シノプシス 1.タイトル “The Digital Public Domain: Foundations for an

シノプシス
1.タイトル
“The Digital Public Domain: Foundations for an Open Culture”
「デジタル・パブリック・ドメイン:開かれた文化への基盤」
2.原書の出版社および刊行年
Open Book Publishers より 2012 年 3 月 26 日に刊行
原書ページ数: 248 ページ(ペーパーバック)
ISBN-10: 1906924457
ISBN-13: 978-1906924454
3.著者について
• メラニー・デュロン・デ・ロスネー (Melanie Dulong de Rosnay)
フランス国立科学研究センター(CNRS)・コミュニケーション科学研究所の研究者
および行政科学研究センター(CERSA)の共同研究者。クリエイティブ・コモンズ・
フランスの法的関連の第一人者であり、現在 2011 年に共同設立した COMMUNIA
International Association の委員長を務める。オープンアクセスに関する公的秩序や、分
散型アーキテクチャにより導入された規則の変革に従事。
• フアン・カルロス・デ・マーティン (Juan Carlos De Martin)
2006 年にイタリアのトリノ工科大学 NEXA Center for Internet & Society を共同創設し、
共同ディレクターを務める傍ら、ハーバード大学 Berkman Center for Internet & Society
の学部研究員およびコンピューター工学の教授を兼務。Institute of the Italian
Encyclopedia Treccani と Biennale Democrazia の理事メンバー。デジタルメディアの処
理と伝送についての研究に従事している。
4.内容要点
本書は、主にヨーロッパにおけるパブリック・ドメインについての現状を、様々な観点
から論じる解説書である。パブリック・ドメインについての概説から始まり、それにま
つわる著作権の問題、さらには学術的なリサーチの今後の発展を左右するパブリック・
ドメインの存在について、各分野の専門家が独自の論文等をもとに、丁寧に読みやすい
文体で解説していく。
5.目次
寄稿者
はしがき
序文
パブリック・ドメインについて
第1編
パブリック・ドメインの紹介
第1章
Communia とヨーロッパのパブリック・ドメイン・プロジェク
ト
第2編
パブリック・ドメインの政策
法的枠組み
第2章
第3章
第3編
―
消費と共有 ― デジタル・アジェンダへの著作権の適用
デジタル・パブリック・ドメインの観点から見た著作権指令
2001/29/EC の評価
第4章
著作権に関する権利のオープン・アクセス管理によるデジタ
ル・コモンズの構築
開発とケーススタディ
第5章
契約により構築されたリサーチ・コモンズ ― 批判的な経済
的 評価
第6章
微生物遺伝資源の生息域外保全に関する社会的なモチベーショ
ンとインセンティブ
第7章
オープンナレッジ ― 展望と挑戦
第8章
サイエンス・コモンズ ― リサーチ・ウェブの構築
第9章
DRIVER プロジェクト
ズの社会経済的利益
― ヨーロッパにおける科学的コモン
第 10 章
第 11 章
CC REL ― クリエイティブ・コモンズ権利表現言語
創作作品の登録価値
参考文献目録
6.各章のあらすじ
第1編
パブリック・ドメインの紹介
第1章
Communia とヨーロッパのパブリック・ドメイン・プロジェクト
― パブリック・ドメインの政策
この章は、Communia Network のデジタル・パブリック・ドメインに関する最終報告書を改訂
したものである。この報告書の内容は主に、(1)Communia の活動の見直し、(2)ヨーロ
ッパにおけるデジタル・パブリック・ドメインの状況調査、(3)ヨーロッパにおける健全な
パブリック・ドメインの向上と利用しやすいデジタル・コンテンツの作成に向けての政策戦略
の推奨、という3つのテーマに分かれているが、改訂版であるこの章では、パブリック・ドメ
インの定義、評価、役割を再度見直すことにより、パブリック・ドメインが抱える課題や障害
についての検討が行われている。さらに、デジタル化やインターネット革命によりどのような
機会がパブリック・ドメインに与えられたかを論じると共に、ナレッジへのアクセスにまつわ
る説明も行われている。そして最後に、デジタル・パブリック・ドメインの政策に対する一般
的なガイドラインを、ヨーロッパの前向きな見解を織り込みながら起草していく。
本章中の上記の内容は 1 から 6 までの項目に分けられ、具体的な説明が行われている。各項
目の副題は以下のとおり。
1.
2.
パブリック・ドメインとは何か
ヨーロッパにおけるパブリック・ドメインの価値
3.
4.
5.
6.
