アルカロイド研究会会誌 Vol. 31 ( 2005) 第31回アルカロイド研究会を終えて 第31回アルカロイド研究会は、 “脱毛”と“痛み”に関する最尖端情報を、まとまった塊で 皆様に届けたいとの思いで開催させていただきました。 まず「脱毛の臨床と基礎」の理解のため、皮膚科領域より脱毛のプロ4人、 「脱毛と心、ストレス」 を理解するために心療内科のプロ1人から講演をいただくことができました。会場の最後尾 から講演を聞かせていただきましたが、参加の皆様方がいずれの御講演も集中して聞いて おられることが後姿から伝わってきました。私はまた「毛髪の生物学」の面白さも是非知って いただきたく、吉里先生に“毛髪再生”の話をいただきました。毛包という小さな組織の形成 過程は目や腎臓等の形成過程と何ら違わないことより、毛包再生の(分子)生物学的理解は 他臓器の再生に直接繋がるだろう、との吉里先生の熱きメッセージは皆様に届きましたか。 一方、痛みの領域は私の専門領域ではないにもかかわらず、齊藤教授を筆頭に5人の錚々 たる諸先生の御講演を聞くことができたのは、ひとえに本会を支えていただいた事務局の 皆様、また理事の方々の御援助と御支持のおかげです。私自身「痛み」についてこれ程まと まった話を聞いたのは始めてで、疼みの科学、痛みと心の科学の奥深さに目から大きな鱗が 落ちました。私的な話で恐縮ですが、女房は麻酔科、救急部・集中治療部25年の勤務を 経て、対極の緩和医療(ホスピス医)に転身しました。私は「何でまた(しんどいことを) 」 とずっと思っていましたが、今回始めて彼女の仕事の面白さを諸先生方より知らされ、 遅まきながら彼女の転身の意味が少しは理解できたことを白状しなくてはなりません。 真のプロが専門的な内容を噛み砕き、脱毛と痛みの理解に必要な最新情報を私達に伝え てくれました。キリが歌うマウリの歌のように知的興奮を伴った穏やかさで、皆様の科学 する心に一燈を灯しえたのでしたら、今回の研究会を企画した者としてこれに勝る喜び はありません。無理矢理のお願いを快く引き受けていただいた下記の講師の方々と、御参加 いただいた皆様方に感謝するや切です。本当に御参加、御支援ありがとうございました。 ― 講師の方々 ― 「脱毛を科学する」 2005年 11月 吉 日 「痛みを科学する」 坪井良治 (東京医科大学 皮膚科学講座) 齊藤洋司(島根大学医学部 麻酔学) 植木理恵 (順天堂大学 皮膚科) 細川豊史(京都府立医科大学 麻酔科) 伊藤雅章 (新潟大学 皮膚科学分野) 佐伯 茂(日本大学医学部 麻酔科) 勝岡憲生 (北里大学医学部 皮膚科) 村川和重(兵庫医科大学 疼痛制御科学) 荒木登茂子(九州大学 心療内科) 吉里勝利 (広島大学 副学長) 村上正人(日本大学板橋病院 心療内科) 徳島大学 皮膚科 荒瀬 誠治 目 次 Section I :ワークショップ 「脱毛を科学する」 1) 基調講演 座 長 国際医療福祉大学 ( 自治医科大学) 長谷川嗣夫 Hair Science Overview………………………………………………………………………………・1 徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 皮膚科学分野 荒 瀬 誠 治 2) 各種脱毛症の臨床、メカニズム、治療 座 長 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 分子細胞医学専攻 細胞機能講座 皮膚科学分野 伊 藤 雅 章 九州大学大学院医学研究院 医学部 心身医学 久 保 千 春 ① 男性型脱毛症…………………………………………………………………………………………・3 東京医科大学 皮膚科学講座 坪 井 良 治 ② 女性の脱毛症…………………………………………………………………………………………・9 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター 皮膚科 植 木 理 恵 ③ 円形脱毛症 1.円形脱毛症の臨床とメカニズム…………………………………………………………………・13 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 分子細胞医学専攻 細胞機能講座 皮膚科学分野 伊 藤 雅 章 2.アトピーと円形脱毛症 ……………………………………………………………………………・19 北里大学医学部 皮膚科 勝 岡 憲 生 3.心療内科と(円形)脱毛症…………………………………………………………………………・25 九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座 医療コミュニケーション学 荒木登茂子 3) 毛髪の再生医療 ………………………………………………………………………………………… 33 座 長 徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 皮膚科学分野 荒 瀬 誠 治 広島大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 吉 里 勝 利 Section II :ワークショップ 「痛みを科学する」 1) 基調講演 座 長 兵庫医科大学 疼痛制御科学 村 川 和 重 疼痛発生のメカニズム………………………………………………………………………………・・・37 島根大学医学部 麻酔学 齊 藤 洋 司 2) 各種疼痛の臨床、メカニズム、治療 座 長 島根大学医学部 麻酔学 齊 藤 洋 司 九州大学大学院医学研究院 医学部 心身医学 久 保 千 春 ① 炎症と痛み…………………………………………………………………………………………・・ 41 京都府立医科大学 麻酔科ペインクリニック 京都府立医科大学附属病院 疼痛緩和医療部 細 川 豊 史 ② 神経因性疼痛………………………………………………………………………………………・・47 日本大学医学部 麻酔科(駿河台日本大学病院) 佐 伯 茂 ③ がん性疼痛…………………………………………………………………………………………・・ 55 兵庫医科大学 疼痛制御科学 村 川 和 重 ④ 慢性疼痛の心とからだ……………………………………………………………………………・ 63 日本大学医学部 内科学講座 村 上 正 人 ほか Section III :一般演題 ( 示説) 1) 消化器癌におけるCephar ant hi nの肝転移抑制効果の検討……………………………………・・73 奈良県立三室病院 外科 池 田 直 也 2) 担癌マウスにおける5FU組織移行性に対するCephar ant hi nの影響………………………… 75 神戸薬科大学 臨床薬学研究室 高 橋 悠 子 ほか 3) 肝細胞癌に対する動注化学塞栓療法の新しい試み ……………………………………………… 79 医療法人順天会 放射線第一病院 放射線科 黒 瀬 太 一 ほか 4) 癌化学療法における口内炎管理に関する基礎検討 ―セファランチンによる酸化ストレス抑制効果―………………………………………………・87 就実大学 薬学部 加 地 弘 明 ほか 5)グリチロンを併用したセファランチン大量投与による円形脱毛症の治療効果について ……・ 93 八尾市立病院 皮膚科 武 曾 有 美 ほか 6) 総合リハビリテーションにおける育毛の効果について ―発毛促進剤「CROW」を使用して―………………………………………………………………・95 大阪府立大学 総合リハビリテーション学部 栄養療法学専攻 今 木 雅 英 ほか 7) Treatment of idiopathic hypereosinophilic syndrome with azelastine hydrochloride and biscoclaurine alkaloids ………………………………………………・・ 99 Department of Pediatrics, Teikyo University School of Medicine Tadaatsu Ito ほか 8)口腔扁平苔癬に対するゲル化軟膏基剤の検討……………………………………………………101 高山赤十字病院 口腔外科 大久保恒正 ほか 9)口腔内痛(舌痛症および三叉神経痛)に対する加工附子末の効果について…………………105 大阪大学大学院 歯学研究科 顎口腔病因病態制御学講座 松 岡 裕 大 ほか 10) 加工ブシ末(アコニンサン TM)が有効であった舌痛症の1例 …………………………………・109 大阪歯科大学 歯科麻酔学講座 佐久間泰司 ほか 11) 口腔内不定愁訴痛における加工ブシ末単独療法の検討 ……………………………………… 111 医)那須高原心臓消化器研究会 新白河中央病院 口腔外科 北 原 朋 広 ほか 12) 腰椎疾患に対するアコニンサンの効果……………………………………………………………115 仁泉会病院 麻酔科ペインクリニック 山 上 裕 章 ほか 13)フラッシュクロマトグラフィー用のPSQ60B5H調製と日本産イチイ中 タキソール抽出への応用……………………………………………………………………………・119 岐阜県立岐阜病院 薬剤部 岡 本 光 美 アルカロイド研究会会誌 Section I Vol . 31(2005) ワークショップ 「脱毛を科学する」 1)基調講演 Hai rSci enceOvervi ew 徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 皮膚科学分野 荒瀬誠治 毛 包 は 胎 生 10週 頃 、胎 児 表 皮 の 一 部 に の発現機序et cの詳細が未だ不明で、その 原始毛芽が形成されることで始まり、20週 分子生物学解明が他組織・臓器の分化機序 前後に完成する。出生時の軟毛は生後3∼4月 解明につながる事がはっきりしたからで に 抜 け 落 ち た 後 、毛 包 は 大 人 型 に 変 わ り あ る 。加 え て 、毛 包 が 組 織 再 生 を 考 え る 硬 毛 を つ く り だ す 。 以 後 、毛 包 は 固 有 の 上で最良のモデルであると認識されるに 毛周期で毛髪新生と脱落を一生繰り返すが、 及び、毛髪科学の領域は巨大な研究領域と 毛周期と同調する周期を持つ臓器・組織は なり、日々新知見が発表されるようになった。 他にない。男性ホルモン分泌が盛んになる しかしながら、その知見に基づく毛髪異常 思春期以降、一部の男性では特定部位の硬毛 の治療、薬剤の開発は進んでいるとは言い が軟毛化し薄毛となり ( 男性型脱毛) 、中年 難い。基礎と臨床を結ぶトランスレーショ 以降は全員に薄毛、白髪等の老化症状が ナル研究が望まれるゆえんである。 出現する。20世紀中盤まではこれらイベント 21世紀前半は、 毛包でみられる各種イベント の生物学的証明、生物学的機序解明の世紀 の分子生物学的機序解明とそれに基づく であり、その研究は特定の毛髪に興味(先見 薬剤・治療法の開発、毛包幹細胞を使って の明)を持つ科学者によって支えられてきた。 の組織再生・分化機序の解明、毛髪そのもの 20世紀後半の分子生物学の勃興は状態を の再生工学などがメインテーマとなろう。 一 変 さ せ 、多 く の 科 学 者 が 本 領 粋 に 参 入 毛髪科学の今までとこれからについて し て き た 。 毛 芽( 形 態 )形 成 の 最 初 の シ グ overvi ewするつもりである。 ナル、部位決定シグナル、毛芽から完成毛包 ま で に 関 与 す る 分 化 シ グ ナ ル 、う ぶ 毛・ 軟 毛・硬 毛 の 決 定 因 子 、毛 包 の 幹 細 胞 の 詳細、毛周期の調節因子、毛母細胞の分裂・ 分化の調節因子、男性型脱毛発生機序、白髪 1 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ワークショップ Section I 「脱毛を科学する」 2)各種脱毛症の臨床、メカニズム、治療 ① 男性型脱毛症 東京医科大学 皮膚科学講座 坪井良治 はじめに 男性の前頭部と頭頂部の頭髪が軟毛化して 細く短くなり、最終的には額の生え際が後 男性型脱毛症は“壮年性脱毛” “わかはげ” 退し頭頂部の頭髪がなくなってしまう現象 とも呼ばれ、器質的な疾患ではないが、壮年 である(表1)1)∼6)。女性では男性ほど顕著 期の男性にあっては、その人の印象を左右 ではないが、頭頂部全体の頭髪が薄くなる することもあって、社会生活の中でのスト パターンとして観察される。日本人の男性 レスは強く、これをなんとか改善したいと 型脱毛症の頻度は軽症の人も含めると、30 いう欲求も切実である。従来、本邦では男 代で約10%、60代で約50%、平均で30%と 性型脱毛症は遺伝的ないし人種的な差異に 言われている。比較的重症の男性型脱毛症 よって生じる生理的な変化ととらえられて の 頻 度 は 白 人 に 比 較 す る と か な り 少なく、 きたので、これを男性型脱毛症という疾患 若い世代では1/3から1/4である。欧米では ととらえて医療保険で治療しようとする mal epat t ern bal dnes sや mal epat t ern 動 き は な く 、ま た こ れ を 治 療 す る 適 切 な hai rl os s( MPHL) という用語が使用される。 治 療 薬 も な か っ た 。と こ ろ が 、2005年 末 ちなみにandrogenet i cal opeci a は男性 に男性型脱毛症の内服治療薬としてフィナ と女性の両方を指す 1)∼6)。 ステリドが発売される見込みとなり、医師 は男性型脱毛症の診断と治療に関して正確 な知識を持つ必要が生じてきた。 男性型脱毛症の診断 男性型脱毛症は、思春期以降に始まり徐々 表1 男性型脱毛症の特徴 男性型脱毛症は壮年性脱毛、若ハゲとも呼ばれる ( male pattern hair loss MPHL, male pattern baldness) andr ogenet i cal opeci aは男性と女性の両方を指す ● ● 思春期以降に始まり、徐々に進行して40代で完成 される 男性の前頭部と頭頂部の頭髪がうすくなり、最終的 には完全に消失する(特異な脱毛分布) ● に進行して40代で完成される、日本人の場 ● 硬毛の軟毛化(細く短い毛、ミニチュア化) 合には20歳代後半から30歳代にかけての、 ● 主として男性ホルモンが影響し、遺伝的傾向が強い 3 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 男性型脱毛症の診断は問診により家族歴、 と程度は千差万別であり、いずれの分類を 脱毛の経過などを聴き、視診により額が後 使 う に せ よ 、当 て は ま ら な い 症 例 が あ り 、 退し前頭部と頭頂部の毛髪が細く短かく 日常診療においては分類にそれほど拘る必 なっていることを確認する。男性型脱毛症 要はない。 の診断は比較的容易であるが、円形脱毛症 男性型脱毛症発症の病因 でもゆっくりと頭髪が抜け頭部全体が疎に なるもの、慢性休止期脱毛、膠原病や慢性 男性ホルモンが主として関係し、発症に 甲状腺炎などの全身性疾患に伴う脱毛、貧血、 遺伝的な素因が強く影響していることはよ 急激なダイエット、その他の消耗性疾患など く知られているが、単一の遺伝子異常では に伴う脱毛、また治療としてのホルモン補 な い 。し か し 、髭 や 胸 毛 を 濃 く す る 方向に 充療法や薬剤による脱毛症を除外すること 働く男性ホルモンが、前頭部と頭頂部だけ が大切である。また頭皮の炎症や痒みがあ において、逆に軟毛化現象を引き起こす機 る場合には脂漏性皮膚炎、粃糠性脱毛も考 序は完全には明かにされていない。 慮に入れる必要がある。また、明らかな男性 毛を作る毛包は、上皮系の毛母細胞と間 型脱毛症がないにもかかわらず薬剤投与を 葉系の毛乳頭細胞からなっている。毛乳頭 希望する心気症や強迫神経症の若年者が多 には男性ホルモンのレセプターが存在し、 いので注意が必要である。 毛乳頭に運ばれたテストステロンはⅡ型5α- 男性型脱毛症の病期分類としては本邦で リダクターゼの働きにより、さらに活性が は緒方、高島などの分類があるが、欧米では 高いジヒドロテストステロン( DHT) に変換 Nor wood/Hami l t onの分類を修正したもの されレセプターに結合する(図1)。これら がよく使われている。しかし、脱毛のパターン の情報はさらに毛母細胞に伝達され、細胞 軟毛化 毛成長の促進 TGF -β- R IGF - I - R 毛 母 TGF -β FOS,Jun 毛乳頭 IGF - I 標的遺伝子 の転写促進 ARE dihydrotestosterone (DHT) testosterone 血 管 AR 5α-reductase typeⅡ 5α-reductase inhibitors (finasteride) testosterone 図1 毛乳頭における男性ホルモンの働き 4 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 成長因子などの働きにより毛母細胞が分化 胞成長因子を介した毛母細胞への直接作用 して毛髪が作られる。治療として後頭部の が考えられる。少なくとも男性ホルモンに 毛包を前頭部に植え換える植毛術を行うと、 関連した作用はない。米国では5%溶液が 毛包が維持され長い毛が生えてくることから、 男性に、2%が女性に使用されている。本邦 男性型脱毛症が毛包の部位特異的な分子に における治験結果では1%ミノキシジルは よって規定されていることは間違いない。 1% 塩化カルプロニウムを対照薬として中 最近、I nui らは男性型脱毛症の脱毛部位の 等 度 有 効 以 上 が 約 30%、対 照 薬 は 13%で 毛乳頭が男性ホルモンに反応してTGFβを あった。本邦における治験では 1%と2%の 産生し、これが毛母細胞の増殖を抑制する 間に大きな効果の差がなく、2%の場合には という興味深い報告を行った 7)。 痒み、接触皮膚炎などの副作用が増加した ため、1%溶液が認可になった。2005年には 男性型脱毛症の治療 1%溶 液 が 女 性 用 と し て 追 加 販 売 さ れ た 。 本邦において実施されている男性型脱毛 本邦ではこの他に単品として発毛作用が 症の主な治療法を表2に示した。育毛剤と 報告されているものに塩化カルプロニウム、 しては医薬品、医薬部外品を問わず多くの ペンタデカン酸グリセリド、サイトプリン、 製品が市場に出回っている。なかでも、ミノ t フラバノン、アデノシン、セファランチン キシジルは細胞内のカリウムチャンネルを などがある。塩化カルプロニウム以外は医 開放する作用のある血圧降下薬で、その副 薬部外品として販売されている。セファラン 作用としての多毛から外用発毛剤に転用さ チンはタマサキツヅラフジの塊根から抽出 れたものである。作用機序は血管拡張や細 されたアルカロイドである。最近、外用に 表2 本邦における男性型脱毛症の主な治療法 ● 外用薬(育毛剤) : 医薬品:ミノキシジル(リアップ)、塩化カルプロニウム(カロヤン、フロジン) 医薬部外品:ペンタデカン酸グリセリド・サイトプリン(毛髪力)、t フラバノン(サクセス)、 アデノシン(アデノゲン)、セファランチン(クロウ)、その他多数 ● 内服薬: ( フィナステリド) ● 外科的治療: 有茎・遊離皮弁法 遊離植毛術 punchgr af t (円柱植毛術) mi ni gr af t ,mi cr ogr af t Choi 式植毛術( s i ngl e& bundl ehai rt r ans pl ant at i on) ● 整容的補助: 義髪(かつら、ヘアーピース、編み込み) 染毛剤、着色剤 5 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) よる発毛効果が動物実験で定量的に確認さ から吸収される濃度が変化するので原則的 れ、その有効性が報告されている 8) (図2)。 には勧められない。 いずれの製品も抗男性ホルモン作用はない 本邦でも、2005年末に男性型脱毛症に ( bi ol ogi cresponse modi f i er) 。頭髪は 対する内服治療薬であるフィナステリド 1ヶ月で約1cmしか伸びないので、効果を ( プロペシア R) が 発 売 さ れ る 。そ の 概 要 を 判定するには少なくとも6ヶ月から1年間は 表3に示した。バイアグラ R と同様に医師が 外用を続ける必要がある。またその効果は 処方する保険適応外薬として販売される 細く短い軟毛を硬い硬毛に変化させるもの 予 定 で あ る 。フ ィ ナ ス テ リ ド は 図 1に 示 す で、全く毛の生えていない部位からは毛の ようにテストステロンをDHTに活性化する 新生はない。比較的軽症の薄毛に対して効 Ⅱ型5 αリダクターゼという酵素の合成阻害 果があると考えるべきである。また、外用 剤であり、ステロイド骨格を有するが、それ を中止すると数ヶ月でその効果は消失する。 自身には抗男性ホルモン作用はない。本邦 いくつかの育毛剤の併用については、頭皮 における二重盲検法によるフィナステリド 17日目 剃毛部に対する発毛面積比率 1. 2 Cephar ant hi ne( 0. 002%) Cont r ol( 75% et hanol ) 1 0. 8 N= 10 0. 6 P<0. 05 0. 4 0. 2 0 0 10 13 15 投与日数 17 20 図2C3Hマウスモデルにおけるセファランチンの発毛効果( 文献8) より抜粋) 表3 フィナステリドの概要 フィナステリドは5 α還元酵素阻害薬 ( 5 α r educt as ei nhi bi t ort ypeI I)で t es t os t er one からdi hydr ot es t os t er one( DHT) への変換を阻害する ● 6 ● ステロイドホルモン作用はない ● 前立腺肥大症の治療薬として開発された ● 初めての男性型脱毛症の内服治療薬 ● 効果が高く、副作用が少ない(妊娠可能年齢女性は内服禁忌) ● 1997年米国FDAで承認(メルク社)、現在60カ国以上で承認本邦でも2005年末発売予定 アルカロイド研究会会誌 1mg/日の48週間投与試験の写真判定で、 やや有効以上が58%に対してプラセボは6% Vol . 31(2005) おわりに であった 9)。副作用は自覚症状として2. 9% 以上、簡単に男性型脱毛症について述べた。 の患者に性欲の減退が観察された(プラセ 男性型脱毛症の治療は、代表的な若返りの ボ群は2. 2%)9)。催奇形性の副作用のため、 方法のひとつであり、皮膚科医だけでなく 妊娠可能年齢の女性の内服は禁止されてい 一 般 の 人 の 関 心 も 高 い 。2005年 末 に内服 る。フィナステリドを使用するに当たって 治療薬であるフィナステリドが発売される 注意する事項を表4にまとめた。 見通しとなったことから、男性型脱毛症の 米国では男性の軽症から中等症の男性型 治療が脚光を浴びるものと思われる。この 脱毛症の治療方法としてフィナステリド内 内服薬は特長のある新薬であり、この薬に 服とミノキシジル外用の併用療法が定着し 対して正確な知識を持つことは皮膚科医だ ている。しかし、その有効性を裏付ける けでなく、この薬を処方する全ての医師に エビデンスは論文としてはほとんど発表さ 求められる。将来的には男性型脱毛症や毛 れていない。中等度の男性型脱毛症で、脱毛 周期を制御している原因遺伝子が同定され、 が比較的限局している人には縫縮術や植毛 その発現を抑制する分子の蛋白、核酸、抗体 術が有効である。しかし、植毛術は毛包を などを治療薬として投与したり、幹細胞の 移動させるだけなので、分布は変わるが絶 研究の進歩により普通の表皮から無尽蔵に 対量は変化しない。脱毛の高度な患者には 毛包を創り出し、植毛することが可能にな かつらやヘアーピースの使用が勧められる。 るかもしれない。 表4フィナステリドに関する注意事項 ● 酵素阻害剤であり、抗男性ホルモン作用はない ● 対象は男性であり、女性、小児に対する適応はない ● 妊娠中(妊娠可能年齢)の女性には禁忌(男性胎児の外性器) ● 夫がフィナステリドを内服していても問題なし (精子産生に影響なし. 精液を介して吸収される量は極微量) ● 血中テストステロン値は軽度上昇する ● 前立腺の大きさがやや縮小 ● PSA値が1/2となる(結合型、遊離型ともに、比率は変化せず) ● 消化管吸収は食事の影響を受けない ● 肝代謝( cyt ochr omeP4503A4): 明かな薬剤相互作用なし ● Mas ki ng agent としてドーピングの対象となる 7 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 文 献 6)Olsen EA, et al : Evaluation and treatment androgenetic alopecia. J Am Acad Dermatol 35 : 465 - 469, 1996. 2)Shapiro J, Price VH:Hair regrowth:therapeutic agents. Dermatol Clin 16 : 341 - 356, 1998. 3)Price VH : Treatment of hair loss. New Engl J Med 341 : 964 - 973, 1999. of male and female pattern hair loss. J Am Acad Dermatol 52 : 301 - 311, 2005. 7)Inui S, Fukuzato Y, Nakajima T, Yoshikawa K, Itami S : Androgen-inducible TGF-beta1 from balding dermal papilla cells inhibits epithelial cell growth : a clue to understand paradoxical effects of androgen on human hair growth. FASEB J. 16 : 1967 - 9, 2002. 4)坪井良治:毛成長の制御機構−男性型脱毛症の 8)江挙,池田志斈,小川秀興,植木理恵,久原孝俊 治療.日皮会誌 109:17931796,1999. :cephar ant hi neの毛成長促進作用の検討.皮膚 5)Olsen EA:Pattern hair loss in men and women. in Disorders of hair growth : diagnosis and の科学 4:99103,2005. 9)Kawashima, M, et al : Finasteride in the 1)Drake LA, et al : Guidelines of care for treatment. Olsen EA ed 2 nd ed, McGraw-Hill, New York, pp 321 - 362, 2003. 8 treatment of Japanese men with male pattern hair loss. Eur. J. Dermatol. 14:247-254, 2004. アルカロイド研究会会誌 Section I Vol . 31(2005) ワークショップ 「脱毛を科学する」 2)各種脱毛症の臨床、メカニズム、治療 ② 女性の脱毛症 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター 皮膚科 植木理恵 1.はじめに 2.女性のびまん性脱毛症の原因 成人女性の疎毛のパターンは、common 女性のびまん性脱毛症で全体が薄くなる bal dnessと呼ばれるような男性の男性型 ものの中には、男性型脱毛症と慢性休止期 脱毛症と比べ、多様であることが、客観的 脱毛、年齢的な変化、そして医師として な画像解析により報告されている。成人女性 見落とせないのが全身疾患、内分泌障害など の疎毛が男性ホルモンの関与が強い男性型 の疾患によって生じてくる脱毛、更に、 脱毛症だけではないことは認知されているが、 その他まだ分類ができていない疎毛などが Femal eAndr ogenet i cAl opeci a( FAGA) ある。 とその他のびまん性脱毛をひとまとめに 女 性 の 脱 毛 に 関 し て は Ludwi g分 類 が して、Femal ePat er n Hai rLos s( FPHL) 有名であるが、これは定量的でなく、視診上 とする考えが最近提唱された。しかし、 の変化で3つに分類している (図1) 。Ludwi g 客観的な臨床分類とは言えないと考える。 分類では、男性型脱毛症が女性で起きて Schematic illustration of the 3 grades of the female type of androgenetic alopecia as slown in Figs 1-3. 図1 Ludwi g分類(FAGA) 9 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) いる場合に限って分類されており、頭頂部 成長期毛率( %) 、毛髪密度( 本/cm2) 、それに だけの変化が典型的であると言われている。 毛の直径から平均毛直径( μm) 、硬毛率( %) 、 しかし、よく見ると前頭部がMパターンに 短毛率( %) 、短い毛がどのくらいあるか なっていたり、側頭部や後頭部に変化を示し なども検討する。 ている女性もいるので、この分類だけでは これらの検討から、疎毛を自覚する最も 女性のびまん性脱毛症は説明できない。 重要な毛成長の要素は、毛髪密度の減少で 3.客観的な定量的毛成長の検討・評価 あることが判明した。髪が多い人でも 大部髪が薄くなってきているという自覚は、 女性の毛成長の定量的検討は1999年頃 密度が減ってきているというところから から行われ、日本人女性の疎毛の毛成長 あらわれるので、密度が増えることが、女性 パターンが、フォトトリコグラム法という のびまん性脱毛にとっては治療として満足度 画像診断と毛直径測定を組み合わせた方法で が上がるということがわかる。 検討された。フォトトリコグラム法は、 びまん性脱毛において、特に重要な項目 頭頂部のびまん性脱毛でも変化が起こる として毛髪密度、平均毛直径、短毛率および 場所を直径1センチほど髪をはさみで切り、 成長速度を選び分類すると、正常な人は159人 そこを写真撮影して密度を測り、2日後に 中67人であった。変化のある人でも、1項目 もう一度そこを写真撮影し、2日間でどの ではそれほど見た目に変化もなくボーダー くらい伸びているかを測定して成長速度を ラインに分類されるが、密度が減っている みる方法である。また、切った髪を集めて 人 と 2項 目 以 上 の 異 常 値 が 出 て い る 人 は 毛直径を測定する。成長速度( mm/日 )、 病気群に分類された( 表1) 。 表1 日本人女性のびまん性脱毛症の毛成長パターン 10 人数 ( 人) 成長速度 (mm/日) 毛髪密度 ( 本/cm2) 直径 ( μm) 短毛率 ( %) Nor mal 67 0. 40 166 84. 6 8. 0 Bor der 1 17 0. 39 144 79. 5 22. 3 Bor der 2 14 0. 25 164 82. 0 11. 1 Di s eas e1 16 0. 44 104 83. 3 9. 6 Di s eas e2 13 0. 37 153 61. 9 23. 4 Di s eas e3 7 0. 43 109 57. 7 25. 3 Di s eas e4 8 0. 25 152 66. 5 25. 6 Di s eas e5 7 0. 23 86 86. 3 12. 1 Di s eas e6 10 0. 24 94 61. 5 25. 3 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) Di sease6は、すべての項目が正常より 最近、正常な毛成長パターンの人種差の 劣っているという判断になる。細かい解析 検討が注目され、アフリカと韓国でも実施 が難しいが、幾つかのパターンがありながら しているが、白人に比べて日本人( アジア人) も、 初期変化から項目が増えるに従って進行度 の髪は密度が少なく、走査電顕図のとおり が上がり、最終的に、女性の男性型脱毛症 太いので細かい検討ができる。従って、 や他のタイプの脱毛症でも、Di sease6へ このように毛成長のパターンが違うので、 移行してしまうことが考えられる。 同じ分類を白人種とアジア人種でしていく 図2の症例は全部の変化が出ている25歳 のには、問題があるのではないかと考える。 の女性で、この例はかなり進行が早く、男性 型脱毛症を疑っていたが、急に密度が減り、 4.治療 一本毛が増え、細くなった。これこそが女性 女性の脱毛症治療では、外用療法が中心 特有のパターンではないかと思われる。60歳 になるが、最近は毛包細胞に直接作用する くらいでこのようなパターンだと男性型脱毛 薬や従来の血管拡張作用があるもの、どの 症の進行型かと思うが、年齢が若すぎる。 ように効果があるのかまだ解明され尽くし 本 年 2月 、 ア メ リ カ の ジ ャ ー ナ ル に 、 ていないが、生薬としてセファランチンや アメリカとヨーロッパの毛研究の中で、 銀杏の葉、桐の葉などがある。それに、 女性の脱毛症はFemal ePat t er nHai rLos s 内服を組み合わせる場合は、生理不順など ( FPHL) としてひとまとめにする考えが がある人には加味逍遥散、当帰芍薬散など 提唱された。細かく分類をしても治療 卵巣の血行を改善するようなものを組み 方法がそれほど な い と い う こ と も あ る が 、 合わせる。