家 族 の 原 点

断 酒 会
家 族 の 原 点
講 師 :中 田 陽 造 (大 阪 大 学 大 学 院 教 授 )
日 時 :平 成 4 年 5 月 16 日 ・17 日
於 :第 16 回 香 川 県 断 酒 会 家 族 一 泊 研 修 会
(社 ) 香 川 県 断 酒 会 家 族
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断
酒
会
酒 害 者 の家 族 ............................................................................................................................ 3
アルコール性 痴 呆 ....................................................................................................................... 4
食
欲 .................................................................................................................................... 5
眠
り ..................................................................................................................................... 6
運
動 .................................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。7
不
眠 .................................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。8
佳 いのはなぜ .......................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。9
子 宮 内 体 験 ......................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。10
プロの酒 の良 さ .................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。11
アルコール依 存 を理 解 する .................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。12
一 日 断 酒 ............................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。13
例 会 出 席 ............................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。14
酒 害 地 獄 を語 る ................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。15
断 酒 会 に出 ない家 族 ........................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。16
捨 てる .................................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。17
求 めることが苦 のはじまり .................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。18
拒 否 権 ................................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。20
妥 当 な(VALID) .................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。22
耳 を傾 ける ........................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。23
過 保 護 ................................................................. エラー! ブックマークが定 義 されていません。24
感 謝 .................................................................... エラー! ブックマークが定 義 されていません。26
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家 族 の原 点
