生体とコンデンサー (1)生体とコンデンサー + 細胞膜 外 神経細胞の細胞膜はふだんは絶縁体に近く、その両側は導体 + に近くてその間に電位差を持っている。このため細胞膜はコ + ンデンサーを形成している。膜の外側を基準にした内側の電 Cl- + - 内 - 位を膜電位という。このコンデンサーに蓄えられた電荷Q は、 + - K+ その容量と膜電位の積で与えられる。膜をコンデンサーとし + - て考えたとき、単位面積あたりの容量を膜容量という。 細胞膜を通して流れる電流を膜電流と言うが、その原因には 2つある。イオンチャンネルを通じてイオンが移動するイオ ン電流と、コンデンサーの両端の電位差が変化することによ り流れる容量性電流である。 ++ Na + - + - + - - イオン チャンネル XX- (2)細胞膜の等価回路 神経細胞の細胞膜においては、コンデンサーに流 れる容量性電流の他に、イオン電流がイオンチャン 外 I C ネルを流れる。イオンチャンネルとはNa、Kなどの r 特定のイオンのみを一時的に透過させる機構である。 膜の内外におけるNa、Kなどそれぞれのイオン濃度 に応じて、イオン平衡電位が定まる。イオン平衡電 位とは、濃度差によるイオンの拡散力と電気力がつ E 内 り合うような電位差のことである。イオンチャンネ ルを通過するイオンは膜電位をその平衡電位に近づける方向に移動するので、それを含め た細胞膜の等価回路は図のようになる。 C が膜容量、r を膜抵抗と言う。コンデンサーを流れるのは容量性電流、抵抗を流れるの はイオン電流である。電池の記号は特定のイオンのイオン平衡電位E を表す。この回路は コンデンサーの充電回路とほぼ同じである。 (3)神経の興奮伝導 神経細胞(ニューロン)は細胞体に非常 - ---- - + ++ + + ++ ++ + + + + ++ + + + - ---- - - ---- - に細長い軸索と呼ばれる部分と何本かの短 + ++ + + + - ---- -- ---- - い樹状突起を持っており、刺激に対して電 - ---- - + ++ + + + + ++ + + + 膜 気信号を発生し、軸索に沿ってその信号を伝達することができる。しかし、生体は電気を 通しにくいので伝わる間に電気信号はすぐ減衰してしまうと考えられる。この減衰を補う ための機構が興奮伝導である。図のように無髄軸索を電気信号が伝わっていく場合を考え よう。通常は、軸索の各部分は分極していて膜電位は静止電位と呼ばれる電位(−)にな っている。電気信号が伝わって膜電位がある閾値を超えると、イオン電流が流れ出し、脱 分極が起こって膜電位が急激に上昇する。このときの膜電位(+)を活動電位という。図 のように次々と軸索の隣り合う部分に興奮が伝わり、膜電位が変化して電気信号として図 の左から右へと伝わっていく。このような興奮伝導の機構は、信号の減衰を補う増幅器の 役目を果たしていると言える。 8 銅線中の電気信号の伝達速度は 2×10 m/s 程度と光速に近い値であるのに対して、神 経細胞の信号伝達速度は、有髄軸索で 10∼100m/s 程度、無髄軸索で 0.1∼1m/s 程度 である。このように、神経細胞の信号伝達速度が小さいのは、各部分が刺激を受けてから 興奮を起こすまでにコンデンサーの充電、イオンの流入などで時間がかかるためである。 (4)静止膜電位と活動電位 通常の状態の膜電位を静止電位と言う。これはす 膜電位 (mV) べてのイオンによる電位を合成したものであるが、 比較的膜を透過しやすいK+ イオンやCl- イオンの平 +50 衡電位を反映しており、-90mVである。 活動電位 0 1 ここで刺激による興奮が伝わってくると、Naイオ ンチャンネルが開いてNa+イオンが濃度の低い内部 に流れ込み、その電荷によって膜電位はNa+の平衡 2 t (ms) -50 静止 電位 -100 電位に近づく(脱分極)。これが活動電位である。 しかし、膜電位が高くなると今度はK+イオンの透過性が増して膜電位は下がり始め、最終 的には元の静止電位に戻る(再分極)。膜電位の時間的変化の例を図に示す。 この電気パルスが細胞内を伝わっていくことで、情報を伝達することができる。また、 Na+イオンが内部に流れ込み、K+イオンが外部に流れ出した状態は、イオンポンプにより元 の状態に戻される。 (5)神経軸索の電気モデル 興奮が起きない場合に神経軸索を電気信 R R R r C r 号が伝導するときの電気モデルは図のよう な等価回路で示される。膜抵抗を r、膜容量 r C C を C として、伝導方向への抵抗を軸索抵抗 R で表す。軸索抵抗と膜抵抗があるために、 伝導するにつれ信号は減衰していく。また、膜容量の充電に時間がかかるため、伝導には 時間遅れを生じる。 例 無髄軸索の電気モデル 軸索抵抗の抵抗率ρa を 2Ωm、膜容量 Cm は 10 F/m 、膜抵抗 Rm は 0.2Ωm 、軸索の -2 2 2 -6 半径 a を 5×10 m とする。長さ 1mm あたりで考えると、 ρa A 2 × 1× 10−3 軸索抵抗は R = = = 2.5 ×107 [Ω] 、 2 2 6 − πr π × ( 5 × 10 ) 膜容量は C = 2π rAC m = 2 × π × 5 × 10 膜抵抗は r = −6 × 1 × 10 −3 × 10 −2 = 3.1 × 10 −10 [ F ] 、 Rm 0.2 = = 6.4 ×106 [Ω] と表せる。 −6 −3 2π aA 2 × π × 5 × 10 ×1× 10 *神経細胞の時定数 2 2 単位面積あたりの膜抵抗Rmの典型的な値は、無髄軸索で0.2Ωm 、有髄軸索で40Ωm 程 度であり、単位面積あたりの膜容量Cm の典型的な値は無髄軸索で1×10-2 F/m2、有髄軸 索で5×10-5F/m2程度である。この場合の時定数は、膜抵抗と膜容量の積で決まるが、面 積による寄与は打ち消し合うので、τ = R m × C m と考えればよい。例えば無髄軸索の例では 2×10-3 [sec]程度になる。
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