vol.24 ルルドの泉は今なお、健在である

Sep. 2012
Vol.24
The Academia Highlight アカデミア・ハイライト [24]
ルルドの泉は今なお、健在である
うのめ・たかのめ
by
この 8 月初め、ピレネー山脈をフランス側
山脈から流れ出す水はかなりのアルカリ性
からスペイン側へトレッキングで越える際、
で、人体に悪影響を及ぼす活性酸素の解毒
ルルドの町を訪れた。
に効果のある活性水素を溶存させやすいほ
薪拾いに出かけた貧しい水車小屋の 13 歳
か、ゲルマニウム含有量も多いという結果
の少女、ベルナデッタの前に現れた聖母マリ
が得られているが、特効を説明できるほど
アとその導きで湧き出した泉が、医師に見放
の際立った特性は見出されていない。
された病や不治の病の治癒に奇跡的な効果を
プラセボ効果に強い信仰心が上乗せされ
示したことが評判となり、瞬く間に多数の巡
て免疫系が賦活され、奇跡を呼び込んでい
礼者が押しかけ、シンボルのマリア像と迎え
るとの見解が有力であるが、カレル博士が
入れる礼拝の場、バジリカ大聖堂が 10 年も
著書のなかで指摘しているように、複雑な
経たない間に建てられた。ほんの 160 年ほど
人間に関する研究はまだまだ不足しており、
前の出来事である。
知識も不十分であるといえよう。
ルルドは今でも人口 15,000 人程度の小さ
同様なことは代替医療ないしは統合医療
な町でありながら、フランスではパリについ
に関しても当てはまる。最先端医療だけで
でホテル数が多い町として知られる。最近で
は、必ずしも患者を治癒できないとの気付
は年間 500 万人にも達する巡礼者、観光客が
きは、その発祥の地、アジアよりもむしろ
押し掛けると聞かされると納得がいく。
西洋医学の先進地、米国のほうが早く、熱
治療から見放された重病人が、統計的には
心である。
高い数値とはいえないにせよ、これまでに 6
これまでは、サプリメント摂取に偏りす
~7,000 人も泉での沐浴と飲水で健康を回復
ぎている傾向が強かったが、心の在り方に
したといわれる。医学的には全く説明が付か
その効果を認め始めている。たとえばユー
ない、カトリック教会が認定した奇跡の治癒
モアや笑いは免疫を高める遺伝子のスイッ
例は 65 例あるとされている。
チを入れる役割を果たすことが最近、突き
医学の素養があり、のちにノーベル生理学
止められた。それ以上に注目を集めている
医学賞を受賞したリヨン大解剖学・外科医の
のが、祈りと瞑想である。その治癒効果を
A.カレル博士は、末期的患者が完治した事実
示した報文も増えている。
は信じがたいとして、1902 年に実際ルルドを
160 年前、母親の目を治したいと常に心に
訪れた。そこでまぎれもなく、末期の結核性
秘めていたフランスの少女がルルドの泉の
腹膜炎で瀕死の状態であった患者が数時間の
奇跡を呼び込んだのは、人間の持つスピリ
うちに目の前で治癒していく事実に遭遇した
チュアルな強さの現われであろう。これを
ほか、多くの事例を確認し、その経験を『人
単なる偶然に近い出来事として無視するか、
間
まだまだ人間には未知のことが多いと考え、
この未知なるもの』に綴った。
ルルドの泉の水にその秘密が隠されている
のではないかと、多くの科学者や医学者がそ
の解明に向かった。石灰岩に富んだピレネー
その不思議さに立ち向かうかは大きな岐路
である。後者に期待しよう。