「家 族 の原 点 」と言 うことで何 か話 しを、とのことでありますが、私 の話 は大 体 何 処 でも同 じ
ような話 を繰 り返 し繰 り返 しやっている訳 で、よくご存 知 の方 も沢 山 おられることと思 います。
酒 害 者 の家 族
私 のアルコール医 療 の初 診 には、家 族 のおられる方 は必 ず家 族 と一 緒 に来 て頂 くのが建
前 になっております。ケースワーカーの方 に診 療 の予 約 が入 りますと、ケースワーカーは、診
察 日 には必 ず家 族 と同 伴 で来 てくれと伝 えます。そこで家 族 の方 がお見 えになります。最 初
はいろいろと話 を伺 う訳 です。酒 害 者 のほうは、飲 んでおられる方 は最 初 来 られたときにはほ
とんど何 も言 いません。まだその日 の朝 一 杯 引 っかけて来 ている方 が大 部 分 ですから、いか
にもしんどそうに早 く終 わってほしいと言 った感 じで、そこで伸 びておられます。家 族 の方 は、
ものすごいですね。頭 の毛 が逆 立 って目 がつりあがり、機 関 銃 みたいにバリバリしゃべられま
す 。新 患 さんが 入 り ますと、ア ル コール特 診 の常 連 患 者 さんは 、今 日 また一 時 間 か一 時 間
半 ぐらい時 間 が遅 れるなあ、と言 った感 じです。つまり大 体 、新 患 さんが入 られると一 時 間 な
いし一 時 間 半 、診 察 してお話 を伺 うと言 うことです。
家 族 は、どなたも最 初 に来 られたとき、「もう私 ぐらい惨 めな人 生 を送 って来 た者 はいない」
と言 うような感 じであります。「どうしてこんなに悪 い星 の下 に生 まれたのだろう」と言 うふうに
思 っ ておら れ ます 。私 が話 を伺 い ます と、ど なたも 一 緒 なの です 。五 年 やめ、十 年 や めて失
敗 された家 族 の方 も、昨 日 やめた家 族 の人 も、結 局 、同 じようなことを違 う言 葉 で話 している
のに過 ぎないのです。
と言 うことは、どう言 うことかと言 いますと、家 族 が酒 害 者 と同 じ屋 根 の下 で五 年 、十 年 、二
十 年 と地 獄 の生 活 をされていますと、酒 害 者 へしか目 が行 かなくなっているのです。世 間 の
ことなど何 も目 に入 らなくなります。酒 害 者 が酒 を飲 むか飲 まないかと、ただそれだけに注 意
が集 中 してしまっています。ほかのことへは何 も目 が行 かないのです。
世 間 にはいろいろなことが起 こっており、結 構 、お酒 の問 題 でなくてもギャンブルであるとか、
あるいは子 供 の不 登 校 であるとか、いろんな苦 しみをもっている人 も山 ほどいる訳 で、私 なん
とらわ
かも苦 しみの山 です。そのような場 合 でも、皆 、自 分 の苦 しみに 囚 われて、それ以 外 へは目
が行 かなくなるものです。酒 害 者 家 族 の場 合 は、長 年 のお酒 の渦 に巻 き込 まれているうちに、
酒 害 者 が飲 むか飲 まないかと、ただそれだけに注 意 が集 中 しており、世 間 の動 きで、湾 岸 戦
争 があるとかアフガニスタンでどうだとか、そんなことは全 て注 意 の外 に出 てしまって、自 分 だ
けが不 幸 だと思 っています。
確 かに人 間 は、自 分 の虫 歯 一 本 が痛 い、そのことのほうがアフリカで一 千 万 もの人 が飢 え
死 にしていると言 うことよりも、もっと切 実 なのです。これが人 間 性 です。アフリカで一 千 万 人
が現 実 に飢 え死 にしつつあるのですが、そんなことよりも、自 分 の虫 歯 一 本 のほうが、もっと
大 事 なんです。よく医 者 の所 に行 きますと、三 時 間 待 たされて三 分 間 診 療 やと言 われます。
そ れ も患 者 さんの 心 理 を 表 してい る訳 です 。実 際 に三 分 間 診 療 は あるか も知 れ ません が 、
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私 にはそんな器 用 なことをようしませんが、それでも患 者 さんは診 察 室 の中 で、先 生 に診 ても
らう時 間 を非 常 に短 く感 じます。もっともっと話 を聞 いてほしい、もっともっと丁 寧 に調 べてほし
い気 持 ちがあるからです。また、早 く診 てほしいと、あせっているので、他 人 が入 っているとき
は、やたらと長 時 間 待 たされていると感 じるのです。それが三 時 間 待 たされて三 分 間 診 療 と
いうふうな言 葉 になっていると思 います。
患 者 さんの心 理 は皆 そうでして、一 人 だけで苦 しんでいると思 うと余 計 に辛 い者 です。です
から家 族 の方 に私 が申 し上 げるのは、何 でも宜 しいから、酒 害 者 が断 酒 会 に行 くか行 かない
か、それも、どうでも宜 しいけれど、家 族 の方 は断 酒 会 に行 ってくださいよ、例 会 に必 ず出 席
して下 さいよ、と最 初 にお願 いする訳 です。
例 会 に出 ると、いい体 験 談 が沢 山 あります。今 日 ここへ出 て来 られた方 は沢 山 の体 験 談 を
お聞 きになって、「私 も随 分 辛 い人 生 を送 ってきたけれど、同 じような、あるいはもっと酷 い体
験 をしてきた人 がいる」と知 ることができた訳 です。その知 るとこを出 来 たとき、「私 だけではな
