1-098 土木学会第61回年次学術講演会(平成18年9月) 着氷雪送電線の空力特性とギャロッピング振動に関する検討 電力中央研究所 正会員 清水幹夫 *1 東京大学大学院 正会員 石原 孟 *2 東京大学大学院 学生会員 ファバンフック*2 1. はじめに これまでに筆者らは,着氷雪形状が互いに相似な 4 導 体および単導体送電線の部分模型を用いた風洞実験結果 に基づき,単導体から 4 導体への空気力係数の換算を試 みている[1].ただし,換算によるギャロッピング振動へ の影響は未だ明らかにされていない.このため本検討で は,標準的な 4 導体送電線に対して,上記風洞実験で得 られた空気力係数の真値および換算値を考慮した数値シ ミュレーションを実施し,ギャロッピング時における応 答変位を比較した. 2. 空気力係数 検討には,4導体および単導体の部分模型に10m/sの一 定風速を作用させた三分力天秤実験結果を用いた.図 1 に部分模型の着氷雪形状を示す.以下では,4導体,単導 体の各部分模型を 4-1.00D,1-1.00D と称し,抗力,揚力 および空力モーメント係数をそれぞれCDn,CLn およびCMn と表す.ここに,添字 n は対象とした部分模型の導体数 を示す(n=1 または 4).また,単導体から 4 導体への空気 力係数の換算には次式を用いた. CD1-4 = 2CD1,CL1-4 = 2CL1 ‥‥‥‥‥‥‥‥ (1) CM1-4 = 2CM1・B1/B4 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ (2) ここに,B1,B4:それぞれ 1-1.00D,4-1.00D の代表長さ であり,添字 1-4 は換算値であることを示す.上式では, 測定時に,4-1.00D の受風面積を 1-1.00D のそれの 2 倍と し,B1,B4 をそれぞれ導体の外径,導体の中心間隔とし たことを考慮した.図 2 に,これら換算値と真値すなわ ち CD4,CL4 および CM4 とを比較して示す.図の結果では, 電線の風上側に着氷雪がある場合,迎え角 10 ∼ 20 度の 範囲で揚力係数の勾配が負となっており,ギャロッピン グ発生の可能性が考えられる[2].また,この範囲の真値 と換算値は,抗力および揚力係数については概ね一致す るが,空力モーメント係数については増減の傾向が大き く異なることがわかる. 3. シミュレーションの条件 シミュレーションには,電力中央研究所が開発した 3 次元有限要素解析コード CAFSS[3]を用い,最上試験 線[4]に架線された 4 導体送電線 1 径間を解析対象とし た.ここでは,図 2 の空気力係数が部分模型の回転軸 すなわち三分力天秤による支持点回りで測定されたこ とを考慮し,4 導体はこれと等価な物性値,受風面積 および固有振動特性を有する単導体として,図 3 のと おりモデル化した.モデルの諸元を表 1 に示す. 風速は,10m/s の水平かつ径間直交方向の一様流と し,迎え角の初期値を 10,15,20 度に変化させて図 2 の真値および換算値を適用した.また,計算は 0.05 秒 刻みで 3 6 0 0 ステップ行い,構造系の減衰は 0 . 1 H z , 0.3Hz でそれぞれ 0.5%,1.5% となる Rayleigh 減衰と した. 4. シミュレーションの結果 シミュレーションの結果得られた,径間 1/4 と 1/2 の 位置における鉛直および電線軸回りのねじり方向の動揺 範囲,すなわち変位およびねじり角の最大値と最小値と の差を表 2 に示す.表より,真値と換算値を用いた場合 の間で動揺範囲に差がみられる.また,動揺範囲が最大 となる迎え角の初期値は,真値,換算値を用いた場合,そ れぞれ 20 度,15 度であり,異なる値となっている.この ときの変位の軌跡と,ねじり角の時刻歴は,それぞれ図 4,5 となる.これらの図より,鉛直変位,ねじり角とも, 換算値を用いた結果が,真値を用いた結果を上回ること がわかる. 5. まとめ 本検討の計算条件下では,換算された空気力係数を用 いたギャロッピング振動は,真値を用いたそれと比較し て,傾向が異なる結果となった.今後,より多様な条件 下でシミュレーションを実施し,こうした傾向の違いの 原因および換算の可能性を明らかにする必要があると考 えられる. 