デジタル・イメージング技術部会講演要旨開催日：平成１８年３月１６日（木）＜２００５−４ ②＞テーマ：「像感性工学がめざすこと」講演者：小林裕幸氏（千葉大学工学部情報画像工学科教授）像感性工学は、画像表現、メディア画質、デジタルイメージングなどにおいて下に例を述べるような、画質とそれが与える印象を解析することによって、いろいろな場面における、より好ましい画質の探求と、その画質を作るにはどうしたらいいのかを研究することをめざしている。 ● たくさん好きな写真がある。100 年ほど前のケーゼビアの、カーボン印画法で作成したシャープネスの低い、母と子の写真は絵のようなやさしさを感じさせる。キャパのノルマンディー上陸作戦の中で撮った写真はものすごく荒れた粒状の写真であるが、それが緊張感を生み、迫力を生む。最高になめらかで、最高にシャープになるような条件で作られたウィストンのピーマンのでっかい写真は、ふだんしみじみながめたこともないピーマンの顔をつくづく見させてくれる。アヴェドンが写したアメリカ最後の奴隷ギャスビーのこちらを見つめる顔のローキーの豊かなトーンは、彼の生きてきた人生の深さを感じさせる。内藤正敏のハイコントラストの写真はおどろおどろした雰囲気を生み出す。いい写真、好きな写真の条件は、画質がいいこととイコールではない。 ● インクジェットプリンタの歴史はノイズとの戦いであった。インク滴の微小化、濃淡インクの使用することにより、今やノイズのない大きなプリントを作成できるようになった。しかし、ノイズのなくなった大きなプリントを見て、写真家は困った。ノイズとともに奥行き感や質感が失われてしまったのだ。現在、技術者がたゆまぬ努力で消したノイズを、写真家が画像処理で付加しているという非常に興味深いことがなされている。写真は誕生以来、常に粒状を伴っていた。すなわち、私たちは常に粒状のある画像を見続けてきたのだ。粒状の消えた写真を見て、その役割に初めて気づいたのだ。 ● テレビ時代劇、水戸黄門が銀塩フィルムからビデオに変わったとき、舞台が江戸から現代になったような印象を与え、ファンから苦情かきたそうである。また、アルジャジーラのノイズののった映像は私たちにバグダッドまでの距離を感じさせる。それぞれのメディアには固有の画質があり、私たちはそれからいろいろな印象を得る。 ● 私たちは画像を見るときはメディアごとのチャンネルで見ている。例えば新聞を見るときは新聞というチャンネルで見ている。最近ビックリするほど高品質の新聞カラー広告が増えたが、絶対的な画質で言えばオリコミ広告の足元にも及んでいない。新聞印刷の一つのトレンドとして広告ページにより白い用紙を使うことがあるが、これにより絶対的な画質を改善することはできても、新聞というチャンネルから逸脱させ、品質の悪いオリコミと見させてしまっては逆効果となる。