NSF の支援の成果の社会的インパクト1 遠藤 悟 「 米 国 の 科 学 政 策 」 ホ ー ム ペ ー ジ に お い て は 、「 連 邦 議 会 銀 か ら の 科 学 研 究 支 援 批 判 の 矛 先 (http://homepage1.nifty.com/bicycletour/sci-ron-GOP_anti-sci.htm ) 」として下院科学宇宙技術委員会 の共和党議員と国立科学財団(National Science Foundation: NSF)やアカデミックコミュニティーの 関係について報告してきたが、本稿においてはそれら報告を引き継ぎ共和党議員による 2015 年アメリカ COMPETES 再授権法案の提出を含む議会の動向を報告する。また、同法案にも反映されている共和党 議員が求める科学研究がもたらす利益について、NSF の二つの評価基準の一つである「より幅広いイン パクト(Broader impact)」との関係において考察を加える。 1.共和党議員から NSF に向けられた批判 米国の科学政策ホームページ「連邦議会議員からの科学研究支援批判の矛先」では、議会における NSF 批判について報告し、その「第三部: 「FIRST Act」法案について」においては、共和党議員による提出 された FIRST Act(非成立)に関連する議会の動きを Science 誌の ScienceInsider ウェブサイトの情報 を参照することにより取りまとめた。以下においては、その後の共和党議員によるアメリカ COMPETES 再授権法案提出を含む関連の動きを ScienceInsider ウェブサイトの情報に基づきまとめた。 以下は、全米科学振興協会(AAAS)が発行する Science 誌の ScienceInsider ウェブサイト ( http://news.sciencemag.org/scienceinsider )において報告された議会と NSF の関係について紹 介するものである。具体的な内容は直接当該ページにアクセスすることにより確認されたい。 ・2014 年 10 月 2 日 2014 年夏に共和党側の意向を受けた議会職員が、NSF の支援に無駄がないかを確認する目的で非 公開のものを含むプロジェクトに関する情報について立ち入り調査を行ったことに関する報告。 ・2014 年 10 月 3 日 民主党科学宇宙技術委員会 Johnson 筆頭議員が、共和党の科学宇宙技術委員会 Smith 委員長を批判 し、NSF を擁護する書簡を送付したという報告。 ・2014 年 10 月 10 日 上記の動きを含むこれまでの議会科学宇宙技術委員会共和党議員と NSF の関係のまとめ。 ・2015 年 3 月 12 日 Smith 下院科学宇宙技術委員会委員長が、NSF におけるメリットレビューシステムに理解を示した という報告。2 月 26 日の公聴会における Smith 委員長と Córdova NSF 長官との間で了解された内容 等にも言及されている。 ・2015 年 4 月 15 日 Smith 委員長により、アメリカ COMPETES 再授権法案 (H.R. 1806) が提出されたという報告。 ・2015 年 4 月 22 日 下院科学宇宙技術委員会におけるアメリカ COMPETES 再授権法案のとりまとめに関する報告。な 1 「米国の科学政策」HP 2015 年 9 月 23 日掲載 1 お、法案には、NSF 予算の削減も含まれている。 ・2015 年 5 月 29 日 アメリカ COMPETES 再授権法案における予算額や「国家の利益」を根拠とした NSF の支援等に 関する議会での論議に関する報告。 ・2015 年 7 月 31 日 アメリカ COMPETES 再授権法案における「国家の利益」との関係における NSF 支援に関する論 議を取りまとめた報告。 2.FIRST Act~アメリカ COMPETES 再授権法案に記載された NSF 支援の目的 アメリカ COMPETES 法は、2007 年に最初の法律が成立し、その後、2010 年再授権法が施行されて いるが、2015 年 4 月 15 日に共和党 Smith 議員(下院科学宇宙技術委員会委員長)により 2015 年アメ リカ COMPETES 再授権法案(America COMPETES Reauthorization Act of 2015)が提出された。同 法案は 2015 年 5 月 20 日に下院を通過したが、科学技術活動に関する包括法案であると同時に、前年の FIRST Act の要素が盛り込まれた共和党色の強い法案となっている。 