11 月 24 日に開催した「乳がん市民公開講座」に際しての皆様方からの

11 月 24 日に開催した「乳がん市民公開講座」に際しての皆様方からの質問への回答(一
部のみ)を記載いたしました。今後、更に回答の記載を増やす予定です。
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」http://jbcsfpguideline.jp/ もぜひ参考にし
てください。
1.乳がんと日常生活、遺伝について
2.乳がんの診断について
3.乳がんの治療について
4.乳がんに関する病院の受診について
1.乳がんと日常生活、遺伝について
・ ホルモン療法剤を使用している方は乳製品、大豆製品はとらないほうがいいのでしょう
か?
→ 乳がんの有無、ホルモン療法を行っているかどうかにかかわらず、乳製品・大豆製品の
摂取は全く問題がありません。ただし、必要以上にサプリメントとして大量に摂取するの
はおすすめしません。
・ 乳がんと食事、生活に関係はありますか?
→ 乳がんと食事にはあまり関連がないと思われます。しかし、多量の飲酒、喫煙は乳がん
発症の可能性を高くする可能性があるといわれています。
・ 乳がんと妊娠について
→ 乳がん術後は多くの場合でホルモン療法を行うため、その間の妊娠はできません。また、
化学療法を行うと閉経になる場合もあり、その後の妊娠が難しくなることが多いです。乳
がん術後の妊娠に関しては、主治医とよく相談することが必要です。
・ どうして乳がん患者が増えているのでしょうか?生活・食事の欧米化か原因と考えられ
ていますが、肉などの食事を減らすとよいのでしょうか?乳がんにならないための研究
や社会に対する指導が大切だと思います。
→ 乳がんの予防に対する研究はおっしゃる通り、非常に大切で、当科でも今後取り組む課
題の一つと考えています。乳がん患者の増加は今のところ、食事、ライフスタイル、晩婚
化、少子化など多くの複合的要因で起きていると推測されます。肉を食べないと乳がんに
かかりにくいかどうかは現時点では不明です。
・ 乳がんは遺伝しますか?
→ 一般的に母親が乳がんの場合、娘さんも乳がんになる可能性が若干高いのは事実です。
しかし、母親が乳がんになったからと言って全員が乳がんになるわけではありません。検
診をしっかり行うことが重要です。それとは別に、親から子に受け継ぐ DNA(遺伝子)
に異常があり、高確率に乳がんを発症する「遺伝性乳がん」というものがあります。日本
人女性での「遺伝性乳がん」の正確なデータはありませんが、日本においては乳がんの
数%程度と考えられています。
・ 遺伝子診断で発生予防のための乳腺切除の適応と是非について知りたかった。
→ 当日は時間に余裕がなく、遺伝性乳がんに関しての説明ができませんでした。アンジェ
リーナ・ジョリーさんの件もあり、遺伝性乳がんは現在よく話題に上っています。遺伝性
乳がんは日本人乳がん患者の数%程度と推定されています。原因は親から受け継いだ遺伝
子(DNA)の一部に異常があり、そのせいで乳がんや卵巣がんが高率に発生します(遺
伝性乳がん卵巣がん症候群;HBOC)
。家族の方で乳がん・卵巣がんの方が多く、若年で
乳がんが発生するなどの場合、HBOC を疑います。HBOC を疑った場合で、患者さんが
遺伝子検査を希望する場合は、遺伝カウンセリングを受けていただいた上で遺伝子検査
を行います。これらは自費診療で 30 万円程度かかります。遺伝子検査にはメリットとデ
メリットがあるため、しっかりとしたカウンセリングが必要になります。遺伝子検査で陽
性(遺伝子の一部に異常がある)の場合は、検診の回数・方法を工夫したり、場合によっ
ては予防的乳房切除を行う場合もあります(当院では現在のところ予防的乳房切除は行
っておりません)
。
2.乳がんの診断について
・ 乳がんの初期症状はどんな風ですか?
→ 乳がんの初期症状はほとんどありません。多くの場合、自覚症状なく気づかぬうちに少
しずつ進行して‘しこり’ができてきます。一般的には自覚症状として、しこりやかたま
り、血まじりの乳頭分泌、痛み、違和感などです。乳がんは徐々にですが進行する病気な
ので、以前からあった症状で、ずっと同じ状態の場合は乳がんでない可能性が高いといえ
ます。自覚症状が出る前に検診で見つけることが重要です。
・ しこりを作らない乳がんがあると聞いたのですが、どのようなものですか?
