今や、米国は勿論、世界の期待がこの人にかかっている 平成 21 年 1 月 20日 昨夜の就任演説は素晴らしかった。 しかし、「Change(変化)」「Hope(希 望)」の連呼を期待して来た多くの聴 衆にとっては期待はずれだったかもし れない。むしろ就任演説としては異質 だったと言えよう。 オバマは、選挙モードとは打って変わ って、直面している厳しい現実を訴え、 全国民に一致団結を求め、待ったなし の実践モードを語った。具体的に懸案 のイラクからの撤退、新たな環境政策、 核の削減にまで触れた。 オバマは、約 20 分間にわたる演説に 1 回も笑むことなく、厳しい表 情を崩さなかった。表現も、あの[Yes We Can]は一度も無く、 これまでのキャッチフレーズとして繰り返し登場した「Change」 「Hope」という言葉も意図的に排除し、新たに「責任」という言葉 を前面に押し出した。 米国という国家が世界と国民に対して負う「責任」、そして一人ひ とりの国民が社会に対して負う「責任」、それらをきちんと果たす ことが「正しい米国の再生」に絶対不可欠であるとし、その条件を 米国民一人ひとりに突きつけ、それができなければ望みは絶たれる とまで宣告した。 あの場面でそこまで言うか・・・とさえ思ったが、拳を握って真剣 に語る、並々ならぬ決意表明にいつしか惹き込まれ、これは稀有な ことだと改めて感じた。 最悪の情勢下にあるとき、トップにこういう政治家を押し上げる米 国民の民意に、我国も、この広島も見習う必要があると思った。 今後の国際社会は、この人の動向を知らずして外交できないし、お そらく内政の舵取りさえも無関係ではいられまい。 2008 年 11 月 6 日 配信の日経ビジネスは以下のように報じた ■ 世界は「希望への変革」を選択した 底なしの不況・不安がこの人をトップに押し上げた! 勝利宣言に感動する民衆たち 民衆に応えるオバマ氏 ・オバマの第一声はこうだった。 ・「この勝利は、間違いなくあなた方が勝ち取ったものだ、そのことを 私は決して忘れない」 ・続けて、こう語った「政府がすべての問題を解決できるはずもない。 だから、私はあなたの声に 真摯に耳を傾けるだろう。特に、私に反 対している人の声に」 ・大衆の側から、政治を考える――。 ・彼は究極のボトムアップ型の政治を宣言した。それは、新しい世紀 の大統領像だった。 注記 記事の引用と抜粋、及び 下線は野村が付したものです オバマに学ぶチェンジの発想 平成 21 年 1 月 24 日 オバマの政策について、宮田秀明氏は「日経ビジネス(09.01.22)」に以下のように述べている。 バラク・オバマが大統領に就任した。選挙中何度の連呼した“change”だが、いったいオバマは 何を“change”すると言っているのだろうか。これはあまり報道されていないのだが、「技術とイノベ ーション」による国民の連帯であり、政策というより国の経営モデルの提案と言った方が分かりやす い。 具体的には、 (1) (2) (3) (4) (5) 完全で無料の情報伝達をすべての米国人に確保する。 透明性の高い議会と民主主義を完成させる。 最新のコミュニケーション・インフラを進歩させる。 医療コストの削減、クリーンエネルギー開発、市民の安全などの重要課題を解決する。 米国の競争力を高める。 日本では技術イノベーションと言えば(4)(5)のようなことと考えることが多い。しかし(1)(2)(3) などの社会システムや政治の仕組みを技術によって革新することを考えている。 オバマは IT を利用した草の根の民意と圧倒的多数の献金によって大統領に選ばれた。オバマ はこの手法を本番の政策運営に拡大適用することを考えている。 つまり、反対派を含む全国民 との情報共有を図り、国民対話型のボトムアップ型の民主主義を始めようとしている。 そのために思い切った政策投資を行い、情報インフラや関連産業を育成し、米国にオバマの説 く新たな国家を実現することで、世界の民主主義をリードすることを目論んでいるようである。日本 のように道徳や精神力に依存し、国民の努力に期待するのとは、考え方が大きく異なるようである。 極めて現実主義なのである。 ■ ビジョンを実現するためのコンセプトとモデルを提示 オバマは、このビジョンを実現するためのコンセプトとモデルも提示している。例えば医療費を削 減するというビジョンは技術イノベーションによって実現させると言う。そのモデルは「電子情報シ ステム」を使うものだ。 電子カルテを含む情報システムを大規模に導入することによって、入院期間を短縮化したり、不 要だったり何回も行ってしまう検査を減らしたり、より適切に投薬するなどいろいろな効率化を行う というモデルだ。