詳細な解説

標本調査(意識調査)の実際
日経リサーチ
鈴木 督久
2016 年 5 月
1.意識調査と実態調査
個人を調査対象者として,主に個人の意見を質問する調査を「意識調査」と呼ぶことがあり,
この場合に対概念として「実態調査」が対置される。
ただし,この区別は曖昧な側面もあり,意識調査の中でも実態をまったく質問しない,という
ことではない。典型的には性別や年齢などで,これらは「実態」だが,意識調査においても質問
する。意識の構造を分析する場合,性別や年代との関連は重要な分析だからである。個人や社会
の意識・意見は,彼がどのように意識しているかで説明されるのではなく,彼の実態と深い関係
がある。
「人間の意識がその存在を規定するのではなくて,逆に,人間の社会的存在がその意識を
規定するのである」という指摘は,調査データ分析においても示唆的である。
意識調査の例としては,
1.
マスコミや内閣府が実施する世論調査
2.
研究機関が実施する社会調査
3.
企業が実施する市場調査(マーケティング・リサーチ)
がある。
ちなみに,ISO(国際標準化機構)で制定された調査専門の国際規格である ISO20252 Market,
opinion and social research -- Vocabulary and service requirements(ISO20252 市場・世論・
社会調査-用語及びサービス要求事項)は,国際的品質基準の諸原則を「市場・世論・社会調査」
に適用している。
「市場,世論,社会」調査が品質管理の面でも共通しているからである。統計委
員会では公的統計に対しても,ISO20252 の適用を検討している。
なお,市場調査,世論調査,社会調査に関する団体が存在する。
<市場調査>一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会
https://www.jmra-net.or.jp/index.php
<世論調査>公益財団法人 日本世論調査協会
http://www.japor.or.jp/index.htm
<社会調査>一般社団法人 社会調査協会
http://jasr.or.jp/index.html
世論調査,社会調査,市場調査に関する定義として以下を挙げる。
1
「世論調査」
公共の問題に関して社会の成員がもっている態度(例えば,特定の政策や方針に対する賛否,
ある人物や事物に対する好き嫌い,行動の意思の有無,等々)の(主として言語的な)表明
の集合のことである
(鈴木裕久(2014)「世論調査」
,In 社会調査協会編『社会調査事典』丸善出版)
世論調査の場合には,そもそも「世論」とは何か,という定義が問題になることが多く,多様
な定義が存在する。
「世論」
世論とは「世論調査の方法」によって明らかにされるものであり,われわれが目ざす対象―
―これも具体的にわれわれが定義せねばならない――のある時点におけるある問題群に対し
ての意見構造・分布の動態を言う
(林知己夫(1976)「世論をどうつかまえるか」,In 日本人研究会編『日本人研究 No.4,特集
世論とは何か』至誠堂)
林の操作的定義のほかに,世論定義の多様さについて竹下(2007)が,グリンらの 5 分類を紹
介している。
a.
世論とは個人の意見の集積である
b.
世論とは多数派の意見を反映したものである
c.
世論とは政党や利益集団間の論争から生まれるものである
d.
世論とは,ジャーナリストや政治家あるいは他のエリートが,そう名づけた意見のこと
である
e.
世論とは幻であり,実態はない。新聞やテレビなどでレトリックとして使われるだけで
ある
竹下俊郎(2007)
「メディアと世論」,In 蒲島・竹下・芹川『メディアと政治』有斐閣)
意識の測定は,身長の測定のような物理的厳密性を持たないが,少なくとも,測定方法に関し
ては守るべき手順が存在する。このため林は調査の「方法」を厳守することを強調した。すなわ
ち標本抽出という方法を基礎とし,次に,質問文の作成,さらに面接・郵送・電話などの実施手
順の標準化である。
これらの「方法」は管理可能なプロセスであるから,一貫して同じ測定装置を設置することが
できる。測定方法が同じであるという前提があって,はじめて意識の構造的変化を議論すること
ができる。どこを固定・制御し,どこを自由にするか区別することが,調査設計と調査実施管理
における重要な視点である。吉野(2008)は戦後の世論調査を概観しながら現在の世論調査の課
題を指摘している。
2
吉野諒三(2008)「科学的」世論調査の価値―歴史と理論と実践の三位一体―.日本統計学会誌.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0008667186
マスコミの世論調査の場合,測定内容は内閣支持,政党支持,政策支持が調査事項の中心に構
成される。内閣と政党の支持率は継続的に測定され,政策はその時点のテーマが設定される。例
外的に憲法に対する意見は継続的テーマとして測定されている。内閣府の世論調査は政策,およ
び政策の資するテーマが中心であり,内閣や政党に対する支持は測定していない。
「社会調査」
社会調査とは,一定の社会または社会集団における社会事象を,主として現地調査によって,
直接に(first hand)観察し,記述(および分析)する過程である
(安田三郎・原純輔(1982)
『社会調査ハンドブック 第 3 版』有斐閣)
社会調査も広い範囲を含むため,安田ら(1982)でも,上記の短い定義に続いて,補足説明を,
定義の数倍の分量を費やしている。
『社会調査事典』
(2014,丸善出版)の第 1 部第 1 項は「社会
調査とは何か」であるが,事典の「全体をご覧いただくのが最善であろう」と説明しているほど
である。
「市場調査(マーケティング・リサーチ)
」
マーケティング・リサーチ(MR)とは,企業等がマーケティング情報を得るために実施する
一連の活動である.歴史的にいくつかの定義が与えられてきたが,American Marketing
Association(AMA)は 2004 年の定義において MR の機能を「消費者・顧客・大衆とマーケ
ターを,情報を介して結びつける」と説明している.その情報は「マーケティング機会と課
題を発見・定義して,マーケティング行動を創出・洗練・評価する.成果をモニタリングし
て,マーケティング・プロセスの理解を深める」と規定したうえで「これらの問題に取り組
むために求められる情報を明示し,情報収集法を設計し,データ収集過程を管理・実行する.
その結果を分析して所見と含意を伝える」のが MR だとしている.
日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)は 2010 年のマーケティング・リサーチ綱領
で「対象に対する深く有用な理解・洞察を獲得すること,あるいは意思決定を支援すること
を目的とし,科学的な統計及び分析の手法を用いることによって,個人や組織に関する情報
を収集及び解釈すること」と定義したうえで,社会調査と世論調査も MR に含み,ダイレク
ト・マーケティングやセールス活動を含まない,と明記している.JMRA は調査対象者に不
利益を与えないことが,MR の社会的存続の基盤であることを認識して強調している.
(鈴木督久(2014)
「マーケティング・リサーチ」
,In 社会調査協会編『社会調査事典』丸
善出版)
3
2.意識調査の実例
2-1.
