2001年度における世界銀行の活動

第1章
2001 年度における世界銀行の活動
2001 年度、世銀は、途上国による主体的な貧
困削減の支援活動を強化しました。世銀は、IMF
との協力のもと、世界の最貧国が貧困削減戦略を
作成し、これによって債務救済を受ける資格をよ
り早く得ることができるように支援しました。世
銀は、国際開発目標の達成を促進し、特にエイズ
との闘いを強化するためにグローバルなパートナ
ーとの協力関係を強めました。さらに、世銀の重
要な戦略的方向性を定め、近年の大きな成果をよ
り発展させる必要があるとする新たな戦略フレー
ムワークを策定しました。
世界情勢:遅れる回復、伸び悩む貧困削減率
2000 年の世界経済は、1997−98 年の金融危機
以来目覚しい回復を続けましたが、その勢いは減
速しました。2000 年の開発途上国の GDP 成長率
は、平均 5.4 %と前年をやや上回りました。アジ
ア・大洋州地域は 7.5 %と各地域の中では最高の
経済成長率を記録しましたが、サハラ以南のアフ
リカでは 2.7 %の経済成長率に留まりました。南
アジアは、インドで大規模な地震があったにも関
わらず、着実な成長経路を辿りました。改革の加
速、及びロシア連邦の石油収入が過去最高水準に
まで増加したことを受けて、ヨーロッパ・中央ア
ジア地域の開発途上国の経済成長率も上昇しまし
た。しかしこの地域では、金融の安定性の回復と
民間投資の呼び込みが課題となっています。ラテ
ンアメリカ地域は、世界の金融市場が安定性を取
り戻したことを受けて全体的には回復しました。
中東・北アフリカ地域の経済も成長を続けました
が、政治不安や高失業率が継続するなど深刻な問
題が残っています。世界全体としては、2001 年
の経済成長率は鈍化することが見込まれます。
貧困削減率は減速しています。そして、国際開
発目標の課題は山積しています(4 頁を参照)。
しかし、一部の地域では、見通しは明るくなって
います。1990 年から 1998 年にかけて最貧困層の
割合が 29 %から 23 %に減少し、特に中国で最も
大幅な減少となりました。少なくとも 25 の開発
途上国では、乳幼児死亡率が低下し、2015 年の
乳幼児死亡率目標を達成できる見込みです。また、
男女児童の就学率格差も縮小しました。しかし、
他のデータにも注目しなければなりません。推定
によると、学校に通っていない児童の数は 1 億
1,300 万人を超えており、体重不足の児童の数は 1
億 5,000 万人となっています。また、開発途上国
の妊産婦死亡率は、平均で 10 万人当たり 440 人
となっています(高所得国では同 21 人)。エイズ
は様々な目標の達成を大きく阻害していますが、
一部の国々では予防プログラムが成果を上げ始め
ています。しかしながら、現在の傾向から判断す
ると、2015 年までに貧困率を半減させることは
多くの国にとって困難であると思われます。
2001 年度の援助:貧困と質の重視
貸付額の増加と特別資金援助
IBRD と IDA による 2001 年度の新規貸付額は
173 億ドルとなり、2000 年度の水準をやや上回り
ました(表 1.1)。これは、IDA-12 の目標に沿っ
て、特にエイズ危機、紛争後の復興及び石油価格
の高騰に対処するために、アフリカ地域に対する
IDA 貸付が増額されたことによるものです。ア
フリカ地域における複数国エイズ・プログラム
(MAP)は、その革新性と開発効果の増大が見込
める点を評価することができます(Box 1.1)。全
般的に IDA の新規貸付は、社会セクター及び農
村・地域社会開発のための投資を初め、貧困削減
を目標とした投資に重点を置きました。IBRD の
借入国―特にヨーロッパ・中央アジア地域及びラ
テンアメリカ地域の借入国―の需要は、金融セク
ターの強化、人的投資、公共セクター運営の改善
及び運輸セクターのニーズへの取り組みに集中し
ました。制度構築も優先項目の 1 つでした。プロ
ジェクト件数に関しては、2001 年度の総数は 225
件で、ほぼ前年度並でした。また、IDA プロジ
ェクトが、初めて全体の 60 %に達しました。プロ
ジェクトの平均規模は、大型投資案件がいくつか
あったことから、2000 年度の 6,900 万ドルから、
2001 年度には 7,700 万ドルに増加しました。構造
調整貸付の割合は、貸付総額の 3 分の 1 程度に留
まりましたが、この水準は 50 %を超えて過去最高
となった 1999 年度の水準を大幅に下回り、(危機
前の)1990 年代初めの典型的な構造調整貸付の
割合に近いものとなりました。さらに、2000 年
度においては計 12 件で総額 9.650 万ドルであった
特別資金援助は、総額 1 億 480 万ドルに上る 17 件
