マネジメントは 公務員の救世主である

ドラッカーに学ぶ公務員のためのマネジメント入門(1)
マネジメントは
公務員の救世主である
1.マネジメントの必要性
淡路富男(行政経営総合研究所代表)
http://members.jcom.home.ne.jp/igover/
1.マネジメントの必要性
◆改革の前に正しく機能する組織になる
地方と日本の低迷が続いている。過去の資産を食いつぶす生活に慣れ、変化
への対応や改革を忘れ、とにかく変えることを嫌う、既得権死守の風潮が拡大
している。このままの継続では、残された再起の活力さえも失われてしまう。
この怠惰の流れに誰が竿を差すのか。その一義的
な責務は社会を仕事の場とする「公的組織」にある。
公務員生活
の崩壊
公的組織が社会の機関としての自らの機能を発揮す
ることで、この流れを食い止めなければならない。
しかし残念なことに、この公的組織も長期間の「機
能不全」に陥り、社会への貢献といった役割を十分
に果たすことができないでいる。経済危機に遭遇し
市民生活の
崩壊
ている肥大したギリシャの公的組織(写真参照)の
ように、社会の安定と発展のマイナスにさえなって
いる組織もある。そのことが社会の沈滞と荒廃を招
いている。公的組織には抜本的な改革が必要である。
ただ、その前に、組織そのものを通常に機能させ
削減を要求された公務員が責務を
放棄すると社会は混乱する。この
前に機能する組織を構築する。
るようにすることが前提になる。正しく機能しない
組織にいくら改革を求めても、その成果は、いつもの中途半端で期待外れのも
のになる。正しく機能する組織にすることが先である。
この方法の一つが、今回連載する公的組織へのマネジメントの適用である。
マネジメントとは組織に成果をもたらす考え方であり、それを具現化する体系
である。ドラッカーは、「いま、マネジメントを最も必要とし、その成果も大
きいのが公的組織である」と明言している。
◆連載の内容
本連載は、「マネジメントの父」といわれるドラッカーのマネジメントをベ
ースにした、「公務員のためのマネジメントのポイント」を紹介することにあ
る。組織は、マネジメントなしでは成果をあげることはできない。しかし公的
組織の多くはマネジメントを民間の手法と曲解し、自らへの適用を怠ってきた。
その結果、環境条件が多少厳しくなると,途端に成果をあげることができない
貧弱な組織になり下がっている。
国家崩壊の危機に立たされているギリシャの例をみると、破綻する組織は破
綻するやり方を採用していることがよくわかる。「雇用確保」を名目に、自ら
を律することを忘れて肥大してきたギリシャの公的組織には、教える生徒がい
ない教師や、する仕事のない役人が何千人もいる。社会的な価値を産出しない
仕事への支払いで、無用な人件費の支出が膨れあがり、それは財政を硬直的な
ものにする。
そこで今回のように地方と国
が経済危機に陥ったとき、残さ
ギリシャの崩壊
れた方法は人件費の引き下げし
かなく、これが公務員のストに
なり、住民生活を困窮させるこ
とになる。
「神々が住む都市ギリシャ」
がゴミで埋もれている。ギリシ
ャ市民は、「ギリシャ国民が軍事
国家の崩壊に前に公的組織がなすべきことは,
自ら律し成果の出せる組織になることである。
政権崩壊後の30年間に勝ちとったものが破壊されている。それは私の社会生
活の崩壊である」と不安を口にする(写真参照)。公的組織のムダは社会を崩
壊させる。公的組織は「成果」を産出しなければならない。
◆崩壊の前になすべきこと
ギリシャの危機は対岸の火事ではない。日本の借金はギリシャ以上である。
この危機から学ばなければならない。このようになる前に、公的組織がなすべ
きことは、社会における組織として「福祉と経済性の両立」を実現することで
ある。
そのためには、自らを律し、組織外に成果を産出するマネジメントを身につ
けなければならない。多くの公務員がマネジメントを学習することで内発的な
改革が可能になり、日常の業務や仕組みが年々改善され、その成果の結集は大
きなうねりになり、
「地方と日本の再生」に大きく貢献することが期待される。
2.公務員がドラッカーにマネジメントを学ぶ意義
◆マネジメントは公務員すべてに必要
連載ではドラッカーのマネジメントを参考にして、公務員の必要なマネジメ
ントを紹介する。ドラッカーは、「複数の人間が協力して、多様な課題を同時
に遂行する必要がでてきたとき、組織はマネジメントを必要とする」とし、マ
ネジメントは、
「組織の生存と成果を左右する組織の機関である」と明言する。
また、トップ(首長や幹部)だけではなく、各職場で担当業務について様々
な決定をしている職員(管理監督者や一般職員)にも必要なものである。ドラ
ッカーは、トップと担当者のマネジメントは、担当範囲の広狭はあるが、その
内容は何ら変わらないと述べる。トップと職員がマネジメントを実践すること
で、組織は見違えるようになると語る。マネジメントは公務員のすべてに必要
なものである。
◆ドラッカー・マネジメントの意義
公務員、公的組織(文意により行政組織とも表記)にとって、組織に成果を
もたらすマネジメント、特にドラッカーのマネジメントは、下記の4つの意義
をもつ。
第一は、マネジメントの基本的な考え方の学習を
重視していることである。目的を重視する姿勢を中
心に、マネジメントとは何か、組織とは、事業とは、
といったマネジメントの基本概念を丁寧に説明して