「世論調査」の実例
マスコミ各社は原則として,月次で世論調査を実施している。新聞社では朝日新聞社,読売新
聞社,毎日新聞社,日本経済新聞社など。通信社では共同通信社と時事通信社。テレビ局では NHK
のほか民放でもテレビ朝日,日本テレビ,フジテレビ,TBS など。このうち時事通信社だけが調
査員のよる訪問面接調査法で実施している。他社は電話調査法である。電話調査の標本抽出法と
しては RDD 法が現在の主流となっている。
各社の WEB サイトにある,最近の世論調査の方法に関する説明は以下のようになっている。
<朝日新聞社>
〈調査方法〉9、10の両日、コンピューターで無作為に作成した番号に調査員が電話をかける
「朝日RDD」方式で、全国の有権者を対象に調査した(福島県の一部を除く)。世帯用と判明し
た番号は3848件、有効回答は1858人。回答率48%。
<読売新聞社>
http://www.yomiuri.co.jp/feature/opinion/?from=ycnav3
2016 年 4 月電話全国世論調査
▽調査日:2016 年 4 月 1-3 日 対象者:全国の 18 歳以上の男女
方法:RDD追跡方式電話聴取法
有効回答 固定 526 人、携帯 584 人(回答率 固定 59%、携帯 43%)
※選択肢の右の数字は%、小数点以下四捨五入。0 は 0.5%未満、--は回答なし。
<毎日新聞社>
<調査の方法>
3月5、6日の2日間、コンピューターで無作為に数字を組み合わせて作った電話番号に、調査
員が電話をかけるRDS法で調査した。福島第1原発事故で帰還困難区域などに指定されている
市町村の電話番号は除いた。有権者のいる1736世帯から、1017人の回答を得た。回答率
は59%。
上記は新聞社 3 社の月例の世論調査に関する説明記事で,いずれも電話調査であるが,郵送調
査も実施されている。以下は朝日新聞社の調査概要。
<調査方法〉 全国の有権者から3千人を選び、郵送法で実施した。対象者の選び方は、層化無作
為2段抽出法。全国の縮図になるように338の投票区を選び、各投票区の選挙人名簿から平均
9人を選んだ。3月16日に調査票を発送し、4月25日までに届いた返送総数は2077。無
記入の多いものや対象者以外の人が回答したと明記されたものを除いた有効回答は2010で、
4
回収率は67%。
有効回答の男女比は男47%、女52%、無記入1%。年代別では20代8%、30代14%、
40代18%、50代16%、60代21%、70代16%、80歳以上7%。
NHK の WEB サイトでは,調査毎に個別の説明はないが,以下のように,調査方法を全体とし
て説明している。
http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/nhk/process/method.html
NHKでは、調査の実施にあたり、調査の目的や内容に合わせ、次のような方法で調査相手から
回答を得ています。
○個人面接法
調査員が、直接、調査相手本人に会い、調査票に従って口頭で質問をし、調査相手の回答を調査
票に記入する方法です。
調査相手本人を確認することができ、量の多い込み入った質問をすることができます。
放送意向調査や社会的・政治的争点についての世論調査などの意識調査に適しています。
○配付回収法
調査員が、調査相手に調査票を届け、回答の記入を依頼して後日受け取りに行く方法です。
生活時間調査や視聴率調査など、数日から1週間にわたって行動を記録してもらう実態調査に適
しています。
○郵送法
郵便で調査相手に調査票を送り、回答記入後に返送してもらう方法です。
調査相手が広い地域に分散しているなど調査員が訪問するのが困難な調査に適しています。
調査員を使わないので経費が安くすみますが、関心の低いテーマや質問量の多い込み入った調査
の場合には返送率が低くなるため、督促が必要です。
○電話法
調査員が、調査相手に電話をかけ、調査票にしたがって口頭で質問をし、調査相手の回答を記録
する方法です。結果が迅速にわかることなどが利点です。
以前は、名簿方式(住民基本台帳などの個人名簿から抽出した調査相手の電話番号を調べたり、
電話帳から抽出して調査を実施)で行われていましたが、現在では、RDD(Random Digit Dialing)
方式という、電話番号をランダムに発生させ、その番号に電話をかけ、かけた世帯の対象者から
調査相手を等確率で選ぶ方法が一般的となっています。
NHKでは短期間で大量の調査が必要な選挙調査などをRDD方式で実施しています。
電話法による世論調査について,比較的詳しい説明が日経リサーチの WEB サイトにある。
http://www.nikkei-r.co.jp/phone/method.html
調査の方法
5
標本抽出法
調査の母集団:全国の有権者
標本の抽出枠:全国の固定電話加入世帯
標本の大きさ:約 1400
【1】全国で稼動中の固定電話の局番(市外局番+市内局番)に、加入者番号(0000~9999)を付加した番号集合を抽出
枠とします。
【2】電話番号局番を小さい順に配列した上で、系統抽出法(等間隔抽出法)で約 1 万 6 千件の電話番号の属する局番を
無作為抽出します。
【3】抽出された局番からそれぞれ1個の加入番号を単純無作為抽出します。(0~9999 の一様乱数を発生させて、その乱
数を4桁の加入番号とします。)
【4】こうして抽出した電話番号標本のうち、現在使われていない番号を自動判定システムで除去します。この結果、平均
的に 4000 件の稼動番号が得られ、この電 話番号に日経リサーチのオペレーターが電話をします。
【5】すべての電話をかけた結果、約 1400 件が会社の電話などでなく、世帯であることが経験的に期待できます。 この世
帯のうち有権者のいることが確認された世帯が調査対象となります。
【6】調査対象となった世帯のうち、約 900 件以上の協力を得ることを目標とします。
【7】上記のような標本抽出法を RDD 法といいます。RDD は「Random Digit Dialing」(乱数番号)の略語で、電話帳に自宅
の電話番号を掲載している世帯も掲載していない世帯も含めて、すべての世帯電話番号か ら無作為標本を作ることが
できる点が特徴です。
6
調査実施法
【1】約 4 千件に対して電話をかけさせていただきます。
【2】世帯電話でない場合は、調査協力を依頼しません。
【3】世帯電話の場合はオペレーターが調査の趣旨を説明してご協力をお願いします。
【4】ご協力いただける場合には、世帯内の有権者の人数を確認させていただきます。
【5】有権者の人数以下の整数乱数を発生させ、「年齢が上から○(乱数)番目の人」というように、回答していただく方を決
めさせていただきます。
【6】回答者が電話に出た方である場合は、そのままアンケートを始めさせていただきます。
【7】回答者が別のご家族である場合は、電話口に交代していただき、質問を始めます。回答者がご不在の場合にはご帰
宅の時刻を確認した上で、時間をおいて再びお電話させていただきます。いったん決まった回答者を変更することはでき
ませんのでご了承ください。
【8】調査期間は通常、週末の 3 日間、実施時間帯は原則として 9:00~21:30 です。
集計方法
「有権者のいる世帯」と確認できた集合を抽出標本とします。
そのうち「回答を得られた有権者」の集合を回収標本とします。
回答率は「回収標本÷抽出標本」で定義します。
内閣支持率などの比率の算出は、回答を得られた件数(回収標本)を分母とします。
例えば、抽出標本=3000、回収標本=2000 で、内閣を「支持する」と回答した人数=1000 の場合は、
回答率=67%(2000÷3000)、内閣支持率=50%(1000÷2000)です。
集計の際には「世帯内有権者数」n と「世帯の有する電話番号数」t で「n/t」の重み調整をします。
例えば、世帯内有権者数 n=1 で電話番号数 t=1 の場合の回答者に与える重みは n/t=1 です。世帯内有権者数 n=3 で電
7
話番号数 t=2 の場合の重みは n/t = 3/2 = 1.5 となります。
この他,マスコミ各社の WEB サイトに世論調査の概要が掲載されている。
時事通信
http://www.crs.or.jp/oshirase/about_jp16.htm
NHK
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/political/2016.html
テレビ朝日
http://www.tv-asahi.co.jp/hst/poll/
日本テレビ
http://www.ntv.co.jp/yoron/
TBS
http://news.tbs.co.jp/newsi_sp/yoron/
フジテレビ
http://www.fnn-news.com/yoron/
内閣府の世論調査のうち,
「国民生活に関する世論調査」の概要。
http://survey.gov-online.go.jp/index.html
1.調査目的
現在の生活や今後の生活についての意識,家族・家庭についての意識など,国民の生活に関する
意識や要望を種々の観点でとらえ,広く行政一般の基礎資料とする。
2.調査項目
(1)現在の生活について
(2)今後の生活について
(3)生き方,考え方について
(4)政府に対する要望について
3.関係省庁
内閣府(政府広報室)
4.調査対象
(1)母集団
全国 20 歳以上の日本国籍を有する者
(2)標本数
10,000 人
(3)抽出方法 層化 2 段無作為抽出法
5.調査時期
平成 27 年 6 月 18 日~7 月 5 日
6.調査方法
調査員による個別面接聴取法
7.調査実施機関
8
一般社団法人 新情報センター
8.回収結果
(1)有効回収数(率) 5,839 人(58.4%)
(2)調査不能数(率) 4,161 人(41.6%)
o
-不能内訳-
o
転居 394
o
長期不在 233
o
一時不在 1,423
o
住所不明 97
o
拒否 1,842
o
被災 0
o
その他(病気など) 172
2-2.