が承認されました。2001 年度の特別資金援助の
対象国は、東ティモール、ヨルダン河西岸・ガザ
概 観
25
表 1.1
世銀によるセクター別貸付額、1992 − 2001 年度
(単位: 100 万ドル)
貸付案件別分類 a,d
セクター
92 年度− 97 年 98 年度− 99c 年
年平均
年平均
プロジェクト内容別分類 b
00 年度
01 年度
00 年度
01 年度
1,456.8
1,323.8
794.1
824.4
515.9
2,231.3
36.0
50.1
81.6
1,047.8e
1,150.0
1,301.0
762.3
990.5
918.8
1,774.0
20.0
513.5
166.7
1,448.4
652.0
1,143.4
944.9
791.2
2,231.7
36.0
5.0
155.1
1,343.3e
農業
経済政策
教育
電力・その他エネルギー
環境
金融
鉱業
マルチセクター
石油・ガス
2,913.3
2,339.6
1,724.6
2,547.2
738.3
1,632.5
218.1
140.0
550.9
2,700.0
5,812.7
2,231.9
1,253.6
711.5
4,247.6
845.8
504.6
78.8
1,336.7
1,286.7
684.0
994.2
514.1
1,676.5
54.5
654.5
167.0
保健・栄養・人口
民間セクター開発
公共セクター運営
社会的保護
通信
運輸
都市開発
給水・衛生
1,263.9
774.7
600.6
757.2
261.1
3,060.2
1,112.9
908.0
1,549.0
723.5
1,280.1
2,190.4
90.7
3,183.1
910.4
481.3
987.0
163.9
2,442.5
990.0
109.3
1,690.0
621.7
903.6
総額
うち、
IBRD 貸付額
IDA 貸付額
21,543.1
28,795.0c
15,368.4
6,174.7
21,634.3
7,160.7f
507.3
2,570.6
1,672.5
65.0
2,969.9
549.5
554.0
1,044.3
207.3
1,868.3
1,517.9
109.4
1,612.3
699.5
620.5
15,276.2
17,250.6g
15,276.3
10,918.7
4,357.6
10,487.1
6,763.5f
556.6
2,115.0
1,882.7
64.2
3,024.6
317.3
539.2
17,250.6g
注:端数を四捨五入したため、合計が合わないことがある。IBRD 貸付及び IDA 貸付に関するセクター別詳細に関しては、第 2 巻の付表 10 を参照。
a. 世銀の業務内容が変化していることを分かりやすく示すために、世銀のセクター分類方法を見直し、適切な分類方法に変更した。2000 年度には、2 つの新しいセ
クター(経済政策セクターと民間セクター開発)を創設し、1 つのセクター(産業)を廃止した。経済政策セクターは、マクロ経済政策、貿易及びその他の経済・
制度改革を支援する業務で構成されている。また、経済政策セクターは、従来はマルチセクターに分類していた構造調整業務と、金融セクターに分類していた一部
業務も含む。民間セクター開発は、ビジネス環境、民間インフラ、小規模企業及び民営化問題を取り扱う業務で構成されている。したがって、民間セクター開発は、
従来は産業及び公共セクター運営に分類していた一部業務を含む。従来は産業セクターに分類していた他の業務は、公共セクター運営部門に分類した。さらに、
1998−99 年度に承認されていた一部の個別案件を再分類した。たとえば、1999 年度のあるプロジェクトについては、農業セクターから給水・衛生セクターに
再分類した。
b. この欄は、貸付の対象となったプロジェクトの主要内容による分類に基づいたセクター別貸付額を示す。たとえば、公共セクター運営向けの 1 億ドルの貸付(環境、
金融及び社会的保護に関するニーズを充足することを目的とするもの)を例に挙げる。貸付案件別分類では、この貸付額の全額を公共セクター運営に計上する。し
かし、プロジェクトの内容別分類では、この貸付額を 4 つのセクター(公共セクター運営、環境、金融及び社会的保護)に分割して計上する。したがって、プロジ
ェクトの内容別分類における社会的保護に対する貸付総額 18 億 8,270 万ドルは、2001 年度に承認された貸付の中の社会的保護に関連する分野の合計を意味す
るものである。
c. 1998 年度と 1999 年度における世銀の貸付額は、その合計額を表示した。この 2 年間は、東アジア危機後の例外的な年であった。
d. 昨年度の年次報告のデータは、2001 年度に若干修正した。
