ル・コルビュジエ『輝く都市』の項「法則」における自然と創造に関する考察 A Study on Nature and Creation in ‘Laws’: an item of “La Ville Radieuse” 建築学専攻 論文目次 田路研究室 近藤大介 が現われるようになり,都市計画においても,風景が重要 な要素となっているという。しかし,こうした作品の変化 第1章 序論 1-1 1-2 1-3 1-4 研究目的 研究対象 研究方法 本研究の位置づけ 第2章 「法則」の概要 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 地球は私たちの時計 男性と女性 私たちを支配する太陽 性格 1.調和という結びつき 2.事故 3.蛇行の法則 4.調和という結びつき,再び 2-6 世界の季節と人間の季節 2-7 自然の法則に反すること:つまり衰退と死 2-8 無限の組み合わせ 2-9 人間,焦点 2-10 知性の目的 2-11 有益な創造 無益な創造 を裏付ける思想の変化の内実は明らかになっていない。本 稿は『輝く都市』とそれ以前の著作を比較し,彼の思想の 展開を探ることを目的とする。 1-2 研究対象 『輝く都市』は,理論編4章,計画編3章,結論 1 章の 8章から構成されている。本研究では理論編第3章「新時 代」のうち,自然的な挿絵が最も多く含まれ,自然と人工 を巡る諸観念が多く含まれる「法則」の項を研究対象とす る。 1-3 研究方法 ①「法則」の 11 項について各項の概要を示し, 「自然-創 造」観をめぐる論点を抽出する。 ② 『 輝 く 都 市 』 以 前 の 著 作 “ Vers une architecture”(G.CRÈS ET C,1923,建築をめざして) 第3章 「自然―創造」観の生成 3-1 太陽 3-2 諸地域の性格 “L’art décoratif d’aujourd’hui”(G.CRÈS ET C, 3-3 蛇行 1925,今日の装飾芸術),“Almanach d'architecture 3-4 歴史の始まりとその中での奮闘 3-5 人間が自然に与えた有機的構造 moderne”(G.CRÈS ET C,1925,近代建築名鑑),“La 3-6 世界の季節の始まりとその中での奮闘 peinture moderne”(G. CRÈS ET C,1925,近代絵画) 3-7 自然の法則,人間,創造物の3者の関係 ,“Une Maison, un Palais”(G. CRÈS ET C,1928,住 3-8 自然の法則を幾何学に投影し人間的な秩序の創造 3-9 機械時代における有益な創造 宅 と 宮 殿 ) ,“ Précisions sur un état présent de “Urbanisme”(G.CRÈS & C,1924,ユルバニスム), l’architecture et de l’urbanisme”(FRÈAL &C , 1930,プレシジョン),“Croisade ou le crépuscule des 結 académies”(FRÈAL&C,1933,建築十字軍 アカデミー の黄昏)から①において抽出された論点に係わる記述を 第1章 序論 1-1 研究目的 ル・コルビュジエ(1887-1965)は初期活動において,ピ ュリズムの運動に関わる建築家として,後期活動において, ブルータリズムの運動に関わる建築家として知られてい 調査する。 ③ ②で調査した記述を「法則」における記述と比較考察し, 「自然―創造」観の生成過程を明らかにする。 ①を本稿第2章,②及び③を本稿第3章で行う。 1-4 本研究の位置づけ る。“La Ville Radieuse”(1935)(以下『輝く都市』1) ル・コルビュジエの都市計画に関する既往研究の多くは と示す)は二つの活動期のほぼ中間に出版された著作とし 作品に即した論考である。ノーマ・エバンソンの『ル・コ て知られる。ノルベルト・フーゼによると,『輝く都市』 ルビュジエの構想』2)では「輝く都市」のプラン,スケッ 以前の著作に見られる図版は,技術的,幾何学的,構造的 チを用いて「300 万人のための現代都市」の原理が細部に な形象が支配的であったのとは異なり, 『輝く都市』では, わたって展開されていることが指摘されている。また,ノ 太陽系と植物の葉のイラストや人間の臓器,花や季節とい ルベルト・フーゼの『ル・コルビュジエ』3)では「輝く都 った生命概念の図版が繰り返し用いられている。