一気にCMOSへ流れるか システム化で押す欧米勢

L/たこさん取材 98.3.4 10:50 AM ページ 20 (1,1)
撮像素子、一気にCMOSへ流れるか
∼ システム化で押す欧米勢、CCDを極める日本勢 ∼
アニメーションKAB 杉沼 浩司
t雨のUnion Square
LSI技術に関する国際学会として知られるISSCC98(1998 IEEE International SolidState Circuits Conference)が、米国サンフランシスコ市で2月5日より7日まで開催さ
れた。サンフランシスコ市を含む北カリフォルニアは、この10年で最悪とも言われる
豪雨に見舞われ至る所で交通が遮断された。しかし、世界各地から集まった研究者達
は天気を気にする様子もなく、地下のボールルームで開かれた発表に参加していた。
地下のボールルームをすべて使って5つのセッ
ションが平行に行われた。多くの参加者が活発
に議論し、熱気は廊下にまであふれていた。
20 ︱eizojoho industrial
L/たこさん取材 98.3.4 10:50 AM ページ 21 (1,1)
■ 実物が求められる発表
ISSCCは、マイクロプロセッサ、メモリ、信号
処理などのディジタル分野、A-D/D-Aコンバータ、
無線、フィルタなどのアナログ分野の双方をカバ
ーするのが特色である。また、設計と机上のシミ
ュレーションによる発表ではなく、動作する実物
(最低限、何らかの出力信号)が求められるのも大
きな特徴である。そのためか、純粋に学術的なも
のよりも、試作のレベルに達したものが送り込ま
れてくる。ISSCCでの発表を見ることは、1年程度
の近い将来に登場する製品を占うのに非常に役に
立つ。また、ISSCCが産業界に密着していること
の好例としては、メディアプロセッサのセッショ
会場内は撮影・録音禁止となっているので、写真
はここまで。入り口では、評価用のシートが配ら
れる。
ンが始まったことを指摘したい。25の発表セッシ
ョンと8つのディスカッションセッションがあり、
今年は、8件の発表中6件までがCMOS型固体撮
多くの話題に関して活発に議論された。論文数は
像素子の発表となり、ISSCCのトレンドがCMOSに
159である。
ある 1) ことを示している。また、夜の討論会は
なお、筆者はマイクロプロセッサのアーキテク
「Will CMOS Image Sensors Survive Scaling?」
(CMOS
チャレベルの設計を専門とするもので、イメー
型イメージ・センサはLSIの線幅縮小に対応して生
ジ・センサの製造技術は専門ではない。システム
き残れるか?)という議題で開催された。
「CCDか
レベルまたは、それに近い観点から報告する。
CMOSか」というレベルは既に過ぎ去っているこ
とを思わせる議題である。
■ セッション11:イメージ・センサ
今回は、イメー
FA11.1:A 200mW 3.3V CMOS Color Camera IC
Producing 352×288 24b Video at 30Frames/s
ジ・センサのセッシ
M.Loinaz, et al. , Bell Labs., Lucent Technologies
ョンに参加した。数
(以下、ファーストオーサとその所属のみを記載)
年前まで、イメー
センサ部に加えて、A-Dコンバータ、色補間、
ジ・センサはCCD一
色補正、ホストインタフェイスまで加えた「1チッ
色で、HDTVを指向
プディジタルカラーカメラ」の発表である。セン
したものの発表が相
サ部に加えて、ディジタル処理部分を含めてしま
次いでいた。その直
うようなシステム化が計れるのがCMOS型撮像素
接的、間接的な成果
子の大きな特徴となっているが、それを如実に示
は、昨年続々と登場
す例となった。発表者も「CMOSは高集積化が可
したメガピクセルの
能だ」とメリットを強調していた。このようなア
ディジタルカメラに
ナログ・ディジタル混載型の素子はディジタル部
現れていると言って
が発するノイズの影響が懸念されるが、実測の結
よかろう。
果画像へのノイズの混入は認められなかったとい
1)必ずしも、業界のトレンドを反映するとは言えない。論文採択委員会の興味がCMOSもしくはCMOSで実現できたことに重きを置いて
いる、と解釈すべきだろう。
March 1998︱ 21
L/たこさん取材 98.3.4 10:50 AM ページ 22 (1,1)
