第17回 ドラッカー「マネジメント」研究会 2010.9.22 <発表 02> 「ドラッカーと不況期のマネジメント」 上野 周雄 不況期のマネジメント ―― 一般論として 好況期は、波に乗りさえすれば、目的であるべきものから 目が離れても結果はでる。しかし、本来の目的から異なった 方向へ行ってしまうことになる。本来の目的から外れている と、不況期には一層厳しくなる。 不況期には、経営者の普段の心構えが試される。次の好況 期に備え、どのような努力をし、どのような備えをしておく かで、好況の波に乗り遅れずに済む。不況期の厳しい時でも、 人材育成をし、設備にも研究にも投資をする。設備もいつで も使えるように整備しておく。短期的な観点で人員整理をし ても、好況になったときに働く人がいなくては、不況期をど うにか凌いでも、好況になったとたんに息が絶えてしまう。 「何をいまさら」が危機を招く 不況時は原点に帰れという。いや、原点に帰らざるをえな い。 ドラッカーは、不況期のマネジメントに何が必要といって いるか。特別なことが必要だとはいってはいない。むしろ好 不況に関わらず普段からすべきことをきっちりとすべきで あるといっている。 「何をいまさら」という人も多い。多くの経営者管理者が 「分っている(知っている) 」という。そう言いながらもそ れが出来ずに苦しんでいる経営管理者が多い。 知っていることと出来ていることには、大きな違いがある。 取り返しのつかない差がつくことになる。 原点とは何か、何をすべきか 原点とは経営原則、事業の目的、組織のミッションであ る。 ドラッカーは、「事業の目的として有効な定義は唯一つ、 それは顧客の創造である」という。顧客が目的であり、その 顧客が満足する欲求が事業を決める。経営管理者は、その目 的のために、① 我々のミッションは何か、② 顧客は誰か、 ③ 顧客にとっての価値は何か、を根本から考えなければな らない。 不況期こそ外に出て、顧客に会い教えを請う好機である。 そして「ゼロ成長時こそ、社員一人ひとりの仕事の内容を 大きくし、挑戦のしがいのあるのものにしなければならな い」、人材の質を維持し、向上させ続けることである。 事業の定義は陳腐化する 好況期には、陳腐化した事業の定義に気づき難い。順風満 帆に見えた企業が、不況期には突然に消える。それは、まさ に彼らの事業の定義が有効でなくなったからである。 事業の定義とは、① 事業環境の定義、② ミッションの定 義、③ 自らの強みの定義、である。この世に永続するもの はない、事業の定義も陳腐化する。 定期的に二つの点検が必要だという。① あらゆる製品、 プロセス、流通チャンネルについて、いまそれらのものにか かわっていなかったとして、同じものを始めるか、② 組織 の外、ノンカスタマーの動向。 事業上の五つの大罪 立派な企業が長期低迷に入る。事業上の五つの大罪のうち の少なくとも一つを犯したからであるという。これらも不況 期には深刻な問題となる。 それらは、① 利益幅信奉、② 高価格信奉、③ コスト中 心主義、④ 昨日崇拝、⑤ 問題至上主義、である。事業上の 五つの大罪は、その害が十二分に明らかにされているもので ある、絶対に負けてはならない誘惑である。 変化はコントロールできない さて、現在は根本的な変化が続く時代であり、その変化の 真只中にある。先が見えればコントロールも出来るが、先が 見通せない不透明な時代である。 ドラッカーは、「変化はコントロールできない。できるこ とは、その先頭に立つことだけである」 、つまり、 「変化をマ ネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくり出すことで ある」という。 急激な構造変化の時代にあって組織が生き残りかつ成功 するには、自ら変化をつくり出すこと、組織自らがこの変革 機関:チェンジ・エージェントへと変身しなければならない。 不透明な現在、マネジメントに必要なのは、チェンジ・エ ージェントたること。そのためには、①成功していないもの はすべて廃棄する、②あらゆる製品、サービス、プロセスを カイゼンする、③あらゆる成功を追及して、新たな展開を図 る、④体系的にイノベーションを行う、そして、⑤組織全体 の思考態度を根本から変える、ことである。 自ら未来をつくる 個々の企業として、今日のような変化の激しい世の中で生 き残っていくためには、組織の全員が、変化を脅威と考えず チャンスとして捉えるようになることが必要である。 成功は、自ら変化をつくり出すこと、つまり自ら未来をつ くることによって可能となる。自ら未来をつくろうとしない ほうがリスクは大きい。 以上 【参考文献】 『現代の経営』 『マネジメント』 『未来企業』 『未来への決断』 『明日を支配するもの』 『チェンジリーダーの条件』 『ネクスト・ソサエティ』、他
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