「ガバナンスの意味」とNPM

【パラダイム】
「ガバナンスの意味」とNPM
北海道大学大学院法学研究科教授
宮脇 淳
グローバル・ガバナンス、ローカル・ガバナンス、コーポレート・ガバナンス…、
「ガバナンス」とい
う言葉がよく聞かれる時代である。「ガバナンス」は、「統制・統治」などと訳される。この言葉を適
切に理解し活用するには、その「態様」と「議論」において、いくつかの視点があることを踏まえる
必 要がある。
第1の「ガバナンス態様」としては、①「既存制度における行動のルール化」としてのガバナンス、②
「制度改革における行動のルール化」としてのガバナンス、③「新制度における認識共有」としてのガバ
ナンス、の三形態がある。ガバナンスという言葉は、①「既存制度における行動のルール化」の意味で使
われることが多い。しかし、外部環境が大きく変化する時代を迎え、既存制度の行動ルールとしてのガバ
ナンス以上に、②「制度改革における行動のルール化」と、③「新制度における認識共有」としてのガバ
ナンスを形成することが重要となる。たとえば、行政改革に必要となるガバナンスを考えると以下の通り
となる。①「既存制度における行動のルール化」たるガバナンスを変えることが行政改革である。したが
って、行政改革では、まず②の「制度改革における行動のルール化」としてのガバナンスを形成すること
が重要となる。「制度改革における行動のルール化」を「既存制度における行動のルール化」の中に埋没
させれば、行政改革は実現しない。NPMなどの実践は、「制度改革における行動のルール化」としての
ガバナンス形成を支えるものと言える。政策評価の導入や公会計の改革なども、「既存制度における行動
のルール化」の中に埋没させれば、その成果を見出すことは困難となる。NPMは、「制度改革における
行動のルール化」と一体となって初めて成果を生み出すと同時に、「制度改革における行動のルール化」
をもたらすトリガー(起爆剤)ともなる。NPMは手段である。手段たるNPMを活用するには、既存制
度と異なる使い方が必要であり、そのためのガバナンスが「制度改革における行動のルール化」である。
そして、さらに重要なことは、「制度改革における行動のルール化」が「新制度における認識共有」とし
てのガバナンスとも異なる点である。NPMは、新しい制度の理念系を自動的に描くことはない。行財政
の分配の構図を自動的に提示することもない。行政改革を実現するには、「制度改革における行動のルー
ル化」を通じて形成される「新しい制度のガバナンス」たる「新制度における認識共有」を発掘すること
が必要となる。
以上の点は、第2の「ガバナンス議論」の視点によって、さらに整理することが可能である。ガバナン
ス議論の視点として、⑴「新しく生まれつつある状態」に関する議論、⑵「規範的判断としての参照点」
に関する議論、⑶「遮断型から開放型への移行状態」に関する議論の三点である。⑵「規範的判断として
の参照点」に関する議論は、まさに思想の問題であり、⑴「新しく生まれつつある状態」に関する議論は、
③「新制度における認識共有」としてのガバナンスの議論である。そして、NPMは、⑶「遮断型から開
放型への移行状態」に関する議論であり、②「制度改革における行動のルール化」としてのガバナンスに
位置する。このことは、遮断された行政の内部情報がNPMを通じて開放型に移行することを意味する。
同時に、そのことは⑴「新しく生まれつつある状態」に関する議論、⑵「規範的判断としての参照点」に
関する議論とは異なる視点であることも意味する。ガバナンスを議論する時、以上の視点の違いを踏まえ
ることが有用である。
「PHP 政策研究レポート」(Vol.7 No.85)2004 年 9 月
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