ダウンロード - 日本歯科大学 新潟生命歯学部

特@@別@@講@@演
5月13日
(金)
17:00−18:00 朱鷺メッセマリンホール
「The
Future of Dental Education. 」
No-Hee Park
(UCLA School of Dentistry, Los Angeles, USA)
座長 岡野友宏
(昭和大学)
− 27 −
− 28 −
特別講演
「The Future of Dental Education.」
No-Hee Park, Ph.D. , D.D.S. , M.S.
Professor, Diagnostic and Surgical Sciences
Dean, UCLA School of Dentistry
During the past decade, dental schools have undergone substantial changes, renovating their academic
and financial structures and reforming their academic programs, particularly their curriculum. These
changes have been the result of information technology developments, pressure from parent universities, shrinking financial resources, changing public demand, and democratization of knowledge. Although changes to the school’s structures and programs are absolutely necessary for meeting the
public’s needs, dental schools should consider those changes more globally. Specifically, any transformations should be made with the central focus of “Learning”, especially student learning, at the heart of the
dental school’s mission. “Learning” encompasses not only mediated learning (or classroom teaching)
but also personal scholarship and organized research. As the philosopher John Dewey so wisely stated,
“Education implies the guidance of behavior in harmony with social processes.” In other words, school
must not only teach students the knowledge of the past, but also prepare them to deal with the rapidly
changing society of the future. Since it is impossible to predict what dentistry will be 20-40 years from
now, we cannot prepare the students for a precise set of conditions. Thus dental educators have an
obligation to prepare our students by developing their critical thinking and self study abilities via
scholarship. In this presentation, I would like to discuss the strategic plan of a dental school that
continues to graduate competent practitioners to meet present clinical needs while also preparing students for a radically different kind of practice in the future. It includes the dental school’s vision,
problems and challenges, opportunities, and the future plan.
Short CV for Dr. No-Hee Park
Dr. No-Hee Park is the Dean, as well as a Professor, at the UCLA School of Dentistry. As Dean of the
School, Dr. Park directs a $50 million enterprise, with 500 faculty, 370 DDS students, 91 specialty training
residents, and a staff of 300 employees. Dr. Park direct and guide the School's academic, research,
patient care and financial management. He has reorganized the School's academic structure and implemented a Combined DDS and PhD program, a Combined DDS and MBA program, and the Dean's
Leadership Institute. Through Dr. Park’s efforts, the School has experienced great success in its outreach and partnerships, both nationally and internationally, which have notably enhanced the morale of
students, staff and faculty. He has also notably enhanced the research infrastructure of UCLA by establishing the Weintraub Center for Reconstructive Biotechnology, Yip Center for Head and Neck Oncology
Research, Center for Salivary Diagnostics, Fundamental Clinical Research Training Program, and Center for Advanced Biofilm Research in the School. Dr. Park has received many awards, including the
Distinguished Scientist Award from the IADR. He has also published over 140 scientific research articles
in peer reviewed journals. Dr. Park has been a chartered member of the NIDR and NCI Grant Review
Committees and has served on the editorial boards of many journals. He has also trained over one
hundred students and postdoctoral fellows, and most of them have become academicians in dentistry
and medicine. Dr. Park began his academic career as a faculty member at the Harvard Medical School
in 1980, followed by a faculty appointment at Harvard School of Dental Medicine in 1982. In 1984, Dr.
Park was appointed Associate Professor with tenure at UCLA and was promoted to Professor in 1985.
He received his D.D.S. degree in 1968 and clinical certificate in Periodontics in 1971 from the Seoul
National University College of Dentistry, acquired his Ph.D. in Pharmacology in 1978 from Medical
College of Georgia. He then completed a postdoctoral fellowship at Harvard Medical School in 1980 and
received his D.M.D. degree in 1982 from Harvard.
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− 30 −
教@@育@@講@@演
5月14日
(土)
13:00−14:00 朱鷺メッセマリンホール
「腫瘍核医学の将来展望」
阪原晴海(浜松医科大学医学部放射線医学講座)
座長 土持 眞(日本歯科大学新潟歯学部)
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教育講演
「腫瘍核医学の将来展望」
阪原晴海
浜松医科大学医学部放射線医学講座
「Future of Nuclear Oncology」
Harumi Sakahara
Department of Radiology, Hamamatsu University School of Medicine
最近のCTやMRIなどの画像診断技術の進歩は目覚ましい。核医学領域の最大のトピックスはPET
である。FDG が腫瘍診断に有用と認められ、FDG-PET が急速に普及しつつある。FDG-PET は癌患
者の病期診断と再発診断に威力を発揮するが、今後は病巣の検出に加え、治療方針の決定に直接かか
わってくると予想される。たとえば放射線治療では FDG の集積範囲を参考に治療計画を立てること
が検討されている。CTの解剖学的情報にPETの代謝情報を加えることで、より適切な照射野を決め
ることができる。FDG-PET は化学療法の効果判定、そしてこれを基にした抗癌剤の選択にも利用さ
れる。従来化学療法の効果は腫瘍の大きさの変化で評価されているが、治療後の代謝の変化は大きさ
の変化に先行する。化学療法前後で FDG-PET を行うことにより、抗癌剤の有効性を十分に早い時期
に評価できる。
核医学検査は機器の進歩と放射性薬剤の開発を車の両輪として発展してきた。
PET装置は一層高感
度、高分解能となり、検査のスループットも向上している。CTとの融合画像が簡単に得られるPET/
CT装置の開発によりFDGの集積部位の正確な診断が可能になり、正常組織への生理的集積と病巣へ
の集積の鑑別が容易になった。ガンマカメラにも X 線 CT を搭載したものが登場している。131I 治療
後の集積確認や67Gaシンチグラフィなどに役立つ。核医学画像と形態画像の融合はますます盛んにな
ると思われる。一方、術中に病巣を探索する radio-guided surgery のための手持ちガンマカメラや携
帯型ポジトロンイメージング装置が開発されている。
センチネルリンパ節の検出にガンマプローブが
使われているように、
手術前に投与された放射性薬剤の集積をイメージング機器でサーベイしながら
外科医が手術を進める時代が来るかもしれない。
核医学が癌診療の分野でさらに活用されるためには PET、SPECT を問わず、新規薬剤の開発が必
須である。各種のアミノ酸やコリン、チミジンの標識体、低酸素細胞イメージング製剤などが候補と
して挙げられる。核医学画像は腫瘍の持つさまざまな生化学的情報を提供してくれる。腫瘍核医学は