「社会調査」の実例
<日本人の国民性調査>
統計数理研究所の WEB サイトに説明(下記)があるほか,学術雑誌『統計数理』に詳細な報
告が掲載される。
http://www.ism.ac.jp/~taka/kokuminsei/index.html
調査は、個別面接聴取法により実施しています。
調査対象と調査方法
「日本人の国民性調査」はすべて、20 歳以上 (ただし第 11 次・第 12 次調査は 20 歳以上 80 歳未満、第 13 次調査は
20 歳以上 85 歳未満) の男女個人を調査対象とした標本調査です。
各回とも層化多段無作為抽出法で 2,254~6,400 名の標本を抽出し、個別面接聴取法で実施しています。
調査の内容
調査項目の内容としては、できるだけ広い範囲から国民性の特徴をよく表す題材を選ぶようにしています。多くの項目
が繰り返し調査されていますが、必ずしも全ての項目が毎回調査されているわけではありません。
どの項目にも、全ての実施回をとおして共通した#番号がつけられています。さらに、全ての調査項目は、「§1基本項
目」から「§9日本人・人種」まで、9 つの領域のいずれかに分類されています。
調査票
第 1 次・第 3 次・第 4 次全国調査では、用いた調査票はそれぞれ 1 種類です。 1958 年 (昭和 33 年) の第 2 次全国調
査では、調査票は青色調査票と白色調査票の2種類があり、青色は問 1 から、白色は問 101 から始まっています。
1973 年 (昭和 48 年) の第 5 次全国調査以降の調査では、それまで継続してきた質問項目を主とする調査票 (K 型調
査票とよぶ) と、新規の質問項目に重きを置く調査票 (M 型調査票とよぶ) との 2 種類の調査票を用いています。K 型と
9
M 型とを用いるのは、一人の対象者にかかる負担 (面接時間の長さ) を軽減するためです。調査にあたっては、標本を
二分し、一方の標本には K 型調査票を、もう一方の標本には M 型調査票を用いました。
<日本人の意識調査>
単行本『現代日本の意識構造 [第八版]
』として NHK から出版されているほか,雑誌『放送
文化と研究』に報告が掲載される。
http://www.nhk.or.jp/bunken/index.html
「現代の生活意識」調査
調査時期:2013 年 2 月 23(土)~3 月 3 日(日)
調査方法:配布回収法
調査相手:全国の 16 歳以上の国民 3,600 人
調査有効数(率)
:2,547 人(70.8%)
<SSM 調査>
日本における多数の社会学者による歴史のある社会調査。
http://www.sal.tohoku.ac.jp/21coe/ssm/ssm.html
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/2015SSM-PJ/index.html
調査実施機関の WEB サイトにある調査概要。
一般社団法人
中央調査社は、
社会階層と社会移動調査研究会(研究代表者
東京大学大学院人文社会系研究科教授
白波瀬佐和子)からの委
託を受けて、
「人生のあゆみと格差に関する全国調査」を実施しております。
■
調査の目的
1955 年以来 10 年ごとに実施されてきた「社会階層と社会移動に関する全国調査(SSM調査)」の第7回目にあ
たります。他国に類を見ない速度で少子高齢化を経験した日本における家族、教育、働き方、そして人々の意識
の実態とその変化を明らかにすることが本調査の目的です。
■
調査をお願いする方
全国の 20 歳以上 79 歳以下の日本国籍を有する方
■
16,000 人
調査の進め方
調査員が質問を読み上げ、それに対してお答えいただく面接調査と、調査票をお預けし、対象者の方に調査票
を記入していただく留置調査で行います。
■
調査の時期
2015 年1月下旬~
■
調査結果の公表
調査結果は、社会階層と社会移動調査研究会のホームページで公表予定です。
10
上記の3つの社会調査は,いずれも長期間にわたって継続的に実施されている。調査法の観点
からも日本を代表する社会調査である。
また,同一の調査対象化に対して長期的に実施している代表的な調査もある。
家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」
http://www.kakeiken.or.jp/jp/jpsc/about.html#titleandcrumbs
最近,継続的に実施している社会調査としては,JGSS もある。
大阪商業大学 JGSS 研究センター
http://jgss.daishodai.ac.jp/surveys/sur_top.html
また,歴史的に重要な「日本人の読み書き能力調査」がある。1948 年すなわち戦後まもなく実
施された,本格的な科学的方法による標本調査と位置付けられている。日本語の戦後史の観点か
ら金田一春彦『日本語』や大野晋『日本語の教室』
(いずれも岩波新書),井上ひさしの小説「東
京セブンローズ」にも登場する。標本調査の方法論の側面と,GHQ による日本語のローマ字化政
策という調査目的の両面から歴史的調査である。
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0008840808
この標本調査は、後のサンプリングによる全国調査のモデルとなるものであった。即ち、全国規
模で、層別多段無作為抽出法によるサンプルの抽出は現今では、どこでも行われていることであ
るが、この調査が初めての実施であった。
第一次抽出単位としては、全国(但し、外海に点在する島嶼を除く)の区、市、郡とし、これを
層化し(郡部は更に町村単位で層化し)
、各個人の抽出される確率を同一にすることとし、人口に
比例した確率で、区、市、郡を抽出し、郡部の場合は更に町村の抽出を行った。層化に当たって
は、調査の目標である「よみ書き能力」に関して、なるべく等質となるように行った。層化に当
たっては、都市部に関しては、
「先ず、産業率によりその構成が同じ様なものに区分、更に大工業
地区及び工業地区に分類、次にラジオ聴取率、専門学校以上の学校数、交通、地理的条件、歴史
的状況により層化」し、郡部に関しては、
「産業構成により層化、次にラジオ聴取率、地理的情況、
人口密度等により層化」し、郡部の中の町村に関しては、
「生態学的に同一と見なせるものに層化」
する事によって行われた。この層化に用いた項目も、各項目間(例えばラジオ聴取率と専門学校
以上の学校数、等)の関連を、量的な項目に関しては相関係数を計算するなどして、その項目を
層化基準に用いる事の妥当性を検討した上で行った。
サンプル数は、一定の精度が保たれるように計算され、17,100 という数が得られ 1)これに欠
席率を考慮し、最終的に全国でのサンプル数は 21,008 となった。なお、サンプリングの実施に
当たっては、調査地点の抽出は元より、各調査地点ごとの被調査者の抽出に当たっても、スター
トナンバーと、抽出間隔を定めることも中央(第 3 研究部)で行い、各調査地点に携わる者の裁
量により行うことを避け、サンプリングの企画実施が誤りなく行われるように配慮した。
この調査のあらましのスケジュールは、1948 年 3 月の第 1 回委員会に始まり、5、6 月に予備調
11
査、本調査は 8 月 10 日前後、9 月採点開始、10、11 月に再調査数ヶ所、吟味調査、11 月末から
12〜3 月初旬に学校調査、報告書提出、5 月出版準備、6 月発表会、1950 年 4 月初校、1951 年 4
月出版、という段取りであった。
高倉節子(2008)
「日本人の読み書き能力調査」のことなど(世論調査の 60 年).日本世論調査協
会報 (101).
3.調査の方法
意識調査も全数調査で実施することは少なく,標本調査として実施されることが多い。母集団
が有権者全体,消費者全体,国民全体と大規模であるためである。測定手法としては質問紙を使
った定量的調査として計画され,訪問調査,郵送調査,電話調査,WEB 調査などが適用される。
「訪問面接法」
調査員が対象者を訪問し,面接しながら回答を調査員が記入する。対象者には調査票を見せな
いで実施するのが原則(回答選択肢のカードを見せることはある)。対象者は質問内容を先にみる
ことはできない。調査員の力量が重要。調査員はある種の測定装置。協力依頼を対面で実施する
ことで,高い回収率を得られる優れた手法だとされてきたが,近年では単身世帯の増加,プライ
バシー意識の高まり,生活時間の多様化など,さまざまな社会的環境変化によって回収率も低下
している。調査員により同じ測定刺激を維持するための教育・訓練も重要。調査員により回収率
に差ができる。大規模な調査では,多数の調査員が必要になり,力量に差が出る。
「読み書き能力
調査」は集合調査である。
「訪問留置法」
調査員が訪問・依頼するが,調査票を置いて,後日回収する点が面接法と異なる。対象者は調
査票の全体を見ることができる,という測定刺激の相違がある。この点では郵送法と同じ。不在
でも調査票を郵便箱に入れてはいけない(郵送法になってしまう)
「郵送法」
近年,林英夫の研究を,朝日新聞社の松田が実践し,高い回収率を得られることを示して再評
価されている。訪問調査から郵送法に変更される事例も増えた。日銀のアンケート調査もその一
例である。内閣府でも実験調査を実施した。
「行動計量学」Vol. 37(2010) No. 2. 特集 郵送調査法 — 新たな時代の主力手法となりえるか