抗男性ホルモン作用があるもの 白人種はすごく毛が細く、細かい分類を として、教科書的にはスピロノラクトン することが難しいため、このような提案が のような抗利尿剤も用いる。フィナステリド さ れ た の で は な い か と 思 わ れ る (図 3 )。 は女性には無効なので使用できない。また、 人種差 Type :D-6 Age 25 growth rate density diameter shor t hair ratio 図2 症例1 25歳 女性 Caucas i an J apanes e 図3 白人および日本人の毛髪の電顕図 11 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 女性ホルモン補充療法は、比較データがなく、 逆になることも報告されており、今後エス 何とも言えない。他には手術療法やカモ トロゲンがどのように発毛に関与するのか、 フラージュをしていくということになる。 また、男性の毛包と女性の毛包の反応の違い、 5.今後の展開 頭頂部と後頭部での違いなどを細かく検討 しなければならない。 今後、女性の脱毛機序の検討では、女性 脱毛症もやはり性差医療のひとつである。 ホルモンがどのように関与しているかを 男性は圧倒的に男性ホルモンが多いので、 検討することが必要であるが、まだ手探り pat t er nedhai rl os s と言われるように、単純 な状態で混沌としている。 なメカニズムを解明していけばよい。しかし まず、ヒトとマウスではエストロゲン ながら女性の場合は原因が多様で、いろいろ 受容体の分布が違い、マウスを用いた検討 なホルモンが影響し、鉄欠乏でも亜鉛が不足 の結果がヒトにすぐ反映できない。更に しても脱毛が起こる。またダイエットがどう マウスではエストロゲンはエストロゲン 影響するかなど女性の場合、男性と比べて 受容体アルファ(ERα)に結合し毛成長抑制 決定的な要因がなく、さまざまな要因を考え 因子として働く 。 人 の 毛 包 組 織 で はERα ながら脱毛がどういうものか、治療をどの ではなくERβが存在する。従って、エスト ようにしていくのかということを考えなけ ロゲンがどう働いているかがマウスで調べ ればならない。複雑で研究が難しいが、悩んで 切れない問題が残る。更に、in vivoと いる方も多いので、患者の悩みに耳を傾けて、 i n v i t ro で ヒ ト の 毛 を 用 い た 検 討 結 果 が 、 そこから治療や研究に進んでいきたい。 12 アルカロイド研究会会誌 Section I Vol . 31(2005) ワークショップ 「脱毛を科学する」 2)各種脱毛症の臨床、メカニズム、治療 ③ 円形脱毛症 1.円形脱毛症の臨床とメカニズム 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 分子細胞医学専攻 細胞機能講座 皮膚科学分野 伊藤雅章 である。抜毛癖は円形脱毛症と誤って治療 円形脱毛症の頻度と病型 されていることがあるので注意を要する。 円形脱毛症の頻度は、新潟大学の外来患 円 形 脱 毛 症 の 病 型 は 丸 く 抜 け る も の を 者数の数%であり、その他の本邦での発生 通常型といい、一ヶ所で抜けるものを単発性、 頻度も2∼5%、また、アメリカでの報告も 複数の部位で抜けるものを多発性という。 皮膚疾患の2%と同程度の発現頻度である。 生え際が蛇行状∼帯状に脱毛し、頭頂の毛は 発症年齢は、幅広い年齢で発症するが、本学 しっかりしているものをophi asi s型 ( 蛇行 の 統 計 で は 15歳 以 下 が 四 分 の 一 を 占 め 、 型) 、頭全体の毛が抜ける場合は全頭型、眉や 他の報告でも若年に多く見られる疾患であ 全身の毛まで抜けてしまうのを全身型という るとされる。男女比は1対1で、家族内発生 ( 図1)。統計的には、単発性通常型は15歳 が約20%あるとされる。脱毛症全体の中で 以上で多く、多発性通常型は15歳以下で多い。 の割合としては、本学では四分の三が円形 さらにophi as i s 型は全体として症例数は少な 脱毛症で、次に男性型脱毛症が約1割、 い が 、成 人 に 比 べ 子 小 児 で の 発 症 が 多 い 。 次が学童に多い抜毛癖( t ri chot i l l omani a) 特にophi as i s 型は難治な病型である。 単発性通常型 多発性通常型 Ophi as i s 型 全頭・全身型 図1 円形脱毛症の病型 13 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 毛の変化と組織所見 a b c 正常の成長期毛を抜くと下端には柔らか い毛根部分が付着し(図2a)、正常の休止期 毛は下端が少し膨らんだ形状である(図2b) 。 休止期毛は比較的抜けやすく、毎日100本 程度は抜けている。一方、円形脱毛症の抜け 毛は根本が細く、下端が先細りして尖って a正常成長期毛 いるので(図2c) 、正常な抜け毛との鑑別は b 正常休止期毛 容易である。抜けつつある病巣では、切れ毛 c円形脱毛症脱落毛 でなおかつ根本が細く、英語の感嘆符に似 図2 抜去毛下端の光顕像 ている感嘆符毛が見られ、また毛穴の中で 萎縮した毛が渦を巻く黒点が観察される。 これらを病的毛と言い、円形脱毛症に特徴 的である。 本症病巣部の成長期の毛球部にはs war m ofbees ( 蜂が巣に群がっている様子) と形 容される稠密なリンパ球浸潤があり、毛根 組織はダメージを受けて萎縮し、次第に毛 を産生できなくなり、最終的に毛根は退行 する(図3)。このリンパ球の浸潤はT細胞 が主体で、CD4:CD8=4:1で、CD4が 優位の細胞浸潤であると言われている。 メカニズム リンパ球浸潤が毛球に起こる理由を示す 実験を図4に紹介する。患者の脱毛部の皮 膚 を 採 取 し 、SCI Dマ ウ ス に 移 植 す る と 、 40日位で人の毛が再生する。これは、その 患者の免疫や血液の影響を受けなければ、 毛自体は再生することを示している。さらに、 同じ病巣から皮膚に浸潤しているT細胞を 採取分離して培養し、人の毛組織のホモジェ ネ − ト を 添 加 し 、そ れ を そ の SCI Dマ ウ ス 移植部( 毛再生部位) に 注 射 し て 82日 目 に 生検すると、円形脱毛症の組織像が再現さ れる。しかし、ホモジェネ−トを添加しない と円形脱毛症の組織は再現されない。また、 同患者の末梢血単核球分画のリンパ球を移 植部に注射しても何も変化は起こらない。 Swar m ofbees この研究者らは、病巣に毛根の自己抗原を 認識したT細胞が存在し、それが円形脱毛症 の病態を惹起するとしている。さらに彼らは、 感嘆符毛 ○ 黒点 図3 円形脱毛症の病的毛と組織像 14 同じ実験系で、メラノーマ細胞のホモジェ ネ−トやメラノサイト特異的ポリペプチド アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 生検 目 日 2 8 移植 40日 皮内注射 採血 Scal pTCを培養 ( 照射PBMC・r I L2と) 分離 PBMC HFH添加 ① HFH無添加 ② ③ MMLH orMLP添加 ④ ④でもAA病理像 ⇒ mel anocyt epept i deepi t opes がAAの自己抗原として作用 Melanocyte-associated T cell epitopes can function as autoantigens for transfer of alopecia areata to human scalp explants on Prkdc(scid) mice. (Gilhar A et al: J Invest Dermatol 117:1357-62, 2001) 図4 Autoimmune hair loss (alopecia areata) transferred by T lymphocytes to human scalp explants on SCID mice. (Gilhar A et al: J Clin Invest 101:62-7,1998) を添加しても、やはり円形脱毛症の組織を 例 全 体 の 四 分 の 一 に み ら れ 、全 身 型 で は 再現できることを示し、おそらく毛母メラ 約半数に生じる。爪も円形脱毛症の標的器 ノサイトに自己抗原があり、それがリンパ 官とみられている(図6)。 球のターゲットであろうとしている。 円形脱毛症の合併症としてはアトピー性 毛 球 部 に リ ン パ 球 が 浸 潤 し 、ラ ン ゲ ル 疾患が多いと言われているが、本学の統計 ハンス細胞が出現するとともに、毛包上皮 で は 、 全 体 の 7∼ 10% 程 度 の 頻 度 に な り 、 細胞がcl as s Ⅱ抗原やI CAM1等を発現して、 小児に限ると30∼40%と高くなるが、アト ヘ ル パ ー 優 位 の T細 胞 が 動 員 さ れ 、こ れ ら ピー性皮膚炎そのものが小児に多く、合併 のT細胞が産生するI FNγが毛乳頭細胞に 頻度の判断は難しい。 働き、その結果、毛母細胞の増殖が抑制され、 精神的ストレスの関与について、問診に また、毛組織を攻撃して発毛が阻害される よ る 調 査 を 行 っ た と こ ろ 、ど の 病 型 で も 、 と考えられている(図5)。 約 20%の 症 例 で 脱 毛 開 始 頃 に ス ト レ ス を 合併症と爪 感 じ て お り 、過 去 の 報 告 で も 、円 形 脱 毛 症 のs t r es s r eact or と呼ばれ、ストレスが脱毛 爪の変化も重要であり、爪甲に点状陥凹 の 誘 因 と な る 症 例 が 1∼ 2割 く ら い あ る と や 横 溝 が 、円 形 脱 毛 症 に 特 異 的 で は な い さ れ て い る 。し か し 7、8割 の 症 例 は ス ト ものの、しばしば合併する。爪の変化は症 レスと関係なく円形脱毛症が発症している。 15 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) Circulating autoantibody autoantigen MHC class II Agexpressing keratinocyte Langerhans cell helper T cell (Dr + ) melanocyte IFN-γ DPC suppressor T cell blood vessel 図5 I mmuneMechani sm i nAl opeci aAr eat a 表1.円形脱毛症の治療 横溝( Beau’ sl i ne) 点状陥凹 図6 円形脱毛症の爪変化 治 療(1) ・外用療法 セファランチンアルコール 塩化カルプロニウム 副腎皮質ホルモン ミノキシジル アントラリン ・他の局所療法 局所免疫療法 雪状炭酸圧抵療法 PUVA療法 副腎皮質ホルモン局注 カリジノゲナーゼ局注 ・全身療法 セファランチン グリチルリチン 副腎皮質ホルモン ( パルス療法) シクロスポリン 精神安定剤 ( イミプラミン) ・その他 星状神経節ブロック 心身療法 用 と な っ て い る 。ミ ノ キ シ ジ ル は 効 果 が 薄く、副腎皮質ホルモンとの併用で良いと 円形脱毛症の治療は種々行われているが の報告もあるが、基本的には適応ではない。 ( 表1) 、外 用 剤 と し て は フ ロ ジ ン 液 ( 塩化 全身療法は内服が主体で、セファランチン、 カルプロニウム) や、セファランチンをアル グ リ チ ル リ チ ン 等 を 使 用 す る 。副 腎 皮 質 コールに溶かしたものを外用薬として用い ホルモンの内服はある程度奏効するが、 ている。副腎皮質ホルモンの外用も保険適 長期投与では副作用に注意しなければなら 16 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ないこと、とくに難治例では投与中止で脱 用 す る 。 こ れ ら で 感 作 後 、10−20∼ 2%の 毛が再発して投与を中止せざるを得ないこ アセトン溶液を1∼2週間に1回脱毛巣に塗 とになりがちである。 布して皮膚炎を起こすと、有効な場合、数ヶ月 副腎皮質ホルモンのパルス療法(大量静 でかなり回復する。あまり激しい皮膚炎は 注間歇療法) も、抜け始めて数か月以内で、 起 こ さ な い よ う 注 意 を 要 す る 。1年 程 度 の 急速な大量の脱毛が見られる状態で、脱毛 短期治療成績では約90%の有効率である。 を早急に抑制して改善の方向に向かわせる 局所免疫療法を行うとI L2、I L8、I L10 ことを期待する場合は、試みる価値がある。 等のサイトカインが病巣で増加する (図8) 。 治 療(2) 感作物質: 特殊な局所療法としては、雪状炭酸圧抵 療法も1つだが、有効率は70%程度である。 効果が無いまま1年以上続けることは好ま ・自然界にない、工業用に使用されない ・発癌性・催奇形性がない ・SADBE( s quar i caci ddi but yl es t er ) ・DPCP( di phencypr one) しくない。 難治例に最も効果があるものが局所免疫 療法( t opi cali mmunot her apy) で(図7) 、 方法: ・2%アセトン溶液で感作 ・感作成立後、10−20∼2%溶液を選択して脱毛巣に SADBE( squal i caci d di but ylest er) や 塗布( 1回/1∼2週) DPCP( di phencypr one) 等の非常にアレル ・Mi l dcont actder mat i t i s を繰り返し惹起 ギー性接触皮膚炎を起こしやすい物質を使 図7 円形脱毛症の局所免疫療法 Happl eR,Hof f mannR( Ger many) :J I D 104: 14S15S, 1995 Cytokine patterns in alopecia areata before and after topical immunotherapy. DCP療法の前後でAA病巣中のcyt oki nes のRNA発現をPCRで測定 *I FNγ:毛乳頭細胞の毛上皮増殖促進作用を抑制 ( Sat oKawamur aM,etal ( Tohoku) :ADR294: 53643,2003) [ 治療前] I FNγ* I L2 ( *毛包のI CAM1,HLADR発現) 増加 ( Th1型) ( **毛成長を抑制?) I L1β** 局所免疫療法 [ 治療後] I L2 I L8 I L10*** TNFα 増加 ( ***Th1cyt oki nes 産生を抑制?) I FNγ・ I L1β I FNγ・I L1β: 治療前>後>対照 AAにおける毛周期s wi t chof f には s ol ubl emedi at or sが作用? 図8 局所免疫療法前後の円形脱毛症病巣のサイトカイン変化 17 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) つ ま り 、ア レ ル ギ ー 性 の 接 触 性 皮 膚 炎 を が 得 ら れ 、そ の 後 も 良 い 状 態 が 継 続 す る 脱 毛 巣 内 で 起 こ さ せ た た め 、リ ン パ 球 の 症例は1割程度であり、これに対して成人 ポ ピ ュ レ ー シ ョ ン が 変 化 し 、増 加 し た I L- の同様のタイプで約4割が良好であり、小児 10等 の サ イ ト カ イ ン が 治 療 前 の 病 巣 内 の 期発症例は難治例となることが多い。 I FNγ、I L1β等のサイトカインを抑制し、 円形脱毛症は遺伝的背景があり、円形脱 そ の 結 果 、成 長 期 毛 の 再 生 に つ な が る と 毛症になり易さ、さらに難治になるなり易さ 考えられる。 があるが、病態としては言わば「免疫異常」 の しかしながら、小児の全頭型・全身型では、 疾患であり、毛そのものに問題のある疾患で 局所免疫療法を行っても、ある程度の効果 はないことを認識すべきと思われる。 18 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ワークショップ Section I 「脱毛を科学する」 2)各種脱毛症の臨床、メカニズム、治療 ③ 円形脱毛症 2.アトピーと円形脱毛症 北里大学医学部 皮膚科 勝岡憲生 はじめに 診 し 、AAと 診 断 さ れ た 患 者200名 を 対 象 とし、年齢、性別、アトピー疾患の合併、 円形脱毛症 ( Al opeci aAreat a:AA) の 既往歴、家族内のアトピー疾患の有無、 病因について古くから種々の説が提唱され 検査成績、再発と予後などを検討した。 ている。その1つとしてアトピー素因を重 AAの 病 型 は 、単 発 型 、多 発 型 、Ophi asi s 視する考えがあり、AAとアトピー素因との 型 、全 頭 型 、汎 発 型 の 全 て を 対 象 と し た 。 関連について既に幾つかの臨床統計学的考 病巣部皮膚の生検を施行した症例につい 察がある。AAの発症機序については、近年 ては、アトピー素因(特にアトピー性皮膚 自己免疫異常説が有力であり、多くの研究 炎の合併) の有無による病理組織学的およ 結果は、AAの発症に免疫系が中心的役割 び免疫組織学的所見の差異について検討 を演じている可能性を強く示唆している。 を加えた。 AA発症の免疫学的背景がアトピー素因と どのように関連するかについては未だ不明 であるが、再発性かつ難治性のAA患者が 2.結果 1)年齢および性別 少なからずアトピー素因を有することも事 患 者 の 初 診 時 の 最 年 少 は 1 歳 、最 年 長 実であろう。 は 75歳 で 、 平 均 年 齢 は 30. 5歳 で あ っ た 。 そこで、既に報告 1)、2)している自験例に そ の 性 別 お よ び 年 齢 分 布 は 図 1の 通 り で 基づく調査結果を踏まえて、AAとアトピー あり、性別では男78例、女122例で、約1 : との関連について論じた。 1. 6の 比 率 で 女 に 多 か っ た 。 性 別 に よ る 臨床統計学的検討 1.対象 年 齢 分 布 は 、男 は 11∼ 15歳 に 、女 は 16∼ 20歳 に ピ ー ク を 認 め 、 男 は 女 よ り 若 年 層 に好発する傾向を示した。 一定の年度内(2年間の集計) に当科を受 19 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) mal es age 3 0∼5 2 6∼11 1 8 6 11∼15 5 6 16∼20 1 21∼25 3 26∼30 2 31∼35 1 36∼40 41∼45 1 1 46∼50 51∼55 1 56∼60 61∼65 66∼70 71∼75 t ot al meanage f emal es 5 7 2 17 11 8 4 7 7 9 4 1 1 78 24. 95 図1 AA ( 200例)の年齢分布 4 3 11 18 12 6 6 14 13 13 9 3 6 1 3 122 34. 17 AAの患者数 ADの合併例 2)アトピー素因 従来の報告に従い、本人または親・兄弟 皮膚病診療:1992 本人に素因がある にアトピー性皮膚炎(以下AD) 、喘息(以下 BA)、ア レ ル ギ ー 性 鼻 炎 も し く は 結 膜 炎 ( 以下AR)の何れか1つ以上がある症例を 「 ア ト ピ ー 素 因 あ り 」と し た 。 そ の 結 果 は 60名 22名 26名 図2に示すように、AA患者本人にのみ素因 のある者が200名中60名( 33. 0%) 、本人お よび家族に素因があるものが22名( 11. 0%) 、 家族に素因がある 家族にのみ素因のある者が26名( 13. 0%) で 本人および家族に素因がある あった。したがって「アトピー素因あり」 と 判定した症例は、AA患者200名中108名 素因のないもの92 図2 AA患者( 200名) のアトピー素因 ( 54. 0%) であった。また、患者本人がアトピー 疾 患 を 合 併 し て い る の は 、 200名 中 82名 ( 41. 0%) であった。アトピー疾患の内訳 表1アトピー素因の内訳 ( 表1)は、ADが63名(本人:46名、家族17 名)、BAが39名(本人:24名、家族15名) 、 ARが 65名( 本 人 : 37名 、家 族 : 28名 )で AD BA AR 本 人 46 24 37 家 族 17 15 28 合 計 63 39 65 あった。AA患者200名中46名 ( 23. 0%) は、 脱毛の発症時にADとしての皮膚炎があるか、 あるいは明らかな既往があった。 20 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 3)臨床検査成績 6)予後 全患者の好酸球数および血清I gE値を測 各症例の予後については、早期に治癒し 定した結果、アトピー素因のあるAA患者 た症例、脱毛が継続、拡大した症例、再発 では、素因のない患者の平均値に比べ、明ら を繰返した症例など様々であった。全頭型、 かに高値であった。 Ophi as i s 型、汎発型は何れも難治であった。 4)病理組織学的所見 予後については年齢あるいは性別による 明瞭な違いはないが、重症かつ難治例は 患 者 200名 の う ち 、 ADの 合 併 あ る い 小児に目立つ。またアトピー素因、とくに は 既 往 の な い 症 例「 以 下 AD( −) 」、あ る 症 ADを合併する症例はしばしば再発を繰り 例「 以 下 AD( +) 」15名 の 脱 毛 部 皮 膚 の 生 返し、難治である傾向を示した。 検 を 施 行 し 、病 理 組 織 学 的 に 比 較 検 討 し た 。 な お 、 AA発 症 後 比 較 的 早 期 の 病 巣 考 察 を 選 択 し 、生 検 し た 。 脱 毛 の 病 期 に よ り AAとアトピーとの関連についての指摘 その組織像は異なるが、急性期では一様 は新しいことではない。本邦では1965年 に毛球部周囲にリンパ球浸潤を認め、AD( +) にI keda3)がAAを4型( common,at opi c の 症 例 で は 、 AD( −) の症例に比べ明らか prehypert ensi ve,combi ned t ype) に に浸潤リンパ球数が多い傾向を示した。 分け、アトピー素因の個人歴を持つ症例を AD( +) の AAで は 、 リ ン パ 球 に 混 じ て 好 at opi ct ypeとした。I kedaの集計によれ 酸球と肥満細胞の浸潤がより多く認めら ば 、 小 児 の 5 歳 以 下 の 発 症 例 で 、 53人 中 れた。 39人( 73. 6%) にアトピー疾患を認めたとし 5)免疫組織化学的検討 ている。また、海外ではGol l ni ckら 4)は、 AA患者149例中76例( 51. 0%) にアトピー 同一組織片を用いて浸潤細胞の免疫組 素因を認めたと報告している。報告者により 織 化 学 的 検 討 を 行 っ た 。そ の 結 果 、① AD その頻度は異なるが、AAとアトピー疾患 ( +) 、 AD( −) と も に 浸 潤 細 胞 の 80∼ 90% は高頻度で合併するという報告 5)が少なく がCD3陽性、② AD( −) のAAでは浸潤リン ない。自験例の集計結果でも患者本人が パ 球 の 50∼ 70% が CD8陽 性 、③ AD( +) アトピー疾患を合併する比率が41. 0%で、 の AAで は 浸 潤 リ ン パ 球 の 60∼ 80% が 表2 毛球周囲の浸潤細胞 CD4陽性、20∼40%がCD8陽性で、④AD ( +) の AAで は AD( −) の AAに 比 べ 、 浸 潤 リンパ球および毛包内により多くのHLA- H−E AD( −) AD( +) l ymphocyt e i nf i l t r at i on( +) l ymphocyt e i nf i l t r at i on( + +) eos i no mas tcel l CD4≦CD8 CD4>CD8 DR陽 性 細 胞 、 IFNγ陽性細胞を認め た(表2)。 T Cel l mar ker 21 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 脱 毛 発 症 時 に ADを 罹 患 し て い る 患 者 が やすい事実とどのように結びつくのかは 23. 0%を占めた。我々の集計結果は他の報 不明である。 告を支持するものであり、AAとアトピー 浸潤リンパ球に関するこれまでの免疫組 素因の関連性を示唆している。 織学的検討によれば、優勢なサブセットは AAの発症はどの年齢層にもみられるが、 CD4陽性T細胞で、CD4/CD8比は約24 :1 少年期と青年期に多い。そしてADの合併は、 というのが一般的見解である。 我々の検索 若年において高頻度である。20歳以下に限 では、AD( −) とAD( +) では優勢なサブセット 定すると、73名中36名( 49. 3%) 、すなわち に違いを認め、AD( +) のAAにおいて、一般 AA患者の2人に1人はADを合併している 的見解のようにCD4陽性リンパ球が明らか か既往がある。AAもアトピー疾患も若年 に優勢であった。また、AD( +) のAAにお に好発する傾向はあるものの、若年者ほど いて、病巣部毛包および浸潤リンパ球に アトピー素因との関連が強いことが伺える。 I CAM1やHLADRのようなMHCcl as s I I AAの病理組織像は、毛球部周囲のリンパ 抗原の発現がより強く認められた。検索不 球浸潤により特徴づけられる。我々はAA 十分であるが、発現するサイトカインの種類、 患者をAD( −) とAD( +) の2群に分け、病巣 程度の違いなども含めて、これらの所見が、 部の組織学的所見の違いについて検討した。 AD( −) のAAとAD( +) のAAとの間の病態 その結果、AD( +) のAAでは、AD( −) に比 の違いを示唆している可能性がある。また、 較してリンパ球浸潤が高度であった。また、 最近研究が進みつつある、免疫学的特権部 AD( +) のAAでは、浸潤リンパ球に混じて 位としての毛包の機能という観点から推察 好酸球、肥満細胞が目立っていた。すなわち、 すれば、アトピー素因を有する固体は、免疫 AD( +) のAAでは、脱毛早期にリンパ球浸 学的特権の獲得に不安定性があるのかも 潤が顕著で、毛球部の障害が著しく、好酸 しれない。 球と肥満細胞が目立つなど、AD( −) の組織 DeWeert ら 9)は、アトピー素因のある 学的所見との間に差異が認められた。好酸 AAは若年に多くみられ、全頭脱毛になる 球および肥満細胞が脱毛に如何に関与する ものが多く、 予後が悪いとしている。森下ら10) か不明であるが、肥満細胞のヘパリンは、 は、小児の34. 6%にADの合併があったとし、 in vitro において毛乳頭細胞の増殖を抑制 特に重症型ほど高頻度であると報告して し、 in vitro で成長期毛包の誘導を抑制す い る 。 我 々 の 集 計 で も 、 若 年 者 の AAは 、 る 6)、7)。 また、肥満細胞由来因子が毛周期 アトピー疾患との関連性が深く、しばしば の 調 節 に 関 与 し て い る と の 報 告 も あ る 8)。 再発を繰り返し、難治性の傾向が伺わる。 したがって、肥満細胞が毛周期の調節、毛 AAに対する抗アレルギー剤の内服の有効 の生長あるいは脱毛に関与している可能性 性の検討も行われ、症例によっては有効で が考えられる。しかし、肥満細胞の浸潤が、 あるとの結果が得られている。しかし、疾患 AAがアトピー素因を有する固体に発症し の性格上、その効果を明確に判定すること 22 アルカロイド研究会会誌 は難しい。アトピー素因が明瞭で、比較的 Vol . 31(2005) 文 献 軽症な症例には試みるのも一策ではある。 我 々 が 行 っ た 検 討 結 果 は 、 AAの 発 症 、 予後にアトピー素因が少なからず関与する という従来の考 え を 支 持 し て い る 。 ま た 、 1)勝岡憲生 ほか:皮膚病診療 14:729,1992. 2)勝岡憲生: MB Derm 、23:9,1999. 3)Ikeda T:Dermatologica 131:421, 1965. 4)Gllnick H, et al:Hair and hair disease, Springer-verlag, 529, 1991. 病理組織学および免疫組織化学的検討の 5)菊池りか ほか:日小皮会誌 10:36,1991. 結果は、アトピー素因の有無により、脱毛 6)Paus R:Br J Dermatol 124:415, 1991. 7)Paus R, et al:J Invest Dermatol 98 (Abst) を誘発する免疫学的背景に一部差異がある ことを示唆している。アトピー素因を有す る固体特有の免疫状態が、AAを合併しや すい基盤となっている可能性があると想像 する。 しかし、両疾患の関連性を免疫学的 :512, 1992. 8)Katayama I, et al:Br J Dermatol 117: 677, 1978. 9)De Weert J, et al:Dermatologica 168: 224, 1984. 10)森下美智子 ほか:臨皮 41:583,1987. に一元的に論じるのは、現在のところ多分 に無理があるのも事実である。何れにしても 今後の臨床および基礎的研究課題は少なく ない。 23 アルカロイド研究会会誌 Section I Vol . 31(2005) ワークショップ 「脱毛を科学する」 2)各種脱毛症の臨床、メカニズム、治療 ③ 円形脱毛症 3.心療内科と(円形)脱毛症 九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座 医療コミュニケーション学 荒木登茂子 はじめに ② 誘発因子:発症前の心理的な出来事と とらえられるものが多い。準備状態が 脱 毛 症 の 原 因 に つ い て は 免 疫 異 常 な ど 解消すれば同じ様な誘発因子が加わっ 諸説があるが、心理的ストレスが発症の ても症状の発現につながらない。準備 きっかけになる事例があること、また脱毛の 因子が大きい場合は些細な誘発因子で 増悪が不安や抑うつを増強させることなど、 も症状が発現する。 心理的な問題と脱毛との関連は大きいと ③ 持 続 因 子 : 準 備 因 子 の 持 続 に 加 え 、症 考えられる 1)∼ 3)。今回は心身症としての脱 状発現後の不安やとらわれ、集団内で 毛症に対して心理的な治療を行い、有効な の不適応状態などの2次的な問題が生 結果が得られた事例を報告し、脱毛症に じる場合に症状は持続する。 対する心身医学的な治療を紹介する。 ④ 症状が引き起こす2次的な問題:脱毛 脱毛の発症過程における心身医学的問題点 になったことで生じる不安や抑うつや 不適応状態などである。脱毛は目立つ 脱毛の発症と持続における心理的な問題 部分に生じるので心理的な負担は大き の関与の仕方 4)は基本的に次の4つに分け い 。こ の 2 次 的 な 問 題 は 持 続 増 悪 因 子 られる。 にもなる。 ① 準備因子:欲求や情動の抑圧や禁圧、過剰 心療内科では、上記の心理的因子が個々 適応傾向、失感情あるいは失体感傾向な の患者にどのように認められるかを明確 どで、通常は意識されていないことが多 にして心身両面から治療を行う。 い。準備因子は心理療法の主な対象であ り、治療の結果はじめて明確になるもので 心身医学的治療の5段階 ある。そのために患者は治療初期には心理 心身医学的治療は 的な問題はないと考えていることが多い。 ① 治療的な信頼関係の確立と治療への動機付け 25 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ② ストレス状態からの開放と症状消失の体験 この症例では、①準備因子:患者が小学 ③ 心身相関の 理 解 の 促 進 3年の時に母が骨肉腫になったこと、患者 ④ 新しい適応 様 式 の 習 得 は母に負担をかけまいと過剰に適応しよい ⑤ 治療の終結 子であったこと、否定的・攻撃的感情の の5段階で構成される 5)。具体的な心理療 抑制・抑圧、②誘発因子:姑との同居と 法 と し て は 、リ ラ ク セ ー シ ョ ン( 自 律 訓 練 否定的感情の抑圧、③持続増悪因子:姑と や 催 眠 な ど )、鬱 積 し た 感 情 の 表 出 や 発 散 の同居と無理解な夫に対する否定的感情の ( カウンセリングや媒体を用いた表現療法 抑圧が認められた。心身医学的治療の一環 な ど )、認 知 や 行 動 の 修 正( 認 知 行 動 療 法 として姑や夫に対する攻撃的感情の表出と や カ ウ ン セ リ ン グ )、家 族 に 対 す る 働 き か 適切な自己主張を促すことで喘息発作の け(家族療法や 環 境 調 整 )が あ げ ら れ る 。 コントロールは可能になった。 症 例 脱毛に関しては特に治療を行っていな いが自然に軽快している。しかし子供の ( 患者のプライ バ シ ー へ の 配 慮 か ら 経過 に 病気というストレスで円形脱毛が再発して 影響を与えない 範 囲 で 内 容 を 改 変 。) いることから、今後もストレスが加わった A氏、45歳、 女 性 。 姑 と の 同 居 開 始 後 、2∼ 3ヶ 月 で 円 形 脱 毛、頭痛、肩こりなどが出現した。その 後気管支喘息を発症した。喘息発作で入 ときに再発する可能性があると考えられる。 現在、患者は円形脱毛を自分のストレス 状態のバロメーターであるととらえている。 