パブリック・ドメインの課題と障害
パブリック・ドメインと欧州委員会の政策
Communia とヨーロッパのパブリック・ドメインのプロジェクト
パブリック・ドメインに対してヨーロッパができること
第2編
法的枠組み
第2章
消費と共有
―
デジタル・アジェンダへの著作権の適用
この章では、創作物の消費と共有について、著作権に関する法律を交えながら解説する。解
説は 5 つの項目に分けて行われる。1 つ目の項目では、以前は創作物が創作者のもとから公に
出るまでに様々な業種のビジネスを経るという長距離を辿っていたが、過去 20 年程の間に創作
の社会的・技術的な基礎が根底から覆され、現在その道のりは創作者と公の場が直接つながる
短距離へと変化したことについて述べている。2 つ目の項目では、今後のデジタル環境におけ
る法律は、(1)上述の長距離だけではなく短距離にも適応するものであること、(2)長距
離・短距離の両存在がうまくその存在価値を伸ばせるものであること、(3)新たに出現した
短距離の成長を阻むような長距離による障害を、長距離をつぶすことなく減少させるものであ
ること、の 3 つの要件を満たすべきであることを説く。3 つ目の項目では、創作者が短距離に
より自作の創作物を公開する場合、その作品から第三者が利益を得ないよう保護する権利を留
保することができるが、その場合には、現行の著作権ではなく、さらに効力を持つ新たな著作
権が必要であること、そしてその内容について述べている。4 つ目の項目では、このような時
代が到来した今、新しい法律の整備がいかに大切かを説き、またヨーロッパがその活動を牽引
していくべきであることを訴えている。5 つ目の項目では、2010 年から 2020 年までの 10 年間
に、ヨーロッパがデジタル界の著作権法やベルヌ条約の見直しを行うべきであること論じてい
る。
第3章
デジタル・パブリック・ドメインの観点から見た著作権指令 2001/29/EC の評価
この章では、デジタル情報社会における著作権や関連の権利の特徴と、著作権指令
2001/29/EC との融合について評価している。その説明は 3 つの項目に分けて行われているが、1
つ目の項目では、パブリック・ドメインの簡単な定義を説明しながら、図書館、公文書保管所、
博物館の重要性とその特徴について述べている。2 つ目の項目では、ヨーロッパの大陸法の観
点から、また図書館、公文書保管所、博物館、科学調査の立場から見たパブリック・ドメイン
について解説することにより、デジタル・パブリック・ドメインの著作権指令 2001/29/EC の内
容を筋道立てて説明している。3 つ目の項目では、著作権における例外と制限に対応する著作
権指令の規定、およびそれが図書館、公文書保管所、博物館に与えるインパクトを分析すると
共に、TPM(技術的保護手段)の法的な保護という点での著作権指令の規定についても比較分
析する。
第4章
著作権関連の権利のオープン・アクセス管理によるデジタル・コモンズの構築
著作権保護期間が過ぎた作品がパブリック・ドメインには多数存在する。例えばブラームス
の交響曲やシェークスピア劇などが挙げられるが、これらの演奏または舞台をデジタル化した
作品は「フリー素材」として入手できるようになってはいない。これらのデジタル化された作
品は、録画を行った者が、著作権やその関連の権利ではなくオープン・アクセスのライセンス
の下で公開しない限り、「フリー素材」として一般市民が入手することは不可能である。この
章では、上記を踏まえながら、著作権等で保護されているデジタル・フォーマットのパフォー
マンス作品が、オープン・アクセスのライセンスを活用した場合に及ぼす法的なインパクトに
ついて検討している。さらに、デジタル・コモンズの構築により上記のような創作作品を普及
させることを目指す公共団体等は、著作権保持者にオープン・アクセスのライセンスを推進す
るよう促すべきであることを論証している。本章の各項目の副題は以下のとおり。
1.著作権関連の権利のオープン・アクセス管理における法的効果
2. オープン・アクセス・ライセンスがどれだけデジタル・コモンズの概念を補完できるか
-クリエイティブ・コモンズについて
3. パブリック・ドメインにおける創作作品を最大限に普及させるための社会政策の提案
第3編
開発とケーススタディ
第5章
契約により構築されたリサーチ・コモンズ
―
批判的な経済的 評価
この章では、契約により構築されたリサーチ・コモンズの出現により生じた主な経済的問題
について、特に微生物・遺伝子資源とバイオテクノロジーの分野に焦点を当てながら調査報告
する。
この 10 年間、知識・情報資源の価値に対する権利(知的財産権や sui generis 制度、限定的な
使用許諾等)を保護し、専有を目指す政策が必要であるという点において、様々な議論が巻き