e. アフリカ地域に対する複数国エイズ・プログラムに基づいて 7 ヶ国に対して行われた 2 億 8,720 万ドルの IDA 貸付、及びカリブ海地域エイズ・イニシアティブに
基づいて 2 ヶ国に行われた 4,010 万ドルの IBRD 貸付を含む。前記のプログラムとイニシアティブに対しては、2001 年度において、世銀はそれぞれ 5 億ドルと
1 億 5,500 万ドルの貸付を承認している。
f. IDA による次の HIPC グラントを除く。1998 年度のウガンダ向け 7,500 万ドル。1999 年度のモザンビーク向けの 1 億 5,400 万ドル。2001 年度のホンジュ
ラス向け 3,700 万ドル、カメルーン向け 6,400 万ドル。
g. 東ティモール、ヨルダン川西岸・ガザ地区、コソボ及びユーゴスラビア連邦共和国に対する、信託基金からの特別資金援助額 1 億 480 万ドルは含まない。
地区、コソボ及びユーゴスラビア連邦共和国でし
た。
加速する債務救済
2001 年度においては、拡充重債務貧困国
(HIPC)イニシアティブ・フレームワークに基づ
いて、世界の最貧国(その内の多くがアフリカ諸
国)の一部に対して、より深く、広く、そして早
く債務救済が提供され、かなりの進展が見られま
26
世界銀行年次報告 2001
した。2001 年 6 月 30 日現在、23 ヶ国― 1 年前は 7
ヶ国―が、このフレームワークにより債務救済を
受けることになり、債務救済額は 340 億ドル強に
なりました。さらに重要なのは、債務救済が透明
で包括的な貧困削減戦略ペーパー(PRSP)
・フレ
ームワークに基づいて実施され始めたということ
です。PRSP(30 頁の「低所得国に対する支援」
の項で議論)は、途上国が国内での協議を経て策
定するものであり、また、債務救済で利用可能に
Box 1.1 アフリカ地域に対する
複数国エイズ・プログラム(MAP)
エイズの流行は、現在、サハラ以南のアフリカ地域の開発の最
大の脅威になっています。国連エイズ・プログラムの推定
(2000 年 12 月)によると、約 2,500 万人の成人と子供達がエ
イズに感染しています。すでに 1,700 万人がこの病気で死亡し
ており、そのため毎年 1 人当たりの GDP が 0.5−1.2 %低下し、
損失は拡大するものと見られています。
世銀は、2000 年 9 月、パートナーと協力し(103 頁を参
照)、この種のものとしては初めてとなる、アフリカ地域に対す
る複数国エイズ・プログラム(MAP)を開始しました。MAP に
基づいて、関係国が策定した個々のエイズ・プロジェクトに対し
て、資金が IDA 条件で迅速に拠出されます。
■ MAP は、エイズの予防、介護及び治療に関するプログラム
を利用する機会―特に脆弱なグループが利用する機会―を大
幅に拡大することを目指したものです。
■ 地域社会及びエイズに感染した人々の団体は、この活動を計
画・実施し、資金を管理します。
■ 2001 年度に MAP を活用した国は、カメルーン、エリトリ
ア、エチオピア、ガンビア、ガーナ、ケニア及びウガンダと
なっています。
■ 最初の 5 億ドルは、3 つのフェーズの内、フェーズ 1 に対す
るものです。フェーズ 1(2001 暦年末までに、この全額が
承認される見込み)は、可能な限り多くの国々が、エイズと
闘うための活動を強化し、この流行病がもたらす過去に例を
見ないほどの負担への対処を支援することを目的にしたもの
です。フェーズ 2 とフェーズ 3 は、それぞれ統合教育と予防
に重点を置きます。
この少年は、メキシコの「第 2 次基本医療プロジェクト」の受益者
810 万人の内の 1 人です。このプロジェクトは、従来は除外されて
いた農村部の貧しい人々―特に女性と子供―に対し、近代的な基本的
保健サービスを提供しています。2001 年度に承認された「第 3 次
基本医療プロジェクト」は、公平性の拡大に重点を置いています。
■ MAP は、最終的には、数百万人が HIV に感染するのを予防
し、数千万人を苦しみから解放し、国全体の開発の可能性を
「経済・セクター調査」
(ESW)の進化
2001 年度には、経済・セクター調査の数は約
335 件でその内訳は分析報告書が約 234 件、政策
ノート等が約 100 件となっています。2001 年度に
おいては、正式報告書としては 62 件の主要な現
なった資金を、途上国自身がオーナーシップを持
状分析報告書(貧困・ジェンダーに関する評価、
つ貧困削減フレームワークに基づき決定するよう
公共的支出に関する調査、財務アカウンタビリテ
定めています。さらに、債務救済は、資金の有効
ィ及び調達に関する調査など)、75 件のその他の
活用に対するコミットメントとその能力があるこ
現状分析報告書(制度・ガバナンスの調査、金融