これは 市」と「300 万人のための現代都市」との比較を行い,自 ル・コルビュジエの思想において,技術すらも新しい連関 然と建築の結びつきの弱さが指摘されている。言説に即し のなかに組み込むような根本的な変化が生じたことを示 た研究としては,長田の研究4)において『輝く都市』 (1935) 唆するものとされている。また,作品において,1920 年 第2章4項「正確な呼吸」の概念に触れられており,都市 代は自然の形象がまったくと言ってよいほど排除されて の人々に新鮮な空気を供給し,健全な呼吸を理念とした概 いるが,1930 年頃からは,個々の建築に「自然」な形態 念であることが明らかとされた。森山の研究5)では,「輝 く都市」についての直接的な言及はないが,1935 年以前 めていくという。ブエノス・アイレスは,以前は「有機体」 の概念,自然法の概念,呼吸の概念に触れられており,本 であったが,現在は「細胞質の集合体」に過ぎない状況にな 6) 稿に示唆を与える。河内の研究 は,『建築をめざして』 っているとされ,その原因を「人間」に見ている。論点は「人 の記述に見る「調和的なること」の構造化を行い,「調和的 間が自然に与える有機的構造」である。 なること」は第一に,視覚と聴覚が結びついた感性経験で 2-8 あり,第二に「計算」的・「法則」的な事柄との連結を介して, 「無限の組み合わせ」 いかなる都市も都市の基礎となっているプランも「天か 思考のレベルとして,普遍的なる層を浮かびあがらせてい ら授かった 3 つの特性」である「理性」,「情熱」,「われわれ ることを指摘している。しかし,これまでの論考の中で, 地上的なものの運命の本性」からなりたっているという。 『輝く都市』の「法則」の諸概念を対象としたものは見受 そしてそれら「3 つの特性」について,「われわれは幸運 けられない。 な組合せを探さなければならない」とされる。論点は「天か ら授かった 3 つの特性」である。 第2章 2-9 「法則」の概要 本章では『輝く都市』第3章第4節「法則」の各項の概 「人間,焦点」 「人間」の「創造物」として,「環境から推論したり断定し 要を示し,挿絵を解説し,論点の抽出を行う。 たりすることができるあらゆるもの」と「人間を介して人 2-1 間のシステムへとつなぎ合わせることができるあらゆる 「地球は私たちの時計」 普遍的な存在である天体について述べられている。毎日 もの」があげられる。前者は「人間」を含めた「その環境」, 繰り返される 24 時間のサイクルは,人間の活動の計器と すなわち「自然の法則」の集合体について外的に考察する なるという。論点は「24 時間という毎日のサイクル」であ ことで見出された「創造物」を意味する。後者は「人間のシ る。 ステム」とつなぎ合わせることができるかどうか,つまり 2-2 「人間」の内的な作用性の有無によって見出される「創造 「男性と女性」 太陽によって水が一日の中で露,雲,水蒸気,雷雨,嵐 物」を意味する。論点は「自然の法則,人間,創造物の3 と様々に形を変えて人間の前に姿を現わす様を理想とし 者の関係」である。 ている。論点は「一日のサイクルにおける水の姿の変化」 2-10 2-3 「知性の目的」 「人は自然の法則を人間の精神それ自体の表現である である。 システム,つまり幾何学に投影してきた」という。論点は 「私たちを支配する太陽」 森を構成する一枚の葉に着目すると,太陽の光を浴びる 「自然の法則を幾何学に投影し人間的な秩序を創造する ために身を捻ったり縮めたりしていることが見てとれる こと」である。 ことが示される。「私たちを支配する太陽」は一見影響を 2-11 与えていないものまでも影響しているという。論点は「太 「有益な創造 無益な創造」 前半では,「自然の法則」と「人間の法則」が人間の「創 陽がつくる自然の法則」である。 造物」といかに関わっているかが述べられ,後半では,前 2-4 機械時代から機械時代への移行に伴い,都市を再構成する 「性格」 飛行機からの視点を得て,「世界の諸地域の性格が明白 になる」と述べられている。論点は「諸地域の性格」であ 必要があることについて述べられている。論点は「機械時 代における有益な創造について」である。 る。 2-5 1.「調和という結びつき」 「蛇行の法則」 2.「事故」 3. 4.「調和という結びつき,再 び」 「蛇行」という事柄が話題の中心となっており,論点と 第3章 「自然―創造」観の生成 『輝く都市』以前のル・コルビュジエの著作から前章で 概観した 11 の論点それぞれに関連する箇所を調査する。 