西 洋 文 化 学 系 - 京都大学大学院文学研究科・文学部

西 洋 文 化 学 系
西洋文化学系は,ヨーロッパおよびアメリカの文化と社会について,主として文学と言語の視点に立って研究を
行う部門である。時代は古典古代から中世,近代,現代まで広くカバーしている。西洋文化学の専修は七つに分か
れているが,いずれの専修においても,文献資料の正確な読解と整理が研究の基礎となる。そのためにはまず最初
に十分な語学能力を養うことが大切である。英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・ロシア語などの近代語ば
かりでなく,ラテン語・ギリシア語などの基礎知識も必要となる。また,近代語については作文や聞き取り,会話
などの実践的運用能力も高めておくことが望ましい。
全学共通科目の語学単位は必ず一・二回生の間に取得しておくこと。その他の必修の語学の単位も二回生の間に
取得しておくことが望ましい。西洋古典学,スラブ語学スラブ文学,ドイツ語学ドイツ文学,英語学英文学,アメ
リカ文学,フランス語学フランス文学,イタリア語学イタリア文学の七つの専修は,いずれも実証的であると同時
に自由な思考に立つ研究を進めており,それぞれの地域,文化圏の文学・言語・思想・社会に幅広い関心をもつ学
生を歓迎する。西洋文化学は長い歴史と伝統を持つ旧文学科が新しく生まれ変わったものであり,この新しい器に
ふさわしい新鮮な発想と豊かな想像力をもつ学生諸君を待っている。図書館に豊富な書籍を所有しているので,存
分に活用してほしい。授業には外国人教師,人間・環境学研究科や人文科学研究所などの学内他部局,そして他大
学からの講師も参加して,バラエティのあるカリキュラムを用意している。なお専修の教員名,著作については,
各専修の項を参照のこと。
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西洋古典学専修
教 授
高
准教授
マルティン・チエシュコ
橋 宏 幸
恋愛エレゲイア詩,ラテン叙事詩,ローマ演劇
〔著書・論文〕 高橋『ウェルギリウス
ギシリア・ローマ演劇,抒情詩
アエネーイス』 (共訳),京大学術出版会,2001.『ギリシア神話を学ぶ
人のために』世界思想社,2006.
M. Ciesko, Menander and the Expectations of his Audience. Oxford DPhil Thesis.
本専修は,古典古代にギリシア語およびラテン語で書かれたテクストについての文献学的研究に加えて,広く古
典古代の文化全般を研究の視野に入れ,字義どおり西洋古典学と呼びうる総合的学問研究を目指す。
前 8 世紀のホメロスから後 2 世紀のラテン作家まで同一の文化的精神的伝統を共有する世界を古典古代と呼ぶ。
そこにおいてギリシア文学は叙事詩・抒情詩・悲劇・喜劇・歴史・牧歌・小説など,さまざまな文学ジャンルを生
み出し,ラテン文学はギリシア文学を継承しつつ,恋愛詩・風刺詩・弁論など独自の発展を織り込んでルネッサン
ス以後の再生に連なる古典の伝統を築き上げた。
これらの文学作品を主要な研究対象とし,原典批判を基本に,テクストを精細に読み,背景にある伝統を踏まえ,
文脈に即した解釈を提起することが本専修の目指す一つの方向であり,そこには最近発達した記述構造分析,文体
論的研究,神話構造分析などの成果も取り入れられる。
他方,西洋古典学という学問は,古典古代の当時にあっても近代の西洋古典学の出発点にあっても,文学,哲学,
歴史学など人文科学分野にとどまらず,数学,物理学,天文学,医学,生物学などの自然科学分野をも含んで,人
間にかかわるすべての学問分野にまたがる形で成立した。人間を分割しえない完結した個体として総体的に捉えよ
うとする視点がその根幹にあった。近代の関連諸科学の発展は西洋古典学にもめざましい諸成果をもたらしたが,
反面,専門領域の著しい細分化の結果,西洋古典学本来の学問としての全体像が見失われることにもなっている。
本専修は,こうした面への反省から,原典批判・テクスト解釈ではおおいきれない古典文化の諸相をも研究の対
象に取り上げる。ギリシア文化の形成にあたっては,エジプトやメソポタミアの先進国から多大な影響が及び,他
方,古典文化の伝統はビザンチン文化やカロリング朝文化,さらにはイスラム文化によって継承された。このよう
な文化史の大きな流れをも視野に入れながら,すぐれた文学を生み出した古典古代の文化を総合的に研究する。
古典の文学あるいは語学に興味のある学生はもちろん,文化に主として関心を抱く学生も,本専修を選択しよう
とする学生はまず,第一次資料となるギリシア語・ラテン語の原典を読みこなす能力を養うことがもっとも重要で
ある。できるだけ早い段階で両語学の初級文法を (少なくとも一方の 4 時間コースを 2 回生時に) 習得することが
必要不可欠である。語学面ではまた,辞書・研究書は外国語のものが多く,英・独・仏そのほかの近代語の学習も
重要となる。そして 「講読」 および 「演習 」において読みの正確さと速さを高め,
「特殊講義」において古典古代全
体を視野に入れた研究の方法を学ぶ。また,古典古代の全体的理解という点では,古代哲学史,西洋古代史の研究
領域とも密接な関連を有するので,これらの授業の積極的受講も望まれる。
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スラブ語学スラブ文学専修
教 授
佐 藤 昭 裕
スラブ文献学
〔著書〕 『中世スラブ語研究―『過ぎし年月の物語』の言語と古教会スラブ語―』京都大学大学院文学研究科,
2005.
