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363 6.5 達成度学習記録(ポートフォーリオ)の導入

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6.5
6.5.1
達成度学習記録(ポートフォーリオ)の導入事例
北海道大学工学部土木工学科におけるポートフォリオ活用例
(1) はじめに
北海道大学工学部土木工学科においては、平成 14 年度より、カリキュラムの JABEE に
よる認定を受け、創成学習、国際性教育、技術者倫理教育などを含む学習・教育目標を定
めて北海道大学の目指す教育理念(開拓者精神、国際性の涵養、全人教育および実学の重
視)の実践を行っているが、学生に対する丁寧な教育の一環としてポートフォリオの制度
を取り入れ、教育の改善に役立てている.以下に本制度についての概略を述べる。
(2) ポートフォリオアンケート調査の実施
1) 卒業生に対する調査
土木工学科の卒業生に対し、1) 自分たちが大学で受けた教育が、現在の仕事にどのよう
に役立っているか、2) 自分の職場における後輩の評判はどうか、3) 現在の職場と北大工学
部との関わりはどうか
などに関するアンケート調査を行う。アンケート調査の結果の解
析により、土木工学科の教育目標および授業形態・内容を精査し、教育の改善に役立てる。
2) 保護者に対するポートフォリオアンケート調査
土木工学科在籍学生の保護者に対し、1) 土木工学科にどのような教育を望むのか、
2)
自分たちの子供が、土木技術者としてどのような人間に育ってほしいのか、あるいは 3) ど
のような“人間力”の獲得を望むかなどに関するアンケート調査を行う。アンケート調査
の結果の解析により、土木工学科の教育目標および授業形態・内容を精査し、教育の改善
に役立てる。
3) 学生に対するポートフォリオアンケート調査
土木工学科に属する 2, 3 および 4 年生に対し、毎学期(前期および後期)の開始後に、
前学期に履修した授業の達成度 (表 6.6) およびその学期に受講している授業についての達
成度 (表 6.7)に関するアンケート調査を行う。その他、人間力に関する調査を卒業前に行う。
アンケート調査の公表により、学生一人一人が自分自身の長所・短所を認識・把握する。
アンケート調査結果に基づいて、
「達成が困難」と答えた学生は、科目担当の先生あるいは、
オフィスアワー時にアドバイスを受けて学習計画を立てる。
教員は、公表されたアンケート調査結果をもとに、自分の講義の内容の難易度、学生の
学習意欲などを認識し、教育の改善を行う(図 6.3)。
363
表 6.6
前学期に履修した授業の達成度アンケート
これまで履修し合格した科目によって現在における学習教育目標の達成度を、単位によって自己評価して
下さい。また S 判定(要再試験)の単位数も記入して下さい。
土木学習・教育目標
必要単位数
現在取得単
位数
人文科学におけるグローバルな視点
8
社会科学によるグローバルな視点および工学倫理
8
不足単位数
S 判定の単
位数
観
情報技術の処理能力
4
英語および他の外国語の基礎能力並びにコミュニ
10
ケーション能力
数学基礎と応用能力
13
自然科学基礎と応用能力
10
構造力学基礎と応用および創成能力
4
土の力学基礎と応用および創成能力
3
----------
*
合計 16 項目
表 6.7
95 単位
その学期に受講している授業についての達成度アンケート
一学期において履修可能な科目が下表にあります。あなたが履修した科目について自分自身で達成度を評
価して下さい。③と考えた人はオフィスアワー時あるいは随時に、科目担当の先生にアドバイスを受けて
下さい。また、その理由を④、⑤で答えて下さい。(複数回答可)
達成度が難しいと回答した理由として
十分に達成
ほぼ達成し
達成が難し
している①
ている②
い③
構造力学
流体力学
----
364
自分の学習
オフィスアワーなどの
不足④
活用が不十分⑤
学生
講義ノート。テスト。課題・レポート・などの保管・教育目標達成までの過程を確認(学生による
情報の一元化)
受講
[学生によるアンケート結果の活用]
オフィスアワー
自己の弱点(苦手箇所・達成度の把握
講義内容(難易度)
シラバスに基づく
Portforio アンケート
講義・評価
成績評価
Portforio アンケートによる授業評価講義
内容に関する教員による評価(反省)・改善
講義ノート。テスト。課題・レポート・などの保管(教員による講義に関する情報の一元化)
教員
図 6.3
6.5.2
学生の達成度情報・対応法
東北大学における学習記録の実施事例
(1) はじめに
平成 11-12 年度の工学教育プログラム実施検討委員会(幹事校:名古屋大学)では、達成
度判定評価を課題の一つに取り上げ議論され、平成 13-14 年度の工学教育プログラム改革推
進委員会(幹事校:東北大学)では、教育評価に関して、単なる成績 (点数による知識の量・
正確さの把握)ではなく、
「何を身につけたか?」を評価するアウトカムズ評価について議論
された.JABEE の教育システムの評価項目でもアウトカムズが重要視されてきた。
一方、近年の休学者や退学者の増加傾向が、学生の大学で学ぶ目的意識の希薄化にあるの
ではないかという点から、メンタルケアの必要性、優秀な学生への動機付けなどを目的と
して、平成 9 年度から一部の学科でアドバイザー制度が導入されていた。以上のような状
況を踏まえ、学生の学ぶ意欲を鼓舞し、工学部の教育目的・教育目標に掲げた卒業生とし
て身につけるべきことを実現するための教育システムの一環として、学習等達成度記録簿
365
