<メディアウオッチ>評価したい国会事故調の報告書 絵に描いた餅にせぬように 上出 義樹 福島原発事故を「人災」と断定 他の事故調より踏み込む 国会の東京電力福島原発事故調査委員会(国会事故調)が 7 月 5 日に発表した最終報告 書は、昨年 3 月 11 日の東日本大震災に伴い発生した福島第一原発事故を、 「自然災害」で はなく、 「人災」と断定した上で、地震や津波への必要な備えを怠たり、事故後の対応にも 重大な問題があった東電と、政府の責任を強調。原発事故の再発防止に向けた抜本的な取 り組みなどを提言している。福島原発関係の他の3つの事故調査委員会に比べ、国民目線 に立って、より踏み込んだ指摘をしている点は高く評価したい。新聞やテレビも大きく報 じたこの最終報告のポイントを整理しておこう。 延べ 1167 人に聞き取り 避難者約 1 万人にアンケート調査も 国会事故調は、元日本学術会議会長で東大名誉教授の黒川清委員長や、地震学者の石橋 克彦氏、ノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏、弁護士の野村修也氏ら委員 10 人で昨年 12 月に発足した。国民の代表である国会に、政府からも事業者からも独立し たこの種の調査委員会が設けられたのは日本の憲政史上初めて。 福島原発事故の検証を行う類似の委員会としては政府事故調のほか、マスコミ関係者を 中心にした民間事故調、事故の当事者が設置した東電事故調が立ち上げられたが、これら 3 つの事故調がいずれも非公開で活動したのに対し、約 20 回開かれた国会事故調の委員会 はすべて公開され、フリーランス記者にも取材が認められた。 公開の委員会には、事故発生当時の菅直人首相や清水正孝東電社長をはじめ重要な役職 にあった関係者ら 38 人が参考人として招致。さらに、公開ではないが、延べ 1167 人に対 し、900 時間を超える聞き取りや、避難住民約 1 万人へのアンケート調査も行われた。 事業者と規制当局の馴れ合いを批判 とりこ 保安院は東電の「 虜 」 こうしてまとめられた報告書は 641 ㌻にわたり、6 項目の「結論」と 7 つの「提言」が 示された。 「人災」の判断のほか、東電が主張する津波原因説を退け、地震自体による原発 損傷の可能性があることを指摘。さらに、原発規制官庁の経済産業省原子力・安全保安院 と、電気事業者である東電との馴れ合い体質にも触れ、保安院が東電の「虜(トリコ)」に なっていた点を指弾している。 大飯原発の再稼働決定を暗に批判 「福島原発事故は終わっていない」 黒川委員長の「福島原発事故は終わっていない」の言葉で始まるこの報告書は、第三者 機関による検証作業の継続が必要なことを提言。直接は言及していないが、福島原発事故 の原因究明を待たずに行われた大飯原発の再稼働決定など、政府の安直な姿勢を暗に批判 していることが読み取れる。 1 個人の責任には触れず 調査に限界も この種の報告書は通常、官僚らが作文するのがお決まりのパターンだが、今回の国会事 故調の場合は、徹夜の作業を含め各委員が自ら筆を執った部分が多いという。 全体として、東電にも政府にも厳しい姿勢を貫いた報告書と言えるが、特定の個人の責 任にはついに言及せず、「国会」の名を冠しても、やはり限界があることを示した。 また、原発を推進してきた前政権の与党自民党や、 「安全神話」を後押ししたマス・メデ ィアの責任に対しても報告書の本文では触れていない。 委員の「メッセージ」で自民党とマスコミを批判 ただ、各委員からの「メッセージ」の中に、 「ほぼ 50 年にわたる一党支配と、新卒一括 採用、年功序列、終身雇用といった官(界)と財(界)の際立った組織構造…」 (黒川清委 員長)、 「政・官・財のトライアングルと学界・マスコミとが織りなす日本の病巣」 (野村修 也委員)などの文言があり、自民党やマス・メディアを批判する姿勢も一応は示している。 検証作業の継続を提言 問われる国会とメディアの責任 いずれにせよ、 「今後も福島原発事故の検証作業が必要」と提言する報告書を、絵に描い た餅にしないために何をなすべきか。国会の責任とともに、それを監視するメディアの責 任も問われている。 (かみで・よしき)北海道新聞で東京支社政治経済部、シンガポール特派員、編集委 員などを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院博士課程(新聞学専攻)在学中。 2
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