PDFはこちら

2006.4
number 130
寄稿論文
規則性無機ナノ空間が創り出す新しい触媒能
東京工業大学 資源化学研究所
岩本 正和
1. 規則性ナノ空間物質とは
1990年代初頭シリカ系ナノ空間物質の合成が報告された。代表的な規則性ナノ空間物質であ
る MCM-41(以下 M41)の電子顕微鏡写真を図1に示す。規則性ナノ空間物質/構造物質は有
機化合物の棒状あるいは球状ミセルを鋳型として合成され,既存のゼオライトや不規則性空間
物質では成し得なかった種々の新機能を達成できるものと期待されている 1)。
図1 シリカナノ多孔体 MCM-41 の透過電子顕微鏡写真(左の倍率は右の
約5倍).この規則性ナノ細孔が新機能をもたらす.
表1に規則性ナノ空間物質に関してどの様な分野の研究の進展が期待されるかをまとめてい
る。これらの分野に関してこれまでに多くの研究が行われ,種々の規則性ナノ空間物質の合成,
新調製法の開発,新細孔構造の開拓,構成成分の多様化,機能材料としての応用等が精力的に
研究されている。しかし,第4項目のナノ空間の利用に限って話をすると,現時点での研究は
大表面積あるいは規則的多孔性を単純に利用している研究が多く,例えばシリカ M41 の場合,
高級なシリカゲルの範疇を出ない用途が大部分であるように感じている。本稿では,規則性ナ
ノ空間の特徴を活かすためにどのような方策で研究を進めればいいか,この新物質群は固体触
媒化学にどの様な新しさをもたらしているかを示し,この物質群が化学/化学工業に新風を吹
き込んでいることを紹介したい 2) 。
2
2006.4
number 130
表1 規則性ナノ空間物質の研究分野
1.空間構造の制御
細孔径、細孔方向、細孔密度(壁厚と細孔径の関係)
空孔の接続(1次元,2次元,3次元,サイドチャネル)
空孔の構造(均一細孔、スーパーケージ,サイドポケット,ヘリカル,不斉)
2.壁の成分および構造の制御
酸化物系(シリカ,シリカ以外),非酸化物系,有機無機複合系,有機系
結晶性,構造,異方性
電気伝導性,光機能,磁気機能
3.集合体の形状の制御
粒子形状,アスペクト比,充填密度,二次細孔
薄膜化,ファイバー化,螺旋
4.細孔内あるいは周辺部での新機能の構築
ナノ空間構造に起因する機能の発見・開拓と応用
金属イオンや官能基等の機能成分の担持,複合機能
外部刺激応答機能の付与
2.
規則性ナノ空間物質は何が新しいのか
この多孔体群は,(i)1000 m2/g を超える大表面積(シリカの場合),
(ii)均一な規則性細孔,
(iii)細孔径を2-10 nm の範囲で制御可能,という特徴を持っている。これらの特徴をそのまま
利用し,大表面積担体あるいは大分子の反応場として用いることはもちろん可能であるが,さ
らに進んで以下の三つの特性を本物質群に特有なものとして導きだすことが出来る。
(1)一般に壁の厚さは1-2 nm であり,酸化物格子数層分にしか相当しない。ほとんどすべ
ての原子が表面/表面近傍に位置している特殊な物質である。
(2)細孔の内側はほぼ均一な表面と見なすことが出来る。これは,凹凸によって表面積を稼
いでいる従来の大表面積物質と一線を画する特性である。
(3)細孔の大きさが均一かつ制御可能である。ナノオーダーの規則空間の特性を活かした新
しい機能材料設計指針の提案が求められている。
これらの点は相互に関連しながら,未知の新物性,新機能を誘起すると期待される。我々が
この物質に期待することは,この物質によってこれまでの機能や触媒特性がさらに高度化,高
性能化することはもちろん,
これまでの物質では達成できなかった新しい機能が本物質群によっ
て現実のものとなることである。
3.
ナノ空間物質の特性を活かす
3.1.不斉接触酸化の実現
固体触媒は,錯体等の均一系触媒に比べて反応速度が大きい,長寿命,分離工程が単純で操
業が容易等の特徴を持ち工業的に多用されている。しかし,反応の選択性という面ではまだま
だ改良の余地が大きい。特に不斉合成の分野では錯体触媒に大きく劣っている。これは,固体
触媒上の活性点の不均一性が大きく,精密な立体制御がいまだに困難なためである。これに対
し,我々は規則性多孔体内部の擬均一表面を用いれば,不斉合成が可能になるかもしれないと
考えた。
3
2006.4
number 130
まず,メゾ多孔体中に金属イオンを植え付ける方法としてテンプレートイオン交換法(ミセル
を構成している界面活性剤イオンを金属イオンと交換する方法)
を当研究室で新たに開発した3)。
次に,その方法で調製した触媒の活性を検討し,Mnイオン担持体がオレフィンのエポキシ化反
応に 4),Ti イオン担持体がスルフィドの酸化に活性であることを見いだした 5)。後者の場合,酒
石酸系の補助剤の添加により不斉酸化(図2)が実際に進行することを確認した 5)。この触媒系
では,均一系で高活性とされている酒石酸エステル/有機過酸化物を適用しても全く不斉は発
現せず,酒石酸/過酸化水素を用いた場合に不斉が発現した。Ti 担持シリカ多孔体では均一系
とは異なる不斉空間が構築されていると考えている。現時点での最高値はタートラニル酸を用
いた時のスルフィド転化率54%,不斉収率58%eeである。これらの研究により触媒化学の夢の
一つである「固体触媒による不斉酸化」を初めて達成できた。
OH O
Ti-MCM-41, HO
S
O
NO2
O
N
OH H
O
S
O
S
+
H2O2-Urea, CH2Cl2, H2O
1b
2b
3b
54%, 58% ee
