日本建築学会大会学術講演梗概集 (北海道) 2004年 8 月 40487 既存住宅における断熱性能の改修戦略に関する調査研究(その 4) 既存戸建住宅の改修による省エネルギー効果に関する研究 正会員 同 同 同 同 既存住宅 地球温暖化対策 断熱改修 ○田名網 真生* 岩村 和夫** 石崎 竜一*** 吉澤 伸記**** 那須 洋平***** 省エネルギー基準 1.はじめに 現在決定的に不足している既存住宅の実態に関する情 報を収集するため、平成 14 年度から既存住宅の実態把握 調査と断熱改修による省エネルギー効果に関する一連の 研究を行っている。本研究は、既存住宅の改修による省 エネルギー効果を明らかにし、今後、改修による CO2 排 出削減効果をマクロ的に試算するための基礎的情報を整 備することを目的としている。 2.研究方法 前報(その 3)の調査結果を基に代表的な住宅プランを した。また、各住宅プランの平面構成は、「住宅金融公庫 創立 50 周年記念・公庫が見てきた住まいの半世紀」(住 宅金融公庫・平成 12 年)に掲載されている平面図を参考 にして作成したものを使用した(図 1)。部位毎の改修に よる効果をより明確にするために、対象住宅の抱えてい る構造的な問題点や居住者の属性や改修のニーズなどは 条件として含めないものとし、改修内容は A 区分、B 区 分共通で、各部位の次世代省エネ基準を満たす改修工事 を想定している(表 2) 。 A 区分 B 区分 1階 1階 2階 2階 作成し、その結果を活用して省エネルギー効果の高い改 修パターンの検討を行った。 昨年度から本年度までの既存戸建住宅に関する調査を 通じて得られた件数の合計は、第Ⅰ地域から第Ⅴ地域ま で 253 戸に上る。本研究ではその中で最も件数の多かっ た、第Ⅳ地域「在来木造住宅」の 67 件に関して検討する こととし、さらにその中でも調査物件が集中している関 東エリアにおける住宅モデルを作成した(表 1) 。 表1 屋 根 天 井 外 内 代表的な在来木造住宅モデルの仕様(Ⅳ地域) A 区分 B 区分 C 区分 D 区分 (1945∼1981) (1982∼1991) (1992∼1998) (1999∼2003) 和瓦 和瓦 コロニアル 洋瓦 石綿吸音板 クロス クロス クロス GW10kg t=25 GW10kg t=50 GW10kg t=100 GW16kg t=160 リシン リシン サイディング サイディング 図1 住宅プランの平面図 GW10kg t=50 GW10kg t=50 GW10kg t=100 GW16kg t=100 表2 改修内容の共通事項 化粧合板 クロス クロス クロス アルミ・シングル アルミ・シングル アルミ・シングル アルミ・ペア ①:屋根及び天井 吹き込み用GW30kg 外張り工法 PF(3B)t=50mm 二重サッシ化 壁 壁 開口部 改修パターン フローリング フローリング フローリング フローリング ②:内外壁 無断熱 PF(1B)t=20 PF(1B)t=50 PF(3B)t=45 ③:開口部 最下階床 この代表的な住宅プランの仕様を前提条件として改修 による省エネルギー効果の試算を行った。シミュレーシ ョンは、性能・築年数から最も改修のターゲットとなる ことが予想される、A 区分、B 区分の住宅プランを対象と し、シミュレーションプログラムには(社)日本住宅設 備システム協会が開発した SRJ-Pro シミュレーターを活用 改修内容・断熱材 t=160mm 一部北側小窓ペアガラスに交換 ④:最下階床 既存床下施工 PF(3B) t=65mm ⑤:ALL ⑥:ALL+設備 ①∼④全てを行う場合 91 年式エアコンを 01 年式に交換 石油ストーブの削除 A Study on the Strategy for Improvement of Heat Insulation Performance of Existing Houses (No.4) Energy Conservation Effects of Insulation Performance Improvement of Existing Houses ̶997̶ TANAAMI Masao, et.al A 区分 B 区分 ①屋根及び天井 25 万円 24 万円 ②外壁 外壁 574 万円 745 万円 ③開口部 205 万円 222 万円 量削減を目的とした改修として有効な部位であるといえ る。また、屋根及び天井や最下階床は効果が低かったも のの、工事に要する費用は約 24 万円∼65 万円と比較的安 価である。 本研究では建物部位の断熱改修工事に加え、設備機器 の最新機種への更新による効果についても試算を行った (図 2, ⑤)。省エネルギー効果という観点でみると、部 位別の改修よりも効果が高いことがわかった。さらにこ の 2 つを同時に組み合わせて改修を行った場合、CO2 排出 量を最大で約 70%削減できることがわかった。 