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbhmk/37/2/_contents/-char/ja/
12
内閣府の世論調査に関する有識者検討会
http://survey.gov-online.go.jp/kentoukai/index.html
日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」
http://www.boj.or.jp/research/o_survey/index.htm
「電話法」
調査対象者に電話をかけて調査員(電話オペレータ)が質問しながら回答を得る方法。日本で
は世帯に固定電話が普及した 1980 年代後半から報道機関の世論・選挙調査で主要な方法となっ
た。日本初といわれる電話世論調査は産経新聞が 1969 年から 1977 年まで首都圏と近畿圏のパネ
ル標本で実施したが、毎回独立の無作為標本による全国電話調査は日本経済新聞が 1987 年から
始めた。面接法と電話法で内閣支持率の相関は高く、トレンドは類似傾向を示す(表 1)
。
表1. 報道各社による小泉内閣支持率の相関
相関係数は各社の月平均支持率を対応させ算出
対角は各社の調査実施の月数。上三角はペアワイズ件数
* 読売と時事は面接法。他3社は電話法
朝日
毎日
日経
読売*
時事*
朝日
59
0.961
0.967
0.956
0.952
毎日
47
52
0.964
0.966
0.936
日経
33
30
36
0.927
0.940
読売*
55
49
34
62
0.953
時事*
58
51
35
62
65
電話調査は訪問調査や郵送調査に比べ、多くの質問はできない欠点があるが、報道機関の世論
調査では内閣・政党・政策の支持や投票意向など十数項目に限定できること、さらに調査準備か
ら実査・集計まで数日で完了するため、速報性を重視する報道機関に普及した。調査員を全国に
配置する必要はなく、電話発信会場に集めて教育訓練・運営管理できる。ひとりの調査員が担当
できる調査対象数が訪問調査より多い点でも効率的である。
実査では CATI(Computer Assisted Telephone Interviewing)システムを使う場合が多く、調
査員は LAN に接続された各自のコンピュータ画面の番号に電話して質問文を読みながら回答を
入力していく。回答の論理チェック、選択肢のランダマイズ、質問画面の自動分岐など、調査員
の負担軽減やミス防止を支援できる。回答データはサーバーに随時蓄積されるので、調査全体の
進行管理、調査員ごとの回収状況が正確かつ迅速に確認できる。質問紙に回答結果を記入して進
める電話調査は PAPI(Paper and Pencil Interviewing)と呼ばれている。
「WEB 法」
インターネット調査,オンライン調査などとも呼ばれる。紙ではなく WEB であり,調査員や
郵便や電話ではなくインターネットが媒介であるための名称である。WEB 法とだけいうと,一般
13
にはオンラインを指すが,WEB 調査票をオフラインで実施することも可能であるので,厳密には
さらに定義しておく必要がある。電子メールや郵便で調査票(HTML,EXCEL,PDF など)を
対象に送り,適当なブラウザで回答できる。選挙予測の出口調査ではモバイル端末で WEB 調査
票を使うこともある。
民間の市場調査では,WEB 調査は,2005 年以降,売上構成比で最大の手法となっている。2000
年以降に誕生したインターネット調査会社のビジネスモデルは数百万人規模の調査モニターを用
意して,早く・安く・簡単に調査を実施するというもので,これが普及した。
そのほか「組み合わせ」をすることもできる。調査員が訪問して協力依頼し,回答結果は郵送
することができる。WEB でも紙でも,対象者に選択させることもできるが,これは実態調査では
問題は少ないが,意識調査では,回答環境の相違が回答傾向に影響する可能性(危険性)がある。
国勢調査は,訪問調査,郵送調査,WEb(オンライン)調査を組み合わせている。
4.標本抽出法
4-1.無作為抽出法
「読み書き能力調査」において戦後日本の無作為標本抽出法の実践的手順が確立された。その
後の学術研究機関の社会調査,内閣府やマスコミ各社の世論調査でも,その方法が踏襲された。
① 枠母集団:
住民基本台帳,ないしそこから有権者を取り出して作成した選挙人名
簿。目標母集団と枠母集団(標本抽出枠)は常に同一であるとは限らず,一般に区別さ
れる。
② 二段抽出(多段抽出)
:
調査員が訪問するため,PSU で「地点」を抽出し,そこから
SSU として個人や世帯を抽出する。PSU の地点は国勢調査区(基本単位区)や,住民基
本台帳の行政区分としての町丁字などを使う。両者には若干の相違があるが,いずれに
せよ地点単位で年齢別人口,世帯数が記載された名簿が(法的な制約のもとに限定的に
だが)利用できる。この名簿が利用できない場合は,住宅地図などを使う。これをエリ
アサンプリングと呼ぶ。
③ 層化抽出:
地点は層化されることが多い。二段抽出によって拡大する誤差が発生
する一方で,層化効果によって誤差を小さくするのが目的である。当初は,細かな層別
が実施されていた。内閣府では現在でも踏襲している。この欠点は小さな層があると,
対象者を同数割当できない場合が生じることである。統計数理研究所の「国民性調査」
では 1988 年の第 8 次調査から細かな層化をやめて欠点を克服すると同時に,同等の層
化効果のある方法に変更した。
④ 確率比例抽出: PSU を抽出する場合,確率比例抽出と等確率抽出を考えることができ
る。実際には確率比例抽出を選択することが多い。選挙予測の出口調査では等確率抽出
を採用している場合もあるようだ。理論的にはどちらでもよいが,調査員管理の実践的
14
観点からは確率比例抽出が便利である。各調査員が担当する地点の標本サイズ(対象者
の人数)が同じになるからである。確率比例抽出で地点を抽出する際に,
「地点」の大き
さが異なることが不便になることがある。併合や分割で対処する方法のほか,
⑤ 系統抽出:
等間隔抽出ともいう。無作為抽出の実践的な手順による実現方法。ラ
ンダムスタートポイントから,適当な抽出間隔を決めて要素を抽出する。
典型的な,全国規模の調査員訪問調査のための無作為標本調査は,PSU を層化したうえで確率
比例抽出し,各地点で一定数の SSU を系統抽出する,という組み合わせを適用する。例外として
有名な例は,ビデオリサーチによる視聴率調査である。同社の WEB サイトの説明によれば関東
地区の 600 世帯を(一段で)系統抽出する。
http://www.videor.co.jp/rating/wh/04.htm
二段抽出を実施する場合,第一次抽出単位(PSU)のサイズを,ほぼ均等にすることが多い。
これは抽出作業や実査管理を容易にしながら確率抽出をするためである。たとえば,PSU として,
しばしば利用される国勢調査区には,確率比例抽出を容易にするために調査区ウエート(15 世帯
が1ウエート)が設定されている。
標本設計が厳密にされている事例として有名な総務省統計局の労働力調査では,1調査区あた
りの調査世帯数をほぼ 15 とし,地点抽出は調査区ウエートに準拠した確率比例抽出を採用してい
る。もちろん,確率比例抽出をする限り,数学的には PSU が同サイズである要請はない。しかし
実践的な必要から労働力調査では,もしも著しく大きな調査区があれば「分割」して均等化を目
指している(平成 20 年 4 月「労働力調査 標本設計の解説」)。
浅井晃(1987)が「ワークロード」と呼んだ概念も、第一次抽出単位(PSU)の無作為抽出に
あたり便宜的に構成したもので,浅井は「実在するものではなく,抽出操作の便宜上導入した概
念上のものであって,実態に即してどう設定してもよい」と述べている。
実際,国勢調査区とは住居表示に従属せずに,国勢調査の実践に即して設定したものである。行
政区画とは別の観点(便宜)から,川や橋などの地理的事情も含めて定義してあり,
「○○一丁目
の一部と□□三丁目の一部」のような表現になっている調査区もある。
林知己夫・村山孝喜(1964)の方法は,上記の考え方を敷衍したものと位置づけられる。たと
えば1地点あたり n 人を調査対象とし,抽出間隔 t で系統抽出する場合,全対象者が,n×t=nt
人で構成された単位に分割されている,という地点概念を導入している。
林・村山は「このように 200 世帯の集団を1地点と考え,先に抽出した 100 世帯は,おのおの
100 地点の最初の世帯と考える。そうすると一調査地点あたり 10 世帯抽出するには,200÷10=
20 世帯のインターバルで等間隔抽出すればいいことになる。各地点の構成は固定的に考えず,地
点抽出で抽出された世帯から始まる 200 世帯を第一次抽出単位の大きさと考えるのである。こう
考えれば,第一次抽出単位の大きさが等しい 2 段抽出となるのである」と説明している。
すなわち,確率比例抽出の PSU のサイズがすべて均等な二段抽出であり,一段抽出ではない。
もしも一段抽出ならば,1億人から直接に(一段階で)個人を定めた人数だけ系統抽出をしなけ
15
ればならない。すべての PSU が同じサイズの「地点」は,行政区分としては存在しない概念的な
地点である。いわば抽出のために導入した「仮想地点」である。
4-2.具体例
以下の表は,意識調査に設計に検討例である。
1.目標母集団
○年○月○日現在における,全国の満20歳以上の個人。
※「個人」と定義し,
「日本人」あるいは「有権者」とは定義しないか?