図2 Ti イオン担持 M41 上でのスルフィドの不斉酸化
3.2.鋳型や担体として用いる
酸化物超微粒子等をナノサイズまで小さくすると,量子サイズ効果が発現することは以前か
ら知られていた。しかし,粒子の大きさをナノメートルサイズで制御し,かつ粒度分布が小さ
いものを作ることはこれまで極めて困難であった。我々は,酸化物を細孔内に担持すると量子
サイズ効果が発現し,バンドギャップを細孔径によって任意に制御できることを明らか
にした 6) 。
また,細孔内の壁面を種々の有機官能基で被覆し,有機ゼオライトとしての利用を試みてい
る。例えば,ジアリールエテンが適切な細孔径の有機細孔に取り込まれると,光異性化反応の
量子効率がかなり高くなることを見いだした。一方,トリメチルシリル基で被覆すると,水中
の微量農薬に対して活性炭よりも優れた吸着能を示すことが明らかになった。
3.3.水中の砒酸イオンやリン酸イオンを交換除去する
水の浄化には,有機系汚染物質の除去とともに有害金属イオンの除去が重要である。大部分
の金属イオンは酸素酸アニオンとして水中に溶存しているので,当初はナノ多孔体に金属カチ
オンを担持することで選択的に吸着除去できるだろうと考えた。当面の目標を砒酸イオン
(H2AsO4−)の除去に定め,種々検討したが,うまい吸着剤を見出すことは出来なかった。そこ
で,多孔体の壁成分として砒酸イオンと化合しやすいジルコニウムを選択し,ジルコニウム−
リン酸系ナノ多孔体(ZP)を調製した。ところがこれも砒酸イオンを吸着しなかった。
4
2006.4
number 130
どの様な方針で研究を進めるか大変困惑した。種々考えている内に,ZP を合成するためにジ
ルコニウム−硫酸−ミセル複合体(ZS)をリン酸水溶液で処理していること,即ち硫酸イオン
と燐酸イオンのアニオン交換を利用していること 7) に気付いた。同じ現象を砒酸イオンに適用
できるかも知れないと思いつき,直ちに実験した。その結果,ZS 中の硫酸イオンと水中の砒酸
イオンが極めて速やかにイオン交換し,すべての硫酸根が(条件によっては水酸基イオンも)交
換に関与することが明らかになった(図3)8)。本物質の交換容量,交換速度,交換平衡定数は
既存の除去剤の性能を大きく凌駕した。この物質はセレン,クロム,リン等の除去にも使うこ
とができる。
図3 ジルコニウムナノ構造体による水中砒酸イオンのアニオン交換除去
この研究でのブレークスルーは「アニオン交換のために多孔体化は必須ではない。ナノ構造
体でも交換は容易にすすむ」ことを着想・確認したことである。同様の反応を不定形混合物で
実施しても交換速度は極めて小さいので,このような特性は規則性ナノ構造体に特有の性質と
結論できる。これまで無機系のイオン交換材料といえば,活性炭,活性アルミナ等が代表的な
ものであったが,低交換容量,小さな除去平衡定数等を打破することが必要であった。ナノ構
造体はこの分野に新風を吹き込むものと期待している。
以上,本稿の主題とは直接関係しないが,第2章で述べた特性を活かすとどの様なことが可
能になるかを紹介した。
4.
シリカナノ多孔体の酸触媒特性の発見
他の反応を検討中,シリカ系ナノ多孔体がカルボニル化合物のアセタール化反応(式1)に
極めて高い触媒活性を示すことを偶然見いだした 9)。アセタール化反応はかなり強い酸の存在を
必要とする典型的な酸触媒反応であるので,アンモニア吸着後の赤外分光,昇温脱離法等でナ
ノ多孔体化による酸点の発現を検証したが,そのような活性点の生成は認められなかった。
5
2006.4
number 130
一方,同一原料から調製したシリカゲルではこの様な酸触媒活性が発現しないことを別途確認
した。これらの結果は,ナノオーダーで制御されたシリカ系多孔体が,細孔表面に従来の概念
の酸点を持っていないにもかかわらず,高度な酸触媒活性を発現していることを示している。
O
O
Me
O
Me
MeO
OMe
(式1)
M41 / 15 mg
MeOH
1.0 mmol
89% Yield(GC)
この反応を詳細に検討する過程で,細孔径によって反応速度が大きく変化し,細孔径が1.9 nm
で反応速度定数が最大になることを見出した(図4)10) 。シクロヘキサノン分子の直径が約
0.75 nmであることを考えると,この現象は従来の形状選択性概念では説明不可能である。現在,
本現象を「第4の形状選択性」11) と名付け,極めて弱い酸点の集合による酸性の発現の可能性
等を検討している。
図4 シクロヘキサノンのアセタール化活性とシリカM41触媒の細孔径の関係.
シクロヘキサノン2.0 mmol,メタノール5.0 ml,触媒30 mg,反応温度25℃. シリカ系ナノ多孔体が酸触媒活性を示すことは他の研究者も見出している 12-14) 。最も早くこの
特異性を報告したのはカナダの Kaliaguine のグループ 12) で,次いでヒューストン大学の Kevan
らが同様の結論に到達している 14)。両グループはそれぞれ B-M41,Ni-M41 の触媒特性を検討す
る際の基礎データとして M41 そのものの触媒特性を調べ, M41 の酸触媒活性に気付いている。
例えば,後者の場合,弱いながらもブテン異性化能が発現することを報告している。我々はか
なり遅れて別の反応で同様の触媒特性に気付いた訳だが,我々にとって幸いだったのはこれら
の先行グループがこの触媒特性の特異性/不思議さにそれほどの関心を示さず,継続的・発展
的な研究を行っていなかったことである。
6
2006.4
5.
