊重の精神を高めることを基本としつつ、児童生徒の発達段階を考慮しながら、各教科、 道徳、特別活動等の特質に応じ適切に行うことが必要である。 ただし、具体的な展開は、学校の置かれている地域の状況に応じて適切に行われる必要があ り、それぞれの地域のもつ教育上の課題にも十分配慮する必要がある。 したがって、各学校においては、児童生徒や地域の実態を十分に把握し、それに即した同和 教育の基本方針を共通理解するとともに、これを具体化するために、それぞれの教育活動がど のような役割を分担するかを総合的に明らかにした全体計画や、児童生徒の発達段階を踏まえ て、系統的・発展的な指導を積み重ねていくための、具体的な指導計画を作成することが望ま れる。 そして、これらの計画は、実践に基づく問題点の整理と以下に示すような視点に立って、絶 えず見直し、改善していく弾力的な取扱いが必要である。 (2)同和教育の中心的課題の明確化 同和教育の中心的課題は 、「法のもとの平等の原則に基づき、社会の中に根づよく残ってい る不合理な部落差別をなくし、人権尊重の精神を貫くこと」(同対審答申)である。 各学校においては、この課題に迫るために、学校の教育目標を吟味し、学校が目指す児童生 徒像を明確にして、学校としての同和教育の目標・各学年の指導の重点が設定されなければな らない。そして学校の教育活動全体を通じた取組みを進めるに際しては、特に次の点に留意す る必要がある。 ① 同和地区児童生徒の実態や部落差別解消への保護者の願い等が反映されていること。 ② 単なる知的理解にとどまることなく、心情を陶冶し、態度にあらわれるようにし、部落差 別解消への実践カを育てることが目指されていること。 (3)各教科等の特質に応じた適切な指導 同和教育は、教育活動全体を通して組織的な指導として展開されなければならない。そのた めには、各教科等の教育活動がもつ固有の目標と内容を同和教育の視点から検討して、それぞ れの中で分担する重点的な内容及び指導上の留意点を明らかにして計画し、位置付けることが 必要である。そして、日常の実践・記録の累積を通して、次の諸点から検討することが必要で ある。 ① 各教科等において、同和教育の視点から検討した具体的な指導目標が、学校全体の同和教 育の目標が実現するよう集約されているか。 ② 各教科等が受けもつ内容について、児童生徒の発達段階や生活経験及び全校的な系統性・ 発展性への配慮がなされているか。 ③ 各教科等の特質を生かした指導方法の改善、資料の収集に努め、差別解消への意欲や態度・ を育てる工夫がなされているか。 (4)地域の現状を踏まえた課題の設定 「児童、生徒に対する同和教育をより効果のあるものにするためには、家庭において父母が 同和問題を正しく理解した上で子供に接することが欠かせない」(昭和 59 年 6 月地域改善対策 協議会意見具申「今後における啓発活動のあり方について 」、以下「59 年意見具申」という。) 要件である。したがって、同和問題に対する保護者の認識や願い、部落差別の現実や地域の実 態を的確に把握することに努め、それを踏まえて学校の指導計画の改善・充実を図るようにす ることが大切である。その場合、特に次の点に留意する必要がある。 ① 児童生徒のもつ偏見や差別は、保護者や家族からの影響が大きいことに留意し、PTA 活 動等とも連携し、保護者や家族に対する同和問題の正しい理解と認識を深める啓発活動を重 視すること。 ② 保護者、地域の人々の中には、地域社会に顕在又は潜在する部落差別を背景とする種々の 差別的事象について、その解決が自らに課せられた課題だという認識に乏しい場合が多い。 このことによって、人間の尊厳性、人権の尊重についての正しい認識や鋭い感覚が児童生徒 の日常生活の中に定着していかないことにもつながる。したがって、保護者の協力を得なが ら、これらの学習を深める計画を盛り込む必要がある。 (5)適切な教材の選定 児童生徒にきめ細かな行き届いた学習指導を行い、教育効果を高めるためには、適切な教材 を用意することが大切である。同和教育を具体的に進めるに当たっても、以下のような点に留 意し、適切な教材を選定することが必要である。 ① 児童生徒の発達段階を考慮すること まず、小学校、中学校、高等学校それそれにおいて、同対審答申にある同和教育の中心的 課題「法のもとの平等の原則に基づき、社会の中に根強く残っている不合理な部落差別をな くし、人権尊重の精神を貫くこと」を教材選定の基本とする必要がある。 その上で、児童生徒の発達段階に合わせて、ねらいを明確に設定するとともに、教材を適 切に吟味し選定することが大切である。 ② 公正な観点で教材を吟味すること 教材の内容が教育基本法、学校教育法等の法令の趣旨に沿い、特定の主義主張に偏らない 公正なものであることに留意する必要がある。同和教育においても、従来から同対審答申な どで教育の中立性に留意すべき旨が指摘されてきたところであり、この点に特に配慮する必 要がある。 ③ 地域の実態を考慮すること 校区における同和地区の有無、地域の歴史的背景や現状をはじめとし、同和問題に関する 保護者の認識や願いなど、地域の実態を的確に把握することが大切である。 2.教職員の研修の充実 同和問題について 、 「今後に残される課題の第 1 は 、差別意識の解消の問題である 」(昭和 61 年 12 月地域改善対策協議会意見具申「今後における地域改善対策について 」、以下「 61 年意見具申」と いう。)「心理的差別の解消に向けて努力を重ねていくことが以前にも増して重要となっている」 (3 年意見具申)とされているように、心理的差別の問題は残された大きな課題であり、今後は教 育、啓発が一層重要となっている。 学校教育において、児童生徒に人権尊重の精神を培い、同和問題についての正しい理解と認識を 養うことによって、部落差別の解消を図るとともに、あらゆる差別を解消していくことが重要であ る。 このため、教職員が同和問題をはじめあらゆる人権問題についての正しい認識をもつように努め るとともに、児童生徒に対する具体的な指導を展開する力量を高める必要がある。 (1)校内における同和教育の推進体制の確立 学校において同和教育を推進していくためには、学校全体で全教職員が同和教育について共 通理解を図るとともに、校内における推進体制を確立する必要がある。 このために、教育実践に向けて企画立案・実施・評価を中心的に推進する同和教育推進委員 会を校内に設けることなどが考えられる。 (2)研修の充実 教職員が同和問題についての正しい認識をもつとともに、児童生徒に対する指導を展開する ために教職員の研修の充実が必要である。 このため、校内における組織的・継続的な研修と教職員の自発的な研修を組み合わせて効果 的な研修を進めることが大切である。研修に当たっては、以下のような点が特に重要であるこ とに留意しなければならない。 ① 同和地区の実態を正しくとらえること 長年にわたる地域改善対策の推進によって、「同和地区の生活環境等の劣悪な実態は、大 きく改善をみ」(3 年意見具申)たが、いまだ、生活、就労、教育、福祉等については、な お、課題が残されていること、そして、それらが具体的には「ア.生活保護世帯を含めた住 民税非課税世帯の割合が高いこと、イ.不安定就労者や小規摸零細企業の割合が高いこと、 ウ.高校等への進学率になお若干の格差があること」(61 年意見具申)等の問題として存在 することを理解し、これらの同和地区の実態からその学校における教育の課題を的確に把握 することが大切である。 ② 児童生徒の実態を正しくとらえること 学校での活動や家庭訪問等を通して同和地区の児童生徒の実態を的確にとらえ、一人ひと りの児童生徒のもつ能力を十分伸ばしていくことが大切である。また、同和地区外の児童生 徒が、同和問題についてどれだけ正しく理解しているか、人権意識がどこまで高まっている かなど、児童生徒と接する中で把握することに努め、その学校における教育の課題を明らか にしていかなけれぱならない。 ③ 人権や同和問題についての学習を充実すること 学級担任、教科担任等として、学級経営を行い、教科の指導を行う中で、常に児童生徒の 人権意識を高め、同和問題についての理解を深める指導を意図的、計画的に行っていかなけ ればならない。特に、児童生徒の実態、地域の実態に即しながら、計画を立て地道にしかも きめ細かく指導することが大切である。