以下には、NSF に関する論議となっているセクション 106 およびそれに先立つセクション 105 の和訳 (仮訳)を記した。 H. R. 1806 2015 年アメリカ COMPETES 再授権法案 セクション 105. アカウンタビリティーおよび透明性 以下が議会の意向である。 (1) 持続的で予測可能な連邦政府資金配分は、米国の科学技術の主導的地位に必須である、 (2) 基礎への投資に対する理解と信頼を構築することは、持続的で予測可能な連邦政府の資金配分に対 する人々の支援のために必須である。 (3) NSF は、NSF が資金配分を行う個々のグラントおよび共同契約について、完全に透明性とアカウ ンタビリティーと、明白で継続的な人々に向けたコミュニケーションを達成すべきである。 セクション 106. 研究に対する連邦政府資金配分におけるより大きなアカウンタビリティー (a) グラント配分の基準‐NSF は、サブセクション(b)における肯定的な決定、およびサブセクション (c)により公表された当該案件に関する正当性に関する文書に基づく場合にのみにおいて、新たな研究 グラントや共同契約を通して基礎研究および科学における教育への連邦政府資金の配分を行わなけれ ばならない。 (b) 定義‐サブセクション(a)における決定は、グラントや共同契約が、1950 年国立科学財団法におけ る NSF のミッションおよび以下の点と一貫性のある形で、米国の科学の発展をどのように促進させる かということに関し、担当する NSF の職員が正当化することである。 (1) 連邦政府資金配分を行う価値があること (2) 以下を達成する潜在性があると示された国家の利益があること (A) 米国の経済的競争力の増大 (B) 米国民の健康と福祉の増進 2 (C) 地球規模で競争力のある米国民の科学技術工学数学労働力の開発 (D) 米国における人々の科学リテラシーの向上と科学技術活動への参画の拡大 (E) 米国の大学と産業との連携の拡大 (F) 米国の国防の支援、および (G) 米国の科学の発展の促進 (c) 正当性に関する文書‐サブセクション(a)に記された個々の連邦政府資金配分の公表には、グラン トや共同契約が、サブセクション(b)の要求にどのように適合しているかに関する NAF 担当官の正当 性に関する文書が含まれていなければならない。 (d) 実施‐サブセクション(b)の決定は、研究グラントや共同契約が、NSF のメリットおよびより幅広 いインパクトに関する NSF の評価を満たした後に行われなければならない。このセクションのどの箇 所についても、グラント申請の評価における NSF の知的メリットあるいはより幅広いインパクトの基 準を変更するものではない。 3.NSF における「より幅広いインパクト」評価基準の意味 国立科学財団(National Science Foundation: NSF)は、同財団の助言機関である国家科学審議会 (National Science Board:NSB)における検討結果に基づき、1997 年以降、 「知的メリット(Intellectual Merit) 」と「より幅広いインパクト(Broader Impact)」の二つの評価基準を用いている。この二つの評 価基準は、2011 年 1 月に成立した、2010 年アメリカ COMPETES 再授権法(America COMPETES Reauthorization Act of 2010)における、 「NSF 長官は、「より幅広いインパクト」評価基準のポリシー を開発・実施をしなければならない」とする条文に基づき改訂の検討が行われ、2013 年 1 月からは新た な定義の下で二つの評価基準が用いられている(この改訂については、筆者による「米国国立科学財団 (NSF)の評価基準の改訂―基礎科学研究活動が潜在的に持つ社会的インパクトに関する新たな理念の 提示―」 (科学技術動向 2013 年 3・4 月号)を参照されたい)。 以下においては、現在の NSF の評価基準の説明を記したうえで、「より幅広いインパクト」評価基準 に関する NSF の考え方を理解する手立てとして、NSF のホームページから、 (1)NSF の評価基準(2013 年 1 月から適用) 、 (2) 「より幅広いインパクト」評価基準の説明、そして(3) 「Perspectives on Broader Impact ブローシャー」の記載内容を紹介する。 (1)NSF の評価基準(2013 年 1 月から適用) ・知的メリット:知的メリット基準は、知識を前進させる潜在性に関するものである。 