本専修は,平成 7 年度の文学部再編により設置され,平成 10 年度にはじめて 3 名の学部卒業生を出した。
本専修では,ロシアから東欧にかけての広大な地域に分布するスラブ諸民族の言語と文学を,広い視野から総合
的に研究し,教育することを目指している。スラブ民族は,大きく東 (ロシア,ウクライナなど),西 (ポーランド,
チェコ,スロヴァキアなど),南 (ブルガリア,セルビア,クロアチア,スロヴェニアなど) の 3 つのグループに分
かれ,その言語は全体としてかなり均質であるが,同時に,それぞれに個別の特徴をも示している。これは,9 世
紀末に聖書の翻訳のために成立したスラブ世界最古の書き言葉である古教会スラブ語が出発点となり,その影響の
もとに各スラブ民族の書き言葉が生まれ,さらには 18〜19 世紀にかけてそれぞれの国において近代の文章語が形
成され,国民文学が成立していったという,歴史的過程を反映するものである。本専修では,このような空間的な
拡がりと時間的連続性の両者を考慮にいれ,それぞれのスラブ民族の言語,文学を切り離して扱うのではなく,ス
ラブ語,文学を全体として捉え,その統一性と多様性に注目する視点にたった,スラブ語学・スラブ文学研究の確
立をめざしたい。
佐藤は,中世スラブ語を専門とし,現在とくに古教会スラブ語,古ロシア語を研究の中心としているが,一方で,
現代ポーランド語とその文学にもつよい興味をもっている。さらに,授業は,本学の他研究科の教員,ならびに非
常勤の先生方の応援を得て,できるだけ広くスラブ諸国の言語と文学を対象に行っている。
しかし一方で,現時点において学生諸君が修得するために最も条件が整っており,1 回生から学習することがで
きるのはロシア語であり,また同時にロシア語が,スラブ研究のための国際的共通語としての地位を占めているこ
とも事実である。このため,学部レベルでの教育はロシア語,ロシア文学を中心に行われる。その上で,希望する
者は,他のスラブ民族の言語,文学の研究へと進むことが適当であろう。勿論,各自がその興味に従って,最初か
らポーランド,チェコ,ブルガリア等,他の諸国の言語や文学を中心に研究することも自由であり,既にその例も
ある。但し,必修の授業の一つである外国人実習はロシア語についてのみ行われるので,注意して欲しい。
年によって多少の変動はあるものの,例年 2 回生向けとして「スラブ語学入門」
「ロシア語講読」
「ポーランド語
学」,また 3 回生以上のために特殊講義として「中世スラブ語」
「現代スラブ諸語文法論」 「19 世紀ロシア文学研
究」 等,演習として「20 世紀ポーランド文学」
「ロシア文化・社会論」「19 世紀ロシア文学」等,さらに学部生向
けの「外国人実習 (ロシア語)」などの授業が開講されている。また集中講義としてはこれまで「セルビア・クロ
アチア語」「ポーランド文学史」
「ロシア・ロマン主義研究」
「南スラブ語研究」
「現代ロシア語文法論研究」
「ロシ
ア民俗学序論」等が行われている。
本専修は,生まれてなお日の浅い専修であるが,序々に独自の学問的伝統を作ろうと努めている。そのために貢
献しようという学生諸君が本専修を選ばれることを期待する。一方で,将来研究者を目指す人だけでなく,スラブ
世界に何らかの興味がある人,学生時代にしかできないことをやっておきたい,人とはすこし違うことを勉強した
うえで社会に出たいというような学生諸君も大いに歓迎したい。
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ドイツ語学ドイツ文学専修
教 授
西
村 雅 樹
准教授
松
村
朋 彦
近現代ドイツ文学,オーストリア文化 (平成 24 年 3 月退職予定)
近代ドイツ文学・文化史
〔著書・論文〕 西村『世紀末ウィーン文化探究―「異」への関わり』(晃洋書房,2009),『ドイツ文学と美術』
(編著,日本独文学会,2006),「世紀末ウィーンにおける「異」意識」(『グローバル化時代の
人文学―対話と寛容の知を求めて (上) 連鎖する地域と文化』,京都大学学術出版会,2007).