次にこれらの著作の関連箇所と『輝く都市』での記述を比 して抽出できる。 較し,その連関を考察することで,『輝く都市』の位置づ 2-6 け,ならびにル・コルビュジエの思想の一端を明らかにす 「世界の季節と人間の季節」 「世界の季節」は「歴史のカーブ」,「歴史の周期」とも言わ れ,「人間の季節」は「人生のカーブ」,「人生の周期」とも言 る。 3-1 太陽 われる。「歴史のカーブは予兆ともに発生し,奮闘が無け 「24 時間と言う毎日のサイクル」「一日のサイクルにお れば,突然崩壊する。」と記述されることから,機械主義 ける水の姿の変化」「太陽がつくる自然の法則」をまとめて 時代におけるなんらかの「人間」の奮闘が示唆されている。 「太陽」という論点として調査した結果, 『今日の装飾芸術』, 論点は「歴史の始まりとその中での奮闘」である。 『プレシジョン』, 『建築十字軍』に 1 箇所ずつ関連する記 2-7 述がある。 「自然の法則に反すること:つまり衰退と死」 自然界では「生物」が「生物体」へと自然に衝動を推し進 『今日の装飾芸術』では「一日 24 時間」という「サイク ル」が支配するものが,「宇宙」の「本質」であるという。こ は「機械主義」という「精神」を見失ったからだとされる。 れは『輝く都市』での「一年,一月,一日」という「太陽」 『輝く都市』において,「歴史的期間のカーブ」が「奮闘が が作る「自然の法則」という考え方や,「太陽」が「昼夜」を なければ,実りの無い年月が続くだろう」,「衰退がそこに 分かちわれわれ「人間」を支配するという考え方の起源で ある」,「崩壊はいまにも起ころうとしている」と述べられ あると考えられる。 『プレシジョン』では『輝く都市』の ている。これは上述の『ユルバニスム』の引用と同内容で 「男性と女性」の記述とほとんど同内容が示される。 『建築 あり,継続している考え方であるとわかる。 十字軍』では,スローモーション映画の中で,「植物」が 3-5 人間が自然に与えた有機的構造 「光」を求めて動き回っていることが指摘されている。こ 「有機体」に関する記述は『建築をめざして』, 『今日の装 れは, 『輝く都市』の「私たちを支配する太陽」において詳 飾芸術』に 1 箇所ずつ, 『近代建築名鑑』に 2 箇所, 『住宅 述されている。また,「光」というものが「太陽」の「光」と と宮殿』に 3 箇所ある。「人間が自然に与えた有機的構造」 して,「太陽」を中心に論じられていることも注目される に関する記述は『プレシジョン』に 1 箇所ある。 ことである。以上をまとめると,1920 年代の著作『今日 「有機体」とは「空間」と「精神」の中で「自然の法則」 の装飾芸術』では「太陽」の物理的側面である「光」や を「現象」するものであるという。「全体」は各「部分」 時間的側面である「一日 24 時間」という「サイクル」に主 を秩序づける「合理」性をもち, 「伝統」を有する, 「時代」 眼が置かれている。しかし,1930 年代の著作『プレシジ と「風土」に基盤をおく「感覚」を持つものと解される。 ョン』,『建築十字軍』では,水の様態や植物の様態が太 『プレシジョン』でのブエノス・アイレスの交通に関する 陽による時間的推移の中で変化することにまで視野が広 直接的な記述から, 『輝く都市』の「自然の法則に反するこ がっている。 とつまり衰退と死」とはブエノス・アイレスが無秩序な区 3-2 画の増殖により,「機械時代」に適応した自動車交通を実 諸地域の性格 『プレシジョン』に 1 箇所関連する記述がある。 現できないことを指していると言える。つまり,「全体」 『プレシジョン』での「諸地域」に関する記述から,「性 は各「部分」を秩序づける「合理」性を失い,「自然の法 格」は土地的事象と歴史的事象に関わる記述と推測される。 則」を「現象」する「有機体」とはかけ離れたものとなっ また『輝く都市』の「性格」の挿絵に,飛行機から見た「葦」, たということである。これらは『プレシジョン』から継続 「椰子の木」,「蛇行」の絵があることから,1929 年にブエ され,『輝く都市』でさらに深まった考え方であることが ノス・アイレス,モンテヴィデオ,サン・パウロ,リオ・ 明らかとなった。 デジャネイロの都市研究の際に経験した飛行機からの観 3-6 世界の季節の始りとその中での奮闘 察が関わっていると推測される。 『プレシジョン』に 2 箇所関連する記述がある。 