訴 状

訴
状
2011年2月18日
東京地方裁判所
御中
当事者の表示
〒○○○―○○○○
○○○○
原告
坂
本
健
(送達場所)
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町4-23
渋谷桜丘ビル8階
℡03-3463-4351
渋谷共同法律事務所
Fax03-3496-4345
原告訴訟代理人弁護士
〒163-8001
健
太
東
京
都
石
原
慎
太
重
彦
上記代表者
都知事
処分行政庁
東京都公安委員会
代表者
委員長
アメリカ大使館前デモ行進義務付等請求事件
貼用印紙代
尾
東京都新宿区西新宿2丁目8番1号
被告
訴訟物の価額
萩
算定不能につき160万円
13,000円
予納郵券
6,400円
(印紙代・郵券は追完予定)
-1-
鴨
下
郎
請求の趣旨
1
東京都公安委員会は、原告に対し、別紙記載のコースによる集団示威運動を許可
せよ
2
東京都公安委員会は、原告に対し、2011年2月18日になした集団示威運動
許可申請について別紙記載の申請コースを却下した処分を取り消せ
3
訴訟費用は相手方の負担とする
との裁判を求める。
請求の原因
1
原告の集団示威運動許可申請経過
(1)原告及び「沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会」の運動
原告は「沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会」の実行委員であり、
沖縄県東村高江での米軍のヘリパッド(米軍ヘリコプターの離着陸帯)建設に反
対して運動してきた。
すなわち、沖縄本島北部「やんばる」の豊かな森には、ヤンバルクイナやノグ
チゲラなど絶滅が心配される希少な生き物がたくさん生息している。世界的にも
生物多様性に富んだ自然が多く残されている地域である。
しかし、米軍はこの豊かなやんばるの森をジャングルでの戦闘訓練の場所とし
て使ってきた。1957年に米軍は「北部訓練場」として使用し始め、現在でも
東村には15箇所のヘリパッドがある。東村にある高江は、人口160人ほどの
小さな集落であるが、住民は米軍のヘリコプターの爆音や墜落の危険にさらされ
てきた。そのような中、1996年12月の沖縄に関する日米特別行動委員会に
おいて、日米両政府は、高江集落を取り囲むようにして、新たに6箇所のヘリパ
ッドを建設することを決めた。
その建設は、高江住民にとって生活や生命の危険をもたらすものである。また、
豊かな森や川、生物の宝庫である貴重な環境を破壊することであり、現在もアフ
-2-
ガニスタン、イラクなどで戦争を行っているアメリカの軍事基地の強化であるこ
とから、新たな戦争につながることである。そのような理由から、高江の住民は
反対してきた。
2006年にヘリパッド反対の決議をし、建設計画見直しを関係機関に要請し
た。また、住民と全国・世界各地の支援者が、座り込みによるヘリパッド建設監
視、建設中止への説得を続けている。
しかし、日米両政府はこうした住民の反対の声を聞かず、誠意ある対応や誠実
な話し合いを行っていない。それだけでなく、国は座り込みを「通行妨害」にあ
たるとして突然住民らにたいし「通行妨害禁止」の仮処分を申し立てた。
そして、2010年12月22日には、早朝6時30分、沖縄防衛局が100
名もの作業員とともに住民側に予告もなく押しかけ、ヘリパッド建設工事を強行
した。また、その翌日23日午前7時45分、米軍のヘリコプターが住民の座り
込みテントの真上約15mでホバリング(空中停止)し、座り込みテントを吹き
飛ばすという事件も起きた。さらに、米軍は、日常的に、公道上で危険な演習も
行っていた。
住民に十分な説明もせず、合意も得ずに工事を強行し、話し合いを求めた住民
に危害を加えるという日米両政府のやり方は許されない、こうした思いで、原告
および「沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会」は、目的が一致する
「沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック」や、「ゆんたく高江」とともに、運動を
してきた。
2010年12月26日には、
「沖縄・高江を救え!ヘリパッドをつくるな
緊
急アピール&デモ」を新宿で行った。
さらに、全国から、アメリカ大使館へ届ける抗議メッセージをEメールで寄せ
てもらい、これを2011年1月10日には、午後3時に虎ノ門JTビルに10
0名程度で集まり、アメリカ大使館へ申入書を渡しに行こうとしたところ、赤坂
警察から、3人だけで撮影をしないという条件でないと、それを認めないといわ
れた。警察に問いただしても、そのような制約を課せられる理由は不明であった
が、やむなく警察の指示に従わざるを得なかった。
-3-
同年1月19日には、「沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会」の
代表6人がアメリカ大使館に抗議に向かったが、大使館への道は警察隊によって
封鎖され、抗議は受け付けられなかった。
(2)集団示威運動許可申請およびそれに対する処分
ア
集団示威運動許可申請の内容
2011年2月5日、原告は、赤坂警察署にて、東京都公安委員会に宛てて、
下記の内容で、集団示威運動許可申請をなした(甲1)。
①
②
実施日時
2011年2月20日
集合開始時刻
午後2時50分
集団示威運動出発時刻
午前3時
解散時刻
午後4時
集団示威運動の進路
新橋駅前SL広場~新橋駅日比谷口左~(外堀通)~虎ノ門~葵町左~アメリ
カ大使館前右~赤坂1-6角右~(六本木通り)~溜池右~(外堀通)~葵町右
~虎ノ門JTビル前
③
集合場所
JR新橋駅前SL広場
④
解散場所
虎ノ門JTビル前
⑤
主催団体
沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会
⑥
参加予定団体名及びその代表者の住所氏名
⑦
参加予定人員
⑧
集団示威運動の名称
50人
賛同する諸個人
宣伝車1台
高江にヘリパッドを造らせるな!
