中国大気汚染:各社の対応状況 ~アンケート結果から

JOMF NEWS LETTER
中国大気汚染:各社の対応状況
No.235 (2013.8)
~アンケート結果から~(II)
一般財団法人 海外邦人医療基金
業務部
宮本 昌和
(情報収集発信・中国担当)
今回は、7 月 10 日作成のパート1に続き、第 2 弾と
なります。
アンケート協力企業について(おさらい):
今回協力戴いた企業数は 26 社。これは会員企業数
166 社(2013 年 5 月時点)の 15.67%に該当しますが、
もう少しnがほしいところでした。
現地に工場を置き、大量の人を必要とする電気や自
動車関係、素材等を中心とした『製造系』、販売会社
や事務所等少数精鋭でそこまで大量の人は配置され
ていないであろう『サービス系』と二つの業界に分類
したところ、製造系 19 社(73%)
、サービス系 7 社(27%)
から回答を戴きました。
(図 1)
図1
現地大気汚染状況把握策の有無について:
現地の大気汚染状況をどのように把握されている
のかをお尋ねしてみました。日本側にいて、現地の汚
染状況を把握しているのとしていないのとでは、駐在
員と日本本社との『絆』の強さが全く変わると思われ
ますが、今回の調査で、『把握策を講じた』という企
業は 17 社(製造系 13 社、サービス系 4 社)あり、
『講
じていない』とした 8 社(製造系 6 社、サービス系 2
社)を大きく上回っていました。(図 9)
大気汚染の影響調査について:
大気汚染の報道がテレビや新聞などでかまびすし
く報道されて以後、日本側本社として、健康診断も含
めた大気汚染影響調査を実施した企業の有無につい
て伺いました。
何らかの影響調査を実施したと回答した企業は 6
社(製造系 5 社、サービス系 1 社)となっていました
が、
『実施しない(しなかった)
』と回答された企業が
4 分の 3 を超えています。
(図 8)
図8
大気汚染の影響調査を行った企業からは、「北京、
上海への健康管理部医療巡回に産業医・看護師が同行
し、駐在員、ローカルスタッフの健康相談を実施する
とともに、職場環境を
含めた状況調査、医療機関の訪問等を実施した」、
或いは「駐在員とその家族を対象に、希望者には喀痰
検査の費用補助を実施(全額会社負担)した」、
「赴任
前・中・後の肺機能検査を実施することにした」
、
「大
気汚染の酷いとされる河北省石家庄の駐在者のみ肺
の CT スキャン受診を会社負担で推奨」、
「大陸の都市
限定にて、呼吸器専門内科(小児科含む)受診の為の
帰国休暇付与を検討中で、その対象は、駐在員とその
家族まで」といったコメントが返ってきました。
他方、実施しないとした企業からは、
「年 1 回受診
の人間ドック対応(通常の対応)で十分」が各 1 社ず
つ、「駐在員から、じん肺健診に準ずるような健診を
希望する声が散見されますが、年 1 度の人間ドックで
肺機能検査まで行っており、その経過を見ることで問
題ないと当方から現地側に説明、回答している」、
「今
後、必要性について検討する」といった声が返ってき
ました。
調査対象については、実施と回答した 6 社中、ロー
カルまでが 1 社(サービス系)、駐在員家族までが 4
社、駐在員だけが 1 社となっています。
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図9
JOMF NEWS LETTER
『対策している』と回答された企業では、
①現地では1日 AQI 値をチェックし、外出を控え
たり、マスクの着用、うがいの励行について職場内で
声を掛け合っている。が、各職場での AQI 値は測定
不能であり、個別の把握は難しい状況、
②現地法人からの報告を受ける形で把握している、
③在中国日本大使館通達で確認している、
④報道及び WEB による検索のみ実施
⑤現地法人社長に状況確認メールを一度確認した
程度で、継続的なものはしていないが、、
、
⑥人事部員が訪中し現地状況を確認(体感)、
⑦中国国内の観測データをモニタリング(現法も日
本本社も)
、
⑧a. 本社の海外リスク管理部門が時々現地に赴き、
状況を確認、b.現地駐在員は天気予報を携帯で日々大
気汚染状況をチェック、 c.産業医から PM2.5 に関す
る基本的事項を資料として提出してはいるものの、大
気汚染に対する具体的対策はまだとれていない。
⑨HP 上(北京藍天天、米国大使館情報、JOMF 情
報、インターナショナル SOS 情報、ウェルビー情報
等)でチェック(7 社)という回答とともに、「AQI
にて把握開始するも、過去のデータが参照できずに苦
慮している」という悩みもきかれました。確かに、AQI