B子 、5歳 、 女 児 。 退院を繰り返しているうちに脱毛は自然 4歳で幼稚園に入園した直後から円形脱 に軽快した。一方喘息は重症化したため 毛が出現した。その後軽快と増悪を繰り 入院して心身医学的な治療をおこない、 返して、一年後には脱毛は全頭部に及んだ。 発作のセルフコントロールは可能になった。 皮膚科で心理的な問題の可能性を示唆さ 数 年 後 再 度 円 形 脱 毛 が 出 現 し た 。こ の と れ心療内科を紹介された。 きは長女がうつ状態になるというストレス 図1は治療開始時の脱毛状態である。 が加わっていた。長女は姑との関係がう 心身医学的治療の一環として、患児に対す まくいかなくなりうつ状態になって患者 る描画療法と母親カウンセリングを導入した。 に相談をしていた。患者は自分と姑との 治療終結後にまとめた経過は3期に分 関係の再現を見るようでかなり悩んだと けられる。 言う。しかしその悩みをカウンセリング の場面で話すことで長女の問題を客観的 第1期:感情表出と問題点の明確化 にとらえられるようになり、円形脱毛は 当初脱毛に関する心理的問題として厳 2∼ 3ヶ月で自 然 に 軽 快 し た 。 しい幼稚園の担任に対する恐怖心がある 26 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) のではないかと母親は推測していた。しか 図4は治療初期の家族画である。上の作品 し B子 の 描 画 に は 家 庭 の 問 題 、 即 ち 姉 と では姉はいつもの通り眼をつりあげて怖 の同胞葛藤が認められた。図2∼3は初 く描かれている。下は春休みになったた 回の描画作品である。花やチョウチョが めに姉も共に外来に来たときに描かれた 描かれた楽しい描画が大嵐と洪水に変化 作品である。姉の前で描いた作品では、 し、笑っていた女の子は溺れてしまった。 姉 は 笑 っ て か わ い く 描 か れ て い る 。 B子 この子は姉であるとB子は説明した。図3 の 姉 に 対 す る 本 音 と 建 前 の 違 い が 2枚 の の上は燃えている船である。下は家族画 作品に表現されている。母親は姉妹関係 をテーマとして描かれた作品である。ここ に問題があるとは考えていなかったが、 では姉が排泄物と共に怖い顔で描かれて B子 の 描 画 を 眺 め な が ら 同 席 面 接 を 進 め いる。家族画に至る5枚の作品からは姉 る 過 程 で 姉 に 対 す る B子 の 攻 撃 的 な 気 持 に対する攻撃的感情とその鬱積がうかが ちの鬱積を理解できた。そこで姉に対す われた。そのため描画セッションでは家 る攻撃的感情をB子がうまく発散して処理 族画を必ず描い て も ら う こ と に し た 。 できるようなサポートを母親に依頼した。 図1 初診時の全頭部脱毛の状態 幼稚園入園直後に脱毛発症。幼稚園の担任が怖い先生 ⇒ 幼稚園での問題の可能性(+) 27 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 海と燃えている船 ( 退行↑) 姉 枠の緩み・身体表現 小人さんのお家 母 私 姉 父 姉の排泄物 X X 図2初回の描画作品 図3 初回の描画 上:花やチョウチョの楽しい描画 ⇒ 大嵐と洪水、 溺れているお姉ちゃん。⇒ 表面的には幼稚園 の問題と思われたが、同胞葛藤の可能性(+)。 下:小人さんのお家 上:燃えている船、海中火だらけ。 中:世界のお天気。 下:家族画。姉へ攻撃的感情。 お化け 父 姉 父 姉 母 母 私 図4 治療初期の家族画 左:怖いお姉ちゃん。上にお化けが飛んでいる。 ( 本音)本音と建前の使い分け 右:かわいいお姉ちゃん。 (春休みで、姉が同席) ( 建前) 母親が患者の気持ちを理解し、家庭で患者をサポート(母親がカウンセラーの役割) 28 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) の 対 応 は B子 に 良 か れ と 考 え て の こ と で 第2期:母親の理解と対応の変化 あったが、理想的な対応も時期が適切でない と患者にはストレスになると考えられる。 母親のサポートでB子は姉に対する攻撃 幼稚園の時と同様に、学校生活全般において 的感情を母親に聴いてもらうことが出来る も厳しい担任に対して怖い姉のイメージが ようになった。家庭での情緒的安定が得ら 重なっていたと考えられる。担任に自己主張 れた結果、B子の状態は図5に認められる できないB子は不適応に陥り、図6に認めら ように改善している。 れるように症状は悪化した。このために治療 第 3 期 : 環 境 の 変 化 に よ る 増 悪 と B子 の 自己主張訓練 として学校での適応を良好にする自己主張 訓練を導入した。母親に自己主張訓練の方法 を指導し、家庭でB子の感情表出を促しB子 小学校入学による環境の変化で改善して が学校で自己主張できるように援助を依頼 いた症状は再度増悪した。原因としては した。図7は最終回の描画である。自分を象 B子にとって担任が怖く感じられたことが 徴的に表すとされる大きな樹が描かれてい あげられる。担任は几帳面で理想が高い る。作品からはB子が情緒的に安定して不適 先生であった。脱毛という症状を抱えたB子 応状態が解消されたことがうかがわれた。 を強く育てたいと望み、かつらをはずして B子は学校で自己主張して自分を守る適切な 登校するように働きかけた。しかしB子は 対処行動がとれるようになった結果、情緒的 まだかつらをはずして登校する心の準備が に安定して脱毛は改善した。図8は最終回の 整っていなかったために抵抗し、学校に行く B子の頭部である。この時点で治療終結とし ことに対する不安が高まった。学校の先生 た。なお本例では薬物は使用していない。 図5 治療中期 家庭での情緒的安定の確保 ⇒ 全体に発毛(+) 怖い先生がいた幼稚園を卒園。 小学校入学 ⇒ 環境の変化による改善を期待。 図6 再び脱毛増悪 治療方針の修正。本人が怖い先生に対して適切に 対処できるように、自己主張の練習を、母親が家庭 で指導できるように援助。 29 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 小学校の担任に対する恐怖心や攻撃的感情 フォローアップ の 抑 圧 は 再 び 準 備 因 子 や 増 悪 因 子 となり、 B子 は そ の 後 良 い 状 態 を 保 っ て い た が 、 症状の再発と増悪につながったと考えられ 8年後円形脱毛が再発して外来を受診した。 る。先生は怖いというB子自身の受け止め 中学3年になったB子は受験と部活の対人 方と、それによって生ずる攻撃的感情および 関係でストレスを感じていた。3回ほど 感情の抑圧を、自己主張という適切な対処 カウンセリングを行い、ストレスについて 法に変えることで準備状態は解消し脱毛が 話し合うことで情緒的には安定した。また 軽快したと考えられる。 再発と増悪への不安も保証することで緩和 したために3回のカウンセリングで治療終 まとめ 結とした。 2例ともに円形脱毛の発症や増悪に伴い心 この症例では、①準備因子:姉との同胞 理的な問題が認められた。心身医学的な立場か 葛藤、良い子で反抗期も目立たず、怖い姉に ら、発症に至る準備状態や誘発因子や持続因 対しては攻撃的感情を抑圧、②誘発因子: 子を病歴や生活歴から明確にし、心理的な問 幼稚園の担任を怖い先生だとB子が受け止 題に対して適切に対処できるように援助する めたこと、③持続増悪因子:怖い姉に対し ことで症状の軽快が認められたと考えられる。 て適切に対処できない状況が家庭だけでな 円形脱毛は自然に軽快することも多いの く幼稚園でも再現されたことがあげられる。 で2次的なとらわれや不安の軽減を図るこ 母 親 の 援 助 で 家 庭 で の 適 応 状 態 が 良 く と 6)、また発症や経過に心理的な問題の関 なり、症状の軽快が認められた。しかし 与が認められる場合は、心理療法の導入が X+2 図7 自由画(最終回) 図8 最終回の状態 きこりさん:初回の描画と較べて、安定して元気。 学校でも適切に自己主張できるように変化(自己 主張訓練) その後8年間良好な状態を維持。 30 アルカロイド研究会会誌 有効であると考えられる。 Vol . 31(2005) 引用文献 心療内科に紹介される脱毛の患者は多く はない。しかし心身医学的な治療が奏効す る症例は少なくないと考えられる。今後は 皮膚科との連携をとり、心療内科も協力し ながらチームで治療していくことが期待さ れる。 1)岡部俊一:皮膚科 末松弘行(編) .新版心身医学 ( 朝倉書店) :644651,1994. 2)小柳憲司:円形脱毛症と抜毛癖 富田和己(編). 小児心身医学の臨床:診断と治療社:2627, 2003. 3)Tesima H, et al:Application of psychoimmu- notherapy in patients with alopecia universals. Psychother Psychosom 56 : 235241, 1991. 4)十川 博:呼吸器・アレルギー系の心身症.久保 千春(編).心身医学標準テキスト:139154, 医学書院,1996. 5)吾 郷 晋 浩 : い わ ゆ る 難 治 性 喘 息 に 対 す る 心 身 医学的研究.福岡医誌 70:340359,1979. 6)伊藤雅章:円形脱毛症 宮地良樹・久保千春(編) 皮膚心療内科.診断と治療社:124128,2004. 31 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ワークショップ Section I 「脱毛を科学する」 3)毛髪の再生医療 広島大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 吉里勝利 皮 膚 付 属 器 官 で あ る 毛 髪 は 毛 包 と 毛 幹 毛乳頭細胞を分離しこれを継代培養によって よりなる。毛包は、表皮細胞が分化した 増殖させた後、毛髪のない前頭部にこれら 種々の毛包細胞によって形成されている。 細胞を自家移植したところ、発毛を確認 全ての種類の毛包細胞は、毛母細胞が増殖 できた。これらの成果は、増殖させた毛乳 分化したものである。また、毛母細胞は 頭細胞による毛髪再生医療の可能性を示して 毛幹細胞にも分化する。毛幹は体表を突き いる。 抜けて成長する。毛包は、真皮組織である 真皮鞘によって取り囲まれている。真皮鞘 は毛根部で毛包に取り囲まれ、真皮乳頭と なり、毛母組織と接している。毛包・毛幹 形成に関するこれまでの研究によって、毛髪 の形成には、真皮乳頭と毛母細胞の相互 作用が重要な役割を担っていることが明ら かにされている。 私達は、ヒト毛乳頭細胞を継代培養する 方法を開発した。この方法で増殖させた 毛乳頭細胞は、 in vivo において、表皮細胞 を毛包細胞に分化させ、毛包・毛幹を誘導 しこれを成長させる能力を保持している ことを示した。また、実際、毛髪の毛乳頭 はヒト表皮を毛包・毛幹に分化誘導し、これ を成長させ得ることを、異所性自家移植に よって示した。さらに、ヒト後頭部から、 33 アルカロイド研究会会誌 Section II Vol . 31(2005) ワークショップ 「痛みを科学する」 1)基調講演 疼痛発生のメカニズム 島根大学医学部 麻酔学 齊藤洋司 1.痛みとは 血圧上昇、心拍数増加であったり、痛みによる 呼吸運動抑制、喀痰排出困難、体の制限となる。 痛みとは、国際疼痛学会の定義では「実際 こ の よ う な 痛 み の メ カ ニ ズ ム を 考 え る に何らかの組織の損傷が起こったとき、 上で大切なことは、痛みをつくり伝える あるいは組織損傷が起こりそうなとき、 経路と、抑える機構の2つの経路として あるいはそのような損傷の際に表現される とらえることである。 この2つのバランスの ような、不快な感覚および感情体験」とされ 中で痛みというものがつくられたり、 または ている。非常に難しい定義であるが、 “不快な” 抑えられたり、またはこれが治療に使われ ということが一番の問題である。痛いという たりということになる。 ことはどういうことかというと、感覚的にも、 身体的にもまた生活するうえでも、非常に 2.痛みを作る経路 嫌なものであるということがいえる。 痛 み の 刺 激( 機 械 的 な 刺 激 、 熱 の 刺 激 、 一方、痛みによって主要臓器を中心と 化学的刺激など)は、侵害受容器に刺激が してあらゆる機能が影響を受ける。何らかの 入 る と そ れ が C線 維 や Aδ 線 維 に よ っ て 組織の侵害情報が伝わったことによる1つの 脊髄に伝えられ、大脳の感覚野に伝わって 出力が知覚としての痛みであるが、同じ 痛いという感覚になる。この場合、Aδ線維 情報によって知覚以外の出力もある。この の伝える痛みは非常に鋭くて速い痛み、 出力が内分泌機能、循環機能、呼吸機能 一方C線維の伝える痛みは遅くて鈍い痛み などの変化といった生体反応として現れる。 ( 内臓の痛みなど) である (図1)。 これらの出力(生体反応)は、知覚としての こ の 痛 み を 作 る 経 路 の 中 で 痛 み が 増 幅 出力である痛みが嫌なものであるのと同様に、 される機序が生体には備わっている。 普通の 各臓器や機能にとって嫌なものであることが 場合痛みの刺激があっても痛いと感じた 多い。例えば、 内分泌反応による異化の亢進、 後は収まってゆくものであるが、最初の 37 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ラ ッ ト の 背 中 に 切 開 創 を い れ 、 そ の 後 侵害刺激(痛み) の伝達 速い痛みと遅い痛み 触覚刺激に対する反応性を観察した。その 結果、未処置群に対し、処置群は触覚刺激に C線維 Aδ線維 太い神経 速い痛み 対し非常に嫌がる反応を示し、刺激に対して 細い神経 遅い痛み 過敏になるという現象がみられた(図2)。 また、脊髄におけるcf os の発現を調べると、 処置群は痛みを伝える1、2層、更に本来 痛みを伝えない3∼4層にもcf os の発現が 痛みの刺激 増強されていた。 別の実験であるが、プロスタグランジン 図1 侵害刺激の伝達 E1またはF2αを髄腔内に投与して、刺激 痛みの原因に対してさらに違う痛みの原因が に対する過敏度や痛みに対する閾値を 次々とできてくるということが起こる。 調べた。プロスタグランジンを投与すると、 これが臨床の中で難渋する痛みの原因に 熱刺激では20分程度、内臓刺激では30分 なっている場合が多い。1つの痛みに伴い 程度閾値が下がり過敏状態が見られた。 脊髄や末梢および中枢にわたっていろいろな これを触覚刺激でみると、代謝の早いプロ 痛みの原因が発生するような過敏化する スタグランジンにもかかわらず、過敏状態が 状態を感作と呼んでいる。この原因の中では 長時間持続していた(図3)。また、後角の 特に脊髄が関与することが多い。また、 神経細胞の受容野では時間の経過と共に 痛みがあると更に血圧が上がる、血管が 神経細胞が受け入れる範囲が広まってゆく 収縮する、虚血になる、炎症が起こりやすく ことが認められた。 なるなど生体の反応が起こり、 それによって 他に電気活動を見ると、刺激を継続すると 更に痛みが増幅されるという悪循環が起こる。 刺激に対する反応が次第に大きくなる。 ( 3. 61) Agi t at i onScor e 6 ( 4. 08) 6 4 4 4 2 2 2 0 0 0 −2 前 後 −2 前 ( 4. 31) 6 後 −2 対照群 組織損傷群 前 図2 触覚刺激に対する反応性の変化(組織損傷後) 38 後 アルカロイド研究会会誌 生食 PGE1100ng PGE1500ng * P< 0. 05vs生食群 18 Agi t at i onScor e 15 12 * * * * * 9 6 Vol . 31(2005) * * * * * * * * * * * * * * * * 3 0 0 30 60 90 120 150 180 210DAY1 Ti me ( mi n) DAY2 Pai n63: 303,1995 図3 触覚刺激に対する反応性の変化 PGE1くも膜下投与後 ま た 、 1回 の 刺 激 の 後 大 き な 刺 激 が 何 も モルヒネを投与して次第に効果が減弱 加わらなくともまた発射する後発射という するという背景の中には、逆に痛みを作り 現象も見られており、更に長期的に増強 出すという要因も入っているということが するような電気活動もみられている。また、 判る。これを脊髄後角細胞のcf osの発現 痛みを伝える線維と触角を伝える線維は でみると、モルヒネ投与群で明らかにcf os 本来別々であるにもかかわらず、刺激が の発現が上がっていることが認められた。 あると触角を伝える線維が痛みを伝える 即ち痛みを伝えやすい状態になっていた。 線維の方に発芽してゆくという現象も、 しかしながら、この結果からモルヒネが 解剖学的に認められている。 使い難い薬剤であるということではなく、 鎮 痛 剤 と し て よ く 使 わ れ る モ ル ヒ ネ は 、 効果が減弱する面で見た場合にこういう 耐性形成によって次第に効かなくなることが 現象も起こっているということである。 知られている。モルヒネを脊髄腔に6日間 また、痛みのある時とない時では、この 連続注入すると、次第に鎮痛効果が減弱し 反応性は全く違っており、痛みのある時に てくる。耐性が形成されているのであるが、 モルヒネを使うと、もっと長く効果が続く これを触覚に対する刺激で見ると、生食を ことが判っている。 投与した群ではあまり変化は見られないのに い ず れ に し て も 、 痛 み の 原 因 が あ る と 、 対し、モルヒネ投与群では最初は触覚刺激に 最初の痛み以外の原因が様々な形で作られ、 対 し て も 効 果 が 見 ら れ た が 、 3日 目 以 降 臨床上ではそれが現れたり現れなかったり からは次第に過敏になっていることが認め という現象が起こっているということに られた。 なる。 39 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 3.痛みを抑える経路 ミン酸を測定した。グルタミン酸が上がる こ と に よ っ て 、 PAGか ら の 下 行 性 疼 痛 痛 み の メ カ ニ ズ ム の な か で は 、 痛 み を 抑制系が活動するといわれている。熱刺激 抑える経路が非常に重要となる。中脳や を加えることによって、PAGのグルタミン酸 延髄から脊髄に向かって下りている下行性 レベルが上昇してゆくが、これを熱刺激が 疼痛抑制系という経路がある。この下行性 入ってくる視床でブロックすると、グルタ 疼痛抑制系について実験を行った。 ミン酸の量は上がってこない。 ネ コ を 自 由 に 動 け る 形 で 脊 髄 に 電 極 を また、一つの場所に痛みがある場合他の 入れ、活動電位を記録した。セロトニン 場所での痛みを抑える経路があり、その 拮抗薬で下行性疼痛抑制系を遮断すると、 経路はPACのグルタミン酸が上がることに 刺激に対して非常に強い発射活動が記録 よる下行性疼痛抑制系の活性化に基づいて された。これは、生体の痛みを伝える経路が、 いる。この経路は、痛みが入ってくる視床で 普段は抑えられている状態にあるという ブロックすると痛みを止める作用が起こら ことを示している。 この経路にオピオイドが なくなる。 働くことが判っており、この経路を使って 他 に も ま だ 多 く の 痛 み を 抑 え る 経 路 が 痛みを強く抑えることができる。緩和ケアの あり、様々な環境でその経路が起こって 場合に使うオピオイドはこの作用もまた くることが判っている。 利用されている。一方、下行性疼痛抑制系の 経路を遮断すると、受容野も広がって場合 4.結び によっては左の受容野が右の受容野まで 痛 み の メ カ ニ ズ ム と し て 、 痛 み を 作 る 拡大し、左右が交通して刺激を受け入れる 経路と痛みを抑える経路があり、臨床上 状態が起こる。 様々な痛みの病気の問題を作り出しており、 別の実験で、下行性疼痛抑制系の中心の それと同様に我々は医薬品やいろいろな 中 脳 水 道 周 囲 灰 白 質 ( PAG) に マ イ ク ロ 投与方法を用い、この2つの経路を使って ダイアリーシスとプローブを入れ、グルタ 治療に役立てているということになる。 40 アルカロイド研究会会誌 Section II Vol . 31(2005) ワークショップ 「痛みを科学する」 2) 各種疼痛の臨床、メカニズム、治療 ① 炎症と痛み 京都府立医科大学 麻酔科ペインクリニック 京都府立医科大学附属病院 疼痛緩和医療部 細川豊史 キーワード いわれる難治性の痛みにまで発展すること プロスタグランジン、NSAI Ds 、ニュー もある。このような痛みの拡大、遷延、難治 ロパシックペイン、NFκB 化に炎症が大きく関わっている。ここでは、 はじめに 炎症をもたらすプロスタグランジンの作用 と そ の 合 成 酵 素 阻 害 剤 で あ る NSAIDs 我慢と忍耐を美徳と考える国民性と富国 ( 非ステロイド性抗炎症薬:Nons t eroi dal 強兵を国是とした時代の流れの中で、いつ Ant i i nf l amat or y Dr ugs )の作用について しか“痛み”も我慢すべき対象であるという 述べる。 認識が、多くの日本人に定着してきた。この ため、 「痛みは我慢すべきである。」 、 「鎮痛薬 炎症とプロスタグランジン は使用しない方が良い。」という固定観念が 外傷や化学的刺激などが局所に生じると、 最近まで患者や家族、医師にまで広く浸透 同部でプロスタグランジン(pr os t agl andi n していた。しかし痛みは精神的に人を苦しめ、 :PG)がその合成酵素であるシクロオキシ 時には自殺をも選択させる場合がある。 ゲナーゼ(cycl ooxygenas e:COX) により また痛みストレスが免疫系を抑制し、感染症 合成される( 図1) 。このPGが炎症を起こし、 やがんの進展、時には発癌に関与する遺伝 痛みを惹起するさまざまな発痛物質を局所 子などに影響するともいわれている。つまり に生じてくることはよく知られている (図2) 。 「痛かったら死ぬ。」のである。また最初は プロスタグランジンには、炎症部位で痛み、 単純な痛みでも、長く放置すると痛みの程度 腫脹、発赤、熱感などを起こす生体に害する は大きくなり、やがて隣接部位へと拡大し、 働きと、消化管や高齢者の腎の血流維持、 さらに離れた場所にも新たな痛みを生じて また血小板凝固など生体の恒常的機能維持 くる。ときにはニューロパシックペインと に重要な働きとがある(図3)。 41 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 外傷、免疫反応、化学的・熱的刺激等 リン脂質 COX1 ホスホリパーゼA2 PG:プロスタグランジン アラキドン酸 シクロオキシゲナーゼ COX1、COX2 PGG2 COX2 炎症 PGH2 PGF2α PGE2 血管拡張、発熱 炎症 PGI 2 TXA2 血管拡張、痛覚過敏 腎血流維持 胃粘膜保護 s t . CGRP Hi Bradyki ni n SubP 血小板凝集 痛み 図1 アラキドン酸カスケード 炎症部位 胃 疼痛 胃粘膜保護 腫脹 血流量維持 図2 構成酵素 COX1 PG 腎 機能障害 血流量維持 図3 PGの作用 PG 誘導酵素 胃 腎臓 血小板 恒常的機能維持 アラキドン酸 発赤 熱感 PG COX2 炎症 滑膜細胞 軟骨細胞 血管内皮細胞 単球 図4 誘導酵素 COX2の発見 プロスタグランジンとシクロオキシゲナーゼ プロスタグランジンと痛み PGを合成するCOXにはCOX1とCOX2 PGが炎症を惹起し発痛物質を生じ、末梢 の2種類(最近ではCOX3の存在も判明) の の侵害受容器を刺激して起る痛みは、初期 アイソザイムが存在することが分かっている。 には単純な痛みである。しかし、初期の段階 COX1は構成酵素と呼ばれ、生体の恒常的 で、NSAI Ds や原因除去などの適切な鎮痛 機能維持に働くPGの合成に関わり、COX2 治療が施されないと、時として、末梢神経、 は誘導酵素と呼称され、血管内皮細胞や 中枢神経の機能や感受性の変化をもたらし、 単 球 な ど か ら 炎 症 に 関 わ る PGの 合 成 に 患者を新たな痛みで苦しめ、臨床現場で治療 大きく関与している(図2、4)。COX2選択 に苦慮するニューロパシックペインなどの 性の高いNSAI Ds は、この炎症に関わるPG 難治性疼痛を生じてくる。 合成を選択的に阻害することが出来るため 最近では臨床の場で中心的に使用されて きている。 NFκBの炎症、痛みとの関わり NFκBはCOX2の誘導を含めた多く の遺伝子転写のact i vat orとして局所だけ 42 アルカロイド研究会会誌 でなく、さまざまな全身性の炎症にも関与 している。怪我や神経損傷、感染などの侵襲 により活性化され、多くの種類の炎症性サイ トカインを発現する(図5、6)。一部のNS AI DsにはこのNFκBの発現を抑制する 効果を持つことが分かっている。また、 難治性疼痛の一つであるニューロパシック ペインの治療に用いられるケタミンはこの NFκBのサイトカイン産生放出抑制作用 や、抗炎症作用を持つことが明らかにされ ている。 Vol . 31(2005) 炎症と痛覚過敏 炎症組織において、引き続く侵害受容器へ の 刺 激 は 、 最 初 は 単 純 な 痛 み で あ っても、 やがて知覚神経の感受性を高め、多発性関節 リウマチの関節痛に代表される侵害受容性 慢性疼痛や、ときにはニューロパシック ペインを生じてくる(図6、7)。 炎症と交感神経 炎症時には交感神経節後線維でPGが産生 され、交感神経末端から遊離して侵害受容 器を興奮させ、痛みを生じさせる(図8、 9)。 また、損傷や引き続く刺激をうけた侵害受 外傷、免疫反応、化学的・熱的刺激等 COX1 容器には、アドレナジック受容体が増加し、 COX2 交感神経から放出されるノルアドレナリン PG NFκB ( NA)がこの受容体に結合し、インパルス 炎症 s t . CGRP Hi つまり痛みを生じさせる(図9)。 PG Bradyki ni n SubP 炎症から生じた単純な痛みが放置 されると、新たな“疼痛“や“侵害 受 容 性 慢 性 疼 痛 ”、 “ニューロパ 痛み・炎症 シックペイン“ を生じてくる。 図5 図7 注意! 炎症組織 ( 1)炎症時に交感神経節後線維でプロスタ PG NFκB mφ グランジンが産生され、交感神経から 遊離して、ポリモーダル受容器(痛覚受 I L1, I L6, TNF PG PG PG 容 器 )を 興 奮 さ せ 、 痛 覚 過 敏 の 一 因 を なす。 PG PG 痛み(痛覚過敏) 侵害受容器 PG PG PG PG PG PG ( 2)逆行性伝導のインパルスは神経末端に おいて、 CGRPやsubst ance Pを放 出 、 炎症を惹起し同部にブラジキニンや 侵害受容性慢性疼痛、ニューロパシックペイン プロスタグランジンが産生される。 図6 炎症組織における侵害受容器刺激 図8 新たな痛み発生に関わる炎症反応 43 アルカロイド研究会会誌 炎症 刺激 Vol . 31(2005) PG PG PG PGPGNA PG PG PG 交感神経節後線維 が分かっている(図11)。また中枢神経では、 神経過敏 痛み ポリモーダル受容器 □:PG 受容体 ○:増加したα2アドレナジック受容体 後根神経節細胞の脱分極を促すことやNM DA受容体の活性化に引き続いて起る一次 性求心性ペプチドの分泌促進やNOの活性 化を促すことが知られている(図12)。 図9 炎症と交感神経 新たな痛み 痛み 軸索反射と逆行性伝導 痛覚神経 痛覚神経 局 所 の 痛 み 刺 激( 侵 害 刺 激 )は 求 心 性 に 交感神経 求心性 DRG 遠心性 インパルスを伝えるが、痛覚路を通って 求心性 エファブス 中枢神経に至り、視床下部から大脳皮質 遠心性 で痛みを認識する。ところが末梢神経は蛸 足配線のごとく枝分かれしているため、 その神経線維に沿って、痛み刺激のインパ ルスは逆行性に他の末梢神経に遠心性にも 伝わる(図10)。この離れた侵害受容器末端 上行性伝導:求心性 ( 順行性) サブスタンスP 侵害受容器 CGRP 痛み刺激 に達したインパルスはその部位でサブス タンスP、CGRP( Cal ci t oni n gener el at ed 下行性伝導:遠心性 ( 逆行性) 遠心性 侵害受容器 サブスタンスP CGRP 血管拡張・透過性亢進 } PG産生・ブラジキニン分泌 炎症 新たな痛み 図10 軸索反射と逆行性伝導(関連痛) pept i de) 、ブラジキニンなどの発痛物質を 産生し、ここに新たな痛みを生じさせる ( 図10)。また、外傷やがん組織の浸潤など で、知覚神経と交感神経が短絡( エファプス) を生じると、感情興奮などによる交感神経 のインパルスが知覚( 痛覚) 神経に流れ、交感 神経由来の痛みを生じることもある (図10)。 炎症とニューロパシックペイン <抹消作用> ( 1)直接的に知覚神経ニューロンを活性化 ( 2)機械的科学的刺激に対する神経の感受性を増加 ( 3)他の刺激に対して知覚神経を感作 知覚神経における活動電位興奮当地閾値を下げる? 図11プロスタグランジンによる痛覚過敏発生機序 炎症を惹起するPGには末梢神経レベル でも、中枢神経レベルでも痛覚過敏を発生 させ、ニューロパシックペインの発症に 大きく関わっていることが知られている。 末梢作用としては、直接的に知覚ニューロン を活性化することやさまざまな刺激に対する 知覚神経の感受性を増加させたりすること 44 <中枢神経> ( 1)後根神経節細胞の脱分極を促す ( 2)NMDAレセプターの活性化に引き続いて 起こる一次性求心性ペプチドの分泌促進 やNOの活性化 図12プロスタグランジンによる痛覚過敏発生機序 アルカロイド研究会会誌 NSAI Dsによるニューロパシックペイン発症の予防 NSAI DsはPGの合成酵素であるCOXの 作用を抑制するため、強力な抗炎症作用を 発揮する(図13)。これにより、早期に炎症 を沈静化し、炎症の遷延に伴う知覚神経の 感作などの発生を予防できることは容易に 想像できる。それ以外に、求心性知覚神経 の興奮性の抑制やNFκB合成の抑制、 ブラジキニン合成酵素抑制などの作用も あるため、炎症( 痛み発生) の初期から、十二 分にNSAI Ds を投与することで、ニューロ パシックペインへの移行を予防できる可能 性 は 高 い 。 PGは 末 梢 神 経 、 中 枢 神 経 両 レベルでニューロパシックペイン発症に 関与しているため、その投与ルートは脊髄 液内(くも膜下や脳室内)も考慮しなければ ならない(図14)。 Vol . 31(2005) PG受容体 PG受容体が生体のさまざまな部位に存在 することが知られている。その種類も多く いまだ、全てのPG受容体の種類や機能が 解明されているわけではない。PGの作用 はこのPG受容体にPGが結合することで発 揮されるため、PG受容体拮抗薬はPGの作 用を阻害することができることが容易に 想起される。このため痛み治療の新しい 薬剤として、PG受容体拮抗薬に大きな期待 が寄せられている。しかし、PGの生体に おける作用がすべて解明されているわけで はなく、受容体もすべて同定されていない。 PGは生体のいろんな部位で、さまざまな 役割を果たしていることだけは間違いない。 このため、痛み治療だけを考えたPG受容体 拮抗薬の安易な全身投与は想像できない さまざまな副作用を生じてくる可能性が 高い。かつてのサイトカイン療法に伴う 副作用発現がそうであったように、早急な COX アラキドン酸 NSAI D PG 使用は危険が大きすぎると考える。 最後に 炎症に伴う単純な痛みも長く放置され 図13 シクロオキシゲナーゼ( COX) の作用 ると、難治性疼痛へと姿を変えていく機 序のほんの一端について炎症を中心に述 べさせていただいた。痛みは放置せず、 初期からの鎮痛が重要であることと、その 抗痛覚過敏作用に期待 痛みの原因の多くは最初は炎症であるこ <問題点> と を 、 御 理 解 い た だ き 、早 期 か ら の 痛 み (1)通常の投与ルートで良いのか 治療により、一人でも多くの患者の痛み (2)投与量の問題 が難治性へと移行しないで済むことを祈念 (3)投与部位 いたします。 図14 NSAI Dsによるニューロパシックペイン発症予防 45 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 参考文献 1)細川豊史,佐和ていじ:痛みと免疫−21世紀 のオピオイドの世界−.ペインクリニック 21 6)細川豊史,他:ニューロパシックペインとNS AI Ds の関わり−プロスタグランジンの痛覚過 敏作用を中心に−.日本ペインクリニック学会誌 9:386390,2002. (6) :857864,2000. 2)細川豊史:痛みの発生と伝導機序,110,痛み 7)細川豊史:侵害受容性慢性疼痛.医学のあゆみ 203 (1):3942,2002. の評価と診断基準.編集;宮崎東洋,後藤文夫, 8)細 川 豊 史 : 神 経 因 性 疼 痛( ニ ュ ー ロ パ シック 小川節郎,南江堂(東京),2003. 3)細 川 豊 史 : 非 ス テ ロ イ ド 性 抗 炎 症 薬 の 作 用 機序.麻酔科診療プラクティス「周術期治療薬 ガイド」,編集;高崎眞弓,文光堂,124125, 2003. 4)細 川 豊 史 : 侵 害 受 容 性 慢 性 疼 痛 .慢 性 疼 痛 −病態と治療法−(別冊医学のあゆみ),編集 ;宮崎東洋,医歯薬出版株式会社,3841,2003. 5)細 川 豊 史 : 痛 み の 発 生 と 伝 導 機 序 .