とを証明した国のみを対象として行われるもので
セクター評価、社会保護に関する調査、都市開発
す。HIPC(及び従来の)債務救済が行われると、 戦略など)ならびに 97 件の地域別・国別助言報
23 ヶ国に関しては、次のとおりです。
告書が作成されました。2001 年度の経済・セク
ター調査に関しては、アフリカ地域とヨーロッ
■ 債務総額が 3 分の 2 削減されます。その結果、
図 1.1 HIPC イニシアティブ前と後に見る債務ストックとデ
毎年の債務返済額は約 11 億ドル減額されま
ット・サービス・レシオの減少(%)
す(図 1.1)
。
■ 2001−02年の間に、保健、教育、エイズ・プロ
(10億ドル)
(%)
60
グラム、基本的インフラ及びガバナンス改革
30
28%
債務返済額/輸出割合
$53.2
(左の軸)
を対象として、
(早期指標に基づいて)社会支
25
出を毎年平均して約17 億ドル増額できます。
19%
20
■ 債務返済額を GDP の約 2 %―開発途上国の
債務返済額/歳入割合
(左の軸)
30
15
平均よりかなり低い―に引き下げ、かつ社会
13%
支出は同約 7 %の水準に達します。
9%
10
保護することを目的としています。
債務ストック
(単位:10億ドル)
の純現在価値
(右の軸)
$20.2
5
0
0
HIPC(1999)以前
HIPC(2001–02)以後
概 観
27
パ・中央アジア地域が最大の割合を占めました。
ESW は、世銀と借入国との政策対話の基礎とな
るものです。現地機関と協力して作成された場合
には、ESW は、当該機関の能力を構築する上で
有効な手段となります。ESW は、借入国による
ビジョンの確立と、借入国の開発状況に対する世
銀の判断の基礎となります。ESW は、IDA 貸付
適格国を対象とする HIPC または PRSP に関する
業務分析の基礎となり、また中所得国に関しても
重要な役割を果たします。開発委員会は、構造的
問題、社会的問題、セクター別問題及び優先事項
を徹底的に分析することを要請していますが、
ESW はこの要請に沿って作成されています。
ESW は、世銀が国別援助戦略(CAS)を策定し、
効果的に貸付プログラムを作成・実施することを
支援するものです。2001 年度において世銀は、
特に公共支出管理、調達管理、財務管理、及び経
済成長・貧困削減に対する構造的制約などの重要
分野に関して、ESW を強化し、現状分析報告書
作成上の格差を是正するための改革努力を続けま
した。
貧困削減のための多面的援助
2000 年 9 月に発表された世銀の「世界開発報告
2000/2001」は、多面的な貧困を削減するための
鍵として、機会、エンパワーメント、保障に焦点
を当てました。この報告の結論を、貸付及びその
他のサービスに活かすための世銀の活動例は次の
とおりです。
■ 伝染病との闘いのための貸付額は、6 億 1,000
万ドル強に達しました。この金額には IDA
貸付 4 億 1,800 万ドル強が含まれますが、過
去 4 年間の年間平均の 2 倍の水準となってい
ます。エイズ及びマラリアとの闘いに対する
援助額は増加しました。世銀はすでに、開発
途上国における結核予防に対する外的支援に
関しては、単独では最大の援助機関となって
います。
■ 教育に対する援助は、機会、質及び公平性を
重視しています。2001 年 6 月 30 日現在、世
銀は世界中で女子に対する教育に関する 64
の進行中プロジェクトを支援しています。こ
の内の 55 のプロジェクトは、IDA 貸付を受
けています。
■ 脆弱な人々を支援するため、世銀は社会保護
プロジェクトを着実に拡大し、質を改善させ
るだけでなく、グローバルなレベルでは、た
とえば国際労働機関(ILO)や国連児童基金
(UNICEF)と協力して、児童労働問題にも
取り組んでいます。
28
世界銀行年次報告 2001
■ クリーンで健康に良い環境を創造するために
は、環境戦略を策定するための広範でグロー
バルな協議、ナイル川の水資源を効果的に管
理するための協調活動ならびにエネルギー、
石油・ガス及び鉱業などのセクターに対する
一段と環境に配慮した支援が必要になってい
ます。
■ エンパワーメントによって得られた成果とし
ては、「グローバル・ディベロップメント・
ゲートウェイ」―世界中の開発に関する情報
を更に普及させ、双方向のアクセスを可能に
するためのイニシアティブ―に関する共同活
動、ならびに借入国の情報システム構築(世
銀プロジェクト全体の 75 %は、この要素を
含んでいる)のための世銀貸付が挙げられま
す。
■ 世銀グループの様々なサービスは、(東ティ
モールやロシア連邦などに対する)投資環境
調査や民間によるインフラ整備支援から、触
媒的な役割を果たすような貸付や保証を始め
