通知の処分性

自 治 判 例 情 報
伊藤綜合法律事務所 弁護士 伊藤 義文
通知の処分性 (土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件)
最高裁判所平成24年2月3日第二小法廷判決(平成23年(行ヒ)第18号)
(民集 第66巻2号148頁・判例地方自治355号35頁)
(A:法務課長、B:課員)
嬉寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄岐
希(事案の概要)
希
希 土壌汚染対策法3条2項は、都道府県知事が、有害物質使用特定施設(水質汚濁防止法10条所定の特 希
希 定施設に該当するものに限る。)の使用廃止の届出を受けた場合その他有害物質使用特定施設の使用が廃 希
希
希
希 止されたことを知った場合に、当該施設の設置者以外の者が土地所有者等である場合には、当該土地の 希
希 所有者等に対し、有害物質使用特定施設の使用が廃止された旨等を通知するものとしている。
希
希 Xは、中核市であるY市内の土地を所有していた。訴外会社Dは、この土地上に特定有害物質である 希
希 テトラクロロエチレンを使用する有害物質使用特定施設である洗浄施設(クリーニング工場)を設置し 希
希
希
希 ていたが、後日これを廃止した。
希
当該施設の廃止を確認したY市は、敷地の所有者Xに対し「土壌汚染対策法第3条第2項に基づき、
希
希
希 次のとおり通知します。これにより、同法第3条第1項の規定による土壌汚染状況調査の義務が生じま 希
希 したので、下記に示す期限までに土壌汚染対策状況調査結果報告書を提出してください。」などと記載さ 希
希 れた「有害物質使用特定施設の使用廃止等について(通知)」と題する書面(以下「本件通知」。)をX 希
希
希
希 に送付し、Xはこれを受領した。Xがこの通知に対し、行政事件訴訟法に基づき処分取消訴訟を提起し 希
希 た。
希
幾寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄忌
(B)この事件では、本件通知が行政事件訴訟法3条2項にいう「処分その他の公権力の行使にあたる行為」
にあたるかどうかが争われていますが、そもそもこの「処分」というのはどのような意味で用いられて
いるのですか。
(A)改正前の行政事件訴訟法にいう「処分」について、最高裁判所は、
「公権力の主体たる国または公共団
体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定すること
が法律上認められているもの」としている(最高裁昭和3
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年1
0
月2
9
日第一小法廷判決民集1
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巻8号1
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0
9
頁等)。典型的なものでいえば、地方税をかけるときの賦課決定(地方税法1
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条の4第1項1号参照)や、
都市計画法上の監督処分(8
1
条)がこれにあたるね。
(B)本件通知は、いわゆる「観念の通知」に過ぎず、「処分」とは言えないのではないですか。
(A)この判決では、本件通知を受けた土地の所有者等は、その日から原則として1
2
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日以内に、特定有害物質
による汚染の状況について、環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて、都道府県知事に所
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自治判例情報
定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならないという法令上の義務を生じること
となって、その者(本件ではX)の法的地位に直接的な影響を及ぼすことから、本件通知は「観念の通
知」ではなく、「処分」にあたるとしているんだ。
(B)通知等が「処分」に該当するとした事例として、他にどのようなものがありますか。
(A)例えば源泉徴収による所得税についての税務署長による納税の告知(最高裁昭和45
年1
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月2
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日第一小法
廷判決民集2
4
巻1
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号2
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頁)、平成9年法律第1
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号による改正前の医療法3
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条の7に基づき都道府県知
事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告(最高裁平成1
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年7月1
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日民集5
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巻6
号1
6
6
1
頁)などについて、それぞれ処分性が認められている。
(B)本件通知があった後、期限までに報告をしない場合、都道府県知事はさらに報告を行うべきことを命じ
ることができて(土壌汚染対策法3条3項)、さらにこの命令に違反した者については罰則が定められて
います。この命令を取消訴訟の対象とすれば十分なのではないですか。運用上、この命令が期限後すぐ
になされるというわけでもないと思われますし。
(A)この事案でも最高裁はその方法を否定はしていない。しかしながら、本件通知によって求められる土壌
汚染調査には専門的な知識等が必要で、しかも環境大臣が指定する者に環境省令で定められる方法で調
査をさせる必要があり、その費用も高額になると見込まれる。そうすると、本件通知を受けた土地所有
者等にとっては、こうした重い内容の義務を指定された期限内に履行するか否かの判断を迫られ、また、
その土地の利用、処分等について事実上の制約を受けてしまい、土地所有者等は非常に不安定な地位に
置かれることになってしまうんだ。
(B)形式的に「通知」や「指導」ということになってはいても、それが行政処分にあたる可能性を検討しな
ければならないということですね。
(A)そうだね、その場合「通知」や「指導」をめぐる仕組み全体、特にその効果あるいは名宛人の法的地位
に与える影響をきちんと理解した上で解釈する必要があるね。
(B)行政機関の行為が「処分」と解釈された場合、どのような点に注意する必要があるのですか。
(A)この判決でも問題になったとおり、行政事件訴訟法に基づく処分取消訴訟の対象となるということだけ
ではないんだ。例えば行政手続法2条2号は、
「処分」について、行政事件訴訟法と同一の文言で定義
している。そうすると、その処分がさらに「不利益処分」
(行政手続法2
条4
号)に該当する場合には、聴
聞または弁明の機会の付与が必要とされる(行政手続法1
3
条)。また、同法は、不利益処分について名宛
人に対してその理由を示さなければならないとしている(1
4
条1項)。
さらに、行政不服審査法2
条1
項にいう「処分」も、行政事件訴訟法にいう「処分」と重なる部分がある
ことから、審査請求又は異議申立ての対象になることも考えられる。この場合、行政不服審査法は、処
分の名宛人に対して、その処分について不服申し立てをすることができる旨、不服申し立てをすべき行
政庁、そして不服申立てをすることができる期間を原則として書面で教示しなければならないとしてい
るね。
(B)行政手続法や行政不服審査法が要求する要件を満たすように文書を作成しないと、その不備自体が処分
取消しの原因となってしまうということですね。よく分かりました。
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