この特徴を生かして「がんの個性」の画像化を実現し、癌診療に貢献すべきと考える。
略 歴
阪原晴海(さかはら はるみ)
浜松医科大学医学部放射線医学講座 教授
主な経歴 昭和53年3月 京都大学医学部卒業
昭和53年∼昭和54年 京都大学医学部附属病院研修医(放射線科・核医学科)
昭和54年∼昭和57年 滋賀県立成人病センター附属病院医員(放射線科)
昭和57年∼昭和61年 京都大学大学院医学研究科博士課程在学
昭和61年∼平成3年 京都大学医学部附属病院助手(放射線部)
昭和61年∼平成元年 米国 National Institutes of Health にて核医学の研究に従事
平成3年∼平成7年 京都大学医学部講師(核医学講座)
平成7年∼平成11年 京都大学大学院医学研究科講師(放射線医学講座)
平成11年4月 浜松医科大学医学部教授(放射線医学講座)現在に至る
資 格 医師免許、医学博士、放射線科専門医、核医学会認定医、第1種放射線取扱主任者
専門領域 核医学による癌の診断と治療
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花村信之メモリアルレクチャー
5月13日
(金)
14:20−15:20 朱鷺メッセマリンホール
「産学官連携による“頭頸部用小照射野 X 線 CT”開発の道のり」
新井嘉則(松本歯科大学総合歯科医学研究所)
座長 篠田宏司(日本大学)
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花村信之メモリアルレクチャー
「産学官連携による“頭頸部用小照射野 X 線 CT”開発の道のり」
新井嘉則 松本歯科大学総合歯科医学研究所
「Development of Limited Cone Beam CT with Technology License Organization」
Yoshinori Arai
Matsumoto Dental University Institute for Oral Science
世界の工場としての日本の地位が揺らぎ、いわゆるバブル崩壊後の長期低落傾向からの脱却をはか
るために、特許等を中心とした知的財産によって新たな産業と雇用の創出を促進する政策が試みられ
ている。これらを背景に、1998年には大学等における技術に関する研究成果を民間事業者への移転の
促進に関する法律(TLO法;Technology License Organization)
が制定された。日本大学は国内初の
TLOとして、日本大学国際産業技術ビジネス育成センター
(通称NUBIC)
を設立させた。
演者は、当時開発中の歯科用小型X線CTの特許をNUBICに譲渡し、さらにモリタ製作所
(京都)
へ
技術移転を行い、近畿通産局からは新規産業創造技術補助金を得て、実用機
(3DX multi image micro CT 以下3DX)
を完成させた。その有効性と安全性を証明し、厚生省において薬事申請項目が
新設され“頭頸部用小照射野X線CT”
として第1号の認定を受け、2001年に発売した。医科において
は保険診療に導入された。現在、国内で約35台、海外で約35台が稼動中である。これらの業績を受け
て、第1回の産学官連携功労者として科学技術政策担当大臣賞を受賞した。
また、これらの技術を発展させて実験動物に最適化したマイクロCT
(R_mCT 理学メカトロニク
ス 昭島 東京)
の開発に成功したので報告する。このCTは実験用のラットなどの小動物を安定した
ステージに保持し、管球とセンサーを回転する方式とした。これによって、麻酔下の実験動物を容易
に撮影できるようにした。しかも、撮影時間は17秒と短時間で、一度の撮影で2分後には512×512×
384
(約1億画素)
の画素の3次元画像を得ることが可能となった。解像力は10×10×10umから100×100
×100umまで可変とした。結果、頭部全体の画像や尾骨の詳細な骨の状態を鮮鋭に観察することが可
能となった。本装置を使用することで、1匹の実験動物を長期間観察できることから、成長や加齢、
あるいは外傷の治癒過程を連続的に観察することが可能となった。
3DXは現在、歯科においては保険に導入されておらず、これらの新しい撮影法をどのように普及
していくかが今後の課題として残されている。これらの解決法についても提言する。
略 歴
新井嘉則(あらい よしのり)
昭和34年生まれ
昭和59年 日本大学歯学部卒
昭和63年 日本大学歯学部大学院卒 専攻 放射線学
世界で初めてパノラマのデジタル化に成功
コンピュータの設計製作を自ら行う
平成7年 パノラマ発祥の地フィンランドに約1年間留学
平成9年 歯科用に最適化された実用的な3次元CTを設計製作し、臨床応用に成功
平成14年 松本歯科大学歯科放射線学講座 助教授
平成16年 松本歯科大学大学院 硬組織疾患制御再建学講座 教授
資 格:歯科放射線学会指導医 著 書:歯科用小型X線CTによる3次元画像診断と治療 医歯薬出版、2003
受 賞:平成13年度 日本歯科放射線学会特別賞
平成15年度 産学官功労者表彰 科学技術政策担当大臣賞 − 37 −
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シンポジウムⅠ
5 月 13 日(金)9:00 − 10:40 朱鷺メッセマリンホール
「インプラントの画像診断」
歯科補綴関連モデレータ :渡邊文彦(日本歯科大学新潟歯学部)
歯科放射線関連モデレータ:代居 敬(日本歯科大学歯学部)
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シンポジウムⅠ
インプラントの画像診断
歯科補綴関連モデレータ :渡邊文彦
日本歯科大学新潟歯学部総合診療科1
歯科放射線関連モデレータ:代居 敬
日本歯科大学歯学部歯科放射線学講座
学際的な位置付けの歯科インプラント治療において、
最初に行われるのは画像検査を含めた診断で
あり、咬合という最終目的の一つが達成されるのは補綴完了時である。しかしながら、各専門分野に
インプラント治療に必要とされる知識が広いためばかりでなく、
患者自身の顎骨形態などの制限要素
があるために、
初診の段階で一貫した治療のコースを設定しそれに沿った治療を行っていくことは困
難な場合も多く、各専門分野間での患者治療上の妥協がなされることも少なくない。
つまり、歯科放射線の領域の画像検査は現在、口腔外科学的処置を視野に入れて、インプラントの
埋入余地を見出すことに主眼が置かれているために、
なかなか最終補綴処置まで視野に入れられない
というのが現状である。
そこで今回、補綴処置を視野に入れた画像診断を目指している歯科放射線の画像診断担当者に、実
際の診断手技等についてお話を戴くこと、また、最終補綴処置担当者の側からは外科処置とその前に
行われる画像診断への注文などを戴き、
インプラントのための画像診断をさらに向上させるシンポジ
ウムを企画した。
骨結合型インプラントの導入以来、インプラント治療の安全性は向上している昨今ではあるが、将
来のさらに患者に満足していただくインプラントを目指したシンポジウムにしたいと考えている。
略 歴
渡邊文彦(わたなべ ふみひこ)
1977年3月 日本歯科大学歯学部卒業
1977年6月 日本歯科大学新潟歯学部補綴第2講座 入局
1982年4月 日本歯科大学新潟歯学部補綴第2講座 講師
1985年8月∼1987年3月 米国ミシガン大学歯学部 クラウンブリッジ客員研究員
1989年4月 日本歯科大学新潟歯学部補綴第2講座 助教授
1995年4月 米国ペンシルベニア大学客員教授
1997年4月 日本歯科大学新潟歯学部附属病院口腔インプラントセンター センター長
2000年4月 日本歯科大学新潟歯学部先端研究センター教授
補綴第2講座教授 併任
2003年4月 日本歯科大学新潟歯学部 総合診療科 教授
日本歯科大学新潟歯学部附属病院 副病院長
代居 敬(よすえ たかし)
1950年 東京生まれ
1973年 電気通信大学卒業
1979年 日本歯科大学歯学部卒業
1983年 日本歯科大学大学院修了、日本歯科大学歯学部放射線学教室助手
1987年 同 講師、Michigan大学留学(1年間)
1992年 同 助教授
1995年 日本歯科大学歯学部放射線学教室教授 現在に至る
現 在 日本歯科大学歯学部学生部長併任
日本歯科大学歯学部附属病院インプラントセンター併任
− 41 −
シンポジウムⅠー1
インプラント治療における三次元画像診断の実際 −歯科用小照射野X線CTを中心に−
萩原芳幸 1,2) 1)
日本大学歯学部補綴学教室クラウン・ブリッジ学講座 2)
日本大学歯学部付属歯科病院歯科インプラント科
Application of Three-dimensional Image for Dental Implant -The cone beam computed tomography
in implant dentistryYoshiyuki Hagiwara1.2) 1)
Nihon University School of Dentistry, Department of Crown and Bridge Prosthodontics
2)
Nihon University School of Dentistry, Dental Hospital, Implant Dentistry
インプラントを成功に導くための術前診査では,インプラントを埋入するために必要十分な骨
(Available Bone)が存在するかを知ることが最も重要である.一般的に顎骨の状態を診断するため
に口内撮影や回転パノラマ断層撮影法などが多用されてきた.しかし,これらは二次元的な画像であ
るために,インプラント植立に必要な骨の状態を三次元的に把握するには限界があった.
現在では長期的なインプラントの成功に補綴的要因が大きく関与することが広く認識され,
特に難
症例や広範囲にわたる欠損症例では,補綴に必要とされる部位にインプラントを埋入する補綴主導型
インプラント(Top-Down Treatment,Restoration-Driven Placement)の概念が不可欠である.
補綴主導型インプラントの実践のためには,
最終補綴装置を想定した診断用ワックスアップをもと
にしたX線撮影用ステント(外科用としても使用する)を利用してComputed Tomography(以下CT)
撮影を行い,三次元的な補綴装置 / 顎骨の位置関係を把握することが基本的な診査・診断である.治
療計画段階では理想的な上部構造および周囲組織の形状を設定し,
インプラント体の埋入部位,
方向,
種類,サイズを決定する.同時に GBR や Sinus Lift 等による硬組織の増大や歯周形成外科手術によ
る軟組織のマネージメント等についても検討し,
インプラント治療を包括的に進めることが求められ
る.
その一方,インプラントや GBR・Sinus Lift 等の経過観察はオルソパントモ撮影をもってなされる
ことが多く,放射線被曝に関する倫理面や費用の観点からも通常のX線CT撮影を頻繁に行うことは
不可能である.しかし,歯科用小照射野X線CTは被曝線量が従来型CTの 1/30 ∼ 1/100 程度で,撮
影環境もオルソパントモに類似しているために反復撮影が可能である.また,偶発事故や予後不良イ
ンプラントに対しても歯科用小照射野X線CTによる三次元的画像情報は非常に有効で,
①現在の問
題の把握とその対処,
②予後不良インプラント除去後の骨形態の予測と再インプラント治療の可能性,
などを明確にすることに役立つ.
略 歴
萩原芳幸(はぎわら よしゆき)
1985年 日本大学歯学部卒業
1989年 日本大学大学院歯学研究科修了;歯学博士
1990年 日本大学助手
1993年∼1995年 米国オハイオ州立大学歯学部インプラント部門留学
1996年 日本大学講師(専任扱い)
2001年 日本大学専任講師
2002年 日本大学助教授(クラウンブリッジ学講座)および
日本大学歯学部付属歯科病院歯科インプラント科科長併任)
現在に至る
主な研究テーマ:インプラントの印象・模型・上部構造物の精度,インプラントの振動特性,アバットメントの特性,
インプラント補綴とQOL評価,前装材料の臨床研究
所属学会:日本補綴歯科学会,日本口腔インプラント学会, Academy of Osseointegration, International Association
for Dental Reserch, American Academy of Implant Dentistry, American Academy of Fixed Prosthodontics, International College of Prosthodontists, American Academy of Implant Dentistry, Carl O. Boucher
Prosthodontic Society
− 42 −
シンポジウムⅠー2