各教科等においては、例えば、国語科における文学 教材、社会科や地理歴史科等における歴史教材等を用いて、共感的理解及び知的理解を図る ことや道徳、特別活動において、身近な生活を見直す中でよりよい価値観を培い、人間のふ れ合いの場を創造することを通して人権意識を高めるような指導を行うことが大切である。 特に学習指導要領の改善の趣旨を生かし、人間としての在り方生き方に関する教育の推進に 関連付けて新たな実践を創造するよう努める必要がある。 3.幼・小・中・高等学校等の連携 同和教育を進めるに当たっては、幼児児童生徒の発達段階に即した系統的な指導が必要であり、 そのためには、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の間の連携が大切である。その場合、特に以 下のような点に留意する必要がある。 (1)発達段階に応じた指導 児童生徒が、同和地区あるいは同和問題について初めて知ったときを各種の調査によって見 ると、地域によって差はあるが、高等学校卒業までに 6 ∼ 7 割の者が何らかの形で認識してい るという傾向が見られる。このように多くの児童生徒が同和問題を認知する年齢段階は思考が 柔軟な時期であり、教育(学習)によって、ものの見方や考え方、さらには人間としての生き 方などを学び取っていく人間形成上の重要な時期に当たる。 教育はすべて幼児児童生徒の発達段階に応じて意図的・計画的になされるものであるが、特 に、成長過程において形成される不合理な差別意識の解消を図る同和教育においては、発達段 階に応じた指導が特に重視されなければならない。 そのためには、学校における同和教育の重要性を改めて認識するとともに各学校段階に応じ た同和教育の課題を明確にして、一定地域内の学校が、相互に緊密な連携を図りながら、幼児 児童生徒の発達段階に応じた系統的な指導を推進することが大切である。 (2)学校間の連携・協調 学校における同和教育は、人間形成の基本にかかわる問題であり、指導に当たる教員の認識 や態度が大きな影響力を及ぼすものである。そのため、全教員が同和問題に対する研修を深め るとともに一定地域内の幼・小・中・高等学校が、互いに連携・協調する推進体制を確立する ことが大切である。このための取組みを例示すれば次のような実践がある。 ① 授業研究等を通して、共通理解・共通実践を深める。 幼稚園と小学校、小学校と中学校、中学校と高等学校のように近接する学校段階を基本と しながら、さらには幼稚園から高等学校まで任意の組合せで授業研究等を進め実践を通して 研究の交流を図ることが、共通理解を深める上で大きな役割を果たすものである。 ② 教材の工夫、指導計画の立案等を通して、系統的な同和教育の実現に努める。 校内の同和教育推進委員会や同和教育担当主任が中心になるなどして、身近にある資料の 収集、発達段階に即した教材の工夫、さらに幼稚園から高等学校までの指導計画の作成等に 努めることが大切である。そのことを通して、幼・小・中・高等学校がそれぞれに分担する 役割と課題を明確にして系統的な同和教育の推進を図ることに役立てることができる。 ③ 研究発表会等を通して、地域の実態に即した指導を推進する。 児童生徒の言動を単に表面的にとらえるのでなく、その背景に目を向けることが偏見や差 別意識を解消していく指導の基本である。地域内の学校が連携して、児童生徒が抱える問題 等実践上の課題を提起し合うような協同の研究を深めることが、家庭での教育や生活の実態、 地域の現状を理解することに役立つとともに、地域の実態に即した同和教育の推進体制を確 立する契機となるものである。 4.家庭・地域社会との協力 「児童生徒が、学校で同和問題を正しく理解しても、家庭や地域でこわされることが多い。」など の声が学校関係者からあるように、学校における同和教育を効果的に推進するためには、家庭や地 域の人々の同和問題に対する正しい理解と協力が必要である。 (1)保護者に対する啓発 59 年意見具申には、特にこのことについて「児童、生徒に対する同和教育をより効果あるも のにするためには、家庭において父母が同和問題を正しく理解した上で子どもに接することが 欠かせないものであり、このため学校と家庭とが PTA 等の協力を得て相互に連携をとりなが ら、同和問題に関する学習活動を進めていくことも重要である 。」