キーワード 進化論・・続き 「赤の女王仮説」 適応度地形 企業・社会における 「知識」の進化 知識の「形式化」と ルーチン 講師: 秋山 英三 [email protected] http://infoshako.sk.tsukuba.ac.jp/~eizo/ 社会ダーウィニズムと 優生学。 – その相違 2 1 進化論的アプローチ 「性」の謎 人間を含めたほ乳類、鳥 類などは2つの性 性の謎 カタツムリやナメクジなど は雌雄同性 クマノミは体の大きさ順に メス、オスになる ファインディン グ・ニモにも登場・・ 3 進化論的アプローチ 比較的有力とされる仮説 「性」は必要? 「赤の女王仮説」 William D. Hamilton 1980 無性生殖 4 鏡の国のアリス – バクテリアなど(e.g. 大腸菌) – 「赤の女王がアリスに『同じ所にとどまろうと思うな ら、全速力で走りつづけなさい』と言った」 無性生殖の利点=効率の良さ – 別の性の個体を探す必要がない – 生殖行為が必要ない – 繁殖が簡単で速い! 寄生種(ウィルスなど)との進化競争に必要 無性生殖はメリットだらけ? なぜ性が必要? 5 It takes all the running you can do, to keep in the same place. 6 1 比較的有力とされる仮説 性によるVariation(変異) 「赤の女王仮説」 父親と母親から 23 本ずつの染 色体をもらう(計46本) 「無性生殖の欠点」 子供は親と遺伝的にほとんど 同じ – 遺伝的Varietyは、ほとんど交 叉、突然変異だけによる 積極的に親と異なる子を作り出す 親からそれぞれもらう染色体の 組み合わせだけで 246 = 約 7.0*1013 通り – ある個体に寄生する病原 菌・ウィルスが出現したら、集 団の全個体が一気に全滅して しまう危険性 受精時に染色体のあちこちで交叉 がおき、突然変異なども加わる 「Variation」 7 8 ほ乳類のオス 性とVariationの効果 性=長い歴史を生き残ってきた 遺伝子どうしを組み合わせて、 新たな可能性を探る仕組み 発生学的にはメスから 作られた性 – – オス=Variation拡大の エンジン 例)AIDSに耐性がある人もいる 「赤の女王仮説」は有力視され ているが、一般的な理論的基礎 はまだできあがっていない。 視床 下部 下垂体 9 視床 下部 下垂体 10 分業・・・アダム・スミス「国富論」 ピン作りのたとえ – – – – – 企業・社会における 「知識」の進化 「針金を引き延ばす」 「針金を切る」 「先端を尖らす」 「頭を丸める」 ・・・18の工程 かれら(10人)は1日に4万8千本以上のピンをつくる ことができた。 企業・社会活動における遺伝子 – 分業 48,000/10 = 4,800本/人 もしかれら全員が別々に働き、あるいは、この仕事の ための訓練をうけていなかったならば、 1人あたり1 日に20本のピンをつくることもできなかったであろう 11 – 「分業」の効果 ? 12 2 分業と「知識」 現代的な企業の知識、その特徴 「針金を作る」 = – – – – 例)ビジネス戦略、投資政策、研究開発戦略、 宣伝戦略、経営戦略 「針金を切る」 ための知識 「先端を尖らす」 ための知識 「頭を丸める」 ための知識 ・・・ 特徴=知識の「形式化」 <・・言語化 「分業」とは? – 構成員の「知識」の有機的組み合わせ (個人でなく)企業でモノを作る、ということの本質 – 新人でも、時間・コストをさほどかけずに戦力になり得る 元となった知識を知る必要がない 「知識の経緯はともあれ、今うまくいっている知識を使う」 分業のメリット – – 一人で取得できる知識には限界 分業 一人では作れないモノを作ることができる 各人は個々の知識に集中 各知識を高度化 より良いモノ 各人の作業には、他の工程の知識が要らない 「伝達」が可能: – 「新たな知識」の創造が容易 「今うまくいっている」知識を少し改善する・・安全な方法 議論等により、様々な人の知識を組み合わせる 13 14 Cf. 進化とDNA 形式化知識の(悪い)利用例 生物進化=うまく行っている(適応している) 親のコピー DNAの特徴=遺伝情報の「形式化」 <・・言語化 – A, G, C, T 4文字の「文章」 1980年代後半の土地神話 – – – 「形式化知識」を使う利点 – 形式化の利点 – 「伝達」が可能(遺伝) – 「新たな遺伝子」の創造が容易(突然変異) 15 土地は値上がりし続ける。 