松村『越境と内省――近代ドイツ文学の異文化像』(鳥影社,2009),「近代ドイツ文学と視覚
の変容――ゲーテ,リヒテンベルク,ホフマン」(『希土』35,2010),「非音楽的な音楽家――
〈貧しい辻音楽師〉とその兄弟たち」(『AZUR』3,2011).
本専修の研究教育の対象領域は,中世から現代へといたるドイツ語圏 (オーストリア,スイスを含む) の言語文
化全般にわたっている。現在主として西村教授は,19 世紀後半から 20 世紀前半にかけてのドイツ語圏の文化につ
いて世紀末ウィーンの文学を中心に研究を進めている。また松村准教授は,18 世紀後半から 19 世紀前半にかけて
のドイツ文学を文化史的な観点から考察しようと試みている。専任教員の専門分野からもわかるように,研究教育
の中心をなしているのは 18 世紀以降のドイツ文学であるが,それ以外の研究領域についても,人間・環境学研究科
や人文科学研究所の教員ならびに他大学からの非常勤講師,さらには外国人教師の協力を得て,多種多様な授業が
開講されている。ドイツ語学に関する授業も毎年おこなわれている。授業の他に,学生による読書会も盛んである。
学生の卒業論文の対象は,近代・現代の作家や作品をはじめ,ドイツ語学ドイツ文学のさまざまな領域におよんで
いる。
本分野の研究教育の特色は,講座開設当初から一貫して,原典の綿密な読解を重視する点にあり,この伝統は今
日もなお生きつづけている。とりわけドイツ語を学びはじめてまだ日の浅い学部学生のための講読や演習の授業で
は,ドイツ語のテクストを正確に読むための訓練に最大の力点がおかれている。
だが他方では,新しい方法論の出現と対象領域の拡大によってますます多様化しつつある現在の研究状況をふま
えて,せまい意味での語学・文学研究の枠組にとらわれることなく,広くドイツ語圏の諸芸術や文化と社会のさま
ざまな問題に目を向けることもまた必要であろう。
さらに,ドイツ語圏の言語文化が他の欧米諸国との密接な影響関係のもとに成立,発展してきたことを考えるな
ら,ドイツ語学ドイツ文学を西洋文化全体とのかかわりのなかでとらえようとする視点もまた,今後ますます重要
になってくるだろう。
このような意味で,ドイツ語学ドイツ文学を学ぼうとする学生諸君には,言葉に対する鋭敏な感覚と西洋文化全
般に対する広範な関心をもつことを期待したい。
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英語学英文学専修
教 授
宮
内
弘
英詩,文体論 (平成 24 年 3 月退職予定)
教 授
佐々木
徹
イギリス小説
准教授
家
入
葉 子
英語学
准教授
廣
田
篤 彦
イギリス演劇
〔著書・論文〕 宮内 『英詩の文体論批評』 京大学術出版会. “Rhyme Style : with Examples from Larkin,
Yeats and Heaney” POETICA 58 (Eikoh Institute of Culture and Education 2002).
佐々木 Thomas Hardy, The Hand of Ethelberta, 校訂・編集,Everyman Paperback.『ウィ
ルキー・コリンズ傑作選』監修,臨川書店.
家入
Negative Constructions in Middle English, Kyushu University Press.
Aspects of
English Negation, John Benjamins.