にせよ PM2.5 含有量にせよ、この 1 年で急に話題に
なったため、公開されているデータも少ないというの
が実態ですので、昔と比べてどうかというのは数値的
には把握不可能かと思われます。
また、JOMF の「2345 天気予報情報マニュアル」
がお役にたてていることを記述して下さった企業も 4
社あり、お役にたてたことを嬉しく思っています。
No.235 (2013.8)
次年度以後のマニュアル作成について:
今年度の対応にはマニュアルが間に合わなかった
としても、次年度以後のマニュアルに反映するなどの
対策を講じますか?という質問への回答状況は以下
の図の通りです(図 11)。
マニュアル化に取り組むとする企業数は 3 社(製造
図 11
系 2 社、サービス系 1 社)、
『今後の課題とする』が 1
社(製造系)、
『作成しない、予定なし』が 20 社(製
造系 15 社、サービス系 5 社)という結果になってい
ます。圧倒的に『計画なし』が多いようです。
①計画している』という企業の声には『現地の支店
サイドと連携し、中長期的視野での対応を検討中、
②現在、本社のリスク管理部門が作成中。実際に、
対策を講じた方が良い大気汚染の指標等を示し(北京
日本人学校が野外での活動を自粛する AQI200 以上が
注意喚起)、汚染状況に見合った対策を具体的に講じ
るように、海外事業所に通達を出す予定。
③マスク準備等について触れたものにするといっ
た回答が寄せられていますが、
『計画なし』と回答された企業の中には、「今後の
課題としては認識している」、
「季節ごとの危機管理マ
ニュアルはない」、
「PM2.5 だけのマニュアルを作るつ
もりはない」といったものや「具体的な対策が判らない」
というものが回答として寄せられました。
今後の課題としては認識しつつも、「確かに PM2.5 が騒
がれているからといって、それだけでパニックになることも
ない」という企業もあることが判りました。
テレビや新聞・雑誌では、中国の空気だけが悪いように
報道されていますが、世界ではもっともっと空気品質が悪
国や地域があります。
レコードチャイナ(2013 年 1 月 15 日)の報道では、大気
汚染指数で世界ワースト 10 に列挙された都市のうち、中
国から 7 都市がランクインしていて、確かに中国の空気は
良いとは言えない。ランクインしている 10 都市は、北京市、
重慶市、太原市(山西省)、済南市(山東省)、石家庄市
(河北省)、蘭州市(甘粛省)、ウルムチ市(新疆ウイグル
自治区)、ミラノ(イタリア)、メキシコシティ(メキシコ)、テヘ
ラン(イラン)とのことでした。
また、それに続く 18 日には、エコノミスト誌から WHO 情
報をもとに国ごとの比較を行い、世界の経済大国の都市
のうち最も空気が汚染されている 17 都市が発表されてい
ます。これは PM10 以下の濃度をもとにしてランキングさ
他方、対策を講じていないと回答された企業では、
『会社としては行っていないが、社員及び家族はネッ
トで確認している模様』という回答が 1 社(他は無回
答)ありました。これは、恐らく、駐在員の皆さんが
『自己防衛策』として AQI 情報等をとる工夫をされ
ているということだと推量されます。
また、策を講じたという企業と講じてないという企
業の業種別は、図 10 のようになっています。
(図 10)
図 10
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JOMF NEWS LETTER
れたものがリストアップしています。汚染都市ワースト 17 は
以下の通りです(が 5 位と 9 位、12 位が 2 都市ずつあるた
め実際にはワースト 20 です):
1 位:ルディアナ(インド)、2 位:蘭州(中国)、3 位:メヒカリ
(メキシコ)、4 位:メダン(インドネシア)、5 位:安陽、釜山(韓
国)、6 位ヨハネスブルク(南ア)、7 位:リオデジャネイロ(ブラ
ジル)、8 位:トリノ(イタリア)、9 位:セビリア、サラゴサ(スペ
イン)、10 位:パリ(フランス)、11 位:ベーカーズフィールド
(アメリカ)、12 位モントリオール、サーニア(カナダ)、13 位
モスクワ(ロシア)、14 位:ドレスデン(ドイツ)、15 位:ロンドン
(イギリス)、16 位:大阪(日本)、17 位:ブリスベン(オーストラ
リア)。
この情報によれば、「中国の空気が汚染されていないと
は言えない」中、中国以外にも大阪を含む先進国の都市
ブリスベン、ロンドン、トリノ、ドレスデン等多くがランクイン
しているということを考えると、マスコミ報道には偏りがある
のではないかと疑われる点に注目戴きたく思います。