とする革新的な金融業務に至るまで、民間セ
クター開発を支援しています。
■ 支援が急増しているのは、法律・司法分野で
す。この分野における世銀の重点は、特定の
法律改革から、一般国民のための法律教育、司
法部門内部の汚職防止プログラム、現地の習
慣に沿った紛争解決のメカニズムの策定、貧
しい女性のための法律相談などに変化してい
ます。
■ 紛争後の復興に関するプロジェクトの指針と
なる新業務方針は、紛争予防分野における根
本原因を特定するための研究、透明性の高い
公共支出管理に対する支援、行政活動に対す
る様々な支援(たとえば復員や復興など)を
始め、一段と系統的な手法の利用を認めてい
ます。
開発効果の改善
世銀のポートフォリオの中で「問題がある」と
判断されたプロジェクトの数は、過去 5 年間で半
減し、現在は過去最低の水準になっています。そ
の結果、総額 160 億ドルに上る貸付が、より良い
結果を借入国にもたらすことになります。プロジ
ェクトに対する評価・監督の質も大幅に改善しま
した。貸付以外のサービスも、同様の傾向を示し
ています。これらの改善は徐々に、プロジェクト
の成果の向上につながり始めています。独立性を
有する業務評価局(OED)は、終了した全プロ
ジェクト中、満足のできる成果を挙げたプロジェ
クトの割合は 1999 年度が 73 %であったのに対
し、2000 年度は 78 %と推定しています。制度構
築の促進及び成果の持続可能性も、徐々に、そし
て着実に改善しています。特に顕著なのは、アフ
リカ地域における質の改善です。これは IDA が、
優れた政策運営実績を有する借入国に対する新規
貸付を重視するよう努めてきた結果によるもので
す。構造調整貸付の質も大きく改善しました。さ
らに世銀全体が、援助の有効活用の促進を目指し
て、セーフガードと財務管理などの受託者責任
(fiduciary policies)を一段と重視したことも注
目すべきことでした。例えば、セーフガードにつ
いての借入国のコミットメントはこれが守られな
い場合、結果的に社会・環境面で大きな損失を招
くこととなります。そこでこのようなコミットメ
ントをより良くフォローできるような仕組みを作
りました。また、セーフガードに関する条件の援
助国間での調整、ガバナンスと費用対効果の改善
を目指した系統的な試みによるプロジェクト財務
管理の強化などに表れています。業務評価局
(OED)は、借入国の評価能力を高めることを一
段と重視しています。
開発ニーズの支援を充足するための財務基盤の強化
2001 年度の IBRD の純利益は 15 億ドルとなり、
2000 年度の水準を下回りました。これは、主に
引当金計上額が増加したことによるものです。
IBRD は、2001 年度の営業利益の内から、6 億
1,800 万ドルを任意積立金に計上しました。この
金額は、前年度の水準を下回るものです。2000
年度においては、長期的な貸付能力を維持し、か
つ、その他の開発ニーズに応えるために、11 億
ドルを任意積立金に計上していました。2001 年
度においては、IBRD は、通常の資金調達活動の
一環として、国際資本市場で 170 億ドルを調達し
ました。IBRD は低コストの資金調達が可能なた
め、借入国への貸付金利を低く抑えることができ
ます。貸付実行のための資金手当て及び債務償還
のための借換えの増加から、資金調達額は前年度
を上回りました。また、債務の履行に支障をきた
さないだけのキャッシュ・フローを確保するため
に、引き続き十分な流動性を維持しました。2001
年 6 月 30 日現在、流動資産は 242 億ドルとなって
います。
借入国ビジネス・モデルとグローバルな
優先事項の形成
対借入国ビジネス・モデル
「借入国の開発のための支援:低・中所得国に
「栄養・幼児開発プロジェクト」により、ウガンダの村落ではますま
す多くの人々が児童保健サービスを受けられるようになってきてお
り、同プロジェクトに参加しコミュニケーションを図ることで、地域
社会による参加に大きな道を開いています。この写真は、子供の体重
を測定している様子をしたものです。
対する世銀の役割と手段」― 2000 年 9 月の年次
総会のために作成された文書―には、開発援助の
パラダイムが変化していることが指摘されてお
り、過去の経験をより良く活かし開発への新たな
ニーズに対応するには、世銀のアプローチをどの
ように見直したらよいのかが提案されています。
特に、政策と制度、民間セクターの役割、包括的
開発フレームワーク(CDF)に明記されている
借入国のオーナーシップとパートナーシップを一
段と重視すべきである、と同文書は指摘していま
す。さらに、借入国の開発に関する独自のビジョ
ンと改革を進める上での優先順位と制約に基づい
て作成され、国別援助戦略(CAS)の中にも規
