核料理とその構成 考察 PDF

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料理選択型栄養教育の枠組として
核料理とその構成に関する研究 足立己幸
V 考 察
1)核料理とその構成を用いた栄養教育の必要な対象について
本研究の調査対象は小学生のいる世帯の主婦を中心にするものであるから、本結果を現
代の日本人一般を反映するものとしてよいか否かの検討が必要である。
そこでまず、本論文の冒頭で料理選択型栄養教育の必要な対象として想定した単身生活
の若者等の食事について、本枠組を用いて実態把握し、今後の栄養教育の対象の確認をし
たいと思う。
まず、単身生活の青年男女について、核料理のそろわぬ食事が非常に多い実態が、浮き
彫りにされている。
すなわち、「主食、主菜、副菜のそろった食事でしたか」の質問に対し、選択肢回答さ
せた結果によれば、1日3食中<1食以下(0食を含む)>の回答者は
埼玉県T市私立専修学校(栄養士養成)1年女子(66名)の48.5%、同校2年女子
(56名)51.8%、
高知県K市国立大学教育学部生女子(32名)の50.0%、
愛知県T市国立大学教育学部生女子(33名)48.5%、同女子(28名)57.2%、
高知県K市国立大学教育学部生男子(34名)50.0%などで男女共平均ほぼ50%であ
る。
ほぼ同じ条件下で調査を実施した埼玉県U市県立短大生(全員家族と同居者)女子
(60名)の30.0%や神奈川県並びに埼玉県の市部主婦(436名)の11.0%などに比べて、
単身生活者で核料理のそろわぬ食事の出現率は著しく高い。
また、東京都内18∼30才サラリーマン男子で家族との同居者(83名、延581日)は核
料理のそろう食事は〈1食以下〉が19.4%にとどまっているが、同年令の単身生活者
(70名、廷497日)では29.6%と高率である。
また同年代の女子OLでは、同居者と単身者の格差がさらに大きく、同居者では(95
名、延1064日)23.4%に対し、単身者(95名、延649日)では35.5%で高率である。
これら単身者では外食が多く、かつ加工食品の使用頻度も高い。
ところが、家族と同居している小中学生や幼児の場合にも、核料理のそろわぬ食事が多
い実態がみられる。
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全国都市化段階を異にする8地域8小学校の小学5年生計1179名の食事では、核料理
のそろわぬ食事が朝食で49.1%、夕食で30.5%である(小学生の場合、昼食は学校給食な
ので、朝、夕食別に比較)。
また全国小中学生約61,000名の朝食調査では、主食と野菜料理と卵、魚、肉などの料
理がそろっていない朝食が、中学3年生は男女平均67.5%と高い。
学年が低くなるに従ってさらに高率になり、小学1年生の場合、86.5%に及んでいる。
また北九州市内のF幼稚園児(3才∼6才、130名)の食事調査の結果では、核料理の
そろわぬ食事が、朝食で54.6%、夕食で28.5%である。
さらに埼玉県N市の保育園児(3∼6才、516名)では、同じく朝食で63.8%、夕食で
は37.0%である。
こうした傾向は、小中学生や幼児に特殊な問題ではなく、一般家庭に共通する問題のよ
うだ。
3種の核料理がそろうためには1食に3種以上(主食を含めて)の料理が並ぶことが必
要条件であるが、現実には、料理数が3品未満の世帯が少なくない。
例えば東京都民の国民栄養調査(564世帯)によれば朝食の料理が3品未満の世帯が
14.3%、昼食24.4%、夕食で9.2%であり、1日9品未満の世帯は14.2%である。
核料理のそろわぬ食事は世帯類型だけでなく、食事の食べ方とも関連が深い。
前掲小学5年生の食事調査で、家族全員で食事を食べた児童の食事(朝食199名の
43.3%、夕食368名の28.5%)家族全員ではないが、大人もいた(朝41名の47.2%、夕
食364名の44.0%)。
子どものみで食べた児童(朝食189名の52.4%、夕食82名の59.3%)ひとりで食べた
(朝食157名の44.0%、夕食65名の54.7%)の順に核料理のそろわぬ食事が高率になる。
大学生、主婦、老人などについても、こうした食事の食べ方と核料理の構成との間に密
接な関係が確認されている。
以上のような現状をみる時、本枠組による栄養教育の必要な対象は、単身生活の若者は
