生化学自動分析装置を用いた梅毒スクリーニング (RPR 法) における測定値の特性について 金城 徹 (琉球大学医学部附属病院検査部) 【はじめに】梅毒の血清学的検査法には Tp 抗原を用いた treponemal test と脂質レアギン抗原を用いる nontreponemal test のふたつがあり, 梅毒の各病期における感度と特異度という点で, それぞれの診断 特性が異なることから, 適宜複数の試験方法を組み合わせている。Tp 抗原を用いる方法としては, TPHA 法や TPLA 法, FTA-ABS 法などがあり, 特に TPLA 法では各種自動分析装置への応用が以前より報告さ れ, 自動化が進んでいる。一方 nontreponemal test では, 用手法のガラス板法や RPR 法が広く検査室で 採用されており, treponemal test と比較し自動化は遅れていたが, ここ数年でラテックス免疫比濁法を 測定原理とし, 汎用生化学自動分析装置で対応可能な血清 RPR レアギン抗体を定量的に測定する検査試 薬が開発され, 自動化が進められている。今回, 生化学自動分析装置による RPR 法の測定性能および他 方と比較した測定値の特性について報告する。 【材料と方法】測定試薬: 生化学自動分析装置による RPR 法の測定にはメディエース RPR (積水化学工 業) を用い, 分析装置には日立 7600 型自動分析装置 (日立) の P モジュールを使用した。なお, 抗体の 有無を判定するカットオフ値については, 積水化学工業より提示された判定基準, 1.0 R.U.以上を陽性と した。 比較対照試薬: 他法との判定互換性の評価では, RPR 法の従来法試薬である RPR テスト“三光”(三 光純薬; 以下カード法) を比較対照法とした。また, ガラス板法にはガラス板法抗原 (住友製薬), TPLA 法ではメディエース TPLA「N」 (積水化学工業) を対照試薬として用いた。なおメディエース TPLA「N」 の測定は BN_ (Dade Behring) で行った。それぞれの測定方法と判定基準については, 添付されている 使用説明を遵守した。測定検体: 琉球大学医学部附属病院において, 梅毒検査を目的に検査部に提出され た血清検体を測定検体とした。自己抗体の測定: 生物学的擬陽性の発生頻度についての評価には, 当検査 部に自己抗体の検査目的で臨床より提出され, 陽性となった血清検体を測定検体として用いた。自己抗体 の検査については, リウマチ因子定量 (RF) と抗核抗体 (ANA) および抗 dsDNA 抗体, 抗 ssDNA 抗体 の 4 項目を対象とした。測定に使用した試薬キットは RF に N-ラテックス RF キット_ (Dade Behring) , ANA に EIA キット (KW) ・ANA (日本凍結乾燥研究所) , 抗 dsDNA 抗体に MESACUPRDNA-_テスト 「ds」 (株式会社医学生物学研究所) , 抗 ssDNA 抗体に MESACUPRDNA-_テスト「ss」 (株式会社医 学生物学研究所) をそれぞれ用いた。ウサギ血清: 抗体検出時期の比較には, 日本白色系ウサギ (雑種, 雄) の睾丸に 4×106 個の Treponema pallidum の菌体を接種後, 15 日間で 8 回の採血を行い, 血清を採 取し測定試料とした。 【結果】プロゾーンの検討: RPR 抗体価が 216 R.U.の高単位抗体価人血清を用い, 生理食塩水で 2~128 倍までの希釈系列試料を作成し, プロゾーンの検討を行った。その結果, 10 R.U.から理論値より低めの測 定値となり, 理論値 108 R.U.以上の濃度域では測定値は全て 4 R.U.まで低下し, 測定値の変化はなかっ た。他法との判定互換性: 他法との判定互換性を患者血清 101 件で評価した。それぞれの対照試薬での 陽性・陰性判定を参照結果として判定一致率を比較すると, ガラス板法が 96.0%と最も高い一致率を示し, 次いでカード法 84.2%, TPLA 80.2%の順であった。また感度, 特異度, 期待陰性率, 期待陽性率の指標で 比較しても, ガラス板法と最も高い判定互換性を示すことが確認された。生物学的偽陽性 (BFP) の発生 頻度: 当検査部で自己抗体の検査が陽性となった血清検体について, TPLA の検査を実施し陰性と判定さ れた 81 件を用い, BFP の発生頻度について評価した。自己抗体が陽性の 81 件中 6 件 (7.4%) に BFP が 観察され, メディエース RPR で陽性に判定されたものが 4 件 (4.9%) あり, カード法で陽性に判定され たものも 4 件 (4.9%) と同数で, ガラス板法が陽性に判定されたものは 2 件 (2.5%) と比較的少ない結果 であった。ウサギ感染実験での seroconversion: Treponema pallidum の生菌を睾丸に接種したウサギ 10 匹を用い, 定期的に採血して得た血清を用いて seroconversion 検出時期を評価した。その結果, 最も早期 に seroconversion を確認できた試験方法は TPLA 法で, 接種後 7 日目には 10 匹中 3 匹が抗体陽性とな り, 11 日後には 10 匹すべてが陽性に判定された。メディエース RPR はカード法と同様の傾向を示し, 接 種後 11 日目に 5 匹が陽性となり, 15 日後には 9 匹が陽性に判定された。他方, ガラス板法では seroconversion の判定が遅れ, 接種後 13 日目で半数の 5 匹が陽性となった。 【考察】プロゾーンの検討では 10 R.U.以上の濃度からフック現象が確認され, 高単位の抗体価 (108 R.U.以上) では 4 R.U.まで測定値が低下することが確認され, 4 R.U.以上の測定値となる検体については 希釈測定によるプロゾーンの確認が必要である。他法との判定互換性では, ガラス板法の判定を参照結果 とし比較すると, 特異度と期待陽性率がともに 100%と高く, 感度, 期待陰性率, 判定一致率の全てでカ ード法および TPLA 法と比較し高い評価となったことから, メディエース RPR は従来のカード法のもつ 臨床経過を反映しにくいという欠点を解消するものと期待される。自己抗体が陽性の血清検体による BFP の発生頻度の比較では, ガラス板法が 2 件 (2.5%) と発生頻度は最も低く, メディエース RPR はカ ード法と同じ 4 件 (4.9%) であったことから, 従来法と同等に BFP の発生には注意が必要である。梅毒 に感染した患者血清中における TP 抗体および梅毒脂質抗体のグロブリンクラス別の出現時期について は, 感染初期で最初に TP 特異 IgM 抗体が出現し, 続いて梅毒脂質抗原に対する IgM 抗体と IgG 抗体が, さらに遅れて TP 特異 IgG 抗体が出現することが報告されている。ウサギ血清による抗体検出時期の比 較では, TP 特異 IgM 抗体の検出が可能である TPLA 法が他の方法より先に陽性となり, 続いてメディエ ース RPR とカード法が同時期に陽性化し, 抗体出現の時期と一致したパターンを示した。この結果から, 梅毒感染初期の診断においても従来の STS 法と同等な検出性能であると考えられる。
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