3-3 『プレシジョン』では,人間が不変にもつ諸要素として 蛇行 『プレシジョン』に 2 箇所関連する記述がある。 「理性」, 「情熱」, 「固有の寸法」が挙げられる。これは『輝 『プレシジョン』では,飛行機から見た「蛇行」の様子 く都市』では「理性」, 「情熱」, 「我々地上的なものの運命 を「物理学」の一貫性を静かに展開したものだと説明して の本性」となる。また『プレシジョン』での記述から「我々 いる。さらに「蛇行」という,真っ直ぐの流れが,障害 の地上的なものの運命の本性」とは「集団」と「個人」の 物に影響されて曲がりくねり,再び真っ直ぐな流れに戻 営みによって決定される「運命」を支える「本性」である る,「周期性」をもつ現象であるという。このことと「機 ことが明らかとなった。このことから『プレシジョン』に 械主義」時代における大都市の問題が類似的に述べられ, て,考え方としてあったものが,『輝く都市』にてまとめ その原因である「機械主義」自体が問題解決の手段とな られたということが明らかとなった。 るという。一方『輝く都市』では「蛇行」と関連して,水 3-7 自然の法則,人間,創造物の3者の関係 の循環と都市計画における車の流動性を重ね合わせる記 『建築をめざして』に 4 箇所関連記述がある。 述や,「蛇行」は「重要な結果の作用は時間と空間の中で 『建築をめざして』では, 「建築」を見る際に,「宇宙の 展開される」というように, 「蛇行」という現象そのもの 法則の音叉」をあなた方の「心の中」でならすこと,すなわ にも重きをおいた記述が見られる。「蛇行」は『プレシジ ち「人間」の内的な作用性について述べられている。 ョン』から『輝く都市』まで継続された思考であること 「調和の試金石」は「おそらく人間という有機体が自然と がわかる。 全く合致した軸線上にあること,それはおそらく,宇宙す 3-4 なわち自然の一切の物,一切の現象が従う組織立ての軸線 歴史の始まりとその中での奮闘 『ユルバニスム』で 2 箇所関連箇所がある。 と同じものの上にあることだろう。」という。「調和の試金 『ユルバニスム』では,「機械時代」における「歴史」の「運 石」は別の記述から,「創造物」が「人間」に引き起こす作用 動」が概観されている。現在, 「理性の建設的努力」が健全 を受信するものとわかる。ここでは,「人間」を含めた「自 に行われず,「文化」が衰退の波を描いているという。それ 然」を考察し,「自然」と「人間」が同じ「軸線」の上にあるも のとしている。これは『輝く都市』における「自然は,人 秩序の創造」は,『建築をめざして』,『ユルバニスム』か 間から無限性へと広がっていく錐体で,その頂点は人間を ら継承されているものであることが明らかとなった。 突き通しており,その内容は人間に流れ込んでいる。人間 3-9 機械時代における有益な創造 の創造もまた無限に広がっている錐体である。」と言われ 『輝く都市』以前の著作には関連する記述がなかった。 ること,挿絵において「自然」と「作品(創造物)」各々の錐体 『輝く都市』以前の著作には,「創造」に関する話題は見 が同一の連続した直線で連結されていることから,これら 受けられたが,「機械時代における有益な創造」を記述す と同様の真理が貫いているものであるということを示唆 るものは見受けられなかった。『輝く都市』において初め すると考えられる。以上の考察から,言葉を変えてはいる て出現した考え方であることが明らかとなった。 が「自然の法則,人間,創造物の三者の関係」は『建築をめ ざして』から継続する思想であることが明らかとなった。 3-8 自然の法則を幾何学に投影し人間的な秩序の 創造 『建築をめざして』に 1 箇所,『ユルバニスム』に 3 箇 所,関連する記述がある。 『建築をめざして』では,古来の寺院においてプランを 結 抽出した論点9項中8項目が『輝く都市』より過去の著 作に見られている。『輝く都市』は都市計画に関する著作 であるが,過去の著作に示される,制作観,歴史観,自然 観,都市計画観,が見られ,ル・コルビュジエ一連の著作 をまとめた思想を表す著作であると位置づけられる。 構成する際,「幾何学」を選び取ると述べられ,「幾何学は 1920 年代の著作『建築をめざして』,『ユルバニスム』 人間の言葉」であると言われる。『輝く都市』では,「人間 で見られる,「自然の法則,人間,創造物の3者の関係」, は自然の法則を人間の精神それ自体の表現であるシステ 「自然の法則を幾何学に投影し人間的な秩序を創造するこ ム,つまり幾何学に投影してきた。」