起こっている。楽観的な意見としては、強い効力を持つ権利と契約による自由を組み合わせれ
ば大きな相乗効果が生まれるというものが挙げられるが、悲観的な意見としては、財産権や専
有を目指す政策がイノベーションを遅らせる原因になるとして懸念する声もある。では、財産
権や専有を目指す政策を実施した場合、知識・情報資源の転送に吉と出るか凶と出るか?その
答えは、情報の転送処理を統制するリサーチ・コモンズの動きに大きく左右されるといわれて
いる。
最終的に、知識・情報資源へのアクセス、そしてそれらの資源の生産おける財産権が共に拡
大した場合のインパクトについて分析し、法学者や経済学者の間に論争を生じさせている主な
経済的問題を浮き彫りにすると共に、そういった経済的な問題点が、今後のリサーチ・コモン
ズの実現可能性とその成功への展望を深めるにあたって多大なる影響を及ぼすことを説いてい
る。
この章では、以上の内容を以下の各項目に分けて説明している。
1. 契約により構築されたリサーチ・コモンズの出現と理論的解釈
2. リサーチ・コモンズの出現に対する経済的論争
3. 結論:リサーチ・コモンズの進化予想
第6章
微生物遺伝資源の生息域外保全に関する社会的なモチベーションとインセンティブ
この章では、世界中の異なる環境における、微生物の保全と微生物へのアクセスを管理する
ことの実現可能性について研究している。
生命科学が革新するには、世界的ネットワークを通じて微生物研究材料を取得できる微生物
資源共有サービス(PSMCs)を充実させることが重要となる。世界微生物株保存連盟
(WFCC)は、500 以上の微生物株のコレクションを最小限のコストで学術研究用に公開してい
るネットワークであるが、このネットワークのおかげで、バイオ燃料などの重要な分野におけ
る下流研究が多大な恩恵を得ることができているのもその一例である。
しかし、現在のグローバル・コモンズにおける微生物資源の交換状況の現実は、新しい科学
的機会を阻害してしまっているという課題を抱えたままである。また、微生物株コレクション
に関する懸念事項として、保有する微生物株の品質管理やそれに伴うコストの問題、コレクシ
ョンの収容と適切な保存方法の問題等が挙げられる。
微生物に関しては、公的資金を受けた生息域外のコレクションが管理を行うのが伝統的に通
例とされてきたが、近年は商業的な利用者によりその伝統がよい意味で覆されつつある。製薬
会社やその他のバイオテクノロジー企業が、財産権に基づいた市場刺激策を導入するようにな
ったのである。こういった微生物に対する商業的な共同資金提供が、短期的なリサーチや商品
開発を保護する役割を担ってくれている。しかしこれには、長期的な保存優先度を侵害すると
いう側面もあるため、今後は商業的な層を強化するばかりではなく、基礎的なリサーチ層を強
固にして市場での高い効果を発揮できるように仕向けていくことが大切である。
この章では、3 つの項目にて以上の内容を解説している。各項目のタイトルは以下のとおり。
1. 世界微生物株保存連盟における主体ネットワークの分析
2. ベーシックなリサーチ層と商業層の重要性
3. 主体ネットワークにおける社会的モチベーションとインセンティブ
第7章
オープンナレッジ
―
展望と挑戦
オープンナレッジとは、誰もが自由にアクセス、再利用、再配布することができる素材の
ことである。再結合や再利用の革新化を求めるなら、オープンナレッジに対するオープンメタ
データが重要となる。また、コンポーネント化または与えられた素材のパッケージ化により、
ソフトウェアの開発者たちはお互いの作品を相互に再利用し、新たに創り上げていくことが容
易にできるようになった。この章では、これらのことがナレッジ(知識)の開発にいかに重要
であるかについて、そして、オープンナレッジ・ファンデーションの活動について、パブリッ
ク・ドメイン・ワークスと包括的ナレッジ・アーカイブ・ネットワーク(CKAN)に焦点を当
てながら述べている。
オープンナレッジ・ファンデーションは 2004 年に設立された非営利団体で、オープンナレッ
ジの保護と促進をその活動目的としている。ここでのオープンナレッジの「ナレッジ」とは、
文章、データ、画像、マルチメディア等を意味し、「オープン」とは、誰もが無料で自由にア
クセス、再利用、再配布できることを意味するが、この定義付けによりナレッジの公開の条件
が明確になったことで、リベラル・ライセンス下で入手可能となっている素材や権利放棄され
た素材、パブリック・ドメインにおける素材などにおいて、常に共通のテーマとして議論され
るようになった。
この章では、オープンナレッジとそれに関連する情報について、以下の 9 つの項目別に説明
している。
1. メタデータのデータベースとデータベースのメタデータ
2.
