A.7.14 腫瘍の分類

A7.14
〔参考訳〕
良性腫瘍
一般に、良性腫瘍は起源の細胞名に接尾語である ome(腫)を付けて呼ばれる。間葉系細胞
の腫瘍は一般的にこの規則に従うものである。例えば、繊維組織で生じた良性腫瘍は繊維
種(fibroma)と呼ばれ、また良性の軟骨腫瘍は軟骨腫と呼ばれる。一方、良性上皮腫瘍の命
名法はより複雑である。様々な分類があり、起源となる細胞に基づくものもあれば、顕微
鏡レベルのパターンに基づくもの、あるいは肉眼で観察される構造に基づくものもある。
腺腫は腺に由来する良性上皮新生物を指す。とはいえ腺は腺構造を形成する場合もあれ
ば形成しない場合もある。このことから、強固に密集した無数の小さな腺の形で成長して
いる尿細管細胞から生じる良性上皮新生物も腺腫と呼ばれることとなり、これは固形のシ
ート状に成長する副腎皮質細胞の異質性の細胞集団が腺腫と呼ばれるのと同様である。上
皮表面から顕微鏡または肉眼で観察できる指状もしくはいぼ状の突起物を作り出している
良性上皮新生物は、乳頭腫と呼ばれる。大きな嚢胞性の塊を形成する良性新生物は、卵巣
の場合と同じように、嚢胞腺腫と呼ばれる。腫瘍の中には、嚢胞性の空間に突き出て乳頭
状嚢胞腺腫と呼ばれる乳頭状の形状を作り出すものがある。新生物が良性であれ悪性であ
れ粘膜表面上に肉眼で観察できるような突起物を形成し、例えば胃または結腸内腔に突き
出た場合、これはポリープと呼ばれる。
悪性腫瘍
悪性腫瘍の命名法は、いくつか追加があるものの、基本的に良性腫瘍で使われていたの
と同じ概要に従う。間葉系組織で生じた悪性腫瘍は通常、肉腫と呼ばれる(ギリシャ語の sar
は「肉質」の意味)。これは、結合組織基質がほとんどなく、それゆえ、肉質であるためで
ある(たとえば繊維肉腫、軟骨肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫など)。上皮細胞起源の悪性新
生物は三胚葉いずれからも生じ、癌腫と呼ばれる。したがって、外肺葉性由来の表皮で生
じる癌は癌腫であり、尿細管の中胚葉性由来の細胞で生じる癌や、胃腸管系の裏層を構成
する内胚葉性由来の癌も同様に癌腫と呼ばれる。癌腫はさらに分類されることがある。扁
平上皮癌は、腫瘍細胞が層状になった扁平上皮と類似した癌を指す。また腺癌は新生物の
上皮細胞が腺状を示しながら成長している病変を指す。例えば、腎細胞腺腫の場合や気管
支扁平上皮癌のように、場合によっては由来となった組織や器官を同定することができる。
しかし、由来組織のわからない未分化細胞からなる場合がしばしばあり、これらは単に未
分化悪性腫瘍と示す必要がある。
多くの良性・悪性新生物においては、実質細胞が互いにきわめて類似しており、あたか
も全てが一つの細胞に由来したかのようである。実際、後述のように、新生物は単一クロ
ーン由来である。
まれに単一の新生物クローンが 2 つの系列に沿って多様な分化を示すが、
これは混合腫瘍と呼ばれるものを形成する。この最たる例が、唾液腺由来の混合腫瘍であ
る。これらの腫瘍には粘液性基質中に散在する上皮成分が含まれており、基質には軟骨や
硬骨の島状構造が含まれている場合がある。これらの構成要素はすべて、上皮細胞や筋上
皮細胞へと分化する能力を持つ単一のクローンから生じると考えられている。したがって、
これらの新生物については多形腺腫という呼び方が好ましい。新生物の大部分は、混合腫
瘍であっても、単一の胚葉に由来する細胞からなる。多様な混合腫瘍は、奇形腫と混同さ
れてはならない。奇形腫は容易に見分けのつく成熟もしくは未成熟な細胞・組織を含み、
これらは 1 つ以上、場合によっては 3 つ全ての胚葉に由来する。奇形腫は、通常は卵巣や
精巣、場合によっては異常ではあるが正中に残された胚性残存組織といった、多能性細胞
に由来する。そのような細胞は成体で見られるあらゆる種類の細胞に分化する能力を持ち、
そのため、もっともなことだが、乱雑な形で骨や上皮、筋肉、脂肪、神経、その他の組織
