群馬県立産業技術センター研究報告(2014) 食品中のイソチオシアネート定量分析技術の確立 梅 澤 悠 介 ・ 和 田 智 史 *・ 高 橋 仁 恵 Establishment of quantitative analysis of isothiocyanate in food Yusuke UMEZAWA・ Satoshi WADA * ・ Hitoe TAKAHASHI わさびなどに含まれるアリルイソチオシアネートの定量分析についてガスクロマトグラ フ を 用 い て 検 討 し た 。 標 準 試 料 を 用 い た 検 量 線 の 作 成 で は 、 50~ 14000μ g/ml の 範 囲 に お い て 高 い 直 線 性 が 認 め ら れ た ( R²=0.99)。 ま た 、 添 加 回 収 試 験 で は 、 100%近 い 回 収 率 が 得 られた。実サンプルとしてねりわさびを使用した分析では、サンプル量とアリルイソチオ シ ア ネ ー ト 分 析 値 の 間 に 高 い 相 関 が 認 め ら れ た (R²=0.99)。こ れ ら の 結 果 か ら 、ね り わ さ び 中のアリルイソチオシアネートについてガスクロマトグラフによる定量分析は可能である と推察された。 キーワード:アリルイソチオシアネート、ガスクロマトグラフ、定量分析 The quantitative analysis method for allyl isothiocyanate in wasabi was examined by using Gas chromatography. The calibration curve exhibited high linearity over the concentration range of 50 - 14000 µg/ml (R²=0.99). In addition, about 100% of the recovery ratio was obtained in recovery tests. As a result of the determination of ally isothiocyanate in wasabi tube, the high linearity was observed between the amount of sample and ally isothiocyanate detected . Therefore, it was suggested that the meth od is successfully applied to the determination of allyl isothiocyanate in wasabi . Keywords: Allyl isothiocyanate, Gas chromatography, Quantitative analysis 1 はじめに の情報提供を行ってきた。HS-GC/MS による分 析では、密閉したバイアル内の揮発成分の一 イソチオシアネートは、「-N=C=S」の構造 部を分析しているため、定量の精度に乏しく、 を有する化合物を指す。イソチオシアネート ピーク面積値の相対比から成分の多少を推測 にも様々な種類が存在し、その一種であるア する半定量分析しかできないという欠点を持 リルイソチオシアネートは、わさび、からし、 つ。 だいこんなどアブラナ科の植物に含まれる辛 しかし、わさび加工業者からは辛みの強さ み成分であり、4-ペンテニルイソチオシアネ をアリルイソチオシアネート含有量で管理し ートは、白菜などに含まれる成分である。 たい、また白菜漬け製造業者からは、異臭と 当センターでは、イソチオシアネート分析 指 摘 さ れ る 境 界 を 4-ペ ン テ ニ ル イ ソ チ オ シ に関する技術支援として、異臭のある白菜漬 アネート含有量で管理したいなどの「イソチ けについて、ヘッドスペースガスクロマトグ オシアネートの定量分析」に関する要望があ ラフ質量分析装置(HS-GC/MS)による定性分 る。 析結果から、異臭の原因が 4-ペンテニルイソ そこで、本研究ではガスクロマトグラフ(水 チオシアネートであると推察されることなど 素炎イオン検出器(FID)) 1) を使用することに バ イ オ ・ 食 品 係 、 * 材 料 技術係 よりわさびなどに含まれるアリルイソチオシ 収率が良好であったクロロホルムに転溶して アネート定量分析方法を確立し、これらの要 ねりわさびの量とアリルイソチオシアネート 望に対応できる体制を整えることを目的とし 分析値の相関について検討した。 た。 3 2 試験方法 3.1 2.1 結果及び考察 試料 検量線作成用のアリルイソチオシアネー ト(東京化成工業株式会社製)標準溶液は、ク ロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチルの 3 種類の有機溶媒を使用して 50~14000µg/ml の範囲で濃度調整を行った。 