曲げに対する設計

許容応力度設計の基礎
曲げに対する設計
材料力学の後半は、許容応力度設計の基礎を学びます。
構造設計の手法は、現在も進化を続けています。
例えば、最近では限界耐力計算法という耐震設計法が登場しています。
限界耐力計算法では、地震による建物の振動現象を耐震設計法の中に取り入れてい
ます。
しかし、この設計法も、許容応力度設計法をベースにしながら、新しい概念(限界設計
法)を取り入れて発展させたものです。
ですから、許容応力度設計は、構造設計を学ぶ人にとっては基本と言えるでしょう。
今日は、皆さんは、曲げに対する設計を学びますが、
その前に、許容応力度設計について、もう少し説明しておきましょう。
1
許容応力度設計
„
„
„
荷重を支える主要構造部材を抽出して、適
切なモデル化を行う。
構造力学や材料力学の力を借りて、部材
内部に働く抵抗力(応力)を求める。
各部材に予想される最大の応力に耐えら
れるだけの部材断面を決める。
でも、ちょっと矛盾がある。
許容応力度設計のもともとの考え方は、静的震度法という耐震設計法から生まれました。
静的震度法は、建物重量の何割かの重さが水平力(つまり地震力)として作用するとい
うものです。
この考え方は、関東大震災(大正12年、1923)の地動の最大加速度を0.3Gと考え、この
極めて大きい地震動に対しては、建物の主要構造部材は、その破壊強度を超えないよ
うに設計してやろうというものです。
しかし、関東大震災のような非常に大きな地震は頻繁には起きません。そこで、比較的
頻繁に起きるであろう地震動を関東大地震動の3分の1と考えて、設計することにしまし
た。
つまり3分の1の大きさの地震動に対して、主要部材の応力は、その破壊強度の3分の
1を超えないように設計すればよいことになります。
そして、この破壊強度の3分の1の応力度を許容応力度と名付けたのです(現在の許容
応力度は法令や規準書で細かく決められています)。
すなわち、許容応力度設計とは、部材(はりや柱)の(最大曲げモーメントや最大せん断
力を生じる)危険断面での最大応力度が許容応力度を超えないように設計するという手
法なのです。
2
実際には、
„
„
„
„
断面をあらかじめ仮定しておく
仮定断面に生じるであろう最大の応力を求
める。
最大の応力が材料の許容応力度を超えて
いないかどうかをチェックする。
超えていなければO.K.。もし、超えてい
れば断面を変更して、再度検討。
しかし、建物はこれから造るわけですから、部材の断面は決まっていません。
そこで、設計者は、建物の規模や構造形式から、部材断面の大きさを予想しながら、あ
らかじめ断面を決めておく必要があります。
断面の大きさが決まれば、予想される荷重に対して、構造力学(静定力学や不静定力
学および材料力学)の力を借りて、その部材に生じる最大応力度を求めることになりま
す(その部材で最大応力が生じる断面をその部材の危険断面と言います)。
求めた最大応力度が材料の許容応力度を超えていなかどうかをチェックし、もし、どこか
一カ所でも超えていれば、断面を再度変更して検討し直すことになります。
これを何度か繰り返して、すべての部材で許容応力度を超えないようになれば構造設
計は終了になります。
あまり何度も繰り返しを行えば、時間と労力を使いますので、無駄な費用を費やすこと
になります。
3
曲げに対する設計(1)
„
部材を曲げると曲げ応力度(垂直応力度
の分布)が生じる。
さて、曲げに対する設計ですが、最初に曲げ応力度について復習しておきましょう。
はりや柱を曲げると、部材断面に曲げ応力度が生じます。
この応力度は、断面に垂直に生じますので、垂直応力度です。
しかし、断面に均一には生じません。
断面の中立面を境にして、圧縮応力が生じる部分と引張応力が生じる部分に分かれま
す。
しかも、中立面から離れれば離れるほど、この垂直応力度は大きくなります。
はり断面の上端(うわば)や下端(したば)において最も大きな垂直応力度になります。
このはり断面の上端(うわば)や下端(したば)での垂直応力度のことを縁(ふち)応力度
と呼んでいます。
曲げに対する設計を行う時は、この縁応力度の大きさが許容応力度を超えないように設
計する必要があります。
上の絵に示すように、孔(あな)のあいたスポンジを曲げてみると、片面ではスポンジの