の小片に似た新生物を生じさせる場合がある。あらゆる構成要素がしっかりと分化してい
る場合は、良性(成熟)奇形腫であり、あまり分化していない場合は、未成熟な悪性奇形腫に
なる、あるいは明白にそうである。卵巣の嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)では明確な共通のパター
ンが見られる。これは基本的に外肺葉系列に沿って分化し、髪や皮脂腺、歯構造を持つ皮
膚でおおわれた嚢胞性腫瘍を作り出す。
このようなまとめから、幾分不適当なところもあるが、しっかりと確立された使用法が
あることは明白である。何世代にも渡り、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、精上皮腫のような
良性と受け取られかねない呼称が、ある種の悪性新生物に対して使われてきた。逆もまた
しかりである。つまり、不吉な言葉が些細な病変にあてられていることもある。過誤腫は
特定の部位固有の細胞から成る、無秩序だが良性に見える塊を示す。これらはかつて、発
生における奇形であり、
「腫」の名称にそぐわないものであると考えられていた。例えば、
肺の軟骨過誤腫は無秩序だが組織学的には正常な軟骨、気管支、管からなる島状構造を持
つ。しかし、肺の軟骨過誤腫も含め多くの過誤腫は、ある種のクロマチンタンパク質をコ
ードする遺伝子を含む、単一の反復性転座を持つ。したがって、分子生物学によって、つ
いにそれらは「腫」の名称を得るに至った。もう一つ、不適切な名称として分離腫という
語がある。この先天異常は、異所性の細胞遺残として記す方が好ましい。例えば、よく発
達して通常は組織化されている膵実質にある小結節が、胃や十二指腸、小腸の粘膜下層で
見られることがある。このような異所性の遺残はランゲルハンス島や外分泌腺で覆われて
いることもある。分離腫という語は新生物をほのめかすが、普通では取るに足らないほど
のその意味をはるかに上回る重大さを、異所性遺残に与えるものである。残念ながら新生
物の用語は単純ではない。しかし、腫瘍の性質と重要性が分類される用語であることから、
これは極めて重要である。
〔解答例〕
設問 1)
Papilloma とは、上皮表面から顕微鏡または肉眼で観察できる指状もしくはいぼ状の突起物
を作り出している良性上皮新生物を言う。一方、polyp は、良性であれ悪性であれ、新生物
が粘膜表面上に肉眼で観察できるような突起物を形成し、胃または結腸内腔に突き出たも
のを言う。
設問 2)
Sarcoma とは、間葉系組織で生じた悪性腫瘍で、結合組織基質がほとんどなく、肉質であ
る。たとえば繊維肉腫、軟骨肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫などがある。Carcinoma とは
上皮細胞起源の悪性新生物で、三胚葉いずれからも生じる。外肺葉性由来の表皮で生じる
癌や、尿細管の中胚葉性由来の細胞で生じる癌、胃腸管系の裏層を構成する内胚葉性由来
の癌などが癌腫と呼ばれる。
設問 3)
Mixed tumor とは、単一の胚葉に由来する細胞からなり、単一の新生物クローンが異なる 2
つの系列に沿って多様に分化して作られた腫瘍である。その例として唾液腺由来の混合腫
瘍がある。Teratoma とは識別のしやすい成熟した、または未成熟な細胞・組織を含み、1
つか、場合によっては 3 つ全ての胚葉から生じる。これは通常は卵巣や精巣、あるいは以
上ではあるが正中に残された胚性残存組織などの多能性細胞に由来し、これが様々な種類
の細胞に分化して作られる。例として卵巣の嚢胞性奇形腫がある。
設問 4)
過誤腫は特定の部位固有の細胞から成る、無秩序だが見かけは良性に見える塊として存在
する。例えば、肺の軟骨過誤腫は無秩序だが組織学的には正常な軟骨、気管支、管からな
る島状構造を持つ。このように、以前は発生における奇形であり、「腫」の名称にそぐわな
いものと考えられていた。
設問 5)
(A)ウ (B)イ
(C)ア (D)オ (E)エ