を導入することとした。これは、学生に入学時に 4 年間で何をするかの目標を記述させる
とともに、各年度当初にその年度での目標を記述させ、年度末にはその達成度を自己評価
させてアドバイザー教員からの指導・助言を明記し、卒業時には 4 年間を通しての達成度
を自己評価させるものである。教育目的・教育目標に沿った項目についても 1 年毎に自己
評価させる欄を設けている.平成 15 年度新入生から実施に移され、2 年が経過した.学習
等達成度記録簿の内容、実施体制、実施上の問題点などを紹介する。
(2) 学習等達成度記録簿の導入
学習等達成度記録簿の記入項目を表 6.8 に示す.この記録簿は 4 年間使うため厚手の用紙
を使用し、管理が便利なように A3 のサイズ 1 枚を二つ折りにした 4 ページとした。この実
施は、単に学生に記録簿に記入させるだけでなく、アドバイザー教員が指導・助言する体
制をとっている.そのため、1 学年約 850 名の学生を 5∼7 人のグループに分け、各グルー
プにアドバイザー教員(教授)を配置する。工学部の全教授がアドバイザーになるものと
している.アドバイザーは毎年 4 月に面談をして記録簿への記入を基に学習状況を把握し、
指導・助言し、学習に関連する悩みなどの相談にものる。ただし、学習以外の悩みや休学・
退学の相談は教務委員やクラス担任があたり、アドバイザーはクラス担任等と連携しつつ
学習促進を主な目的とした相談に応じることとしている。学生との連絡には、電子メール
(授業用メールアドレス、携帯電話アドレス宛)を用いることを原則とし、電話連絡も可
能なようにしている。記録簿への記入内容は、教育システムとしては、各学科の教育プロ
グラムの達成度判定用資料や今後のカリキュラム編成の改善に活用することを想定してい
る.学生に対しては、記録簿への記入によって学生個々人の目標を明文化することにより、
将来への希望、夢を明確化し、それを実現するための方法やサブ目標を自覚させ、自律的・
意欲的に学習していくことを期待している。ともすれば漫然と授業を聞くことになりがち
な学生が主体的に授業に取り組むことが期待される。年度毎に記入させることにより、将
来についての助言、指導がタイムリーになされることが期待され、コース分け・研究室配
属などで人気投票的な選択が行われていたのを目的と実態の整合のとれた選択が可能とな
る指導・助言ができ進路への不安を解消できる効果も期待されている。卒業時における達
成度自己評価は、学生個々人のアウトカムズ評価で将来設計に役立つとともに、その全体
は工学部卒業生に関するアウトカムズ評価であり学部教育システムの評価として対外的意
味をもつ。本記録簿の制度は、平成 15 年度入学生から実施し 2 年が経過したが、現在のと
ころ、記録簿提出者は全体の約 85%になっている.これは、最初のガイダンスに欠席して
記録簿を受領しなかったり、アドバイザーとの連絡がとれない場合があることが原因で、
改善すべき点である。また、電子メールを読む時間が週1回の授業になってしまうことや
部活などと競合したとき学生本人の優先度に温度差があることが、アドバイザーの呼び出
しに応じない原因になっていると考えられる。年度当初の新入生名簿の完成が遅いため、
グループ分けやアドバイザー割当てが遅くなるという問題点の解決も今後の課題である。
366
表 6.8
記録簿記入項目([ ]の部分は説明用で実際には記載していない)
[表紙]
学習等達成度記録簿
学籍番号、氏名、出身高校
所属学科、研究室
現住所(住所、電話、携帯、E メール)[2 欄]
帰省先(住所、電話)[2 欄]
アドバイザー教員(年度、氏名、連絡先(内線))
[入学時記入項目]
(1) 大学 4 年間における勉学目標
(2) 大学 4 年間における勉学以外の目標
[年度毎の自己採点項目]
(3) 自己採点(各学年の春に、100 点満点で自己採点を行って下さい.入学時に
おける大学生の平均を 60 点と考えます.)
項目 (入学時、年(五つ)、卒業時 の七つの点数記入欄)
・工学に関しての基礎知識(物理・化学・数学・情報など)
・各工学分野の基礎知識(専門科目など)
・課題を正確に理解する能力
・英語、その他の外国語による表現力
・人前での発表能力
・人と話し合ったり、議論する能力
・倫理観、責任感が身についているかどうか
・社会性や国際感覚が身についているかどうか
・読書、講演会への参加、英会話や情報処理学習など
・大学以外での学習による自己啓発・生涯学習能力
・実験計画で情報機器を操作できる能力
・実験計画を整理し、結果を的確に記述できる能力
・課題を発見できる能力 [*]
・実験計画などを設定できる能力
367
・課題を解決するための文献や、資料を検索でき、その要点を整理する能力
・自ら着想する能力・創造する能力 [*]
[* :平成 17 年度から追加]
[年度毎の記入項目(4 年分、追加記入用紙も準備)]
・目標(勉学を中心に書き、授業以外に英会話、コンピュータ学習、読書、部活、クラブ、ボランテ
ィアなども書いてよい)
・達成度評価
・教員用(アドバイザーの意見および署名欄)
[卒業時記入項目]
以下は、卒業時に書いて下さい.
(1) 大学在学中における勉学目標の達成度
(2) 大学在学中における勉学以外の達成度や成果
(3) その他、在学中を振り返っての感想(よかった点、悪かった点など)
(4) 教員(アドバイザー)の意見
[注意事項等]
○ 指定されたときに記録簿を受け取り、指定された期日までに各学科の教務係窓口に
返却して下さい.毎年 4 月、および、卒業時に記録していただきます.
○ アドバイザーは、学生から受け取った際、目を通し、必要に応じて意見を記入し、
署名(年月日も記入)してください.
