たとえ落ちたとしても、大事に至らない天井

科学コミュニケーターによる天井修復レポート③
2011 年 5 月 6 日掲載
「たとえ落 ちたとしても、大 事 に至 らない天 井 」
― その答 えは、軽 くて柔 軟 な「膜 」
日 本 科 学 未 来 館 の天 井 は、これまでにもレポートしてきたとおり、一 部 が崩 落 してしま
いました。しかし、一 度 落 ちてしまった天 井 を、そのまま元 に戻 すのでは、また同 じ危 険 な
事 態 を招 きかねません。そのような天 井 のあるエントランスホールでは、来 館 者 の皆 様 も
不 安 に思 うでしょう。皆 様 の身 を守 る「安 全 」なだけでなく、皆 様 が「安 心 」できる天 井 と
は、どのようなものなのか。そこで私 たちは、「たとえ落 ちたとしても、大 事 には至 らない天
井 」という考 えを推 し進
1
め、1 つの答 えにたどり着
きました。それは「膜 天
井 」というものです。
そもそも天 井 とは、何
のためにあるのでしょう。
天 井 の裏 には、配 管 や
配 線 、ダクトなどがあり、
場 合 によっては照 明 や空
調 設 備 、音 響 設 備 など
が設 置 されています。天
井 にはこれらを隠 してデ
ザイン性 を高 めつつも、
天井の張り替えのために剥がした石膏ボード
同 時 に耐 火 性 能 など、機 能 との両 立 が求 められます。一 般 的 には、軽 量 な金 属 製 下 地
と不 燃 性 の石 膏 ボードによる「吊 り天 井 」が用 いられています。
「安 全 」かつ「安 心 」な天 井 にするための一 番 簡 単 な選 択 肢 は、そもそもの天 井 を外 し
てしまうも の。落 ちてくるものがなければ、安 全 だということです。ただ、これでは配 管 など
が丸 見 えになるため、見 映 えが非 常 に悪 くなります。次 に、元 からある天 井 の下 に「落 下
防 止 ネ ッ ト」を張 る という方 法 。 天 井 が 崩 れ たり懸 垂 物 が 落 ち た場 合 には 、 ネ ッ ト が受 け
止 めてくれます。この手 法 は、パリのシャルル・ド・ゴール空 港 の天 井 仕 上 げの落 下 防 止
などに採 用 されています。
し か し 、 今 回 の 未 来 館 に お け る 天 井 の修 復 に は 、 東 京 大 学 生 産 技 術 研 究 所 の 川 口
2
健 一 先 生 のアドバイスを受 け、これ
までとは異 なる手 法 を選 択 しまし
た。それは、グラスファイバーの織
布 を樹 脂 コーティングした「膜 」で天
井 を張 るというもの、すなわち「膜
天 井 」です。
膜 天 井 の特 徴 としては、まずそ
の軽 さが挙 げられます。従 来 用 い
られてきた石 膏 ボードの天 井 は重
さが 1 m 2 あたり 15 kg であるのに対
し、 膜 天 井 は金 属 の格 子 を 含 めて
もその数 分 の 1 と大 幅 に軽 くなりま
す。これなら天 井 を支 える構 造 物
への負 担 は小 さくなって落 ちる危
険 性 は減 り、また万 が一 落 ちたとし
ても軽 量 である分 、人 的 被 害 は少
なくなります。
また、膜 は軽 いだけでなく柔 軟 な
構 造 であるため、地 震 による「変
形 」や「衝 突 」にも非 常 に強 いので
す。これまでの面 積 の大 きい天 井
では、地 震 の揺 れにより「変 形 」や
膜天井エントランスホールの完成イメージ
「衝 突 」が生 じて、それが損 傷 落 下
に繋 がることも多 く ありましたが、膜 天 井 はその危 険 性 はありません。さらには、スピーカ
ーなどの懸 垂 物 が落 下 した場 合 にも、落 下 防 止 ネットのように、膜 が受 け止 めてくれるの
で、より「安 心 」が得 られます。
そして、膜 は平 面 だけでなく曲 面 も表 現 できるため、デザイン面 での自 由 度 も高 いとい
う側 面 も。未 来 館 の顔 として、皆 様 を明 るく迎 えるエントランスホールには、ピッタリだと思
いませんか。裸 の 天 井 や落 下 防 止 ネ ットでは実 現 し得 ない、膜 天 井 なら では長 所 がここ
にあります。
上 の CG 画 像 は、あくまで現 段 階 の完 成 イメージ図 で、最 終 的 にどうなるのかについて
は、現 在 練 り上 げているところです。どのような天 井 が出 来 上 がるのか、楽 しみにしていて
ください。
文 :西 原 潔 (科 学 コミュニケーター)
写真 1:西原 潔(科学コミュニケーター)/写真 2:日本科学未来館・日建設計