number 130
M41の特異な酸触媒特性
5.1.向山−アルドール反応 (式2)
まず塩化メチレン中 0 ℃でベンズアルデヒドとシリルエノールエーテルの反応を検討したが,
目的生成物の収率は18%にしか過ぎなかった。これに対し,反応基質としてアセタールを用い
たところ65%の収率で生成物が得られた。求核試薬に対する反応性は一般にアルデヒド類の方
がアセタール類よりも高いこと,反応性の逆転はトリメチルシリルトリフラートや有機スズ
錯体を酸触媒とした場合 15) に限られ,報告例が極めて少ないこと,固体触媒であるモンモリロ
ナイト上でも両者の反応性は同等程度であること 16) を考えると,本触媒系の活性は極めて興味
深い。
R1CHO
OSiMe3
RO
or
+
OMe
R1
M41
R
O
(式2)
1
CH2Cl 2
OMe
反応時間や溶媒などの反応条件を最適化したところ,アセタール原料からの収率は84-97%に
達した(表2)17)。本触媒の場合,飽和ケトン対応のアセタールでも高収率で反応が進行した。
また,アセタールとアルデヒドの競争反応でもアセタール選択的に反応が進行した。アセター
ルの反応点が四級炭素であるにもかかわらずアセタール選択性が保持されたことは M41 上の
活性点の性質を考える上で注目すべき結果である。なお,本反応において触媒の回収再使用実
験を行ったところ,活性低下を伴うことなく5回目まで高収率で生成物を得ることができた。
表2 シリカM41上での向山―アルドール反応
Entry
Enolate
MCM-41
/ mg/mmol
Reaction
Conditions
3
1
30
0 °C, 6 h
6
1
50
25 °C, 12 h
1
30
25 °C, 12 h
1
50
25 °C, 3 h
Electrophile
Product
Yield(%)
OMe O
MeO OMe
1
Ph
H
OMe O
MeO OMe
2
Ph
84
Ph
H
64
Ph
OMe O
MeO OMe
3
90
OMe O
MeO OMe
4
8
Ph
Ph
93 97a
85 b 87c 90d
溶媒:トルエン
(entries 1 and 3)あるいはジクロロメタン(entries 2 and 4).
a 2回目の実験,b 3回目,c 4回目,d 5回目.
7
2006.4
number 130
次に,本触媒反応がM41 に特有であるかどうかを調べるため,メルク社製 Silica gel 60,M41
と同じ原料から水熱条件を経ずに合成したシリカゲルの活性を測定したところ,全て原料回収
であった。本研究で用いている M41 には原料由来の Al が極少量(Si/Al = 190 −280)含まれてい
るが,これが触媒活性点になっているのではなく,規則的な空孔構造が重要であることが結論
できる。
5.2.フリーデルクラフツアシル化反応 (式3)
フリーデルクラフツアシル化
(以下アシル化)
反応は芳香族ケトン合成法として重要であり18),
強力なルイス酸である塩化アルミニウムを用いて工業化されている。しかし,現在の工業プロ
セスは試薬量や廃棄物などの問題から固体酸触媒系への転換が強く求められている。我々は
M41の酸触媒特性の拡張を図る過程でこのアシル化反応を検討した 19)。メシチレン中180-210 ℃
でカルボン酸無水物を用いてアニソールの反応を行ったところ,アシル化生成物の収率が酸無
水物基準でほぼ200%に達した。溶媒としてはメシチレンが最適であったが,ドデカンやデカリ
ンのような飽和炭化水素類も160%以上の収率を与えた。これに対し,ニトロベンゼン等では
収率 100%を大きく超えることはなく,低極性溶媒が本反応に適していることがわかった。
さらにメシチレン中で触媒量の低減化を試みたところ,酸無水物1 mmolに対し M41を10-30 mg
用いるだけで充分な活性が得られた。 M41 には1 nm 2 あたり2-3個の表面水酸基が存在する。
これがすべて酸触媒活性点として作用していると仮定すると,ターンオーバー数は36と計算で
きる。
OMe
O
+
180 °C, 16 h
OH
1.0 mmol
O
O
M41 / 90 mg
C5H11
5.0 ml
C5H11
MeO
(式3)
85% Yield
低極性溶媒中でケトン収率が100%を超えたことは,酸無水物から二つの活性アシルカチオン
が生じていることを示唆している。そこでカルボン酸をアシル化剤とする反応を検討したとこ
ろ,ヘキサン酸等の各種カルボン酸が180 ℃でアニソールと円滑に反応し,目的生成物を高収
率で与えた(表3)。カルボン酸によるアシル化反応にはHZSM-5 やヘテロポリ酸などの固体超
強酸触媒系が活性であると報告されている 20)。M41 はこれらに匹敵する高い酸触媒活性を示す
ことが明らかである。
5.3.フリーデルクラフツアルキル化反応 (式4)21)
当初,アルキル化反応にM41 そのものが触媒活性を示すとは思えず,細孔内にスルホン基を
担持した M41 の触媒活性を検討していた。ところが,M41 のみを用いた実験を行った際,アル
コールによるアルキル化反応が効率よく進行することを見出した。様々なアルコールと芳香族
化合物の反応を検討し,三級アルコールを用いた場合には高収率で生成物を得ることができた。
8
2006.4
number 130
表3 カルボン酸を用いたフリーデルクラフツアシル化反応
O
O
C2H5
OH
C2H5
OH
C3H7
OH
C5H11
OH
C15H31
68
OMe
O
O
C5H11
33
OMe
O
O
C3H7
Isolated
Yield(%)
Product
Acid
85
OMe
4
O
O
C15H31
O
O
i
i
OH
C3H7
C3H7
68
OMe
O
O
76
OMe
OH
O
O
Ph
78
OMe
OH
Ph
66
OMe
M41 90 mg, 酸1.0 mmol, アニソール5.0 mmol, 無溶媒 , 180℃, 16 h.
反応性に劣る二級あるいは一級アルコールの場合には高温条件が必要であったが,いずれの場
合も対応するアルキル化生成物を良好な収率で得ることができた。この場合も,上節と同様,
M41 と同じ原料から調製したシリカゲルや市販のシリカゲルは全く活性を示さなかった。現時
点では直鎖型/分枝型異性体の選択性制御は不十分であるが,直鎖型アルキルベンゼンが優先
的に得られており,本触媒上ではカチオン転位はある程度抑制されているようである。
M41上で1-クロロオクタンによるメシチレンのアルキル化反応の経時変化を測定したところ,
直鎖型アルキル化体と分枝型アルキル化体が生成し,いずれも反応開始後2時間で最高収率に
達した後,分枝体のみが逐次分解した。分枝体は強酸によって逐次的に分解することが知られ
ているので 22) ,M41 上の強酸点を無効化すれば,分枝体の収率低下を防止できるかもしれない
と考え,種々の塩基性化合物の添加効果を検討した。その結果,含窒素化合物やニトロ化合物
が触媒活性を低下させることなく分枝体の分解を抑制出来ることを見出した。
1-C 8H17 Cl
+
or
1-C 8H17 OH
C2
C1
M41 / 100 mg
C7
C6
C3
C5
C4
(式4)
210 °C
9
2006.4
number 130
アミンを添加した場合の反応結果(24 h 値)を図5に示している。アルキル化体の総収率は,
アミン添加量40-50 µmol g −1 で一旦増加した後,添加量200 µmol g −1 付近までほぼ一定値を示
し,300 µmol g−1 添加で実質的にゼロになった。添加量が少ない領域での収率増加は分枝体の分
解が抑制されたためであり,300 µmol g −1添加で活性ゼロになったのはすべての酸点が無効化さ
れたためと考えている。塩基性添加剤が触媒活性点に1:1で吸着し活性を阻害していると仮定
すると,アルキル化反応活性点量は最大300 µmol g−1,分枝体分解活性点量は40 µmol g−1 と推
測される。M41 中のシラノール基数が約3 mmol g −1 であることを考えると,全シラノール基の
約10%がアルキル化反応活性点,約1.3%が分枝体分解活性点となっていることになる。後者の
量は不純物 Al 量(約66 µmol g −1)と相関しているかもしれない。
図5 フリーデルクラフツアルキル化反応に対するトリエチルアミンの添加効果.