3.
コンポーネント化とオープンナレッジ
最初からあったコード
4.
5.
6.
ナレッジとデータ APIs
コンポーネント化の定義
アトマイゼーション(微粒化)
7.
8.
パッケージ化
ナレッジにおけるコンポーネント化
9.
包括的ナレッジ・アーカイブ・ネットワーク(CKAN)
第8章
サイエンス・コモンズ
― リサーチ・ウェブの構築
クリエイティブ・コモンズ(CC)のプロジェクトであるサイエンス・コモンズは、科学的か
つ学術的な知識の共有を促進する役割を担っている。この章では、科学研究を成長させるため
に、現在のインターネット技術の力を利用しながら「リサーチ・ウェブの構築」を目指すこと、
そしてその構築には、サイエンス・コモンズで設計され利用されている技術と基盤が必要であ
ることを述べている。
リサーチ・ウェブを構築するに当たり考察すべき主なテーマは、コンテンツへのオープン・
アクセス、リサーチ用の物的素材へのアクセス、オープンソースであるナレッジの管理システ
ムの 3 点に絞られる。これらのテーマを実現するには、リサーチ用のフォーマットにて既にデ
ジタル化されている情報を再デザインすることが必要である。これらのテーマについて、以下
の各項目にて詳しい説明が述べられている。
1.
2.
問題点
オープン・アクセスのコンテンツ
3.
4.
物的素材へのオープン・アクセス
オープンソースの知識についての管理システム
第9章
DRIVER プロジェクト
―
ヨーロッパにおける科学的なコモンズの社会経済的利
益
ヨーロッパの DRIVER(the Digital Repository Infrastructure Vision for European Research -欧州
における学術研究のためのデジタルリポジトリ基盤構想)プロジェクトは、ヨーロッパの科学
コミュニケーションにおけるオープン・アクセスの検索ポータルを組み合わせたリポジトリ基
盤を構築するものであり、その最終目的は、すべてのオープン・アクセスの素材を1つのナレッ
ジ基盤に、あるいは科学的なコモンズに集約することである。
DRIVER プロジェクトでは、欧州委員会(EC)による資金提供を受けたすべての出版物に対
し、オープン・アクセスを義務付けることを推奨している。最近では、大手の資金提供機関が
「自己アーカイブ化」を義務付ける動きがヨーロッパ・米国共に増加してきている。著作者た
ちは自己の作品に何らかの権利を取得することが義務付けられているが、上記のような動きに
よってより多くの著作者がオンライン上に自己作品を掲載できるようになり、読者の増加にも
つながっていく。つまり、著作者の権利だけでなくパブリックにとっても好ましい動きであり、
さらには、欲しいときに無料で自由に出版物が入手できるようになるため、科学分野にとって
も大きな利益をもたらす。DRIVER の戦略的構想は、ヨーロッパと世界に向けた科学的なコモ
ンズの構築である。
この章では、これらについての詳細な説明が、以下の 2 項目にて述べられている。
1.
2.
科学コミュニケーションへのオープン・アクセス
DRIVER プロジェクト:成果と将来的な目標
第 10 章
CC REL
―
クリエイティブ・コモンズ権利表現言語
この章では、クリエイティブ・コモンズの権利表現言語(CC REL)を紹介する。CC REL は、
著作権の使用許諾条件やその関連情報のコンピュータが読み取り可能な表現のうち、クリエイ
ティブ・コモンズ(CC)が推奨する標準の言語のことであるが、この章における CC REL とそ
の説明は、今まで CC が推奨してきた使用許諾に関するメタデータの表現に取って代わるもの
となる。CC が以前推奨していた表現も CC REL も共にワールドワイド・ウェブ・コンソーシア
ムのリソース・ディスクリプション・フレームワーク(RDF)に基づいているが、以前の推奨表
現に比べて、CC REL では製作者と出版者にとってコンテンツの提供がよりシンプルになり、
ユーザーとツールの構築者への利便性が高まる。
CC REL は、使用許諾を得た文書に付随する拡張可能なプロパティとして、抽象構文の自由
な形により定められたものである。出版者の構文に対する選択肢が拡大すると共に、プロパテ
ィの抽出プロセスが発見可能となり、ツール構築者は CC REL 対応のウェブページなどのプロ
パティを取得することができることが述べられている。また、抽出構造を気にせずに CC のラ
イセンスを使用したいと考えるコンテンツの製作者と出版者に対しても、特定の具体的な「デ
フォルト」の構文と埋め込みのスキームを推奨し、説明する。
この章では、これらの CC が推奨する内容の設計原理を解説し、CC REL がサポートできる特
定のアプリケーションについて説明している。まずは 2002 年の最初の CC メタデータの推奨に
ついてレビューし、CC の発展に伴い次第に不適切とされていった理由を述べている。次に構文
フリーモデルにおける CC REL を紹介し、推奨の具体的な構文について解説したあと、最後に
特定の使用事例と CC REL の利点を利用して構築したいツールの種類についての議論が展開さ
れる。
上記の内容は、以下の各項目にて詳細に説明されている。
1. クリエイティブ・コモンズ推奨の背景
2. CC REL の抽象モデル
3. 具体的な CC REL 構文に必要とされるもの
4. ウェブページへの CC REL 情報の組み込み
5. 確立されていないファイルへの CC REL の埋め込み
6. 例と使用事例
7.