う。その理由として、ディジタル部とアナログ部
Triggered Readout
に別々の電源が用意されたことと、内部のセンサ
E. R. Fossum, et al., Photobit Corporation
機構があげられた。ノイズパターンの解析から、
Photobit社は、CMOS撮像素子の提唱組織の1つ
ディジタル部のノイズはバッファリングの際に出
として有名なJPLのスピンオフである。同社が発表
るもので、画像に影響がない理由も判明した。こ
したのは、歯科用のX線撮像CMOS素子である。発
の素子は単層ポリシリコン2層メタルCMOSで製造
表者は「おそらく、世界最大のCMOS素子であろ
された。消費電力は、182mW(3.3V時)とのこと
う」としている。口腔中にフィルムを入れて撮影
である。
する歯科において、
「環境への影響を考え、フィル
この素子は実験用ながらシステム化が徹底して
ムを使わなくすることを目的に開発された」と意
おり、PC市場で多用されている「テレビ会議用」
図が説明された。この素子は、センサアレイにあ
のカメラ($300程度で売られている)の置き換え
るフォトダイオードがX線を直接感知するのでは
を狙っていると見られる。補正や補間のための演
なく、素子上に貼られた感光材が発する可視光を
算部の能力は100MOPSに達しており、ホスト側の
取り込む。また、素子はX線の入射を感知して自
負担は軽い。
「性能はCCDと同等である」と発表者
動的に立ち上がる。万が一の漏電の可能性を考え
は主張している。
ると、高電圧を使用するX線機器からトリガを送
ることはできないという。
FA11.2:A Single-Chip 306×244-Pixel CMOS
発表者は、CCDではこのような分野への利用は
NTSC Video Camera
考えられないと主張した。その理由は、CCDのコ
S. Smith, et al., VLSI Vision Ltd.
スト高(特に大面積のもの)と高電圧の使用を指
VLSI Vision社も「ディジタルのスイッチング
摘した。
「CCDで使う十数ボルトがかかった素子を
(ノイズ)の問題と熱の問題が解決されればCMOS
口腔に入れるのはFDAが許さないだろう」と述べ
の方が有利」とにらんでいる。今回試作した素子
会場の笑いを誘っていた。CMOSならば、コスト
は、NTSCのコンポジットビデオ信号を出力するも
と電圧が下がり、使用するワイヤも少なくてすむ。
ので、1チップにビデオカメラの全機能が集積され
撮像素子の画素数は675(H)×900(V)で、解
たことになる。フォトダイオードアレイから読み
像度は20本/mmとなっている。ダイナミックレン
出された信号は8ビットの分解能でディジタル化さ
ジは72dBを確保した。2μmの単層ポリシリコン2
れ、補間、色補正、ガンマ補正などが行われ、最
層メタルCMOS技術で製造されている。この素子
終的にD-Aコンバータを通りアナログ信号が出力
は、量産段階にある初のCMOS撮像素子だとされ
される。回路内ではD-Aコンバータの発熱が大き
ている。
いと見込まれたため、これはフォトダイオードア
レイから離して配置されている。フォトダイオー
FA11.4:A CMOS Imager with On-Chip Variable
ドアレイは、全体の30%程の面積を占めている。
Resolution for Light-Adaptive Imaging
素子は、2万5,000ゲート(ディジタル部)
、40万
Z. Zhou, et al., California Institute of Technology
トランジスタ(アナログ部)
、で0.8μmの単層ポリ
Caltech、CondorVision、そして前出のPhotobitが
シリコン2層メタルCMOS技術で作られている。ブ
共同開発したこのCMOS素子は、信号処理機能を
ロック図によれば、外付けに必要な部品は6つの抵
組み込むことで、低光量下のSN比を改善する機能
抗、14個のコンデンサ、1個の水晶発振子のみであ
を得ている。一種の高機能素子と言えるだろう。
り、実用化されれば簡易な1チップNTSCカメラと
SN比の改善は、近傍ピクセルとの間での演算によ
しての利用が見込める。
り行われる。
FA11.3:A 37×28E 600k-Pixel CMOS APS
μmの単層ポリシリコン2層メタルCMOS技術で製