○ 個人の教育達成度を向上させるための記録です.結果は、各学科の教育プログラム
の達成度判定用の資料や、今後のカリキュラム編成の改善等に利用されますが、
個人の秘密は守られます.
アドバイザー教員について
1. 学生の学習を効果あらしめるため、アドバイザー教員をおく.
2. アドバイザー教員は、毎年4月および学生の卒業時に学生と個人面接し、学生の
学習状況を把握すると共に、学習に対する指導・助言等を行い学生の学習促進を
図る.また、そのことを学習等記録簿に記録しておく.
3. アドバイザーは、必要に応じ、学科長、クラス委員、教務委員等と連携して学生の
学習促進を図る.
368
今後、持続的に改善を検討し、活用方法も具体的に検討していく予定である。
6.6 企業の技術者育成
―デンソーにおける技術者の継続的育成評価―
6.6.1 デンソーの技術者教育と達成度評価概要
デンソーの技術者教育体系は、新人から役職者まで各層の技術者に対し、全体のレベル
アップを目的とした「技術導入研修」
「スキルアップ研修」と、選抜技術者を対象とした「ハ
イタレント研修」「製品開発リーダ研修」、および達成度を評価する「技術検定」「技術研究
論文・討論会」「教育ナビゲート」により構成されている。
(技術者教育体系を図 6.4 に示す)。
図 6.4 デンソーの技術者教育体系
大学・大学院、企業に入ってからの教育と、育成達成度評価を一つに表すと図 6.5 のロード
マップのようになる。それぞれの育成手段は異なる。特に企業に入ってからの育成手段は、
企業の特性によって大きく異なってくる。しかしながら技術者の持っている基本的な力(人
間力+専門力)は大きく変化するものではないため、技術者の育成については、大学から
企業まで、一貫して同一の測定尺度で評価する必要がある。今回、新入社員研修を通じて、
8 大学と同じ尺度を用いて人間力達成度評価を実施したので、その結果を中心に、企業での
達成度評価の取り組みを報告する。
(1) 新入社員の人間力意識分析結果
369
図 6.5 ロードマップ
新入社員に対して、人間力に関する次の 13 項目の達成度評価(習得意識と重要度意識)
を調査した。
① 未知な課題を自ら解決する力
② 課題目標に合致する解決手法を考え、最適な解を見つけ出す力
③ 自分の専門分野以外の分野に対する理解度(学際力)
④ チームワークとして自分の能力を発揮する力
⑤ 日本語による文章力、討論などのコミュニケーション力
⑥ プレゼンテーション力(人に理解させる為の文書作成能力、効果的なプレゼン
テーション)
⑦ 問題解決のための情報収集能力
⑧ 自己研鑽・自己啓発が継続的にできるような学習の習慣
⑨ 未知の学習内容についても自力で学習可能な総合的な基礎知識や基礎学力
⑩ 企業人として社会に対する責任を自覚する能力(企業倫理、技術者倫理)
⑪ 英語によるコミュニケーション力の基礎
⑫ 国際的能力(国際チームで活躍できる能力、異文化への対応力)
⑬ 企業人として国際的視点で考える習慣
この調査の結果、人間力に対する重要度は高く意識しているものの、これまでの教育で
特に国際能力に関する習得意識が非常に低く(図 6.6)、事務系新人に比べて低いという分
370
図 6.6
新入社員意識調査結果(入社時)
図 6.7
出身大学別の比較
析結果(図 6.7)が得られた.また 8 大学と他大学出身者に差はない(図 6.8、図 6.9)。以
上より、企業における人間力育成および継続した達成度評価が必要である。
(2)新入社員の達成度評価
新人導入研修において、研修の目標(モノ作り企業の即戦力として業務遂行できる基本
能力の獲得)に対する達成度評価をおこなっている。デンソーの新人導入研修の狙いは、
①モノ作りの一貫学習を体験、②自分の役割を自覚、③チームワークとコミュニケーショ
371
図 6.8
図 6.9
出身大学別の比較
8 大学での調査結果との比較
ンの強化にある。図 6.10 に示すように受講生の研修に対する満足度は高く、モノ作りの基
礎としての業務の流れや、上流業務の重要さに対する理解が深まり、チーム活動を通して、
自主性の向上、対話能力の向上が図られている。また図 6.11 に示す研修のカリキュラム毎
の個人達成度評価を行い、研修修了後に上司経由で本人にフィードバックしている。その
結果を見て、本人は上司と面談し、後述する教育ナビゲートにしたがって、今後の自己伸
展目標と育成計画を立案・合意することとしている。
372
(3)専門力の達成度評価
入社 3 年後の全技術者に対して、専門力の達成度評価として技術検定を実施している。
デンソー技術者全員に必要な基礎専門力と、デンソーの専門技術分野にそった職能(10 職
種)の専門力の両方を評価している(図 6.12)。職能毎に必要な技術範囲とレベルを明示し、
技術力を学科と実技で検定することによって、若年技術者を早期に育成することを目的と
している。技術検定に合格することにより、各職場で必要な技術レベルを習得した技術者
として認定される。検定問題は該当技術分野の先輩技術者(技術検定優秀合格者)が作成
している。
図 6.10
6.6.2
研修に対する評価結果
継続的育成評価
専門力の育成評価については、技術検定受検後の継続的な育成評価として教育ナビゲート
を行っている。教育ナビゲート(図 6.13)は、個人の成長目標と育成計画を上司と合意し
自己申告時の面談時に教育実績と能力伸展の確認を行い、本人と上司との間での育成に関
するコミュニケーションを促進することと、一連の過程をナビゲートシートに記録し人材
育成の過程を把握し、職場が変わっても継続的な育成ができるようにするものである。こ
れにより、教育を個人任せにするのではなく、会社の期待と合致させることができる。
373
図 6.11
個人達成度評価
図 6.12
技術検定
374
図 6.13
教育ナビゲート
人間力の育成評価については、02 年度の新入社員よりモノ作り研修の前後と配属後の、受
講者の能力、行動特性を追跡調査する活動を行っている.