→ 代表的なものとしてマンモグラフィで石灰化(細かいツブツブのようなもの)として判
明する乳がんがあります。その場合はマンモグラフィを用いて生検(組織を取る)をして
診断します。このような場合、非常に早期の乳がん(非浸潤がん)の場合があります。
ごく稀な場合として、しこりを作らず、乳房全体が腫れる形で発生する乳がんもありま
す(炎症性乳がん)
。その場合は通常、まず、化学療法を行います。
・ 乳房の痛みと乳がんは関係ありますか
→ 生理前に乳房が張って痛む場合は、多くの場合乳がんとの関連はありません。一部分を
押すと痛む、痛い場所が硬いなどの場合は乳がんの可能性もないとは言えませんので、一
度、病院で診察を受けることをお勧めします。
・ 外傷のような刺激が引き金で乳がんになることはありますか?
→ 外傷と乳がんに関連はありません。
3.乳がんの治療について
・ 化学療法の費用について知りたいです。
→ 化学療法の費用については、化学療法の種類によって異なりますので、個別にお答えで
きません。実際に化学療法が必要になった際に個別にお答えさせていただきます。いずれ
にしても、すべて健康保険が使えます。また、高額療養費制度を使用することで、月額に
は収入に応じた上限が設定されています。
・ ホルモン療法で関節痛がおきると聞いたのですが?
→ 閉経後のホルモン療法剤(アロマターゼ阻害薬)で副作用として関節痛が起こる場合が
あります。現在のところ、関節痛に対しての有効な治療はありません。痛み止めや運動が効
果がある場合があります。数か月、我慢して内服を続けると症状が軽くなる場合もあります。
症状がおさまらず、日常生活に困難をきたす場合は別の内服薬に変更したり、場合によって
は内服の中止も考慮します。
・ ホルモン療法剤を内服していますが、骨粗鬆症と言われビタミン D 剤も内服していま
す。今後の生活でどのような注意が必要でしょうか?
→ 閉経後のホルモン療法剤(アロマターゼ阻害薬)の副作用に骨密度の低下があります。
骨密度の低下が進行した状態を骨粗鬆症(こつそしょうしょう)といいます。骨粗鬆症と
診断された場合はビタミン D、ビスフォスフォネート剤などの投与が行われます。日常生
活で気を付ける点としては、カルシウム不足にならない食事と適度に運動をすることが
重要です。また北海道の冬道はすべりやすいので、転倒して骨折しないように注意しまし
ょう。
・ 局所再発後、ホルモン療法剤を飲んでいる場合、卵巣摘出する方法は乳がん、卵巣がん
の予防になるのでしょうか?摘出した場合のメリット、デメリットは?
→
乳がん治療において、一般に卵巣摘出のメリットは乳がんが再発してホルモン療法を
行う予定のある閉経前の方に限られます。卵巣摘出(閉経にする)によって数多く存在す
る閉経後のみに使用できるホルモン療法剤が使用可能になります。デメリットは全身麻
酔で手術をしなければいけないことです。腹腔鏡を用いますが、腹部に 1-2cm の傷が数
か所残ります。卵巣摘出は卵巣がんの予防になりますが、その点においてだけでは卵巣摘
出は行いません。
・ 乳がんの方が身内にいるのですが、再発の場合、がんに直接、薬を入れる治療があると
聞いたのですが?
→ 「がんに直接」の意味がちょっと分かりかねますが、再発乳がんに対する治療は内服も
しくは静脈注射(点滴)による薬の治療が標準治療です。動脈注射で投与することは「乳
癌診療ガイドライン」では行うべきでないと記載されており、お勧めできません。また、
温存手術後の乳房内再発、腋窩リンパ節再発、胸壁再発などの場合は手術や放射線療法を
行うこともあります。
4.乳がんに関する病院の受診について
・ 標準治療を行っている施設はどこですか?
→ 乳がん診療においては、乳腺専門医が常勤でいる「がん診療連携拠点病院」の指定を受
けている施設では、標準治療が行われているとお考えください。
・ 希望する全員が大学病院にかかるわけではないと思うが、その他の病院やクリニックの
レベルがどのようなものであるかを知るためにはどうすればよいのか?
→ 現在、診療をうけている場合は主治医とよく話し合いをしてください。現在、行われて
いる治療の妥当性などについて質問がある場合は、セカンドオピニオン外来で相談を承
ります。まだどちらでも診療を受けていない場合は、紹介状がなくても当科外来を受診で
きます。
(その場合は特定療養費として 2625 円の追加料金がかかります)
・ 乳がんの検診は紹介状がなくてもよろしいのでしょうか?
→
当科では自覚症状のない方の乳がん検診は行っておりません。乳がん検診は対がん協
会など、検診専門施設での検診をお願いいたします。症状がある場合は上記の通り、紹介
状がなくても受診できます。