定されている、結果重視の対借入国ビジネス・モ
デルがまとめられています。
国別援助戦略(CAS)の進展
2001 年度に世銀理事会は、37 件の CAS について
議論をしました。この中には、東ティモール、エ
チオピア、コソボ及びシエラレオネなどの紛争後
の国々に対する計 8 件の移行・暫定支援戦略が含
まれていました。CAS は、借入国との協議及び
透明性に従来以上に留意して作成されています。
情報開示にも重点が置かれ国別援助文書の情報開
示の割合は、IDA(「ブレンド」国を含む)が
100 %、IBRD が 71 %、世銀全体では 87 %となっ
概 観
29
Box 1.2 結果の拡大、脆弱な人々に的を絞る、成功実績の積み上げ、民
間企業の支援: 2001 年度に承認されたプロジェクトの実例
保健:「第 2 次全国ハンセン病撲滅プロジェクト」(IDA : 3,000 万ド
ル)は、第 1 次プロジェクトの成果を踏まえて、州レベルでの診断、治療
及びモニタリングを改善することを目指したインドの国家プログラムを支
援するものです。この第 1 次プロジェクトの結果、インド全国に登録され
ている患者数は、1993 年から 2000 年にかけて半減しました。
農村開発:ブラジルの「土地所有による貧困削減プロジェクト」
(IBRD :
2 億 200 万ドル)は、世銀貸付が行われた 2 つのパイロット・プロジェ
クトの成果をさせるものです。同パイロット・プロジェクトは、農村部の
貧しい人々による土地の利用を促進するための地域社会主導の手法を取り
入れ、その結果約 50,000 世帯の家計の所得が増加しました。
地域統合:「地域貿易ファシリティ・プロジェクト」(IDA : 1 億 1,000
万ドル)―この種のものとしては初めてのプロジェクト―は、アフリカ地
域の 7 ヶ国における民間セクター主導の経済成長による貧困削減を支援
し、生産活動に利用できる資金を増やし、かつアフリカ貿易保険機関の設
立資金を提供するものです。
社会的保護:「緊急復員・社会復帰プロジェクト」及び「緊急復興プロ
ジェクト」(IDA : 4 億ドル)は、復員軍人の社会復帰を支援し、経済を
活性化し、基本的ニーズに対処し、かつエイズ関連の支援を強化すること
により、戦争で疲弊したエチオピアで貧困削減に大きな成果を上げると思
われます。
金融:「第 2 次貧困削減小口貸付プロジェクト」(IDA : 1 億 5,100 万ド
ル)は、バングラデシュで従来は貸付の対象外とされるか、またはその機
会がほとんどなかった農村部の人々に対する小口貸付を拡大し、同小口貸
付を将来的にも持続させることを目標とするものです。これにより、新た
に 120 万人が小口貸付を受け、19,500 人の零細事業者が同様の貸付を
受けることが見込まれています。
教育:「マリ共和国教育セクター支出プログラム」(IDA : 4,500 万ド
ル)は、小学校就学率(名目)を、2000 年の約 56 %から 2010 年に
は 95 %に引き上げ、マリ共和国が将来的に競争的な市場条件に対応でき
るようにすることを目標とした 10 ヵ年プログラムです。
運輸:「第 3 次内陸水路プロジェクト」(IBRD : 1 億ドル)は、運輸面
の隘路を削減し、制度を整備し、約 600 万人の貧しい人々を支援するこ
とにより、中国湖南省の内陸部地域の市場へのアクセスと同地域への電力
供給を改善し、より経済的な内陸水路輸送を可能にすることを目標とする
ものです。
自然災害:「自然災害管理プロジェクト」(IBRD : 4 億 400 万ドル)
は、復興及び人命の損失とインフラの損害を防止することに重点を置くこ
とで、メキシコにおける自然災害による人的、経済的及び金銭的なコスト
を引き下げることを目標とするものです。
公共セクターの改革:「予算システム近代化プロジェクト」(IBRD :
2,400 万ドル)は、効率性、透明性及び効果的なガバナンスを促進する
ことで、アルジェリアの経済成長能力を近代化し、拡大させるものです。
環境:「ロシア石炭・森林セクター保証ファシリティ」(IBRD : 2 億ド
ル)は、石炭・森林セクターのビジネス環境を改善し、商業力のある企業
を支援するものです。
給水:「農村給水・衛生プロジェクト」(IDA : 2,000 万ドル)は、イエ
メン共和国の主に農村部に住む 40 万人を超える貧しい人々を対象に、持
続的な給水・衛生サービスを拡大し、保健サービスを改善し、少女達を水
汲み労働から解放して学校に通わせるものです。
ています。2002 年 7 月 1 日以降からは、世銀理事
会に提出される IDA 借入国の CAS は PRSP に沿
ったものとなり、IDA の貸付・非貸付業務の基
となることが見込まれています。理事会はすでに、
ブルキナファソとウガンダを始め、多くの国の