(図 6.14) 新入社員の意識分析
調査項目に合わせ、同一尺度を用いて、職場上司と本人に対するアンケート調査により、
図 6.14
追跡調査
375
意識と行動特性がどう変化しているかを分析している.職場の環境、すなわち OJT による
育成のばらつきの影響がでてきているが、もう少し継続調査した上で、分析したい。
6.6.3
今後の展開:人間力の育成について
今後は、若手選抜技術者;ハイタレント人材の人間力の育成について充実していく.ハ
イタレント研修では、真のビジネスリーダ候補の人材として育成することを考えているが、
人間力を育成するために世界最先端技術の研究者とデンソートップマネジメントとの直接
対話を通じて、“気づき”の場を与え、技術リーダ人材としての自己成長を促していく。
6.6.4
技術者のあるべき姿
最後に、技術者育成と継続的な評価の目標としての技術者のあるべき姿は“常に挑戦し、
何かを創造できる人材、プロジェクト型組織で活躍できる人材”と考える。そのための重
要な能力を次のように考え、技術者を育成していきたい。
・ 自分の軸足を確立できること(プロフェッショナルな専門分野を確立)
・ 継続的な自己啓発ができること(語学、読書、趣味、他)
・ 将来のあるべき姿をしっかり見据えられること(心、技、体のバランス)
・ チームワークの強みを意識できること(素直に、オープンに考え、行動できる)
・ 目標を与え、それを実現できること(目標達成、問題解決の色々な手段を気づき、実行
できる)
6.7
セミナーの開催と内容
世界的に通用する技術者育成が求められる中、我が国の工学教育を受けた学生の達成度
を評価する基準が必要になってきている。また、高い専門的教育を受けた「専門力」だけ
でなく、国際的な環境などさまざまな問題や状況に適応できる「人間力」も重要な能力と
考えられるようになってきた。これら「専門力」や「人間力」がどの程度身に付いている
のか、その達成されるべき基準や評価方法について産学交えて幅広く議論し、求められる
人材育成が達成できる工学教育プログラムを確立する方策を見出すために、大学教育の達
成度の判定基準および評価法に焦点を絞り第 3 回セミナーを実施した。参加者数は約 120
名であり、セミナーのプログラムは次のとおりである。
第 3 回セミナープログラム
日時:平成 16 年 9 月 10 日(金) 9:30∼17:20
会場:東京工業大学 大岡山西 9 号館 デジタル多目的ホール
テーマ:達成度評価法の新しい試み:人間力と専門力の向上を目指して
∼なにを身につけさせたいのか?なにが身についたのか?∼
376
9:30- 9:40 「開催の挨拶」
水谷惟恭 委員長 (東京工業大学 大学院理工学研究科教授)
9:40-10:00 「8 大学工学系アンケート趣旨説明」
日下部 治 主査 (東京工業大学 大学院理工学研究科教授)
10:00-10:30 「8 大学工学系アンケート結果報告」
中山 実 氏 (東京工業大学 教育工学開発センター助教授)
10:30-10:45 「北大工学部土木工学科におけるポートフォリオの活用事例」
佐伯 昇 氏 (北海道大学 大学院工学研究科教授)
10:45-11:00
「学習等達成度記録簿の導入と実施体制」
阿曽弘具 氏 (東北大学 大学院工学研究科教授)
11:00-11:30 「デンソーの技術者育成の継続的評価」
小久保尚躬 氏 (デンソー技研センター 専務取締役技術研修所所長)
11:30-12:00 「企業が求める人材ニーズと人材評価」
角方正幸 氏 (リクルート ワークス研究所 主幹研究員)
13:30-14:30 基調講演「教育 尽くせぬ課題」
末松安晴 氏 (国立情報学研究所 所長)
14:30-15:30 基調講演「企業が求める理工系高等教育と評価法」
大輪武司 氏 (日本機械学会工学教育センター長)
15:40-17:10 パネルディスカッション
パネリスト:講演講師、分科会委員、
司会:日下部 治 主査
17:10-17:20 「閉会の挨拶」
三木千壽 幹事校代表 (東京工業大学 大学院理工学研究科長(工学系))
6.7.1
○
講演の概要
8 大学工学系アンケート趣旨説明および 8 大学工学系アンケート結果報告
(講師:日下部 治・中山実)
達成度評価の趣旨説明があり、output から outcomes 評価が重要視され、知識量の評価か
ら能動的、行動的内容によって評価される傾向があることが述べられた.さらに、フィー
ドバックシステムによる教育の質を改善するために、PDC(Plan Do Check)サイクルが重要で
あり、このためにも達成度の評価方法を確立する必要がある。
8 大学工学系の学部学生に対して平成 15 年度から平成 16 年度にかけて行った達成度評価
アンケート調査の結果概要が報告された。この調査の目的は、工学系の大学卒業生に求め
られる能力の達成度を調べて、大学における教育の問題点を明らかにすることである。な
お、求められる能力を、人間力(問題の発見と解決に関する能力)と専門力(各専門分野にお
ける知識)に分けて調査した。
377
人間力の調査は 8 大学の卒業直前の学生に web サイトにアクセスしてもらい、66 項目に
ついて回答させるという方法をとった。回答を分析した結果、8 大学の中で大学間による差
はほとんど見られなかった。大学での学習目標の達成については、約 1/3 の学生が肯定的な
実感をもっている。また、プレゼンテーション技能やコミュニケーション能力、チーム能
力などの人間力の重要度に対する認識は非常に高く、ほとんどの項目で 90%以上の学生が
重要であると認識しているという結果が出た。しかし、実際にこれらの人間力が身に付い
たか否か自己評価を問うたところ、30%程度の学生しか肯定的な認識がなかった。さらに、