沖縄に基地はいらない!アメリカ大使館デモ
⑨
集団示威運動の目的
高江にヘリパッドを造らせないため
イ
東京都公安委員会のなした処分
上記申請に対して、東京都公安委員会は、「公共の秩序を保持するため」との
理由で、集合場所をSL広場から桜田公園に変更し、「アメリカ大使館前右」の
-4-
ルートを認めず、解散場所を遠く離れた三河台公園内にするなど、集団示威運動
の進路・集合場所・解散場所を大幅に変更してこれを許可する処分をなした(甲
2)。
2
義務付けの訴えについて理由があること
(1)当該処分が取り消されるべきものであること
本件は、原告のなした申請の主要な部分を却下する旨の処分がなされたものと
言える。
このような申請却下の処分に対する義務付け訴訟については、当該処分が取り
消されるべきものであることが必要である。
ア
東京都公安条例の趣旨
この点について、東京都公安条例第1条は「・・・場所のいかんを問わず集団
示威運動を行おうとするときは、東京都公安委員会の許可を受けなければならな
い。」とする。
ただし、東京都公安条例第3条は、「集会、集団行進又は集団示威運動の実施
が公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外
は、これを許可しなければならない」としている。
さらに、東京都公安条例第6条では、「この条例の各規定は、第1条に定めた
集会、集団行進及び集団示威行動以外に集会を行う権利を禁止し、若しくは制限
し、又は、集会、政治運動を監督し若しくはプラカード、出版物その他文書図画
を検閲する権限を公安委員会、警察職員・・に与えるものと解釈してはならない」
と規定している。
よって、本条例は、憲法上、自己実現とともに自己統治の価値を有するがゆえ
に優越的地位が認められる表現・集会の自由を保障するため、あくまで①公共の
秩序を保持する必要性から集団行進及び集団示威行動を規制するのみなのであ
る。
しかも、上記の3条が規定する「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼす
-5-
と明らかに認められる場合」については、下記の東京都公安条例と同じく集団示
威行進の指揮を罰する大阪市公安条例違反事件に関する大阪地方裁判所昭和44
年11月29日判決を参照すべきである。
同判決によれば、「たとえ公安委員会の事前の許可を得ることなく行われた集
団示威運動を指揮したとしても、当該集団示威運動が、その目的、規模、態様、
行われた日時、場所および周辺の状況等に照らし、地方公共の安全を害し、一般
公衆の生命、身体、自由、財産に対し直接且明白な危険を及ぼすと認められるも
のでないかぎりは、その可罰的違法性は否定され」る。なお、同判決においては、
規模約4、50名、時間にして約6分、距離にして約145メートルないし約1
70メートル、4、5列の隊列のままスクラムを組んで車道上を蛇行しながら行
進したという認定事実を総合的に考慮し、可罰的違法性は認められないと判断し
ている。
同判決は、可罰的違法性についての判示であるが、申請を許可すべき要件と、
無許可の集団示威運動が無罪となる場合の基準は、ほぼ同じと考えられる。すな
わち、「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」
とは、「その目的、規模、態様、行われた日時、場所および周辺の状況等に照ら
し、地方公共の安全を害し、一般公衆の生命、身体、自由、財産に対し直接且明
白な危険を及ぼすと認められるもの」なのであり、「距離にして約145メート
ルないし約170メートル、4、5列の隊列のままスクラムを組んで車道上を蛇
行しながら行進した」としても、「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼす
と明らかに認められる場合」とはならないのである。
イ
本件における検討
原告らが、アメリカ大使館前を、警察の規制に従い、粛々とデモ行進したとし
ても、「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」
とならないことは自明である。
他方、上記の通り、本件処分により侵害されるのは集団示威運動による表現の
自由である。高江の住民は、米軍のヘリパット建設により、生命の危険にまでさ
-6-
らされている。それを阻止するために、その直接の当事者であるアメリカの日本
における窓口となっているアメリカ大使館に、シュプレヒコールを唱和したり、
抗議文を渡すなどして、抗議の声を直接届けるという表現活動は、極めて重要で
ある。
また、原告が出発地点として申請したSL広場は、これまでも日常的に宣伝行
動や示威運動が行われているのであり、出発地点の変更は、そこにおける表現の
自由の侵害である。それとともに、主催者は、出発地点を明示して参加を呼びか
けているのであって、出発地点の変更はその妨害であると言える。
さらに、解散地点の変更も重大である。原告らが請願行動を予定していたアメ
リカ大使館から遠く離れた三河台公園とすることで、原告らの請願権の行使を妨
害するものと言える。
原告らの集団示威運動は何ら公共の福祉を害するものではない。むしろ、米軍
ヘリパッド建設による住民の生命の危険と自然破壊を回避しようとするものであ
るから、その目的は人権の尊重そのものであって、公共の福祉に適うものである。
よって、原告の申請について、アメリカ大使館前の進路部分を却下した本件処
分は、東京都公安委員会の裁量権を明らかに逸脱したものと言え、本来、処分が
取り消されるべきものである。
(2)原告は、本日、本訴状請求の趣旨第2項において、本件処分の取消訴訟を提起
した。
5
結論
よって、原告は、請求の趣旨記載の判決を求めて、提訴に至った次第である。
以上
添付書類
一
甲号証写
1通
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二
本申立書副本
1通
三
訴訟委任状
1通
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