食品の実サンプルとしては、市販のねりわ さびを使用した。ねりわさびを蒸留水に懸濁 し、有機溶媒を 1:1 になるよう加えて日立製 作所製遠心分離機(CF15D)で遠心分離(12000r pm、5 分)を行い、アリルイソチオシアネート を有機溶媒に転溶した。その後、有機溶媒を 試験液として分析に供した。 2.2 分析条件 分析は島津製作所製ガスクロマトグラフ装 置(GC-2010)、検出器は FID を使用した。サン プル導入は島津製作所製オートサンプラー(A OC-20i)を用い試験液 1μl を導入した。また、 注入口温度は 240℃に設定した。カラムはア ジレント・テクノロジー社製 DB-WAX、長さ 3 0m、内径 0.250mm、膜厚 0.25μm を用い初期 温度 120℃で 1 分温度を保持した後 10℃/分の 昇温速度に設定し 220℃まで昇温させた後 4 分間温度を保持した。キャリアガスはヘリウ ムを用いた。 2.3 検量線の作成 クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチ ルの 3 種類の有機溶媒で調製したアリルイソ チオシアネート標準溶液について検量線を作 成した。 2.4 添加回収試験 蒸留水に懸濁したねりわさびにアリルイソ チオシアネート標準品をそれぞれ 3,5,7μl 添加後、クロロホルム、ジクロロメタン、酢 酸エチルの 3 種類の有機溶媒に転溶して回収 率を算出した。 2.5 実サンプルの分析 精秤したねりわさびを蒸留水に懸濁後、回 検量線の作成結果 アリルイソチオシアネートをクロロホルム、 ジクロロメタン、酢酸エチルの 3 種類に溶解 して作成した検量線を図 1 に示す。いずれの 溶媒を用いても 50~14000μg/ml の範囲にお いて、R²=0.99 以上と高い相関が得られた 。 3.2 添加回収試験 ねりわさびに添加したアリルイソチオシア ネートの回収率を算出した結果を表 1 に示す。 回収率は転溶した有機溶媒がクロロホルムの 場 合 が 101.9% 、 ジ ク ロ ロ メ タ ン の 場 合 が 118.4%、酢酸エチルの場合が 114.7%であった。 クロロホルムを溶媒として使用した結果が最 も 100%に近くなった。また、標準偏差もクロ ロホルムを使用した場合が最も小さく 2.5 で あった。以上のことから、溶媒としてクロロ ホルムを使用することが適していると推察さ れた。ねりわさびでのアリルイソチオシアネ ートの分析には、クロロホルムを溶媒として 使用することが適していると推察された。 3.3 実サンプルの分析 精秤したねりわさびの量とアリルイソチオ シアネート分析値の相関について検討した結 果を図 2 に示す。ねりわさびの量とアリルイ ソチオシアネート分析値には R²=0.99 以上 という高い相関が得られた。 3.1~3.3 の結果から、アリルイソチオシア ネートの定量分析は可能であると推察した。 4 まとめ (1) 当センターにおけるアリルイソチオシア ネート定量分析方法確立のために、 GC/FID を用いて検討した。 (2) アリルイソチオシアネートについては、 溶媒としてクロロホルム、ジクロロメタ ン、酢酸エチルの 3 種類を用いて 50~ 14000μg/ml の範囲で検量線を作成した と こ ろ 、 い ず れ の 溶 媒 を 用 い て も R²= 0.99 以 上 と な り 、 良 好 な 結 果 が 得 ら れ た。しかし、添加回収試験では、クロロ クロロホルム R²=0.9989 ジクロロメタン R²=0.9988 酢酸エチル R²=0.9996 図1 アリルイソチオシアネート分析におけ る検量線の作成結果 ホルムを転溶させる溶媒として使用し た 場 合 に 最 も 100%に 近 い 回 収 率 が 得 ら れ、標準偏差も最も小さくなったことか ら溶媒としてはクロロホルムが適して いると考えられる。 (3) 精秤したねりわさびの量とアリルイソチ オシアネート分析値の相関をとったと ころ、R²=0.99 以上となり、良好な結果 表1 溶媒 添加回収試験結果 添加量[μ l] 回収率[%] 3.0 103.3 クロロホルム 5.0 99.0 7.0 103.4 3.0 117.6 ジクロロメタン 5.0 123.0 7.0 114.7 3.0 113.2 酢酸エチル 5.0 119.2 7.0 111.8 図2 が得られた。以上の結果から、アリルイ 平均 標準偏差 101.9 2.5 118.4 4.2 114.7 3.9 ねりわさびの量とアリルイソチオシア ネート分析値の関係 ソチオシアネートの定量分析は可能で あると推察した。 文 献 1)堀一之ほか:日本食品科学工学会誌、46、 8、528(1999)
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