および ・より幅広いインパクト:より幅広いインパクト基準は、社会の利益と特定の期待された社会的アウ トカムの達成の潜在性に関するものである。 双方の基準の評価のため、以下の要素が考慮されるべきである。 1. 提案された活動に関する以下の点における潜在性は何か a. 当該分野あるいは異なる分野を通した知識と理解の前進(知的メリット) b. 社会への利益あるいは期待された社会的アウトカムの発展(より幅広いインパクト) 2. 提案された活動は、どの程度創造的、独創的、潜在的にトランスフォーマティブな概念を提示し探 3 求するか 3. 提案された活動の実施計画は十分な妥当性があり、十分に構想されており、健全な論拠に基づくも のとなっているか。その計画は成否について評価するメカニズムが組み込まれているか。 4. 提案する者、チーム、組織は十分にその活動を行う能力を有しているか。 5. 研究代表者は、 (自身の機関においてあるいは協力を通して)提案された活動を行う適切なリソース を利用可能か。 (2) 「より幅広いインパクト」評価基準の説明 NSF ホームページにおける「より幅広いインパクト」 いずれの NSF のグラントも、知識を前進させるだけではなく、我々がより幅広いインパクトと呼ぶ ‐社会への利益をもたらす。 (略)より幅広いインパクトは、多くの様態となって現れる。手法がどの ようなものであれ、より幅広いインパクトは、NSF が資金配分を行った科学の活動が我々の世界を良 くすることを確かなものとする。 ・科学技術工学数学人材の育成(Building STEM talent) ・未来のためのイノベーション(Innovating for the future) ・社会の改善(Improving our society) ・国境を越える成果(Reaching beyond borders) ・より幅広い人々の関与(Engaging a wider audience) (3) 「Perspectives on Broader Impact ブローシャー」の記載内容 Perspectives on Broader Impact ブローシャー http://www.nsf.gov/od/oia/publications/Broader_Impacts.pdf ◎ NSF の視点 ○ France Córdova NSF 長官 連邦政府機関として、NSF は納税を通した負託に対する関係性を維持し、議会や他のステークホル ダーに NSF が米国の未来に何故重要かを伝え、人々に基礎科学と、NSF のプロジェクトに資金を配 分する価値への理解を深めさせる必要があるとしている(2014 年 4 月に開催されたより幅広いインパ クト基盤サミット(Broader Impacts Infrastructure Summit)における発言を引用) ○ Alan Leshner 全米科学振興協会(AAAS)CEO(国家科学審議会(NSB)委員) より幅広いインパクト評価基準に関する理解や指導は、(1) より幅広いインパクトは、プロジェクト のレベルで捉えられるものではなく、大学等機関のレベルで捉えられる性格のものであること、(2) よ り幅広インパクトは意図的にその内容について規定されず当該分野から生まれるイノベーションに向 けてオープンになっていることにより、不明確であると指摘している。そして人々は金が賢明に使わ れているかを知りたいのであるから、人々との間のやり取りが必要であるとしている。 ○ John Winfield NSF 生物学局長 研究資金の配分において妥当性は重要であるが、その妥当性は少なくとも初期においては明らかで 4 はないため、より幅広いインパクトは重要であるとしている。また、もう一つのより幅広いインパクト の側面として市民の科学への貢献を挙げている。 ○ Pramod Khargonekar NSF 工学局長 技術発展、経済的競争力、健康と安全は全てより幅広いインパクトの事例であるとし、幅広いインパ クトに向けた手順の実施、大学・地域・学会における梃入れ、大学の戦略目標などとの一貫性の保持な どが必要としている。 ○ Wanda Ward NSF 国際・統合活動室長 より幅広いインパクトは NSF の基本的な要素であるとしたうえで、大学等の機関等は以下の課題へ の対応が求められるとしている:1. より幅広いインパクトに関する基盤の支援、2. 