No.235 (2013.8)
(製造業)
①人事部員の訪中予定あり。②マスコミで騒いでい
る ほ ど駐 在員 から の SOS は 無 い (諦めているの
か?・・)。③汚染状況を聞いても『そりゃあ酷いで
すよ』程度の回答。(製造業)
①中国においては、駐在員とその家族の健康安全確
保とともに、現地社会との良好な関係を保つことも重
要ととらえている。②その為、PM2.5 の具体的な対策
については、現地責任者の要請を受けて対応するスタ
ンスでいる。③いまのところ、具体的な要請は受けて
いないが、危機管理担当部署と連携をとり、常に最新
の情報を収集し、国内外の関連部署に定期的に情報発
信を実施。
(製造業)
①危機管理関係部門で、空気清浄器の配布検討や注
意喚起等の管理を行っているが、大々的な対策は講じ
ていない。
(サービス業)
①希望があれば、産業医産業看護師が相談対応をす
るなどして実施中。(サービス業)
①巡回視察は、年に 1 度、アジア圏・中南米の 1 カ
国だけに本社が計画的に本社産業医を派遣し実施し
ていた。②最近数年間については実施されていない。
③臨時で中国を巡回視察するということは今のとこ
ろない模様。(製造業)
その他の記述:
各社から寄せられた回答とともに以下のような記
述があります:
①マスクは隙間ができないように着用、場合により
2 枚重ねの着用等を指導。②整備スタッフは屋外での
業務時間が長く、粉じん作業用のマスクを着用。③う
がい励行や鼻毛も切り過ぎぬよう指導。④子供やお年
寄り、気管支疾患がある方に影響が出やすいので特に
注意して貰っている。⑤将来的ながんへの不安から胸
のレントゲンを撮った方が良いかとの質問に対して
は、
「現時点では年 1 回の健診時に撮れば十分で、年
に 2 度も 3 度も撮る必要はない」と回答している。⑥
妊婦さんが胎児への影響を心配していましたが、現時
点で直接的に影響が及ぶものではないが、なるべく吸
い込まないに越したことはない旨回答。⑦目、鼻、の
どなどに影響が出た場合には早めに医療機関を受診
するようにアドバイスした。(サービス業)
①産業医による現地視察、海外専門産業医の設置等
を検討中。②インドの大気汚染についても対応を検討
中。
(製造業)
① 中国出張者にはマスクを配布(製造業)
①『労働組合独自』に、組合員を対象に、『中国出
張者』に対しマスク(N95)配布を実施(製造業)
。
①産業医の海外巡回制度はない、②今回のこともあ
り、現地駐在員や海外のリスク管理部門から要請の声
が上がってきている(あとは会社が許可してくれれ
ば・・)③現時点では、海外駐在員からの不安の声に
対して、本社が右往左往して行き当たりばったりの対
策を講じているようにしか見えない。④マスクを急に
配ったのはよいが、「何時まで配るのか、どこまで配
布するのか」については、結局、現地駐在員のリスク
マネージャに一任。⑤なので、このアンケート集計の
情報を戴き、きちんとした枠組みのある対策を講じる
ように関門連部に投げかけていきたい。(製造業)
① 2013 年度の産業医医療巡回先として検討中。
各社対応のまとめ:
最後の「その他の記述」にあるように各社夫々に悩
まれている点が明らかになってきたと言えます。産業
医が(マスク配布に終わらせることなく)具体的にマ
スクの着用方法や種類などについても指示をされて
いる企業もありますが、産業医が積極的に関与されて
いる企業とそうでない企業があるのかもしれません。
また、「対象をどこまで、何時まで対応するのか」と
いった点については悩ましいところかと思います。
現地責任者に外人トップを配置している企業など
では、日本からのサポート内容がそのまま外国人トッ
プに入ってしまうこともあり、本当に悩ましいとは思
いますし、現地の判断を重要視するという判断も(現
地任せにしていないのであれば)間違いではないと思
います。
企業がグローバル化すればするほどに、英語を話せ
ればそれでよいといった皮相的なグローバル企業を
目指すのではなく、その国に寄与する企業としての観
点から、従業員やそのご家族の健康と安全を考えるこ
とが重要だと思料しています。
今回、調査結果のまとめが大変遅くなってしまいま
したが、中国で急激に空気品質が良くなるとは期待で
きぬ中、この秋から冬にかけて気温が低下すれば、こ
の大気汚染問題とともに、夏場下火になっていたヒト
感染 H7N9 鳥インフルエンザもまた捲土重来、再燃す
ることが考えられます。 皆様の企業の政策検討上、
何らかのご参考になればと思料しています。
2013 年 8 月 18 日
宮本昌和
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