2.枠母集団
標本抽出時点の住民基本台帳に登録されている満20歳以上の個人。
3.標本抽出枠(名簿)
住民基本台帳(または選挙人名簿)
4.計画標本サイズ
4,000人
5.標本抽出方法
層化二段無作為抽出法
6.地点(第一次抽出単位:PSU)数
267地点
7.層化の方法
全国の市区町村を「区部」
「市部・人口 20 万人以上」
「市部・人口 20 万人未満」「郡部」の4
層に分ける。人口統計は最新の住民基本台帳人口を使う。
※層を4つにする理由,および層化の詳細は「10.層化について」で後述する。
8.調査地点の抽出
住民基本台帳から作成される「全国人口統計マスター」
(財団法人国土地理協会)のデータベー
スを使い,第一次抽出単位(PSU)として市区町村の「町丁目」を確率比例抽出する。
町丁目とは国土地理協会が発行する 11 桁の住所コードに対応する。たとえば「千代田区神田司町
1丁目」が最小単位として 11 桁で表現されている。人口統計の集計レベルとしては「男女別」人
口まで収録されているが「年齢別」の統計はない。
確率比例抽出の実行は系統抽出法(等間隔抽出法)を適用して以下の手順で実施する。
[1] 各層内で市区町村を「10.層化について」で説明するように並べる。町丁目はそれぞれ
の市区町村の下に 11 桁コード順に並んでいる。
[2] 層のサイズN h を層の割当地点数m h で割った値d h を,その層の地点抽出間隔とする。d h は整
数に丸めず浮動小数点で扱う。N h は層内の全人口である。対象条件である「満20歳以上」
の人数ではない。これは「全国人口統計マスター」に年齢別人口統計がなく全人口統計し
16
か収録していないためである。
[3] 区間[0, d h ]の一様乱数を発生させ,各層の無作為開始点c h として定める。c h は整数に丸
めず浮動小数点で扱う。
[4] 層の開始点c h およびc h に割当地点数に達するまで順次抽出間隔d h を足していった値c h +d h ,
c h +2d h , …, c h +(m h −1) d h を,それぞれ整数に切り上げ(小数部を切り捨てた数値に1を加
える)
,この順番にあたる個人を各調査地点の個人抽出作業の開始者とする。
[5] この開始者の所属する町丁目が第一次抽出単位(PSU)である。この時,抽出された開始
者の位置は,抽出された町丁目において先頭から何人目の個人から抽出するかという個人
抽出の開始値として決まる。
9.調査対象者となる個人の抽出
抽出された町丁目(PSU)のある役所に出向き,個人抽出の開始値から個人抽出間隔ごとに「満
20歳以降の個人」を,その地点に割当られた人数に達するまで以下の手順で系統抽出(等間隔
抽出)する。
(後述の「15.個人の系統抽出について)を参照)
[1] 地点抽出の際に決まった個人抽出の開始点まで人数を数えて,開始点の個人を確認する。
対象条件である「満20歳以上」であれば1人目として抽出する。対象条件でない場合は,
対象条件の人が出現するまで進んで,対象条件を満たす人を1人目として抽出する。
[2] 個人抽出間隔は21とする。性別の自己相関を配慮して奇数間隔とし,訪問ではなく郵送
法であるため大きな間隔でもよいことから21とする。
[3] 1人目から対象条件を満たす人を数えて21番目の人を2人目の対象者として抽出する。
以下,3人目以降も同様に間隔21で抽出して,その地点に割当てられた人数に達するま
で続ける。
[4] 割当てられた人数を抽出しないうちに町丁目(PSU)の末尾に達した時は,「次の地点」
に個人抽出間隔を保持しながら移動する。「次の地点」とは,地点抽出の[1]で並べた
地点の順番に従う。
[5] 住民基本台帳が町丁目よりも大きな単位で提供された場合は上記の手順が使えない。たと
えば市全体で50音順配列になっている場合などである。この場合の個人抽出の方法は別
途定める。
10.層化について
標本調査において層化無作為抽出をすると単純無作為抽出よりも推定精度を高める(標準誤差
を小さくする)効果があるため,多段抽出によって精度を悪化させるような全国調査では層化抽
出の併用方式が多用されている(層化多段抽出)
。かりに層化基準が悪い(層間の異質性が低い=
層間分散が小さい)場合でも,精度は単純無作為抽出と同じかそれ以上となる。
しかし,この効果と層の数をいくつにするかという点に関しては,層の数を増やしても効果は大
きくないことが知られている(Cochran, W.G. (1977), 浅井晃(1987)など)
。たとえば浅井(1987)
は「層の数は3までで多くの場合十分」と述べている。
17
層の数が数十もある場合の実践的な欠点は,地点ごとの標本サイズが層間で大きく変動するこ
とである。各層に対して標本サイズではなく地点数を割当てると地点間の変動はなくなり実践的
に便利であるが,理論的な裏づけがないため統計学的な意味で統計の品質を低下させる(調査の
品質ではなく)
。各層の標本サイズは理論的に疑念の余地のない比例割当かネイマン割当をすべき
である。ネイマン割当は事前情報が必要で推定法も複雑なので,通常は比例割当が利用される。
そこで層の数を4層にしながら,層化効果を高めるために層内の市区町村の配列を工夫する。
系統抽出法が一種の層別抽出法であることに注目した方法であり,統計数理研究所の「日本人の
国民性調査」が 1988 年調査から採用した事例を参考にする。
層ごとに市区町村を並べる際に,区部と郡部に関しては市区町村コード順に並べる。市部に関
しては,層内で市区町村を都道府県別にグループ化し,さらに各都道府県の内部では市町村を人
口規模の昇順または降順に並べる。具体的には都道府県が変わるごとに昇順と降順を交差させる。
このような配列をしたうえで系統抽出することで,層を細かくした場合と同等の層化効果を得る。
11.国勢調査区について
国勢調査統計と住民基本台帳統計は全体的な集計結果を比較する限り,類似しているのだが細
部では異なる。主な相違は住民票登録住所と現住所が異なる人々が存在する空間的差異に起因す
る。大都市では国勢調査の人口が住民基本台帳より多い傾向がある。
また住民基本台帳が毎日更新されているのに対し,国勢調査は最大5年前であり,
「統計の新しさ」
の点で差異がある。データベース化される時間差でみても,住民基本台帳は年次更新(財団法人
国土地理協会)で,国勢調査は5年次更新(財団法人統計情報研究開発センター)である。
現在の標本計画をみると,いくつかの場面で国勢調査と住民基本台帳が混合して利用されてい
る。このことが抽出枠に誤差を混入させ,抽出作業量の増大要因となっていると考えられる。た
とえば,
•
層化は住民基本台帳で定義し,層別の地点抽出は国勢調査データを使用する。
•
地点(PSU)の定義は国勢調査区とし,個人抽出は住民基本台帳を使用する。
国勢調査区を使っている代表的な標本調査として,たとえば労働力調査では住民基本台帳を使
わない。国勢調査区の住居をすべてリストアップしてから無作為抽出している。国勢調査区の定
義は地理的境界情報として利用し,国勢調査区の中の世帯をその都度,現地で再リスト化するこ
とで時間的差異に対処しているといえる。労働力調査の枠母集団の定義は明確で一貫している。
国勢調査区を PSU として利用する理由として,層化条件に国勢調査で調べた調査区特性(産業
地区,住宅地区など)を使うことがあげられる。しかし層化条件としては行政区分と人口規模し
か使っていないので,層化の観点から国勢調査区を使う理由はない。
ちなみに統計数理研究所の「日本人の国民性調査」では層化基準として国勢調査の人口統計を利
用していると書かれているが,従来からの継続性を尊重しているためで,実際には住民基本台帳
や人口動態統計などの情報で補正した直近の推計人口を利用するなど最新の人口統計を利用して
層化している。
枠母集団の定義という観点からも,抽出作業の観点からも,国勢調査と住民基本台帳の二種類
18
の統計を標本計画に混在させないほうがよい。鈴木達三ら(1998)は,国勢調査区と住民基本台
帳の対応に関する諸問題を列挙したうえで「これらの問題は 1976 年度研究の段階から進んでい
ない」と述べ,未解決のままであることを示している。
国勢調査区の現地リスト化の作業量は膨大であり,実際に個人抽出する台帳としては住民基本台
帳を使うことを考慮すると,一貫して住民基本台帳を使うことが望ましい。とくに訪問調査では
なく郵送調査であることを考慮すると,調査員が訪問するための便益として作られた国勢調査区
のメリットは少ない。
国勢調査区の人口は平均的に 130 人程度で以下のように分布している。現在の標本計画と同じ
条件で後置番号 5,6,7,9 を除いている。1,000 人以上の調査区が3つあるが,いずれも社会施設・
病院(後置番号4)である。
平均
: 139
標準偏差: 54
中央値 : 128
ヒストグラム
# 箱ひげ図
1650+*
1
*
.
.
.
.
.
.*
2
*
.*
4
*
850+*
3
*
.*
13
*
.*
26
*
.*
83
*
.*
506
*
.*
5509
0
.********
93252
0
.************************************************600202 +--+--+
50+**********************
264824 +-----+
----+----+----+----+----+----+----+----+----+--* が表す度数 : 12505 度数
比較のために一般調査区(後置番号 1)のみでの分布は以下のようになっている。
平均
: 135
標準偏差: 52
中央値 : 130
ヒストグラム
975+*
.*
.
.