とし,「言葉」は感情, と」といった人間の創造に関する記述は,言葉は変わって 思考の表現の道具であり,「人間の精神の表現システム」 いるが,継続してみられ,ル・コルビュジエの根底にある であるとされることから,同内容の記述であると推測され 思想であることが明らかとなった。 る。 『輝く都市』の観念の多くは『プレシジョン』から引き 『ユルバニスム』では,「人間」は「宇宙」から生じたもの 継がれているものである。『プレシジョン』から出現して であるため,「法則の合理的な知識」の表にもとづいて「行 いる観念には,地球のいかなるものにも影響を及ぼす,超 動」し,「発明」することで「宇宙」と「調和」するとされる。 越的な存在である「太陽」,各地方の個別の歴史的と土地的 『輝く都市』では「人間」は「自然」の産物であり,「自然の 概念をもつ「諸地域の性格」,個人と全体の概念をもつ「天 法則」につくられたという。「自然の法則」を理解し,「自然」 から授かった3つの特性」といった,全世界に共通する概 の流転と人生を調和させたなら,「有益な調和」を意識する 念,諸地域に個別に現われる概念,個人と全体の人間の本 ことができるとされる。 『ユルバニスム』での「人間」は「宇 性を表す概念が見られており,ル・コルビュジエの思想の 宙」から生じたものであるという記述, 『輝く都市』での「人 変化を表すものであると考えられる。 間」は「自然」の産物であるという記述から『ユルバニスム』 また,「機械時代における有益な創造」という観念が『輝 における「宇宙」と『輝く都市』における「自然」とは同様の く都市』で出現したことは注目されるべき事柄である。思 ものを指していると考えられる。また,『ユルバニスム』 想として,「機械時代」における解決法は明らかになった。 での「法則の合理的な知識」とは『輝く都市』における「自 今後の課題として,それが実践としてどのように遂行され 然の法則」であると解される。『ユルバニスム』の「法則の たのか, 『輝く都市』の理論編だけでなく, 『輝く都市』の 合理的な知識」の表にもとづいて「行動」し,「発明」するこ プロジェクトをもとに読み解く必要がある。 とで「宇宙」と「調和」するという記述と, 『輝く都市』の「自 然の法則」を理解し,「自然」の流転と人生を調和させたな ら,「有益な調和」を意識することができるという記述は, 両記述とも「自然の法則」を用いて「創造」することで「自 然」との「調和」が図れるということが読み取れることから, 同内容の記述であると解される。 また『ユルバニスム』では「人間」は混沌とした「自然」 の中に「安全」な環境を,「純粋な幾何学」によって「秩 序」づけると述べられており, 『輝く都市』での,「人間」 は「幾何学」を用いて「人工の世界」をつくり,ゆとりを もって生きている。ということの詳述といえよう。 以上の考察から「自然の法則を幾何学に投影し人間的な 注記 1) 本稿で扱う 『輝く都市』 は 1935 年に出版された, “La Ville Radieuse ” (L,L’ARCHITECTURE D’AUJOURD’HUI,1935)である。現在出版さ れている『輝く都市』(鹿島出版会,1946)とは異なる。1946 年に出 版された“Maniére de Pennser l’Urbanisme”は本来『都市計画の 考え方』と訳されるべきものである。以下本稿では『輝く都市』(1935) 『都市計画の考え方』(1946)と表記して区別する。 2)ル・コルビュジエの構想――都市デザインと機械の表徴(1984.2.10 井上書院) 著者:ノーマ・エヴァンソン 訳者:酒井孝博 3)ル・コルビュジエ(1995.12.1 パルコ美術新書) 著者:ノルベルト・ フーゼ 訳者:安松孝 4)長田和也 石川恒夫 『ル・コルビュジエにおける「正確な呼吸」 の概念について』 日本建築学会大会学術講演梗概集. 2007 年 8 月 5) 森山学 『ピエール・ウィンターの 1930 年代における自然法に 関する理論』 日本建築学会計画系論文集.第 610 号 P207-212, 2006 年 12 月 6)河内浩志 『建築をめざして』の記述にみる「調和なること」の考 察 日本建築学会計画系論文集 第 506,p197-202,1998 年 4 月
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