もとより、幼児、小中高校生、成人、老人をふくめて、広い層の人々を包含する必要があ
る。
さらに都市化に対応して加工食品使用や外食層が拡がっていることや食事を家族から離
れて食べる状態が、中都市より大都市部で多いことなどからも今後それらの層は拡大する
ことが予想される。
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一方、栄養や食事づくりへの関心が高く、食材料選択型栄養教育の効果をあげてきたタ
イプの人々の中にも、栄養素構成や食材料構成上の問題点が見出され、食事の設計に発想
の転換が必要であり、その̶つの手段として本枠組による栄養教育が有効なのではないか
と考えられる。
例えば、保健所で地域の栄養指導者として養成されるための系統的な教育を受けてきた
主婦56名の食事調査の結果、
夕食で〈主食なし〉の者が16名(29%)であり、これらの者は、〈主食あり〉の者に
比べて、朝、昼、夕食間の栄養素の配分のバランスが悪く、食事評価点が著しく低い者が
43.8%(〈主食あり〉の者の場合17.5%)を占めている。
主食を食べない動機は肥満や成人病予防のエネルギー量のコントロール、主菜や副菜か
らエネルギー源以外の主要な栄養素を積極的に摂取する、など栄養学的知識にもとづく理
由が多いにもかかわらず、結果的には、蛋白質と脂質過多、特に動物性蛋白質や動物性脂
質に偏向する食事を食べている。
必要な栄養素を確保するために、必要な食材料を組み合せ、それらをむだなく食べられ
るようにするためにうまい料理を作り、食事として食べるという
栄養素→食材料→料理→食事の順に発想することが、知識を生かす上で最良であると考
えてきた人々に対し、
食事→料理→食材料→栄養素の順にすすむ、逆の発想(これは、食事を食べる時の現実
的な認識に近い発想であると考えられる)での知識の生かし方を加えて両者の相互滲透を
深める時、
食事の全体像の中で栄養上の問題を確認しつつ、改善をすすめ、食事全体の栄養素の構
成をより良好にする可能性が大であると考えられる。
こうした点からも、本枠組による栄養教育はかなり広い層の人々に有効であると考えら
れる。
2)料理選択型栄養教育の枠組としての核料理とその構成の定義について
本結果から、核料理とその構成が、栄養素のバランススコアで示される栄養素摂取状態
の評価と密接な関係にあること、並びに、かなり広い層の人々に核料理とその構成を用い
る栄養教育の適応の可能性があることが明らかになった。
そこで本論で、主として、食事の解析手段として用いてきた核料理とその構成の定義を
栄養教育の実践手段として、再検討した。検討の基本的姿勢として、既述のごとく、以下
の3条件を特に配慮した。すなわち、
①調理に直接たずさわらない人々にも理解できる。
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②食事の場、日常生活の場で使いやすい。
③従来の栄養教育の枠組である栄養素のバランスや食材料のバランスについての認識と
つなげて理解したり、実践できる可能性を有している。
などである。
これらをふまえて、核料理とその構成の定義はより具体的、より実際的には次のような
ものになる。
主食料理:食事を構成する料理の中で、中心的な位置を占め、かつ穀物を主材料とする
(約50∼60g以上含む)料理。
これは、食事にエネルギーをはじめ各種栄養素を提供し、かつ他の料理選択のリード役
を担っているので各食事に欠かせない。
主菜料理:食事を構成する料理の中で、中心的な位置を占め、かつ大豆、卵、魚、肉な
どを主材料とする(約50g ­ 鶏卵1個の大きさに相当 ­ 以上を含む)料理。
これは蛋白質、脂質をはじめ多種栄養素を提供し、1食の総栄養素量の決定に及ぼす影
響が大であるので、各食事に欠かせない。
副菜料理:食事を構成する料理の中で、主食料理や主菜料理を補強する上で中心的な位
置を占め、かつ野菜等を主材料とする(約50g ­ 鶏卵1個の大きさに相当 ­ 以上を含
む)料理。
これは、ビタミン、ミネラルを中心とした栄養面の補強をすることはもとより、昧面の
補強の役割も大きく、食事としての多様さを作り出す上で果す役割が大きいので各食事に
欠かせない。
核料理:食事を構成する料理の中で中心的な位置を占める料理。
日本の食事文化の中では主食料理、主菜料理、副菜料理の三種の核料理がそれぞれの役