ペ イ ン マネージメント −痛みの評価と診療手順−, 編集;後藤文夫,小川節郎,宮崎東洋,南江堂, 111,2004. 46 ペイン)の機序,痛みと臨床 3 (1) :29,2002. 9)細川豊史:臨床麻酔誌上セミナー ’ 04,シク ロオキシゲナーゼの生理と薬理,臨床麻酔 28 (増): 330341,2004. 10)細川豊史:特集「慢性疼痛」 ,侵害受容性慢性疼 痛の病態および診断.療学,ライフサイエンス社 39 (8) :4346,2005. アルカロイド研究会会誌 Section II Vol . 31(2005) ワークショップ 「痛みを科学する」 2) 各種疼痛の臨床、メカニズム、治療 ② 神経因性疼痛 日本大学医学部 麻酔科(駿河台日本大学病院) 佐伯 茂 はじめに 神経因性疼痛とは1994年にI nt er nat i onal As s oci at i on ofSt udy f orPai n( I ASP) に 表1 神経因性疼痛をきたす疾患 ■ CRPSTypeI( RSD) 、TypeII( カウザルギー) ■ 開胸術後疼痛症候群 ■ 術後瘢痕疼痛症候群 よりPai ni ni t i at edorcaus edbypr i mar y ■ 幻覚痛(幻肢痛、幻乳房痛、幻直腸痛) l es i on ordys f unct i on i nt henervous ■ 帯状疱疹後神経痛 s ys t em. と定義されている。すなわち、神経 ■ 中枢性疼痛(視床痛、脊損後の疼痛) の機能異常または神経に直接損傷が加わ ることによって生じる疼痛で、損傷の原 ■ 糖尿病性神経症 ■ 脊椎圧迫骨折 ■ アルコール性神経炎 因としては切断、挫滅、圧迫、血流障害、 ■ がん細胞の神経への浸潤 炎 症 な ど が あ げ ら れ る 。本 稿 で は 、神 経 因 ■ 癌の治療による(放射線、手術、化学療法) 性疼痛の発現機序、治療方法などについて 解説する。 表2 神経因性疼痛の臨床的特徴 I .神経因性疼痛をきたす疾患 1)神経の損傷、機能異常の存在。 神経因性疼痛をきたす疾患には表1に示し 2)痛みは灼熱痛、電撃痛のように激しい。 たようにCRPS TypeⅠ( RSD) 、TypeⅡ 3)痛みに匹敵するきわめて不快な感覚を伴う (dys es t hes i a:異常感覚)。 ( カウザルギー) 、開胸術後疼痛症候群、幻覚痛 ( 幻肢痛、幻乳房痛、幻直腸痛)などがあげ られる。これらすべて難治性の疾患であり、 疼痛管理には非常に難渋する痛みで長期間 にわたって持続する。その特徴については 表2に示した。 4)痛み刺激ではない刺激(軽く触れる) で痛みが 誘発される(al l odyni a :アロディニア、異痛症) 。 5)痛みを起こした刺激が消失した後も痛みが 継続する。 6)刺激を繰り返すことにより、痛みが増強する。 7)感覚が消失しているのにその部分に痛みを 感じる (anes t h es i adol or os a、有痛性感覚脱出症) 。 47 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) II .痛みが遷延化する機序 痛みが長期化する機序には末梢性レベル ならびに中枢レベル ( 表3) で神経に生じた 変 化 に よ る 場 合 が 考 え ら れ る 。ま た 、心 因 性、社会的因子も痛みの長期化に関与して いる。 しかしながら、神経に何らかの損傷が加 わり切断された場合、神経は再生してくる。 再生した神経は元々つながっていた神経と つながるのではなく全く別の神経とつな がってしまい、末梢から中枢に伝わる情報 がここで誤って別の神経線維に伝わって いくということが起こってくる。これを 表3 痛みが遷延化する機序 エファプスという。エファプスは神経終末、 神経発芽部位、神経腫などに形成される。 1.末梢神経レベルでの変化 1)ephaps eの出現(ephapt i ct r ans mi s s i on) ① 電気的短絡 el ect r i calcr os st al k、ch emi calcr os st al k 2)脱髄した神経線維による異所性の発火 ⅰ)自発痛、灼熱痛の発現 3)神経腫の形成 遠心性交感神経線維と痛覚伝達線維の間 4)損傷した神経線維の脊髄神経節への発芽 にエファプスが形成された場合、交感神経 5)軸索反射 は常に自発放電しているためこの電気的信 6)知覚神経の感受性の増加 7)dener vat i onhyper s ens i t i vi t y 号が痛覚伝達線維に乗り移り、中枢に伝え 2.中枢神経レベルでの変化 られ痛み(灼熱痛) として知覚される (図1A) 。 1)脊髄の可塑性 ⅱ)アロデニアの発現 ① wi ndup現象 痛 覚 線 維 と 触 覚 線 維 、 温 覚 線 維 な ど と ② cent r als ens i t i zat i on エ フ ァ プ ス が 形 成 さ れ る と al l odyni aが ③ Aβ線維の再構築異常 2)視床機能の低下 出現する(図1B)。 ② 化学的短絡 1.末梢性の機序 エファプスには異所性α受容体が多数形 1)エファプスの発現 成されるため、 カテコラミンを介した化学的 軸索とその周りを覆うシュワン細胞をま な短絡(chemi calcrosst al k:循環血液 とめて神経線維という。神経線維が束に 中に放出されたノルアドレナリンが、epha- なって神経束を形成し神経周膜に覆われて pseの 異 所 性 α 受 容 体 に 結 合 し 痛 覚 伝 達 いる。太い神経線維では神経束はいくつか 線維を興奮させる)が存在する 1)。 集まって神経外膜に覆われている。 2)神経腫の形成 し た が っ て 神 経 線 維 同 士 は 絶 縁 状 態 で 、 末梢神経が切断または損傷されるとその 神経線維に生じたインパルスが隣接する神 部位に神経腫が形成される。神経腫は非常 経線維に乗り移るようなことは起こらない に過敏化しているため、軽い機械的刺激が ようになっている。 神経腫に加わると異常発火し疼痛が誘発 48 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ephaps e 痛覚線維 遠心性交感神 経節後線維 A B ephaps e A:灼熱痛、自発痛 B:al l odyni a 痛覚線維 触覚線維 温覚・冷覚線維 ephaps eを介してのインパルスの乗り換え 遠心性インパルス 求心性インパルス 図1 エファプス(ephapse) される。また、 神経腫の中では前述のephaps e、 放電によるインパルスが痛覚線維に伝達さ 異所性のα受容 体 が 多 数 形 成 さ れ る た め 、 れ自発痛が生じることになる(図2)。 前述の機序で疼痛が発現し遷延する。 6)知覚神経の感受性の増加 3)軸索反射 侵害刺激が知覚神経に長期間加わってい 痛み刺激は求心路を上行するが、この時 ると、知覚神経自体カテコラミンに対する 痛み刺激が遠心路に乗り換え、 この刺激が神 感受性が増加する。その結果、末梢血中の 経末端からサブスタンスP、cal ci t oni ne カテコラミンにより疼痛が誘発される 6)。 gene rel ated pepti de ( CGRP)な ど の 7)Dener vat i onhyper sensi t i vi t y 神経伝達物質が放出され、末梢の毛細血管 血 管 、 平 滑 筋 、 骨 格 筋 を 支 配 し て い る 透過性亢進、毛細血管拡張、付近にある知 交感神経が障害され、これらの器官の交感 覚神経末端を刺激し疼痛を誘発する。 神経支配がなくなるとこれらの臓器のαアド 4)脱髄した神経線維による異所性の発火 レナリン受容体の数が増加し、血中のカテ 神経損傷による脱髄が起こるとこの部位 コラミンに対する感受性が増加することに の感受性が亢進し、自発放電の増加、機械的 なる。 刺激に対する感受性の増加の原因となる2)、3)。 5)交感神経線維の脊髄後根神経節への発芽4) 2.中枢神経レベルでの変化 損傷を受けた交感神経線維は脊髄後根神 神経系は環境の変化に対して、その機 経節に発芽しこれをバスケット上に取り囲 能を変化させる能力を持っている。これを みシナプスが形成される。交感神経の自発 神経系の可塑性(neur opl as t i ci t y) という。 49 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 後根神経節 知覚神経 Aβ 損傷 Aδ,C 交感神経 ( A)異所性αアドネナリン受容体,Naチャネルの発現 脊髄くも膜下ブロック 硬膜外ブロック Na ( C) Naチャネル 発芽 ( B) Aβ α受容体 発芽 ( A) 脊髄 末梢神経 ブロック NA Na+ 神経成長因子( NGF) 交感神経 交感神経( 節) ブロック ( C)Aβ線維の骨髄後角第Ⅱ層への進入 ( A) 異所性αアドレナリン受容体,Naチャネルの発現 ( B) 交感神経線維の後根神経節への発芽とシナプス形成 ( C) Aβ神経線維の脊髄後角第Ⅱ層への進入 図2 末梢神経線維による神経線維の変化(文献5より引用) プラスチックに熱を加えると柔らかくなる ( exi t at ory ami no aci d:EEA)、一酸化 ように、痛みが持続的に加わっていると脊髄 窒素(ni t or i coxi de) 、最初期遺伝子(i mm- の疼痛刺激に対する反応性が変化してくる。 edi at el year l ygene:I EG)の発現、NMDA 1)wi ndup現象 ( Nmet hylDas par t at e)受容体なども痛み 電気生理学的にはC線維を刺激する強度で、 の遷延に関与している。 かつ0. 5Hz以上の刺激頻度で刺激した場合、 4)Aβ線維の再構築 10) (図2) 脊髄後角細胞の反応が刺激ごとに増強して 低域値機械受容器をもつAβ線維の中枢 いく現象(wi nd up現象)が認められる 7)。 端 は 通 常 脊 髄 後 角 の 第 Ⅲ ∼ Ⅳ 層 に 存在し、 痛み刺激が持続的にC線維に加わると、脊髄 侵害受容線維であるC線維の中枢端は第Ⅱ層 の後角にあるWDRが過敏化し痛み刺激で に存在する。この正常な構築が保たれている ないわずかな刺激(例えば触刺激)に対して ならば、それぞれの知覚線維はそれぞれの も過剰に反応して痛みと感じてしまうよう 知覚 ( Aβ線維は非侵害性刺激を、C線維は になる 7)∼9)。 侵害性刺激) を伝達する。しかし、末梢でAβ 2)痛みの遷延に関与する受容体、神経伝達物質 線維が損傷を受けると脊髄後角ではAβ線維 サブスタンスP (SP)、CGRP、neur oki ni n がC線維が存在する第2層に向け発芽、進入 Aな ど の 神 経 ペ プ チ ド 、 興 奮 性 ア ミ ノ 酸 していく。このような状況下では末梢のAβ 50 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 線維に加わった触刺激は脊髄後角第2層で 推察する方法で、チアミラールテスト、フェン C線維を刺激しal l odyni aが生ずることに トラミンテスト、リドカイテスト、ケタミン なる。 テスト、モルヒネテストの5つから成り立って 4)視床機能の低下 11) いる 12)。 疼痛と視床機能の低下の関連性(疼痛側 と対側の視床機能の低下) が示唆されている。 1.DCTの方法(図3) 中枢性疼痛、帯状疱疹後神経痛のように長 DCTでは1日につき1薬剤の検査を行う。 期に疼痛が持続している症例では疼痛側と まず静脈路を確保した後、Pl aceboとして 対側の視床血流の低下が認められている。 生理食塩水を2回静脈内投与し、それぞれ 投 与 1分 後 な ら び に 5分 後 に PRS ( pai n III .遷延化している痛みに対する治療方法 rel i efscore: テ ス ト 前 の 痛 み の 強 さ を 慢性疼痛に行われる鎮痛手段として神経 10点とし、薬物投与後の痛みの強さを0∼ ブロックをはじめ各種薬物療法、精神神経 10ま で の 11段 階 の 点 数 で 答 え る )の 変 化 科領域の治療などいろいろ行われる。特に を記録する。その後、テスト薬剤を5分間 薬物療法については片端から試していくの 隔で3回静脈内投与し、それぞれの投与に もあまり得策とはいえない。そのような場 おいて投与1分ならびに5分後のPRSの変化 合にはドラッグチャレンジテスト(drug を 記 録 す る 。 1回 の 投 与 量 は 図 3に 示 し た chal l enget est :DCT)を行うのが良い 通りである。モルヒネテストの場合には、 と考える。これは鎮痛機序が判明している ナロキソン0. 2mgの静脈内投与によりモル 薬物の少量を静脈内投与することによって ヒネの鎮痛効果が拮抗されるか否かを確認 得られる鎮痛効果から、痛みの発生機序を する。 生食 生食 PRS 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 リドカイン 1mg/kg+1mg/kg/30min DIV 判定 ( −) 陰性 ( ±) 凝陽性 ( +) 陽性 1 生食 5 1 生食 5 1 5 1 5 1 5 ( ++) 強陽性 ( 分) チアミラール 50mg ナロキソン0. 2mg フェントラミン 5mg (モルヒネテスト) ケタミン 5mg モルヒネ 3mg 図3 ドラッグチャレンジテストの方法ならびに判定法 51 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) なお、リドカインの場合はプラセボを2回 静脈内投与した後、リドカイン1mg/kgを 単回静脈内投与したのち、リドカイン1mg /kgを30分間で点滴静注し、この間のVAS 2.DCTの結果と治療方針の関係 DCTの結果から推察される疼痛発現機序 とその結果に基づく治療方針を表4に示した。 3.神経因性疼痛に対する治療薬 の変化を経時的に記録する。 効 果 判 定 は 薬 剤 投 与 前 の PRSを 10と し た時、PRSが02にまで減少した場合を強 陽性、36に減少した場合を陽性、PRSの 減少が79にとどまった場合を擬陽性、PRS が全く変化しない場合を陰性とする。 表5に神経因性疼痛に用いる治療薬を示 した。NMDA受容体拮抗薬が神経因性疼痛 によく用いられているが、現在、NMDA 受容体拮抗作用のある薬物は静脈麻酔薬: 表4 ドラッグチャレンジテスト陽性の意義と治療方針の関係 痛みの発生機序 試験薬剤 チアミラール フェントラミン リドカイン 交感神経 神経の異所性 NMDA受容体 侵害受容 中枢性 心因性 の関与 異常活動 の関与 性疼痛 試験が陽性の場合に行う 治療法 ペントバルビタールカルシウム内服 脊髄、脳電気刺激療法 交感神経節ブロック 局所静脈内交感神経ブロック リドカイン点滴静注 メキシレチンの内服 ケタミン デキストロメトルファンの内服 ケタミン持続点滴療法 脊髄、脳電気刺激療法 モルヒネ リン酸コデイン、モルヒネの内服 知覚神経ブロック 消炎鎮痛薬の内服 表5 神経因性疼痛に対する薬物療法 1.NMDA受容体拮抗薬 3.抗うつ薬 5.GABAB受容体作動薬 ケタミン(ケタラール) アミトリプチリン(トリプタノール) バクロフェン(リオレサール) デキストロメトルファン(メジコン) イミプラミン(トフラニール) イフェンプロジル(セロクラール) クロミプラミン(アナフラニール) 6.カルシトニン製剤 アマンタジン(シンメトレル) (カルシトニン) 4.抗痙攣薬 2.抗不整脈薬 カルバマゼピン(テグレトール) 7.クロニジンの硬膜外投与 リドカイン(キシロカイン) ヒダントイン(アレビアチン) dur acl on ( 本邦未発売) メキシレチン(メキシチール) バルプロ酸ナトリウム(デパケン) クロナゼパム(リボトリール) Gabapent i n ( 本邦未発売) ( ) 内は商品名 52 アルカロイド研究会会誌 ケタミン、鎮咳去痰薬:デキストロメトル ファン(メジコン) 、脳循環改善薬:イフェン プロジル(セロクラール) 、抗パーキンソン薬: アマンタジン(シンメトレル)があげられ、 慢性疼痛に対する有用性が脚光をあびてい る。静脈麻酔薬であるケタミンはケタミン持 続点滴療法として使用されることがある。 モルヒネも神経因性疼痛の治療に用いら れるが、 神経因性疼痛には効きにくいとされ ている。神経因性疼痛の場合、損傷された末 梢神経の後根神経節にchol ecyst oki ni ne が大量に発現し、この物質が内因性モルヒ ネ拮抗性物質して作用することが原因とさ れている。神経因性疼痛を治療するには通 常の約10倍量のモルヒネが必要となる。しか しながら、疼痛管理に難渋している場合に はある程度の量を使用すれば効果が現れて くることがあるので、疼痛管理に難渋して いる時には試みる価値はあると考える。 おわりに 神経因性疼痛は治療に難渋する痛みで、 その発現機序は 複 雑 で あ る 。 し た が っ て 、 痛みの発現機序を見極めたうえで治療する 必要がある。治療には鎮痛補助薬を使用す るべきであり、場合によっては麻薬の使用 も考慮する。神経因性疼痛に有効な治療薬 の開発、臨床使用が待たれるところである。 Vol . 31(2005) 参考文献 1)Koreman EMD, Devor M:Ectopic adren ergic sensitivity in damaged peripheral nerve axons in the rat. 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Nature 306:686 - 688, 1983. 9)Woolf CJ. Recent advances in the pathophysiology of acute pain. Br J Anaesth 63:139 - 146, 1989. 10)Woolf CJ, Shortland P, Coggeshall RE. Peripheral nerve injury triggers central sprouting of myelinated afferents. Nature. 355:75 - 78, 1992. 11) 中村 満、土井永史、一瀬邦弘 ほか:慢性疼 痛における視床機能の変化―脳機能画像に よる検討―. ペインクリニック 20:21 - 26, 1999. 12) 佐伯 茂、加藤 実、柏崎美保 ほか:ドラッグ チャレンジテストによる痛みの評価法.ペイン クリニック 19:501 - 506,1998. 53 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ワークショップ Section II 「痛みを科学する」 2) 各種疼痛の臨床、メカニズム、治療 ③ がん性疼痛 兵庫医科大学 疼痛制御科学 村川和重 本 邦 で は が ん 対 策 の 強 化 に も 関 わ ら ず 、 がんによる死亡は増加の一途を辿り、1981 年から死亡原因の第一位となっている。しか 疼痛治療の現状と問題点について述べる。 除痛率が低い現状 し、がんによる死亡総数の増加の一方で、現状 本邦でがん性疼痛の除痛率が向上してい では進行がんや末期ガンの患者に対する医療 ない理由は様々であるが、最大の要因は世界 が十分に行われているとは言い難い。こうし 保健機関(WHO)の提唱するopi oi dを用い た状況はがん性疼痛治療の分野にも顕著にみ るがん性疼痛治療法が十分に実践されてい られ、末期がん患者の除痛率は全国の成人 ないことである。本邦におけるopi oi dの使 病・がんセンター施設でも60%未満であり、 用量は欧米のそれと比較すると、極めて少 全医療施設では約50%に過ぎず1)、2)改善する なく、使用量の少なさが除痛率の低さを如 傾向すらみられていない。こうしたがん性 実 に 表 し て い る( 図 1)。 欧 米 で は WHOの 350 300 オーストラリア 250 カナダ フランス 200 ドイツ 150 日本 イギリス 100 アメリカ 50 国際麻薬統制委員会( I NCB) 、 人口は2000年Dat aで計算 ( kg/100万人) 0 1998 1999 2000 2001 2002 図1 各国のオピオイド消費量 (mor phi ne:oxycodone:f ent anyl を100:50:1に換算) 55 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ガイドラインに従ったopi oi dの投与が中等 腫瘍に対する治療が痛みの原因となる場合 度以上のがん性疼痛に対する治療として も 約 20% 程 度 あ り 、 手 術 療 法 に と も な う 広く受け入れられており、多くの施設で良好 術後慢性痛、化学療法による神経障害や粘 な 除 痛 結 果 が 得 ら れ て い る 3)、4)。本 邦 に お 膜炎および放射線療法による神経組織周囲 いてopi oi dの使用量が少ない理由としては、 の線維化や脊髄症などに因っても痛みが生 痛みに対する問題意識が低く、痛みに対す じる。一方で、がん患者が訴える痛みの中 る治療が十分に取り組まれていないことと には腫瘍や抗腫瘍療法とは直接的に関連し 共に、opi oi dの使用に対する抵抗感が依然 ない、変性疾患や合併症が原因となる痛み として根強いことである。そのため、がん も数%は存在している。がん患者の痛みの 性疼痛治療を適応とするopi oi d製剤の種類 治療に当たっては、痛みの原因を適切に の増加にともなって漸増していた使用量も、 診断し、原因に応じた治療を行うことが 最近は増加の程度が鈍くなってきている。 必要である。しかも、複数の痛みを訴える しかし、至適なオピオイドの使用により、 場合には、原因が混在していることも少な が ん 性 疼 痛 の 80% 以 上 で は 除 痛 が 可 能 と くないので、それぞれの痛みに対して異 の高いevi denceが認められ 5)、opi oi dの なった対応が必要となる。 適正使用の推進はがん性疼痛治療の発展に 痛みの原因とともに、痛みの発生機序の は不可欠である。また、一方ではopi oi dの 診断も重要となる。がん性疼痛の多くは侵 使用のみでは良好な治療効果が得られない 害受容性疼痛と考えられるが、侵害受容性 症例が一定程度は存在することも事実であ 疼痛の場合でも体性痛と内臓痛が混在して る 6)。こうしたopi oi dのみによっては十分 お り 、 そ れ ぞ れ opi oi dに 対 す る 反 応 性 は な治療効果が得られない、opi oi d res pon- 異なっている。また、がん性疼痛には神経 s i venes s が低い例では除痛効果や副作用の 因性の要素を機序とする痛みが含まれるこ コントロールが主要な問題となる。このよ ともあり、疼痛治療を困難にしている要因 うに、がん性疼痛は多様な病態を有してい となっている。 ることから、効果的な治療を行うには的確 痛みの治療を有効に行うためには、治療 なアセスメントが重要である。 効果の的確な評価も重要となり、そのため がん性疼痛のアセスメント には痛みの強さの評価が不可欠となる。痛み の強さの評価に用いられるツールには、100 がん患者が訴える痛みには様々な原因が mmの 直 線 を 用 い る 視 覚 的 ア ナ ロ グ 疼 痛 組み合わさっていることが少なくない。痛み スケール(vi sualanal oguepai n scal e; の原因としては、腫瘍による直接の浸潤に VAS)、0∼10までの11ポイントを用いる 起 因 す る 痛 み が 最 も 多 く 約 80% を 占 め て numeri calrat i ng scal e(NRS)、f ace おり、諸臓器への浸潤や骨および神経系へ scal eなど数種類があり、いずれのツール の浸潤が原因となって痛みが生じる。また、 を用いても問題はないが、患者および治療 56 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) チーム内では共通の評価法を用いることが 7例、肝臓および前立腺が6例と続き、あら 必要である(図2)。 ゆる臓器に分布していた(図4)。疼痛部位 Opi oi dr esponsi venessの視点からのがん 性疼痛治療 は 腰 部 が 24例 と 最 も 多 く 、 次 い で 腹 部 が 22例、下肢が18例、背部が17例、上肢が 10例であり、ほぼ全身にわたっていた(図5) 。 が ん 疼 痛 治 療 の 中 心 は opi oi dを 用 い た 骨転移が認められた症例が46例あり、腰椎 薬物療法であることから、兵庫医科大学病 に19例と最も多く、次いで頚椎や骨盤およ 院ペインクリニック部で過去一年間に疼痛 び四肢骨が9例、胸椎が8例であった(図6)。 管理を行ったがん性疼痛患者100例(男性 こ れ ら の が ん 性 疼 痛 例 の opi oi dに 対 す る 65例、女性35例)を対象にopi oi dを中心 反 応 性 は morphi neの 静 注 に よ る DCTに と し た 薬 理 学 的 疼 痛 機 序 判 別 試 験( drug おけるVASの変化を82例に対して検討した。 chal l enget es t ;DCT)を用いて、薬物療 Morphi ne静 注 に よ る VASの 変 化 で は 、 法に対する反応性を検討した 7) (図3)。がん 60%以上の減少が42例(52%)、60∼30% の原発部位は直腸が18例と最も多く、次に の減少が23例(28%)、15∼30%の減少が 膵臓が11例、食道が8例、胃および大腸が 4例(5%) 、15%以下の減少は12例(15%) がん患者の持続的疼痛管理フローチャート 癌と無関係な痛み 癌による痛み 痛みの原因に応じた治療 除痛ラダーの導入 適応による追加:緩和的 ・放射線治療 ・手術療法 ・神経ブロック療法 ・抗腫瘍治療 鎮痛補助薬 心理ー社会的介入 理学的治療 重篤な副作用 他の薬剤の使用 投与ルートの変更 副作用対策 補助薬 び漫性の骨痛 NSAI Ds とオピオイド の至的な投与 放射線治療 ビスホスフォネート 痛みの診断 (アセスメント) 痛みなし 再アセスメント 除痛 必要に応じた 治療の継続 痛みの持続 他の原因と治療の考慮 神経因性疼痛 (末梢神経、 神経叢脊髄) 鎮痛補助薬 オピオイドの増量 放射線治療 神経ブロック療法 神経破壊的手技 動作時痛 羅患部位の 手術的および 理学部安定化 神経ブロック療法 神経外科手術 神経破壊的手技 粘膜炎 口腔洗浄 局所麻酔薬による洗浄 オピオイド ・経皮的投与 ・PCA (静脈の皮下) 抗生剤 再アセスメント 図2 がん患者の疼痛管理フローチャート 57 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 20∼29 1 0 30∼39 1 Femal e Mal e 2 6 40∼49 7 12 12 50∼59 7 60∼69 24 7 70∼79 80∼89 1 0 16 4 5 10 15 20 25 図3 がん患者100例の年齢および性別分布 Rectum 18 Pancreas 11 Colon 10 Esophagus 8 Stomach 7 Prostate 6 Liver 6 Kidney 4 Breast 4 Uterus 3 Ovary 3 Lung 3 17 Others 0 5 10 図4 がん患者100例の原発部位 58 15 20 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 24 Lower back Abdomen 22 Legs 22 17 Upper back Arms 10 Perineum 10 Shoulders 9 Pelvis 9 Neck 5 Others 7 0 5 10 15 20 25 図5 がん患者100例の疼痛部位 Lumbar spine 19 Cervical spine 9 Thoracic spine 8 Pelvis 9 Limbs 9 Others 0 4 5 10 15 20 図6 骨転移の部位 59 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) であった(図7) 。Opi oi d抵抗性の12例には、 対象患者の疼痛機序を推測したところ、 NaチャネルブロッカーおよびNmet hyl - 侵害受容性の要素を含む痛みが89例に認め Daspart i caci d (NMDA)受容体拮抗薬 ら れ 、 そ の 中 の 24例 に は 内 臓 痛 の 関 与 が のDCTも行ったが、60%以上のVASの減 示唆された。また、神経因性疼痛の因子が 少が認められたのはket ami neによる1例 関 与 し て い る 痛 み の 存 在 が 24例 に 推 測 さ のみであり、これらの薬剤によって著明な れた(図9) 。 VASの減少を示す例は少なかった(図8)。 推測された疼痛機序を基にして、100例 こうしたDCTの結果などを参考にして、 の が ん 性 疼 痛 患 者 の 治 療 が 行 わ れ 、 83例 less than 15% 12 (15%) 15 to 30% 4 (5%) Decr eas ei nVAS 60% or more 42 (52%) 30 to 60% 23 (28%) 図7 モルヒネ静注テストによるVASの減少率 0∼15% 15∼30% 30∼60% Li docai n6/12 4 1 1 Fl ecai ni de4/12 1 2 1 Ket ami ne6/12 5 Mor et h an 60% 0 1 図8 モルヒネ抵抗性疼痛12症例の他の 薬剤によるVASの変化 Cancer pain mechanisms in 100 patients Nociceptive Visceral Neuropathic Unclear 24 2 0 60 89 24 10 20 30 40 50 60 70 図9 がん性疼痛患者の疼痛機序 80 90 100 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) に は opi oi d療 法 が 行 わ れ 、58例 に は 神 経 種々の機序の痛みが混在している可能性が ブロック療法が施行された。また、47例に あり、これら複雑な痛みの病態を適切に診 ついてはopi oi d療法と神経ブロック療法が 断することが不可欠である。Opi oi dによる 併用された。 除痛効果が不十分となる要因としては、神 Opi oi d抵抗性を示した12例の疼痛機序 経因性の機序が関与する場合や侵害受容性 は 、 8例 に 神 経 因 性 、 2例 に 侵 害 受 容 性 の でも強い体性痛の要素が含まれている病態 関与を推測したが、2例に関しては明確で であり、これらの因子に有効なopi oi d以外 はなかった。これら12例に対する治療は、 の治療法を選択することが必要である。 9例に神経ブロック療法を施行し、6例には ま た 、 痛 み の 病 態 を 的 確 に 把 握 す るには、 鎮痛補助薬を用い、4例にはopi oi d療法を 治療効果を含めて適切なアセスメントを 施行した。 繰り返し行うことも重要である。患者自身 薬物療法と神経ブロック療法を適切に組 の因子では心理的な状態と副作用に影響す み合わせてがん性疼痛管理を行ったところ、 る年齢や重要臓器の状態などの関与が大き 100例中96例にはほぼ満足すべき除痛効果 い。種々の問題を有する症例の治療には積 が得られた。しかし、4例においては種々 極的なアプローチが必要となり、非オピオ の治療を行ったものの、効果的な除痛は イド鎮痛薬や種々の鎮痛補助薬を適切に併 得られなかった。これら4例の痛みの原因 用することが必要となる。そして、適応を は多発性の骨転移や神経叢への腫瘍の直接 考慮して神経ブロック療法などの薬物以外 浸 潤 な ど で あ っ た 。 ま た 、 こ れ ら 4例 は の治療法も積極的に取り入れることが重要 いずれも進行がんで全身状態の問題から、 である。また、opi oi d療法においてもopi oi d より積極的な疼痛治療の施行が制限された swi t chi ng & rot at i onを考慮し、鎮痛作 ことも、十分な除痛効果が得られなかった 用と副作用のバランスが良好な薬剤を選択 要因となっていた。 し、副作用に対しては向精神薬などを用い Opi oi dr esponsi venessの低いがん性疼痛 患者の治療 た積極的な対策を講じることが重要である。 一方では、患者の全身状態の問題から、積 極的な疼痛治療の施行がしばしば制限され、 がん性疼痛治療においてはopi oi d療法が そのために十分な除痛効果が得られないこ 中心となり、80∼90%の患者では適切な ともある。したがって、がん性疼痛治療は opi oi dの使用によって、満足すべき除痛効 可能な限り早期からの開始が不可欠である。 果を得ることができる。しかし、opi oi dに そして、がん疼痛の病態は多様であり、 よる治療効果が低く、十分な除痛効果が得 さらに患者背景も多彩であることから、 られない症例では、痛みの病態を適切に把 が ん 性 疼 痛 治 療 の 戦 略 に も opi oi d療 法 を 握することが極めて重要となる。がん性疼 中心としながらも、より多くの選択肢を 痛の病態にはopi oi dに対する反応が異なる 備える必要がある。 61 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 参考文献 1)平賀一陽:本邦における癌性疼痛管理の現況と 今後の展望.