M41 100 mg,n-C 8H17Cl 0.3 mmol,メシチレン2.0 ml,210℃,24 h.
6.
M41の酸触媒特性と金属イオンの組み合わせ
6.1.エチレンをプロピレンへ
上に述べたようにシリカナノ多孔体が極めて特異な酸触媒特性を示すことが明らかになった。
我々はこの酸触媒能と金属イオンを結びつければ新しい触媒機能が発現するのではないかと
考えた。
この着想に基づいて我々はエチレンの選択的二量化に活性な触媒の開発を計画した。
この反応は,工業的にはトリエチルアルミニウムやニッケル錯体を触媒として液相系で実施さ
れている 23)。しかし,これらの方法は高圧反応で操業コストが比較的高い,液相均一系プロセ
スであるため分離精製工程が複雑,逐次反応が進行しやすく分子量分布が広い等の欠点を抱え
ている。一方,尾崎らによって精力的に検討された Ni/SiO 2 触媒は気相流通系でこの反応に活性
を示す 24) が,活性劣化が激しく実用化できていない。そこで,我々はこの反応の触媒としてニッ
ケルイオン担持 M41(Ni-M41)を用いることにした。その際,二量化活性を改善するため反応
温度を上げ,反応系に水を添加した。
実験してみると高選択的に二量化反応が進行し,活性劣化もほとんど観測されなかった。と
ころが,Ni-M41 の特殊性はこれだけに止まらなかった。反応温度を変えてみると,驚いたこと
に400 ℃以上でプロピレンが主生成物となったのである。エチレンから直接プロピレンを生成
10
2006.4
number 130
する触媒は均一系,不均一系共に報告がなく,Ni-M41 が初めての例である。もちろん,同様の
反応はこれまでにも二三報告されているが 25),いずれも閉鎖型循環系で徐々に生成している例
であり,本研究のように常圧固定床式流通反応で連続生産とはなっていない。我々は直ちにエ
チレン→プロピレン(ETP)反応に注力することに方針を変更した。
反応機構についての知見を得るため,接触時間と転化率の関係を明らかにした。接触時間が
長くなるとプロピレン収量及び選択率が向上し,プロピレン生成反応は三量化生成物ヘキセン
のクラッキングあるいは生成ブテンとエチレンのメタセシスのいずれかを経由していると考え
られた。そこで基質をヘキセン,エチレン+ブテンとした実験を行ったところ,後者の実験で
プロピレンが選択的に生成した。さらに,プロピレンを基質として Ni-M41 上に流したところ,
300 ℃以上でエチレンとブテンが1:1で生成した。以上の結果から,本反応はエチレンの二量
化による1-ブテンの生成( Ni 上),1-ブテンの2-ブテンへの異性化( M41 の固体酸点上),2-ブ
テンとエチレンのメタセシスによるプロピレンの生成(Ni 上)という逐次機構で進行している
と考えた(図6)。一般にメタセシスは Mo,W,Re 等を活性種とする触媒で促進されることが
知られている 26) が,Ni イオンが活性を示すという知見は全くない。これは,これらの金属イオ
ンとは全く異なる条件で本実験が行われているためであろう。即ち,これまで400 ℃,気相流
通反応という条件下でメタセシス反応が検討されたことがないため,本触媒反応の発見が遅れ
たと思われる。
現在,石油化学はエチレン中心からプロピレン中心に大転換している最中である 27)。現有の
石油化学システムを有効に活用するためにはなんとかしてエチレンを選択的にプロピレンに転
換する必要がある。我々が見出した新触媒反応はこの大転換において画期的な機能を提供でき
ると考えている。
図6 Ni イオン担持 M41 上でのエチレン転化機構
6.2.オレフィンのシスジヒドロキシル化 (式5)28)
非常に荒っぽい捉え方であるが,均一系錯体触媒の場合は活性点の周りの構造を360度制御
して初めて選択的な触媒となりうる。それに対し,固体表面の LH 反応では基質の攻撃方向は
180度程度に限定される。また,表面(あるいは触媒活性点)との相互作用がうまく働けば,均
一系では存在が困難な中間体が安定化されることがあるかもしれない。以前からこの相違を
11
2006.4
number 130
固体触媒のアドバンテージに結びつけたいと考えていた。本研究で見出されたシリカメゾ多孔
体 M41 の酸触媒特性はこの考えを具現化する格好の素材であるように思えた。この概念に基づ
いて M41 存在下で V2O5/aq.H 2O2 によりスチレン誘導体の酸化的水和を行ったところ,エポキシ
ド中間体が M41 上で逐次的に水和され,cis ジオールが選択的に得られる事を見出した。炭素−
炭素二重結合を選択的に cisジヒドロキシル化するのは一般に困難であるので,この点について
詳細な検討を行った。
V ion (12 µmol)
M41(100 mg)
aq. H2O2 (1 eq.)