人間力を磨く活動としては、80%以上の学生が卒業研究をあげており、これに実験、クラブ
活動、アルバイトなどが続いている。大学へのプライドと自己評価では、半数以上の学生
が大学へのプライドを持っているものの、それに見合った実力がついたと回答した学生は
40%程度にとどまっている。
専門力の調査については、8 大学に参加している各大学ごとに行われ、分野ごとに 100 語
程度重要と思われる用語をリストアップし、その理解度・習熟度を調査した。大学間で一
部の用語に対する回答に違いも見られたが、これは大学ごとのカリキュラムの違いを反映
するものと考えられる。
なお、本分科会で行った達成度評価アンケートの詳細については、本報告書の別項を参
照されたい。
○
北大工学部土木工学科におけるポートフォリオの活用事例
(講師:佐伯 昇)
北海道大学工学部土木工学科では、学習・教育目標、技術者倫理などの教育方針の設定(Pf-
アンケート A)、学生の履修中の科目の達成に関する難易度および履修科目の達成(Pf-アンケ
ート L)、オフィスアワーの活用状況や学習・教育目標の改善のための情報(Pf-アンケート
H)などを調査するために、ポートフォリオ−アンケートを実施している。
Pf-アンケート A では、学習・教育目標の確認、Outcomes では全体の約 75%の卒業生から
大学で学んだことを基に社会に出てやっていけたなどの回答が得られている。Pf-アンケー
ト L では教員が達成の難易度を知り個人指導や講義方法の改善の資料としている。またア
ンケートの集計結果を web 上で提示し、学生が自分の状況を確認する情報源として活用し
ている。これ以外に、OB/OG との連携を構築するためにアンケート調査(Pf-アンケート
OB)を実施し、学科に対する要望や支援の可能性を調べている。
学生の最終的な達成度評価は専門力と人間力にある。専門力の評価は可能であり、人間
力に比べて容易である。人間力は、技術者倫理教育によって支えられている。技術者倫理
を習得することは自己認識であり、コミュニケーション能力であり、信頼される人間とな
ることである。すなわち信念と志をもった人間になることである。これを評価することは
難しいが、卒業論文感想レポート(何を身につけ、これをどう生かすか)や、ポートフォ
リオ・アンケートなどによって志を聞いて、記録する方法も有効と考えられる。
378
○
学習等達成度記録簿の導入と実施体制
(講師:阿曽弘具)
東北大学工学部において平成 15 年度入学生から導入された学習等達成度記録簿について
報告があった。
従前より、休学者や退学者が増加傾向にあることを受け、5、6 名の学生に 1 人の割合で
アドバイザー教員を配置し、学生の希望や夢を聞き、将来についての助言指導を行ってき
た。これをさらに発展させ、年度当初の 1 年間で何をするか目標を設定させ、年度終了時
に目標の達成度を自己評価するために、学習等達成度記録簿を導入した。目標の設定と達
成度の自己評価を積み重ねることによって、卒業時に 4 年間を通じての達成度評価がなさ
れる.入学時の記入項目には、大学 4 年間における勉学目標および勉学以外の目標があり、
卒業時にはそれぞれの達成度自己評価とアドバイザー教員の意見が記入される。約 850 名
の学生に対して、5∼7 名ごとに 1 名のアドバイザー教員を配置して平成 15 年度入学生から
実施しており、クラス担任や教務委員との連携のもと、効果的に機能しはじめている。
達成度記録簿の導入によって、学生個々の目的意識が明確化され意欲と目的をもって授
業に取り組むことができるという効果が期待される。また、進路への不安を解消し、学生
自身が大局的に考えてそれを実現する力を身につけることも効果として期待される。平成
16 年度は導入 2 年目であるが、85%の学生が提出している。
○
デンソーの技術者育成の継続的評価
(講師:小久保尚躬)
新入社員に対して、次の 13 項目について習得度と重要度を調査した。
1.未知な課題を自ら解決する力
2.課題目標に合致する解決法を考え、最適な解を見つけ出す力
3.自分の専門分野以外の分野に対する理解力(学際力)
4.チームワークとして自分の能力を発揮する力
5.日本語による文章力、討論などのコミュニケーション力
6.プレゼンテーション力(人に理解させるための文書作成能力、効果的なプレゼン
テーション)
7.問題解決のための情報収集能力
8.自己研鑚・自己啓発が継続的にできるような学習の習慣
9.未知の学習内容についても自力で学習可能な総合的な基礎知識や基礎学力
10.企業人として社会に対する責任を自覚する能力(企業倫理、技術者倫理)
11.英語によるコミュニケーション力の基礎
12.国際的能力(国際チームで活躍できる能力、異文化への対応力)
13.企業人として国際的視点で考える習慣
379
この調査の結果、人間力に対する重要度は高く意識しているものの、これまでの教育で
人間力、特に国際能力に関する習得意識が非常に低いという分析結果が得られた。また、
人間力に関しては 8 大学と他大学出身者に差はなく、企業における人間力育成および継続
した達成度評価が必要であるという結論が得られた。
新人導入研修において達成度評価を行っている.新人導入研修のねらいは、もの作りの
一貫学習を体験し、自分の役割を自覚させること、チームワークとコミュニケーションの
強化にある。受講生の研修に対する満足度は高く、もの作りの基礎として業務の流れや上
流業務の重要さに対する理解が深まり、チーム活動をとおして自主性の向上、対話能力の
向上が図られている。
また、専門力の達成度評価として技術検定を実施している。これは、職能ごとに必要な