かったのだ」と思 ったら、人 間 って随 分 残 酷 なのですね、私 だけが辛 い目 にあっていると思 う
と苦 しいのですが、同 じような苦 しみをもっている人 が沢 山 いると思 ったら、みんな一 緒 だと思
ったら、安 心 するのです。そこで断 酒 会 の例 会 に出 てきて、先 輩 の人 々の苦 しかった時 の酒
害 地 獄 の話 を聞 く中 で新 入 会 の家 族 が先 ず安 心 する。私 だけではなかったと。先 づ、そこで
救 われるのです。
断 酒 会 の言 葉 の中 に良 い言 葉 が沢 山 ありますが、一 つだけいやな言 葉 がありまして、それ
は「家 族 の協 力 」と言 う言 葉 なのです。私 はあの言 葉 が大 嫌 いで、ことあるごとにその言 葉 を
攻 撃 するのです。家 族 が協 力 すると言 う前 に 、家 族 は「回 復 」してもらわ ないといけません。
家 族 が健 康 を回 復 してもらわないといけない。心 身 ともに回 復 していただくことが先 づ大 事 で
す。家 族 の方 が断 酒 会 に出 て来 られるのは、家 族 の協 力 ではなくて、それよりも先 づ家 族 自
身 が心 身 ともに健 康 を回 復 するために出 て来 るのであって、「私 」のために出 て来 るのですよ。
あの飲 んべえの酒 をやめさせるために出 てくるなんて思 ってはいけません。それはおこがまし
すぎますよ。
アルコール性 痴 呆
酒 害 者 でない私 たちの価 値 観 と言 うか、何 がよくて何 が悪 いかと言 う考 え方 からいくと、お
酒 一 つぐらいやめるのがどうしたのだと思 うのです。私 自 身 は酒 害 者 でもありませんし、私 自
身 はお酒 を飲 みません。付 き合 い程 度 の飲 み方 で晩 酌 はしません。何 かがあってちょっと乾
杯 しなければいけないときに口 をつける程 度 で、あんなもの、ちっとも旨 いとは思 いません。こ
んなことを言 いますと、酒 害 者 の中 には、酒 も飲 まないような先 生 にアル中 の気 持 ちが分 か
るか、アル中 の診 療 が出 来 るかと言 う人 もいます。だったら、産 婦 人 科 の先 生 は子 供 を産 ん
だおばちゃんでなければいけ ないのか。そんなアホな話 はない でしょ う。男 の先 生 だっている
のだし、独 身 の女 性 の先 生 だっているのですから。岡 目 八 目 と言 う言 葉 がありますが、当 事
者 よりも横 でジッと冷 静 に見 ているほうが、かえってよく分 かります。私 はアルコール医 療 をや
っておりまして、横 でジッと見 ているのです。非 常 に冷 静 に見 ているつもりなのです。そうする
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と飲 んでいる本 人 よりも、お酒 の佳 さを理 解 できるのです。お酒 ぐらい佳 いものはありません。
素 晴 らしいものです。この世 の中 で最 高 に佳 いものが泥 酔 と言 う酒 の酔 いなのです。それは、
脳 が苦 しみを感 じない状 態 です。
皆 さん方 、誰 でも夜 眠 るのは好 きだと思 いますが、医 学 的 に言 うと、夜 眠 ることは心 身 の疲
労 をとるために何 の意 味 もないんだ、夜 眠 るのは時 間 をつぶすだけにすぎないのだから、眠
るのをやめにして、夜 八 時 間 眠 るんだったら八 時 間 眠 らないで起 きていて、そして仕 事 をすれ
ばもっとお金 も稼 げるし、もっと賢 くもなるだろうし、だから夜 眠 るのをやめなさい、と言 ったとし
ます。
事 実 、今 まで歴 史 の中 で夜 眠 らないで死 んだ人 は誰 もいません。しかしながら寝 過 ぎて死
んだ人 なら掃 いて捨 てるほどいます。現 在 でもアフリカには眠 り病 と言 うのがあります。これは
し
み
ん
伝 染 病 の一 つです。第 一 次 大 戦 が終 わったとき、ヨーロッパには嗜 眠 性 脳 炎 と言 って、寝 て
寝 て寝 たおして、最 後 に死 んでしまうことがあるだけでなく 、例 えばアルコール依 存 症 で酒 を
飲 んでは寝 、飲 んでは寝 ています と、しまいに 、ア ホになり ます。アル コール性 痴 呆 と言 う状
態 になります。私 の患 者 さんにも一 人 おられて、酒 をやめていますが、とちらかと言 うと、やめ
ているのではなく、飲 むのを忘 れているのです。朝 ご飯 を食 べたことを昼 には忘 れています。
その方 は三 年 ほど酒 を一 滴 も飲 んでいません。家 族 の方 から話 を聞 いて知 っ ているの です
が、その人 のお姉 さんが毎 朝 この人 を喫 茶 店 のモーニングに連 れていきます。コーヒーとトー
ストと卵 がついています。それが日 課 なのです。ところがその人 に、時 々学 生 なんかが診 療 を
見 学 に来 ているとき、わざと聞 くのです。一 週 間 に一 回 、十 時 ごろ予 約 でその人 は来 るので
すが、その時 その方 に「今 朝 はご飯 とおみそ汁 」と聞 くのです。そしたら、スラスラッと答 えます。
「今 朝 はご飯 とおみそ汁 」、「中 に何 が入 っていましたか」、「豆 腐 が入 っていた、ワカメが入 っ
ていた」とスーと言 うのですが、全 くデタラメです。そんなのをコルサコフ症 候 群 と言 います。記
銘 力 障 害 と言 って、今 起 こったことを覚 え込 めない。何 年 もモーニングを食 べに行 っているの
