第33回国際心肺移植学会参加印象記

●学会参加印象記
第 33 回国際心肺移植学会参加印象記
国立循環器病研究センター研究所人工臓器部
水野 敏秀
Toshihide MIZUNO
第 33 回国際心肺移植学会〔International Society for Heart
併症について,その予防,対策について発表されていた。
and Lung Transplantation(ISHLT)33rd Annual Meeting
ま た,補 助 人 工 心 臓 装 着 後 の 生 理 学 的 な 変 化 に 関 す る
and Scientific Sessions〕は,2013 年 4 月 24 ∼ 27 日にカナダ
session も組まれ,熱心な討論が行われていた。さらには,
ケベック州モントリオール市で開催された。モントリオー
補助人工心臓治療の長期化に伴うコスト分析や保険償還に
ル市は,カナダ南西部ケベック州最大の都市であり,
「北
関する session が毎年企画されているのも,本大会の特徴
米のパリ」とも呼ばれている。ヨーロッパ調の町並みが美
である。
しく,世界的に名高いシルク・ドゥ・ソレイユの拠点都市
本大会で特に印象に残った session は,
“Great debates in
としても知られ,文化的にも北米をリードする都市であ
MCS”と題された debate symposium である。この session
る。
は,与えられたテーマに対し,肯定,否定に分かれて議論
本大会は,セントローレンス川に近い同市最大級の規模
を誇る Palais des congrès de Montréal を会場に開催され
た。採択演題数は 939 題で,開催期間中 28 の pre-meeting,
と 45 の abstract session および symposia が企画され,本邦
か ら は 23 題 の 参 加 で あ っ た。 そ の う ち mechanical
circulation support(MCS)関連の演題は 337 題あり,11 の
oral session,2 つの mini-oral session で議論されていた。本
を行うのだが,そのテーマは以下の通りである。
1. Should stable left ventricular assist device(LVAD)
patients receive organ allocation advantage?
2. Should sensitization warrant higher priority on the
waiting list?
3. Does mechanical support work for those with poor
social support?
学会は,今後 Inter national Society for Hear t and Lung
T rans plantation Registr y for Mechanically Assisted
Circulatory Support(IMACS)を主催することもあり,全演
題数の約 3 分の 1 が人工心臓関連の演題である。
本大会では,補助人工心臓装着後の quality of life(QOL)
と予後について,コホート的な研究を実施した報告が数多
くなされ,近年における補助人工心臓治療の普及を実感す
ることとなった。これらの報告では,デバイスや患者の違
いによる治療効果や問題点を議論し,補助人工心臓装着予
後の鍵となる driveline 感染症,gastro-intestine bleeding お
よび後天性 von Willebrand 病などの補助循環療法特有の合
■著者連絡先
国立循環器病研究センター研究所人工臓器部
(〒 565-8565 大阪府吹田市藤白台 5-7-1)
E-mail. [email protected]
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図 1 本大会の会場となった Palais des congrès de Montréal
モントリオール市らしいオシャレな建物である。
人工臓器 42 巻 3 号 2013 年
4. Are VAD destination therapy and hemodialysis
Mechanically Assisted Circulator y Support(MedaMACS)
にも引き継がれ,より詳細な分析が実施されていくことの
compatible?
いずれのテーマも今後の補助人工心臓療法において非常
に重要な事項であるため,議論は否が応でも盛り上がり,
報告があった。
本学会は,その名の通り心臓や肺の移植治療に関する臨
debate 慣れしていない日本人的には少し引いてしまうぐら
床系の学会である。もちろん移植自体の議論も盛んである
い白熱した session となっていた。
が,こと心臓分野に関しては補助人工心臓に関する議論が
補助人工心臓関連の registr y については,アラバマ大学
多数を占めている。それだけに,補助人工心臓の新しい学
の Dr. Kirkin より,大会時点での Interagency Registr y for
術的な知見や情報が多く,移植学会というより補助人工心
Mechanically Assisted Circulatory Support(INTERMACS)
臓学会という様相でもある。企業展示も 34 社と,主な人工
について報告があった。補助人工心臓治療を受けた症例数
心 臓 メ ー カ は ほ ぼ 参 加 し て い る。 し か し,Thoratec 社
は年々増加し,その大部分が植込型定常流血液ポンプによ
Hear tMate Ⅱ ® が累積症例数 13,000 例を超え,Hear tWare
るものであること(2011 年には,登録された 1,785 症例中
社 HVAD ® や,本 邦 で は サ ン メ デ ィ カ ル 技 術 研 究 所
1,706 例が植込型定常流血液ポンプを使用している)や,対
EVAHEART ™の症例数も年々増加している現状で,今回の
象症例の高齢化,destination therapy の増加などの近年の
大会でも開発に携わる国内研究者の参加が少ないのは少し
動向が示された。また,新たに発足した ISHLT が主催する
寂しいような気もしている。2014 年は米国サンディエゴ
IMACS に つ い て,大 会 開 催 時 で は 22 カ 国 194 施 設 が 参
で開催されるという。人工心臓の開発に携わる研究者の
加していることや,参加登録に関するデモンストレーショ
方々も一度参加を検討されてはいかがであろうか。
ンについて報告を行っていた。さらに,従来から実施され
て き た INTERMACS は,小 児 用 デ バ イ ス に 特 化 し た
本稿の著者には規定された COI はない。
pediMACS や,治療後の予後検討のための Medical Arm of
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