大型ショッピングセンター進出でかわるか、ベトナム流

intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説
NO: 97
2014 年 3 月号
<誌上セミナー>
大型ショッピングセンター進出で変わるか、ベトナム流
イオンやロッテが競って出店するホーチミン市
坂内
正
はじめに
成長が続くASEAN(東南アジア諸国連合)10ヶ国のなかでも、チャイナ・プラスワ
ンとして、近年ベトナムへの注目が高まっていることは周知の通りです。
この場合の注目といえば、これまでは中国より安価な労働力といった製造業が主役でした。
それがここにきて、コンビニから外食チェーンへ広がり、最近は大型ショッピングセンター
のオープンへとさらに拡大してきています。その結果これまでの食や生活文化にとどまらず、
ライフスタイルにも伝統的なものから、次第に先進国に似たスタイルへといった変化も起き
つつあります。
こうした動きを商都・ホーチミン市を中心に追ってみました。
ロッテVSイオン
ロッテというとチューインガムやチョコレート、最近ではマクドナルドと並ぶロッテリア
が日本では有名ですが、これで財を為したオーナーは祖国・韓国でホテルやデパートを建ち
あげ、今やサムスン、現代自動車、SK、LGという4大財閥に次ぐ、韓国で5番手にまで
なりました。先行する4大財閥が機械、自動車、建設、ITを主力としてきたのに対し、ロ
ッテグループは主に流通やサービス業で成長してきたといえます。このロッテがアジア各地
で展開しているのがロッテマートというショッピングセンターです。
このロッテマートの大型店が昨年2013年11月21日、ホーチミン市郊外にオープン
しました。オープン直後から、車ならぬバイクで来店する客が多く、時々駐輪場入口ではバ
イク渋滞が起きるほどです。
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イオンのライバル・ロッテマート
イオンモール1号店は駐輪場も広い
丸亀うどんや資生堂に人だかり
負けじと年が明けた2014年1月11日、タンソニエット空港からほど近い、タンフー
区にオープンしたのが、日本のジャスコが運営するイオンモール1号店です。全国に大型シ
ョッピングセンターを展開するジャスコは、周知の通り、今や日本を代表する流通グループ
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で、アジアへも積極的な投資と店鋪展開をし続けています。
このベトナム1号店は食品や化粧品、家庭用品を中心に日本のテナントも競うように出店
しています。目下のと
ころはショッピング目
的もさることながら、
きれいで涼しいので、
デートを兼ねて2人乗
りバイクでやってきた
という若者や、子供ら
にせがまれて物見遊山
で見にきたという人た
ちも少なくないようで
す。でも一度来たらエ
アコンと明るい照明の
とりこになったという
丸亀うどんはいつも長駄の列=イオン
声も聞かれました。
特に、テイクアウト
の寿司コーナーや丸亀製麺のうどん店はいつも行列ができています。ちなみに人気の丸亀う
どんは標準的なもので、1杯7~8万ドン(約350~400円)ですから、ベトナムの物
価からしたら決して安くはありません。また資生堂のメイクアップコーナーにも人だかりが
できていました。その一方で昼時でもほとんど客の入っていない店もあり、その落差は際立
っています。
よくニュースなどでは1日の来店
者数が10万人を突破、などと報じ
られていますが、来店客の多くがま
だ買物というよりウインドショッピ
ング、つまり見物です。レストラン
は見物だけというわけにいかないの
で、一部の人気店以外は、ガラガラ
な店鋪がすくなくないのも現実なの
です。
イオンモールは、前述したロッテ
モールのすぐ近くVSIP・1(ベ
トナム・シンガポール工業団地・1)
の隣地にも今秋オープンをめざして
VSIP 工業団地1の隣りに建設中のイオン2号店
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2号店を建設中で、今後大型ショッピングセンター同士の競争も激化しそうな勢いです。イ
オンは来年ハノイにも大型店をオープンする予定で、今後人口減少が続く日本の企業にも出
店を働きかけています。ちなみに、VSLP.1にはヤクルトなど日系企業も入っています。
インフレ―段落で消費上向きに
近年ベトナムは、チャイナ・プラスワンにとどまらず、次代を担う新興国の中核として、
ネクスト・イレブン、ASEAN5、VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)とい
った様々なネーミングがつけられ大きな期待を集めてきました。それが数年前からインフレ
や貿易赤字に苦しめられ、一時の勢いを失いかけていました。
しかし2011年2月、通貨ドンの9.3%の切り下げや、思い切った金融引き締め策の
導入等により、ようやくインフレに歯止めがかかりつつあります。
その一方で、賃金はほぼ毎年アップしており、1人当りのGDPこそ約1,800~1,
900ドルとまだそう高くはありませんが、400万人超の人口を抱えるホーチミン市に限
ってみれば、実態的にはその2倍以上に達してきています。こうした流れが流通にも変化を
及ぼしてきているのです。
どっこい根強いベトナム流も
その一方で習慣や文化のなかに、古くからの伝統が根強く生き続けるベトナムでは、従来
型の小売店や観光客にも知られたベンタン市場やビンタン市場、アンドン市場といった庶民
のマーケットも健在です。先進国ほどに冷蔵庫が普及してこなかったこの国では、鳥や魚は
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ベトナムの「アメ横」ベンタン市場も健在
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生きたままのものが、歓迎されます。ビールも瓶ごとじっくり冷やすというシステムになっ
ていないため、ジョッキに大きな氷を入れて直接冷やすのも同じ構図です。その限りでは、
生活スタイルと結びついた、前記の公設市場や屋台もすぐには衰退しそうにはありません。
また、近隣のタイやインドネシアは近代的なショッピングセンターでの購入が5割近いのに
対し、ベトナムでは、まだ1割台にとどまっているのもその証左といえましょう。
それとただちに結
びつくとは言えませ
んが5年前に進出し
たファミリーマート
は提携企業の業績低
迷・吸収などで現地の
パートナー企業を変
えての出直しとなり
ました。このあたりに
も根強いベトナム流
の影響を感じさせま
す。
5年前にオープンした時のファミリーマート1号店
また、昨年2月にオープン時には物珍しさもあってごった返し、一時はあの濃いベトナム
コーヒーの文化を変えるかとまで言われたスターバックスコーヒーも最近は閑散としてお
り、数少ない顧客もほとんどが西欧人です。
オープン時ごった返したスターバックスも今は閑散
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小さなカップでゆっくり飲むのがベトナム流コーヒー
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とはいえある意味、日本より古風といわれるベトナムですが、今後も成長が続くと見込ま
れるなかにあっては、少なくとも都市部では流通スタイルの変化が起きてくるであろうこと
も、必定なのかもしれません。
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前号では、少子高齢化が進むなかで、最近ベトナムからの日本への留学生が急増している
ことを紹介しました。その一方で、日本からもヒト、モノ、カネが成長するアジアへ進出し
ており、それがまた外への人の移動といった現象を起こしているということもとらえておく
必要がありそうです。
(情報と調査NO.96・拙稿「ベトナム人留学生とハノイの日本語学校―――急増の背
景と問題点」参照)
〈文・写真〉
Profile
坂内 正 ( ばんない ただし )
ファイナンシャルプランナー、総合旅行業務取扱管理者。 元政府系金融機関で中小企業金融を担当。
退職後、旅行会社の経営に携わり、400回以上の渡航経験を持つ。 ロングステイ詐欺疑惑など、
主にシニアのリタイアメントライフをめぐる数々のレポートを著す。 著書に『年金&ロングステイ
海外生活 海外年金生活は可能か?』
(世界書院)
ミンダナオ国際大学客員教授 『情報と調査』編集委員
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