に、十 時 半 ごろに「今 朝 何 食 べた」と聞 くと「ご飯 とみそ汁 」、「何 が入 っていた」、「豆 腐 とワカ
メ」‥こんなのはウソ発 見 機 にかけてもかかりません。その人 はウソをついていると思 っていま
せん 。ですが朝 食 べたもの を昼 には忘 れ ている 。そ れがアル コール性 痴 呆 です 。そう言 う状
態 になってしまう。それは、いつも大 酒 飲 んで寝 て寝 て寝 たおしたから、そうなったのです。家
族 はたいへんですが、アルコールで呆 けた人 は、脳 が出 来 事 をスグ忘 れて苦 しみを感 じない
から最 高 に幸 せなのです。
食
欲
人 間 の脳 が 、人 間 のい ろん な行 動 も支 配 してい ます 。つい でだからお話 しますが 、我 々が
食 欲 を感 じます。お腹 が減 ったと感 じます。先 程 、ご馳 走 頂 きました。食 べますと満 腹 します。
その前 にお腹 が減 ったという気 持 ちで、何 か欲 しくなる。食 欲 と言 いますが。食 べた後 は、食
った食 ったと満 足 する。その満 腹 感 。これらは胃 腸 がさせているのでなく、脳 がさせているの
です。
脳 が食 えッと命 令 するのです。脳 が食 えッと命 令 すると、我 々は腹 がへったように思 うので
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す。空 腹 感 を感 じるのです。攝 食 中 枢 とか満 腹 中 枢 と言 うのが脳 にありまして、そう言 う命 令
を出 すのです。したがって脳 が故 障 しますと、食 っても食 っても、もうやめとけと言 う命 令 が出
なくなるの です。ご存 じでしょう 。それが過 食 症 と言 う病 気 です。それから今 度 はまた脳 が故
障 しますと、腹 はからっぽで、体 は栄 養 を必 要 としているにもかかわらず、脳 のほうが食 えと
言 う命 令 を出 さないのです。そうすると目 の前 にどんなご馳 走 が並 べられていても、全 く食 う
気 が起 こらないで、ガリガリに痩 せて死 んでしまうことがあります。これが拒 食 症 です。皆 さん
ご存 知 でしょう。そこから何 が分 かるかと言 いますと、食 欲 と言 うもの、腹 がへったという感 覚
も、腹 が一 杯 になったと言 う感 覚 も、実 は脳 の命 令 に過 ぎない。胃 腸 が要 求 しているのでは
ない。脳 がただ単 に命 令 をしたにすぎない事 です。
脳 をもっている高 等 動 物 の全 ての行 動 、からだの働 きは全 て脳 の命 令 に従 っています。で
すから脳 がいろんな内 分 泌 器 官 に分 泌 しろと命 令 すると、ホルモンが分 泌 される訳 です。そ
こで女 性 の生 理 が起 こったり、体 の具 合 がととのえられたりします。ところが脳 のほうで、ちょ
っと故 障 が起 こって、感 情 の乱 れが起 こるとか、新 婚 旅 行 に行 くとか、あるいは心 配 ごとが起
こると、生 理 は一 遍 に乱 れてしまう。これは脳 の中 枢 が間 違 った命 令 を出 してしまうからです。
よくあるこですが、生 理 にひっかからないように新 婚 旅 行 行 こうと思 って、医 者 と相 談 して、キ
ッチリと日 取 りを決 めて行 ったのに、向 こうへ行 った途 端 にドバッと出 てしまったり、そう言 った
ことが起 こるので。帰 って来 てから、それで計 算 が合 っているんですかと医 者 は怒 られるんで
す。合 っているのだけれど、その人 の勘 定 が狂 ってしまっただけの話 です。
眠
り
それと同 じことで、先 ほど、チョットお話 を始 めた眠 るとか目 覚 めるとか言 うことも、これも脳 の
命 令 なのです 。夜 になると我 々は なんとなく眠 たく なってく る野 です。我 々だ けでなく、鳥 だっ
てそうでしょう。鳥 は夜 飛 んでいません。ねぐらに帰 って眠 っています。朝 になると目 覚 めたス
ズメや鳥 がチュンチュンカーカー鳴 いて飛 び立 っていきます。人 間 も朝 になると目 が覚 めて、
あゝ一 晩 寝 て元 気 が出 たと思 うのです。それは違 います。一 番 寝 て元 気 が出 るのと違 うので
す。
夜 に なり ます と、人 間 の 脳 の中 にあ る睡 眠 中 枢 が眠 れ と言 う命 令 を出 す の です 。さあ もう
寝 よう。そうするとその睡 眠 中 枢 の眠 れと言 う命 令 によって、我 々の脳 はストップ信 号 を出 す
の です。もう活 動 を止 めましょう 。も う起 きているのは やめましょう。そ のストップ信 号 、つ まり
赤 信 号 です。その赤 信 号 がパッ と点 くの です。赤 信 号 がパッと点 く とどうなる か。あら ゆる意
欲 が無 くなり、何 もする気 力 が無 くなり、明 日 試 験 があるけど、宿 題 はまだだけれど、もういい
や、もういいやと思 う。どうでもいいや、怒 られるときは怒 られたらいいや。また再 試 験 を受 け
たらいいじゃないか、と言 ったことで、何 をする意 欲 も無 くなって。ただひたすらに眠 りたいと言
う事 で。体 がだるくて仕 方 がない。全 身 倦 怠 感 と言 うのですけれど、そう言 うふうになって、そ
してねぐらを探 して眠 る訳 です。睡 眠 中 枢 が働 いている間 、夜 の間 は赤 信 号 が点 いているの
です。
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