.*
.*
.*
.*
.*
.*
# 箱ひげ図
1
*
1
*
3
3
4
5
17
24
19
*
*
*
*
*
*
.*
102
*
.*
275
*
.*
1014
0
.*
4133
0
.***
18710
0
.**********
73366
|
.*****************************
223427 +-----+
.************************************************371793 *--+--*
.****************************
210611 +-----+
25+****
26280
0
----+----+----+----+----+----+----+----+----+--* が表す度数 : 7746 度数
12.仮想地点について
地点を確率比例抽出する際の第一次抽出単位(PSU)は町丁目であるが,若干の注意と確認が
必要である。
典型的な確率比例抽出は,サイズの異なる PSU をサイズに比例した確率で抽出し,第二次抽出
単位(SSU)は単純無作為抽出する。系統抽出の場合は PSU のサイズに応じて SSU の抽出間隔
は異なる。この二段階を通して最終抽出単位は等確率で抽出される。
PSU
300
70
150
350
SSU
15
15
15
15
PSU抽出確率
0.400
0.093
0.200
0.467
SSU抽出確率
0.050
0.214
0.100
0.043
PSU×SSU
0.02
0.02
0.02
0.02
870
図1 PSUを確率比例抽出,SSUを等確率抽出する二段抽出
各ステージの抽出確率の積が等しくなる
しかし実際に実施されている多くの二段抽出による標本調査では「仮想地点」とでもいうべき
概念が導入されている。
すなわち「15人×21間隔」=315の等サイズの仮想地点が存在しているとみなしている。
行政上の住所(町丁目)は系統抽出の開始点を識別するための標識に過ぎないことになる。仮想
地点という用語は定着しているわけではないが,満 20 歳以上の 1 億人を北海道から沖縄まで並べ
たうえで,315人ずつのブロックに分けられている状況を想像すればよい。これはどの地点で
も個人抽出の間隔を21などに固定することで必然的に導入される概念である。ちなみに前田忠
彦・中村隆(2000)は,このような仮想地点と同じ概念を「調査単位集団」と呼んでいる。
もしも典型的な確率比例抽出を考えて,町丁目などの現実の「地点」から個人抽出するとなると,
異なるサイズの地点において単純無作為抽出をするか,系統抽出をすべきである。系統抽出の場
合はサイズに応じて常に異なる抽出間隔が計算される。
20
A市1丁目
A市2丁目
B市A町
C市F町
D市K村
地点あたり「15」人を,抽出間隔「21」で設定した系統抽出の場合は,大きさ「315」の仮想地点の集合となる
図2 仮想地点のイメージ(行政上の住所区分との対応図)
13.選挙人名簿について
日銀の調査においても選挙人名簿を利用できる可能性がある。20 歳以上の名簿であり抽出員の間
違いを防ぐ効果がある。配列順が統一されている。投票区の大きさは校区程度であり,ちょうど
よい。閲覧条件は「政治・選挙に関する公共性の高い調査」であるが,経済・金融政策の立案に
使われる世論調査も政治関係だと認められる余地がある。
マスコミの世論調査では選挙人名簿を利用している。実は各社が同じ申請を選挙管理委員会に出
すため,現在は朝日新聞社,読売新聞社,毎日新聞社,統計数理研究所の4機関が連合して選挙
人名簿に関する統計データを毎年,閲覧申請してデータベースを作成している。
もし選挙人名簿の閲覧が許可されれば住民基本台帳ではなく,満20歳以上が抽出された選挙
人名簿を抽出枠とすることができる。ただし住民基本台帳のほうが更新頻度は高い。選挙人名簿
は原則として年4回(定時登録)
,および選挙前(選挙時登録)である。
ヒストグラム
18500+*
.
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
9500+*
.*
.**
.***
.*****
.*******
.**********
.*************
.*******************
500+************************************************
----+----+----+----+----+----+----+----+----+--* が表す度数 : 510 度数
# 箱ヒゲ図
1
*
1
*
2
*
3
*
4
*
19
*
38
*
70
0
186
0
369
0
713
0
1291
0
2145
|
3319
|
4807
|
6364 +-----+
9487 *--+--*
24479 +-----+
図3 投票区の有権者数の分布
21
全国の投票区は 2004 年時点で「53,298」箇所(有権者0の投票区 10 箇所を含む)あり,投票
区あたりの有権者数の平均は 1930 人。最大の投票区は 18,234 人で,残りは1万人未満である。
有権者数に関する統計量は以下の通り。
平均
: 1,930
標準偏差: 1,988
中央値 : 1,180
14.町丁目の分布
ヒストグラム
9750+*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.*
.**
.***
.****
.********
.*****************
250+************************************************
----+----+----+----+----+----+----+----+----+--* が表す度数 : 2062 度数
# 箱ひげ図
48
*
78
*
77
*
107
*
109
*
147
*
169
*
236
*
312
*
438
*
643
*
891
*
1324
*
1850
0
2867
0
4562
0
7618
0
14842
|
33293 +--+--+
98943 *-----*
図4 町丁目の人口の分布(1万人以上の町丁目 389 件を除く)
(財)国土地理協会「全国人口統計マスター」)に収録された住民基本台帳(2007 年 4 月 1 日)
による町丁目(11 桁住所コードに対応した区分)は全国で「176,224」箇所ある。無人(人口ゼ
ロ)の町丁目を除くと「168,943」となる。投票区に比べるとバラツキも大きい。1万人を超える
町丁目が 389 件あり,最大は 48,336 人。人口に関する統計量は以下の通り。
平均
: 721
標準偏差:1,007
中央値 : 374
15.個人の系統抽出法について
個人を系統抽出する際に,名簿が非適格者を含む場合には注意が必要である。選挙人名簿から
20 歳以上(有権者)を抽出する場合には問題は生じないが,住民基本台帳から特定の年齢層を抽
出する場合には非適格(対象外)の個人を含んでいる。
たとえば 20 歳以上を抽出間隔 21 で系統抽出する場合,
[1] 適格者である 20 歳以上だけを数えて所定人数に達するまで抽出する。
22
[2] 非適格者も含めてすべてを数えて抽出する。非適格者にあたったら,そのまま抽出間隔を
数えて次の人を抽出する。これを繰り返す。
一般的には[2]の方式が採用される。代表的テキストの解説を引用する。
島崎哲彦(2006)では「なお抽出過程で調査対象に該当しない年齢の人が抽出された場合は,さ
らに同じ間隔で次の人を抽出し,各調査地点内で定められた人数が抽出し終わるまで抽出作業を
続ける」と説明している。
杉山明子(1984)は「ここで,インターバルを数えるときに,該当年齢(ここでは 16 歳以上)
だけを数える方法は,注意力を要し,間違いも多く,使用しないほうがよい」と説明している。
盛山和夫(2004)は「対象外の人が名簿にある場合は,スタート番号や間隔を数えていくとき
に,原則として対象外の人を飛ばして数えるのではなく含んだまま数えていく。そして,もし抽
出番号が対象外の人にあたったときは,そこからあらためて同じ間隔で次の抽出番号の人に進み,
目標のa人に達するまで抽出作業を繰り返す。こうするのは,飛ばして数えたときは「対象外の
次の人」にあたりやすいが,この人々は特定のタイプの人になっている可能性が高いからである。
たとえば,多くの個人リストで,男性の次の人はその配偶者である可能性が高い。このときは,
女性だけを抽出する際に,有配偶者の女性を抽出する確率が相対的に高くなってしまうのであ
る。
」とランダム性確保の観点から理由を述べている。
林知己夫ら(1964)は「その次の世帯あるいは個人を抽出することは絶対にいけない。このよ
うな場合は,再びインターバルを数えて次のサンプルを抽出する」と特に注意して強調している。
このような方法で実際に NHK「日本人の意識調査」や「社会階層と社会移動調査」は実施され
ている。
一方で,日本版 GSS 調査のように「対象者だけを数える」方法を採用している調査も存在する。
この方法を採用する場合,厳密にはいくつかの曖昧さと困難がある。個人の抽出間隔を計算する
ときに,対象者人口を見積る必要が出てくることである。全国平均の割合を使うしかないが,地
域ごとに割合が異なることは自明である。たとえば,内閣総理大臣官房広報室「世論調査の標本
の精度に関する研究」
(昭和 57 年 3 月)の標本設計法を鈴木達三ら(1998)が紹介している,以
下のような記述がある。
各地点ごとに,対象者を抽出するための抽出間隔を算出する。この際 20 歳以上人口がわからな
いため 15 歳以上人口数に推定値を乗して算出する。
15 歳以上人口数×0.885(15 歳以上人口中に占める 20 歳以上人口数の全国平均の比率/地点
での抽出標本数=抽出間隔)
16.検討事項
(1) 個人抽出間隔は11か21か,もっと大きくするか。層(人口密度が違う)で変更するか。
訪問調査ではなく郵送調査なので。抽出間隔を大きくできるが,役所での台帳閲覧の作業上の
便益を考慮する必要もある。複数の役所にまたがるとコスト増の要因になると同時に,抽出作業
でのミスを誘引しやすい。異なる役所で台帳の配列方法が違う場合は,抽出ルールが複雑になる。
(2) 層の数は4か。沖縄を独立の層とする積極的理由があるか。
23
表1 住民基本台帳による層別分布
人口
20歳以上
区部
32,371,662
26,765,691
市部・20万人以上
32,344,574
26,136,513
市部・20万人以上20万人未満
48,983,577
39,635,782
郡部
13,353,658
10,849,488
127,053,471
103,387,474
(3) 代表的な社会調査の層化
統計数理研究所の「日本人の国民性調査」の層化方法は表1のように層化しているが,沖縄県
を独立した1個の層として扱い,合計5層としている。
「2005 年社会階層と社会移動調査」
(SSM 調査)は以下の通り。
24
SSM 調査の概要の(注)
「新聞3社調査」とあるのは「13.選挙人名簿について」で述べた
ように,全国の選挙管理委員会に対する投票区の「共同調査」を指していると思われる。
日本版 GSS(General Social Surveys)調査では全国を6ブロック(北海道,東北,関東,中
部,近畿,中国,四国,九州)にわ分けたうえで,3層に分類している。
[1] 15大都市
[2] その他の市
[3] 郡部
NHK の「日本人の意識調査」の層化方法は公表されていないが,55 層(300 地点)と 42 層(150
地点)の二種類の標本を作成している。全国を 18 ブロック(道南~)に分けた上で,都市規模で
5 層(昇順)
,第三次産業構成比(降順)でソートしている。
25
17.変更点のまとめ
(1) 第一次抽出単位(PSU)を国勢調査区から町丁目に変更する。ただし,町丁目は事実上「開
始点」の標識として扱い,仮想地点(個人抽出数×抽出間隔のサイズのブロック)が第一次
抽出単位となる。
(2) これに伴い,地点抽出に使う人口統計について,国勢調査から直近の住民基本台帳にする。
(3) 層別の標本サイズを比例割当法にする。現在は非比例割当(標本サイズではなく地点数を割
当)
。
(4) 層化の分類数を 62 から 4 にする。
参考文献:
[1] 浅井晃(1987).調査の技術.日科技連出版
[2] Cochran, W. G. (1977). Sampling Techniques, 3rd Ed. Wiley.