画像診断に基づいたインプラント埋入方法の適正化
塩田 真
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科インプラント口腔再生医学
Appropriate Implantation Based on Image Diagnosis
Makoto Shiota
Oral Implantology and Regenerative Dental Medicine, Division of Oral Health Sciences, Graduate
School, Tokyo Medical and Dental University
インプラント治療技術の進展とインプラント体の改善は,
インプラントによってもたらされる機能
的ならびに審美的成果を大きく向上させてきたばかりでなく,
治療に要する期間の短縮や治療の適応
範囲の拡大も可能とならしめてきた。治療期間に関しては,即時荷重法,早期荷重法,即時埋入法,
ディレイ法などの荷重方法や埋入方法の導入によって,
治療の早期完了が実現されるようになってき
ており,
従来通りの厳密なプロトコールに基づいたタイムテーブルの使用とは隔世の感がある。
また,
適応範囲に関しても,サイナスリフト,ソケットリフト,ブロック骨移植,GBR法などの骨造成法
や結合組織移植法の応用によって,従来では埋入窩の形成が不可能であったり審美性回復が困難で
あったりしたために非適応とされていた症例にも,インプラントが応用されるようになってきた。
このような周辺技術も含んだインプラント治療技術の発展は,
歯を欠損した患者に大きく利するも
のであり,今後もその応用は拡大すると考えられる。しかし,このような技術を正確に応用するため
には,画像診断に基づいて患者の口腔内状態を正しく把握する必要があることは言をまたない。とく
に近年は診療の主体が供給側である歯科医師から受容側である患者へと移行する傾向があるために,
インプラントを用いてどの程度まで患者の要望が実現可能であるかあらかじめ理解し,
十分な合意の
上で治療を進める必要がある。
そのためにはヘリカルCTや小照射野CTによる多断面再構築画像を
用いた顎骨形態の把握が有効であるが,
診断用ステントを用いることによって得られる最終補綴形態
と関連させた画像はさらに実効性に富んでいる。
また,
三次元データをもとにして作製される模型は,
顎骨の立体的把握を可能にするとともに,
外科用ステントや即時荷重用補綴物の作製にも応用されて
いる。
以上のように画像診断は,インプラント応用の適否だけでなく,インプラント埋入方法の選択にも
大きく関わる重要項目である。今回は,画像診断のインプラント治療における有効性を紹介するとと
もに,画像診断によって導かれるインプラント埋入方法の検討を試みたい。
略 歴
塩田 真(しおた まこと)
本 籍 東京
昭和55年3月 東京医科歯科大学歯学部卒業
昭和55年4月 東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程入学
昭和59年3月 東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了
昭和59年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院第二補綴科医員
昭和63年4月 東京医科歯科大学歯科補綴学第二講座助手
平成8年3月 文部省在外研究員ジュネーブ大学出張
平成8年9月 東京医科歯科大学歯学部附属病院インプラント治療部助教授
平成12年4月 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科インプラント学助教授
日本口腔インプラント学会評議員
WCOI評議員
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シンポジウムⅠー3
口腔機能再建における診断画像の応用
勝又明敏 1)、内藤宗孝 2)
1)
朝日大学歯学部口腔病態医療学講座歯科放射線学分野 2)
愛知学院大学歯学部歯科放射線学講座
Application of the Diagnostic Image Data for Dental Prosthestic Treatment
Akitoshi Katsumata1) , Munetaka Naitoh2)
1)
Department of Oral Radiology, Asahi University School of Dentistry,
2)
Department of Oral and Maxillofacial Radiology, Aichi-Gakuin University School of Dentistry
口腔および咬合機能再建における診断画像の役割は、
治療の準備段階において口内法やパノラマX
線写真を撮影して、補綴治療の障害となる病変や解剖形態を検索する事を出発点としている。インプ
ラントや硬組織の再生を目的とした治療技術が開発されて普及するに従い、診断画像に要求される役
割も変化してきた。すなわち、歯列顎骨局所の精密な断面を画像化して骨の状態を定量的に評価した
り、骨の形態を立体的に表示する 3 D画像を作製する事を通じて、治療の施行に直結する情報の提供
が加わった。画像取得の方法も、断層X線撮影や初期の CT から、より高性能な CT あるいは MRI へ
と進化し、精度の高い形態情報を得る環境が普及しつつある。
一方、模型を主要な形態の情報源として、手作業で作製されてきた歯科技工物も、形態走査や造形
技術の進歩により、電子情報を媒介として機械的に作製可能となってきた。電子化された形態情報と
いう観点では、表面形状を走査した情報も、診断画像から構築された情報も同列である。医科では、
骨や生体表面を修復するための材料を、診断画像を基に加工して応用する技術が実用段階にある。し
かし、歯科においては、インプラントを含む補綴治療に用いる模型や技工物を、診断画像から直接作
製する方向性に関して未知数な部分が多い。膨大な実績に裏付けられた現代の補綴治療は、極めて高
い精度を妥当なコストで提供する点において既に確立されている。
診断画像の情報を加味する事によ
り生じる利点を探る必要がある。
本発表では、CT 画像から作製した三次元実体模型をインプラント臨床に応用する試みを通じて、
画像情報がどのような役割りを果たせるかについて考察したい。また、画像情報を機能再建治療に応
用するにあたって不可避である、精度の確保やコストに関わる問題点を、どのように抽出して検討を
進めるべきかについて、歯科放射線の立場より論じてみたい。
略 歴
勝又明敏(かつまた あきとし)
職 歴:
昭和62年 朝日大学歯学部卒業
昭和62年 朝日大学歯学部歯科放射線学講座 助手 平成8年 朝日大学歯学部歯科放射線学講座 講師 平成10年 朝日大学歯科放射線学講座 助教授
現在に至る
その他:
1.愛知学院大学歯学部 非常勤講師
2.平成7年,平成9年の2度にわたり,テキサス大学サンアントニオ校に留学
3.日本歯科放射線学会認定医/指導医
主な研究分野:
1.3次元画像の臨床研究応用
2.顎顔面領域疾患の画像診断
3.摂食嚥下障害の診断
− 44 −
シンポジウムⅠー4
インプラント術前X線検査における診断用ステントの有用性
関 健次、岡野友宏
昭和大学歯学部歯科放射線学教室
Diagnostic Template for a Dental Implant Imaging
Kenji Seki, Tomohiro Okano
Department of Oral Radiology, Showa University School of Dentistry
顎骨内インプラントは無歯顎部の補綴法として広く普及している。しかし、フィクスチャーを埋入
する顎骨は、歯を失ってからの時間経過に従って、幅が狭くなったり、歯槽頂の高さが減少したりす
る。そのため、埋入に必要な骨量が十分得られなかったり、埋入位置、方向が制限されることもある。
また、下顎管の損傷や上顎洞底、鼻腔底および皮質骨への穿孔などにも注意が必要である。そのよう
な偶発症の発生を防ぐためには、
事前に埋入予定部位の顎骨形態を正確に把握することが大切である。
顎骨形態の把握には、CT検査による頬舌方向の再構成画像が有用であるとされている。同時に、最
終補綴物を考慮して、埋入する位置、方向、長さあるいは太さを決定する必要がある。そこで、あら
かじめ、理想的な埋入位置と方向をマーキングした診断用ステントを撮影時に用意し、患者に装着し
て同時にCT撮影を行えば、理想的な埋入予定部位が画像上に記録され、その部位での顎骨形態が容
易に把握できるようになる。さらに、このようにしてCT画像を得た結果、十分な骨量が得られない
場合には、埋入したい部位に骨造成を行い、埋入に必要な骨量を十分に確保してから埋入を行うこと
も可能となる。また、診断用ステントとシミュレーションソフトウエアを組み合わせることにより、
埋入予定部位のCT値などを把握することが可能となり、
より精度の高い術前検査が可能になると考
えられる。
われわれの施設では、多くの開業歯科医よりさまざまな形態の診断用ステントが持ち込まれ、CT
検査が行われている。今回の発表では、そうしたさまざまな診断用ステントのデザインを供覧し、そ
の上で、手軽に作製でき、情報が得られやすいステントの形態を考えてみたい。
略 歴
関 健次(せき けんじ)
昭和37年 東京生まれ
昭和63年 昭和大学歯学部卒業
平成4年 昭和大学大学院歯学研究科修了
平成4年 昭和大学歯学部歯科放射線学教室助手
平成5年 昭和大学歯学部歯科放射線学教室講師
− 45 −
− 46 −
シンポジウムⅡ
5月13日
(金)
10:40−12:20 朱鷺メッセマリンホール
「悪性腫瘍の画像診断」
口腔外科関連モデレータ :藤内 祝(名古屋大学医学部)
歯科放射線関連モデレータ:有地榮一郎(愛知学院大学歯学部)
− 47 −
− 48 −
シンポジウムⅡ
悪性腫瘍の画像診断
口腔外科関連モデレータ :藤内 祝
名古屋大学医学部細胞治療学講座
歯科放射線関連モデレータ:有地榮一郎
愛知学院大学歯学部歯科放射線学講座
歯科放射線学会も NPO 法人となり,今後のあり方を示す重要な学会で,本シンポジウムが企画さ
れたことは大変意義のあることと思います.悪性腫瘍の治療自体は集学的なものであり,多くの専門
家の力が集約される場所です.その中で画像はあらゆる局面で治療に大きな役割を果たします.今回
は口腔癌を中心とした悪性腫瘍の治療に画像を活用され,
その成果を研究として発表されている口腔
外科と歯科放射線の 4 名の先生にシンポジストをお願いしました.画像のモダリティとしても MR,
超音波,PET, Angiography と多様でたのしみです.副題は「Imaging changes the treatment」と
いたしました.
個々の症例において画像診断によって手術法や照射の方法が変更されるのは日常的に
経験することです.ここにすこし焦点を当てることによって,各画像の適用法がより鮮明にできるの
ではないかと思います.
さらに進むと画像診断の進歩が治療法自体を変えてしまう可能性もあると思
われます.
シンポジストの皆さんには,
それぞれのモダリティが治療をどのように変えてきているか,
あるいは将来的にどのように変えていくのかに言及していただくことにいたしました.
略 歴
藤内 祝(とうない いわい)
1977年 城西歯科大学(現:明海大学歯学部)卒業
名古屋大学医学部口腔外科学講座 入局
1981年 国立中部病院 歯科
1984年 名古屋大学医学部口腔外科 助手
1986年 同 講師
1999年 Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (New York: USA) 研修
名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器外科学講座 顎顔面外科 助教授
2000年 Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (New York: USA) 研修
2004年 名古屋大学医学部 細胞治療学 教授
現在に至る
研究領域:口腔癌の基礎と臨床(化学療法、ハイパーサーミア、遺伝子治療、疫学)
有地榮一郎(ありぢ えいいちろう)
1981年3月 九州大学歯学部卒業
1981年4月 九州大学歯学部附属病院助手(歯科放射線科)
1983年4月 長崎大学歯学部助手(歯科放射線学講座)
1984年4月 九州大学歯学部助手(歯科放射線学講座)
1993年4月 長崎大学歯学部附属病院講師(歯科放射線科)
1995年12月 愛知学院大学歯学部教授(歯科放射線学講座)
− 49 −
シンポジウムⅡー1
悪性腫瘍診断における MR イメージングの最近の進歩
中村 卓
長崎大学大学院頭頸部放射線学分野