1,4-Dioxane (2.0 mL)
r.t. 12 h
OH
O
OH
OH
OH
(式5)
cis-diol
trans-diol
まず,1-(p-ブロモフェニル)シクロヘキセンを基質とし1,4-ジオキサン中で水の添加量依存性
を検討した。水の添加量が少ないほどcis 選択性が向上し,添加した基質とほぼ等量の水を用い
た時,最も高い82%cis体過剰率(de)でジオールが得られた。次に,溶媒効果を検討し,トルエ
ンやジクロロメタンのような低極性溶媒中では1,4-ジオキサンと同様あるいはそれ以上の高い
cis 選択性が得られることが明らかとなった。一方,溶媒の極性が上がると cis 選択性が低下し,
アセトンではジアステレオ選択性が認められなかった。配位性の強いアセトンが水の本来の攻
撃面に配位したため選択性が失われたと考えている。
酸化的水和反応に対する様々なフェニルシクロヘキセン誘導体の反応性を測定し,置換基の
電子的性質とジアステレオ選択性の関係を考察した(図7)。均一系酸触媒反応では置換基定数
(σ)に対してcis 体過剰率をプロットすると,電子吸引性置換基ほど trans 体生成が有利になり,
σ と de%は負の線形性を示すことが既に報告されている 29)。これに対し,本触媒系では置換基
の性質によらず高い cis 選択性が得られた。これは,通常の酸触媒反応系では不安定なカチオン
性中間体が M41 内部で安定化され,すべての基質でアキシャル攻撃が優先的に起こるように
なったためと考えている。
図7 置換基定数によるシスジヒドロキシル体の選択性の変化.
基質:フェニルシクロヘキセン誘導体,触媒:(■)M41,(□)H2SO4.
12
2006.4
7.
number 130
おわりに
一時期,規則性ナノ空間物質の特異性に注目が集まり,幾多の研究が行われた。しかし,そ
の多くが既存の材料の大表面積代替物質として利用する,転写材料の鋳型として用いる,形の
揃った担体あるいは大分子の反応場として用いる等にとどまっていたように思う。また,ナノ
空間物質の合成に関しても,その形態の面白さにとらわれ過ぎているきらいがあったように感
じる。ナノ空間物質固有の特性の発見・利用を主眼に据えている研究者,機能創造の観点から
形態と構成物質を工夫するという研究方法をとっている研究者はそれほど多くなかったのでは
ないだろうか。
本稿では「ナノ空間触媒化学/機能化学」とも言える新しい研究分野が存在していること,あ
るいはその様な分野を新たに切り開くことが極めて重要であることを示してきた。規則性ナノ
空間はこれまで知られていなかった「不思議空間」であり,極めて興味ある事象が横たわって
いる新研究分野である。ナノ空間物質の活用によって,これまで未踏であった固体触媒による
不斉合成 3-5),均一系を越える超選択的不均一系触媒反応,メゾ構造に基づく新しい光・電気・
磁気物質の創出 30,31) ,新規な特性を持つ吸着剤やイオン交換体の開発 7,8) 等,基礎・応用両面の
研究が進むものと考えている。本分野の研究は,新しい学問領域の開拓に資することはもちろ
ん新しい産業技術の興隆を誘起するものと期待している 32) 。
謝辞 本研究は科学研究費補助金,CREST 等の研究補助金によって実施した。また,本稿中第
3章3.1と第4章は田中康裕助手(現在,宇部興産)
,第5章と第6章6.2は石谷暖郎講師,第
6章6.1の一部は山本孝助手との共同研究の成果である。ここに記し,謝意を表する。
参考文献
1)
2)
A. Corma, Chem. Rev., 97, 2373 (1997); G. Soler-Illia, C. Sanchez, et. al., Chem. Rev., 102, 4093 (2002).
岩本正和 , 触媒 , 41, 31 (1999); 有機合成化学協会誌 , 62, 411 (2004); ペトロテック , 27, 628 (2004);
化学と工業 , 58, 545 (2005).
3) M. Iwamoto, Y. Tanaka, Catal. Surv. from Jpn., 5, 25 (2001).
4) M. Yonemitsu, Y. Tanaka, M. Iwamoto, J. Catal., 178, 207 (1998).
5) M. Iwamoto, Y. Tanaka, J. Hirosumi, N. Kita, Chem. Lett., 2000, 226; M. Iwamoto, Y. Tanaka, J. Hirosumi,
N. Kita, S. Triwahyono, Micro. Meso. Mater., 48, 271 (2001).
6) M. Iwamoto, T. Abe, Y. Tachibana, J. Mol. Catal. A, 155, 143 (2000).
7) P. Wu, M. Iwamoto, Chem. Lett., 27, 1213 (1998); P. Wu, M. Iwamoto, Chem. Mater., in press.
8) M. Iwamoto, H. Kitagawa, Y. Watanabe, Chem. Lett., 31, 814 (2002); H. Takada, Y. Watanabe, M. Iwamoto,
Chem. Lett., 33, 62 (2004).
9) Y. Tanaka, N. Sawamura, M. Iwamoto, Tetrahedron Lett., 39, 9457 (1998).
10) M. Iwamoto, Y. Tanaka, N. Sawamura, S. Namba, J. Am. Chem. Soc., 125, 13032 (2003).
11) 第一,第二,第三の形状選択性は,細孔内へ基質が入れない,生成物が細孔から出られない,
ある特定の中間体が細孔内で形成されないために発現する。主にゼオライト化学で使われている
用語。
13
2006.4
number 130
12) D. Trong, P. N. Joshi, G. Lemay, S. Kaliaguine, Stud. Sur. Sci. Catal., 97, 543 (1995).
13) M. Hartmann, A. Poppl, L. Kevan, J. Phys. Chem. , 100, 9906 (1996).
14) T. Yamamoto, T. Tanaka, T. Funabiki, S. Yoshida, J. Phys. Chem. B, 102, 5830 (1998); A. Ito, T. Kodama,
S. Maeda, Y. Masaki, Tetrahedron Lett., 39, 9461 (1998).
15) S. Murata, M. Suzuki, R. Noyori, Tetrahedron, 44, 4259 (1988); T. Sato, J. Otera, H. Nozaki, J. Am. Chem.
Soc., 112, 901 (1990); J.-X. Chen, K. Sakamoto, A. Orita, J. Otera, Tetrahedron, 54, 8411 (1998).
16) M. Kawai, M. Onaka, Y. Izumi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 61, 1237 (1988).