技術範囲とレベルを明示し、技術力を検定することによって、若年技術者を早期育成する
ことを目的としている。技術検定に合格すると、必要な技術レベルを習得した技術者とし
て認定される。
継続的な育成評価として、教育ナビゲート、追跡調査を行っている。教育ナビゲートで
は、教育の受講に際して、個人の成長目標の設定、上司との教育計画の合意形成、自己申
告と面談による教育実績と能力伸展の確認など、一連の過程をナビゲートシートに記録し、
人材育成の過程を把握するものである。また、研修前後と配属後の受講者能力、行動特性
を追跡調査により把握し、課題を研修の改善に反映させている。
今後は、ハイタレント人材の育成、人間力の育成について展開を考えている。ハイタレ
ント育成では、真のビジネスリーダー候補の人材を選抜して育成することを考えている。
人間力育成では、世界最先端技術とトップマネジメントとの直接対話を通じて、技術リー
ダー人材としての基礎を築くことを目的としている。
デンソーの技術者育成と継続的な評価を通して、技術者のあるべき姿として重要な項目
が次のように考えられるとの指摘がなされた。
・自分の軸足を確立できること(プロフェッショナルな専門分野を確立)
・継続的な自己啓発ができること(語学・読書・趣味、他)
・将来のあるべき姿をしっかり見据えられること(心、技、体のバランス)
・チームワークの強みを意識できること(素直に、オープンに考え、行動できる)
・目標を与え、それを実現できること(目標達成のために色々な手段を提示できる、
問題解決のために色々な手段を気づき、考え、実行できる)
○
企業が求める人材ニーズと人材評価
(講師:角方正幸)
企業が求める人材ニーズについて調査した結果が報告された。その結果、高度専門人材
に対するニーズが高まってきたものの、求める能力を持った人材を確保できる企業は 3 割
弱であること、新たな採用や外部の人材を活用するより社内の人材を育成する方向にある
380
こと、若年ニーズが減少していること(年齢別では 20∼24 歳のニーズが最低)などの結果が
得られた。
企業が重視する能力は、主体性(主体的に問題を発見・設定し、解決に導くことのできる
能力)、プロ意識(しっかりとした職業観、自己責任の観念、アカウンタビリティ、高い倫
理観、知力(産業社会に携わっていく上で必要不可欠な基礎知識・学力))である。また、企
業が求める人材の上位項目は、意欲的な行動、自ら問題形成できること、柔軟に対応でき
ること、高い専門性、広い視点、チャレンジ精神、自立的に仕事する、個性豊か、情報感
受性などである。
企業経営者から見た若者の強い点は、IT リテラシー、感性、環境適応力、国際性、協調
性、プレゼンテーション力などである。逆に弱い点として、忍耐力、問題解決能力、市民
としての自覚、課題発見能力、チャレンジ精神、責任感などが挙げられている。また、新
人、若手層、管理職層とキャリアによって重視される能力が変わり、新人、若手層では実
行する力が第一とされているのに対して、管理職層では支援・指導する力が第一に重要視
されている。
なお、誰とでもコミュニケーションでき、少しのことではつぶれず、自ら目標を定める
ことができ、必要な時に必要な事を学ぶ習慣をもつ人材がどこでも求められている。また、
企業ニーズを反映した高度専門人材の能力評価基準を言語化して共通の尺度を設ける必要
があること、高度な産業人材の能力評価・認定のための評価者を育成する必要があること、
プログラム開発における教育機関への支援体制と産官学の連携を強化する必要があること
が、高度専門人材調査によって課題として抽出された。
○
基調講演「教育 尽くせぬ課題」
(講師:末松安晴)
工学の分野として学力とは、専門的技術・技能力、知識力、問題発見・設定・解決力、
総合力・判断力、解析力・応用力、表現力・英語力である。一方、人間力とは、積極性や
意欲、倫理観や責任感、協調性、自己啓発力や管理力、国際感覚、経済感覚であり、学力
とともに身につけないとバランスのとれた人間とはいえない。頭の鍛錬、
「考えて行い、行
って考える」、感激、本物に 接すること、人と社会へに関心を喚起する、人の間の相互作
用(討論、グループ活動・研究、対話)、チームティーチング、課外活動やクラブ活動、社会
奉仕などによって人間力は育成される。
さらに、課程博士には次の力を身に付けることが期待される。
・プロジェクトを企画できる力
・専門分野の課題解決力
・プロジェクトに関する情報収集能力
・プロジェクトをやり抜く情熱
・プロジェクトを取りまとめて報告する能力
381
これを身に付けるためには、柔軟な博士後期課程の学生教育が必要であり、そのために、
前後期一貫大学院教育は重要であり、大学院博士教育を成功させる社会的連携や大学院生
を交えた最先端研究者の集中討論が有効である。
○
基調講演「企業が求める理工系高等教育と評価法
(講師:大輪武司)
まず、企業が求める人材としての上位項目は、コミュニケーション能力、チャレンジ精
神、主体性、協調性、誠実性、責任感、ポテンシャル、創造性などであり、学業成績や保
有資格などはさほど求められていないという日本経団連調査結果が紹介された。企業が求
めるのは技術者であって工学者ではない。科学と技術の対比という視点で見ると、技術で
はまず物のイメージを作る必要があり、そこで初めてそれを解析して性能を求める。これ
は科学の方法とは逆の手順である。科学はすでに存在する物に働いている普遍的な法則を
探求するのに対して、技術は新しい機能を実現する具体的な方法を案出し、作り上げ、利
用するという特徴がある。
技術環境が 80 年代から 20 年間を経て大きく変わってきた。欧米から技術を導入し、安
く作ることで競争力を得られた時代は終わり、欧米を見れば次に何を作るかがわかった時