Modern MR Imaging Technologies in the Diagnosis of Head and Neck Cancers
Takashi Nakamura
Department of Radiology and Cancer Biology, Nagasaki University
当科に MR が導入されて以来、頭頸部各種疾患の診断において以前 CT が担っていた比重がずいぶ
んと軽くなってきているのに気づいて、少なからずおどろいている。週に 1 回開催している当科での
フィルムカンファレンスに出てくる症例をみればそれはすぐに分かる。
もう少し範囲を限定していえ
ば、頭頸部癌の診断では MR と US さえあればあとは何もいらない、といえるくらいになっているの
ではないだろうか。骨?骨の変化であってもMRではある程度の評価をすることができる。例えば骨
の皮膜化や骨髄内への腫瘍の侵潤、未熟な骨・軟骨の形成などは MR が優れている点もあるようだ。
むしろ CT はその検査スピードを生かした診断法に限定していいのかも知れない。この発表では MR
導入以来試行錯誤してやってきた当科のMR診断システム、特に口腔癌を含めた頭頸部癌のリンパ節
転移の診断法に焦点を絞り、御紹介していきたい。内容の概略は以下のとおりである。
A.頸部リンパ節転移のサーベイ: Turbo STIR法と通常の頭頸部コイルとを併用することによ
り、速やかで、sensitivityの高い頸部転移リンパ節のサーベイ法を確立することができた。
B.転移リンパ節のMRマイクロスコピー: SENSE法とマイクロスコピーコイルを併用すること
で、転移が疑われる頸部リンパ節の高解像度診断が行える。
C.拡散強調イメージングによるリンパ節疾患の鑑別診断: 拡散強調イメージングを応用してADC
マップを作成してやることで頸部リンパ節病理の鑑別診断をかなりの高精度で行うことができ
る。
D.volumetric MRイメージング: 原発巣の部位とその容積がリンパ節転移の出現と密接にかか
わっていることがわかった。
上記の解析により得られた結果から判断してMRイメージングはスクリーニングからはじまって転
移リンパ節の精査、術後のフォローアップとすべてのステップでの診断に有用であると考えている。
略 歴
中村 卓(なかむら たかし)
1980年 九州大学歯学部卒業
1984年 九州大学院歯学研究科修了 博士(歯学)
1984年 九州大学歯学部 助手
1985年 長崎大学歯学部 助手
1986年 九州大学歯学部 助手
1988年∼1990年 Harvard University Medical School Dana-Farber Cancer Institute研究員
1990年 九州大学歯学部附属病院 講師
1991年∼1992年 Harvard University Medical School Dana-Farber Cancer Institute研究員
1992年∼ 長崎大学大学院 教授
2003年 学長補佐
2005年 副学長
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シンポジウムⅡー2
口腔癌の診断において超音波が寄与する役割について
筑井 徹
九州大学大学院歯学研究院口腔画像情報科学教室
The Information Obtained by the Ultrasonogaraphy for the Diagnosis of the Oral Cancer
Toru Chikui
Department of Oral and Maxillofacial Radiology, Graduate School of Dental Science, Kyushu University
当科では、口腔癌症例に関し、超音波を(1)舌原発巣の評価(2)リンパ節の評価(3)軟組織再
建時の血管の確認に用いている。
以上の項目に対し、
当科にて行っている超音波診断の現状を述べる。
(1)舌原発巣の評価
初診時に、超音波検査により、舌原発巣の深達度、辺縁形態、境界などを評価している。画像上、
境界不明瞭な病変や鋭利な辺縁をもつ病変は、浸潤形式が不良である可能性が高く、再発および転移
率が高い傾向がみられた。
生検では、摘出された一部の標本から組織学的悪性度を評価するのに対し、
舌の超音波は、深達度、腫瘍全体の形態を評価できる利点があり、治療法、予後に関する有用な情報
を与えると考えられる。
組織内照射後の治癒過程の観察では、
直後に腫瘍部分の内部エコーが増加し、
辺縁が不明瞭化した。
また、一時的に血流がふえるものの、6ヶ月頃までに血流が減少する事が解った。経過観察期間中で
の辺縁の明瞭化、血流の増加は、再発の可能性を示唆する所見であった。超音波像は、視診、触診を
補う情報を与えると考えられる。
(2)リンパ節の評価
リンパ節の評価に対しては、B-mode では、リンパ門の消失、内部エコーの増加は、転移を示唆す
る所見である。ドップラ法により得られるリンパ門から広がる樹枝状の血流は非転移を示唆し、無信
号や辺縁型の血流は転移を示唆する所見であると一般にいわれている。我々は、動物を使った基礎的
な実験より、転移過程において、リンパ節内の血流は一過性に増大し、そののち血流欠損部位が生じ、
最終的には全体的に血流が検出されなくなるという過程を取ることを明らかにした。しかしながら、
実際の臨床の場では、リンパ節内の血流信号が微弱であることより、B-mode の補完的な情報をもた
らすものの、評価者の observer performance を著しく改善するものではなかった。
術前放射線治療後の評価では、正常リンパ組織では描出される血流信号が、照射前に比べ増強され
るものの、壊死した腫瘍塊部では、血流信号の増強を認めず、転移、非転移の鑑別が、照射前の画像
より容易であった。十分なドップラ信号が得られるような状況では、ドップラ法は B-mode に対し付
加的な意義を持つようである。
(3)
軟組織再建時の血管の確認
腹直筋皮弁、前腕皮弁などによる再建を行う際、血管走行の mapping を行っている。その様子を
示す予定である。
略 歴
筑井 徹(ちくい とおる)
平成7年3月 九州大学歯学部歯学科卒業
平成7年6月 九州大学歯学部附属病院研修医採用(歯科放射線科)
平成9年3月 九州大学歯学部附属病院研修医退職 平成9年4月 長崎大学歯学部付属病院助手採用(歯科放射線科)
平成11年3月 長崎大学歯学部付属病院助手退職
平成11年4月 九州大学歯学部助手採用(歯科放射線科)
平成15年4月 九州大学歯学部附属病院講師昇任(口腔画像診断科)
現在に至るまで歯科・口腔顎顔面領域の画像診断医療に従事している。
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シンポジウムⅡー3
口腔癌における放射線併用動注化学療法の PET による評価
北川善政 北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座口腔診断内科学教室
FDG-PET to Evaluate Response to Intraarterial Chemoradiotherapy in Oral Squamous Cell Carcinoma
Yoshimasa Kitagawa
Oral Diagnosis and Medicine, Department of Oral Pathobiological Science, Graduate School of Dental Medicine, Hokkaido University
フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いるPET検査の健康保健適応が認められ約3年が経過し、
FDG-PET検査が飛躍的に全国に普及しつつある。私が在籍していた福井医科大学では1994年に高エ
ネルギー医学研究センターの設立と同時にPET検査が導入され、口腔悪性腫瘍のPET研究を行って
きた。PETを用いることにより、癌の検出のみならず従来の形態診断では得られない癌の増殖や代謝
を反映した情報が得られることから、癌診療面においても貢献する潜在能力は極めて大きいと考えら
れる。
口腔癌の治療においては生存率の向上のみならず口腔機能や審美性の温存も重要な課題である。
近
年、外科的侵襲を軽減するため、術前に Neoadjuvant therapy として放射線化学療法が行われ、そ
の有用性が報告されている。しかし、縮小手術で機能を温存するためには正確な治療効果判定、残存
腫瘍の有無の評価が非常に重要である。従来、癌の治療効果判定は形態的手段により、腫瘍容積の減
少を指標に行われているが、放射線化学療法後の腫瘍活性能の変化を診断することは困難であった。
一方、PETは代謝活性(viability)を表わしているので、癌の治療効果を直接評価できると考えられる。
また、腫瘍の糖代謝、すなわち FDG の集積程度を standardized uptake value (SUV)を用いて定量
化することによって、より客観的評価が可能になる。
われわれは器官と機能温存を目指した口腔癌治療におけるFDG-PETの有用性について検討してき
た。口腔癌患者の治療前および放射線併用動注化学療法後に FDG PETを撮影、組織のグルコース代
謝を定量的に評価した。今回は、1)原発巣とリンパ節転移の検出、2)良性悪性の鑑別、3)治療
のモニタリング、4)治療効果の予測、5)治療後、癌細胞の残存の有無の予測、6)PET 検査結果
に基づいた縮小手術、7)全身 PET の有用性などについて述べる。さらに、生検材料を用いて 1)免
疫組織化学的手法で腫瘍細胞の増殖能の指標として PCNA、MIB-1(Ki-67)活性、2)増殖能に関連
する蛋白を特異的に染色する AgNORs 染色、3)CD34 染色で血管新生 angiogenesis、4)腫瘍の細
胞密度などの測定を行い、PET との関連も検討した。
略 歴
北川善政(きたがわ よしまさ) 昭和33年 滋賀県生まれ
昭和58年3月 東京医科歯科大学歯学部卒業
4月 東京医科歯科大学歯学部専攻生入学(第1口腔外科学講座)
昭和59年4月 東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程入学
昭和63年3月 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了(第1口腔外科) 4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院医員
10月 伊豆赤十字病院歯科口腔外科勤務 平成元年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院医員(第1口腔外科)
平成2年1月 浜松医科大学医学部附属病院歯科口腔外科医員
平成2年5月 浜松医科大学医学部附属病院歯科口腔外科助手
平成5年4月 福井医科大学医学部附属病院歯科口腔外科講師
平成13年5月 米国ミシガン大学口腔顎顔面外科出張(平成14年3月まで)
平成16年7月 北海道大学大学院歯学研究科口腔診断内科(旧第1口腔外科)教授
日本口腔外科学会 専門医、指導医
日本顎関節学会 認定医、指導医
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シンポジウムⅡー4
口腔癌の超選択的動注化学療法における血管造影撮影の役割につ
いて
光藤健司 1)、藤内 祝 2)、上田 実 1)
1)
名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器外科学講座顎顔面外科
2)
名古屋大学医学部細胞治療学講座
The role of Angiography in Superselective Intra-arterial Chemotherapy for oral Cancer Patients
Kenji Mitsudo1) , Iwai Tohnai2) , Minoru Ueda1)
1)
Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Nagoya University graduate School of Medicine
2)
Department of Cell Therapy, Nagoya University School of Medicine
近年頭頸部癌に対して超選択的動注化学療法の報告は多いが、
中でも浅側頭動脈からの超選択的動
注法は放射線療法との連日の同時併用が可能となった。
われわれはこの方法を口腔癌の治療体系に組
み入れており、治療効果について検討してきた。口腔癌患者に対して超選択的動注化学療法を施行す
る場合、外頸動脈の血管造影撮影は必須である。これにより外頸動脈本管の形態(蛇行、狭窄)
、目