CAS を PRSP に基づいて検討しています。2001
年度に作成された全 CAS の内、17 件は対象国の
戦略における民間投資の重要性を踏まえて IFC
と合同で作成されたものです。CAS における貧
困重視の度合いは益々強くなっていますが、世銀
は自身の援助基準を着実に引き上げています。主
な優先項目は、貧困に対する現状分析、経済・セ
クター調査の統合、援助の選択度、適切な支援実
施手段、PRSP の成果を表す指標をモニターする
ためのキャパシティ・ビルディング―これは、現
在の大きな課題―などが挙げられます。2001 年
度に承認されたプロジェクトは、世銀援助が貧困
削減を重視していることを示しています
(Box 1.2)。
低所得国に対する支援
2001 年度には、32 ヶ国の正式・暫定 PRSP が
世銀と IMF の理事会において検討されましたが、
ちなみに 2000 年度は 12 ヶ国でした。1999 年 12
月に導入されて以降 PRSP は、低所得国を対象と
した CDF の原則を実施するための主要な手段と
なりました。作成される PRSP の数(拡充 HIPC
フレームワークに基づく債務救済の予備資格を得
るために借入国が作成した 29 の暫定 PRSP を含
む)が増えたことでかなりの進展があったことが
分かりますが、正式 PRSP 作成の際の確実な参加
型プロセスこそが極めて重要です。このアプロー
チはまだ初期段階にあり、参加型プロセスが今後
進展していく中で、政府の活動と優先されるべき
貧困削減の成果をいかに結び付けるかが課題とな
ります。欧州連合(EU)が、アフリカ地域、カ
リブ海地域及び大洋州地域に対する支援を PRSP
のフレームワークに基づいたものとすると決定し
たことも、ドナー間の調整という、上記とは異な
る意味での進展を示すものです。PRSP アプロー
チを採用する事例が増えていることは、国内コン
センサス、確実な参加型プロセス、長期的なビジ
ョン、結果重視及びパートナーシップに裏付けら
れた借入国のオーナーシップを強調する CDF の
原則がますます受け入れられるようになってきた
ことを証明するものです。そして世銀の貧困削減
支援貸付(PRSC)により、これらの戦略が実施
に移されます。2001 年 5 月 31 日、世銀理事会は
ウガンダ向けの 1 億 5,000 万ドルの PRSC を承認
しました。これは、対象国が PRSP に明記された
貧困削減戦略を実施することを支援する初めての
IDA 貸付です(43 頁を参照)。2001 年度において
は、ベトナム向けの PRSC も承認されました。
減との関連性が強いこれらの分野における活動を
強化しました。戦略の絞り込み、主要イニシアテ
ィブにおける世界のパートナーとの協力、及び国
レベルの活動にこれまでの成果を融合させる、な
どが挙げられます。国際的な緊急課題は、それぞ
れの優先分野の資金需要について、確実な概算コ
ストを算出することです。さしあたって世銀は、
後にグローバル・レベルでのアプローチの基礎と
なる確固とした国別プログラム(複数国エイズ・
プログラムなど)を支援するための IBRD と IDA
による画期的なプログラム/プロジェクト貸付を
実施すると共に、IDA のグラント供与能力の拡大
及び世銀の開発グラント・ファシリティの再編を
検討しています。国際公共財に関する世銀のアプ
ローチは、優先順位とパートナーシップに関する
慎重な重点的対応、及び資源の計画的な活用に基
づいています。
中所得国に対する支援
2000 年 9 月の世銀・ IMF 年次総会の場で各国
閣僚から支持を得たことを受けて、世銀グループ
は、中所得国(IBRD 貸付適格国)のニーズへの
対処法を検討するタスクフォースを設置しまし
た。借入国、世銀株主及びその他のパートナーと
の間で広範な協議を行った結果、世銀グループは
中所得国のために重要な役割を担っている、とい
う明確なコンセンサスが生まれました。1 日 2 ド
ル未満で生活しているすべての人々の内、約
80 %が中所得国に居住していることを考慮する
と、貧困削減計画をグローバルに成功させるため
には、引き続き世銀が積極的に中所得国を支援す
ることが必要です。世銀が世界中に拠点を有して
いること、各セクターに関する幅広い知識を保有
セクター別戦略ペーパー(SSP)
していること、また、IFC と MIGA を通じて民
SSP は、病気の根絶または環境など、グローバ
間セクターと深い関係を築いていることにより、 ルに認識されている優先事項について、世銀業務
世銀は、健全な政策と制度を強固に支援すること
の方向性を系統化するために作成されます。同文
ができます。世銀貸付という形態の支援は民間資
書は、グローバル・レベルでの公的活動の促進、