ペインクリニック 20:47984, 1999. 2)平賀一陽: 武田文和: 日本における癌性疼痛治療 の 現 状 と 今 後 の 展 望 − 大 学 病 院 に お け る が ん 疼痛治療の推移を主に−.緩和医療 1:134 42,1999. 3)Jadaa AR, Browman GP :The WHO analgesic ladder for cancer pain management : Stepping up the quality of its evaluation. JAMA 274 :1870 - 3, 1995. 4)Stjernsward J, Colleau SM, Ventafridda V : The World Health Organization on cancer pain and palliative care program past present, future. J Pain Symptom Manage 12 : 65 - 72, 1996. 62 5)Du Pen SL, Du Pen AR, Polissar N, et al : Implementing guidelines for cancser pain m a n a g e m e n t :R e s u l t s o f a r a n d o m i z e d controlled clinical trial. J Clin Omcol 17 : 361 - 70,1999. 6)Bernabei R, Ganbassi G, Lapane K, et al : SAGE study Group. Management of pain in elderly patient with cancer. Systematic assessment of geriatric drug use via epid emiology. JAMA 279 :1877 - 82,1998 7)Murakawa K, Moriyama K, Noma H, et al :E va l u a t i o n o f a c u t e p a i n r e s p o n s e t o intravenous morphine in Japanese patient with cancer pain. 11th International Pain C l i n i c , E d i t e d b y H a n a o k a K , Yu g e O , Namiki A, Bologna, Medimond, 107 - 112, 2004. アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ワークショップ Section II 「痛みを科学する」 2) 各種疼痛の臨床、メカニズム、治療 ④ 慢性疼痛の心とからだ 日本大学医学部 内科学講座 1)、日本大学板橋病院 心療内科 2) 横浜労災病院 心療内科 3) 村上正人 1)、2)、松野俊夫 2) 、江花昭一 3) 1.慢性疼痛の特徴 疼痛とは 組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結び 慢性疼痛の背景には、生物学的な要因のみ 付くか、このような傷害を表す言葉を使って ならず、社会心理的ストレス要因なども 述べられる不快な感覚、情動体験。 国際疼痛学会の定義 複雑に絡み合っているため、 慢性疼痛の診断、 治療に難渋を来すことが多い。疼痛の定義 には、不快な感覚、あるいは情動体験と 痛みの二面性 「感覚としての痛み」と「感情としての痛み」 図1 疼痛 いったものが含まれており、痛みが複雑化 している。従って、痛みには2面性があり、 感覚としての痛み以外に、感情としての 痛みといったものが当然含まれる( 図1) 。 痛 み は 様 々 な 要 因 に よ っ て 変 化 す る 。 痛みに対する閾値が上昇する要因の中には、 希望、安心、説明、理解をする、休息が とれる、睡眠がよくとれる、気分転換が できる、鎮静剤を使う、抗不安薬や抗うつ薬を 使うなどが含まれており、これらによっても 痛みに対する感受性を軽減させることが できる。しかし、一方では、絶望感や恐怖、 不確実、怒り、不安、抑うつ、疲労、不眠、 不快、孤独、不活発といったような要因に よって、より痛みを感じやすくなるという ことも、しばしば観察されている( 図2) 。 痛みに反応する閾値の変化 希望 安心 説明 理解 休息 睡眠 症状の緩和 ( 気分)転換 鎮静剤 不安緩解剤 抗うつ剤 閾値上昇 ( より痛みを感じ ないようになる) 絶望 恐怖 不確実 怒り 不安 抑うつ 疲労 不眠 不快 隔離( 孤独) 不活発 閾値低下 ( より痛みを感じ やすくなる) 図2 痛みに反応する閾値の変化 63 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 急性疼痛は、痛みの原因や器質的な病変 その結果、QOLが落ち、医療不信に陥り が判然としていることが多くその程度も やすくなり、良好な医師患者関係が築き 客観的に評価しやすい。そして、通常の にくいということに繋がる。さらに、痛み 鎮痛薬や麻薬、神経ブロックなどでコント というのはなかなか他者から受容、共感 ロールすることが可能である。一方、慢性 されにくいということがあり、患者が孤立 疼痛は、頑固に繰り返される反復性の痛み 化していくということになる。 であり、多くは身 体 病 変 の 存 在 が 不 明 瞭 である。また、局所よりも全身的な痛み 2.慢性疼痛はどのように形成されるか として訴えられ、その背景には筋緊張、 慢性疼痛でも、最初の急性期には器質的 血管攣縮による血行動態の障害があり、 それが な痛みが重要な位置を占めており、血流 さらに痛みを増強させるという悪循環が 不全や筋肉の攣縮などの多様な機能的な 認められる。次いで、自律神経、内分泌、 問題、あるいはそれらに伴い二次的に惹起 免疫系のホメオスターシスにも悪影響を する心の問題は、さほど大きな問題では 及ぼし、様々な愁訴を引き起こすなどの ない。しかし、時の経過に従い、器質的な 問題を引き起す(表1)。 痛みは多少軽快しても、機能的な問題や 心因的な問題が膨らみ、急性期から慢性期 表1 急性疼痛と慢性疼痛 急性疼痛と慢性疼痛 Ⅰ.急性疼痛 1)痛みを発する炎症、外傷など器質的 病変の存在を探ることは比較的容易 2)痛みの程度を客観的に評価しやすい 3)鎮痛剤、麻薬、神経ブロックなどで コントロール可能 Ⅱ.慢性疼痛 1)長期間に渡る痛み、頑固に繰り返さ れる反復性の痛み 2)慢性疼痛の多くは身体病変の存在が 不明瞭 3)局所よりも全身的な痛み 4)疼痛のために筋緊張、血管攣縮など による血行動態の障害、それがさらに 痛みを増強させるという悪循環 5)自律神経、内分泌系、免疫系のホメ オスターシスに悪い影響を及ぼす 6)社会的活動性が制限され、人生、生活 の質が損なわれる 7)疼痛が解決されず医療不信に陥いり やすく、良好な医師・患者関係が築き にくい 8)慢性疼痛患者が他者から受容、共感 されにくい 64 へと痛みそのものが複雑な病態を呈して くるようになる( 図3)。 また、慢性疼痛では、痛みの心因あるいは 機能的な問題が十分に理解されないために、 斯かる痛みを訴える患者がなかなか他者 から理解されにくい。慢性疼痛にかかわる 斯様な情動的ストレスは、痛みの閾値を 変え、あるいは耐性を変化させることに 慢性疼痛の成り立ち 慢性疼痛急性期 慢性疼痛慢性期 器質的 心因的 機能的 機能的 心因的 器質的 原図:中井吉英:慢性疼痛とは何か、 日本医事新報 3772:712, 1996 眞下節:慢性疼痛とは何か、大阪医学 34 :1318. 2000 図3 慢性疼痛の成り立ち アルカロイド研究会会誌 つながる。痛みは末梢に生じた疼痛刺激が Vol . 31(2005) 慢性疼痛に関わる諸因子 そのまま大脳で認知されるわけではなく、 身体的要因 交感神経系の興奮、注意集中、とらわれ、 修飾する。 さらに、慢性疼痛はしばしば、首、肩、 腰 、目 、胸 、腹 、四 肢 な ど と 全 身 の 痛 み に 拡大してゆくこともある。そして、さらに 気分の日内変動、意欲、集中力といった うつ的な気分まで伴うようになると、痛みが 社会 家庭 温度 湿度 気圧 騒音 痛 修飾された痛み 行動論的要因 疲労などさまざまな問題がかかわり、痛みを 慢性疼 心理的要因 対する取り組み、予期不安の強さ、心身の 環境的要因 心身のリラックス状態、さらには、痛みに 体力・疲労度・耐性度 心因性 疼痛 心因性の痛み 心理的外傷体験 本来の痛み 外傷・炎症 浸潤・刺激 不安 抑うつ 怒り ヒステリー 攻撃性 敵意 内向性 被暗示性 不適応 神経質 習慣 心気性 図4 慢性疼痛に関わる諸因子 モノアミン神経系と情動 修飾される。 慢性疼痛は一般に、 通常の鎮痛薬、 筋弛緩薬あるいはマッサージ、鍼灸などの 理学療法で改善しないことも多いため、 治療には難渋することも多い。 セロトニン 衝動 不安 いらいら ノルアドレナリン 覚醒 気分 認知機能 食欲 感情 積極性 性欲 気力 攻撃力 慢性疼痛の特徴を図4に示す。生理学的 または解剖学的に認知される痛みがある にしても、患者が訴える痛みは、さまざま な環境的要因、心理的要因、行動論的 ドパミン 要因、身体的要因などで修飾された痛み 快楽 である。 よくいう心因性疼痛は慢性疼痛とは異なり、 心理的な外傷体験などから起こってくる 〔H-J Moller: J Clin Psychiatry, 61 (suppl 6), 24 (2000)〕 図5 モノアミン神経系と情動 痛みであって慢性疼痛の概念とは分けて 考えるべきと考えている (図4)。 関 連 し て い る こ と も 判 明 し て き た 。特 に 近年、ヒトの情動、感情、行動と、モノ セロトニンは生理活性アミンの一種であり、 アミン神経系神経伝達物質との関連が明らか 縫線核から中枢に放散して脳機能を調整し、 にされてきた(図5)。 さらには、平滑筋や血管の収縮にも作用して 1つはセロトニンであり、他はノルアド いる。セロトニンの調節機能には、 さまざまな レ ナ リ ン 、ド ー パ ミ ン で あ る 。 最 近 で は 、 情動的な問題やストレスとともに、ストレス セロトニン、ノルアドレナリン系の機能 関連物質であるコルチゾールが関与し、 の問題がうつ病、強迫性障害あるいは それらの増大に伴いセロトニン作用は低下 不安性障害というさまざまな精神疾患と する( 表2)。 65 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 表2 セロトニンによる生体調整 セロトニンによる生体調節 トリプトファンから合成される生理活性アミン の 1 種縫 線 核 よ り 中 枢 に 放 散 、脳 機 能 を 調 整 平滑筋、血管の収縮 生 命 維 持 の た め の エ ネ ル ギ ー( 基 礎 代 謝 )の 維 持 ストレスによるセロトニン調節機能の低下コルチ ゾールがセロトニントランスポーターの機能と 拮抗、セロトニン不足の状態に ミュー受容体に対する作用、ケタラールと 同様のNMDA受容体に介在性の伝達機能 抑制、あるいは脊髄後角神経節細胞のカル シウムやナトリウム依存性チャンネル電流の 抑制などの作用を持つのではないかと考え られている( 表4)。 表3 慢性疼痛に抗うつ薬は有効か 3.慢性疼痛の治療 慢 性 疼 痛 に 対 す る 薬 物 治 療 も 当 然 考 慮 されねばならないが、ステロイドやNSAI Ds 慢性疼痛 に抗うつ薬は有効か? ーメタ分析によるエビデンスー 抗うつ薬は骨関節症、RA、腰痛、線維筋痛症など の慢性疼痛に対して鎮痛効果を有する。これは 抗うつ効果とは独立した効果で心因性の障害、身体 などの一般的な鎮痛薬は効果がない。昨今 表現性障害に伴う痛みにも有効である。また SNRI 議論されている抗うつ薬も考慮の対象と の方が SSRIよりも有効性が高い。 すべきであろう。種々のメタ分析があるが、 Fishbain D:, Annals of Medicine, 32(5), 2000 21の Cont r olSt udyがなされ、3環系抗うつ薬を用 抗うつ薬は骨関節症、リウマトラルフライ いた9つの t r ai lがメタ分析された。3環系抗うつ薬 テ ス 、腰 痛 、線 維 筋 痛 症 な ど の 慢 性 疼 痛 に は Pl aceboより有意に線維筋痛症の疼痛、こわばり、 対して、鎮痛効果を有する(表3)。 圧痛、倦怠感、 睡眠障害に有効であった。 Arnold LM et al : Psychosomatics, 41(2), 2000 SNRI はセロトニンとノルアドレナリンに 16の RCT のうち13の t r i alがメタ分析された。 選択的に働く抗うつ薬であるが、セロトニン 線維筋痛症 の睡眠障害、倦怠感、疼痛、健康度 単独の効果を持つ抗うつ薬よりも有効性が に対して Pl aceboより有意に効果が認められた ( オッズ比 4. 2)。 しかし圧痛点は減少しな 高いというエビデンスがある。これは抗うつ かった。抗うつ効果とは独立して効果が認めら 効果とは独立した効果であり、心因性の障害、 れた。 3環系と SSRIとの間に効果の差はなかった。 身体表現性障害に伴う痛みに有効である。 O’Malley et al : J .General Internal Medicine, 15(9), 2000 また、三環系の抗うつ薬にもSSRI と同様の、 抗うつ効果とは独立して痛みをコントロール する作用があると報告されている。 表4 痛みに対する抗うつ薬の効果 痛みに対する抗うつ薬の効果 ・遠心性(下行性)痛覚抑制系を刺激 痛みに対する抗うつ薬の効果の1つは、 ・疼痛を直接軽減させる末梢性作用 下行性疼痛抑制系の刺激である。これは疼痛 ・3環系抗うつ薬やSSRI 、SNRI の有用性を考慮 を直接軽減させる末梢性の作用であり、 1.脊髄後角におけるセロトニン、およびノルアド レナリン系伝達機構を介する痛覚抑制系を刺激 従来は三環系の抗うつ薬を使用していたが、 最近はセロトニンに選択的に働く抗うつ薬 が使われるようになった。これらは、脊髄 後角に起こるセロトニン及びノルアドレナ リン系の伝達への直接作用、オピオイドの 66 2.中脳中心灰白質や脊髄後角にあるオピオイドμ 受容体に結合し、モルヒネ様効果を発現(?) 3.NMDA受容体介在性の伝達機構を抑制 (例:ケタラール) 4.脊髄後角神経節細胞の電位依存性チャンネル 電流を抑制 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 下行性疼痛抑制系の模式図を図6に示す。 疎経活血湯、桂枝加朮附湯、芍薬、甘草、 痛みの侵害刺激は、脊髄後角から入り、脊髄 牛車腎気丸、あるいはノイロトロピン、 視床路を上行し大脳で認知される。一方、 加 工 ブ シ も 使 わ れ る よ う に な っ た( 表 5)。 視床下部から延髄を通り、脊髄後角で痛み ブ シ に つ い て は か な り 報 告 さ れ て いるが、 を抑制するセロトニンとノルアドレナリン系 これはアコニチンを主体とするアルカロイド を中心とする下行性疼痛抑制系がある。 であり、利尿、強心、鎮痛作用があり、更には、 この部位に作用する薬には、三環系抗うつ 四肢関節痛の麻痺や疼痛、虚弱体質者の腰痛、 薬やノイロトロピンなどがある。ブシにも 下痢、失精などにも効果がある(図7)。 同様の作用があるとの報告がある。 慢性疼痛の薬物治療 4.慢性疼痛の治療薬 一般的な慢性疼痛の治療薬物は、抗うつ 薬 で あ る 。 最 近 は SNRI がよく使われる。 抗痙攣薬、筋弛緩薬も使われる。漢方では Des cendi ng( Ef f er ent )Anal ges i cSys t em 痛みに対する下行性(遠心性)抑制系 Ser ot oni nandnor adr enal i nmedi at edanal ges i c s ys t em 生体内鎮痛機構 脊髄後角におけるセロトニン、 ノルアドレナリン系伝達機構を介する 痛覚抑制系 Oh ar aetal :St r es s ,p791,1992 cortex PAIN ! thalamus 表5 慢性疼痛の薬物治療 抗うつ薬:下向性(遠心性) 疼痛抑制系を刺激、 うつと 独立して作用3環系抗うつ薬(アナフラ ニールなど)SSRI ( ルボックス、デプロ メール、パキシル)SNRI (トレドミン) 抗痙攣薬:クロナゼパム(ランドセン、 リボトリール) カルバマゼピン (テグレトール)など 筋弛緩薬:中枢性筋弛緩薬(テルネリン、 ミオナール、 アロフトなど) 漢方方剤:疎経活血湯、桂枝加朮附湯、芍薬甘草湯、 牛車腎気丸など その他 :ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚 抽出成分 (ノイロトピン) 、附子製剤 (加工ブシ、 アコニンサン) 附子 ( ブシ) Aconi t iTuber キンポウゲ科のカラトリカブト( ハナトリカブト) の 塊根。中国四川、陝西省で栽培される。 アコニチンを主体とするアルカロイドを含み、猛毒性 であるが減毒して用いる。利尿、強心、鎮痛作用が hypothalamus あり、四肢関節の麻痺、疼痛、虚弱体質者の腰痛、 下痢、失精など内臓諸器官の弛緩によっておこる mid-brain medulla oblongata Pain pathway PAIN impulse spine 症状の復活に応用する。 gray matter Descending Analgesic System raphe nucleus 基 原 キンポウゲ科 (Ranuncul aceae) Serotonin、 Noradrenalin impulse posterior horn PAIN impulse のハナトリカブト Aconi t um car mi ch ael i PAIN ! 図6 痛みに対する下降抑制系 Debeauxその他同属 植物の塊根 (株)ツムラのホームページより 図7 加工ブシ 67 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ブシの作用は、水分の代謝を盛んにすると 最終的には心理的な治療が必要になるケース 考えられる。水分の偏在も慢性疼痛の一部 が、しばしば存在する。最近、慢性疼痛に と考えられ、体幹及び四肢の関節痛、重だる 対する心理的治療法の中で最も有効と考え さ、知覚麻痺、手足の冷え、あるいは腹痛にも、 られているのは、認知行動療法である。 ブシの効果が期待できる。これと関連する 慢性疼痛の患者は年余に渡って長期に通院 薬にはアコニンサン錠、あるいは加工ブシ、 する。薬剤の奏効率はせいぜい5割、 6割で 桂枝加朮附湯、牛車腎気丸、真武湯、八味地 ありその先の足踏み状態から脱却していくか、 黄丸、麻黄ブシなどがある。 今一歩治療が進展しない膠着状態を如何に これらの相互作用機序はまだ明確ではな 打開するかが課題である。そこで必要になる いが、Cファイ バ ー を 抑 制 す る と い う 説 、 のが、 心理社会的な要因へのアプローチである。 オピオイドのカッパ受容体に対する疼痛抑制 例えば、痛みを理解してくれる人、ある 系の刺激があるとする説、あるいは前述の いは痛みに伴うさまざまな苦痛をサポート 下行性疼痛抑制系への関与などさまざまな説 してくれる人の存在によって、痛みはかなり がある。しかし、いずれにしろこれらが痛み 緩和される。 をコントロールする1つのメカニズムだと 心 身 医 学 領 域 で よ く 使 わ れ る 認 知 行 動 考えられている。 療法は、さまざまな不合理な信念を、治療者 5.慢性疼痛治療の今後と認知行動療法 と患者の両方の合意と努力で、解決指向的に 転換していこうというものである(表6)。 慢性疲労症候群に代表される激しい倦怠 慢性疼痛の治療プロセスについて久保ら 感を伴う慢性疼痛の患者は非常に多い。 ( 九州大学 心身医学) のスキームを示す(図8)。 近年、慢性疲労症候群も、視床下部の血流 不全あるいはセロトニンが関係していると 判明し、それに対するSSRI の積極的使用 表6 認知行動療法によるアプローチ 認知行動療法によるアプローチ が試みられている。心療内科では、慢性 疲労症候群と診断をされた患者には以前から SSRI を積極的に使用している。慢性疼痛に 不合理な信念体系の基本的なスキーマ( 図式) 全か無の思考・べき思考・過度の一般化 独断的推論・自己関係付け・破局的な見方 対してSSRI あるいはSNRI が奏功すること を考慮すると、慢性疼痛と慢性疲労症候群 治療者・患者の合意と努力で解決志向的に の全身の激しい倦怠感、疲れには疾患メカ ニズムとして共通性があると考えられる。 慢性疼痛に対する薬効は、効果がある人 自らの認知、 行動パターンへの気付き そうなった根拠と理由の問いかけ でも、せいぜい5割、6割、効かない人で 他の考え方・行動を選択する可能性を探る は1割、 2割程度の鎮痛効果であり、薬だけ 行動リハーサル・モデリング・段階的タスク ではコントロールが困難である。その結果、 68 アルカロイド研究会会誌 鎮痛治療、抗うつ薬などの薬剤治療を行うと、 慢性疼痛の治療 かなり全体的な痛みは改善する。しかし、 基礎疾患の治療 麻酔科的治療 抗うつ薬 心理的アプローチ これで痛みが十分にとれるわけではない。 次いで、そこにさまざまな心理的なアプ pain behavior ローチをすることにより、さらなる治療 pain behavior suffering pain behavior suffering suffering pain Vo l. 31 ( 2005 ) pain pain 効果が期待できる。慢性疼痛の治療のため には、治療者自身の医学的技術のみならず、 痛みを全人的な視点でとらえてゆくことが 久保千春ほか:心療内科における慢性疼痛の治療 精神科治療学 15:371-376.2000 図8 慢性疼痛の治療 重要で、長期間患者の苦痛とつきあって ゆく姿勢が求められる。 以上、慢性疼痛の心身医学的アプローチ 当初、患者は痛みに伴うさまざまな苦痛や について解説をした。痛みについて、心身 それに付随するさまざまな症状を全人的な 両面からの理解が深まり、 より有効な治療法 痛みとして訴える。そこに基礎疾患の治療や が開拓されることを期待している。 69 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 1)消化器癌におけるCepharant hi nの肝転移抑制効果の検討 奈良県立三室病院 外科 池田直也 【背景・目的】 有している可能性があると考え、入手可能 消 化 器 癌 の 治 療 成 績 は 手 術 技 術 の 向 上 、 抗癌剤や分子標的薬を含めた新規薬剤の 登場により向上しつつある。しかしながら 肝臓や肺などに遠隔転移を来した症例の 予後は現在でも不良であることが多い。 我々は以前より細胞運動の制御から転移抑 制を目的とし、多くのモノクローナル抗体 を 作 製 し 報 告 し て き た が 1)∼ 2)、こ れ ら の モノクローナル抗体の一つが遺伝子クロー ニングによりAmi nopept i das eN( APN) / CD13を認識していることが判明し、APN/ CD13 といった分子が細胞運動と深く関与 3) することが示唆された 。一方、APN/CD 13阻 害 薬 は 急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 治 療 薬 と してベスタチンが既存しており、作製した APN/CD13を認識するモノクローナル抗 な 数 種 類 の BRMに 属 す る 薬 剤 を 用 い て スクリーニングしたところCepharant hi n ( CE) のみが in vitro で細胞運動を抑制する ことが判明した 4)。ビスコクラウリン型アル カロイドを含有する Cepharant hi n( CE) はBRM ( bi ol ogi calr es pons emodul at or ) として古くから知られる薬剤であり、マムシ 咬傷、気管支喘息、放射線治療または癌治 療時の白血球減少症などの治療に幅広く用 いられている薬剤で,最近では宿主免疫 機能増強による抗腫瘍効果や抗血管新生 効果、アポトーシス誘導などの多彩な機能 が報告されている 5)∼7)。しかしCEが肝転移 を抑制するという報告はなく、今回 in vivo におけるCEの消化器癌の肝転移抑制効果の 検討を目的とした。 体とともに新たにベスタチンを用いた転移 【方 法】 抑制研究を立ち上げた。ベスタチンという 肝転移モデル作製のためBALB/cマウス 薬剤はBRM ( bi ol ogi calresponsemod- の脾臓に、同系のマウス大腸癌細胞株col on ul at or) に属しており、他のBRMに属する 26を顕微鏡下に1x105個接種し、同日( day0) 薬剤にもこれまで報告されていない機能を よりCE 1000μg/dayを14日間連日、腹腔 73 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 内 投 与 し た 。 day14に す べ て の マ ウ ス を のみならず、原発巣においても有意な増殖 s acr i f i ceし、肝表面の転移結節数、肝重量、 抑制効果を認めたことから消化器癌術後の 脾原発巣の重量、サイズを測定し、生理 補助療法に役立つ可能性が示唆された。 食塩水を腹腔内投与したコントロール群と 比較検討した。 文 献 【結 果】 1)池 田 直 也 , 他 : 消 化 器 癌 に お け る 免 疫 療 法 の uptodate 機 能 抗 体 に よ る 膵 癌 免 疫 療 法 の 肝 表 面 の 転 移 結 節 数 に お い て は コ ント 可能性.日本消化器外科学会雑誌 36( 7) :741, ロール群では25. 8±15. 9であるのに対し、 2003. 2)池田直也,他:癌細胞運動阻止抗体の作製から CE投与群ではすべてのマウスにおいて肝 表面には全く転移結節を認めず、完全に 転移を阻止した( Fi g. 1) 。また、col on26を 接種した脾原発巣の腫瘍体積においては、 コントロール群で2461. 0±2441. 3mm3に 対し,CE投与群で107. 6±200. 6 mm3と 脾原発巣においても有意な増殖抑制効果を 認めた( Fi g. 1) 。また、CE投与群で体重減少 等の副作用は認めなかった。 膵癌治療への展望.日本消化器外科学会雑誌34 ( 7) :828,2001. 3)Ikeda N, Nakajima Y, Tokuhara T, Hattori N, S h o M , K a n e h i r o H , M i y a ke M : C l i n i c a l significance of aminopeptidase N/CD13 expression in human pancreatic carcinoma. Clin Cancer Res 9 (4) : 1503 - 1508, 2003. 4)池田直也,他:ヒト膵癌細胞に対するCepha rant hi nの抗腫瘍効果の検討.日本癌学会61回 総会記事:376,2002. 5)海老名卓三郎、小野 稔:癌と化学療法 28( 2) : 【結 論】 211215,2001. 6)Furusawa S, et al : Methods Find. Exp. Clin. Pharmacol. 20(2) : 87 - 97, 1998. Cepharant hi n( CE)は マ ウ ス 肝 転 移 214, 2001. 7)Wu j, et al : J. Cell. Biochem. 82(2) : 200 - モデルにおいては著明に肝転移を阻止する Day14 Cont r ol Day14 CE投与群 Fi g.1 Cephar ant hi nによる肝転移抑制効果 74 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 2)担癌マウスにおける5FU組織移行性に対するCephar ant hi nの影響 神戸薬科大学 臨床薬学研究室 高橋悠子、八木敬子、平井みどり 目 的 抗がん剤は副作用が少なく抗腫瘍効果が 強い薬剤が理想である。しかし、現在臨床 小腸) 、血清、骨髄中の5FU濃度を、抗腫 瘍効果と合わせて検討した。 方 法 で用いられる抗がん剤は、がん細胞への選 実験動物及び腫瘍細胞 択性が低く、骨髄抑制、悪心・嘔吐、脱毛 動物には、C3H/HeN系雄性マウス4週 などの副作用が高頻度に発現し、患者に苦 齡を用い、腫瘍細胞には雌性C3H/HeN由 痛を与えQual i t y ofl i f e( QOL) を低下さ 来乳癌細胞MM48を用いた。 せるだけでなく 、 治 療 継 続 を 困 難 に さ せ 、 [ 実験材料] 生命を脅かす例も少なくない。 5Fl uorouraci l ( 5FU) は、WAKO社の Cepharant hi n( Ceph) は、血液幹細胞 製品を用いた。Cepharant hi nは化研生薬 増加作用や脱毛抑制作用をもつため、抗がん より供与されたものを用いた。 剤との併用によって様々な効果が期待でき [ 細胞の培養条件] る薬剤である。 In vivo における実験系に MM48細胞は、10%FBS添加RPMI 1640 おいて、単剤でのリンパ節転移抑制効果や、 培地を用い、5%CO2、37℃の条件で培養 5Fl uorouraci l( 5FU) との併用による、 した。 腫 瘍 組 織 内 へ の 5FU移 行 性 増 強 効 果 や [ 実験方法] 肺転移抑制効果が報告されている。しかし、 In vitro で増殖させたMM48細胞を、PBS 併用することによって、正常組織への移行 で懸濁し、0. 2% Tr ypan bl ue液で染色後、 が高まると副作用が増強してしまい、優れ 生細胞数を数え、1×106個をマウス背部 た抗腫瘍効果増強剤とはいえない。そこで、 皮下に移植した。マウスは、5FU単独処 担癌マウスに5FUを投与し、Ceph併用投 理群、および5FUとCephar ant hi n併用群、 与 時 の 腫 瘍 組 織 お よ び 臓 器( 肝 臓 、腎 臓 、 対照群として生理食塩液投与群の3群に分け、 75 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) Fi g. 1( B) に示すプロトコールに従って、 イオサイエンスに依頼し、GCMS法にて 実験を行った。すなわち、薬剤投与群には、 測定した。 Cephar ant hi n 5mg/kg、5FU 30mg/kg を、移植7日目に1回経口投与し、移植16日 結 果 目にマウスをと殺する2時間前、もう一度 [ 各臓器重量および腫瘍増殖抑制率( TI R) ] 経口投与した。なお、その投与量は、300μL 腎臓以外の各臓器重量は、群間で差は認 を越えないものとした。併用群では、Ce- め ら れ な か っ た 。 腫 瘍 増 殖 抑 制 率{ TI R: pharant hi n投与後30分後に5FUを投与 Tumorgr owt hi nhi bi t i onr at e=1-( t umor した。腫瘍摘出時に心臓採血を行い、血清 wei ghtoft heexper i ment algr oup/t umor を分離すると共に、肝臓、腎臓、小腸、腫瘍 wei ghtoft hecont r olgr oup) ×100( %) } を採取、秤量し、液体窒素にて急速凍結し、 は、生理食塩水群と比較して、5FU単独群 測定用試料とした。また、大腿骨を摘出し では8. 4%、5FU、Ceph併用群では、45. 2% 骨髄を採取した。5FU測定はファルコバ であった(Tabl e1)。 Day0 Day7 I mpl ant at i on ofMM48 cel l s Tumor Day16 Or aladmi ni s t r at i on ・Sal i ne ・5FU ・5FU+ceph Or aladmi ni s t r at i on ・Sal i ne ・5FU ・5FU+ceph Anat omi cat i on ( B) ( A) Fig.1 Tumor bearing mouse (A). Experimental protocol (B). Gr oup Cont r ol 5FU 5FU+Ceph ( Sal i ne) Tumor( g) 2. 15±1. 58 1. 97±0. 26 1. 18±0. 49 Li ver( g) 1. 25±0. 14 1. 15±0. 07 1. 33±0. 02 Ki dney( g) 0. 33±0. 03 0. 29±0. 02 0. 37±0. 01** Smal li nt es t i ne( g) 0. 14±0. 02 0. 12±0. 01 0. 13±0. 02 TI R( %) N. D. 8. 4 45. 2 Table 1 Effect of 5-FU and Ceph on tumor bearing mice. Each values represent the mean ± S.E. for 6 to 7 mice. **p < 0.01 vs. 5-FU group by Tukey-Kramer. TIR (Tumor growth inhibition rate) = (tumor weight of the experimental group / tumor weight of the control group) × 100 76 Vo l. 31 ( 2005 ) アルカロイド研究会会誌 の方が5-FU単独群よりも低くなっていた 腫瘍組織重量は、各群で有意差を認めな (Table3)。