的とする動脈の分岐部の血管の形態(太さ、屈曲)
、解剖学的奇形(動脈の位置異常、外頸動脈分枝
の共通管)など多くの情報が得られる。今回われわれは浅側頭動脈から超選択的動注管設置術を行う
にあたって、
外頸動脈の血管造影の役割を検討するとともに超選択的動注法と放射線療法との連日の
同時併用の効果について代表症例を提示して報告する。
超選択的動注化学療法を行うすべての口腔癌患者に対して血管造影撮影を行い、
外頚動脈分枝の共
通管、共通管の長さ、外頚動脈本管の蛇行、狭窄について検索した。その結果、顔面動脈と舌動脈の
共通管が 24.6%、舌動脈と上甲状腺動脈の共通管が 1.4% に認められた。また、外頚動脈本管の過度の
蛇行(5.8%)
、狭窄(7.2%)が認められた。
、CDDP 5mg/m2 をday1 超選択的動注化学療法はDOC 15mg/m2 をday1, 8, 15, 22(total 60mg/m2)
、放射線治療は 1 回 2Gy、週 5 日法とし化学療法との同時併用
5, 8-12, 15-19, 22-26(total 100mg/ m2)
を行った。この治療を 4 週間施行し、原発巣に腫瘍残存と診断したときには 3 から 4 週後に根治術を
施行した。一方、画像診断などにより原発を CR と診断した際には超選択的動注化学放射線療法を続
行した。ただし、頸部リンパ節転移症例については頸部郭清手術のみ行い、原発は温存した。さらに、
高度進展口腔癌に対し超選択的動注化学療法を用いた術前治療を行うことによって切除不能な症例の
stage down して切除可能にすること、また切除可能な症例でも広範囲切除による術後の機能障害の
ため縮小手術または手術を回避することが可能となった。
略 歴
光藤健司(みつどう けんじ)
1989年3月 北海道大学歯学部卒業
1989年7月 名古屋大学医学部附属病院医員
1991年2月 名古屋第一赤十字病院麻酔科医員
1992年2月 名古屋大学医学部附属病院医員
1995年4月 小牧市民病院歯科口腔外科
1995年11月 学位(医学博士)
1998年7月 名古屋大学医学部附属病院助手
1999年4月 名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器外科学講座助手
2001年4月 The University of Texas MD Anderson Cancer Center,
Department of Head and Neck Surgery(2年間留学)
2003年4月 名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器外科学講座助手
2003年7月 名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部感覚器外科学講座講師
現在に至る
− 53 −
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シンポジウムⅢ
5 月 13 日(金)15:20-17:00 朱鷺メッセマリンホール
「顎顔面の三次元画像」
歯科矯正関連モデレータ :北井則行(朝日大学歯学部)
歯科放射線関連モデレータ:勝又明敏(朝日大学歯学部)
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シンポジウムⅢ
顎顔面の三次元画像
歯科矯正関連モデレータ :北井則行
朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座歯科矯正学分野
歯科放射線関連モデレータ:勝又明敏
朝日大学歯学部口腔病態医療学講座歯科放射線学分野
画像検査機器の長足の進歩は、生体内部の複雑な構造を三次元的に観察することを可能とした。本
シンポジウムでは、顎顔面領域における三次元画像の研究および臨床応用をテーマとして、歯科矯正
と歯科放射線分野の研究者に発表をお願いした。
不正咬合および顎変形症に代表される位置や形態の
異常を主徴とする疾患の三次元画像には、
単に病変を観察するだけでなく形態解析や各種計測のツー
ルとしての役割も求められている。そこで、二次元の投影画像である従来のX線写真では解析困難で
あった顎顔面領域の複雑な解剖構造を、MRI や CT 画像を活用してどのように調べるのかについて、
歯科矯正領域の井口善隆先生および山田千秋先生にお話し頂く。続いて、顎変形症の臨床における三
次元画像の有用性について歯科放射線の立場より田中 礼先生にお話し頂く。
三次元画像は有用であるが、その反面、生体を画像化する事に関連した解決すべき課題も数多く内
包している。CT 撮影における被曝の問題はその代表であろう。そこで、歯科放射線領域の森田康彦
先生に、三次元画像が持つ負の側面を含めてお話し頂く。
略 歴
北井則行(きたい のりゆき) 1986年3月 大阪大学歯学部卒業
1994年10月 大阪大学歯学部歯科矯正学講座 助手
1998年10月∼2000年9月 文部省長期在外研究員(コペンハーゲン大学)
2001年12月 大阪大学歯学部附属病院矯正科 講師
2004年2月 大阪大学大学院歯学研究科 口腔分化発育情報学講座
顎顔面口腔矯正学教室 助教授
2004年7月 朝日大学歯学部 口腔構造機能発育学講座 歯科矯正学分野 教授
勝又明敏(かつまた あきとし)
職 歴:
1987年 朝日大学歯学部卒業
1987年 朝日大学歯学部歯科放射線学講座 助手 1996年 朝日大学歯学部歯科放射線学講座 講師 1998年 朝日大学歯科放射線学講座 助教授
現在に至る
その他:
1.愛知学院大学歯学部 非常勤講師
2.1995年,1997年の2度にわたり,テキサス大学サンアントニオ校に留学
3.日本歯科放射線学会認定医/指導医
主な研究分野:
1.3次元画像の臨床研究応用
2.顎顔面領域疾患の画像診断
3.摂食嚥下障害の診断
− 57 −
シンポジウムⅢ−1
MRI を用いた蝶後頭軟骨結合の解析について
井口善隆
大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室
Morphological Analysis of Spheno-occipital Synchondrosis with MRI
Yoshitaka Iguchi
Department of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics, Graduate school of Dentistry, Osaka
University
頭蓋底の形態と下顎骨の前後方向の位置とは関連することが知られており、古くから頭蓋底の形態
学的、組織学的および放射線学的研究がなされてきた。青年期前における後頭蓋底の成長は、主に蝶
後頭軟骨結合(Spheno-occipital synchondrosis、以下、SOS と記す)で生じ、SOS の傾斜は後頭蓋
SOSの三次元的形態を調べることは重要であ
底の成長方向に影響を与える因子のひとつであるため、
る。また、後頭蓋底の成長と顎関節部の位置との関連を考察するために、SOS の傾斜と顎関節部の位
置との関係を調べることも重要である。
われわれは、先天異常あるいは上下顎関係の不調和のいずれも有しない児童とHemifacial microsomia(以下、HFM と記す)を有する患者を被検者とした。HFM は形成異常により顔の著しい非対称
を認める疾患である。これらの被検者の MRI 撮像を行い、SOS と顎関節部について、以下の研究を
行った。
1. 先天異常あるいは上下顎関係の不調和のいずれも有しない児童とHFMを有する患者で、SOS
の傾斜に差があるか否か。
2. HFM を有する患者の SOS の傾斜に、非対称を認めるか否か。
3. HFM を有する患者について、SOS の傾斜と顎関節部の位置との間に関連を認めるか否か。
SOS の傾斜について、先天異常あるいは上下顎関係の不調和のいずれも有しない児童とHFMを有
する患者との間で、有意の差を認めなかった。また、いずれの群においても、正中と正中から左右に
ある平面上において、SOS の傾斜に非対称を認めず、HFM を有する患者の正中部の組織は、形成異
常の影響を受けておらず、SOS が計測の基準となりえることが示唆された。
HFMを有する患者について、SOSの傾斜とunaffected sideの顎関節部の位置との間に関連を認めた。
略 歴
井口善隆(いぐち よしたか)
平成11年3月 大阪大学歯学部 卒業
平成16年3月 大阪阪大学大学院歯学研究科 修了
平成16年4月 大阪大学歯学部附属病院 医員(現在に至る)
平成16年12月 日本矯正歯科学会 認定医
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シンポジウムⅢ−2
CT を用いた歯根尖の位置の解析について
山田千秋
大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室
Three-dimensional Evaluation of the Mandibular Incisor Root Apex Using High-resolution CT
Chiaki Yamada
Department of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics, Graduate School of Dentistry, Osaka
University
骨格性下顎前突症は、上顔面に対して下顎骨が前方位をとる骨格的不調和であり、下顎切歯は舌側
へ傾斜しているものが多いことが知られている。骨格性下顎前突の治療には、骨格的不調和を改善す
る目的で行われる外科的矯正歯科治療と、
適切な上下の大臼歯および切歯の対咬関係を得るために矯
正歯科治療のみを行うカムフラージュ治療とがある。
手術によって下顎骨を後方へ移動する場合には、
より良好な顔貌を術後に獲得するために、
舌側傾斜した下顎切歯を術前矯正歯科治療で唇側へ傾斜移
動させる必要がある。一方、カムフラージュ治療では、上下顎骨の骨格的不調和を補償するために、
舌側に傾斜した下顎切歯をさらに舌側へ傾斜移動させる必要がある。すなわち、カムフラージュ治療
を選択する場合には、
下顎切歯を舌側へ傾斜させることで適正なオーバージェットを獲得することが
必要である。
ところで、骨格性下顎前突症では下顎結合部の歯槽骨は唇舌的に薄いことが多く、歯槽骨内で下顎
切歯を唇舌方向へ傾斜移動できる距離は小さいと考えられる。
矯正力を用いて切歯の傾斜角度を変化
させる際に歯根が皮質骨に接すると、歯の移動速度は減少し、さらに強い矯正力を加えると、歯根吸
収が引き起こされたり、歯根尖が歯槽骨を穿孔したりすることが知られている。そのため、切歯の唇
舌方向への移動を効率良くかつ安全に行うためには、切歯の傾斜角度、同部歯槽骨の傾斜角度および
海綿骨内での歯根の位置を正確に記録し、評価することが重要である。
我々は、骨格性下顎前突を呈する成人について、CT 画像を用いて下顎中切歯の唇舌的傾斜角度、
同部歯槽骨の唇舌的傾斜角度および海綿骨の唇舌的厚さを記録し、評価した。この結果は、骨格性下
顎前突症の下顎中切歯の位置と歯槽骨形態との関係を考慮に入れた治療計画を立案する上で重要な知
見を与えることができると考えられる。
略 歴
山田千秋(やまだ ちあき)
平成11年3月 鹿児島大学歯学部歯学科卒業
平成11年4月 大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室入局
平成11年6月∼平成12年3月 大阪大学歯学部付属病院研修医
平成12年4月 大阪大学大学院歯学研究科博士課程入学
平成16年3月 大阪大学大学院歯学研究科博士課程終了
平成16年4月 大阪大学歯学部附属病院医員として勤務
− 59 −
シンポジウムⅢ−3
顎変形症に対するボリュームデータの臨床応用
田中 礼
新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面放射線学分野
Clinical Application of Volumetric Data to Jaw Deformity
Ray Tanaka
Division of Oral and Maxillofacial Radiology, Niigata University Graduate School of Medical and
Dental Sciences
顎変形症に対する画像診断法としては、セファロなどの単純エックス線撮影が一般的である。これ
に加えて、当施設では以前より術前診査として CT 検査を施行してきた。1984 年に初代の CT が導入
されて以来しばらくは骨表示のみの断面画像を提供してきたが、非復位性の顎関節円板転位がCTで
も評価可能との見解に基づき、
1994年頃から軟組織表示を追加して円板転位についても診断対象とす