「土地を担保に貸し出せばリス クがない」 「土地を担保にできる相手 融資して良い」 審査に時間・金をかけずにすむ 多くの銀行がこの「知識」に 従って意思決定をした バブル崩壊・・・ http://www.japanpost.jp/pri/reserch/monthly /m-serch/finance/1999/no126/27.htm 企業の「ルーチン」=形式化知識 「新しい知識の創造」と進化 ネルソン&ウィンター 「経済変化の進化理論」 3M社の例(超優良企業) 幅広い商品 – 企業の「ルーチン」は生物進化の「遺伝子」に 相当する – 「ルーチン」と進化の条件 1. 経験を通して生き残ってきた知識(淘汰) 2. 人から人へ伝達される(遺伝) 形式化 3. ・・・あと、変異(Variation)を創造・維持するメ カニズムがあれば、必然的に「進化」が起こる 16 ポストイット、防水スプレー「スコッチ ガード」、スコッチテープ、マスキング テープ、フィルム 大企業だが毎年百種以上の新商品 – 「過去4年間に出した商品で売上高の 30%を稼ぐ」という目標 ダーウィン「優れたものが生き残る のでなく、変化するものが生き残る」 17 18 3 「新しい知識の創造」と進化 「新しい知識の創造」と進化 3M社:知識のVariationを創造・維持 するメカニズム 15%ルール – 業務時間の15%を自分の好きな研究に 費してよい 戒律「汝、アイデアを殺すなかれ」 – シリコン バレー 明らかに失敗することを証明できない限 り、部下のアイディアを上司は止めては 行けない。失敗しても問題にしない。 技術の融合の促進 – 世界の ハイテク産業 の中心 世界各地にいる技術者の交流を活発化 ミニカンパニー制 – アイデアを開発した者が、仲間を社内外 から集めてミニカンパニーを作ることがで きる。 (ちなみに3Mは終身雇用) 19 20 「新しい知識の創造」と進化 世界のハイテク産業の中心 シリコンバレー: 「シリコンバレー」 スタンフォード大学等の大 学・研究機関が数多く存在 大学、企業、ベンチャーキャ ピタルの交流が盛ん 知識のVariationを創造・維 持するメカニズム 1. 知識と知識を結合して、新た な知識を生み出す基盤があ る 2. 知識集約的なネットワーク – 1980年バイ・ドール法以来産 学連携が促進される – 知識創造を促すバイドール法 – 大学も含め、情報・知識の共有 を行うコミュニティの形成 1. 連邦政府の資金提供でできた 大学・非営利団体などの発明の 権利を、発明者に帰属させる。 2. ロイヤルティー収入を発明者や 科学技術のための研究開発に 還元することを義務づける 3. 企業間のネットワーク – ジョイントベンチャーが盛ん http://www.yodosha.co.jp/btjournal/keyword/96.ht ml 21 22 企業・社会における「知識」の進化 と生物の進化との類似点・相違点 1. 知識の伝達(遺伝) – 遺伝子の伝達は一方向だが、知識の場合は 双方向 – 知識は遺伝子の情報より伝達速度が速い 2. 知識の淘汰 – 個人、会社、市場のレベルで行われる 3. 知識のVariation – 知識と知識の結合から新しい知識が生み出 される ダーウィン進化論の曲解 が生み出した悲劇 社会ダーウィニズムと優生学 (19世紀後半ころから) 23 24 4 社会ダーウィニズム 社会ダーウィニズム 社会ダーウィニズム(2) 社会ダーウィニズム(1) ハーバート・スペンサー(英・哲学者) ウィリアム・サムナー(アメリカ) – 「適者生存(Survival of the fittest)」 – 基本思想・・ダーウィン進化論からずれている 1. 適応度 富 (絶対的尺度) 2. 進化=進歩 (方向性) 3. 優れた人種がある。人間には序列がある。 「適者生存の法則は、人間のつくりだしたものではないし、 人間が廃止することのできるものでもない。われわれがこ の法則に干渉すれば、不適者生存をもたらすだけであ る。」 ネイティブ・アメリカンへの迫害の正当化へ – 南北戦争(1861)後のアメリカで流行 – 北部の資本社会・格差社会を正当化できる。自 由競争の正当化に使うことができる。 土地の譲渡か戦争かの択一を迫る 例えば http://www.geocities.co.jp/HeartLandSuzuran/1855/indianhistory.html – 1860~1880 西部「開拓」 今も残る傷跡・・保留地 25 社会ダーウィニズム 26 優生学(eugenics) 社会ダーウィニズムの影響 優生学(eugenics) 頭蓋測定学 人類の遺伝的素質を改善することを目 的とする。悪質の遺伝形質を淘汰し、優 良なものを保存することを研究する学 問。1883年イギリスの遺伝学者ゴール トンが首唱。