と指摘してあり、保護者に 対する啓発の重要性を指摘している。 したがって啓発の内容は、保護者に対して、同和問題について正しい理解を促すとともに、 学校で行っている同和教育の内容の十分な理解を促すものであり、さらに、同和問題をはじめ、 一人ひとりを大切にするという人権にかかわる幅広い内容を取り扱うことにより、同和問題は、 国民一人ひとりの問題であるという認識にまで高めることが必要である。 特に、啓発に当たっては、画一的・表面的なものにならないように、地域の実態や、その保 護者の理解度などを踏まえたものにするよう留意する必要がある。 また啓発の場としては、同和教育に関する授業参観、学年・学級 PTA 等での同和問題につ いての話合い、同和教育講演会の開催等保護者に対する学習の場が考えられ、その際、保護者 と十分話し合い、自由な意見交換のできる場作りに配慮し実施することが大切である。 さらに、啓発の方法としては、学校通信や学年・学級だより、PTA の広報紙等に、学校に おける同和教育の実践状況や PTA の同和問題に対する取組に関する内容を掲載するなどの広 報活動が有効と考えられる。 以上のようなことを、それぞれの地域の実情に応じて工夫し、保護者の同和教育に対する理 解を深め、さらに保護者が、家庭の中で子どもに同和問題について正しく指導するなどの自覚 をもつようにすることが、学校における同和教育を推進していく上で重要である。 (2)学校・家庭・地域社会の連携、協力 児童生徒の主な生活の場は、学校・家庭・地域社会であり、この三者が連携、協力しながら、 共に同和問題に取り組んでこそ、その効果が最大に発揮され、同和間題解決への近道となるこ とは当然のことである。 なかでも、三者の連携・協力に当たって中心的な役割を果たすのは、三者の接点にいる PT A であろう。学校の教職員は、家庭・地域社会と連携を密にしながら、様々な機会を活用して、 同和問題解決のために PTA の果たす役割の重要性を訴えていくことが望まれる。 5.教育の中立性の確保 同和教育を進めるに当たっては 、「教育の中立性」が守られるべきことはいうまでもないことで ある。このことについて、同対審答申は「同和教育を進めるに当たっては 、『教育の中立性』が守 られるべきことはいうまでもない。同和教育と政治運動や社会運動の関係を明確に区別し、それら の運動そのものも教育であるといったような考え方はさけられなければならない」と述べている。 また、59 年意見具申においてもそのことが明記されたが、 61 年意見具申においては、さらに、「同 和教育については、啓発活動の一環として、今後とも推進していかなければならないが、その前提 として、教育と政治・社会運動とを明確に区別し、教育の中立性の確立のための徹底的な指導を行 うことが必要である。なお、その指導に当たっては、教育の中立性を確保する方策が明確に示され るべきである 。」と強調されている。そして、このことは 3 年意見具申においても繰り返し指摘さ れている。 これは、政治運動、社会運動そのものが教育であるといった主張により、政治運動や社会運動が 直接学校に持ち込まれるというような状況が一部にみられることから、改めて教育の中立性を確立 することが強く要請されているものである。 同和教育を進めるに当たっては、これらの指摘を踏まえ、教育の中立性が守られるように努めな ければならない。 このため、教育の中立性を疑わせるような行為をすることにより、国民の教職員に対する信頼を 損なうことのないように服務規律の確保に留意するとともに、同和教育の進め方について、保護者 や地域の人々の一層の理解を得るように努める必要がある。 また、学校教育の場において差別事象が生じた場合には、学校が教育の課題として主体的に解決 しなければならない。 学校において、同和教育を進めるに当たっては、家庭、地域社会との連携が必要であることはい うまでもないことであるが、その連携の在り方が学校の主体性を失い、教育に対する介入であると いう批判を招くようなことがあってはならない。 (第Ⅲ節………省略)
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