結論
第 11 章
創作作品の登録価値
この章では、オンライン上の登録サービスについての実践方法を解説している。信頼できシ
ンプルに行える作品の登録は、機密性や信用を改善する正しい方法であるか?どのようなガバ
ナンスが作品登録サービスを行うのに必要とされているか?公的な特許に関する法律に抵触し
ないのか? 以下の各項目で、これらの疑問による回答が明かされている。
1. 機密性と信用の改善
2.
3.
最先端のコンテンツ登録
クリエイティブ・コモンズをサポートする登録に関する調査
これらの登録にどのような権威が必要とされているか?
権利はこれらの登録からいかにして社会的利益を得られるか?
登録サービスはクリエイティブ・コモンズのライセンスを得たコンテンツのみに限るの
か?
7. デジタル登録スペースにおける今後の課題とは?
8. 異種のビジネスモデル
9. 信用とガバナンスにおける結論
4.
5.
6.
7.感想・評価
本書は、デジタル化が進む現代において、より多くの情報や知識を世界中のオンライン・ネ
ットワークを通じて共有し合うことを共通のテーマに、様々な観点からそれぞれの分野に精通
した専門家が、その現状、課題、今後の理想と発展について解説するものである。
オンライン上での情報の共有は既に確立されてはいるものの、現状ではその体制の統一性が
不十分であることが本書により改めて明らかにされている。また情報の共有と創作物の著作権
の関係はいつの時代にも課題となるテーマであるが、法制度をいかに整えていくかということ
を丁寧に解説することにより、著作者のみでなく、作品や情報を利用する側にとってもより安
心して共有活動が行えるようになるといえよう。
本書では、各テーマについて、それぞれの分野の専門家が論文を投稿するかのようなスタイ
ルで構成されている。中には実際の論文を基に加筆・修正している章もあった。つまりそれだけ
専門性が高い内容が集約されているということであり、世界でもその分野の第一人者である研
究者の調査結果や見解を 1 冊の本にまとめあげた功績はかなり高い。
パブリック・ドメインといってもジャンルは多岐にわたっているが、特に中盤で「科学研究」
の世界における情報共有の重要さを解説している点に注目したい。生命科学等の研究には欠か
せないとされる素材の共有に関しては未だ発展途上にあるとのことであるが、人類が生活する
上で今後避けることのできないテーマであるだけに、将来の制度の発展を強く願うと共に、本
分野で活躍する研究者たちにとって、本書は非常に価値のある情報となるに違いない。
本書は、IT の分野を専門とする人や創作活動に関わるすべての人にとって、オンライン上の
情報共有の現状を知るのに大変役に立つものであるが、その他先述した科学研究の分野に携わ
る人、また科学に限らずすべての分野にて学術研究を行う人にも一読の価値があるといえよう。
また、専門分野に携わっていない一般の人にとっても、今後オンラインでの各種ウェブページ
の閲覧やブログ等による情報の公開を行うにあたり、本書の情報が必ず役立つときが来るはず
である。
日本国内には、パブリック・ドメインについての書籍がほどんど無いといってもよい。最近
になってデジタルアーカイブに関する書籍が多少見受けられるようになったが、いずれも日本
国内のパブリック・ドメインまたはデジタルアーカイブに重点が置かれており、EU におけるパ
ブリック・ドメインに対する活動やその現状について、本書ほど多岐にわたってかつ詳細に解
説した書籍は他には存在していない。世界規模での公開データや著作物の利用を希望する人や、
今後自らの著作物等の公開を検討している人にとって、本書は世界におけるパブリック・ドメ
インの現状を知るための必読の書といえるだろう。