以上のことから、A 区分と B 区分における住宅では、 ④最下階床 65 万円 57 万円 改修による省エネルギー効果が最も大きい部位は開口部 ⑤ALL 868 万円 1048 万円 で、さらに断熱改修と設備機器の更新を組み合わせると ⑥ALL+設備 965 万円 1167 万円 より大きな効果があることがわかった(図 2, ⑦) 。 3.結果 省エネ改修工事に要した概算費用(SRJ-pro による)を 表にまとめた(表 3)。最も高額であった部位は A、B 区 分ともに外壁で、また最も安価だったのは天井の改修工 事となった。ここに掲げたすべての改修工事を行った場 合、約 1000 万円前後に上った。 表3 省エネ改修に要した費用 A 区分 ①屋根及び天井 188 310 1282 ⑤設備機器 310 890 329 0 76kg-CO2/年 削減 811kg-CO2/年 削減 93 310 657 ⑥ALL ⑦ALL+設備 173 310 1453 ④最下階床 146kg-CO2/年 削減 232kg-CO2/年 削減 512kg-CO2/年 削減 136 310 1053 ③開口部 198 310 1358 ②外壁 201 310 1501 現在の住まい 951kg-CO2/年 削減 310 1372kg-CO2/年 削減 500 1000 電気 ガス 灯油 1500 2000 2500 [kg-CO2/年] B 区分 現在の住まい ③開口部 145 310 1008 578kg-CO2削減 310 1492 ⑤設備 310 940 ⑥ALL 310 707 ⑦ALL+設備 380 0 310 500 107 217 23kg-CO2削減 792kg-CO2削減 918kg-CO2削減 電気 ガス 灯油 1351kg-CO2削減 1000 図2 0 102kg-CO2削減 220kg-CO2削減 206 310 1305 ④最下階床 229 310 1400 ②外壁 231 310 1501 ①屋根及び天井 [kg-CO2/年] 1500 2000 2500 年間の CO2 排出削減量 CO2 排出削減量で見た結果は A 区分、B 区分ともに概 ね同様の傾向がみられた(図 2, ①∼④)。両区分とも断 熱改修による効果の最も高い部位は開口部で、次いで外 壁という結果になり、削減効果はそれぞれ A 区分で約 25%、12%、B 区分で約 28%、11%である。特に開口部 の改修は省エネルギー効果が高いと同時に、居住しなが ら工事が行えるということから、改修の障害になりがち な施工性という観点からも優れている。従って、CO2 排出 *住友林業(株) 環境情報学修士 **武蔵工業大学環境情報学部 教授 工修 ***(株)岩村アトリエ ****(株)岩村アトリエ 工修 *****武蔵工業大学環境情報学研究科 4.まとめ 本研究では、第Ⅳ地域の在来木造住宅における既存戸 建住宅の改修による省エネルギー効果を部位毎に明らか にした。その結果、開口部の改修が最も効果的であるこ とがわかり、また設備機器の更新を組み合わせて実施す ることで、より大きな効果が得られることがわかった。 今後、地球温暖化対策としてこれらの改修を広く普及さ せていくためには、技術的な工法の確立だけでなく税制 などの優遇処置など、ユーザーへのアピールを同時に検 討していく必要があると考えられる。 5.今後の課題 今回の試算では前提条件となる既存住宅の情報整備に 時間的・経済的限界があり、第Ⅳ地域の在来木造住宅以 外のモデルを検証することができなかった。今後は、既 存住宅の改修によるマクロな CO2 排出削減量を試算でき るようにするためにも、在来木造住宅以外の工法や、他 地域での検討を行ってくことが必要である。 さらに今後の課題として、本研究で行ったシミュレー ションでは見えてこない、改修による「住まいの快適 性」の効果に関する評価手法の確立も重要である。また その効果を居住者に対してアピールし、普及する方策の 検討も今後の大きな課題である。 謝辞:本研究の一部は(又は「本研究は」)、国土交通省総合 技術開発プロジェクト「循環型社会及び安全な環境の形成の ための建築・都市基盤整備技術の開発」及び独立行政法人建 築研究所研究課題「エネルギーと資源の自立循環型住宅に係 わる普及支援システムの開発」の一環として実施した。 * Sumitomo Forestry Corporation M. Environmental and Information Studies ** Professer, Musashi Institute of Technology M. Eng *** Iwamura Atelier **** Iwamura Atelier M. Eng *****Musashi Institute of Technology Environmental and Information Studies ̶998̶
© Copyright 2024 Paperzz