孔がつぶれ、反対の側では孔が広がることがわかります。つまり孔がつぶれる側では圧
縮応力が生じ、孔が広がる側では引張応力が生じているのです。
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曲げに対する設計(2)
„
最大の垂直応力度(縁応力度)を求めて、
許容応力度と比較すればよい。
s c,t=
縁応力度
M
Z
断面係数
それでは、縁応力度はどうやって求めたら良いのでしょうか。
曲げ応力度は、その断面に作用する曲げモーメント(M)を断面2次モーメント(I)で割り、
それに中立軸から求めたい位置までの距離(y)をかけてやれば、その位置での垂直応
力度の大きさを求めることができます。
ということは、中立軸位置から、はり断面の上端(うわば)や下端(したば)までの距離を
かけてやれば、縁応力度の大きさを求めることができます。
断面2次モーメントも中立軸位置からはり断面の上端(うわば)や下端(したば)までの距
離も断面の形状と寸法が決まれば自ずと決まります。
従って、断面の形状に応じて、あらかじめ断面2次モーメントを中立軸位置からはり断面
の上端(うわば)または下端(したば)までの距離で割って求めておけば、簡単に縁応力
度を求めることができます。
この係数のことを断面係数と呼び、Zの記号で表すことにします。
結局、縁応力度は、断面に作用する曲げモーメントを断面係数で割って求めることにな
ります。
5
曲げに対する設計(3)
„
すなわち、設計する上では、縁応力度(σ)
が許容応力度(f)を超えないように設計す
る。
s c,t=
M
Z
≦f
設計では、(曲げモーメントを断面係数で割って求めた)縁応力度が許容応力度を超え
ないように設計することになります。
6
曲げに対する設計(4)
„
断面係数(Z)について
M=s c,t×Z
長方形断面では
bh2
Z=
6
次ぎに、断面係数について、見ていきましょう。
縁応力度は、断面に作用する曲げモーメントを断面係数で割って求めることができまし
た。
逆に、考えれば、縁応力度と断面係数の積は、曲げモーメントになります。
この断面係数は、断面の形状と寸法によって決まります。
長方形断面の場合を上の図に示しておきます。bははり幅、hははりせいです。
7
曲げに対する設計(5)
„
長方形断面の断面係数(Z)
C=
1
×s ×b×
2
2h
j=
3
T=C
M=
h
2
bh
4
=
×
bh
4
s
bh2
h×s =
s
3
6
2
bh2
Z=
6
それでは、長方形断面の断面係数を具体的に求めてみましょう。
上の図に示すように、今、中立面を境にして、断面の上部に圧縮応力、断面の下部に
引張応力が作用しているとしましょう。フックの法則と平面保持が成り立つと仮定すれば、
圧縮応力と引張応力の応力分布の形状は三角形になります。しかし、実際にははり幅
がありますので、ストレスブロックは、三角柱の形状をしています。この三角柱の体積が
圧縮や引張の合力の大きさになります。圧縮応力も引張応力も同じ大きさの三角柱で
すから、当然、体積つまり合力の大きさは同じです(もし、大きさが違えば、軸方向の力
の釣り合いが成り立ちません)。
圧縮合力と引張合力の2つの作用線はお互いに並行で、一方の作用線からもう一方の
作用線に向かって引いた垂線の距離のことを応力中心間距離と呼んでいて、jで表して
います。
この応力中心間距離は、今の場合、圧縮応力も引張応力も三角形の分布形状をしてい
ますから、はりせいの3分の2になります。
この断面に作用する曲げモーメント(M)は、圧縮または引張の合力(C or T)と応力中心
間距離(j)との積になります。
掛け合わせると、上の図に示すように、曲げモーメントは、断面係数と縁応力度の積で
表すことができます。
長方形断面の断面係数は、このようにして求めることができるのです。
8
次のように導くこともできる。
„
曲げによって生じる垂直応力度の式で、長方形
断面の縁応力度は、
s=
„
Mh
I 2
=
Z
∴Z=
I
h/2
一方、長方形断面の図心まわりの断面2次モー
メントは、
bh3
I=
„
M
12
従って、断面係数は、
bh3 2 bh2
Z=
=
=
h/2
12 h
6
I