廣田 “The Tardy-Apish Nation in a Homespun Kingdom : Sartorial Representations of Unstable
English Identitiy”, Cahiers Élisabéthains 78 (Université Paul-Valéry Montpellier III 2010).
“Circes in Ephesus : Civic Affiliations in The Comedy of Errors and Early Modern English
Identity”, The Shakespearean International Yearbook 10 (Ashgate 2010).
本専修の講義は,4 名の専任教員のほか,人間・環境学研究科および学外の教員によって行われ,英語学と英文
学のほぼすべての分野を網羅するようになっている。 (大多数の講義はアメリカ文学専修の講義としても認定され,
また,アメリカ文学専修の講義の大多数は本専修の講義としても認定される。) 英米人教員によるものを除いて,講
義は日本語で行われるが,その場合にも教材は英語の原典を用い,作品の正確で厳密な読解を特に重視する。
本専修では英語学と英文学に関する多くの科目を提供しており,特定の狭い分野のみに限定することなく,幅広
い関心を養うのが好ましい。卒業論文は英語で書くことになっているので,英語の運用能力を高める努力が必要と
され,英米文専修学生を対象に提供する ʻAcademic Writingʼ の科目を履修することが望まれる。
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アメリカ文学専修
教 授
若
准教授
森
島
正
慎一郎
現代アメリカ小説
アメリカ小説
〔著書・論文〕 若島『乱視読者の英米短篇講義』研究社.同『乱視読者の新冒険』研究社.同『ロリータ,ロ
リータ,ロリータ』作品社.同ウラジーミル・ナボコフ 『透明な対象』 (共訳) 国書刊行会.同
ウラジーミル・ナボコフ『ディフェンス』(訳) 河出書房新社.同ウラジーミル・ナボコフ
『ロリータ』(訳) 新潮文庫.同ウラジーミル・ナボコフ『ローラのオリジナル』(訳) 作品社.
森「机の上の原稿―『夜はやさし』における精神科医の破滅について」(『英語青年』第 147 巻
第 7 号).同「ギャツビー・ゴネグション―フィッツジェラルド 『偉大なギャツビー』 をめ
ぐって」 『
( みすず』 第 46 巻第 3 号).同アラスター・グレイ 『ラナーク―四巻からなる伝記』
(訳) 国書刊行会.同 F・スコット・フィッツジェラルド『夜はやさし』(訳) ホーム社.
本専修の授業は,2 名の専任教員のほか,人間・環境学研究科および学外の教員によって行われ,主として 19 世
紀以降のアメリカ文学について,できるかぎり多様な領域を網羅するようになっている。また,本専修の授業の大
部分が英語学英文学専修の単位として認定されるのと同じように,英語学英文学専修の授業も大部分,本専修の単
位として認定される。学生は特定の狭い分野のみに限定することなく英語学英文学の分野や他の外国文学について
も,できるだけ広く理解を深めることが望ましい。
英米人教員によるものを除き,授業は日本語で,英語の原典を用いて行われる。特に重視されるのは作品の精密
な読解であるが,卒業論文は英語で書くことになっているので,ʻAcademic Writingʼ 等の科目を履修して,英語の
運用能力を高める努力が必要とされる。また,日本文学にも関心を抱き,日本語の理解,日本語による表現能力を
深めるために常日頃努力することも大切である。
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フランス語学フランス文学専修
教 授
吉
川
一 義
近現代フランス文学 (平成 24 年 3 月退職予定)
教 授
田 口
紀 子
フランス語学,テクスト言語学
准教授
増
田
真
准教授
永
盛
克 也
准教授
エリック・アヴォカ
18 世紀の思想と文学,ルソー,ディドロ
17 世紀文学,ラシーヌ,演劇論
18 世紀の文学,フランス文学全般
〔著書・論文〕 吉川『プルーストと絵画』岩波書店;Proust et lʼart pictural, Champion
田口『文学作品が生まれるとき―生成のフランス文学』(共編),京都大学学術出版会;『身体
のフランス文学』(共編) 京都大学学術出版会
増田『哲学の歴史 6 知識・経験・啓蒙 18 世紀』(共著),中央公論社;『ルソーを学ぶ人のた
めに』(共著),世界思想社