機関レベルにおけ るより幅広いインパクトの新規性・創造性、3. より幅広いインパクト実施のロジックや評価、4. より 幅広いインパクトのイベントや活動のリソース、5. より幅広いインパクトにおけるリーダーシップ ◎ 大学のリーダーの視点 ○ Nancy Cantor ラトガース大学学長 地域に根付いた大学として、イノベーションと社会的流動性におけるコミュニティーと大学が共に 関与することの重要性について述べ、科学技術工学数学活動といったより幅広いインパクトが研究に 組み込まれることが必要としている。 ○ Freeman Hrabowski メリーランド大学ボルチモア郡校学長 より幅広いインパクトは、追加物として見なされてきたためその影響力は限定的であったが、大学 の文化、科学の文化の一部として見なされなければならないとしている。 ◎ 大学の参加者の視点 より幅広いインパクト基盤サミットに参加した大学の教員、研究者、職員から、大学におけるより幅 広いインパクト活動に対する評価等を含むアカウンタビリティー、大学におけるより幅広いインパク トの担当部署、研究者のトレーニングや指導、評価者等の点における取り組み、他機関との協力に加え たコミュニティーとの協力等についての課題が示された。 ◎ 研究代表者の視点 ○ 教育/アウトリーチにおけるより幅広いインパクトの事例 ・ニューヨーク科学会館による「人類プラス:現実の生命+現実の工学」の移動展示 ・ミシガン大学の学部学生向け CERN 夏季研究体験 ・フロリダ先進技術教育センターによる、製造者、教師、学生・生徒向け先進技術教育活動 ・タスケギー大学の学部学生向けナノ‐バイオマテリアル科学工学研究体験 ・ヒスパニック系学生の受入れ機関であるカリフォルニア大学メルセド校における複雑系に対するモ デリングやシミュレーションの教育プログラム ○ 研究に本来的に備わるより幅広いインパクトの事例 ・ペンシルヴァニア大学の研究者のハリケーンサンディーの研究による災害予測 ・コロラド州立大学の研究者による厳しい気候に対する数理統計手法による予測の改善 5 ・伝統的黒人大学であるデラウェア州立大学光学科学応用研究教育センターにおける医療に利用する 光学機器研究 ・アイオワ州立大学の研究者によるエネルギー効率性を高める潜在性のあるプロセッサーの開発(お よび関連のヴィデオゲームの開発) ・ノースダコタ大学の研究者による固形廃棄物の道路舗装材料へのリサイクリング ・ヒューストン大学の研究者による人工神経の研究 ○ 教育/アウトリーチの取り組みが、研究そのものと織り合わされ、あるいは密接に結びついている より幅広いインパクトの事例 ・アイオワ州立大学の研究者による有機半導体研究と、学部および大学院学生に対する教育や、8 年次 ~12 年次の少数グループの生徒へのアウトリーチ活動 ・トレド大学の研究者の太陽光発電の効率化の研究と、学部・大学院学生、また、学部学生や中学校・ 高校の生徒・教師に対する教育活動や一般の人々向けのオンラインヴィデオの配信 ・コロラド大学ボールダー校のウェアラブルで使い捨ての安価な体温計の研究と、学部・大学院学生 向けの複数分野にわたる教育、幼稚園・初等中等教育向けアウトリーチ、国際協力活動 ・ケント州立大学の研究者の調和解析の研究と大学院学生や若手研究者の指導 4.支援対象研究者における「より幅広いインパクト」の認識 前章においては NSF による「より幅広いインパクト」の意味付けについて紹介したが、本章において は支援を受けた研究者における「より幅広いインパクト」の受け取り方について報告する(注:この問題 については、2013 年 1 月の改訂に先立つ検討の際に、SRI インターナショナルによる調査等が行われて おり、その結果は 2011 年 12 月に NSB による「国立科学財団のメリットレビュー基準:評価と改訂 (National Science Foundation’s Merit Review Criteria:Review and Revisions)」報告書において取 りまとめられている) 。 NSF の支援を受けようとする研究者は、申請書において「知的メリット」と「より幅広いインパクト」 の二つの評価基準に関するプロジェクトの計画に記載しなければならない。NSF は支援を行ったプロジ ェクトの情報をウェブサイトの「Search Awards」のページ( http://www.nsf.gov/awardsearch/ )にお いて公開しているが、二つの評価基準についての記述については公開情報に含まれていない。しかし、研 究者向けに設置された連邦政府のウェブサイト「 research.gov」のプロジェクトレポートのページ https://www.research.gov/research-portal/appmanager/base/desktop?