るようになり、顎変形症と関節円板転位との関係について検討し得るようになった。その後 1997 年
にシングルヘリカル CT が導入され、得られたボリュームデータを元に、それまでの硬・軟組織の断
面画像に加えて、顔面の三次元画像と顎関節の MPR 画像を提供し、顎骨の水平的な偏位の有無、垂
直的な上下顎の位置関係、顎関節の骨変化や関節円板の転位の有無、上下顎骨形態の個々の特徴、下
顎管の走行位置などについても診断している。現在、当施設では、外科的矯正治療の適応と診断され
た骨格性顎変形症症例のほとんどに対して、術前矯正治療前あるいは顎矯正手術前のCT検査を施行
しており(年間 100 症例程度)
、セファロ分析に基づく歯科矯正学的な診断とは異なる観点から画像
診断を行い、情報を提供している。
今回のシンポジウムでは、このように日常診療で得られたボリュームデータの活用法について、患
者さんの治療に直接関わる臨床的な側面はもとより、
必ずしも個々の患者さんに直接還元はしないも
のの顎変形症の成立機転を明らかにするための研究的な側面、さらにPBL(problem-based learning)
におけるケース資料としての活用といった、学生や研修医などに対する教育的な側面に大別して、諸
先生にご批評いただきたく拙い経験を紹介したい。特に、私が用いている三次元計測法の有用性と問
題点を中心に、これまでの研究の経過報告を述べさせていただく予定である。加えて、ボリューム
データの応用のひとつの方向性として、光造形モデルについてもふれたい。もうすでに多くの施設で
採用され、顎骨の複雑な形状の把握や手術シミュレーションなどに用いられており、定型の顎矯正手
術が適応されない症例や顎骨の再建症例などに応用されうる手法である。
これについても私どもの経
験をご紹介し、その有用性について考察したい。
略 歴
田中 礼(たなか れい)
1998年3月 新潟大学歯学部歯学科卒業
1998年5月 新潟大学付属病院研修医(口腔外科学)
2000年8月 新潟大学医歯学総合病院 助手(画像診断・診療室)
現在に至る
− 60 −
シンポジウムⅢ−4
CT 3次元画像の光と影 −画像工学と医療−
森田康彦
鶴見大学歯学部歯科放射線学講座
Light and Shade of 3D Imaging Using CT - Between the Medical Image Engineering and Medical
Treatment Yasuhiko Morita
Department of Oral Radiology, Tsurumi University
電離放射線被曝を伴う CT3 次元では、患者への“正味の利益”と“損失”の存在は、光と影のよ
うに寄り添うものである。演者は CT3 次元ソフトウェアーの開発を通して、1)各種のアルゴリズ
ムは既に出尽くした感がある一方で、その理解がなされず、Tips がもてはやされていること。2)高
速 MRP や動画といった本来情報落ちのない手法が一見簡単なアルゴリズムであるので、軽視されて
いること。3)Volume Rendering が Surface Rendering よりもすぐれた方法であると勘違いされ
ており、また描出能が過大評価されていること。に懸念を抱いている。また電離放射線被曝量がいわ
ゆる 3 次元画像を必要としない場合にくらべ増大する一方、真の意味で患者の利益にならず、作成者
の自己満足に終わっている側面は否定できない。既に技術的に確立した手法の“研究”のためにいた
ずらに複雑な3次元画像作成を競うべきではなく、動画、MPR のような本質的な被曝増大の無い3
次元認知法を今後、使用するべきであると考えている。この点で画像工学者に正しく、良心的に医療
の方向を示す義務が診断医にはあるのではないかと考えている。
一方Computer Assisted Surgery
などの明らかに患者にメリットのある3次元画像については、
逆に被曝をどの程度まで上げても良い
かの議論もあって良いはずである。このような点について画像診断歯科医であり、プログラム作成者
であり、CT 被曝に興味を持つ研究者として問題を提起したい。
佐々木武仁東京医科歯科大学名誉教授のご助言、ご示唆に感謝いたします。
略 歴
森田康彦(もりた やすひこ) 昭和34年12月25日生まれ
昭和60年 鹿児島大学歯学部卒業
昭和60年∼平成12年 鹿児島大学助手
平成5年 博士(歯学)鹿児島大学 歯論 19号
平成7年度文部省在外研究員 ドイツ、エルランゲン大学医学部
平成11年度文部省内地研究員 東京医科歯科大学歯学部 平成12年∼平成14年 鹿児島大学歯学部附属病院講師
平成14年∼現在 鶴見大学歯学部講師
平成15年∼現在 徳島大学講師(非常勤) 平成16年∼現在 東京医科歯科大学講師(非常勤) − 61 −
− 62 −
シンポジウムⅣ
5 月 14 日(土)9:00-10:40 朱鷺メッセマリンホール
「頭頸部癌診断のモレキュラーバイオロジー」
口腔病理関連モデレータ :高田 隆(広島大学大学院)
歯科放射線関連モデレータ:中村 卓(長崎大学大学院)
− 63 −
− 64 −
シンポジウムⅣ
頭頸部癌診断のモレキュラーバイオロジー
口腔病理関連モデレータ :高田 隆
広島大学大学院医歯薬学総合研究科
創生医科学専攻先進医療開発科学講座
口腔顎顔面病理病態学研究室
歯科放射線関連モデレータ:中村 卓
長崎大学大学院頭頸部放射線学分野
モレキュラーバイオロジーが「ゲノミクス」から「プロテオミクス」へ、さらに最近では RNA の
果たす役割が見直されている今日、画像診断も従来の単なる「存在診断」重視から「質的、機能的診
断」へと脱皮をはからなければならない時代が来ている。
しかしながら、放射線特に診断の分野では
A
A
A
これまでどちらかといえば「機械偏重」のきらいがあり、モレキュラーレベルでの活発な研究活動を
見て見ぬふりをしてきたように思われる。
もちろんモレキュラーバイオロジーのコンセプトを画像診
断の分野に取り入れようにもあまりにも難題でとても手がつけられないと半ばあきらめてしまってい
たのも事実である。
このセッションでは将来きっとおとずれるであろうモレキュラーレベルでの画像
診断を見すえ、病理と放射線診断の分野で頭頸部領域の癌の研究にたずさわってこられた4名の先生
方に御研究の成果を発表いただき、その中から将来への展望をこころみると共に、新しい頭頸部癌診
断の「プラットホーム」をみつけだしていきたいと思う。
略 歴
高田 隆(たかた たかし)
1982年 広島大学大学院修了(歯学博士)
1982年 広島大学歯学部助手(口腔病理学講座)
1984年 広島大学歯学部附属病院講師(臨床検査室)
1985年∼1986年 ハンブルク大学客員研究員(Seifert, Donath教授と共同研究)
1993年 広島大学歯学部助教授(口腔病理学講座)
1995年∼1996年 ミシガン大学客員研究員(Somerman, Wang教授と共同研究)
2001年 広島大学歯学部教授(顎口腔医療学講座)
2002年 広島大学大学院教授(先進医療開発科学講座)
学会活動:国際口腔病理学会
(アジア代表理事)
,日本口腔病理学会
(理事)
,日本歯周病学会
(理事)
.日本病理学会
(評
議員,診断コンサルタント)
,硬組織生物学会
(理事)
,歯科基礎医学会
(評議員)
,国際歯科研究学会
(JDR編集委
員)など
Editorial Board:J Oral Pathol Med (associate editor), Arch Oral Biol, Pathol Int, Oral Med Pathol *Reviewer: Oncogene, Bone, Pathol Res Practなど18国際誌
受 賞:歯科基礎医学会ライオン学術賞,日本唾液腺学会奨励賞
資 格:死体解剖資格,日本病理学会認定口腔病理専門医,歯科医師免許
中村 卓(なかむら たかし)
1980年 九州大学歯学部卒業
1984年 九州大学院歯学研究科修了 博士(歯学)
1984年 九州大学歯学部 助手
1985年 長崎大学歯学部 助手
1986年 九州大学歯学部 助手
1988年∼1990年 Harvard University Medical School
Dana-Farber Cancer Institute研究員
1990年 九州大学歯学部附属病院 講師
1991年∼1992年 Harvard University Medical School
Dana-Farber Cancer Institute研究員
1992年∼ 長崎大学大学院 教授
2003年 学長補佐
2005年 副学長
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シンポジウムⅣ−1
放射線被曝検出マーカー:胸腺系アポトーシス誘導時に分断化す
る低分子量G蛋白制御因子 LyGDI の放射線生物学的利用
達家雅明
広島大学原爆放射線医科学研究所
Caspases-induced Cleaved LyGDI Products as Biological Markers of Mammalian Cells for Exposure
to Ionizing Radiation
Masaaki Tatsuka
Research Institute for Radiation Biology and Medicine
LyGDI(GDI-D4、RhoGDI2、RhoGDI βとも呼ばれる)は、細胞内シグナル伝達因子として細胞の
増殖や運動ならびに形態形成などに深く関与する低分子量G蛋白質Rhoファミリー蛋白群の制御因子
であり(1)
、胸腺系細胞を含めた血球細胞に特に高く発現している。
電離放射線に対して、胸腺系の細胞は極めて高いアポトーシス感受性を示すことは、よく知られて
いる。培養胸腺系細胞では、アポトーシスの過程でLyGDIは3型カスペースにより分断化されて、21kDa の分断化産物(ヒトではN末から 19 個、マウスでは 18 個のアノミ酸欠失型)が生じる(2)
。非照
射の細胞では、LyGDI は Rho ファミリーの活性制御のために細胞質/細胞膜間をシャトリングして
いると考えられているが(1)
、アポトーシス誘導により、21-kDa の分断化 LyGDI は、胸腺細胞の細胞
質/アポトーシス核に局在し、Rho や Rac などとの親和性を欠く(2)
。このことは、21-kDa の分断化
LyGDI が、別の標的因子と共にアポトーシス核内での何らかの制御にかかわっていることを示唆す
る。
一方、マウス個体に電離放射線を全身照射させた場合にも、胸腺系細胞において、分断化LyGDIは
出現する。培養細胞レベルでの観察とは異なり、個体レベルでは、3型カスペースによる分断化産物
に加えて、1型カスペースによる分断化された 17-kDa の産物(ヒトではN末から 55 個、マウスでは
54個のアノミ酸欠失型)が観察される。これらの分断化産物の生成は動物個体間に差が無く、線量依
存的な分断化産物の出現パターンとなる。その検出感度は、通常の放射線健康診断における血液像検
査と比較して極めて鋭敏であり、有用な被曝のための生物学的な指標になると考えられる。
【文献】
1.Ota, T., Maeda, M., Suto, S., and Tatsuka, M. LyGDI functions in cancer metastasis by anchor ing Rho proteins to the cell membrane. Mol Carcinog, 39: 206-220, 2004.
2.Zhou, X., Suto, S., Ota, T., and Tatsuka, M. Nuclear translocation of cleaved LyGDI dissociated
from Rho and Rac during Trp53-dependent ionizing radiation-induced apoptosis of thymus
cells in vitro. Radiat Res, 162: 287-295, 2004.
謝辞:本研究は、中国蘇州大学放射線生物部の周新文博士、金沢医科大学総合医学研究所の太田隆英
博士、広島大学歯学部の佐藤淳博士の協力を得た。また、技能補佐員の数藤志帆さんの多大なる協力
に感謝する。
略 歴
達家雅明(たつか まさあき)
昭和31年8月25日 大阪生まれ
平成元年3月 大阪大学大学院医学研究科発がん遺伝子学専攻修了
平成元年4月 京都薬科大学生命薬学研究所助手
平成4年5月 テキサス大学ガルベストン医学校シリー分子科学研究センター客員研究員
平成5年9月 オークリッジ国立研究所生物部客員研究員
平成9年6月 広島大学原爆放射線医科学研究所助教授
現在に至る
− 66 −
シンポジウムⅣ−2
唾液腺腫瘍における血管造影特性とその分子病理学的背景
朔 敬
