投資家から見た企業価値創造 平成16年3月12日 蔵元康雄 フィデリティ投信株式会社 1.投資家(特に機関投資家)による投資の前提条件 (1)運用資金の性格 ― 「退職後に向けた貯蓄」(年金マネー)がその中心 (2)運用の基本条件 ①ポートフォリオ全体のリスク管理 ― 分散投資 ②中長期の投資スタンス ― 巨額の年金マネー等の運用が中心で投資期間は概ね中長期 ― ウォール・ストリート・ルールによる短期売買は投資コスト高、企業の長期的 成長の果実を享受する為、持続的な収益成長企業への投資が中心 (3)基本的行動規範は「受託者責任」 ― 投資先企業の成長力、展開力、経営力、ガバナンス、リスク管理等につき、 多角的かつ精緻な調査分析が求められる。 ― 企業には “Full Disclosure”, 積極的なI Rを求める。 (4)中長期の持続的成長を可能とする最大の要因 ― 広義の経営力、ビジネス・モデル革新力 2.企業価値創造の原動力 −私の投資経験からー (1)過去35年間のアナリスト、ポートフォリオ・マネジャー活動は持続的成長企業発掘の プロセス (2)経済構造、経営環境の激変ー 必ずしも現在に限らず。常にこれらの変化に対応 できる柔軟かつ革新的経営(ビジネス・ イノベーション力)が持続的成長をもたらす。 (3)長期間持続的成長を遂げ、投資価値大幅に高めた企業群の特徴 A.これら企業の共通点 ①経営トップのユニークな発想、ユニークなビジネス・モデルの開発、経営トップ (多くの場合創業者)の旺盛な企業家精神の存在 ②明確なビジネス領域、更にビジネス・ モデルの不断の革新 ③経営トップの強力なリーダー・ シップによる経営理念、価値観の全社的浸透、 独自の企業文化、企業DNAの埋め込み ④スタート・アップから公開上場企業では、中途採用中心に様々能力、個性、 経験もつ人材活用で多様な価値観尊重の企業文化生まれ、ユニークな製品、 サービス開発に寄与 ⑤自社のコア・コンペテンシー中心に事業領域を限定。1980年代バブル期の反省 から、1990年代に流行った「選択と集中」経営を当初から実践 ⑥経営環境の変化に対応したスピーディな業務革新力、又果断な決断力をもつ ⑦企業の活動保つ為、経営陣含め若手登用、実力主義を実践 ⑧一貫した財務戦略、特に資本市場の有効かつ戦略的活用 (東証広報誌“Exchange Square”「上場がもたらした未来」 B.Converging Theoryと日本企業 クレジットカード、消費者金融、リース、レストラン・チェーン、 ロードサイド・ショップ、警備保障、コカコーラ・ボトラー、その他新興業態の 多くは欧米発、但し、日本企業は日本の社会風土に合わせ巧みにビジネス・ モデルを変革して成功した。 (例)流通業:スーパー、ホームセンター、コンビニ C.新しい社会的ニーズ、独自の技術シーズを企業化した企業群 ①経済、社会の環境変化で生まれる新しいニーズの企業化 (例)プレハブメーカー、警備保障(セコム)、宅急便(ヤマト運輸)、リース( Orix)、 介護サービス、アウトソーシング ②独自技術シーズの企業化 (例)村田製作所、TDK、日東電工、キーエンス ③カメラ・メーカーの変身 (例)キャノン、リコー、オリンパス、ニコン D.事業ドメインの絞込み、コア・コンペンテンシーもつ事業分野に挑戦中の企業群 (例)旭ガラス、旭化成、三菱商事 3.I R学会の「 機関投資家アンケート」(2002年) 日本の機関投資家(回答社数 251社)が財務指標に加えて、重視する非財務指標 企業理念 企業トップの資質 コーポレート・ガバナンス 情報開示の態度 戦略・ドメインの選択 組織 企業コミュニケーション 技術 知的財産 人材/企業文化 社会的責任、財務戦略の一貫性 その他にもリスク管理、コンプライアンス等も重要な非財務指標 4.結び (1) 上述の企業価値を大きく高めた企業群が実証している点は、公開された 財務指標中心の調査、分析だけでは企業の長期間の持続的成長力を 十分判断するには不十分であり、 (2)経営トップの資質(個性、リーダーシップ、柔軟な発想力、企業家精神等)、 ユニークなビジネス・ モデル、経営環境の変化に対応する不断の業務革新力、 独自分野での世界的技術力、ブランド力等々ー 基本的な「経営力指標」、 「非財務指標」に対する洞察力、分析力が投資家にもとめられることである。 (3)財務諸表等、目に見える様々な財務指標、これらを加工したROA、ROE,EVA等 (樹木の幹、枝、果実に相当)の分析に加え、目に見えない知財指標、経営力指標 (樹木の根、水分。土壌等に相当)の分析こそが長期に渡り企業価値増大させる 企業の評価に先行指標として重要な意味を持つ。
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