割を果し、食事の味栄養面の内容を決めている。
核料理以外の料理:上記の定義に従えば、主材料が少量(約50g未満)であるために、
核料理にならない料理(例えば2∼3切の漬物、1口ほどの佃煮、身の少ない汁物な
ど)、いわゆる飲物(酒、果汁、お茶など)果物、菓子類などである。
なお、上記核料理の定義で主材料の量的基準を 約50g以上(鶏卵1個に相当)含む と
した理由は、
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鶏卵1個が約50gで数えやすい単位であること、日常生活でl個車位で目にふれること
の多い食品であることなどに加えて、糖尿病の食事指導に用いられている食品交換表のl
点80Kcal等、と同じ単位であること(日本糖尿病学会編1965)による。
さて上記の定義に従えば、従来用いられてきた各種食品群と核料理とその構成を表23の
ように関連づけて実践の場で使用することができる。
表中に示してあるとおり、本論では果実を核料理又はその主材料として扱っていない。
飲物や菓子も核料理又は核料理の主材料として扱っていないことは既述の定義に示したと
おりである。
しかし、これら核料理の枠内に入れていない料理等について、今後本視点にもとづく検
討と整理が必要である。
例えば著者らは牛乳について主菜料理としての扱いの可否の検討をしてきた。
本対象者並びに大学生の食事では、食事中での牛乳は飲用頻度、料理材料としての使用
頻度共に著しく少なく、たとえ飲用されている場合でも他の料理とのつながりで選択され
るケースが少なく、したがって牛乳を他の主菜料理と同質に扱うことに無理があることを
指摘してきた。
一方、幼児の食事では飲用頻度、飲用量共に著しく多い児がおり、この場合には、複数
種の料理を食べない代りに、牛乳に栄養学的に完全食品としての価値づけがされ、薬物と
似た動機で選択され、飲まれている傾向がみられるが、
この場合も他の料理と連鎖して選択される場合が少なく他の料理と同質に扱うことに無
理があると考えられるなどの問題点があるためである。
核料理の枠内に収められなかった料理等についての検討は、核料理とその構成が、栄養
素摂取過多の食事をより適確に反映する方法の検討のためにも有効であると考えられる。
本研究で、核料理とその構成と栄養素バランススコアとは、朝、昼食で、密接な関係が
認められたが、栄養素摂取量が量的に多い夕食については、統計学的な有意性が認められ
ない傾向であった。
いいかえれば、核料理とその構成は食事の栄養素摂取不足の問題点を具体的に指摘する
上で有効であるが、摂取過多の問題点指摘にやや弱い傾向がみられた。
しかし著者らは本対象について、三食のエネルギー配分比を解析すると、核料理のそろ
う食事数が2食未満の者は、三食のエネルギー配分の偏向した食事(1日のエネルギー摂
取量の50%以上を1食で摂取している食事)の出現率が高い傾向を確認しているので、今
後核料理の枠内に入らない料理等を含めて検討をすすめなければならないと考えている。
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また、栄養素バランススコアの過多域の基準設定にあたって、本研究ではエネルギー源
の栄養素だけにとどめてある。
ビタミンやミネラルの過多摂取に関する栄養生化学的な見解の関係者による一致をみた
段階で再度検討しなければならない点である。
以上、本研究は従来用いられてきた栄養教育の枠組である栄養素のバランス並びに食材
料のバランスに加えて、核料理を指標とする料理のバランスの視点を提起した。
これによって、多様化している人々に対する有効な栄養教育の一方法が関発されたこと
になる(表23)。
さらに、料理、しかも核料理の概念化を試みた本研究の視点は、従来の食生活の理論体
系が、栄養素、食材料、食糧を要素として構築されるものがほとんどであり、料理を要素
とする理論構築が必要とされながらもその困難性が問題にされている中で、
まさに料理を基本的要素として食事の良し悪しを判断し、かつのぞましい食事を体系立
てて理解して、食事内容の向上への実践手段に活用しようとするものである。
したがって本研究は、今後の料理を要素とする食事又は食生活の理論体系化に、新たに
具体的な問題点を提起し、その一部を実証的に検討したものと位置づけることができよ
う。