Dental X-Ray Camera-on-a-Chip with Self-
造された。毎秒125フレームを処理する場合、消費
試作された素子は、128×128の画素を持つ。1.2
22 ︱eizojoho industrial
L/たこさん取材 98.3.4 10:50 AM ページ 23 (1,1)
電力は24mWとのことである。
ブ・インタレース両対応の素子を発表したNECが
先陣を切った。今年の素子は、画素数は同等
FA11.5:A 256×256 CMOS Imaging Array with
(1,308(H)×1,032(V))ながら、動画、静止画
Wide Dynamic Range Pixels and Column-Parallel
それぞれに対応した機能を持つ。動画は走査線525
Digital Output
本で秒30フレームの能力を持ち、静止画は走査線
S. Decker, et al., MIT
1,050本で秒15フレームの撮影能力を持つ。いずれ
このMITのCMOS撮像素子は、自動車の自動操
もプログレッシブスキャンである。ディジタル・
縦に用いるステレオビジョン用に開発された。道
スチルカメラとビデオカメラの両用途を狙ったも
路上では、明暗差が極めて大きいため非常に広い
のと思われる。
ダイナミックレンジが要求される。この素子は裸
1,050本モードと525本モードは、画素情報の入
のアナログ特性のみに頼らず、センサ部のバリア
れ換えで対応している。1,050本モードではそのま
を可変構造にすることで、必要な部分のみの特性
ま読み出し、525本モードでは1行置いた先にある
を変えるという機能を実現した。電荷の蓄積状況
同じ色情報を加算している。駆動クロックを工夫
に合わせて、余分な電荷を捨てることで飽和を防
することで両モードを実現したと見られる。素子
いでいる。素子内にはA-Dコンバータが置かれ、
としての工夫には、半導体形成方式の工夫により
結果はディジタルデータとして取り出せる。フレ
ポテンシャルのポケットが生じることを防いでい
ーム数は、30fpsから390fpsまで可変となっている。
るものがある。これにより低電圧で駆動する際に
この素子は、0.8μmの単層ポリシリコン3層メ
電子移動が妨げられる現象が軽減されている。
タルCMOSで製造された。毎秒30フレームの場合
白黒用に作った同等の素子では、水平、垂直と
で消費電力は52mWである。試作した素子で撮影
も1,000TV本の解像度を実現した。素子寸法は、
した画像が示されたが、リニアな取り込みでは飽
8.7×7.1mm2。消費電力は147mW(2.5V駆動時)と
和している部分が、可変構造のおかげで欠損なく
なっている。
取り込まれている様子が示された。リニアな場合
でダイナミックレンジは70dB、圧縮をかけた場合
FA11.7: A 1mm 50k-Pixel IT CCD Image Sensor
は96dBまで拡大されるとのことである。
for Miniature Camera System
K. Itakura, et al., Matsushita Electronics
FA11.6: A 1/2inch 1.3M-Pixel Progressive-Scan ITCCD for Still and Motion Picture Applications
T.Yamada, et al., NEC Corporation
CCDの発表は、昨年も130万画素でプログレッシ
Corporation
松下電器産業が発表したこのCCD素子は、チッ
プ寸法は1.1×1.34mm 2、組み上がった状態でも
1.2×1.5mm 2と非常に小さい。同社は、この小型
CCD技術をビデオカメラ以外の分野で使いたい模
様だ。同社によれば、97年の素子市場規模はビデ
オ機材1,000万個、PC用300万個、PDA用100万個、
ディジタル・スチルカメラ用200万個、監視用100万
個、その他240万個とのことである。これが、2005
年には、ビデオ用1,500万個、PC用2,500万個、PDA
用5,000万個、ディジタル・スチルカメラ用1,200万
個、監視用700万個、その他2,400万個が見込まれ
る。ビデオカメラ用以外の市場の伸びが圧倒的に
大きいため、そちらに注目した結果の一つが、こ
の超小型素子なのであろう。従来のパッケージン
NEC1/2インチ 130万画素CCD