17) H. Ishitani, M. Iwamoto, Tetrahedron Lett., 44, 299 (2003).
18) G. A. Olah, “Friedel-Crafts and Related Reactions”, Willey, New York, 1963.
19) 石谷暖郎 , 内藤弘祥 , 岩本正和 , 触媒 , 45, 522 (2003).
20) 例えば (a) O. L. Wang, Y. Ma, X. Ji, H. Yan, Q. Qiu, J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1995, 2307. (b) J.
Kaur, I. V. Kozhevnikov, J. Chem. Soc., Chem. Commum., 2002, 2508. (c) M. Hino, K. Arata, J. Chem.
Soc., Chem. Commun., 1985, 112.
21) 石谷暖郎 , 沖田充司 , 岩本正和 , 触媒 , 47, 467 (2005).
22) S. H. Sharman, J. Am. Chem. Soc., 84, 2945 (1962); R. M. Roberts, E. K. Baylis, G. J. Fonken, J. Am.
Chem. Soc., 85, 3454 (1963).
23) 石油学会編 , “ 石油化学プロセス ”, 講談社 , pp 31-37, (2001); 化学と工業 , 56, 29 (2003); A. M.
Al-Jarallah, M. A. B. Siddiqui, A. M. Aitani, A. W. Al-Sa’doun, Catal. Today, 14, 1 (1992); T. Cai, Catal.
Today, 51, 153 (1999).
24) 斯波忠夫 , 尾崎萃 , 日本化学会誌 , 74, 295 (1953); J. R. Sohn, A. Ozaki, J. Catal., 59, 303 (1979).
25) P. P. O’Nill, J. J. Rooney, J. Am. Chem. Soc., 94, 4383 (1972); T. Yamgaguchi, Y. Tanaka, K. Tanabe, J.
Catal., 65, 442 (1980).
26) R. H. Grubbs Ed., “Handbook of Metathesis”, Wiley-VCH Verlag BmbH & Co., Weinheim, 2003.
27) 経済産業省, 世界の石油化学製品の今後の需給動向 (2004); 石井啓介, ロナルド・M・ベナー, フレッ
ド・D・ガードナー , ペトロテック , 26, 484 (2003).
28) 門間裕史 , 石谷晴郎 , 岩本正和 , 第96回触媒討論会 A, 3J20 (2005).
29) L. Doan, D. Whalen, J. Org. Chem., 64, 712 (1974).
30) A. Taguchi, T. Abe, M. Iwamoto, Adv. Mater., 10, 667 (1998); Micro. Meso. Mater., 21, 387 (1998).
31) H. Okada, N. Nakajima, T. Tanaka, M. Iwamoto, Angew. Chem. Int. Ed. , in press.
32) 岩本正和 , 実験化学講座 , 28, pp 77-93 (2005).
(Received Jan. 2006)
執筆者紹介
岩本 正和 (Masakazu Iwamoto)
東京工業大学 資源化学研究所
副所長 教授
[ご経歴] 1971年 九州大学工学部応用科学科卒業,1976年 九州大学大学院工学研究科博
士課程修了。長崎大学助手,講師,助教授,宮崎大学教授,北海道大学教授を経て,2000年
より現職。日本化学会進歩賞,学術賞,化学技術賞,触媒学会奨励賞,学会賞,市村学術賞,
英国王立機械学会 Crompton Lanchester Medal 等を受賞。
[ご専門] ナノ空間化学,固体触媒化学。
14
2006.4
number 130
シリル化剤 / A Mild and Powerful Silylating Agent
B2697
tert-Butyldimethylsilyl N-Phenylbenzimidate (1)
5g 17,200円
OSiMe 2tBu
Ph
N
Ph
1
(1.5 eq.)
OSiMe2tBu
PyH OTf
(cat.)
THF, 25 °C, 30 min
OH
Y. 99%
1は田辺らにより開発された強力なシリル化剤です。誘発剤として触媒量のピリジニウムトリ
フラートを用いることにより温和な条件下,第三級アルコールに対しても反応が進行し,定量
的にシリル基を導入することができます 1a)。また,アルデヒドとの反応ではDBU を触媒として
用いることにより,効率的にシリルエノールエーテルを得ることができます 1b)。
文 献
1) A mild and powerful silylating agent
a) T. Misaki, M. Kurihara, Y. Tanabe, Chem. Commun. , 2001, 2478.
b) Y. Tanabe, T. Misaki, M. Kurihara, A. Iida, Y. Nishii, Chem. Commun. , 2002, 1628.
c) 田辺 陽 , 御前智則 , 飯田 聖 , 西井良典 , 有機合成化学協会誌 , 62, 1249 (2004).
関連製品
P1627
D1270
Pyridinium Trifluoromethanesulfonate
1,8-Diazabicyclo[5.4.0]-7-undecene (DBU)
5g 5,700円
500g 16,500円 25g 2,000円
選択的保護剤 / Selective Protection
D2915
4-(Dimethylamino)-1-(triphenylmethyl)pyridinium Chloride
(contains 5% Dichloromethane at maximum) (1)
5g 10,300円
NMe2
Cl
N
OH
Tr
OH
OH
1
OTr
CH2 Cl2, 25 °C, 16 h
Y. quant.
Tr : trityl group
1 は水酸基,アミノ基の保護剤で,その反応性は反応溶媒の極性に大きく依存します。例え
ば,ジクロロメタン中で1,4- ジヒドロキシペンタンと反応させた場合,第1級アルコールのみ
にトリチル基を導入することができます。この反応は定量的に進行するため,温和な,そして
選択的な第1級アルコール保護法です。また,DMF中でセリンエチルエステルと反応させると,
N- トリチル体のみが得られます。
文 献
1) Protection of alcohols and amines
A. V. Bhatia, S. K. Chaudhary, O. Hernandez, Org. Synth. , 75, 184 (1998).
O. Hernandez, S. K. Chaudhary, R. H. Cox, J. Porter, Tetrahedron Lett., 22, 1491 (1981).
15
2006.4
number 130
求電子的ハロゲン化剤 / Electrophilic Halogenations
B2358
B2359
Bis(2,4,6-trimethylpyridine)bromonium Hexafluorophosphate (1)
1g 6,800円
Bis(2,4,6-trimethylpyridine)iodonium Hexafluorophosphate (2)
5g 12,800円 1g 4,800円
Br
OH
Me
Me
N
Me
OH
1 (3 eq.)