電子カルテはそれぞれの病院内ではなく、全国共通ネットワークで結ばれたもの が考えられているのだろう。ある個人の健康データすべてが一元管理され、全国どこででも利用 できる。 このモデルを実現させるために今後 5 年間にわたり毎年 1 兆円を投資すると、毎年約 8 兆円の 医療費が削減されると試算されている ひるがえって、日本政府の医療行政を見てみると寂しい限りだ。この 10 年以上、厚生労働省が 年々大きくなる医療費の削減のために行ってきたのは、例えばすべての大学の医学部学生定員 の一律 10%の削減だったり、患者負担割合を増やすことだったりした。 つまり、日本の医療行政には新しい経営モデルを導入するような能力は完全に欠如していて、 目先の手当て、別の言葉で言えばごく単純なソリューション(解決策)で成果を得ようとしている。 そしてその結果が大失敗だったということは、昨今の医療問題の顕在化で明らかだ。 新しいモデルを提案し実現しようとするシステム工学的な国の行政と、それができなくて近視眼 的な間違った解決策を国民に押しつけたり、国民の努力に頼ろうとしたりする国の行政の優劣関 係は明白である。 企業経営の場合でも、新しい経営モデルを提案し実行できる経営と、それができなくて、ただ社 員の勤勉な努力にしか頼れない経営とでは優劣の差は大きすぎる。 オバマはこれらを実現するための技術リテラシーの重要さも強調している。21 世紀の経済社会 で成功するために教育に力を入れ、科学と技術と数学のスキルの高い人材を育てることの大切さ を説いているのだ。 ■ 日本のコンピューターネットワークは実は大変進んでいた 私もメンバーになっている、世界イノベーション財団(World Innovation Foundation)のビジョンと の共通点が非常に多い(関連記事:2006 年 7 月 14 日「ノーベル賞受賞者が集う『世界イノベーシ ョン財団』を知っていますか」)。20 世紀もそうだったが、21 世紀にはさらに難しい問題が山積みし ている。そして、それらを本質的に解決できるのは科学と技術なのだ。 このようなことを日本の行政も民間企業ももう一度考え直すべきであろう。戦略性のない空想や 希望に近いような「イノベーション 25」プランで米国に対抗することはできない。 1970 年代の半ば頃、日本のコンピューターネットワークは実は大変進んでいた。東京大学のコ ンピューターセンターのコンピューターは早稲田大学や信州大学の研究者も使えるようにネットワ ークが構築されていたのだ。 米国が科学技術の進歩のためこのような大学の情報インフラが重要だと気づいたのは約 10 年 後だった。1985 年に私がある仕事で米国サンディエゴの技術コンサルティング企業を訪れた時、 私を招待したその会社の社員が案内してくれたのは、建設中のカリフォルニア大学のコンピュータ ーセンターの建物だった。カリフォルニア大学は米国の軍事技術開発や宇宙開発にも深く関与 する最高レベルの大学だ。しかし、その当時の情報インフラは日本より 10 年遅れていたのだ。 この劣勢をはね返したのは政府の科学技術政策だった。当時のアル・ゴア副大統領などが主導 した情報インフラ・イノベーション・プロジェクトは大成功を収め、米国が IT 社会のリーダーの位置 を確固たるものにしたと総括することもできるだろう。 オバマ大統領の率いる民主党政権もまた、科学と技術によるイノベーションの旗を掲げ、米国の 競争力を高める戦略を進めることだろう。 ■ 正しくて科学的論理性のある政策提案が支持された 科学と技術によるイノベーションを戦略的に進めることは日本の生命線と言っても言い過ぎでは ないと思う。 読者の皆様にも、「Barack Obama:Connecting and empowering all Americans through technology and innovation」を読むことをお勧めしたい。日本の政策やマニフェストと呼ばれている ものは論理性と具体性が欠けていることに気がつかれるだろう。米国は日本より、はるかに科学的 論理的な国の経営を戦略的に行おうとしているのだ。日本の科学技術政策がこのままでは、いつ まで経っても属国のような立場から抜け出せない。 もちろん、すべての政治、すべての行政に携わる方々は、競争相手である米国の政策とその実 現モデルをベンチマーキングするべきである。 オバマが支持されたのは、単にビジョンが高かったからだけではないだろう。正しくて科学的論 理性のある政策提案があったからだと思う。 国の経営をすべての市民が考えなければならないと思う。それがなければ鯛が頭から腐るように、 首相以下の国の経営者の質が低下し続けて、日本の未来が見えなくなってしまう。
© Copyright 2024 Paperzz