参考文献 [1]清水幹夫,石原孟,ファフックバン:3 分力天秤実験 に基づく着氷雪多導体および単導体送電線の定常空気 力特性に関する検討,構造工学論文集,Vol. 50A,pp. 647-656,2004. [2]Den Hartog, J. P. : Mechanical Vibrations, McGraw-Hill, 1956. [3]清水幹夫,佐藤順一:4 導体送電線のギャロッピング 観測およびシミュレーション,構造工学論文集,Vol. 47A,pp. 479-488,2001. [4]武田浩三:最上試験線の紹介,日本風工学会誌,第 65 号,pp. 51-58,1995. キーワード:ギャロッピング,風洞実験,送電線,4 導体,着氷雪,空気力係数 *1 〒 270-1194 千葉県我孫子市我孫子 1646 TEL 070-6568-9673 FAX 04-7183-2962 *2 〒 113-8656 東京都文京区弥生 2-11-16 TEL 03-5841-1145 FAX 03-5841-1147 -195- 1-098 土木学会第61回年次学術講演会(平成18年9月) 表 2 鉛直およびねじり方向の動揺範囲 38 着氷雪高さ 1.9 迎え角 9.8 18.6 1 15 度 2 11.50° 注: ・単位:mm ・1-1.00Dの着氷雪形状と相似 10 度 19 R5 相対風向 11.5° 20 度 23.5 換算値を用いた結果 径間1/2 径間1/4 鉛直(m) 0.04 0.09 1.49 2.98 ねじり(度) 0.78 1.27 28.09 41.43 鉛直(m) 0.63 1.26 1.44 3.04 ねじり(度) 12.11 17.83 28.40 42.15 鉛直(m) 0.83 1.79 1.12 2.68 ねじり(度) 24.82 35.37 25.36 36.00 方向 8 12 2.5 6 10 2.0 4 8 2 6 0 4 2 4 C :真値 D CL4:真値 CD1-4:換算値 CL1-4:換算値 -4 -6 -8 -20 0 20 40 0 0.5 0.0 -0.5 -4 60 80 100 120 140 160 180 迎え角 (度) -1.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 12 0.6 10 0.4 8 2.5 0.2 6 2.0 0 4 1.5 -0.2 2 1.0 CM4:真値 -0.6 C 0 1-4 :換算値 M -0.8 -20 0 20 40 -2 (b)空力モーメント係数 -4 60 80 100 120 140 160 180 迎え角(度) (b)換算値を用いた結果 0.5 0.0 -1.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 水平変位(m) 20 図 4 変位軌跡 15 10 5 50 0 -5 -10 (a)真値を用いた結果 ねじり角(度) 40 (境界条件:電線両端の自由度固定) 0 60 120 180 240 径間方向(m) 300 360 径間1/4 径間1/2 30 20 10 0 -10 図 3 解析モデル(最上試験線) 表 1 解析モデルの諸元 0 50 線種 径間長 ACSR410 360m サグ 8.55m 支持点高低差 9.5 m 断面積 1.923 ×10 -3m 2 ヤング率 8.192×10 10N/m2 0 ねじり剛性 3.850 ×10 3N m2 -10 密度 3.480×10 3kg/m 3 要素分割数 36 30 60 90 時間(秒) 120 (b)換算値を用いた結果 40 ねじり角(度) 鉛直方向(m) 径間1/4 径間1/2 -0.5 図 2 風洞実験結果 -15 -20 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 水平変位(m) 鉛直変位(m) CM 0.8 -0.4 径間1/4 径間1/2 1.0 -2 (a)抗力・揚力係数 (a)真値を用いた結果 1.5 鉛直変位(m) -2 径間1/2 注)動揺範囲は鉛直変位あるいはねじり角の最大値と最小値との差を 意味し,過渡応答が含まれる初期の 50 秒間を省いて評価した. 図 1 着氷雪形状: 4-1.00D の導体部断面図 C D, CL 真値を用いた結果 径間1/4 迎え角の 初期値 180 径間1/4 径間1/2 30 20 10 0 30 60 90 時間(秒) 120 図 5 ねじり角の時刻歴 -196- 150 150 180
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