代は過ぎ去った。世界に先駆けて顧客の心をつかむものを作り出す必要があり、本当に何
を作ったら売れるかを真剣に考えなくてはならない時代になった。そして、これが本当の
技術者の仕事である。国際的に通用する技術者とは、本当の技術のできる優秀な技術者で
あり、今までに世の中になかったものを考え出し、作り上げ、運用するところまでもって
いける人間である。そして、世界で初めての製品を考え出せることが重要である。
ここで、優秀な技術者を教育する方法があるかということが問題である.技術者教育認
定の制度は、この観点から意義がある.教育の目的が、工学という学問の伝授から技術者
を育てることに変わる。また、学生に対する評価としては、学業成績だけでなくコミュニ
ケーション能力や責任感のような人間力の成績も加味した総合的な評価が必要であり、そ
れができる評価方法を確立することが重要である。さらに、教育方法を作るということは
教育法の設計であるので、設計の評価方法である品質機能展開---QFD(Quality Function
Deployment)が教育方法の評価方法として利用可能と考えられる。
6.7.2
パネルディスカッション
講師と本分科会委員がパネリストとなり、会場からの発言を交えながら次の項目につい
てパネルディスカッションを行った。
・outcomes による達成度評価の意義と必要性
・人間力と専門力評価の意義と有効性
・達成度評価の評価手法について
・人間力と専門力をどのように育むか(教育改善、企業との連携など)
382
主な意見は次のとおりである。
・大学における人間力の評価結果を就職に際して企業に開示することは学生の育成に有
効である.一方で、個々の学生に対する人間力評価は、本人以外に開示する必要はな
いという意見もある。
・専門力というより専門学力という方が適切であり、学力全体を評価して達成度をみる
べきであろう。
・アンケート調査結果では人間力の育成に卒業研究が効果的であるという結果が出てい
るが、1 年かけて行う卒業研究は費やす時間の割に得られる効果が少ないと感じる。こ
れによって工学カリキュラム全体に無理が生じている。
・キーワードを用いた評価法は教育システムを評価して教授法などにフィードバックす
るという目的には適している。一方、ポートフォリオを用いる学生評価は、個人が何
を身につけたのかを評価することができ、個々の学生を育成する場合に有効に機能す
る。
6.7.3 セミナーのまとめ
本セミナーでは、産学の識者から、「人間力」と「専門力」とをキーワードに、教育に関
する達成度評価法に関連するご報告をいただいた。
焦点である「人間力」と「専門力」に関しては、その重要性が、会場を含むセミナーの参
加者間で予め十分に共有されていただけでなく、いくつかの調査報告が示すように、学生
や新入社員の間でもすでに常識化していることが今回明らかになった。その意味で本セミ
ナーにおいて、これまで主として直感的に理解されてきた「人間力」や「専門力」の概念
が、さらに明確になったことは重要な収穫である。これについては、「人間力」概念の提唱
者である末松先生をはじめとする講師の方々のご発表に由るところが大であった。
一方、
「人間力」と「専門力」の達成度評価およびそれに関連する教育的な試みについては、
産学、特に学においては端緒についたばかりであり、今回のセミナーによって、その手法
や目的等に関する知識の共有がスタートとしたといえる。今後は、「人間力」/「専門力」
調査のような八大学共同の試みとポートフォリオや学習記録簿のような個々の大学の試み
とが共鳴し合いながらスパイラルアップの形で進化し、それが参加各大学の教育に生かさ
れる道筋を明らかしていくことが重要である。そのためにも、大学以上にこれまで人材の
問題に関する蓄積がある産業界との協調が益々大切になることは明らかであり、本セミナ
ーにおいても産業界から 3 人のご報告をいただいたのは貴重な機会となった。
さらに、パネル討論において、「人間力」と「専門力」の問題をみる観点として、卒業研
究とその教育効果に関する議論が行われたことは特筆に価する.今後、「人間力」と「専門
力」の双方を効果的に高めるカリキュラムのあり方の検討が重要な課題となるであろう。
383
6.8
提言
工学教育プログラム基準強化委員会第 3 分科会では、本報告書提出に際し今後の活動推進
のために、以下の提言を置きたい。8 大学工学部・工学系研究科は
(1) 産業界との接続を重視し、生涯にわたる技術者の人材育成の視点から学部学生
の達成度評価を行うこと。
(2) コアリション機能を用いてアンケート方式による学部学生の達成度評価を継
続的に実施し、教育改善にフィードバックすること.そのための実施組織を構
築すること。
(3) 人間力および専門力の両面から達成度を評価すること。学生の学習目標と達成
度を明示するために有効なポートフォーリオの標準的な書式・実施方式を確立
すること。
(4) 主要専門科目に関連するキーワードを用いた学部学生の専門知識の理解度の
判定手法(専門力調査手法)の継続的実施・改善につとめること。
6.9 各委員からの活動へのコメント
○
―活動に参加して―
工学教育プログラム基準委員会に参加して
九州大学大学院工学研究院、工藤 和彦
私は JABEE が発足し審査を始めたときからこれに加わってきたが、その中で学生の教育
学習目標の設定に対し、実際の達成度を判定・判断することに最も難しさを感じていた。
本委員会が平成 15 年に始まって、3 つの分科会(大学院教育課程、国際競争力、達成度判
定)が並行して活動していくとの説明があったとき、第 3 分科会(達成度判定)への参加
を希望した。第 3 分科会での活動を通してこの問題について参考になる成果が得られるの