断面係数は、断面2次モーメントを、中立軸位置からはり断面の上端(うわば)や下端
(したば)までの距離で割って求めることもできます。
9
断面係数について(1)
„
„
„
断面係数は、曲げを受ける部材の縁応力
度を算定するために使用される。
断面係数は、断面2次モーメントを中立軸
から断面の上端または下端までの距離で
除することによって求めることができる。
従って、通常、一つの中立軸に対して、断
面係数は2つ存在する。
注意)一つの中立軸に対して、断面係数は2つ存在しますが、長方形断面のように中立
軸に対して、対称な断面の場合は、2つの断面係数の大きさは同じになります。
10
断面係数について(2)
„
„
断面が、中立軸に対して対称でない場合、
2つの断面係数のうち(縁応力度が大き
い)小さい方の値を許容応力度設計にお
いて用いる。
長方形断面の断面係数は、
である。
bh2
Z=
6
注意)断面が、中立軸に対して対称でない場合は、どちらかの縁応力度の方が大きくな
ります。設計の時は、一番大きい応力度が許容応力度を超えていなかいどうか調べる
ので、縁応力度が大きい方が対象になります(一番大きい応力度が許容応力度を超え
ていなければ、それ以外の部分は、すべて許容応力度を超えていないので安全です)。
縁応力度は、曲げモーメントを断面係数で割って求めますので、断面係数が小さい方
が縁応力度は大きくなります。
11
例題
„
下図のはりが曲げに対して安全であるか
どうか検討してみよう。ただし、部材の許容
曲げ応力度を f=10N/mm2 とする。
10kN/m
360mm
6m
240mm
最初にやるべきことは、反力計算です。
それから、最大曲げモーメントを求めましょう。
最大曲げモーメントが生じる位置は、せん断力が0になる位置です。
12
(1) 最大曲げモーメントの計算
„
最初に、はりの最大曲げモーメントを求め
る。
M図
wl2 10×62
=
=45kNm
Mmax=
8
8
曲げは一般にはりの中央付近が一番厳しい
一般に、梁の中央部付近で、曲げモーメントは大きくなります。
曲げモーメント図を描く側(上の図では下側)に引張応力が生じます。
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(2)縁応力度の計算
„
断面係数(Z)を求める。
bh2 240×3602
Z=
=
=5.18×106(mm3)
6
6
„
縁応力度を求める。
s=
M
45×106
=
=8.68(N/mm2)
6
Z
5.18×10
対象とすべき縁応力度は、最大曲げモーメントが生じている断面です。例題では、はり
の中央部の断面になります。
14
(3)許容応力度との比較
„
縁応力度は、許容応力度よりも小さいので、
このはりは曲げに対して安全である。
s =8.68N/mm2≦f=10N/mm2
„
それでは、どれほどの荷重まで耐えられる
であろうか。計算してみよう。
縁応力度と許容応力度を比較して、はりの安全性を検証します。
計算の結果、縁応力度は許容応力度よりも少し小さく、余裕があることがわかります。
ということは、もう少し荷重を上げても大丈夫ということになります。
どこまで、荷重を上げることができるのでしょうか。
縁応力度が許容応力度ぎりぎりになるまで、荷重を上げたときの荷重の大きさを許容荷
重と呼んでいます。
今度は、この許容荷重を求めてみましょう。
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(4)許容荷重を求めてみよう。
„
„
許容曲げモーメントの値を求める。
Ma≦f×Z=10×5.18×106=51.8kNm
許容荷重を求める。
Mmax=
wa≦
wa×l2
wa×62
=
≦51.8(kNm)
8
8
51.8×8
62
=11.5(kN/m)
上のやり方、正攻法な解き方です。
この問題では、荷重w=10kN/mのときにσ=8.68N/mm^2が得られていますので、
f=10N/mm^2に達するような許容荷重は、比例関係を使って求めることもできます。
すなわち、wa=10×10/8.68=11.5kN/m。
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