臓器―血清中濃度比(Kp値)を かったもののCeph併用群において減少傾 比較すると、Ceph併用群においては、5-FU 向が認められた(Fig. 2)。 単独群と比較して、腎臓、小腸、腫瘍への [各臓器内5-FU濃度および臓器移行性に対 5-FU移行性が有意に増加していた (Fig. 3)。 する影響] 非担癌状態では、Ceph併用群で血清中5- 各臓器内5-FU濃度を比較すると、担癌 FU濃度の増加が認められ、Kp値は各臓器 状態では肝臓、腎臓、血清でCeph併用群 とも低くなっていた (Fig. 4)。 Group 5-FU 5-FU+Ceph Liver (g) 1.14±0.04 1.21±0.03 Kidney (g) 0.33±0.01 0.36±0.01 * Small intestine (g) 0.12±0.01 0.1±0.01 Table2 Effects of 5-FU and Ceph on normal mice. Each values represent the mean± S.E. for 8 mice. p < 0.05 vs 5-FU group by Scheffe’ s post analysis. Tumor weight (g) [腫瘍組織重量に対する影響] 3 2 1 0 5-FU 5-FU+ceph Saline Fig.2 Effects of Cepharanthin with 5-FU on the growth of mouse mammary carcinoma MM 48. Each values represent the mean ± S.E. for 4 to 7 mice. 5-FU 5-FU+ceph 5-FU 5-FU+ceph Kp 800 Kp 15 * 600 * 400 200 * 0 Liver Kidney 10 Kp 2 Kp 800 600 * 400 5 0 Small Tumor Bone marrow intestine Fig. 3 Effect of Ceph with 5-FU on the 5-FU levels in organs, serum and bone marrow in tumor bearing mice. Tissue-to-plasma concentration ratio (Kp) of 5-FU and Cepharanthin after oral administration to tumor bearing mice. Each bars represent the mean±S.E. for 6 to 7 mice. *p < 0.05 significantly different from 5-FU group by Scheffe’ s post analysis. 200 * * 0 Liver 1 Kidney 0 Small Bone marrow intestine Fig. 4 Effect of Ceph with 5-FU on the 5-FU levels in organs, serum and bone marrow in normal mice. Tissue-to-plasma concentration ratio (Kp) of 5-FU and Cepharanthin after oral administration to tumor bearing mice. Each bars represent the mean ± S.E. for 8 mice. *p<0.05 significantly different from 5-FU group by Scheffe’ s post analysis. 77 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) Group 5-FU normal Tumor (ng/g) 5-FU + Ceph tumor bearing normal 1938.6±243.6 tumor bearing 1957.5±318.4 Liver (ng/g) 1386.7±122.5 1237.4±199.2 1274.6±119.6 414.8±52.9 ** Kidney (ng/g) 2655.4±568.2 838.8±57.8 1666.8±152.2 617.9±63.9 * Small intestine (ng/g) 5044.3±293.6 3665.3±273.7 4343.3±457.2 3500.3±349.4 Serum (ng/mL) 9.43±1.33 15.2±2.4 16.0±1.85 5.96±0.55 ** Bone marrow (ng/mL) 13.8±2.56 72.6±28.8 13.6±1.71 32.9±6.3 Table 3 Tumor, liver, kidney, small intestine, serum and bone marrow levels of 5-FU after oral administration of 5-FU and Cepharanthin to MM48-bearing mice. Each values represent the mean ± S.E. for 5 to 7 mice. *p<0.05 and **P<0.01 vs 5-FU group. 考 察 腎臓、小腸、腫瘍移行性は有意に増加してい た。Cephar ant hi n併用によって、5FUの臓 抗 腫 瘍 効 果 は 、 Cepharanthi n併 用 に 器移行性が増加する機序については不明であ よって、生理食塩水投与群、5FU単独投与 るが、併用によって薬物代謝酵素の活性化を 群と比べ腫瘍重量減少傾向を認めたことから、 抑制する作用1)や、Cephar ant hi nによる免 Cepharant hi nが5FUの抗腫瘍効果を増 疫調節作用 2)が関与している可能性もある。 強させる効果をもつことが示唆された。 以上の結果は、Cephar ant hi n併用によって 5FU単独投与群とCepharant hi n併用群 適切な抗腫瘍効果および腫瘍内5FU濃度を の腫瘍組織内5FU濃度に差は認められな 保持しつつ、副作用の軽減を図ることが か っ た が 、 Kp値 は 有 意 に 増 加 し て お り 、 できる治療の可能性を示すものである。 Cephは5FUの移行性を高めることによって Cephar ant hi nの5FU組織移行性修飾能 その抗腫瘍効果を増強させている可能性が によって発揮される副作用軽減手段の一つ 示された。今後、最も抗腫瘍効果の得られ として、5FUとCephar ant hi nの併用使用 る5FUとCephの濃度比を検討する必要が を検討する価値はあるものと考える。 あると考える。 また、各臓器重量および臓器内5FU濃度 を比較すると、肝臓、小腸の臓器重量に各群 間で違いはなく、副作用と思われる事象は 特に認められなかった。体重、腎臓重量は、 Cepharant hi n併用群で大きくなる傾向が 認められた( Tabl e1,2) 。5FU単独投与群と Cepharant hi n併用群の臓器内5FU濃度 を 比 較 す る と 、肝 臓 、腎 臓 、血 清 に お い て 、 併用群で有意に5FU濃度が低くなっており、 78 参考文献 1) Hitoshi Ito, Hiroko Ito, Hideomi Amano, and Hiroyuki Noda:Inhibitory effect of a Biscoclaurine alkaloid, Cepharanthin, on lung metastasis of Lewis lung carcinoma. Japan. J. Pharmacol 56, 195 - 202, 1991. 2) Kondo Y, Imai Y, Hojo H, Hashimoto Y, and Nozoe S:Selective inhibition of T-cell dependent immune responses by bisbenzy lisoquinoline alkaloids in vivo. Int J Immun opharmacol. Oct;14 (7):1181 - 6, 1992. アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 3)肝細胞癌に対する動注化学塞栓療法の新しい試み 医療法人順天会 放射線第一病院 放射線科 1) 医療法人順天会 放射線第一病院 内科 2) 黒瀬太一 1)、芝本健太郎 1)、岡崎良夫 1)、木本 真 1)、 木本達郎 1)、渡部誠一郎 2)、北条聡子 2) 用した超選択的動注を行い、短期成績を検 目 的 証した。全例でゼラチンスポンジは使用し 肝 細 胞 癌 に 対 す る 、肝 動 脈 化 学 塞 栓 術 ( 以 下 、TAE)は 、現 在 で も 、肝 細 胞 癌 に 対 する治療法の第一選択となることが多いが、 ていない。 対 象 スポンゼルを用いて動脈を塞栓することに 対象は、2004年7月から11月までに、当 よる膿瘍形成、胆管障害や、肝動脈閉塞など 院にて画像診断、腫瘍マーカー上昇により、 の合併症を回避できない場合も多い。そこで、 肝細胞癌を指摘された肝硬変患者10名13 今回我々は、2004年7月に発売されたシス 病変、男性5名、 女性5名。 いずれも古典的肝細 プラチン粉末である、アイエーコールTM (以下、 胞癌と考えられる画像所見で、腫瘍マーカー CDDP) を用いて、高温に維持された高濃度 ( AFP、PI VKAⅡ)上昇が著明であり、肝 シスプラチン水溶液とリピオドールとの懸 腫瘍生検は一部を除いて行っていない。 濁液を作成、肝細胞癌に対しangi oCTを併 対象( 1) 症例 方法 年齢 性別 病期 1 KM 対象( 2) CDDPの 3週後の 3月後の 投与量 効果判定 効果判定 症例 方法 年齢 性別 病期 CDDPの 3週後の 3月後の 投与量 効果判定 効果判定 1 70 F T1NO 100mg CR NC 7 MY 1 84 M T1NO 100mg CR NC 2 MM 1 72 F T1NO 100mg CR CR 2 T1NO 100mg CR PR 3 SS 78 F T2NO 100mg PR NC 8 MK 2 60 M T4N0M1200mg( 2) NC PD 9 AT 1 73 M T3NO 100mg CR CR 10 MK 2 73 M T1NO 100mg CR CR PEI T/ RFA 1 1 T2NO 100mg CR CR 4 MM 1 62 F T3NO 200mg( 2) CR NC/PD? 5 HY 2 60 M T1NO 100mg CR CR 6 OH 1 69 F T1NO 100mg CR NC 2 T1NO 100mg CR CR PEI T/ RFA 79 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) を防ぐため、熱湯での湯煎を行い常に60度 方法(1) 術前のCT、MRI にて指摘された病変を、 超選択的に挿入したマイクロカテーテルか らのangi oCTにて確認後、5FU 1500mg、 セ フ ァ ラ ン チ ン 50mg、 ソ ル メ ド ロ ー ル 250mgを動注し、最後に25㏄に溶解した CDDP 80mg (20㏄)を動注して、デトキ ソール TM(チオ硫酸ナトリウム)400倍モル 当量で即時中和した。 残る20mg (5㏄) のCDDPを、造影剤5㏄、 リピオドール 10㏄と混和して縣濁液を作 成、動脈内で明らかに逆流し注入できなく なるか、門脈2次分枝への逆流が確認される まで注入した。 以上の高温を保ちながら動注して、デトキ ソール TM(チオ硫酸ナトリウム)400倍モル 当量で即時中和した。動脈内で明らかに逆 流し注入できなくなるか、門脈2次分枝へ の逆流が確認されるまで注入した。 効果判定方法 TAE施行から3週間後、及び、3ヶ月後に 肝ダイナミックCTを施行し、単純CT、動脈 相、平衡相を比較して判定した。 ・均一にリピオドールが取り込まれている 場合・・・CR ・一部がwas hout されている場合・・・PR ・すべてwas hout されている場合・・・NC 方法(2)(2005年1月以降) 術前のCT、MRI にて指摘された病変を、 超選択的に挿入したマイクロカテーテルか らのangi oCTにて確認後、5FU 1500mg、 ソルメドロール 250mgを動注し、最後に 20㏄ に 溶 解 し た CDDP 100mgを リ ピ オ ・増大した場合・・・PD ( 全く別の区域に新病変が出現した場合は 効果判定から除外した。) 続いて、実際の症例を呈示する。 症例1:70歳、女性 ドール 10㏄、セファランチン 50mgと混和 肝右葉、S5/6境界の、HCCであると考え し縣濁液を作成、シスプラチンの再結晶化 た( 図21、22、術前の肝ダイナミックCT) 。 図21 80 図22 アルカロイド研究会会誌 後区域枝A7から超選択的に動注とTAE施 行( 図 23は 血 管 造 影 、図 24は 血 管 造 影 中 に施行したangi oCT)。3週後のCTでは一 応 CRと 考 え ら れ た( 図 25、6、7は TAE後 3週間の肝ダイナミックCT)。 Vol . 31(2005) 症例2:72歳,女性 S4の直径2cmのHCCであると思われた ( 図 31、32、術 前 の 肝 ダ イ ナ ミ ッ ク CT)。 A4から超選択的に動注、TAEを施行(図33は血管造影) 。この症例はCRとなり、現在 も外来経過観察中である (図34、35はTAE 後3週間の肝ダイナミックCT)。 図23 図25 図24 図26 図27 81 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 図31 図32 図33 図34 症例4:62歳、女性 直径6㎝を越える大きなHCCであり、 リピ オドールTAE 1クールでは無理と考えた ( 図41、42、術前の肝ダイナミックCT)。 CDDPを2倍(200㎎)に増やして施行したが ( 図43、44、1回目の血管造影。)生きている HCCが残存しているので、3週間休薬して ( 図45、46は1回目のTAE後3週間後の肝 図35 82 ダイナミックCT) アルカロイド研究会会誌 図41 図42 図43 図44 図45 図46 Vol . 31(2005) 83 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 図47 図48 もう一度TAE施行(図47は2回目の血管 投与方法が違うので我々との単純比較は 造影)。最終像(図48は3ヶ月後の肝ダイナ 難しい。 ミックCT、動脈相のみ)。現在外来で経過 河田ら 4) によると、動注した場合の組織 観察中である。 内濃度は、静注投与の場合の2倍近くになり、 シスプラチン中和剤(チオ硫酸ナトリウム ;商品名デトキソール)について 高い効果が期待できる(実際にはもっと高 濃度になるという報告がある) 。リピオドール と懸濁することでさらに組織内濃度を高く 今回の検査では、CDDPによる腎障害予 保 つ こ と が で き る 。さ ら に 、ス ポ ン ゼ ル に 防のため、チオ硫酸ナトリウム;商品名デ よる塞栓術を施行しない場合、CDDP・リピ トキソールを、末梢より投与した。至適投与 オドール懸濁液を複数回動注する(リピオ 量については諸説あるが 1)、今回は、CDDP ドールTAE を2回以上行う)ことが望まし に対し400倍モル当量で使用することとし いと報告されている 3)。日本化薬からの報 た。CDDPの血中濃度は投与開始後約40分 告では20ccの生理的食塩水ににアイエー でピークとなるが、嘔吐を予防するには即 コールを完全に溶解する為には生理的食塩 時中和 1) の方が望ましいと考えられる。 水 を 70度 に 保 つ 必 要 が あ る 。 結 晶 化 さ せ 考 察 ないことで、胆管障害などの合併症が回避 できる可能性があるが、今後の検討が必要 肝細胞癌に対し、CDDP・リピオドール である。 縣濁液を動注した報告は、坂田らの報告し 併用する薬剤について・・・CDDP と併 た63例の検討 2)、川上らの報告した42例の 用 す る 薬 剤 に つ い て は 、肝 細 胞 癌 に つ い 検討 3)がある。1年生存率はそれぞれ52%、 て は 、 圧 倒 的 に 5FUの 投 与 例 が 多 い 5)。 0%(1回しか動注しなかった場合)であるが、 我々の施設では、5FU 1500㎎を、動注投 84 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 与している。 CDDPを使用したので、これに起因する合併 副作用について・・・腎障害は、チオ硫酸 症 (肝梗塞、肝膿瘍、胆管炎など)は発生しな ナトリウムを使 用 す る よ う に な っ て 以 来 、 かった。チオ硫酸ナトリウムを中和剤とし 経験していない。白血球減少は、CDDP大量 て使用したことにより、腎障害は全く出現 投与では、ほぼ必発である。今後は、中心 しなかった。 静脈からの即時中和など投与方法に工夫を してみようと考えている 1)。 セファランチンの動注について:セファ ランチンを動脈内に注入する試みは山本ら6) が報告し、シスプラチンの組織内濃度を2倍 以上に引き上げるなど優れた効果を報告し ているが、注入時の血管痛に対しては、何も 対策されていない。我々は、口腔内癌に対し 参考文献 1)横山純吉 ほか:超選択的動注療法による副鼻 腔 進 行 癌 の 機 能 温 存 療 法.癌 と 化 学 療 法 26: 967973,1999. 2)坂田研二 ほか:肝細胞癌に対するCDDPPC LPD懸濁液を用いた治療成績の検討.癌と化学 療法 18:18471850,1991. 3)川上 朗 ほか:肝癌に対するシスプラチン・リ て動注する場合、注入時の血管痛対策とし ピオドール懸濁液の動注療法.日癌治療会誌 28 :794803,1993. てセファランチンを5倍希釈して動注投与 4)河田 信 ほか:CDDPを用いた動注化学療法と しているが、これによる症状はわずかで自 体内動態.耳鼻臨床 補31:97104,1989. 5)永野浩昭 ほか:肝癌の化学療法.消化器外科 制の範囲内と考えられる。肝動脈内への動 注では特別な血管痛への対策は不要である。 さらに高濃度のシスプラチンと混和すると 沈殿を生じることがあり、これが塞栓物質 として作用している可能性がある。最近で 26:13611366,2003. 6)山本英一:セファランチン動注の試み.耳鼻35 :811815,1989. 7)石坂 浩 ほか:悪性腫瘍に対する新たな局所治 療の試み:高張食塩水動注の有用性.日医放会誌 第 64回 日 本 医 学 放 射 線 学 会 学 術 集 会 抄 録 集 : S375,2005. は、高温の生理的食塩水を動注すると抗腫 瘍効果があるとの報告も見られ 7)、今回の 治療効果に影響している可能性があると 思われる。 結 語 肝細胞癌に対する高温かつ高濃度なCD DP・リピオドール懸濁液を使用した、動注 併用リピオドールTAEは、良好な初期治療 効果を示した。ただし、リピオドールTAE の場合、3週間程度のインターバルで複数回 施行すべき症例があると思われる。スポン ゼルを使用しないので、また完全に溶解した 85 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 4)癌化学療法における口内炎管理に関する基礎検討 ―セファランチンによる酸化ストレス抑制効果― 就実大学 薬学部 加地弘明、犬飼容子、毎熊隆誉、谷口律子、 江川 孝、小野浩重、手嶋大輔、牧野和隆 目 的 方 法 癌化学療法時に発症する口内炎は、摂食 1)Super oxi der adi cal( O2−) 消去能の測定 や睡眠を障害することにより患者のQOLを 4 mM hypoxant hi ne( 0. 1 M PBS,pH= 著しく低下させ、さらには全身状態の悪化 7. 4) を50μl ,DMSO( di met hyls ul f oxi de) にもつながる管理すべき副作用の一つで を20μl ,PBSを110μl ,250 mg/mlM4 ある。 口内炎の発症機序としては、抗がん剤 PO ( 3, 3, 5, 5t et ramet yl 1pyrrol i neN- により発生したフリーラジカルが関与する oxi de)を10μl 採り、それぞれをよく混合 口腔粘膜の直接障害によるものと、白血球 した後1U/mlxant hi neoxi das eを10μl 減少に伴う口腔内感染によるものが知られ 加え、一分間反応後、電子スピン共鳴( ESR) ており、それぞれの予防法は異なる。 口腔内 装置 ( J EOL,J ESFA100) を用いて測定した。 感染による口内炎の予防には、こまめな歯 得られたM4POs uper oxi der adi cals pi n 磨きやイソジンによるうがいが有効である。 adduct のピークと、MnO( 外部標準) のピーク 一 方 、粘 膜 の 直 接 障 害 に よ る 口 内 炎 に は 、 との相対比を相対強度として求め、このシグ 各病院でアロプリノール含嗽やメシル酸 ナル強度に対する各薬物添加時のシグナル カモスタット含嗽など様々な院内製剤が用 強度の比を消去率として算出した。ESRの いられているものの、その有効性に関して 測定条件を以下に示す。 は一定の見解は得られていない1)、2)。そこで、 magnet i cf i el d:336. 0±5mT,mi cr owave 我々は有効な口内炎予防法の確立を目指し、 power :1. 0mW,modul at i onwi dt h:0. 1G, 今回臨床現場で経験的に用いられている s weept i me:2mi n,t i mecons t ant: 0. 3s 各種薬物を用いて、抗がん剤由来の生体内 2)hydr oxylr adi cal( ・OH)消去能の測定 ラジカルを直接捕捉するかどうかについて 10mM H2O2を2μl ,DMPO ( 5, 5di met yl 検討を行った。 1pyr r ol i neNoxi de) を2μl ,PBSを194μl 87 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 採り、それぞれをよく混合した後10 mM 分取したサンプルを低張化により完全溶血 硫酸第一鉄 ( 10 mM H2SO4) を2μl 加え、 させ、その吸光度に対する薬物添加群の吸 5分間反応後、得られたDMPOhydroxyl 光度の比より溶血率を算出した。 r adi cals pi n adduct を ESRにて測定した。 ESRの 測 定 条 件 、 お よ び 各 薬 物 添 加 時 の 結 果 ラジカル消去率の算出方法はO2− 消去能の 今回実験に用いた5種類の薬物とその適応、 測定に準じた。 および実験に使用した理由を表にまとめた 3)酸化ストレス誘導性ヒツジ赤血球(SRBC) ( 表1) 。この5種類の薬物について、xant hi ne 膜溶血抑制作用の測定 −xant hi neoxi das e系により発生するO2− 0. 1MのPBS中にSRBC(最終濃度;1%)、 ラジカルと、フェントン反応により発生する AAPH(2,2azobi s( i sobut yrami di ne) OHラジカルの消去能を測定した(Fi g.1) 。 di hydrochl ori de) (40 mM)、各 種 薬 物 その結果、アロプリノールおよびセファラン ( 50μM)を加えた試験管を用意し、37℃の チンが用量依存的にO2− ラジカル消去能を 恒温槽にて軽く振盪させながらインキュ 有しており、そのEC50(50%ラジカル消去 ベートした。その後、溶液の一部を30分毎 濃度)はそれぞれ697μM,203. 92 μg/ml に試験管よりマイクロチューブへ分取し、 であった。また、用量依存的ではないものの 2000 g,2 mi nで 遠 心 後 、上 清 を 回 収 し メ ラ ト ニ ン と セ フ ァ ラ ン チ ン は OHラ ジ 540 nmの吸光度を測定した。また、0分に カルを消去していた(どちらも30%程度)。 表1 実験に用いた薬物とその理由 薬物名 アロプリノール 適応・作用 痛風・高尿酸血症 キサンチンオキシダーゼ( XOD) 阻害薬 メシル酸力モスタット 慢性膵炎・術後逆流性食道炎 トリプシン・カリクレイン・プラスミン、 トロンビン・エステラーゼ阻害薬 メシル酸ガベキサート セファランチン 臨床現場で汎用される アロプリノールのように活性酸素抑制 効果の証拠は見つかっていない メシル酸力モスタットと同様の薬理作用 トリプシン・カリクレイン・トロンビン阻害薬 オッディ括約筋に対する筋弛緩作用 蛋白質分解酸素阻害作用が活性酸素抑制 効果に関与するかどうかを調べる 白血球減少症・脱毛症 松果体分泌ホルモン 視床下部に働き性腺刺激ホルモンフィードバック系 の感受性を高めるとの報告あり 88 臨床で汎用される 1)、2) スーパーオキサイドなど、XODの関与 した活性酸素を抑制する効果がある 急性及び慢性膵炎・播種性血管内凝固症候群 生体膜安定化作用、抗アレルギー作用、脂質過酸化 反応抑制作用、毒素抑制作用など メラトニン 実験に使用した理由 脂質過酸化抑制をはじめ様々な薬理作用 を有している 口腔粘膜難治性疾患に院内製剤として 用いられる 3) 臨床使用の報告あり 4) アルカロイド研究会会誌 s uper oxi deラジカル消去能 140 140 120 120 100 100 80 60 セファランチン メラトニン アロプリノール メシル酸カモスタット メシル酸ガベキサート 40 20 ラジカル消去率( %) ラジカル消去率( %) hydr oxyl ラジカル消去能 Vol . 31(2005) 80 60 セファランチン メラトニン アロプリノール メシル酸カモスタット メシル酸ガベキサート 40 20 0 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 0 1000 薬物濃度( μM) 2000 3000 4000 5000 薬物濃度( μM) Fi g. 1各薬物の hydr oxyl ラジカル及び super oxi deラジカル消去効果 一方、アロプリ ノ ー ル に OHラ ジ カ ル 消 去 そ こ で 、こ の セ フ ァ ラ ン チ ン の 作 用 が 、 能はなく、メシル酸カモスタットやメシル 製剤中に含まれる主成分のひとつcepha- 酸ガベキサートにもラジカル消去能がな rant hi neの作用に起因したものであるか かった。結果には示していないが、安定型 どうかを調べるため、セファランチンおよび ラ ジ カ ル で あ る DPPHラ ジ カ ル や ABTS cephar ant hi neのラジカル消去能について ラジカルについてもほぼ同様の結果が得ら さらに詳細な検討を行った。その結果、セファ れており、実験に用いた薬物のうちセファ ランチンはO2− ラジカルをほぼ100%消去 ランチンのみがdi rect なラジカル消去能を し 、 OHラ ジ カ ル も 30% 程 度 消 去 し て い 持つことが示唆された。 たが、cephar ant hi neはどちらのラジカル も ほ と ん ど 消 去 し て い な か っ た( Fi g.2)。 hydr oxyl ラジカル消去能 s uper oxi deラジカル消去能 120 100 100 80 80 60 40 cephar ant i ne セファランチン ラジカル消去率( %) 120 ラジカル消去率( %) 140 cephar ant i ne セファランチン 60 40 20 0 20 0 200 400 600 薬物濃度( μM) 800 1000 200 400 600 800 1000 薬物濃度( μM) Fi g. 2cephar ant hi ne及びセファランチンの hydr oxyl ラジカル、 super oxi deラジカル消去効果 89 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 次に、両物質のラジカル誘導性SRBC溶 ランチンに至っては330分まで溶血開始時 血反応抑制能について検討を行ったところ、 間が延長した(Fi g.3) 。また、溶血開始から コントロール群では60分、アスコルビン酸 終了するまでの時間も、両物質において30 添加群では90分より溶血が始まるのに対し、 分から60分の延長が見られた。 cepharant hi ne添加群では180分、セファ 120 100 容血率 ( %) 80 60 pos i t i vecont r ol as cor bi caci d chephar ant i ne セファランチン negat i vecont r ol 40 20 0 0 60 120 180 240 300 360 420 480 Ti me( mi n) Fi g. 3cephar ant hi ne及びセファランチンの酸化ストレス誘導性ヒツジ赤血球溶血抑制作用 考 察 院内製剤で使用されている薬物が実際に 癌化学療法 に お け る 副 作 用 の ひ と つ で ラジカルを消去しているかどうかについて ある口内炎は、激しい苦痛を伴うため摂食 検討を行った。その結果、アロプリノール 障害や睡眠障害を引き起こし、病状の悪化 が消去するラジカル種はスーパーオキサイド にもつながることが知られている。しかし、 ラジカルに限定されており、その他効果が この口内炎に対する有効な予防法・治療法 あるとされている薬物は直接的なラジカル はいまだ確立されておらず、各病院によって 消 去 効 果 が あ ま り 見 ら れ な か っ た 。一 方 、 様々な薬物が使用されている。我々は今回、 抗がん剤由来の口内炎への適応はないもの 抗がん剤により発生するラジカルが関与 の、アフタ性の口内炎をはじめ様々な口腔 する口腔粘膜の 直 接 障 害 に 焦 点 を し ぼ り 、 内疾患に用いられているセファランチンは 90 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) ほとんどのラジカル種を消去する作用を 強力なラジカル補足作用、赤血球溶血抑制 有していた。これまでにセファランチンに 作用はcepharant hi ne単独の作用による よるラジカル消去作用の分子機構について、 も の で は な く 、様 々 な 成 分 の 相 互 作 用 に 安定型ラジカルであるDPPHを用いた知見 よるものであることが示唆された。 が 得 ら れ て い る が 5)、今 回 の 実 験 に よ り 、 生体内ラジカルでも同様の効果が得られる ことが推察された。また、抗がん剤により 発生するラジカル種はスーパーオキサイド、 ヒドロキシルラジカルをはじめ多種多様で あ る た め 、セ フ ァ ラ ン チ ン が よ り 優 れ た 口内炎の予防・治療薬になる可能性がある と考えられた。 次 に セ フ ァ ラ ン チ ン に お け る ラ ジ カ ル 消去能が本薬剤 の 主 成 分 の ひ と つ で あ る 、 ビスコクラウリン型アルカロイドcephar ant hi neの作用であるかどうかを調べるため、 直接的なラジカル消去効果及び膜の脂質過 酸化抑制効果について、両物質の比較検討 を行った。その結果、いずれの検討におい てもcepharant hi neの作用はセファラン チンに及ばなかった。セファランチン製剤中 にはber bami ne、i s ot et r andr i ne、cycl eani neといったアルカロイドをはじめ様々な 物質が含まれるため、セファランチンによる 参考文献 1)Por t aC,Mor oniM,Nas t as iG:Al l opur i nol mout hwashesi nt het reat mentof5f l u orouraci l i nduced st omat i t i s.Am J Clin Oncol 17:2467,1994. 2)Lopr i nziCL,Ci anf l oneSG,Dos eAM,Et zel l PS,Bur nham NL,Ther neau TM,Hagen L, Gai ney DK,Cr os sM,At hmann LM,Fi s cher T,O’Connel lMJ :A cont r ol l edeval uat i on ofanal l opur i nolmout hwas haspr ophyl axi s agai ns t5f l uor our aci l i nduceds t omat i t i s . Cancer 65:187982,1990. 3)栗原稔男、弘瀬 栄、住吉増彦、原田昌和、和田 健、 宮田和幸、森田展雄、坂本忠幸:セファランチン 口腔用軟膏の使用経験.歯界展望 91:1465 68,1998. 4)Li s s oniP,Tanci niG,BarniS,Paol oros s i F,Ardi zzoi a A,Cont iA,Maest roniG: Tr eat mentofcancerchemot her apyi nduced t oxi ci t ywi t ht hepi nealhor monemel at oni n. Support Care Cancer 5:1269,1997. 