X
PF6
CH2 Cl2
N
2
Br
Br
2
OH
1: X = Br
2: X = I
N
Y. 95%
O
CH2 Cl2, r.t., 1 h
I
Y. 95%
ブロモニウム塩 1,ヨードニウム塩 2は求電子的ハロゲン化剤 1) で,ピリジノール 2) ,フェノー
ル 3) などに直接ハロゲンを導入することができます。また,環状エーテル 4) ,ラクトン環5)の構
築などにも利用されています。通常のハロゲン化剤では困難な反応を温和な反応条件下で行う
ことができ,多方面での利用が期待されています。
文 献
1) Review
F. Homsi, S. Robin, G. Rousseau, Org. Synth., 77, 206 (2000).
2) Halogenation of pyridinols
G. Rousseau, S. Robin, Tetrahedron Lett., 38, 2467 (1997).
3) Halogenation of phenols
Y. Brunel, G. Rousseau, Tetrahedron Lett., 36, 8217 (1995).
4) Preparation of cyclic ethers
Y. Brunel, G. Rousseau, J. Org. Chem ., 61, 5793 (1996).
5) Preparation of lactones and lactams by electrophilic cyclizations
F. Homsi, G. Rousseau, J. Org. Chem. , 63, 5255 (1998).
6) Others
F. Homsi, G. Rousseau, Tetrahedron Lett., 40, 1495 (1999).
Y. Brunel, G. Rousseau, Tetrahedron Lett., 36, 2619 (1995).
ヒドロほう素化試薬 / Hydroborating Agent
B2410
9-Borabicyclo[3.3.1]nonane Dimer (1)
10g
17,900円
H
B
B
H
1
1 は9- BBN ダイマーと呼ばれ,選択的なヒドロほう素化試薬としてアルケン,アルキンのア
ンチ−マルコフニコフ型ヒドロほう素化 1a) やアルデヒド,ケトンの選択的還元 1b),含ほう素複
素環形成反応 1c) など,多方面で利用されています。
文 献
16
1) 9-BBN dimer in organic synthesis
a) C. G. Scouten, H. C. Brown, J. Org. Chem. , 38, 4092 (1973).
b) H. C. Brown, S. Krishnamurthy, N. M. Yoon, J. Org. Chem. , 41, 1778 (1976).
c) H. C. Brown, G. G. Pai, J. Organomet. Chem., 250, 13 (1983).
number 130
2006.4
多置換オレフィンのワンポット合成 /
One-pot Synthesis of Multisubstituted Olefin
T2297
4,4,5,5-Tetramethyl-2-vinyl-1,3,2-dioxaborolane (1)
Ar2
X'
(1.1 eq.)
Ar1 X
(2.0eq.)
O
B
Pd[P(tBu)3 ]2
i
Pr2NH (4.0
(5%),
eq.),
toluene
O
1
O
1g 16,300円
Ar1
NaOH (5.0 eq.),
H 2O (3.0 eq.)
Ar2
1
Ar
B
Ar1
O
Ar2Br2 (0.5 eq.)
Ar1
NaOH (10 eq.),
H2O (8 eq.)
Ar1
Ar1
2
Ar
Ar1
Ar1
1は溝呂木−ヘック反応などに用いられるビニル基と,鈴木−宮浦クロスカップリング反応に
用いられるボロン酸エステルを併せ持つ二官能性化合物です 1) 。近年,吉田らは 1 を用いた
多置換オレフィンのワンポット合成法を報告しています 2) 。それによると,パラジウム触媒
Pd[P(t-Bu)3]2 と塩基 i-Pr2NH の存在下,2等量のアリールハライドを反応させると溝呂木−ヘッ
ク反応が進行し,2,2-ジアリール体が生成します。次いで,アリールハライドと水酸化ナトリウ
ムを加えると鈴木−宮浦クロスカップリング反応が進行し,トリアリールエテンが得られます。
本法は拡張 π 電子系化合物の構築法として有用であり,EL材料を始めとする機能性材料合成
への応用が期待されます。
文 献
1) Heck reaction vs Suzuki Pd catalysed cross-coupling of a vinylboronate ester with aryl
halides
A. R. Hunt, S. K. Stewart, A. Whiting, Tetrahedron Lett., 34, 3599 (1993).
2) Rapid construction of multisubstituted olefin structures
K. Itami, K. Tonogaki, Y. Ohashi, J. Yoshida, Org. Lett., 6, 4093 (2004).
ホスフィン配位子 / Useful Phosphine Ligand
B2711
1,1'-Bis(di-tert-butylphosphino)ferrocene (1)
1g 26,800円 100mg 5,200円
PtBu2
Fe
PtBu2
NH2
+
N
Cl
1
B(OH)2
NH2
(5 mol%), Pd(OAc)2 (5 mol%), K3 PO4 (2 eq.)
1,4-dioxane, reflux
N
Ph
Y. 93%
1 はフェロセン骨格にジ- tert-ブチルホスフィノ基を2つ有する二座配位子で,遷移金属と安
定な錯体を形成します。これらの錯体は均一系遷移金属錯体触媒として種々の反応に用いられ
ています。伊藤らは 1 とパラジウムの錯体を2-クロロアミノピリジン類とフェニルボロン酸の
鈴木−宮浦反応に用い,良好な収率で2-フェニルアミノピリジン類を得ています 1a)。この反応
はアミノ基を保護することなく進行し,アミノ基置換含窒素ヘテロ環に芳香環を導入する簡便
な方法といえます。この方法を用いて C-2- アリールプリン 1b)などの合成が報告されています。
文 献
1) Direct synthesis of hetero-biaryl compounds containing an unprotected NH 2 group
via Suzuki-Miyaura reaction
a) T. Itoh, T. Mase, Tetrahedron Lett., 46, 3573 (2005).
b) T. Itoh, K. Sato, T. Mase, Adv. Synth. Catal., 346, 1859 (2004).