いる。これは、マネジメントを、管理統制の手段と
誤解しがちな公務員には、より有用なマネジメント
を基本から理解することの大きな助けになる。
第二は、住民優先の内容である。組織の目的は「顧客(住民)の創造」と定
義したように、ドラッカーのマネジメントには、顧客(住民)中心の考え方が
根幹にある。顧客なくして組織が存在することはないのだが、公的組織をこれ
を忘れ、住民・国民から無視され、協働が得られなくなっている自治体も多い。
具体的には、住民優先の取り組みがあらゆる活動に必要になるが、この実現
を可能にするマーケティングとイノベーションを強調している点も、この分野
に縁遠い公務員には心強い。まさに「公僕:公衆(国民)に奉仕する者」とし
ての役割発揮が求められている公務員には、存在意義に迫る示唆を与えること
にとなる。
第三は、人の活躍を重視していることである。マネジメントとは、人に係わ
ることであるとし、人を活かし、人に成果をあげさせる体系を、マネジメント
体系の随所に織り込んでいる。これは人が最大の資源である公的組織には、待
ち焦がれた強力なマネジメント体系といえよう。
公的組織ほど一定水準の人材が揃っている組織
はない。しかしその人々の成果は、これまで投下
してきた資源からすると評価できるものではない。
地域の活性化に結びついていない。地方と日本衰
退の一因になっている。人材が活かされていない
のである。公的組織に働く人たちの能力を最大限に発揮させなくてはならない
(写真参照)。
第四は、社会との関連に基づいていることである。現代社会は、組織が提供
する財・サービスなしでは、健全な状況を維持することはできない。ドラッカ
ーは、組織を社会の機関として機能させるためにマネジメントを開発している。
公的組織も社会の機関である。マネジメントなしでは、社会での役割を果たせ
なくなる。マネジメントは、存在意義が問われている公的組織と、そこで働く
公務員の救世主になる。
◆公務員のための連載の特徴
このようにマネジメントは、公務員と公的組織にとって有用である。大震災
後の荒涼とした未来が横たわっている地方と日本にとって、公的組織のマネジ
メント改革は待ったなしである。
そこで本連載では、ドラッカーのマネジメント体系を基軸にして、次の3つ
のポイントを中心に、公務員に必要なマネジメントを紹介する。
①ドラッカーのマネジメントは間口が広くその奥行きも深い。学習には相当
の時間を必要とし、片手間では途中で頓挫することになる。そこで、膨大
な諸説から、これからの時代で、公務員に必要となる「マネジメント」の
基本的な内容と、実践への適用を行う場合の必要事項を抽出して紹介する。
②内容的には、1.マネジメントの必要性の理解、2.住民基点の組織作り
への適用方法、3.成果のだせる事業(政策・施策・事務事業)形成への
適用方法、4.マネジメントの基本機能であるマーケティングとイノベー
ションの学習、5.日常業務での適用方法とし、マネジメンの考え方と体
系を紹介する予定である。
③ドラッカーの考え方や体系は、同じ内容のものがドラッカーの複数の著書
に多彩な表現で記載されていることも多い。このため、マネジメントに慣
れていない人には、理解に戸惑うこともある。そこで関係著書を参照し、
理解しやすいように整理した。
こうして公務員の方が、よりスムーズにドラッカーのマネジメントの理解や
職場での実践に活用できるようにした。
ドラッカーが強調するように、マネジメントはトップだけのものではない。
公的組織に働く職員すべてに必要なものである。マネジメントを理解した職員
の多い組織が、その組織能力を発揮して地方と日本の再生に貢献することがで
きる。本連載がその一助になれば幸いである。
本連載の内容は、当研究所のマネジメントやドラッカーに関連する研修や講
演で、使用テキスト「ドラッカーに学ぶ公務員のためのマネジメント入門」と
して配付していたものの一部を要約・加筆・編集したものである。
(この項終わり)
※未定稿のため誤字などはご容赦下さい。
ー著者紹介ー
淡路富男(あわじとみお)
行政経営総合研究所代表
民間企業を勤務後、民間大手コンサルティング会社、
(財)日本生産性本部主席経営
コンサルタントを経て、現在は行政経営研究所を主宰する。
民間企業の経営コンサルティングと並行して、
「行政経営導入プログラム」を開発し地
方自治体での行政経営改革コンサルティング、総合計画の策定、行政経営研修、管理
職マネジメント研修、自治体マーケティング研修、講演で成果をあげている。自治体と
民間、経営とマーケティングのそれぞれ両方を熟知したコンサルティングである。
◆兼職
(財)日本生産性本部自治体マネジメントセンター主席コンサルタント、
(財)日本生産性本部コンサルティング部、パートナー経営コンサルタント
各自治体 長期総合計画審議学識委員
各自治体 行政改革推進学識委員
各自治体職員研修所 自治体経営研修講師、管理職向けマネジメント研修講師
◆専門領域:総合計画、行政経営改革、マネジメント、公共マーケティング
◆主な著書:
『三鷹がひらく自治体の未来』
(ぎょうせい)
『自治体マーケティング戦略』
(学陽書房)
『民間を超える行政経営』
(ぎょうせい)
『首長と職員で進める「行政経営改革」
』
(ぎょうせい)
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