グでは、全体の外形寸法が大きくなるが、チップ
March 1998︱ 23
L/たこさん取材 98.3.4 10:50 AM ページ 24 (1,1)
のが同一画素数で用意されていることから見ても
すぐに実用化を目指したものでない。それゆえに、
素子上には目立った機能ユニットは見当たらない。
欧米のCMOSが商品化を念頭に置いて高機能化し
ているのとは対照的であるが、基礎を押さえよう
という方向は重要なものであると言える。
この素子は、総合画素数は70万近くに達してい
る。発表者は「ディジタルスチルカメラのユーザ
は高画素を求めている」と述べており、その分野
への投入を狙ったものと見られる。
試作品は、0.6μmの3層ポリシリコン2層メタル
CMOSで製造された。3.3V単一電源で30 mW以下
の消費電力である。
東芝CMOSイメージセンサ
■ 巧みな欧米勢のプレゼン
イメージセンサのセッションは、マリオットホ
を直接フレキシブルテープに接着することで小型
テルのボールルームの4分の1程度を使ったもので
化を成し遂げている。ピクセル寸法は4×4μm2で、
あった。1月のMACWORLDでは、このボールルー
従来の5×5μm より大幅に縮小された。トータル
ム全部を使っても立ち見が出たが、ISSCCには4分
の画素数は231(H)×217(V)、解像度は水平が
の1は手ごろな広さと言える。会場は、ほぼ満員に
200TV本、垂直が160TV本(いずれも理論値)
、消
なった。
2
ISSCCは、比較的製品発表や技術発表に近い種
費電力は5mWとのことである。
類の学会2)であるため、発表者も研究者というよ
FA11.8: A 3.7×3.7ı
2
Square Pixel CMOS Image
Sensor for Digital Still Camera Application
りも技術者3)に近い。そのせいか、欧米の発表者
は発表の組み立てが巧みで、最も強調すべき点に
Hisanori Ihara, et al.,
Toshiba Corp.
東芝は、日本のメー
カとしてはCMOS撮像素
子に熱心である。今回
発表されたものは、実
験用の色合いが濃いが
世界最小のセル寸法を
実現している。この素
子で使用に適したセル
レイアウトパターンを
探すため、16種類のも
会場となったサンフランシスコ・マリオット。来年もここで開催される。
2)より製品発表に近いのは「HotChips」であろう。一方、非常に理論的で研究段階のものを発表する学会もある。
3)特に日本メーカは、論文執筆者の多さからも「開発」と言えよう。
「研究」ならばあのような大人数になるとは思えないからである。
24 ︱eizojoho industrial
L/たこさん取材 98.3.4 10:51 AM ページ 25 (1,1)
話をスムーズに持ってゆく。スライドはシンプル
のポジティブな展開があることを質問者は期待し
に記述されたものでも効果的に情報を伝えている。
てしまう。せっかくの開発成果は、最後までしっ
残念ながら日本の発表者達は、この意味でプレゼ
かりと伝えて欲しいものである。
ンテーション技術に劣る。論文発表を演説口調で
撮像素子は、ISSCCにおいてはCMOSに勢いがあ
行うのは論外な行為としても、普通の「技術者英
る。高画質の分野ではCCDに利があるが、システ
語」が話せれば通じるので、後は発表の組み立て
ム化によるコスト削減にはCMOSに歩があるよう
方を練習して欲しいものと感じた。また、質疑応
に思える。特に、PCへの利用は価格がすべてのコ
答が苦手なのは分かるが、これにもこなし方があ
スト第一の世界であり、安定した性能が得られれ
る。たとえば、発表者は「企業秘密なので答えら
ば市場への供給が始まるように感じられた。
れない」と言いたくても、
「That is essential.」
(それ
は本質的なことだ)と答えては、その後に何らか
なお、ISSCC99は来年2月15日から17日まで、同
じサンフランシスコ・マリオットで開催される。
※お申し込みは、郵便振替用紙(00110-214817番)、電話、申し込みはがきにて直
接弊社までご一報下さい。
◎お問い合わせ、お申し込みは…
[発行:産業開発機構㈱]
○月刊「映像情報メディカル」
〒101-0024 東京都千代田区神田和泉町1-1
(西川パーキングビル)
1冊 12冊(年間)
1,800円(送料別)
21,600円(送料弊社負担)
March 1998︱ 25