第26回 アルコール健康教育研修会 参加報告

第26回 アルコール健康教育研修会
参加報告
愛知県・名古屋市学校薬剤師会 樋口 光司
青少年を取り巻く社会環境は、青少年の危険行動を助長するとともに益々複雑化してい
ます。飲酒問題においても同様です。危険行動を防止するためには、一次予防が極めて有
効であることは論を待ちません。
この研修会は、学校や地域におけるアルコール健康教育とかかわっておられる方々の資
質向上のため、理論から、また、学校においての実践活動までを含めた研修会として25
回にわたり続けられてきました。
主催:健康行動教育科学研究会
共催:一般社団法人東京都学校薬剤師会
後援:厚生労働省、公益社団法人アルコール健康医学協会、公益財団法人日本学校保健会
日時:平成28年8月19日(金) 9時55分から16時30分
場所:東京工科大学蒲田キャンパス 三号館30211講義室
研究講演
基調講演
教育講演
飲酒の問題点
山野医療専門学校教頭・元東邦大学医学部講師 今井
アルコールのおよぼす人体への影響
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
臨床研究部部長 横山
飲酒防止教育の考え方・進め方
聖心女子大学教育学科教授
植田
常彦
顕
誠治
実践報告と意見交換
コーディネータ
日本体育大学特別講師
実践報告者
豊島区立要小学校主任養護教諭
大和市立上和田中学校教諭
埼玉県立桶川西高等学校養護教諭
一般社団法人東京都学校薬剤師会理事
井口
一成
松並冨美江
味志 雅人
並木 麻里
安西真理子
研究講演 飲酒の問題点 飲酒の次世代影響について 今井 常彦 先生
最近の若者たちの飲酒傾向は、中学生高校生等の調査を見ても減少傾向にある。唯一女
性の飲酒率が2010年には8.0%であったのが2014年には9.5%と有意に増加している。女性
のアルコール依存症有病率もここ20年間で2倍以上になったといわれている。
「健康日本21(第2次)」の目標にも、妊娠中の飲酒について2014年の8.7%を0%にす
ることを目標にしている。
妊娠中の飲酒の胎児への影響は、アルコールが水溶性であり脂溶性でもあることから容
易に胎盤を通過し、胎児性アルコール症候群として顕著に現れる。母乳中にも血液濃度の
90~95%が移行するため、授乳によりアルコールは乳児の体内に入ることになる。
日本産婦人科医会の調査によると、何らかの障害を持って生まれてきた児の母親の多く
は「純アルコールとして60~90mlの酒を時々飲んできた」(ビール中瓶3本強、日本酒で
は3合強)ことを明らかにしている。特に中枢神経系に障害を持つ児の80%は、妊娠中に
母親が純アルコールとして70~80mlの飲酒を数回程度していた。よく言われている「たま
になら大丈夫」「少量なら問題ない」はアテにならず、飲酒の胎児への影響は1日当たりの
飲酒量のみでなく、どんなパターンの飲酒であっても児に影響があるとしている。
母子健康手帳においても、「妊娠中から授乳期間禁酒」と注意を喚起する指導がなされ
ている。
胎児性アルコール症候群は、遺伝的な障害ではないので、飲酒さえしなければ胎児性アル
コール症候群は100%予防することができるので、妊娠を考えた時から授乳が終わる全期間
にわたり禁酒が必要である。
後で後悔する可能性を考えれば、一切飲まないに越したことはない。と話された。
基調講演 アルコールのおよぼす人体への影響 横山 顕 先生
多量飲酒とは ・1日平均60グラム(純アルコール換算)以上の飲酒
・アルコールにまつわる問題のほとんどは、多量飲酒者が引き起こして
いる
(60グラムとは ビール中びん3本、日本酒3合、チュウハイ350m
l3本)
世界保健機関WHOの見解2009年
・アルコール飲料が原因となるがん
口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、大腸がん、女
性乳がん
・アルコール飲料、飲料中のエタノール、飲酒関連のアセトアルデヒド
にはヒトへの発がん性の十分な証拠がある。
女性の乳がんへの飲酒の影響
・欧米を中心に100以上の研究でほぼ一貫して示されている
・1日10gのアルコール増でリスクが7%増加する
下咽頭・食道がんのリスクと飲酒・喫煙習慣
喫煙習慣なし
30(箱×年)
以上の高度喫煙
飲酒習慣なし
1倍
4倍
1日あたり日本
酒換算1.5合以上