5)小 暮 健 太 郎 、大 岩 千 恵 、安 部 一 豊 、 寺 田 弘 : cepharant hi neによるラジカル消去作用の分 子 機 構 .ア ル カ ロ イ ド 研 究 会 誌 18: 8587, 1992. 91 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 5)グリチロンを併用したセファランチン大量投与による円形脱毛症 の治療効果について 八尾市立病院 皮膚科 武曾有美、高木圭一 円形脱毛症はわれわれ皮膚科医がもっと 治療法であるが、セファランチン単独の も多く遭遇する疾患のひとつである。通常は 大量療法やグリチロンの単独投与療法は 頭部に発症し、単一もしくは複数の脱毛局 試みられているが、両者をあわせた治療法 面が基本であるが、ときに全頭脱毛になる は報告が少ない。そこで今回われわれは こともある。頻度としては人口の約2%に 両者を併用することにより、相乗効果が 発症するといわれ、すべての年齢層に発症 得られるのではないかと考えた。 するが、 15歳 以 下 が25%を 占 め る と い わ れる。現在のところ、成長期毛器官に対 する自己免疫疾患との説が一般的である。 背景にある疾患としては甲状腺疾患などの 方 法 ① グリチロン6錠とセファランチン6mgを 連日内服 自己免疫疾患やアトピー性疾患の合併が ② Ver ys t r ong cl as s のステロイド外用剤 見られ、また精神的要因あるいは種々の 一日1回外用 感染症や肉体的負荷も発症要因として考え ③ 塩化カプロニウム液 られている。 一日数回外用 円 形 脱 毛 症 の 治 療 と し て は 、 局 所 免 疫 ①∼③を全例同時に行い、2週間に1回経過 療法、ステロイド療法、塩化カルプロニウム 観察を行った 液外用、アントラリン外用、冷凍療法、PUVA、 UVB照射、セファランチンや、グリチル 結 果 リチン配合剤(以下、グリチロン)内服など 11例のうち、セファランチン6mg、グリ 種々のものが試みられているが、いずれも チロン6錠を投与した6例で有効であった。 患者への肉体的負担や手技の煩雑さなども 投 与 開 始 1ヶ 月 以 内 で 発 毛 を 認 め 、平 均 約 あって確実な治療法とはなっていない。 3ヶ月で治療を終了できた。 内 服 治 療 は 比 較 的 患 者 に 負 担 の 少 な い 増 悪 5例 の う ち 、 4例 は セ フ ァ ラ ン チ ン 93 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 3mgと有効例の2分の1の投与量であった。 量は6錠の方が有効であると考えるが、その のこりの増悪1例は、セファランチンの投 ほか心理的因子にもかなり左右されると 与量は6mgであったが、グリチロンの投与 考える。 量は3錠と有効例の2分の1であった。 セ フ ァ ラ ン チ ン の も つ 免 疫 調 整 作 用 が セファランチンの作用としては、免疫機 成長期毛器官に対するT細胞の免疫機能異 能調整作用、内因性副腎皮質ホルモン増強 常を是正することと、グリチロンのもつ 作用、末梢循環改善作用などが知られて 副腎皮質ホルモン増強作用とが相乗的に いる。グリチロンの作用には内因性副腎 作用して発毛をみたと考えられる。 皮質ホルモン増強作用がある。 セファランチン6mgとグリチロン6錠併 グリチロンとセファランチン6mgの大量 用療法は円形脱毛症の治療法として、簡便 投与により、高い発毛効果を認めた。 で患者負担も少なく、有効な治療法であり、 無効例については、グリチロンの投与量 まず試みるべき方法である。 が有効例と同一であったため、セファラン 高い発毛効果をあげるためには、これら チンの投与量 が3mgと少なく有効例の2分 の治療に加えて精神的ストレスの緩和も の1の投与量であったことが要因のひとつ 重要と考えられる。 と考えられる。併用するグリチロンの投与 94 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 6)総合リハビリテーションにおける育毛の効果について ―発毛促進剤「CROW」を使用して― 大阪府立大学 総合リハビリテーション学部 栄養療法学専攻 1)、 ダイグ総合健康科学研究所 2) 今木雅英 1)、吉田幸恵 1)、小川由紀子 1)、 高橋節子 1)、渡辺完児 1)、下崎昭雄 2) 目 的 そこで、本研究においては、従来の男性 中 心 の 対 象 者 で は な く 、社 会 進 出 が 進 み 、 一般的にリハビリテーションとは、疾病 ストレス等で精神的な影響を受けやすいと や事故による機能障害を回復するという、 考えられる20∼50歳の勤労女性を中心に 身体面だけを限局的にとらえている傾向が 育毛剤使用による外面的、内面的な影響を ある。しかし、リハビリテーションの語源は、 検討した。 “リ (再び) +ハビネス(適した・ふさわしい) +エーション(にすること) ”というラテン語 対象者および研究方法 に由来する。つまり、 “再び(人間のもつ機 対 象 者 は 健 康 な 日 本 人 10名( 女 性 8名 、 能を)適した状態にする”という意味が込め 男性2名)を対象とした。最終的にこの実験 られている。そのような意味から総合リハ を完遂した者は、女性5名、男性2名であった。 ビリテーションとは、身体的な側面だけで 使用発毛促進剤は、 「 CROW 薬 用 ク ロ ウ なく、精神的、社会的な側面も、より良好な < 医 薬 部 外 品 > 」( 化研生薬) で あ る 。主 な 状況を目指すものである 1)。 成分は、セファランチン 3)、グリチルリチン 著 者 ら は 、 脱 毛 や 薄 毛 症 状 に 悩 む 人 に 酸 ジ カ リ ウ ム 、モ ノ ニ ト ロ グ ア ヤ コ ー ル 向けて、 「リハビリ育毛」を提唱している 2)。 ナトリウム、センブリエキス、Dパントテ 従来から、脱毛症や薄毛など毛髪に関する ニルアルコール、塩酸ピリドキシンである。 症 状 は 、生 命 に 大 き な 影 響 を 与 え る わ け 使用方法は、1日朝晩2回、適量を毛髪に ではないので軽視される傾向にあった。 塗 布 し た 。 実 験 期 間 は 、平 成 16年 7月 ∼ しかし、対象者にとって脱毛や薄毛症状は、 平成17年1月で、平均して4∼6ヶ月継続し 精 神 的 に ダ メ ー ジ が 大 き く 、社 会 生 活 に て使用した。 も影響を及ぼす要因であることが明らか 育毛の評価は、使用前、使用後の頭髪の写 である。 真撮影およびアンケート調査により実施した。 95 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 中でも、 「 髪にハリがでてきた」は半数以上の 結果および考察 対象者に認められ、 「髪が増えたように感じ 実験を完遂した7名の対象者の使用前の毛髪 る」、 「抜け毛が少なくなった」は複数の対象 の状態を表1に示した。 「毛髪にツヤがない」、 者 か ら 効 果 と し て 認 め ら れ た 。 写 真 1は 、 「毛髪がまとまらない」 「毛髪がパサつく」 、 など 39歳の女性、写真2は、25歳女性の 「クロウ」 の状態を示す者が多かった。 「クロウ」使用後 使用前および使用後の毛髪の状況である。 の効果および感想を表2に示した。対象者全員 顕著な差異は認められないが、頭の頂上部分 に使用後は何らかの育毛の効果が認められた。 の髪の量が増加していることが確認できる。 表1 「クロウ」使用前の毛髪の状態 対象者 該当者 該当者の No. 1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 数合計 割合( %) ○ ○ ○ ○ 57. 1 4 毛髪の状態 1 毛髪がまとまらない 2 毛髪がバサつく 3 毛髪にツヤがない 4 毛が細く腰がない ○ ○ ○ ○ 5 枝毛が多い 6 かゆみがある 7 頭皮が油っぽい 8 抜け毛が多い ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 9 フケがでる 10 白髪が多い 11 パーマをあてている ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 12 毛染めをしている 13 髪が赤っぽくなってきた 14 髪のボリュームが無くなってきた 15 家系に薄毛の人が多い 16 ドライヤーを頻繁に使う ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 57. 1 71. 4 1 1 14. 3 14. 3 28. 6 2 0 3 ○ ○ 0. 0 42. 9 0 1 0. 0 14. 3 2 3 28. 6 1 ○ ○ 4 5 2 1 4 42. 9 14. 3 28. 6 14. 3 57. 1 表2 「クロウ」使用後の効果 対象者 評価項目 該当者 該当者の No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 数合計 割合( %) 1 フケが出にくくなった 2 抜け毛が少なくなった 3 かゆみが軽減した 4 髪が増えたように感じる 5 枝毛が少なくなった 6 髪にハリがでてきた 7 油っぽいのが軽減した 96 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 1 14. 3 2 1 2 28. 6 14. 3 0 4 0 28. 6 0. 0 57. 1 0. 0 アルカロイド研究会会誌 使用前 Vol . 31(2005) 使用5ヶ月後 写真1 39歳女性 使用前 使用4ヶ月後 写真2 25歳女性 表3に、 「 クロウ」使用後の効果に関する対 対 象 者 か ら 、育 毛 剤 の 効 果 に よ り 、 「髪が 象者の感想を記述した。その中でも、 「 急に 抜ける夢を見なくなった」というような感 短い毛が増えて来た。見た目では変化は 想が聞かれ、精神的な不安も軽減している 分かりにくいかもしれないが、新しく延び と感じられた。 始めている髪の毛が、今までより多い」や、 これらの結果から、脱毛、薄毛の対象者 「頭上の風の当たる感覚が軽減した」などの には、 「クロウ」の使用により、内面および 感想が見られた。また、アンケート調査時 外 面 の 両 面 か ら 、好 影 響 を 与 え る こ と が の聞き取りでは、毛髪に関する不安のあった 示唆された。 97 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 表3 「クロウ」使用後の効果に関する記述 対象者 記 述 内 容 No.1 髪の腰が以前よりしっかりしたように思う。 No.2 No.3 No.4 急に短い毛が増えてきた。見た目では変化は分かりにくいかもしれませんが、新しく 伸び始めている髪の毛が、今までより多い気がして、効果があったと思います。 No.5 白髪が減ってきた。 No.6 No.7 以前、頭上から風が吹いたとき、少し涼しい感じがあって、薄毛を意識したが、 クロウを使用しつづけているうちに、風にあっても以前のような感じが軽減 したように思います。 医療の現場で最近浸透し始めた『リハビリ 文 献 メイク』という考え方 4)がある。数年前から マスコミで話題となり、顔の傷痕や気にな る部分をメイクでカバーすることによって、 こもりがちだった自分が開放され、社会復帰 した女性の数も少なくないという。 『リハ ビ リ 育 毛 』に も 同 様 な 結 果 が 想 定 さ れ る 。 女性は社会進出に伴って、ストレスにさら される機会も増え、脱毛症予備軍が増加す る傾向があるが、 『リハビリ育毛』といった 概念で、育毛を促進することにより、実際 に毛髪量が増し、審美的な不安感が解消され、 精神的にも安定すると考えられる。さらに、 育毛を促進するため栄養にも配慮すれば、 まさに総合リハビリテーションとしての 育毛であると考える。 98 1)砂原茂一:リハビリテーション.岩波新書,東京, 1999. 2)今木雅英:「リハビリ育毛」を提唱 総合リハビ リテーションで体の内外から健康に.クリニック マガジン 3月号:2830,2005. 3)江 挙:Cepharant hi neの毛成長促進作用の 検討.皮膚の科学 4:8589,2005. 4)かづきれいこ:リハビリメイク 生きるための技. 岩波書店,東京,2002. アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 7)Treatment of idiopathic hypereosinophilic syndrome with azelastine hydrochloride and biscoclaurine alkaloids Department of Pediatrics, Teikyo University School of Medicine 1), Tokatsu Hospital 2) Tadaatsu Ito 1), Takuya Hattori 1), Shigeru Ito 2) ABSTRACT maintained the eosinophil count at normal This is the first report that suggests that levels. Ultimately, AZE alone was tried and azelastine hydrochloride (AZE) and bisco- was ceased after 3.5 months; however, 5 claurine alkaloids (CEPH ; Cepharanthin R ; weeks after discontinuation of AZE therapy, Kaken Shoyaku, Tokyo, Japan) are useful in the eosinophil count had risen again to > 25 the treatment of idiopathic hypereosinophilic 000/μl. After reinstitution of AZE with CEPH syndrome (HES). A 9-year-old boy was referred followed by AZE alone, the patient did well to our hospital because of fever and a cutaneous for 30 months, so the AZE was ceased. Eleven eruption. Full blood examination showed a months later the eosinophil count again normal hemoglobin level and leukocytosis increased. Reinstitution of AZE with CEPH of 66 400/μl with 95% mature eosinophils. in doses proportional to the weight increase There was no history of allergy, no clinical that had occurred in the interim resulted in or serological evidence of a parasitic infection a complete resolution of symptoms. Azela- and no evidence of a connective tissue disease, stine HCl with or without CEPH may be neoplastic disease, leukemia or immunode- effective in HES patients, enabling the adverse fi c i e n cy. T h e p a t i e n t wa s t r e a t e d w i t h effect of long-lasting steroid therapy to be prednisolone, which induced a rapid but not minimized. sustained remission. Cepharanthin was then given to reduce the dose of the intermittent courses of prednisolone required. Azelastine HCl, prescribed by an otolaryngologist for perennial rhinitis when the patient was also receiving CEPH, unexpectedly reduced and ※ 詳細につきましては、 下記の文献をご参照ください。 Tadaatsu Ito, Takuya Hattori, Shigeru Ito, et al : Treatment of idiopathic hypereosinophilic syndrome with azelastine hydrochloride and biscoclaurine alkaloids. Allergology International 53 : 379-382, 2004. 99 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 8)口腔扁平苔癬に対するゲル化軟膏基剤の検討 高山赤十字病院 口腔外科 1)、高山赤十字病院 薬剤部 2)、 岐阜大学医学部 口腔病態学講座 3) 大久保恒正 1)、重山昌人 2)、今井 努 1)、 藤塚秀樹 3)、柴田俊之 3) 背 景 口腔扁平苔癬(OLP)は、口腔外科領域に Effect of Content of Sodium Polyacrylate in Plastibase on Absorption of Water and Amount of Released Ointment Base After 3h, the ointment absorbed water was removed from the membrane and weighted (W1) おいてはしばしば遭遇する口腔粘膜疾患の 一つである。 演者らは、第29回アルカロイド研究会に The ointment completely desiccated with silica gel was weighted (W2) おいて、口腔粘膜付着性ゲル化軟膏の臨床 応用について発表した。今回、ゲル化軟 eluted ointment base (E) 膏基剤中の水溶性高分子の添加量を増量 することにより、粘膜付着時間を延長でき E=5.0-W2 ればOLPの治療効果が高まる可能性が考え absorbed water (A) A=W1-W2 られた。 目 的 1600 目的にて、口腔粘膜付着性ゲル化軟膏 基剤の製剤設計。 2.水溶性高分子増量により、軟膏基剤の 口腔内付着時間の検討。 3.今回開発した、口腔粘膜付着性ゲル化 軟膏基剤の臨床応用。 Absorption of water (mg) 1.局所での治療効果濃度を上昇せしめる 3200 1400 2800 1200 2400 1000 2000 800 1600 600 1200 400 800 200 400 0 0 2 4 6 8 10 12 14 Concentration of Sodium Polyacrylate (%) 16 0 Amount of released oinmtment base (mg) ■ absorption of water ● amount of released ointment base 101 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) Relationship between Dissolution Time and Hardness Plastibese Ointment Dissolution time (min) 250 Gum arabic Sodium alginate Macrogol 1500 HPC HPMC(10,000) HPMC(15,000) Carmellose sodium Sodium polyacrylate None 200 150 100 50 0 5 10 15 20 Hardness (X10 3 dyne/cm2) 25 セファランチンゲル化軟膏基剤処方 Rp. Sodium Polyacrylate Cepharanthin Plastibase 10g 1g 89g total 100g Pathological image of Oral Lichen Planus and Medication of Ointment Rp. Sodium Polyacrylate Cepharanthin Plastibase 10g 1g 89g total 100g 102 アルカロイド研究会会誌 Adhesion Time of Cepharanthin Ointment to the Oral Tongue Healthy Volunteers 30 Vo l. 31 ( 2005 ) Adhesion Time of Cepharanthin Ointment to the Oral Mocous Membrane of Healthy Volunteers 50 N.S. N.S. 40 20 min. min. 30 20 10 10 0 5% 10% (Sodium Polyacrylate) Data represent the mean ±S.E. of five experiments Adhesion Time of Cepharanthin Ointment to the Oral Mucous Membrane of OLP Patients 0 5% 10% (Sodium Polyacrylate) Data represent the mean ±S.E. of five experiments Photographs of Oral Lichen Planus Before an After Treating with the Ointment 80 * 70 60 min. 50 40 30 20 Before 10 0 5% 10% (Sodium Polyacrylate) *P<0.05 Data represent the mean ±S.E. of five experiments After CASE 1 M.N. 80 y.o. male 103 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) Adhesion Time of Cepharanthin Ointment to the Oral Mucous Membrane and Efficacy of CEO of Oral Lichen Planus Patients Lesion/adhesion time Efficacy of Cepharanthin ointment Case 1 Tongue/38 min. Erosions: down Case 2 Buccal mucosa/48 min. Contact pain: stopped Cas e1 舌は可動部であるため、付着時間は短くなる傾向があるが、以前の製剤の平均付着時間23分より もはるかに長い付着時間であった。自発痛は継続しているが、糜膏部は消失傾向にある。 Cas e2 頬粘膜の接触痛は、軟膏塗布後約2週間にて消失しOLPもほぼ治癒した。 結 語 3.セファランチン軟膏の付着試験を健常者 に対して行った結果、口腔前庭部では 1.水 溶 性 高 分 子 の 添 加 量 は 、 吸 水 力 試 験 平均3分、舌では23分の付着時間を得た。 において10%添加量が最も適している 当院口腔外科通院中の臨床的及び病理 と思われた。 組織学的にOLPと診断された患者5名に 2.10% ポ リ ア ク リ ル 酸 Na添 加 プ ラ ス チ 対して、軟膏基剤を提供し付着時間等の ベースは、粘膜付着後の溶出量は、他の 検討を行った結果、平均53分の付着時間 水溶性高分子よりも少ない結果であった。 を得た。 硬さも、最も硬い軟膏基剤であったが、 104 4.セファランチン軟膏を難治性のOLP患者 適正軟膏硬度の範疇に入り臨床的に使用 に対して使用したところ、自他覚症状の する場合問題がないと思われた。 軽減または消失が早期に認められた。 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 9)口腔内痛(舌痛症および三叉神経痛)に対する加工附子末の効果について 大阪大学大学院 歯学研究科 顎口腔病因病態制御学講座(口腔外科学第一教室) 松岡裕大、大倉正也、古郷幹彦 【要 旨】 【対象と方法】 漢薬附子はトリカブト属(Aconi t um) 植物 患 者 は 33歳 か ら 79歳 の 男 性 3人 、女 性 の塊根から得られる生薬で、古くから漢方薬 19人 の 舌 痛 症 、73歳 と 76歳 の 男 性 2人 の に配合され、虚寒症の衰えた新陳代謝機能を 三叉神経痛、および31歳と53歳の女性2人 回復させる効果、および疼痛、麻痺、弛緩など の 非 定 型 顔 面 痛 計 26人 に 対 し て 行 っ た 。 の症状の改善に用いられてきた。今回、この 患者には初診時に自覚症状として疼痛、 加工附子末を主成分とする薬剤であるアコ 灼熱感、および違和感について図1に示す ニンサン錠(化研生薬) を口腔内痛、特に舌痛 評価表に従って最大を5、無症状を0とし、 症 お よ び 三 叉 神 経 痛( 第 二 、 三 枝 )患 者 に そ れ ぞ れ を 6段 階 で 表 現 し て も ら い 評 価 投与し、その効果について検討を行った。 した。 [ 投与前] [ 投与後] 自覚症状(5段階表示で答えて該当するものをまるで 囲んで下さい。例えば何も無ければ0、最大で5) : 自覚症状(5段階表示で答えて該当するものをまるで 囲んで下さい。例えば何も無ければ0、最大で5) : 疼 痛:0 1 2 3 4 5 灼熱感:0 1 2 3 4 5 違和感:0 1 2 3 4 5 疼 痛:0 1 2 3 4 5 灼熱感:0 1 2 3 4 5 違和感:0 1 2 3 4 5 自覚症状改善度(該当するものをまるで囲んで下さい。) : 改善した ある程度改善した 少し改善した 全く改善しなかった わからない 図1 投与後2週間から1ヶ月間服用した後再度 状について初診時と同様に図1に従って改 6段階で表現してもらいそれぞれの自覚症 善度を判定した。 105 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 【結 果】 また2人はある程度の改善があったと答え ・舌痛症に対するアコニンサン錠の効果 た 。さ ら に 7人 は 少 し 改 善 し た と 答 え た 。 図1の評価表にしたがって改善度を判定 したところ22人の舌痛症患者中53、54、62、 および72歳の女性4人が改善したと答えた。 しかしながら6人の患者で全く変化が認め られなかった。その他3人の舌痛症患者は 下記に示した副作用にて服用を中止した。 舌痛症に対するアコニンサン錠の効果 改善した(4人) 全く改善しなかった(6人) ある程度改善した (2人) 少し改善した(7人) また軽度改善が認められたほとんどの症 例において違和感に変化は無く疼痛に改善 がみられた。 ・非定型顔面痛に対するアコニンサン錠の効果 2人の非定型顔面痛患者中57歳の女性1人 に 少 し 改 善 が 認 め ら れ が 、も う 1人 の 非 定 ・三叉神経痛(第二、三枝) に対するアコニン サン錠の効果 型顔面痛患者には改善が認められなかった。 ・副作用 2人の三叉神経痛患者中73歳三叉神経痛 ( 第 二 枝 )の 男 性 1人 に 改 善 が 認 め ら れ た 。 またもう1人の三叉神経痛(第三枝)患者に 軽度ながら改善が認められた。 副 作 用 と し て は 胃 痛 、便 秘 、お よ び 下 痢 などの消化器症状が5人の舌痛症患者でみ ら れ た が 、そ の 中 の 1人 に つ い て は 重 度 の 下痢であった。 副作用 胃痛(1人) 下痢(3人) 便秘(1人) 106 アルカロイド研究会会誌 【考 察】 今回、加工附子末を主成分とする薬剤で あるアコニンサン錠を口腔内痛、特に舌痛 症患者33歳から79歳の男性3人、女性19人、 三叉神経痛(第二、三枝)患者73歳と76歳 の男性2人、および31歳と53歳の女性2人 の 非 定 型 顔 面 痛 計 26人 に 対 し て 投 与 し 、 その効果について検討を行った。評価方法 と し て は 図 1に 示 し た と お り 、患 者 に は 初 診時に自覚症状として疼痛、灼熱感、および 違和感について評価表に従い最大を5、無症 状 を 0と し 、そ れ ぞ れ を 6段 階 で 表 現 し て もらい評価した。 投与後2週間から1ヶ月間服用した後再度 6段階で表現してもらいそれぞれの自覚症 状について初診時と同様に図1に従って改 善度を判定した。舌痛症に対するアコニン サン錠の効果に関しては22人の舌痛症患者 Vol . 31(2005) 三叉神経痛(第二、三枝)に対するアコニン サン錠の効果に関しても2人の三叉神経痛 患者で効果が認められ、同様にアコニンサン 錠の鎮痛効果によるものと考えられる。 しかしながら今回の評価方法では症例数も 少なく、また各々の患者の主観的および心 理的要素に依存する可能性も否定できず実 際のところ治療効果を判定するのは困難で ある。 今後は今回の評価方法を含めアコニンサン 錠を投与した患者の舌における疼痛閾値を 実際に装置等を用い機械的に測定し判定す ることでより客観的な治療効果を判定する 必要がある。また副作用として胃痛、便秘、 および下痢などの消化器症状に対しても併 用薬を用いるなどして確立した治療法を考 える必要がある。 参考文献 中、少し改善した、ある程度改善した、およ び改善したと答えた患者が22人中13人に および半数以上の患者が何らかの改善が 認められた。特に違和感よりも疼痛に対し て効果が認められた。 これはアコニンサン錠がもつ本来の効果 である疼痛緩和(脊髄でのダイノルフィン を介するκ受容体に作用していると考えら 1) Omiya Y, Goto K,Suzuki Y,Ishige A,Komatsu Y:Analgesia-producing mechanism of processed Aconiti tuber:role of dynorphin,an endogeneous kappa-opioid ligand,in the rodent spinal cord.Jpn J Pharmacol 79:295 - 301, 1999. 2)佐久間泰司,小谷順一郎:加工ブシ末(アコニン サン TM )が有効であった舌痛症の1例.日歯麻誌 32 (3): 373374,2004. れている)によるものと考えられる。また 107 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 10)加工ブシ末(アコニンサン TM)が有効であった舌痛症の1例 大阪歯科大学 歯科麻酔学講座 佐久間泰司、小谷順一郎 はじめに ・疼痛で食事が障害されることはない(むし ろ痛みが軽減する)。 舌痛症は心気症の1種で、歯科ではよく見 ・疼痛で夜、目が覚めることはない。 かける疾患である。 ・癌など重篤な疾患ではないかと主張する。 舌に対する患者の誤った解釈により、自分 ・舌の正常構造物を病的なものと主張する。 が重篤な病気にかかる恐怖、または病気にか ・散歩など、気を紛らわせると楽になる。 かっているという観念へのとらわれにより、 身体病変として説明のつかない身体愁訴が 症 例 生じている。すなわち舌の正常構造物(乳頭 70歳男性。 など)を病的なものと思い込んだり、舌癌に 現病歴:10年前より舌を中心に疼痛が出現し、 対する恐怖などが原因となる。何らかの歯科 某大学口腔外科などで治療を受けるも改 台療が起因となって発症する場合も多い。 善しなかった。近歯科より本学附属病院 我々は舌痛症患者に加工ブシ末(アコニン ペインクリニックを紹介され来院した。 サン)を投与して良好な結果を得たので報告 既往歴:胃潰瘍および前立腺肥大のため する。 ラニチジン、テプレノン、スクラルファート、 舌痛症の症状・特徴 塩酸タムスロシンを服薬中。 現症:視診上は特記すべき所見はない。舌の 50∼60歳の女性に多い 左縁および左側口蓋にかけてピリピリと ・舌(辺縁・舌先)あるいは周辺歯肉の自発 した自発痛を訴える。 痛を訴える検査所見で異常値はない(亜鉛 治療経過:舌痛症と診断し、含嗽薬として 欠乏性舌痛との鑑別)。 アズレンスルホン酸ナトリウムを投与し、 ・何らかの歯科治療が起因のこともある。 あ わ せ て 立 効 散 、加 味 逍 遥 散 を そ れ ぞ れ 味覚障害を訴えることもある。 1ヶ月間投与するが症状は改善しなかった。 109 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) そこでアズレンスルホン酸ナトリウムおよび ソード、分離不安、または他の身体表現 ア コ ニ ン サ ン( 1日 9錠 分 3毎 食 後 )を 投 与 性障害ではうまく説明されない したところ次第に疼痛が消失し、8週間後 にほぼ疼痛は消失した。 