(広辞苑) フランシス・ゴールトン – 19世紀後半~20世紀初頭 – 白人の優位を「証明」 知能テスト(IQ) – 1904年フランス1908年米国 – 移民排斥・人種的偏見を正当 化 – 根底にある思想 ・・・「人間の序列」 – ダーウィンの従兄弟、指紋鑑定・天気図等 高線を発明) 「才能のある」人同士で子孫を残すことを奨 励 27 優生学(eugenics) 28 優生学(eugenics) 米国 断種法(Sterilization Law) 社会ダーウィニズムとの違い 社会ダーウィニズム – 「劣った」人種を保護する必要はない(放任) 優生学 – 選択的な生殖で「優秀な」人間を増やす(選択) いずれも「人間の序列」が思想の背景 遺伝病患者に強制的に不妊 手術を施す 全米30州で制定 移民、有 色人種、原住民、貧困層、て んかん患者、アルコール依存、 精神障害者などを中心に一 万件以上の不妊手術 1920~40年代 各州で、異民 族間での結婚を禁止する立 法 1965年に撤廃 – 29 (公民権運動の流れ) 30 5 優生学(eugenics) 優生学(eugenics) 優生保護法(1948年; 日本) ナチスドイツと優生学 ユダヤ人の絶滅を企てる 優生断種法(1933年) – – 優生保護法 昭和23年7月13日 法律第156号 ・・・【この法律の目的】 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生 を防止するとともに、母性の生命健康を保護するこ とを目的とする。 http://list.room.ne.jp/~lawtext/1948L156old.html ハンセン病、遺伝性疾患、精神薄弱者など約 16,500件の不妊手術 1997年に法改正「母体保護法」 約40万人の国民が不妊手術 遺伝的障害、精神障害者、てんかん患者、盲 人、薬物・アルコール依存など 安楽死計画 – 障害者や難病の患者 長身・金髪・青目の男女を集めて強制的 に結婚させる 生命の泉(レーベンスボルン)計画 – – アーリア人を支配者民族として拡大する計画 親衛隊員と関係をもった未婚の女性が出産す る施設を作る – 主に中絶について 31 32 地球環境の多様性、環境への適応、 そして、生命の価値 ポイントをもういちど(1) 深海 砂漠: 地球の地面、約1/3 1. 進化≠進歩 2. 進化に方向はない(下等高等など) – どのような形質が生き残るかは、その時々 の環境との相性による 『チャレンジ2年生 はて な?はっけん!ブック』 2007年9月号 http://www.loftwork.com/portfolios/izumori/archive/135329 3. 個体の「適応度(子孫の数)」と個体の 「価値」は無関係 33 34 ポイント (2) 恐竜は哺乳類より劣っている? 「社会の多様性、生態系の多 様性を大事にする」という考え 方とは? 恐竜 約2億年前に登場 – 一億年以上隆盛を極める – 「遺伝の差≠価値の差」という考 え方 – 多様性を担っている個々それぞ れに価値があるという考え方 6500万年前に地球環境の激動 「淘汰」された ほ乳類 一部の哺乳類はこの環境変化に 比較的中立だった http://www.ghadi.org/en/mission.html そもそも適応度は環境に依存する “平等”の意味とは? 参考 – ヒト属の登場は500~600万年前 – ホモサピエンスは十数万年前 35 – 個々が、遺伝的・生物学的に同 じという意味ではなく、その存在 の価値が平等ということ 36 6 キーワード Further reading 遺伝的浮動 木村資生(もとお)の中立説 ミトコンドリアイブ仮説 ヒトの起源、日本人の起源 – リチャード・ドーキンス 「利己的な遺伝子」「盲目の時計職人」 – スティーヴン・ジェイ・グールド 「ワンダフル・ライフ 」 37 38 自然選択以外の進化 自然選択以外の進化 ダーウィン進化論の復習 ダーウィンについてちょっと復習 ダーウィンの自然選択(自然淘汰)説 進化の基本エンジン 1. 変異(Variation): 集団に変異がある 2. 遺伝(Inheritance): 「変異」は親から子へと伝えられる 3. 生存競争(Struggle for existence): 環境の収容力<繁殖力 4. 適者生存(Survival of the fittest): 子孫の数は、どのくらい環境に適応してい るかに依存する・・「適応度(fitness)」 1. 変異(Variation) 2. 遺伝(Inheritance) これらに自然選択のメカニズム(3, 4)が加 わるとダーウィン流の進化 – 1+2+自然選択 自然選択以外の選択メカニズムはない? – 1, 2の機構をダーウィンは知らなかった 1930年代くらいには解決 1+2+別の選択? 39 遺伝的浮動 (random genetic drift) 40 遺伝的浮動 (random genetic drift) 適応度に差がなくても個体数が 変動し、淘汰も起こる – ライト(S. Wright 1948) 単純化した例) 1. 