_nfpb=true&_eventName= ( viewQuickSearchFormEvent_so_rsr )において研究代表者から提出された報告書が掲載されているこ とから、この報告書における「より幅広いインパクト」に関する記述を読むことにより、研究者がこの評 価基準の下でどのような活動を行ったかを理解することができる。このため本稿においては、このペー ジから終了期日が 2015 年 1 月から 3 月の間のプロジェクトアウトカムレポートをダウンロードし、そ の中から無作為に抽出した 100 件について「より幅広いインパクト」に関する記述の有無を確認し、記 述があるものについて、上記アメリカ 2015 年アメリカ COMPETES 再授権法案における国家の利益の 潜在性として示された各項目のいずれに該当するかを本稿筆者の判断で分類した。 プロジェクトアウトカムレポートでは、 「知的メリット」と「より幅広いインパクト」について記載す ることが求められているが、研究代表者の記述がそのまま掲載されるため、必ずしも二つの評価基準に 6 おける成果が明確に区分された形で記述されているものではない。このため、ここでは文中に「より幅広 いインパクト」の語が含まれているもののみを取り上げた。対象となった件数は 33 件であったが、その 内訳は以下のとおりである(重複が 20 件あるため、合計の件数は 53 件となっている)。 (A) 米国の経済的競争力の増大(注:経済的利益が確認できなくても企業への技術移転等 が記載されていれば該当とした) 3 (B) 米国民の健康と福祉の増進(注:環境や安全など経済面以外の利益全般を対象とした) 8 (C) 地球規模で競争力のある米国民の科学技術工学数学労働力の開発 28 (D) 米国における人々の科学リテラシーの向上と科学技術活動への参画の拡大 3 (E) 米国の大学と産業との連携の拡大 2 (F) 米国の国防の支援 0 (G) 米国の科学の発展の促進 9 今回対象としたプロジェクトの件数は 100 件であり、さらに「より幅広インパクト」として報告され た件数はその 3 分の 1 に過ぎないことから、上記の結果をもって結論を導き出すべきではないが、本稿 筆者個人の所見として以下を挙げる。 ・ 「(C) 地球規模で競争力のある米国民の科学技術工学数学労働力の開発」が非常に大きな割合を占めて いることは、対象に人材育成を目的としたプログラムのグラントがいくつも含まれていることに加え、 大学で行われる研究活動においては学生も参加することが一般的であることを考えれば当然の結果とい うことができる。 ・2015 年アメリカ COMPETES 再授権法案においては全ての項目に「米国」の語が含まれている。これ は、納税者に対する説明としては意味のあることかも知れないが、多くのアウトカムレポートでは国際 協力による成果や、研究成果の米国以外における利益について言及されている。これは、NSF のより幅 広いインパクトの説明に「国境を越える成果」があることも背景の一つに考えられるが、科学研究は本質 的に国際性を持つとすれば、2015 年アメリカ COMPETES 再授権法案が、そのような科学研究の本質と 乖離したものであるという見方も可能である。 ・ 「(E) 米国の大学と産業との連携の拡大」に関する記述があったものは 2 件のみであった。これらは具 体的な実用化、商業化に関する記述があるものであるが、他のアウトカムレポートにおいても将来的な 実用化、商業化が期待される研究成果の記述が見られる。このことは、特に基礎研究において支援期間終 了時には明確な実用化、商業化が明らかでないが、将来的にはその見込みが十分にある研究が多く存在 していることが推測させる。従って、具体的な企業との連携の有無等の指標は、支援期間終了時といった 短い期間において用いることは適当ではなく、長期的な視野において行われるべきと考えられる。 ・2015 年アメリカ COMPETES 再授権法案には「(G) 米国の科学の発展の促進」も含まれていることか ら、セクション 106 については議会やアカデミックコミュニティーにおいて必ずしも大きな論点とはな っていない(予算額が最大の関心事となっている) 。しかし、同法案に示された (C) や (G) 以外の観点 は、基礎研究・学術研究活動の実態と、時に乖離が見られ、また、相反する可能性もあると考えられる。 従って、今後の動向には十分な関心を持つ必要があると考えられる。 7
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