5「すみれ色の涙」

コラム⑤
すみれ色の涙
『すみれって すみれって ブルーな恋
人どうしが キスして キスして 生ま
れた花だと思うの… あなたにさよなら
と そして ひとつぶ すみれ色の涙』万
里村ゆき子さんが作詞した
「すみれ色の涙」
です。すみれ色は鮮やかな青紫、英名で
Violet、バイオレットが色の名で使われ
たのは 14 世紀頃、ニュートンが「光学」
(1704) の中でスペクトルをバイオレット
など七色に区別して、以来、虹の七色と
してバイオレットが定着しています。
スミレは代表的な野の花で親しまれ、
日本では万葉の頃から詠われています。
『春の野に 須美礼採みにと来しわれそ 野をなつかしみ 一夜寝にける』( 山部赤
人 ) 俳句では 『山路来て 何やらゆ
かし すみれ草』( 野ざらし紀行 )、ゆか
しい花とは日本的な最高の褒め言葉だそ
うです。
『すみれの花咲くころ 初めて君を知り
ぬ』の歌は宝塚歌劇の憧れの名曲。空に
輝く星とスミレを愛し、よく詠んだ明星
派・与謝野鉄幹らのロマン主義の詩人た
ちは「星菫派」と呼ばれました。
ギリシャ神話にもスミレは登場します。
スミレに姿を変えた娘イアの話です。
「太
陽神アポロンはフィリシアの美しい娘イ
アを見て恋に落ちました。婚約者がいた
イアはその愛を断り、アポロンの怒りと
嫉妬をかい、アポロンはイアをスミレに
変えてしまいました。スミレの花はイア
の面影を残して可憐な花になりました」
。
スミレが青くなった神話です。
「美の女神
アプロディーテは息子のエロスに、私と
ここにいる乙女たちとどっちが美しいか
を尋ねたところ、悪戯好きのエロスはわ
ざと「乙女です」と答えました。アプロ
ディーテは怒り狂い乙女たちを打ちすえ、
何も分からない乙女たちは恐ろしさの余
りに青くなり姿も小さくなり、ついにス
ミレになってしまったそうです」
。
雨竜沼湿原と山麓・里山で咲くスミレ
たちです。ツボスミレ、タチツボスミレ、
オオタチツボスミレ、アイヌタチツボス
ミレ、フギレオオバキスミレ、スミレサ
イシン、ミヤマスミレ、フイリミヤマス
ミレ、シロバナミヤマスミレ、キバナノ
コマノツメ、オオバタチツボスミレ、ム
ラサキコマノツメ、タニマスミレ、ウス
バスミレが咲いています。
『あなたの澄んだ菫の目 ああ朝な夜な
いくたびぞ いずこともなく現れて 解くに解かれぬ 青い謎』(ハイネ・家路 )
素朴で清楚な花です。花言葉 謙譲
(佐々木純一)
タニマスミレ 03.7.14
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