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 口腔病理学分野
Molecular Pathological Background for Reading Images of Salivary Gland Tumors
Takashi Saku
Division of Oral Pathology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences
唾液腺腫瘍は組織型が多種にわたることが特徴で、WHO分類第二版においては30種前後の診断名
が採用されている。さらに各腫瘍の実質細胞および間質表現はきわめて多彩であり、それらの鑑別も
必ずしも容易ではない。したがって、唾液腺腫瘍の病理診断には広い経験が要求されてきた。
困難な唾液腺腫瘍の病理診断をいかにだれの手にもとどくところに実現するかは、
長く口腔病理医
の命題であった。これに対するひとつの方途として、近年われわれは腫瘍内血管配置から腫瘍組織構
築をみなおすという視点を導入してきた。
この視点を臨床的に裏付けるのにもっとも有効な手段は画
像診断における造影性であることに気づいてきた。
同時に精密な造影性解析が可能になった画像診断
所見から病理組織像を推定するという思考回路も病理組織像の分析視点にきわめて有効であった。
以上の経緯で、われわれは本学歯科放射線科との共同研究を開始したが、今回は造影性格の対照的
な多形性腺腫と筋上皮腫あるいはワルチン腫瘍を中心にそれらの腫瘍の造影性を規定している病理組
織像とそれらの血管配置の分子機構について最近の知見を紹介したい。
多形性腺腫の造影性は緩徐に開始し、長時間にわたって持続する。これに対して、筋上皮腫は急速
に造影完了して、
短時間で消失する。
ワルチン腫瘍は筋上皮腫をさらに極端にした造影態度をしめす。
その理由は、多形性腺腫の間質には、硝子様、粘液様、軟骨様をとわず、血管がごく少数しか分布し
ていないのに対し、
筋上皮腫およびワルチン腫瘍では毛細血管を主体とした小血管がきわめて豊富に
配置されているからである。
腫瘍学総論では、血管の誘導を腫瘍の特質のひとつとして定義してきた。多形性腺腫はこの原則に
反する。なぜ血管が誘導されないのに同腫瘍細胞は増殖できるのか。われわれの仮説は、第一に多形
性腺腫組織内には血管新生が阻止する機構がある、
第二に乏血管性腫瘍組織内では低酸素状態が惹起
される、というものであった。第一については、コンドロモデュリン、ファイブロネクチン等の血管
新生阻害因子を腫瘍細胞が産生していることが証明され、第二については、HIF-1 αや LDH 等の低
酸素環境関連分子とその分子伝達の下流に位置するVEGF等の増殖因子の特定の遺伝子スプライス亞
型が発現していることが判明している。
略 歴
朔 敬(さく たかし) 1950年9月11日 福岡県生まれ 54歳 男
学 歴 1976年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1980年 鹿児島大学大学院医学研究科単位取得退学
1980年 医学博士
職 歴 1981年∼1990年 長崎大学歯学部助手(口腔病理学)
1985年∼1987年 エール大学医学部博士取得後研究員(病理学)
1990年∼1999年 新潟大学教授(歯学部口腔病理学)
2000年∼ 新潟大学大学院教授(医歯学総合研究科口腔病理学分野)
学会活動等 日本病理学会(評議員),日本口腔病理学会(常任理事),歯科基礎医学会(評議員)
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シンポジウムⅣ−3
口腔癌細胞のアポトーシスにおける核内蛋白ダイナミクス
森本泰宏
九州歯科大学口腔診断学講座画像診断学分野
Alternation of Nucleolin and AgNOR Proteins During Apoptosis in Oral Cancer Cells
Yasuhiro Morimoto
Division of Diagnostic Radiology, Department of Oral Diagnostic Science, Kyushu Dental College
私は、これ迄に放射線生物系の研究と画像診断系の両面から研究を進めてきました。生物系の研究
に関しては、この 10 年間の生物系の最大関心事項でありますアポトーシスについて、口腔に発生す
る悪性腫瘍細胞内で生じる蛋白変化を中心に研究を進めております。講演では、これ迄我々が進めて
参りました以下に示す一連の研究について掻い摘まんでお話させて頂く予定です。
我々は口腔癌の発生メカニズムの解明及び放射線治療感受性の評価を目的に掲げ、
ヒト口腔癌細胞
のアポトーシス機構について検討を重ねてきた。はじめに、ヒト舌扁平上皮癌細胞(SCC-25)及びヒ
ト唾液腺癌細胞(HSG)において蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤によりアポトーシスが誘導されること
を発見した。このオカダ酸誘導アポトーシスには蛋白合成と RNA 合成が一部関与していること及び
その蛋白の一つは Fas 抗原 / リガンドであることも報告した。
同アポトーシス系のシグナル伝達機構を調べる中で、
オカダ酸により誘導された口腔癌アポトーシ
ス細胞では、鍍銀染色に陽性反応を示す核小体形成帯(AgNORs)が消失すること、アポトーシス誘
導の際に、鍍銀染色に陽性反応を示す 110 kDa 核内蛋白が消失し、80 kDa の鍍銀染色に陽性反応
を示す蛋白が出現することを発見した。更に、cell-free system における解析の結果、110 kDa 蛋白
の変化はアポトーシスの実行機構であるDNA fragmentaionが惹起される時間と極めて連動性を示す
ものだった。この結果は両者の密接な関係がある可能性を推定するものである。抗ニュークレオリン
抗体を用いた Western blotting 法及び免疫組織化学の結果から 110 kDa 及び 80 kDa の蛋白は両者と
もニュークレオリンであることを証明した。
上記したオカダ酸誘発アポトーシス細胞におけるニュー
クレオリンの分解は、抗癌剤及び紫外線照射によっても惹起されることが確認され、アポトーシス細
胞における普遍的変化としてその指標となりうるものであると考える。
略 歴
森本泰宏(もりもと やすひろ)
平成3年 九州歯科大学卒業
平成7年 九州歯科大学大学院修了
平成7年 九州歯科大学・助手
平成10年 九州歯科大学・講師
平成15年 九州歯科大学・助教授
現在に至る
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シンポジウムⅣ−4
唾液腺腫瘍の MRI −良悪性腫瘍の鑑別診断を中心に−
阪本真弥
東北大学大学院歯学研究科 口腔診断学分野
MR Imaging of Salivary Gland Tumors: Differential Diagnosis Between Benign and Malignant
tumors
Maya Sakamoto
Department of Oral Diagnosis, Tohoku University Graduate School of Dentistry
濃度分解能の高い MRI は、唾液腺の良悪性腫瘍の鑑別に有用である。特に辺縁の不整、周囲組織
への浸潤、T2 強調像での低信号などは悪性腫瘍の特徴的所見といえる。しかし、低悪性度腫瘍はと
きに T2 強調像で中等度∼高信号を示し、良性腫瘍が必ずしも高信号を示すとは限らないため、通常
の T2 強調像による良悪性の鑑別診断には限界がある。そこで、良悪性の鑑別能を向上させると思わ
れる特殊撮像法の MR 所見を含め、良悪性の鑑別診断のポイントについてお話しする。
1.腫瘍辺縁の不整、周囲組織への浸潤 低悪性度腫瘍や悪性リンパ腫などは境界明瞭なことが多
く、良性腫瘍との鑑別が困難な場合も少なくない。境界明瞭な腫瘍が必ずしも良性とは限らないが、
境界不明瞭で周囲組織浸潤が見られる腫瘍は悪性を疑う。
2.Heavily T2 強調像 Heavily T2 強調像における唾液腺腫瘍の信号強度は、良悪性の鑑別に役
立つ。腫瘍実質が、低信号であれば悪性腫瘍かワルチン腫瘍の可能性が高く、高信号であれば多形性
腺腫を考える。また、生理食塩水を造影剤として用いる heavily T2 強調像は、腺管からの食塩水の
漏洩の有無を確認でき、導管癌の鑑別に有用である。
3.Dynamic MRI Dynamic MRI では、多形性腺腫は漸増型を示すものが多く、悪性腫瘍は急増
プラトー/急増漸減型を呈するものが多い。また、急増急減型を示す腫瘍はワルチン腫瘍のみであり、
dynamic MRI はワルチン腫瘍と他の腫瘍との鑑別に有用である。関心領域(ROI)は腫瘍実質に設定
することが重要であり、
特に早期像で増強効果の強い領域と弱い領域に複数のROIを設定することに
より、診断能が向上する。
4.脂肪抑制 T2 強調像 最近は T2 強調像に撮像時間の短い FSE 法が頻用されている。しかし、
FSE 法は SE 法と比べると脂肪が高信号を呈するため、唾液腺と腫瘍とのコントラストが低下する場
合が多い。このような時には脂肪抑制が有用であり、悪性リンパ腫や Epitherial-myoepitherial carcinoma などの描出に優れる。
【まとめ】補助診断として heavily T2 強調像と dynamic MRI 組み合わせることが、良悪性の鑑別診
断に有用であり、たとえ小さな所見であっても、確実性の高い所見の積み重ねが重要と思われる。
略 歴
阪本真弥(さかもと まや)
昭和57年3月 岩手医科大学歯学部卒業
昭和57年4月 東北大学歯学部 口腔診断・放射線学講座助手
平成元年6月 歯学博士(東北大学)
ヒト唾液腺導管樹立細胞によるSjögren症候群の血清診断 −抗唾液腺管抗体と抗核抗体−
平成11年5月 東北大学歯学部附属病院 口腔診断・放射線科講師
平成14年4月 東北大学大学院歯学研究科 口腔病態・外科学講座
口腔診断学分野医局長
所属学会:日本歯科放射線学会認定医、日本口腔診断学会指導医、日本歯科保存科学会認定医
専 門:口腔診断学、歯科放射線学、頭頸部の画像診断学
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− 70 −
シンポジウムⅤ
5 月 14 日(土)14:15-15:55 朱鷺メッセマリンホール
「歯科放射線からの発信」
歯科放射線関連モデレータ:小林 馨(鶴見大学歯学部)
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シンポジウムⅤ
歯科放射線からの発信
モデレータ:小林 馨
鶴見大学歯学部歯科放射線学講座
NPO 法人として、さらに発展しようとしている本学会にとって、歯科放射線が医療と社会に貢献
することが最も重要な役割であると思います。そのためには、会員の皆様が積極的に社会に向かった
活動を意図する必要があります。幸いに、歯科放射線学会にはそのための背景と土壌があります。パ
ノラマX線装置の開発と普及への貢献は、広く認められたことですし、近年の画像診断の進歩、ディ
ジタル画像の導入、歯科用 CT の開発など、歯科放射線から発信したものは多数あります。しかし、
その貢献が十分に社会に広く認知されているとは言えないようです。また、病診連携や臨床各科との
チーム医療を行う上でも、十分な理解が得られているでしょうか。これらを改善し前進するための
Strategy がこれまでは十分でなかったように思います。
そこで、様々な貢献や共同活動を行う上で、一般社会に向かって、歯科医療に向かって、歯科の専
門分野に向かって、情報発信や活動を行っている先生方にシンポジストをお願いしました。会員の皆
様が、さらに積極的に歯科放射線の知識や技術を、社会に向かって発信するための参考にし、みんな
で元気に活動しようというのが主旨です。
略 歴
小林 馨(こばやし かおる)
1955年3月29日生
1980年3月 鶴見大学歯学部歯学科卒業
4月 鶴見大学歯学部助手(歯科放射線学)
1985年12月 顎関節腔二重造影X線検査を開始
1988年1月 鶴見大学大学院歯学研究科 歯学博士
4月 鶴見大学歯学部講師(歯科放射線学)
10月 顎関節MR画像診断に着手(片山整形外科記念病院)
1992年6月 顎関節のInterventional Radiologyを開始
7月 日本顎関節学会学会賞(学術奨励賞)受賞
10月 鶴見大学歯学部助教授(歯科放射線学)
2004年10月 鶴見大学歯学部教授(歯科放射線学)
現在に至る
主な研究テーマ:顎関節の画像診断とInterventional Radiology,歯科放射線撮影時の患者被曝線量,歯顎顔面領域の
三次元画像診断,パノラマX線撮影法とその応用
− 73 −