考 察 舌痛症は心気症の1種である。何の疾患も な い の に 、舌 に 変 な 感 じ や 疼 痛 を 感 じ る 。 いくつかの病院や医院で診察を受けたが 問題はないと言われた。どの先生も分かって くれない。もしかすると癌など悪い病気じゃ ないのか?いやそうに違いない。以上のよう に、誤った解釈をしつこく訴えるような状 態をいう。 DSMⅣ で は「 身 体 症 状 に 対 す る 誤 っ た 解釈に基づき」と述べられている。 心気症 Hypohondr i asi s(DSMI Vより) A.身体症状に対するその人の誤った解釈 に 基 づ き 、自 分 が 重 篤 な 病 気 に か か る 恐怖、または病気にかかっているという 観念へのとらわれ B.そのとらわれは、適切な医学的評価また は保証にもかかわらず持続する C.基準Aの確信は(妄想性障害、身体型の ような)妄想的強固さがなく、 ( 身体醜形 障害のような)外見についての限られた 心配に限定されていない D.そ の と ら わ れ は 、臨 床 的 に 著 し い 苦 痛 または、社会的、職業的、または他の重要 な領域能における引き起こしている E.障害の持続期間が少なくとも6ヶ月である F.そのとらわれは、全般的不安障害、強迫 性 障 害 、パ ニ ッ ク 障 害 、大 う つ 病 エ ピ 110 これまで舌痛症には、薬物療法(ジアゼ パム、ノイロトロピン、三環系抗うつ剤)、 交感神経ブロック(星状神経節ブロック)、 理学療法(鍼治療、ソフトレーザー)などが 用いられているが、これらの治療でも治ら ない患者は多い。 そこで我々は温補剤の中でも効果の発現 が速いといわれる附子に注目した。 漢 方 薬 は 多 く は 粉 末 、時 に 煎 液 の た め 、 患者によっては飲みにくいと訴える場合が あるが、我々が用いたアコニンサンは糖衣錠 で患者に受け入れられやすい。 加 工 ブ シ 末 は 本 症 例 の よ う に 舌 痛 症 に 著効を示す場合があるので、各種治療を試み ても治療効果の上がらない患者に処方を 試みるべき薬剤のひとつといえよう。 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 11)口腔内不定愁訴痛における加工ブシ末単独療法の検討 医)那須高原心臓消化器研究会 新白河中央病院 口腔外科 北原朋広、関聖太郎 緒 言 使用薬品について 近年、器質的変化、異常の認められない、 アコニンサン錠の主薬である加工ブシ 舌痛や口内痛などの口腔内不定愁訴痛を主 はキンポウゲ科、トリカブト属植物の塊根 訴として歯科や口腔外科外来を受診する患 か ら 得 ら れ る 重 要 な 生 薬 で 、古 来 漢 方 に 者が増加傾向にある。さまざまなストレス おいては虚寒症の患者の衰えた新陳代謝 や慢性疾患などの心理的、社会的要因と深く 機能回復に用いた。ブシの成分は、アコニ 関連する舌痛症を現代の病と考えるならば、 チ ン 系 ア ル カ ロ イ ド で 、毒 性 の 強 い こ と その対処法において十分に効果を発揮しに で も 知 ら れ て い る 。加 工 ブ シ 末 は ブ シ の くい場合が多い。われわれ臨床医は病態と 毒性を一定条件下で加圧加熱処理し減毒 ともに患者の抱える肉体的、精神的問題点 し た 品 質 の 安 定 し た 製 剤 で あ り 、薬 効 の を的確に把握し、対症療法を含めて達成し 中心となるメサニチンは総アルカロイド量 うる最善の治療は何かという事を模索しな 0. 5∼0. 78%含 量 と 規 定 さ れ て い る 。 がら診療にあたるべき立場にある1)。さらに、 薬効としては、メサコニチンが肝細胞や 医療の基本であるところの、病める患者の 心筋細胞に作用し新陳代謝促進、血流改善 苦痛を可能な限り除去するという取り組み 作 用 2)さ ら に 鎮 痛 、強 心 、利 尿 な ど の 作 用 が舌痛症や口腔内不定愁訴痛においても があり、臨床的にはリウマチ系疾患におけ 重要である。 る関節炎ならびに慢性腰痛、神経痛、帯状 そ こ で 、わ れ わ れ は 鎮 痛 、強 心 、利 尿 の 疱 疹 後 神 経 痛 、三 叉 神 経 痛 、癌 性 疼 痛 、 効能、効果をもつ加工ブシ末製剤(アコニン 更年障害などの不定愁訴 サン錠:(株)化研生薬)を口腔内不定愁訴 いる。 3) に用いられて 痛 に 使 用 し 、症 状 の 改 善 に 良 好 な 結 果 を 得たので報告する。 111 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 対 象 経験することがある。その治療法では対症 療法が中心になっており、漢方薬では駆 平成15年8月より平成16年12月までの 血剤や補剤にて症状の軽減がみられること 間に新白河中央病院口腔外科を受診し、舌痛 があるが、いまだ薬物療法 4)∼7)においては 症 と 診 断 さ れ た 女 性 患 者 17名 お よ び 原 因 有効な薬剤が少ない。 不 明 の 口 唇 粘 膜 痛 3名 、口 蓋 粘 膜 痛 1名 の 附子は古来より漢方薬に配合され、主に 合計21名とし、特に証はとらず、癌恐怖症は 疼 痛 性 疾 患 の 鎮 痛 、虚 寒 証 の 患 者 の 冷 え 、 除外した。このうち4名は口腔乾燥症を併 新陳代謝の改善に用いられてきた。加工ブシ 発し、平均年齢は61歳であった。痛みの表現 末 は 漢 方 薬 で あ る が 、単 一 の 生 薬 で あ り 、 型はヒリヒリ、ピリピリとした痛みが17例、 薬理作用機序も解明されている 8)。 鈍痛4例の順であった。発症から当科来院 それゆえに他の生薬合剤よりも評価しや まで平均期間は約7ヶ月で、当科来院までの すく、西洋医学的な使用法も可能である。 他 科 受 診 率 は 59% で 、開 業 歯 科 、耳 鼻 科 、 口腔内不定愁訴痛も口腔心身症としてと 内科、大学病院歯科の順であった。 らえる場合も多く、口腔内の固有感覚の認 治療は原則的に加工ブシ末製剤(1. 8g/ 知障害、口腔の異常感覚など様々な要因と day)単独とし、口腔乾燥症併発例について 関連づけられており、患者のゆがんだ身体 は補助的に含嗽剤の処方を行った。投与期 感覚(身体化表現障害)の修復には向精神薬 間 は 最 低 4週 間 か ら 最 高 21週 間 で 、平 均 8 が 有 効 な 場 合 も あ る 。こ れ ら の こ と か ら 、 週間であった。 口腔内の異常感や疼痛などは脳内神経伝達 結 果 物質系の異常が想定される。 本剤の主成分であるメサコニチンは中 治療効果の判定にはVi sualAnal ogue 枢 神 経 系 を 作 用 部 位 と し 、カ テ コ ー ル ア Scal e( VAS) を用いて評価し、投与前と比 ミンや他の脳内神経伝達物の代謝に影響 較 し 50% 以 下 に な っ た も の を 有 効 、25% し て こ れ が 鎮 痛 、抗 炎 症 作 用 を 発 現 す る 目 盛 り 以 下 を 著 効 と 判 定 し た 。そ の 結 果 、 と考えられている 9)。また、多くの抗うつ 著効30%、有効40%、無効30%で、著効、 剤がカテコールアミンや脳内神経伝達物 有効合わせて70%と高い有効率を得た。 の代謝異常を正常化して薬理効果を発揮 考 察 す る こ と を 考 え れ ば 、本 剤 に よ る 同 様 な 機 序 に よ る 鎮 痛 、抗 炎 症 作 用 が あ る も の 舌 痛 症 や 口 腔 内 不 定 愁 訴 痛 を 心 身 症 の と考えられ、特に本症の発症頻度の特徴 一部としてとらえれば東洋医学的には心配、 で あ る 50∼ 60歳 代 女 性 の 口 腔 内 不 定 愁 不安などの心理的要因にて心包系にその症 訴 痛 患 者 に 対 し 、有 効 性 が 高 ま る 可 能 性 状は現れ、手掌に汗をかいたり、心痛や動悸、 が示唆された。 さらに前腕部や後頸部の硬直などの所見を 112 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 結 語 4)立花哲也,鈴木 愛 他:舌痛症患者に対するラフ 口腔内不定愁訴痛患者21例に対し、加工 チジンの効果,日歯心身 17( 1) :2125,2002. 5)豊 福 明 ,梅 本 丈 二 ,都 温 彦 : パ ロ キ セ ン チ ン ブ シ 末 製 剤 を 投 与 し 70% の 有 効 率 が 得 ら が奏効した舌痛症の1例.Pharma Medica 20 れた。また、加工ブシ末の長期投与、高齢者 ( 10) :8790,2002. 6)則武正基,鶴見邦夫 他:舌痛症に対するセファ の投与にても副作用は認められなかった。 ラ ン チ ン の 臨 床 使 用 経 験 .歯 界 展 望 77( 3) : 731736,1991. 文 献 1)北原朋広:癌末期患者における東洋医学的アプ ロ ー チ に よ る 癒 し 効 果 に つ い て .日 歯 東 洋 医 学誌 23( 1・2) :1921,2004. 2)白坂 昭,粕谷大智 他:サーモグラフィーによる 附 子 の 解 析 .B i o m e d i c a l T h e r m o l og y 8( 1) : 191195,1988. 7)野 村 務 ,岡 田 朋 子 ,他 : 舌 痛 症 の 臨 床 的 検 討 ―特に背景因子と治療効果の関係について―. 新潟歯会誌 29( 2) :14,1999. 8)村 山 光 雄 ,並 木 理 乗 : 加 工 ブ シ 末 の 薬 理 学 的 研究.日薬理誌 94:309317,1989. 9)ヒキノヒロシ,佐藤 博,他:附子の薬理作用. 薬学雑誌 99( 3) :252263,1979. 3)木村好秀:更年期障害に対する加工ブシ末単独 療法.産婦人科の実際 第38巻 第3号:447 452,1989. 113 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 12)腰椎疾患に対するアコニンサンの効果 仁泉会病院 麻酔科ペインクリニック 山上裕章、塩見由紀代、柳井谷深志、入江将之 腰椎疾患の愁訴に対するアコニンサンの scal e) を 用 い 、 VASが 半 減 す れ ば 有 効 と 効果を検討した。 した。有効が総数に占める率を有効率として 算出した。 対象と方法 寺沢 1)の虚実の診断基準から、対象を虚 対象は腰椎疾患による腰下肢痛を主訴と 証 、虚 実 間 証 、実 証 に 分 類 し 、証 別 効 果 に し、かつ漢方治療を希望した13症例とした。 ついて調べた ( 表1) 。 対象に対して、アコニンサンを6∼9錠/日 副作用、 3ヵ月後の転帰についても調べた。 を2週間投与した。この間、神経ブロック 文中の平均値はmean±SDで表記し、統 や他の薬剤を併用しなかった。 計処理はSt udent’ st t es t ,pai red t t es t , 2週間投与後に効果判定を行った。判定 Wi l coxons i gnedr ankt es t ,MannWhi t ney にはVAS( Vi s ualanal og s cal e ;100mm Ut es t , χ2t es t を用い、p<0. 05を有意とした。 表1 虚実の診断基準( 寺澤 2)による) 全身的な気血の水準の評価 評点 眼光・音声に力がある +5 評点 眼光・音声に力がない −5 気力がない・倦怠感 −10 脈が充実 +20 脈が無力 −10 腹力が充実 +10 腹力が軟弱 −10 皮膚の色つやが良い +5 皮膚の色つやが悪い −5 局所的な気血の動員量の評価 皮疹の発赤・腫脹・疼痛 +10 自然発汗の傾向 激しい疼痛( 胸痛・腹痛など) +20 盗汗( ねあせ) −10 疼痛部位の筋肉の硬結( しこり) +10 胃部振水音 −20 便臭の強い便秘 +10 便臭の少ない便秘 −10 圧痕がすみやかに回復する浮腫 +10 圧痕が回復しにくい浮腫 −10 牛角胃 +10 胃下垂・内臓下垂 −20 −5 ( 判定基準)いずれも顕著に認められるものに当該のスコア−を与え、軽度なものには1/2を与える。すべての項目の 評点を合計し、+30点以上を実証、−30点以下を虚証とする。いずれにも該当しないものを虚実間証とする。 115 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 結 果 考 察 対象は13症例( M/F=6/7) 、年齢は60. 8 トリカブトの塊根を減毒処理したものが ±8. 7歳で、虚証4症例、虚実間証9症例 附子で、有効成分にはメサコニチン、アコ であった。原疾患は、腰部脊柱管狭窄6症 ニチン、ベンゾイルメサコニンなどがあり、 例、腰椎症4症例、椎間板ヘルニア3症例 鎮痛、強心、利尿作用を持つ 2)、3)。腰椎疾 であった。 患への効果は、中枢性鎮痛 ( 下行性抑制系、 VASは投与前49. 2±7. 6から投与後32. 3 麻薬とは異なる) 、末梢循環改善が作用機序 ±13. 6へ有意に改善し( p<0. 01) 、有効率は と考えられる。アコニンサン投与では、非 46. 2%( 6/13) であった。虚証4症例はすべ ステロイド性消炎鎮痛薬 ( NSAI Ds) にみら て有効症例であった ( 表2) 。 れる体温低下を来さないのが利点である。 アコニンサン投与に伴う副作用は認めら 虚証∼虚実間証で痛みが強い症例、冷える れなかった。 と痛む症例に対して単独処方が可能である。 3ヵ月後の転帰では、有効症例は治癒終了 実際には、通常量1∼3g( 極量6g/日) ( アコ かアコニンサンのみの投与で管理できて ニンサン( 附子)は6∼9錠( 1∼1. 5g相当) ) を、 いた。無効7症例中2症例は漢方薬を変更 他の漢方薬と併用して用いることが多い。 して治療中で、残り5症例は神経ブロック その一方で実証、暑がり、赤ら顔の患者では、 療法を施行し軽快した ( 表3) 。 アコニンサン投与により心悸亢進、のぼせ、 舌のしびれ、悪心などの副作用を認めるこ 表2 腰椎疾患に対するアコニンサンの効果(証別) とがある。 対象は漢方治療を希望された虚証、虚実 有効 無効 有効率 * 虚証 4 0 100% 副作用もなく46. 2%に有効であった。虚証 虚実間証 2 7 22. 2% が 有 効 率100%( 4/4) 、 虚 実 間 証 が 有効率 Tot al /aver age 6 7 46. 2% 22. 2%( 2/9) であったことからも虚証向き *: p<0. 01 間証の症例であったため、アコニンサンの の漢方薬であると言える。アコニンサンが 無効であるようなな強い痛みでは、強力な 表3 3ヵ月後の転帰 NSAI Dsを用いる必要がある。この場合、 アコニンサンとNSAI Ds とは作用機序が異 転帰 有効6症例 無効7症例 116 なるため、併用することによって相加・相乗 2症例 治癒終了 4症例 アコニンサン継続投与 要量を減じ、その副作用の発生率を減じる 2症例 漢方薬の変更 ことも期待できる。 5症例 神経ブロック療法 効果が期待できる。この結果NSAI Ds の必 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 結 語 腰 椎 疾 患 に よ る 腰 下 肢 痛 に 対 し て ア コ ニンサンは有用であった。 文 献 1)寺 澤 捷 年 : 虚 実 の 認 識 . 症 例 か ら 学 ぶ 和 漢 診 療学.東京,医学書院:92100,1990. 2)町 俊夫:( 薬のコーナー)附子.ペインクリニック 22( 4) :555557,2001. 3)鳥居塚和生編著,モノグラフ生薬の薬効・薬理, 東京,医歯薬出版:401413,2003. 117 アルカロイド研究会会誌 Section III Vol . 31(2005) 一般演題・示説 13)フラッシュクロマトグラフィー用のPSQ60B5H調製と 日本産イチイ中タキソール抽出への応用 岐阜県立岐阜病院 薬剤部 岡本光美 【はじめに】 着目した。そして、フラッシュクロマトグラ フィーは迅速的に混合物を分取可能とする 液体(高速液体)クロマトグラフィー(LC 安価な手段の一つである。 ( HPLC) )は 、物 質 の 精 製( 分 取 )な ど に い っ ぽ う 近 年 、需 要 の 増 加 に 対 応 す る もっとも利用されている手法である。そして こ と が で き 、安 価 で 、か つ 、環 境 を 保 全 LC( HPLC) カラム充填剤には、多くの分離 することができるタキサン型ジテルペン に化学修飾されたシリカ系充填剤が用いら 類が注目されている。現在、米国食品医薬 れている。著者はこれまで1平方ナノメーター 品局( FDA) によって、西洋イチイ ( Taxus 当りの付着アルキルアミノ基数、フェニル baccata)の 葉 か ら 、タ キ ソ ー ル R の 前 駆 基数に関する重要なパラメータはシリカの 体(中間体)であるバッカチンⅢを単離し、 細孔直径、比表面積であると報告した 1)。 該バッカチンⅢに化学的修飾を施すこと ところで、これらは大量の充填剤を使用する に よ り 、半 合 成 タ キ ソ ー ル を 得 る 方 法 が 場合、低コストで容易に調製されることが 認 め ら れ て い る 。 し か し な が ら 、半 合 成 理想的である。しかしながら逆相系HPLC タキソールだけで近年の需要量を賄うの に用いるシリカ基材に関しての課題が存在 は困難な状況となっている。このような する。 理由で、ポーラスシリカの調製と日本イチイ ( 1)シリカでは幅の狭いポアサイズ分布を ( Ta x u s c u s p i d a t a va r. n a n a i n J a p a n ) 得るのが困難であること。このことは大き の葉からタキサン型ジテルペン類の抽出 な分子量の物質が分離される際に、カラム にフラッシュクロマトグラフィーへの応用 内で効率低下が発生すること。 を検討した。 ( 2 )重 要 な 選 択 肢 の 条 件 に 経 済 効 果 が あ る こ と 。こ れ ら の 理 由 で シ ラ ス と し て 知られる安価な火山灰中のガラス成分に 119 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) 【実験方法】 焼成後、平均粒子径、平均細孔直径、比表面積 の物理化学的性状をTabl e2に示した。 1:Por oussi l i ca5の調製 3:ODS修飾ポーラスシリカの調製 前 報 に 従 い 、ポ ー ラ ス シ リ カ は 著 者 の 実験室で調製した 2)。このようにして調製 実 験 方 法 2 で 110℃ 、 180℃ 、 500℃ 、 したPoroussi l i ca5の平均粒子径、平均 950℃の各温度で調製した焼成シリカ各2. 7g 細 孔 直 径 、比 表 面 積 の 物 理 化 学 的 性 状 を を 3. 4% oct adecyl di met hyl chl or os i l ane Tabl e1に示した。 乾燥トルエン溶液(3mLのt r i et hyl ami ne 含有)70mLに浸漬させた。5時間還流後、 2:焼成シリカの調製 1μmのガラスフィルターでろ過し、 トルエン、 前 報 に 従 い 2)、 実 験 方 法 1 で 調 製 し た ク ロ ロ ホ ル ム 、メ タ ノ ー ル 、ア セ ト ン で Porouss i l i ca5を110℃、180℃、300℃、 洗浄した。その後70℃で2日間真空乾燥した 500℃ 、700℃ 、950℃ の 各 温 度 で 2時 間 結果をTabl e3に示した。 Tabl e1 Characteristics of prepared silica Samplea Porous silica-5 a Mean particle size (μm) Mean pore diameter (nm) Specific surface area (m 2 g −1) Pore volume (mL g−1) 5.1 11.7 298 1.21 The designation is for convenience and has no commercial significance. Table 2 Characteristics of heat-treated silicas by calcination DOP = Dioctylphthalate; DBP = dibutylphthalate; DMP = dimethylphthalate Treated gel Treating temperature (℃) Specific surface area (m2/g) Total silanol group concentration(αOH(S)) Capacity factor, k’ DOP DBP DMP Silica - 110 110 296 9.2 0.16 0.38 1.03 Silica - 180 180 298 9.1 0.16 0.38 1.03 Silica - 300 300 286 9.3 0.18 0.38 1.03 Silica - 500 500 302 7.2 0.19 0.44 1.14 Silica - 700 700 305 4.0 0.25 0.57 1.39 Silica - 950 950 256 1.9 0.28 0.67 1.60 Table 3 Octadecyldimethylchlorosilane treatment and reactive silanol groups per 1 nm2 120 ODS modified silicas C found (%) Reactive silanol groups concentration (α OH(s)) Silica - 110 - ODS-END Silica - 180 - ODS-END Silica - 500 - ODS-END Silica - 950 - ODS-END 18.2 18.2 2.0 2.0 18.6 13.4 2.1 1.7 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) で 濾 過 後 、エ タ ノ ー ル 抽 出 液 を 留 去 し て 、 4:日本イチイ( Taxus cuspidata var. nana 残渣を酢酸エチル100mLで溶解した。酢酸 in Japan, Fig.1) の葉からタキサン型ジテル エチル層を0. 5M HClで洗浄( 30mL x 2) 、 ペン類の抽出 そして1%Aqueouspot as s i um hydr oxi de 日本イチイ ( Taxus cuspidata var. nana で洗浄( 30mL x 2) 、さらに蒸留水で洗浄 in Japan )の針葉1000gを秤取して5Lの ( 30mL x 2) した。最後に酢酸エチル層を エタノール中に浸漬し室温条件下で1週間 低温で注意深く留去後、酢酸エチル:nへキ 放置した。メンブランフィルター( 0. 45μm) サン(1 :2v /v)溶出液にて100mL (A) とした。 Fi g.1 【結果及び考察】 ノール基数αOH(s)と反応可能なシラノール基数 αOH(s)に対する焼成処理温度との関係を示す。 Tabl e3の“f ound”として見られるように、 反応可能なシラノール基数αOH(s)はシリカの 焼成処理温度の上昇に伴い若干減少した。この 現象はTabl e2に示した、焼成処理温度の上昇 に伴う全シラノール基数α OH(s)の減少変化と 比較すれば僅かであった。Fi g.2に見られる ように、全シラノール基数α OH(s)は焼成処理 温度の上昇に伴い極端に減少した。いっぽう、 反応可能なシラノール基数α OH(s)は焼成処理 温度の上昇に伴い減少したが僅かであった。 10 Silanol groups per 1nm 2, α OH(S) Fi g.2とTabl e2、3はシリカ表面上の全シラ 8 6 4 2 0 0 500 Heat treatment temperature, ℃ 1000 Fi g.2 焼成温度とシラノール基数の関係 121 アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) このようなFi g.2とTabl e2、3に見られる クロマトグラフィー用PSQ60B5Hを調製 結果と、剣持の報告 3)から、フラッシュクロ した。そして調製したPSQ60B5Hの平均 マトグラフィー用ポーラスシリカは130℃、 粒子径, 平均細孔直径、比表面積の物理化学的 15時間の条件で乾燥することとした。その後、 性状をTabl e4に示した。また、PSQ60B- 蒸留水を5%水分重量となるように注意深く 5Hの粒子分布をFi g.3に示した。また、Fi g.3 混合、攪拌した。このようにしてフラッシュ に示した結果から粒子分布は1. 86と算出した。 Characteristics of prepared silica Samplea PSQ-60B-5H a Mean particle size (μm) 63 Table 4 Mean pore diameter (nm) 6.3 Specific surface area (m 2 g -1) 496 Pore volume (mL g-1) 0.78 The designation is for convenience and has no commercial significance. Differential Volume ; % 35 Particle Size Distributions 30 25 20 15 10 5 0 10 100 Size ; μm 1000 Fi g.3 PSQ60B5Hの粒子分布 富士シリシア Fl ash Syst em BW350 を用い250mm x 20mm I . D.フラッシュ クロマトグラフィー用管に酢酸エチル:nヘキサン ( 1:2v /v,300mL) にPSQ60B5Hを懸濁し、酢酸エチル:nへキサン ( 1 :2 v /v)溶 離 液 を 用 い て 圧 力 0. 08 kg cm−2、 流速80100 mL mi n−1の条件下充填した。 フラッシュ管壁を溶離液で洗浄した後、PSQ60B5Hの浮上拡散を抑える目的で、ガラス ビーズを約3mmの層厚に設置した。 こ の よ う に し て 組 み 立 て た フ ラ ッ シ ュ ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー シ ス テ ム [FCS]を Fi g.4に示した。 122 Fi g.4 フラッシュクロマトグラフィーシステム[ FCS] アルカロイド研究会会誌 Vol . 31(2005) こ の FCS に A の 3mLの 一 定 量 を 移 し 、 エチル:nへキサン混合液系とし、その至 酢酸エチル:nへキサン( 1:2 v /v) 溶離液 適組成比は酢酸エチル:nへキサン(1:2 を用いて溶出させた。溶出液はフラクション v /v)とした。 コレクターを用いて各フラクション50mL これらの結果は、漢方成分がPSQ60B- ずつⅠ∼Ⅳを分取した。Ⅰ∼Ⅳの各フラク 5Hを用いるフラッシュクロマトグラフィー ションを留去後、Tabl e 3で示したSi l i ca- で分離可能であることを示唆している。さら 180ODSENDを150mm x 4. 6 mm I . D. に本報告はフラッシュクロマトグラフィー に充填し、Shi madzu SPD 10A可変検出 の新規充填剤の提言である。 器を装備したShi madzuLC 10ATでHPLC 挙動を比較評価した。フラクションⅠ∼Ⅳ のHPLC挙動をFi g.5、6に示した。 こ れ に 先 立 っ て 、日 本 イ チ イ (Ta x u s cuspidata var. nana in Japan )から抽出 したタキソール R のフラッシュクロマト グラフィー溶出挙動を検討した結果、酢酸 文 献 1)M. Okamoto, H. Kishimoto, J. Chromatogr 212 : 251 - 260, 1981. 2)M. Okamoto, K. Nobuhara,K. Jinno, J. Chro matogr 556 : 407 -414, 1991. 3)K. Kenmotsu, J. Oda, K. Koezuka, H. Takano, Y. Ogino, T. Mori, J. Environ. Chem 3 : 41-58, 1993. Taxol Fraction 3 Standard 0 5 10 15 20 25 Retention time (min) 30 35 0 5 10 15 20 25 Retention time (min) Fraction 1 30 35 30 35 Fraction 4 Peak : T 0 5 10 15 20 25 Retention time (min) 30 35 0 5 10 15 20 25 Retention time (min) Fi g.6 Fraction 2 0 5 10 15 20 25 Retention time (min) 30 35 Fi g.5 123 アルカロイド研究会会誌 回 Vol . 31(2005) 数 開 催 年 月 日 開 催 場 所 会 長 第1回 昭和50年6月26日 岡山ロイヤルホテル 内海 耕慥 第2回 昭和51年 7月 3日 岡山ロイヤルホテル 折田 薫三 第3回 昭和52年7月 2日 岡山ロイヤルホテル 野本亀久雄 第4回 昭和53年6月24日 ホテルニューナゴヤ 太田 和雄 第5回 昭和54年6月22日 岡山ロイヤルホテル 折田 薫三 第6回 昭和55年6月28日 岡山プラザホテル 内海 耕慥 第7回 昭和56年7月10日 岡山プラザホテル 野本亀久雄 第8回 昭和57年6月26日 大阪東洋ホテル 森澤 成司 第9回 昭和58年7月 2日 岡山郵便貯金会館 藤井 達三 第10回 昭和59年7月 6日 岡山郵便貯金会館 折田 薫三 第11回 昭和 60年7月20日 岡山プラザホテル 青野 要 第12回 昭和 61年6月21 日 福岡ガーデンパレス 野本亀久雄 第13回 昭和 62年6月20日 京都平安会館 藤井 達三 第14回 昭和 63年6月18日 三越劇場 ( 大阪) 森澤 成司 第15回 平成 元年6月24日 東京大学山上会館 長谷川嗣夫 第16回 平成 2年6月30日 愛知県中小企業センター 太田 和雄 第17回 平成 3年6月15日 おかやま“三光荘” 内海 耕慥 第18回 平成 4年6月27日 東京サンケイ会館 長谷川嗣夫 第19回 平成 5年6月19日 大阪国際交流センター 安永幸二郎 第20回 平成 6年6月18日 日経ホール ( 東京) 野本亀久雄 第21回 平成 7年6月17日 岡山衛生会館三木記念ホール 折田 薫三 第22回 平成 8年6月22日 日経ホール ( 東京) 大川 智彦 第23回 平成 9年6月21日 よみうり文化センター ( 大阪) 井上 正康 第24回 平成10年6月13日 よみうり文化センター ( 大阪) 佐藤 隆司 第25回 平成11年6月19日 日経ホール ( 東京) 長谷川嗣夫 第26回 平成12年6月24日 よみうり文化センター ( 大阪) 寺田 弘 第27回 平成13年6月23日 日経ホール ( 東京) 塚越 茂 第28回 平成14年6月15日 よみうり文化センター ( 大阪) 藤村 欣吾 第29回 平成15年6月21日 よみうり文化センター ( 大阪) 秋山 伸一 第30回 平成16年6月19日 日経ホール ( 東京) 長谷川嗣夫 第31回 平成17年6月18日 コスモスクエア国際交流センター( 大阪) 荒瀬 誠治 アルカロイド研究会事務局 〒 1810013 東 京 都 三 鷹 市 下 連 雀 33710 化研生薬株式会社 内 T E L: 0422426049( 直通) 0422440106( 代表) F A X: 0422440150 EMai l : al ka@mx2. al phaweb. ne. j p U R L: ht t p: / /www. as oal kal oi d. co. j p/ 化 研 生 薬 株 式 会 社 扱 い 製 品・商 品 の ご 案 内 医療用医薬品 ◆その他の個々の器官系用医薬品 放射線による白血球減少症、 円形脱毛症・粃糠性脱毛症治療薬 放 射 線 に よ る 白 血 球 減 少 症 、円 形 脱 毛 症・ 粃糠性脱毛症、滲出性中耳カタル、 まむし咬傷治療薬 <薬価基準収載> 劇薬・処方せん医薬品 末1% <薬価基準収載> 注5mg・10mg 錠1mg<薬価基準収載> 禁忌(次の患者には投与しないこと) 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 ※その他の使用上の注意などの詳細については、添付文書をご参照ください。 ◆生薬製剤 鎮痛・強心・利尿薬 <薬価基準収載> ※効能・効果、用法・用量、禁忌・使用上の注意などについては、添付文書をご参照ください。 医薬部外品 ドクター処方から生まれた発毛促進剤 健 康 食 品 生活習慣病に立ち向かい、健康増進に 春先のシーズンを爽やかに 紅豆杉茶(こうとうすぎちゃ) 優喉茶(ゆうこうちゃ) 不老杉ともいわれる「雲南紅豆杉」のみを 100%使用した天然樹木茶 [ 資料請求先] 「雲南紅豆杉」を主原料とし、金橄欖、 百合、烏梅、天草などを配合 化研生薬株式会社 0120484961 〒1810013東京都三鷹市下連雀33710 TEL0422440106( 代表) FAX 0422440150
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