ではないかとの期待があったからである。
2 年間の第 3 分科会の活動では直接の解は示されなかったが、達成度を定量的に解析する
手法について意見交換を行ったことは貴重な参考になった。「人間力」「専門力」という用
語にもとまどったが、終わりには何となくしっくりしてきたし、調査手法も今後の改善に
よりさらに練り上げられていくことと思う.今後もこれには協力させていただく。
水谷委員長はじめ幹事校東工大の方々の委員会へのサポートに大いに感謝するとともに、
幹事の方々の毎回の議事取りまとめ・報告の処理能力は驚嘆すべきものであったことを特
に付記させていただく。
○
第 3 分科会の活動に参加して
大阪大学工学研究科、池田 雅夫
教育学習による達成度とは何か、そして、それはどのようにすれば測ることができるのか、
その問題に対して完全な回答はないのでしょう。第 3 分科会では、いろいろな議論の末、
384
キーワードを用いたアンケート方式が使えるのではないかということになり、実施と改善
に取り組んできました.それを実際に実施した教員の方々に意見を聞くと、それだけでは
不十分で、思考を伴う設問も必要ということです。ならば、どのような設問がいいかとい
うと、それを作ることは大変な苦労を要します。
評価は必要です。そのため、あらゆることに対して評価システムを作ることが求められ
ています。その結果、多くの教員がシステム作りに参画し、疲れてきています。完全な評
価システムはあり得ませんから、評価システムの設計においても、費用(労力)対効果(有
効性)を考えるべきです。その意味で、キーワードを用いたアンケート方式は、よい考え
だと思いました。
ただ、評価の視点を複数にすることは絶対に必要なことで、評価の視点として何が適切
かを常に考え、一つに絞ることをしないほうがよいと思います。そうすることにより、教
育はどうすればより良くなるのか、学習に結び付けるにはどうすればいいのか、について
改善を考えていけると思います。
第3分科会の活動に参加させていただき、議論の中で他大学の委員、そして東工大の支
援委員の方々の教育に対する熱意を知ることができ、大変勉強になりました。
○
第 3 分科会の活動に参加して
大阪大学基礎工学研究科、大城 理
大学教授に就任して最初に参画した学外プロジェクトが、8 大学工学教育プログラム基準
強化委員会であった。私自身,これまでにも教育活動は行ってきており、自分なりに教育
技術を向上させてきたつもりである。しかし、単方向的なもの。すなわち、一方的に喋る
ことが殆どであり、学生からのフィードバックは、簡単な授業アンケート程度であった。
私個人の場合であるが、学生の講義出席率はあまり高くなく、受講態度もお世辞にも良い
とは言えない。これは、講義が興味を引く内容でないことにも起因するが、上述した単方
向性にも大きな原因があると思われる。
今回のアンケート、特に、人間力アンケートにおいて、「教員」より「先輩や友人」、「授
業」よりは「卒業研究」が、学生にとっては「頼りであった」、「役に立った」という結果
が得られた。「先輩や友人」とのディスカッションや「卒業研究」における指導の方が、双
方向性が高いことは明らかである。このことは,実は,学生は give 型ではなく,give and take
型の教育に飢えているのではないかと思わせる。
専門力アンケートでは、
「教わったことに関しては理解度が高いが教わっていないと理解
度が低い」という当たり前の結果が得られた。しかし教員が教えることができる範囲には
限度があり、教わっていないことも自ら学ばせるために教員は何をすべきかを考えさせら
れる結果となった。
今回,これらのアンケートは学生の達成度を測るために行われた。しかし個人的には、
自分の教育技術、さらには,教育することとは何かを改めて考えさせられることになった。
385
○
達成度判定基準分科会に参加して
東京工業大学理工学研究科、日下部
治
水谷委員長、太田口副委員長のもとで東京工業大学工学部の卒研生達成度のアンケート
調査のお手伝いをさせて頂いた経験からか、今回の達成度判定基準分科会の主査を務めさ
せていただいた.分科会の議論を通じて今回も大いに勉強をさせていただいた。分科会の
委員、支援委員の皆さんにまず篤くお礼を申し上げたい。
分科会初期の中核的な議論の一つは、多様な潜在能力を持ち、多様な学習習得過程を経
る学生群を、ある特定の一時点でかつ有限の質問項目群で達成度評価を行う意義とその実
行可能性であった(それでは入学試験と同じではないか!)。特に、達成度の視点を、「人
間力」と「専門力」に分離したとき、成長しつつある学生の「人間力」の達成度をはかれ
るものであろうか?もし計測可能としても、それは大学の学部教育期間による成果と判断
してよいものであろうか?多様な学生の活動のどの部分が達成度向上に寄与したと同定で
きるのであろうか?「専門力」の達成度判定は、特定の専門教育プログラムが想定してい
る伝達すべき知識量と質に対して現時点でのその知識の定着度合いを計測するものであっ
ても、技術者教育として重要な学生の専門家としての「判断力」を判定することが可能で
あろうか?等々の真剣な議論があった。分科会活動を終えた今でも、自分はそれらの問い
に対しての十分な解答はまだ得られていない。最良の教育は、常に興味と意欲をもって積
極的に学ぶ喜びを学生の心の中に沸き起こすことができるかであると言われるが、そうし
た教育活動の本質を見失うことの無いように心がけながら達成度判定基準をどのように作
成し、結果を利用するかをこれからも考え続けて行きたいと思う。
386
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