17
2006.4
number 130
チオグリコシド / Thioglycosides
I 0328
M1626
M1628
M1649
M1682
M1501
M1706
P1477
P1475
P1476
HO
Isopropyl 1-Thio- - D-galactopyranoside (1) 5g 16,400円 1g 5,700 円
Methyl 2,3,4-Tri-O-acetyl-1-thio- -L -fucopyranoside (2)
1g 17,500円
Methyl 2,3,4-Tri-O-benzyl-1-thio- -L -fucopyranoside (3)
1g 29,500円
Methyl 3,4,6-Tri-O-acetyl-2-deoxy-2-phthalimido-1-thio-D -glucopyranoside (4)
5g 52,700円 1g 13,900円
Methyl 2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-1-thio- - D-glucopyranoside (5)
5g 37,300円 1g 10,900円
Methyl 2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-1-thio- -D-mannopyranoside
(contains ca. 5% -isomer) (6)
5g 47,400円
Methyl 5-Acetamido-4,7,8,9-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy2-S-phenyl-2-thio- D-glycero-D-galacto-2-nonulopyranosylonate (7)
1g 40,000円
Phenyl 2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-1-thio- -D-galactopyranoside (8)
5g 28,700円
Phenyl 4,6-O-Benzylidene-1-thio- -D-glucopyranoside (9)
5g 43,000円
Phenyl 2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-1-thio- - D-glucopyranoside (10)
5g 22,400円
OH
O
HO
S
HO
CH3
CH3
CH3
AcO
O
CH3
OAc
I0328 (1)
AcO
AcO
SCH3
OAc
BnO
OAc
O
AcO
AcO
AcO
SCH3
Ph
SPh
AcO
P1477 (8)
AcO
OAc
O
O
O
HO
OAc
SPh
O
COOCH3
AcO
M1706 (7)
O
SPh
P1475 (9)
SCH3
M1649 (4)
AcO
AcHN
HO
OAc
O
PhthN
M1501 (6)
OAc
O
AcO
AcO
AcO
M1628 (3)
SCH3
M1682 (5)
SCH3
OBn
OBn
M1626 (2)
AcO
AcO
O
AcO
AcO
OAc
O
SPh
AcO
P1476 (10)
チオグリコシドのアノメリック炭素−硫黄結合は,多くの糖水酸基の保護,脱保護条
件下,安定で,一般的なグリコシル化条件にも不活性であるため,糖受容体として用い
られています。また,ジメチルメチルチオスルホニウムトリフラート,メチルトリフラー
ト,
N-ヨードこはく酸イミド/トリフルオロメタンスルホン酸などの活性化剤を作用させ
ることにより,糖供与体として利用できます。このようにチオグリコシドは目的に応じ
て糖受容体,糖供与体として利用可能であるため,オリゴ糖や糖鎖合成のビルディング
ブロックとして有用な化合物です。
文 献
18
1) Glycosylation using thioglycosides
蓮岡 淳 , 木下郁子 , 深瀬浩一 , 楠本正一 , 天然有機化合物討論会講演要旨集 , 34, 9
(1992).
杉村秀幸 , 野口研究所時報 , 35, 5 (1992).
伊藤幸成 , TCIメール , 108, 2 (2000).
2006.4
number 130
ペンタエリトリトール誘導体 / Pentaerythritol Derivative
B2682
5,5-Bis(hydroxymethyl)-2-phenyl-1,3-dioxane (1)
C12H25O
O
5g
O
OC12H25
O
O
O
O
OH
O
OH
1
18,300円
OH
OH
OH
C12H25O
O
O
O
C12H25O
O
O
O
O
O
O
OH
OH
O
OH
C12H25O
OH
OH
O
OC12H25
モノベンジリデン保護ペンタエリトリトール 1 は,2官能性ビルディングブロックとして機
能します。例えば,1 を出発物質として,極性の脂肪族部位と非極性の芳香族部位の二面性を有
するヤヌス型デンドリマーが合成されています 1) 。また,スピロクラウンエーテル,スピロアザ
クラウンエーテルの架橋部位にも用いられています 2)。
文 献
1) Bisfunctionalized Janus Molecules
J. Ropponen, S. Nummelin, K. Rissanen, Org. Lett., 6, 2495 (2004).
2) Synthesis of spiro crown ethers and spiro aza crown ethers
a) E. Weber, J. Org. Chem., 47, 3478 (1982).
b) P. R. Ashton, T. Horn, S. Menzer, J. A. Preece, N. Spencer, J. F. Stoddart, D. J. Williams,
Synthesis, 1997, 480.
c) Q. Wang, S. Mikkola, H. Lönnberg, Tetrahedron Lett., 42, 2735 (2001).
アゾフェノール色素クラウンエーテル /
“Crowned”Dinitrophenylazophenols
C1942 15-Crown-4 [4-(2,4-Dinitrophenylazo)phenol] (1a) 100mg 15,700円
C1943 18-Crown-5 [4-(2,4-Dinitrophenylazo)phenol] (1b) 100mg 15,700円
n O
O2N
O
HO
O
O
N N
NO2
1a n=1
1b n=2
1 はアゾ色素基を有するクラウンエーテルで,フェノール性水酸基がクラウンエーテル環の
空孔内に向いて配向した構造をしています。 1 は適切な溶媒と塩基の存在下,アルカリ金属
イオン,アルカリ土類金属イオンと錯体を形成し,金属イオン特有の呈色,吸収スペクトルを
示し,比色定量や分光光度分析に有用です 1)。ことに,1a はピリジン−クロロホルム系でリチ
ウムイオンと選択的かつ高感度で錯化するため,多数のアルカリ金属イオンの存在下,リチウ
ムイオンの比色定量分析が可能です 2)。
文 献
1) “Crowned” dinitrophenylazophenols
a) K. Sugihara, T. Kaneda, S. Misumi, Heterocycles, 18, 57 (1982).
b) K. Nakashima, S. Nakatsuji, S. Akiyama, T. Kaneda, S. Misumi, Chem. Pharm. Bull. , 34, 168
(1986).
c) 兼田隆弘 , 三角荘一 , 生産と技術 , 34, 45 (1982).
2) Lithium ion-characteristic coloration
T. Kaneda, K. Sugihara, H. Kamiya, S. Misumi, Tetrahedron Lett., 22, 4407 (1981).
19