赤い花50個と青い花50個があるとする 2. 赤い花になるか青い花になるかは、受粉した花粉の遺伝 子で決まるとする 3. 100個の種を選ぶ – 次の世代で赤:青が50個:50個になるとは限らない。 – 普通、56個:44個など、半分ずつから揺らぐ 自然選択以外の淘汰のメカ ニズム 41 42 7 Random Drift の簡単なシミュレー ション 簡単な例 遺伝的浮動固定 問題)自然選択以外の選択メカニズムはな い? 1. 赤 n 個、白 100-n 個、計100個のボールが 袋に入っている。 2. 袋の中のボールを、赤と白の割合を保った まま倍に増やす。(何倍でも良い。) – 1(変異)+2(遺伝)+自然選択以外の選択? 答え)「ある!」 1+2+遺伝的浮動によるランダム選択 固定(揺らぎの結果、他のものが頻度ゼ ロになる) 赤 2n 個、白 200-2n 個、計200個。 3. ランダムに100個のボールを取り出して、別 の袋に入れる。 最初 n を適当に設定して、1-3 を繰り返 す。結果はシミュレーションで。 43 中立説(neutral evolution theory) 遺伝的浮動固定 「自然選択」以外の選択機構 – – 適応度に差がなくても選択が起こる!!!!! 条件=有限の集団 – 有限集団からサンプル 数が期待値から揺ら ぐ いずれ固定が起こる 中立説:木村資生(1968) 分子レベルで起こっている遺伝子 上の変化の多くは適応度にあまり 関係のない変異である。 (小さい集団だと起こりやすい) – – 純粋に数学的に成立する – – 44 同じ構造があれば生物以外でも起こる 例)名字の数(日本は数十万種類) ・・・日本方式なら、いずれ名字は一つ収束する – 中立的なrandom genetic driftによっ て絶滅 または固定(fixed)する。 集団中で、血液中ヘモグロビンなど の遺伝子座位に多くの変異(全く淘 汰されていない)。 (ダーウィン進化論を補足) 45 ダーウィン進化と中立進化 中立進化と分子時計 完全に確率的・中立的に変異す るので、年代が測りやすい。 「分子時計」として使う 現状の見解 – – ミクロのレベルの進化=中立進化 マクロのレベルの進化=自然選択による適応 「遺伝子型と表現型」が分離していることも 中立進化が起こる一因 注意 – – – 46 – 1000万年で2%の置換率(動物のミ トコンドリアDNAの場合) ミクロとマクロをつなぐ説明は、まだできていない。 ちなみに、通常の進化ゲーム理論では中立進化のメ カニズムは殆ど考慮されてない。 しかし、中立進化はきわめて重要な概念! 47 ミトコンドリアDNAの分子時計 「ミトコンドリア・イブ仮 説」 48 8 ミトコンドリアDNAの 変異の割合 ミトコンドリア もともとバクテリア 今、われわれが持っているミトコンドリアは、 母の母の母の母の母の母の・・(略)・・のミト コンドリア 生殖に関係がないのでDNAの交叉などがな い 100万年に数%の突然変異 現生人類の分岐が描ける – 20億年前から我々の細胞 に入って共生 ミトコンドリアDNA – ミトコンドリアが独自に持つ 生殖と無関係 – 母親からのみ受け継ぐ(ほと んど) 49 我々自身の起源を知る 我々自身の起源を知る ミトコンドリア・イブ仮説 他の大型類人猿との分岐 ミトコンドリアDNAの変異を世界中の女性147人の 胎盤からとって調査(アラン・ウィルソン1987) 全員、14万年前から29万年前のアフリカにいた 女性の子孫(10万年前とも) – – 50 アフリカから人類が広がる 最初のアフリカ女性を「ミトコンドリア・イブ」と呼ぶ 5~600万年前~ 「ホモ(ヒト)属」が分岐 – 以前は、ヒトだけ系統が違うとさ れていた 化石の形態で分類 分子系統進化学の結果、ヒト の最終分岐はチンパンジー – ミトコンドリアDNAで年代も同定 チンパンジーとヒトはDNAが1 ~4%違う: Nature 2005/9/1 http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/1/1-14.html http://www.kahaku.go.jp/special /past/japanese/ipix/1/1-02.html 51 52 我々自身の起源を知る ホモサピエンスの出現 5~600万年前~ 「ホモ(ヒト)属」が分岐 200万年前~ 氷河期 十数万年前~ ホモ・サピエンス! 1万2千年前~ 間氷期(農業革命) http://www.kahaku.go.jp/special /past/japanese/ipix/1/1-07.html 53 9
© Copyright 2024 Paperzz