[3] 日本版 General Social Surveys 基礎集計表・コードブック JGSS-2005.大阪商業大学.
[4] 杉山明子(1984).社会調査の基本.朝倉書店
[5] 鈴木達三・高橋宏一(1998)標本調査法.朝倉書店
[6] 盛山和夫(2004)
.社会調査法入門.有斐閣ブックス
[7] 林知己夫・村山孝喜(1964).市場調査の計画と実際.日刊工業新聞社
[8] 前田忠彦・中村隆(2000), 近年5回の国民性調査の標本設計と標本精度について.統計数
理,第 48 巻 第1号.http://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/48-1-147.pdf
4-3.RDD
全国の有権者を目標母集団とする場合の確率標本抽出法として(1)電話帳を抽出枠とする(2)
住民基本台帳や選挙人名簿を抽出枠とし電話帳で世帯番号を調べ非掲載者には往復郵便で番号を
尋ねる――手法がある。しかし電話帳掲載率低下が代表性を損ない、さらに後者は迅速性も犠牲
にする(最近まで,後者の抽出法にこだわって実施していたのはテレビ朝日である)
。
そこで電話帳非掲載番号を含む、すべての可能な番号を抽出枠とする RDD(Random Digit
Dialing)抽出法が 2000 年以降の主流となった。報道機関が定例調査を RDD に転換した時期は
早い順に、毎日新聞(1997 年)
、朝日新聞(2001 年)、共同通信(2001 年)
、日本経済新聞(2002
年)
、日本放送協会(2004 年)
、読売新聞(2008 年)である。
RDD では単純無作為抽出すると世帯ヒット率が2割強に過ぎない非効率性(稼働局番は2万近
く存在するので2億近い番号が可能だが世帯数は5千万強)が課題である。抽出枠はすべての稼
働局番に 0000~9999 の1万個の4桁の加入者番号を付加した番号空間であり、枠母集団は固定
電話加入世帯である。有権者世帯番号は枠母集団に包含されているが、事業所用や非使用の番号
も含まれる。
26
抽出枠を縮小することなく効率化する Mitofsky-Wakesberg 法は、世帯番号が抽出枠内で一様
に分布せずに偏在する事実に注目した、確率比例抽出による二段無作為抽出法だが、第一段の抽
出単位は地理的区画ではなくバンク(bank)と呼ばれる番号区画である。03-4567-89xx のよう
に先頭から百位までが同じ数字の百個の番号のかたまりを百位バンクという。抽出手順を要約す
ると、第一段で百位バンクを抽出。2桁乱数を与えて完全な番号を1個作る。電話して世帯だっ
たバンクを残す。これによりバンク内の世帯番号数に比例した確率でバンクが選ばれ、第二段で
抽出する番号標本は単純無作為抽出より世帯ヒット率が向上するのだが、実際の運用場面では難
しい問題もいくつかあり、現在あまり使われていない。
表2. 単純無作為RDD抽出法による計画標本と調査結果の概要
「不対話」は呼出、話中、留守電を含む。「非該当」は事業所、公衆電話、FAX、外国人世帯、非使用を含む
計画標本
回収標本
抽出総数
使用番号
回答数
160,000
47,172
11,330
有権者の
いる世帯
(回答率
回答率 の分母)
59.3
19,107
非回収の内訳
世帯拒否
不明
有権者
を確認
有権者 世帯か
未確認 不明
7,777
6,498
264
非該当
不対話
10,741
10,562
出典:日本経済新聞が2008年実施した13回分の世論調査結果の合計値(日経リサーチのWEBサイトより作成)
最近は非使用番号を事前に除去するスクリーニング装置があるため、単純無作為抽出でも同程
度の効率を達成できる。表2はスクリーニングを伴う単純無作為 RDD 調査の事例。どの方式で
も世帯判定の不明番号が残るため回収率を定義する分母を明示すべきである。個人対象の調査で
は世帯内から個人を選ぶ抽出段階が増えるのも RDD の特性である。携帯電話の普及で固定電話
の非契約世帯率が上昇した場合は非カバレッジ誤差への注意が必要となる。
参考文献
[1] 島田喜郎「RDD サンプリングにおける稼働局番法の再評価」
『行動計量学』通巻 62 号(2005
年)35-43 頁
[2] Lavrakas, P.J.. Telephone Survey Methods : Sampling, Selection and Supervision (Second
edition). Sage Publicaitons. 1993
[3] 加藤元宣「電話調査法における調査精度の改善策について」
『NHK 放送文化研究所年報 47』
(2003 年)173-218 頁
5.調査結果
市場調査の結果は原則として公表されない。調査機関が独自に実施した調査が例外的に公表さ
れるか,ビデオリサーチ視聴率のように広告取引資料のなかの一部が公表される,あるいは日経
グループのブランド調査,日本生産性本部の CS 調査(顧客満足度調査)のように全体集計の部
分のみが発表される。
27
世論調査は報道することが目的であるため,マスメディアを通じて公表される。これによって
政治判断に影響を与えることもある。原データは報道機関しか分析できない。アーカイブに含め
ようとの動きもあった。
社会調査は学術研究のために実施される場合が多いため,論文や著書として出版される。また,
ここで紹介した日本の代表的な社会調査は長期間にわたって,同じテーマを継続的に調査してい
るという共通点があり,そのことによって社会あるいは社会心理の変化について,興味深い知見
を得ることができる。
SSM 調査に関連した著書ついては,最近では佐藤俊樹『不平等社会日本――さよなら総中流』
(中公新書,2000 年)が有名である。この分析については,同じ調査データから異なる知見を導
くことができる等,別の社会学者からの異論もある。佐藤が意識していたのは。村上泰亮『新中
間大衆の時代――戦後日本の解剖学』
(中央公論社,1984 年)だという。大きな社会構造の変化
を社会調査データから説明できるとしたら,その醍醐味は興奮するほどの知的刺激であろう。
統計数理研究所の「日本人の国民性調査」や,NHK の「日本人の意識調査」も同様の調査デー
タである。
6.いくつかの課題
調査にはさまざまな批判や課題もある。世論調査に関して,最近出版された下記の書籍もその
ような問題意識を背景にもっている。

岩本裕(2015)世論調査とは何だろうか.岩波新書

NHK 放送文化研究所編(2016)放送メディア研究 13「世論をめぐる困難」
,NHK 出版
6-1.質問文の問題
必ずしも意識調査に特有ということではないが,特に対象者の意見を質問する際には,質問文
による結果への影響が知られている。ここは実態調査とは違う問題を内包しているといえる。社
会調査のテキストでも必ず言及されるテーマである。
以下のような新聞記事も,質問の仕方で結果が異なる問題に触れている。

朝日新聞(2015-1-31)http://www.l.u-tokyo.ac.jp/2015SSM-PJ/ssmkiji.pdf
最近のマスコミ世論調査では,安保関連法案あるいは集団的自衛権に関する世論調査の質問文
が問題になった。
NHK の電話世論調査(2007 年 5 月 11 日~13 日実施)における集団的自衛権の報道に関して
社会学者の大谷信介(2008).「世論調査の問題状況と社会調査士制度」(「社会と調査」創刊号)
が問題提起した.