シンポジウムⅤ−1
“納豆”と“うなぎの骨”そして“梅干し”で万馬券
鹿島 勇
神奈川歯科大学歯科放射線学講座
20 世紀、科学に立脚したテクノロジーの発展は、言い換えれば「正確さ」
、
「効率化」そして「便利
さ」の向上でありました。究極のところ、
「情報の圧縮」ならぬ「時間の圧縮」への人類のあくなき
追求といえるでしょう。そして、有限である時間を圧縮することは、本来ならば悠久の時間として
個々に還元されなければなりません。しかしながら、時間の圧縮の上にさらなる圧縮を重ね続け、高
密度化した時間の中で、
われわれは少々息苦しさを感じているのが実情でしょう。
最初に自然があり、
自然の中に人間が存在し、そこに科学が発展してきました。自然の配列が逆転した科学至上主義は、
数億年もの時間をかけて進化してきた生命の価値観をも変えてしまったのかもしれません。
演者らも
21世紀の新しい骨形態画像診断テクノロジーとして、
数理形態学を応用したモルフォロジカルフィル
タを開発してきました。
しかしながらこのテクノロジーは従来の科学の発展方向とは逆行したベクト
ルを基本的コンセプトとして開発されました。すなわちこの画像診断ソフトは、
“数字やグラフのよ
うな無機的なものではなく、
人間の目を通してやさしく脳にアクセスしてくるビジュアルな画像でな
ければならない”という発想の転換から考え出された方法です。そして、この手法は納豆の成分であ
る“ビタミンK2”と“うなぎの骨微粉末”そして、梅干しの成分であるクエン酸の骨改善効果判定
に応用されました。さらにその結果は、サラブレッド競走馬へと発展していきました。
今回は、
“納豆とうなぎ骨微粉末そして梅干しで万馬券”と題し、私たちのテクノロジー、夢ロマ
ンについてご紹介させていただきます。
略 歴
鹿島 勇(かしま いさむ)
1947年 宮崎県生まれ
1975年 神奈川歯科大学歯学部卒業
1979年 神奈川歯科大学大学院歯学研究科卒業(歯科放射線学専攻)
1980年 神奈川歯科大学長期海外派遣研究員として米国California大学Los Angeles校 歯科放射線学教室留学
(米国顎顔面放射線専門医取得)
1990年4月 神奈川歯科大学歯科放射線学教室 教授
2005年4月 神奈川歯科大学副学長
NASAや宇宙開発事業団との共同研究で宇宙ステーションミールでのカエルの実験、毛利宇宙飛行士のヒヨコの骨の
解析、そして向井宇宙飛行士の持ち帰ったイモリの骨の解析を担当。これらの研究成果を背景に、最近では骨粗しょ
う症の診断ソフトの開発や予防の為のサプリメントを開発。
多数の著書があり、中でも一般向け「骨の構造改革」は出版1年で1万部を超える。新聞、雑誌やテレビにも多数出
演。中でも、平成9年TBS系列のMRT(宮崎放送)40周年記念特別番組として制作された60分のドキュメンタリー番
組「Dr. KASHIMAの世界(宇宙から見た命の輝き)」は、FNN映像祭準優勝、世界映像音楽祭特別賞を受賞。
− 74 −
シンポジウムⅤ−2
A Pathfinder −デンタルアイ研究所の軌跡−
森田康彦
旧デンタルアイ研究所、鶴見大学歯学部歯科放射線学講座
A Pathfinder - Path of the Dental i Institute Yasuhiko Morita Dental i Institute、Department of Oral Radiology, Tsurumi University
デンタルアイ研究所は故野井倉武憲鹿児島大学名誉教授が停年退官後に設立した歯科放射線の私的
なオフィスである。演者は本研究所の設立、活発な活動期、終焉まで、共に行動したものであるがで
きうるかぎり客観的に概要を報告する。当初、本研究所は鹿児島県内の開業歯科医を対象としてイン
ターネットによる遠隔画像診断を行うこと、
鹿児島大学の成果のソフトウエァーの配布と講習を目的
として設立された。金銭的な利益を目的としなかったが NPO 法施行前であり、整合性の近い“企業
組合”として設立したが、幾分事務的には負担となった。駅前の自宅ビルの1階の3室を事務所とし、
ADSL 回線と PC、周辺機器、プロジェクターなどの小規模な設備を設置した。システムとしては月
会費とし、医療法人とはせず診断料などの個別料金はとらなかった。個別運用開始後は、画像診断依
頼は大学病院がもっとも多く、一般の依頼は画像診断以外のよろず相談、講演依頼が多かった。NHK
放送や南日本新聞掲載があり、神田重信教授会長の口腔画像診断研究会主催、故埴原和郎東大名誉教
授の講演会の主催と発展したが、野井倉名誉教授の体調不良、逝去によりやむなく閉鎖となった。方
向性は歯科放射線から歯科一般、最後は学生、市民向けの講演会へと大幅に変更していったが、短い
期間に多くの活動が成功した。供給側の考えているものを提供するのではなく、需要に柔軟に対応し
たことが成功の要因と思われる。また支援者が埴原名誉教授ほか多士済々、病理、歯周病、インプラ
ント、などの分野で多数の方がおられたことが幸いした。すなわち多数の有能、著名な協力者が得ら
れたため、研究所スタッフは調整役に徹したことが挙げられる。一方、歯科放射線の啓蒙や遠隔口腔
画像診断の需要は極めて低く、医学放射線との違い、あるいは地方と都市の違いを痛感させられた。
略 歴
森田康彦(もりた やすひこ) 昭和34年12月25日生まれ
昭和60年 鹿児島大学歯学部卒業
昭和60年∼平成12年 鹿児島大学助手
平成5年 博士(歯学)鹿児島大学 歯論 19号
平成7年度文部省在外研究員 ドイツ、エルランゲン大学医学部
平成11年度文部省内地研究員 東京医科歯科大学歯学部 平成12年∼平成14年 鹿児島大学歯学部附属病院講師
平成14年∼現在 鶴見大学歯学部講師
平成15年∼現在 徳島大学講師(非常勤) 平成16年∼現在 東京医科歯科大学講師(非常勤) − 75 −
シンポジウムⅤ−3
口腔病理学との連携を目指して
佐野 司
東京歯科大学歯科放射線学講座
To Build up a Closer Connection with Pathology
Tsukasa Sano
Department of Oral and Maxillofacial Radiology, Tokyo Dental College
病理学は、文字通り、疾患の原因とその機序の解明を目的とする学問である。19世紀に顕微鏡の発
明により、R. Virchow に代表される組織病理学が体系付けられた。この後に周知の X 線発見に至る。
すなわち、疾患の診断は、放射線学に先行する形で病理学が担ってきた。20世紀に発達した外科病理
学により、病理学は science のみならず日常の医療で施行される検査となり、病理組織診断は疾患の
診断における gold standard となった。そして、現在では、in situ hybridization 法等により、組織
の同定のみならず遺伝子の同定をも組織学的に可能となるまでに発展した。
一方、画像診断学の歴史は、前述の通り、病理より浅く、X 線発見当初は、X 線がものを通り抜け
る影をみているといわれていたのも周知の事実である。しかし、X 線 CT 装置(以下 CT)が、1972
年に考案された。そして、四半世紀が経過し、マルチスライス CT(以下、MDCT)が開発された。
MDCT は、精度の高い 3 次元画像を作成することが容易であり、診断および外科手術のシミュレー
ションに多く利用されているのは述べるまでもない。一方、1940 年代に核磁気共鳴現象が発見され、
それを利用した画像検査法である MRI は、1980 年代より臨床応用がなされるようになった。周知の
ように MRI 装置は、良好な組織分解能を有していることから、軟組織を中心とした病態診断では特
に有用性が高い。さらに体の化学的、生理学的情報をもたらす重要な手段としても発展している。し
かしながら、現状においても、最終診断は病理学に委ねられるのが現状である。また、病理診断も完
全ではなく、症例にもよるが、画像診断もしくは病理診断のどちらかのみで診断を下すのは、正当で
はないと考える。そこで、診断精度の向上に必要なのは、相互のコミュニケーションと確信している。
本講演では、歯科放射線科からの発信として本学における2つの確定診断のプロセス、1)放射線
科→診療科→病理診断(科)
、2)放射線科→病理診断(科)に沿って、お話し申し上げたい。
略 歴
佐野 司(さの つかさ)
1987年 昭和大学歯学部卒業
1991年 昭和大学大学院歯学研究科(顎顔面外科学専攻)修了(歯学博士)
1991年 昭和大学歯学部助手(歯科放射線学教室)
1993年 米国・ロチェスター大学医学部放射線科客員講師
1995年 昭和大学歯学部講師(歯科放射線学教室)
2004年 東京歯科大学教授(歯科放射線学講座) 1999年 九州大学大学院歯学研究院非常勤講師 (2002年まで)
2000年 日本大学松戸歯学部非常勤講師(歯科放射線学講座)
2004年 昭和大学歯学部非常勤講師(歯科放射線学教室) 日本顎関節学会評議員・認定医・指導医、日本口腔科学会評議員、日本歯科放射線学会教育委員・認定医・指導
医
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シンポジウムⅤ−4
民間における歯科放射線臨床活動
神田重信
医療法人隆徳会、宮崎鶴田記念クリニック、口腔・頭頸部画像診断センター
About the Activity of Clinical Oral Radiology in the Private Organization
Sigenobu Kanda
NPO 法人日本歯科放射線学会が歯科放射線学に関する知識・技術・思想を外部に発信し、歯科放
射線学の普及と啓蒙そして交流を積極的に行うことは重要な業務になる。
日本歯科放射線学会だけで
はなく、歯科放射線学を専門とする大学教室および附属病院診療科、あるいは個々の歯科放射線学専
門家からの情報発信も重要である。一方、大学外の民間における歯科放射線学活動が徐々に始まって
いるが、そこからの情報発信や日本歯科放射線学会との連携も必要になる。
今回のシンポジウムにおいて、小生は「民間レベルにおける歯科放射線臨床活動と情報発信」につ
いて述べたい。日本において、民間における歯科放射線学活動が行われた事例を調べてみると、下記
の 5 件が考えられる。これらのうち、過去の事例は活動記録が発見できないので、活動の具体的な内
容は正確に分からないが、概要だけでもそれらをサーベイーしてみたい。そして今後の歯科放射線学
の世界に一石を投じ、会員の波紋を聞いてみたい。
1.照内昇先生による歯科X線検査診療所
2.野井倉武憲先生による歯科X線写真読影センター「アイデンタル研究所」
3.竹田正宗先生によるがん相談室「ムント」
4.神田重信他による画像診断学普及・啓蒙活動「口腔画像診断研究会」
5.神田重信による「口腔・頭頸部画像診断センター」
6.今後の動きとして歯科画像検査センター
略 歴
神田重信(かんだ しげのぶ)
1965年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1967年 札幌医科大学研究生中退(口腔外科学) 1968年 東京医科歯科大学歯学部助手採用(歯科放射線学)
同上講師・助教授をへる
1976年∼1977年 文部省在外研究員としてハンブルグ大学歯学部に出向
1977年 九州大学歯学部教授昇任(歯科放射線学)
1993年 文部省在外研究員としてUSA, Canada, Mexicoへ出向
2001年 九州大学大学院歯学研究院教授(口腔顎顔面病態学講座口腔画像情報科学教室)に改まる
2004年 九州大学名誉教授(定年退職による)
2004年 国際医学研究所有限会社設立
2004年 医療法人隆徳会宮崎鶴田記念クリニック
口腔・頭頸部画像診断センター長
現在に至る − 77 −
市民講座とコンサートの夕べ
日時:5 月 14 日(土)
17:00 − 19:00
会場:朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター4階マリンホール
市民講座とコンサートの夕べ
「やさしい骨粗鬆症の話」
1.講演Ⅰ
「骨粗鬆症なんか恐くない ―足腰を鍛えよう―」
講師 高橋栄明 教授 新潟医療福祉大学学長
2.コンサート
「ふりゅーとカルテット」
フルート:中林恭子、バイオリン:庄司 愛
ビオラ:奥村和雄、チェロ:渋谷陽子
曲目 モーツァルト作曲
フルート四重奏曲 第3番ハ長調 K.Anh.171(285b)
フルート四重奏曲 第1番二長調 K.285
3.講演Ⅱ
「骨の構造改革 ―いつまでも咬める喜び―
講師 鹿島 勇 教授
神奈川歯科大学歯科放射線学講座
主催:NPO 法人日本歯科放射線学会
第 46 回日本歯科放射線学会総会・学術大会
後援:新潟県歯科医師会
新潟市歯科医師会
京都健康食品株式会社
新潟日報社
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