の飲酒
8倍
30倍
少量の酒で赤くなる体質の人が多量飲酒すると、食道・咽頭がんに特になりやすい。
宴会の翌日に酒臭い体質の人は、食道・咽頭がんとアルコール依存症になりやすい。
アルコール依存症になりやすい飲み方
・イライラして飲む(やけ酒)。寂しいから飲む ・休日に昼から飲む。退屈だから
飲む
・未成年から飲み始める
・酔った時の記憶がないことがある
・一人で飲む
・眠れないから飲む
・強い酒を一気に飲む。食べずに飲む
・薬(安定剤、睡眠薬)と一緒に飲
む
・不安・緊張感を楽にするために飲む
大酒家突然死症候群
・食べない多量飲酒が原因。
・高度な脂肪肝を伴い急死する。
・意識障害、ショック、脱水、低体温
・アルコール性低血糖
・アルコール性ケトアシドーシス
・低カリウム血症(慢性の下痢)
大酒家突然死症候群の予防
・飲み始めてしまっても、3食食べよう。
・牛乳、バナナ、ゼリーなど離脱状態でも食べられるものを検討しておこう。
・食べられなくなったらすぐ医療機関を受診しよう。家族と前もって相談しておこう。
糖尿病の予後も、アルコールを止めれば好転。
アルコール依存症に見られた脳萎縮も、禁酒で改善。
飲酒量を減らす簡易介入
・目標設定 無理のない具体的な飲酒量を決める。(例 1日缶ビール2本など)
・日記をつける 毎日、どのくらい飲んだか記録する。(出来れば血圧や血液検査値
も)
臨床経験豊富な横山先生ならではのお話が聞けました。身につまされることも多く、こ
れからの飲酒姿勢に反映したいと思います。
教育講演 飲酒防止教育の考え方・進め方
植田 誠治 先生
わが国においても、この10数年ほどの間に、スキルを強調した飲酒防止教育が広がりを
みせた。それは、飲酒行動の社会的な要因に対処する能力、自尊感情を高める能力、飲
酒への誘いを断る能力、あるいは自らの意志を伝えていくといった能力の育成などを図
るものであった。学校健康教育の中心となる保健学習においても、それらの内容が教え
られたり、あるいはそのような能力を高めるための指導方法の工夫がなされたりしてき
た。しかしながら、若者の飲酒の状況は楽観できず、これからもその防止についての検
討は不可欠である。
情報化社会の加速化と世の中のグローバル化を背景として、今日の教育のあり方の一
つとして、思考力、判断力、表現力等を育成するため、基礎的・基本的な知識を活用す
る学習活動を重視するとともに、論理や思考等の基盤である言語の果たす役割を踏まえ、
言語活動を充実することが求められている。
今行われているものは、「飲酒をすると体にどんな害があるのか」に加えて、「体へ
の害を知りながら、なぜ酒に手を出してしまうのだろうか」を考え、飲酒鼓動に関連す
る要因を分析し、さらにそれに対処する方法、あるいは自ら意思決定・行動選択してい
く過程を考えるといったことまでを含むものとなっている。
また、飲酒に対する様々な対策が、ヘルスプロモーションの理念に基づき展開される
時代となっている。警告表示、アルコールの広告制限、自販機やお店での販売規制など、
児童・生徒にも身近な内容が少なくない。それらが変化してきていることに気づかせる
ことが必要である。また、諸外国との比較や先進的な地域などと比較しながら、自分た
ちの周りではどんなことを改善していくことが可能かを考え、自ら環境を変えていく能
力の育成が必要であろう。
学校における健康教育の時間は限られている。飲酒防止教育をする時間も限られてい
る。そのような中で、問題意識が高すぎて、あれもこれも教えたいという思い・願いが
強く、ついつい内容を欲張ってしまうことがある。“あれもこれも”教えたい、学んでほ
しいという思い・願いから“これをこそ”教えたい、学んでほしいという思い・願いへと
転化する。そして、1時間の指導であれば、指導する内容を1つか2つくらいに絞り込
む。そうすると児童・生徒は消化不良をおこさない。
まさしく耳の痛い話です。これからも頑張ります。
実践報告では、アルコールパッチテストを有効に使っているケースが多く、小生も毎年
行っていることに自信を得ました。共通しての問題は、学校単独の教育では不十分で、
地域や父兄にいかに参画していただくか。学校全体としての取り組みにしていくため、
周りの協力をどのように取り付けるか。どうしても保健体育の先生、養護の先生に負担
が大きくかかっているのが現状のようです。学校薬剤師も一緒になって積極的に取り組
みたいと思っています。