平成26年 7月 - fws-2

26年7月度
●(公益社団法人)日本技術士会登録グループ
図2 アジアの航空機産業
第 154 回「生体・環境、保全交流会」7 月例会
日 時:26 年 7 月 18 日(金) 17:30~20:30
会 場:技術士会第二葺手ビル会議室
参加者:14 名
演題 「航空産業の現状と将来性について」
講師 科学技術者フォーラム 正会員
佐藤 敏夫 先生
<講演概要>
航空機の歴史は 111 年前(1903 年)にライト兄弟が
ライトフライヤー号による動力飛行に成功したことから
始まりました。それ以前にも空を飛んだ人間は居るの
ですが、自前の動力で上昇したのはライト兄弟が最初
とされています。
さて、航空機が産業として発展したのは第一次世界
大戦(1914 年)で航空機が兵器として使用されたこと
に始まります。その後、(兵器としての)航空機の性能
は飛躍的に向上し第二次世界大戦(1939 年)では航
空戦力が雌雄を決するまでになりました。
戦後は航空機の利用目的が軍事目的から民間の
輸送事業(旅客、貨物)へと移り変わり、航空産業は発
展を続けています。ある予測では旅客輸送量は年率
約5%で増加し 20 年後には現在の2倍になるとも言わ
れています。
今回は航空産業の現状と将来性について、航空機
製造会社の(元)技術者から見た最近の動向と将来性
についてご紹介します。
1.航空産業の現状
ア)世界の動向
航空産業は第二次世界大戦終結後、二つの超大
国間で繰り広げられた冷戦の中で軍用航空機の開発
と軍事目的の宇宙開発が急速に進められたが、1989
年のソ連崩壊によって世界の動向は次に述べるように
大きく変化した。
●冷戦(1945 年~1989 年)の終結による防衛調達予
算の削減
●防需から民需(民間航空機)への転換
●欧米航空宇宙産業の再編(図 1 参照)
●アジア諸国の航空宇宙産業参入(図 2 参照)
●省エネルギー、低環境負荷、顧客サービス向上、運
航コスト削減などの要求が増大
図1 欧米の航空宇宙防衛産業
イ)日本の動向
我が国の航空産業は戦後、米国(連合国)から課せ
られた「航空禁止令(1945 年~1952 年)」により航空機
に関する一切の活動を禁止されたことで、技術的に大
きく遅れることとなった。
この 7 年間に原動機はレシプロエンジンからジェット
エンジンに変わり飛行速度は低亜音速(時速約
500km)から超音速(時速 1,000km 以上)が可能となっ
た。
1952 年になってようやく航空禁止令が解除された
が、戦後初の国産開発による航空機は航空自衛隊練
習機 T-1(初飛行 1958 年)、国産旅客機である YS-11
型機の初飛行は 1962 年であった。(図 3 参照)
図3 我が国の航空宇宙産業の歴史
その後、我が国の航空産業は世界に追いつくため
の努力を続けてきた結果、最近の話題としては米国ボ
ーイング社の最新型機である B787 ドリームライナーの
分担生産比率は 35%となり、ボーイング社の生産比
率 35%と肩を並べるまでになることができた。
産業としての観点からは、平成 24 年工業統計表に
よれば、日本の製造品出荷額合計 約 289 兆円に対
して輸送用機器合計 約 56 兆円(19.4%)であるが、さ
らに内訳を見ると自動車合計 約 50 兆円に対して航
空機はわずかに合計 約 1 兆 3 千億円(対自動車 約
2.6%)となっている。
次葉へ
↓
2.航空産業の将来性
ア)航空需要は経済成長にともなって着実に伸びると
予想されており、20 年後は現在の 2 倍以上になると予
測されている。特にアジア・中国地域での伸びは注目
されている。(図 4 参照)
●低環境負荷:
次世代エンジン、バイオ燃料
●居住性:座席シート、空調(温湿度制御)
●安全性:座席シート、フライトコントロールシステム
●運航経済性:フライトコントロールシステム、オンボー
ドモニタリング、複合材料
図4 世界の経済成長予測
3.日本国内の動向
最近になって日本国内では、既存の航空機関連大
手メーカーに加えて各地の自動車関連中小企業が航
空産業参入を進めている。経済産業省の支援も活発
である。(図 5 参照)
ただし、航空宇宙産業では ISO 規格の航空宇宙分
野 JIS Q 9100 の認証取得が必須であることから、参入
には相当の準備が必要である。
イ)技術動向
現在開発中の民間機に関する技術動向は次のよう
である。
●低燃費:次世代エンジン、機体形状の最適化
(CFD)、軽量化(CFRP)
●低騒音:次世代エンジン、エンジンナセル、離着陸
パターン
図5 各地の航空宇宙産業参入活動
3.日本国内の動向
最近になって日本国内では、既存の航空機関連大
手メーカーに加えて各地の自動車関連中小
企業が航空産業参入を進めている。経済産業省の支
援も活発である。(図 5 参照)
ただし、航空宇宙産業では ISO 規格の航空宇宙分●
低環境負荷: 次世代エンジン、バイオ燃料
●居住性:座席シート、空調(温湿度制御)
4.まとめ
航空産業は成熟産業の一つとされているが、常に
最新技術を適用した改良が進んでいる。航空需要は
確実に増加することが予測されており、新規参入の余
地は十分にある。しかし、参入のためのハードルは高
いことから、一歩一歩着実に進める必要がある。
(おわり 講師 記)
【所感】海運(韓国)、食品(中国)、航空機誤射(ウクラ
イナ)と世界を見渡すと、人が関わる安心・安全の欠
如(大災害)は後を絶たない。航空機は生命に関わる
産業である限り、競争原理のみで浮沈があってはなら
ないと感じる。「一歩一歩着実に」という言葉には大変
説得力のある結びと感じました。(金子守正 記)