安保関連法案で目立った話題としては,池上彰の朝日新聞コラム「新聞ななめ読み」において,
28
読売新聞の世論調査を取り上げた問題がある。

「安保関連法案 多様な意見伝えているか」(朝日新聞,2015 年 7 月)

「安保関連法案 世論調査「設問」の重要性」
(朝日新聞,2015 年 8 月)
質問文だけでなく,調査の実施方法にも関連するが,各社が同日に実施した世論調査結果の数
値が大きく異なることが問題になることがある。これは標本誤差とは考えられない程度の大きさ
ということである。
内閣府では有識者会議で,世論調査の調査票作成の問題を議論した。
http://survey.gov-online.go.jp/kentoukai/index.html
6-2.回収率の低下問題
戦後一貫して回収率が低下している。回収率が低いと非標本誤差が大きくなる,つまり偏りが
生じる。回収率は年代によって異なっており,世論調査では若者の回収率が低い。つまり報道さ
れている世論調査結果に若者の意見が反映されていないのではないか,という批判の根拠となっ
ている。
日本世論調査協会は 2015 年に携帯電話を使った世論調査を研究した。固定電話を契約しない
世帯が増加しているのではないか,とくに若者に意見を聞くには携帯電話を含める必要があるの
ではないか,という問題意識が背景にある。また見解も発表した。
http://www.japor.or.jp/pdf/RDD_kenkai.pdf
これに関連して,各社は携帯電話を含める方針に転換した。また 2016 年 6 月から有権者が 18
以上と法改正され施行されることから,世論調査の対象者を 18 以上とする動きが始まった。

読売新聞,2016 年 4 月 1~3 日(18 歳以上,携帯電話追加に変更)

毎日新聞,2016 年 4 月 16~17 日(18 歳以上に変更)

日本経済新聞,2016 年 4 月 30~5 月 2 日(18 歳以上,携帯電話追加に変更)
回収率に関して,鈴木の講演を受けて,JGSS から公開質問状を出されたことがあり,それに
対する公開回答をした。下記に記録が掲載されている。
http://mo161.soci.ous.ac.jp/bsj_okayama/85/teisei.html
回収率が低下することと,内閣支持率が上昇することには関連がある可能性が高い。
鈴木督久(2002)
「下駄と小泉」
http://suzuki-tokuhisa.com/ushigome/dk.html
29
7.関連資料
鈴木督久「調査の終焉」行動計量学会会報(第 113 号,2007 年 6 月),巻頭言
http://www.bsj.gr.jp/member/Kaihou_1.pdf
鈴木督久「似て非なるもの-世論調査と選挙予測調査-」社会調査協会「オピニオン」
(2016 年
1 月 22 日)
http://jasr.or.jp/online/content/opinion/opinion16_201601suzuki.html
鈴木督久「回収率について」実務教育研究所機関誌「道標」2011 年 4 月号 №637
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/dohyo2011-4.pdf
鈴木督久「マスコミ世論調査結果の乖離問題」第 95 回行動計量シンポジウム(2010 年 3 月 23
日)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/BSJ2010_suzuki.pdf
鈴木督久「選挙における調査と予測報道」日本心理学会「心理学ワールド」49 号(2010 年 4 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/psy49.pdf
鈴木督久「世論調査の最近の動向」社会調査協会「社会と調査」第 3 号(2009 年 9 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/ASR2009_no3.pdf
鈴木督久「調査の信頼性 -誤差の感覚-」実務教育研究所機関誌「道標」2009 年 9 月号 №618
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/dohyo_200909.pdf
鈴木督久「マーケティング・リサーチにおける品質管理」ESTRELA No.169(2008 年 4 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/estrela-200804.pdf
鈴木督久「調査における精度と誤差」広研レポート Vol.250(2008 年 3 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-200803.pdf
鈴木督久「ランダムネスの彼岸」広研レポート Vol.249(2008 年 2 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2008_02.pdf
鈴木督久「調査の品質」広研レポート Vol.248(2008 年 1 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2008_01.pdf
鈴木督久「伝説の隙間」広研レポート Vol.247(2007 年 12 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2007_12.pdf
鈴木督久「選挙予測調査のしくみ」広研レポート Vol.245(2007 年 10 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2007_10.pdf
鈴木督久「参院選予測調査と報道」広研レポート Vol.244(2007 年 09 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2007_09.pdf
鈴木督久「統計調査の改革」広研レポート Vol.243(2007 年 08 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2007_08.pdf
鈴木督久「調査における 2007 年問題」広研レポート Vol.242(2007 年 07 月号)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2007_07.pdf
鈴木督久「安倍内閣支持率はバラバラか」広研レポート Vol.241(2007 年 06 月号)
30
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/koken-rep-2007_06.pdf
鈴木督久「エリアサンプリング調査の再検討」日本行動計量学会第 34 回大会(2006 年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2006_sampling.pdf
鈴木督久「B2B ブランディングと事業所購買行動」日経ブランディング(日経広告手帖別冊)
2006-WINTER
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/b2b_stok2006.pdf
鈴木督久「住民基本台帳閲覧規制と調査機関の今後」よろん 第 97 号(2006 年 3 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2006_jukidaicho.pdf
鈴木督久「調査の信頼性」第 1 回横幹連合コンファレンス「知のダイナミックデザイン」
(2005
年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2005_chosasinraisei.pdf
鈴木督久・星野崇宏「傾向スコアを巡る対話」マーケティング・リサーチャー No.97(2004 年
8 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2004_keiko.pdf
島田喜郎「RDD サンプリングの理論と実践」マーケティング・リサーチャー No.97(2004 年 8
月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/simada_RDDsampling.pdf
島田喜郎「RDD サンプリング手法の比較研究」よろん 第 93 号(2004 年 3 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/simada_RDDhikaku.pdf
鈴木督久「選挙予測を巡る対話」マーケティング・リサーチャー No.96(2004 年 2 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2004_POLL.pdf
島田喜郎「米国における RDD サンプリングの最近の動向」日本行動計量学会第 31 回大会論文
(2003 年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/simada_RDDinUS.pdf
鈴木督久「調査を巡る対話」品質 Vol.33, No.3, 2003
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2003_chosawomeguru.pdf
鈴木督久「調査データによる企業評価システムの構築-「日経プリズム」の10年-」品質 Vol.33,
No.3(2003 年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2003_prizm10th.pdf
鈴木督久「SEM を巡る対話」マーケティング・リサーチャー No.95(2003 年 8 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2003_SEM.pdf
鈴木督久「RDD を巡る対話」マーケティング・リサーチャー No.94(2003 年 3 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2003_RDD.pdf
鈴木督久「モンテカルロ法による衆院議席予測精度の検討」オペレーションズ・リサーチ 第 48
巻 第 1 号(通巻 505 号)11-16(2003 年 1 月)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2003_montecalro.pdf
鈴木督久・花上雅男・河村信博「コミュニケーション・チャネルと購買意欲」日本広告学会第 33
31
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http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2002_communication.pdf
鈴木督久「データマイニングにおける受動性と能動性」第 17 回 AI シンポジウム論文(2002 年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2002_DTM.pdf
鈴木督久「データマイニング」品質 Vol.32, No.3(2002 年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2002_DTM.pdf
鈴木督久「SEM による企業イメージのマネジメント-平均構造・多母集団解析の応用-」行動計
量学 第 29 巻 第 2 号(通巻 57 号)2002 年 12 月
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2002_SEM.pdf
鈴木督久「マスコミ「世論調査」はゴミであるか? -選挙予測調査データの分析-」第 10 回
JUSE パッケージ活用事例シンポジウム論文(2001 年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2001_yoron.pdf
鈴木督久「ニューラルネットによる牛乳販売量の予測」品質管理 Vol.52-NO.3-45-50(2001
年)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok2001_TQM.pdf
鈴木督久「知覚マップと選好回帰による市場セグメント」日本科学技術研修所・セミナー
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok1998_map.pdf
鈴木督久「選好ベクトルと潜在因子による市場セグメンテーション」日本行動計量学会第 26 回大
会
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok1998_3_brand.pdf
鈴木督久・長田公平「企業評価モデル PRISM の開発」日本行動計量学会第 26 回大会
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok1998_prism.pdf
鈴木督久「日経 PRISM における企業評価の方法」総合研究大学院大学・講演要旨
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/stok1997_3_prism1.pdf
32