永盛『文学作品が生まれるとき―生成のフランス文学』(共著),京都大学学術出版社;『ラ
シーヌ劇の神話力』(共著),上智大学出版会
上記に加えて,平成 23 年度は,下記の教員が,講師として教育ならびに研究指導に参加している。
稲 垣 直 樹 教 授
(人間・環境学研究科)
東 郷 雄 二 教 授
(同)
フランス語学,統語論
多 賀
茂 教 授
(同)
18・19 世紀の詩と思想
大 浦
康 介 教 授
(人文科学研究所)
19 世紀の文学,ユゴー,暗黒小説
批評,文学理論,現代小説
王 寺 賢 太 准教授
(同)
18 世紀の思想と文学 ディドロ
保 昭 博 助 教
(同)
20 世紀文学,物語論
久
なお,平成 23 年度は学外から神戸大学准教授中畑寛之氏がマラルメを,龍谷大学准教授嶋﨑陽一氏が中世フラ
ンス語フランス文学を講じている。
フランス語学フランス文学専修では,フランス語のしくみやフランス文学の作品の読解を中心に学ぶが,その背
景にある思想,歴史,時代を含めたフランス文化一般についての広い知識を身につけることも重要である。
たとえば,アルベール・カミュの『異邦人』という作品を読む場合,ストーリーを追うだけではなく,そこに込
められている作者の思想,カミュの他の作品との関係,文体や語り,作品の時代背景を読み解き,なぜ『異邦人』
はそのような展開と結末を与えられなければならなかったのかを考える。
小説を例にとったが,ランボーやボードレールといった詩人,デカルトやパスカル,ルソーやベルクソンといっ
た思想家,またラシーヌ,モリエールのような劇作家の作品が研究の対象となるのはいうまでもない。しかしさら
に広く,作家たちによる美術批評や,小説や詩集の挿絵のような美術の領域につながる分野,また音楽,映画など
も,私たちの専修の対象になる。
このように,中世から現代まで広くフランスの文学・芸術・思想に関心のある人は,ぜひフランス語で書かれた
「テクスト」を入り口にして,奥深いフランス文化の探求への道に分け入ってみてほしい。
また,本専修では教員一同が論文などの研究指導だけでなく,留学に関する相談などにもきめ細かく応じている。
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イタリア語学イタリア文学専修
教 授
天
野
惠
イタリア騎士物語詩,アリオスト研究
〔著書・論文〕 天野「ベンボとアルドゥス版『カンツォニエーレ』
」(イタリア学会誌 56 号,2006).
イタリア語学イタリア文学関係の教育研究機関で博士後期課程をそなえるものは日本では当専修と 1979 年に東
京大学文学部に開設されたもののみである。当専修は 1940 年に創設されたが,日本で最初にこうした機関が京都
大学に設置をみた背景には,1908 年文学部創設以来,上田敏,厨川白村はじめ多くの教官がダンテ研究にたずさ
わり,その研究成果の蓄積があったからにほかならない。また,幸いにも開設に先立ち,京大附属図書館は,ダン
テ研究者大賀寿吉氏により「旭江文庫」の寄贈を受けている。この文庫はダンテの貴重な原典をはじめ,1936 年
までに刊行されたダンテ関係文献約 3000 点を収めた,日本では他に類をみないきわめて重要なコレクションで,
それ以降文学部の蒐集になる集書とともに内外の研究者から利用されている。
ダンテ,ペトラルカ,ボッカッチョの三大詩人を生んだイタリア文学の伝統と西欧近世思想の母体となったイタ
リア・ルネサンス文化についての知識が,ヨーロッパ文学研究にたずさわるものにとって,基本的な条件であると
いうことはいうまでもない。その意味でイタリア文学の研究になお未開拓な分野を多く残す日本においては,とく
に研究者が要請されているのが現状である。
天野教授は,アリオストをはじめとするイタリア騎士物語詩および 16 世紀の言語問題を主要な専門分野として
いる。専任教員がイタリア古典文学・語学を主な研究分野としているため,近・現代については,外部から数名の
講師を招き,
「特殊講義」等の授業担当を願っている。
将来イタリア語学イタリア文学の研究を志す 2 回生を主たる対象として,短時日でイタリア語テキスト講読の能
力を養う目的で,
『イタリア語文法 4 時間コース』が,また専門科目としてイタリア語講読が開かれている他,「イ
タリア文学」の講義は 1 回生から履修可能であり,イタリア文学の世界にアクセスするための手ほどきが行われて
いる。なお当講座には専任のイタリア人教師がいて,イタリア語の会話実習のほか文学・語学の各種演習・特殊講
義の授業を担当し,学生の指導にあたっている。
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