料理選択型栄養教育の枠組として 核料理とその構成に関する研究 足立

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料理選択型栄養教育の枠組として
核料理とその構成に関する研究 足立己幸
(b)食材料選択型栄養教育
食物は食材料、料理、食事などとして存在するが、多くの場合、食材料の選択だけを基
準とする場合が多い。したがって、栄養素選択型栄養教育は実際的効果を挙げにくいとい
う方法論に根ざす欠陥がある。
食材料選択型栄養教育とは各種の食品群や食品構成を基準にすえ、食材料の種類や量こ
れらのバランスなどについて教育する。教育の枠組としては食材料とその構成を中心とす
るものである。
現行の食品構成の多くは第二次世界大戦後の食料不足による低栄養状態から脱出するた
めの対策の一つとして作られ、使われてきた。
限られた種類と量の食料から必要な栄養素を最大限に確保するために必要な知識や技術
を家族の食事担当者である主婦に対し、教育するために開発されてきたものが多い。
いわば家庭で食事を作る主婦向、食材料選択型の栄養教育の枠組である。
これらの多くは食材料選択型とはいえ、その内容は必要な栄養素を確保する手段として
の食材料選択である場合が多く、この点からすれば、栄養素選択型栄養教育の性格の濃い
ものといえよう。
次に対象の選定についても整理しておく必要がある。家庭で食事を作る主婦を対象とし
て栄養教育をすすめることの有効性は国民の多くが、朝、夕食を家庭内で食べ、さらに昼
食は家庭内で作った弁当を食べる場合が多く、1日の食事のほとんどを家庭内で作ってい
るからである。
また食材料選択型であることの有効性は、これらの食事の材料を入手して、家庭内で作
る場合がほとんどであったからである。
家庭内の主婦向、食材料選択型の栄養教育が全国的に組織的にすすめられ、国民の体位
や健康の向上に果してきた役割は大きく評価されている。
ところが、いわゆる高度経済成長にともなう都市化の進行が著しい昭和30年代後半か
ら40年代とそれ以降の日本人の食生活は著しく変化してきた家庭内で食事を作る機会が著
しく減少し、かつ、青年男女や中高年男子の単身生活者等の増加により、食事を準備する
者が主婦以外の層に拡がってきた。
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また食堂やレストランやスナックなど商業的に食事を提供する場が増加し、そこで日常
的に食事を食べる者が増加してきた。
一方、各種の加工食品の生産や販売量の増加にともない家庭内での加工食品使用も著し
く多くなった。これらの変化はいずれも、選択される食物が食材料でなく料理又はそれに
準じる形態(以下料理等と呼ぶ)への変化である。
したがって、従来の食材料選択型の栄養教育で提供される知識だけでは対応しにくい場
面が多くなってきた。
2)料理選択型栄養教育の必要性について
上記のような食生活の変化に対して、受身でなく、積極的に対応できる栄養教育をすす
めるためには、食材料を使って料理等を作る者の行動の変容をねらう教育だけでなく、提
供される料理の中から適切な選択ができるようになる栄養教育の視点が必要になる。
前者を食事を作る者向食材料選択型と呼ぶならば、後者を食べる者向、料理選択型栄養
教育と呼ぶことができよう。前者が主として、家庭の主婦や集団給食等の栄養士や調理担
当者を対象とするのに対し、後者は前者の人々を含めた、食事を食べる立場の人すべてを
対象とするものといえよう。
従来、栄養教育に料理をとりあげるものがなかったのではない。しかし、多くの場合、
調理の技術向上を目的とする教育、又は、栄養素や食材料ののぞましい組み合せによる標
準献立(基準献立、参考献立など)を事例的に例示する教育である。
しかし、目的に応じて料理の組み合せのルール等を構造的に説明するものではなく、お
しなべて個別的、事例的なものが多かったといえよう。
このような新しい栄養教育に対するニードは、日本型食生活の見直しの行政的動向にも
表われており、日本の食糧自給率の著しい低下や伝統的な食事文化の崩壊に対する反省と
して、また、アメリカや北欧などで保健食としての日本食が再評価されつつあることと相
侯って確実に強まっている。
この社会的ニードに対処するためには地域性、文化性、経済性および保健面、栄養面を
総合した料理の評価方法の開発が必要になっている。料理が地域性や文化性を濃く表出す
るといわれる点を含めて、料理を要素とする評価方法の開発も要請されている。
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3)主食、主菜、副菜とその構成に注目してきた経緯(表1)
さて、料理を要素として栄養教育の枠組を作るにあたって、料理をどの視点からとらえ
るかが最も基本的な問題になる。一般の人々にわかりやすい、なじみやすい点を重視すれ
ば、伝統的に日常生活の中で慣用されてきた類型を活用することが一策であろう。
ところが慣用されている食事又は料理の類型は多種類であり、かつ、日常的な生活用語
としても、専門用語としても未分化なまま使われている場合が多い。
そこで、慣用されている主要な食事、料理について要点を整理したものが表1である。
前項に記したとおり、本枠組は調理に直接たづさわらない者にとっても、理解しやすい
内容であることが前提条件であるので、食材料の種類や調理法を区分原理にする類型では
複雑多岐にわたったり、重複したりするので目的を果さないことになる。
だれでも見て実体が具体的にわかるためには、個々の料理だけではなく、料理間の位置
や大小の関係を区分原理にするものがよいと思われる。
表1の中でこの主旨に該当する類型は、○汁△菜、椀壷平、オードブル…スープ……デ
ザート、前菜、八寸…………点心などである。
しかし、これらは、本来、祭礼や宴席などのハレの日の食事として様式化されるものが
多く、日常の家庭の食事、しかも現代のように異国文化の料理が取り入れられて食事を形
成している場合には、そのまま適用しきれない。
また汁ものなど、特定の料理や特定の食器等を区分原理とするものでは、多様な料理の
組み合せを包含しきれない点などから、本枠組には不適と考えた。
これらに対し、主食、主菜、副菜の類型は各料理の構成する各材料の細部にわたって理
解しなくても、料理の相対的な大きさや主材料の種類や量のみで認識できる。
すでに著者らは、主食、主菜、副菜とその構成に注目して、複数の地区のさまざまな年
令層の人々の食事の実態を把握し、主食、主菜、副菜が、食事を食べる者にも理解しやす
い類型であることを認識してきた。
さらに栄養教育の枠組とし積極的に活用していくためには、主食、主菜、副菜とその構
成について従来の栄養教育の枠組である栄養素のバランスや食材料の構成との同異点が明
確にされることが有意義であると考えた。