本を引きつけ、市場ボラティリティーに対する脆
グローバルなプログラムとパートナーシップの統
弱性を緩和します。中所得国におけるプロジェク
合、及び借入国の取り組みを促進する基礎となる
トを通じて、世銀は、貴重な経験を蓄積し、低所
ものです。一般的には、SSP は、貧困削減と経済
得国におけるプロジェクトに活用することができ
成長に対するインパクトを高めることを目的とし
ます。しかし、タスクフォースは、世銀は他の機
た、特定のセクターまたはテーマ別分野における
関では提供できない、または提供しないような支
世銀のアプローチと活動を具体的な形にするもの
援に専念すべきで、触媒的・重点的な役割を果た
です。さらに、SSP は、対象国による貧困削減の
す必要があると指摘しています。2001 年 4 月の世
ためのパフォーマンスが相対的に劣る分野を取り
銀・ IMF 合同スプリング・ミーティングの場で
上げつつ、セクター及びテーマ別分野に関する戦
大臣たちは、より一層組織化され、しかも合理化
略的オプションについて提言します。また SSP
された世銀・ IMF 間の協力を支持するとして世
は、関係者との幅広い協議に基づいて作成され、
銀が提出したタスクフォース提案を歓迎しまし
その実施状況は定期的にモニターされます。2001
た。タスクフォースの提案の中には、途上国の情
年度には、「金融セクター戦略」、「公的制度の改
勢に関する世銀の分析の強化、パートナーとの協
革とガバナンスの強化:世界銀行の戦略」及び
力の下での途上国のキャパシティ・ビルディング 「社会的保護セクター戦略:セーフティ・ネット
に対する支援の拡大、復興中の国に対して構造調
から跳躍台へ」の 3 件の SSP が理事会で検討され
整貸付が行われた場合の資金引き出しの繰り延べ
ました。
オプション、及び構造調整貸付に系統的で開発と
関連した役割を持たせること、などが含まれてい
変化する世界銀行
ました。
ストラテジック・コンパクト(機構改革)の評価
国際公共財に対する支援
2001 年度に世銀は、ストラテジック・コンパ
2000 年に行われた年次総会の場で、世銀がグ
クト(機構改革)に対する評価を行いました。ス
ローバルな活動に関与する際の短期的優先事項が
トラテジック・コンパクトは、3 年間にわたり 2 億
設定されました。それは、伝染病、環境保護、経
5,000 万ドルの追加運営経費を投入して、世銀を
済のガバナンスと金融の安定、貿易と統合及び情
より効率的な体質に転換することを目指し、世銀
報・知識革命です。それを受けて世銀は、貧困削
とその株主が 1997 年 4 月から開始した機構改革
概 観
31
表 1.2 変化する世界銀行
1996 年の世銀グループ
高まる貧困重視
■ 貧困に対する理解
■ 借入国がオーナーシップを持つ貧困削減戦略
経済重視
―
より広範な開発アジェンダ
■ 包括的開発フレームワーク(CDF)
■ 汚職防止・ガバナンス改善プログラム
■ エイズとの闘いに対する貸付
―
―
3,500 万ドル
12 ヶ国で試験的導入
95 ヶ国以上でプログラム実施中
3 億 9,300 万ドル強
戦争で疲弊した債務国に対する支援
■ 紛争復興のための貸付・助言
■ 債務救済措置
■ 総債務救済承認額(名目)
15 ヶ国
―
―
35 ヶ国
23 ヶ国
340 億ドル(すべての債権者から)
より高まる業務のインパクト
■ 満足のいくプロジェクト成果(全プロジェクトに対する割合)
■ 問題のあるプロジェクトの割合
■「経済及び各セクター業務の質(満足できる割合)
69 %
29 %
72 %(1998 年度)
78 %
12 %
86 %
借入国に対するサービスの改善
■ 現地に駐在する国担当局長の人数
■ 現地に駐在する世銀スタッフの割合
■ プロジェクト準備期間
全 24 ヶ国中 0
38 %
24 ヶ月
全 53 ヶ国中 29 ヶ国
45 %
15 ヶ月
より一層効果的な民間セクターの活用
■ インフラ・プロジェクトにおける民間セクターの関与の割合
■ IFC による貸付承認額
■ MIGA による保証額
■ 世銀− IFC 共同部局の数
21 %
21 億ドル
8 億ドル
―
39 %
24 億ドル
16 億ドル
6
複数の側面を重視
PRSP が 4 件、暫定 PRSP
(I-PRSP)が 32 件
知識の共有の促進
■ 遠隔研修センターの数
■ 世銀のテーマ別ネットワークに支援されている
「プラクティス・コミュニティ(取り組み共有の場)」の数
―
16
30 未満
約 110
情報開示と参加型
■ 公表された国別援助戦略(全体に占める割合)
■ シビルソサエティが関与しているプロジェクトの割合
■ プロジェクトに占めるコミュニティ主導開発の割合(推定額)
なし
50 %未満
7 億ドル
87 %
70 %超
14 億ドル
貸付・サービス内容の拡大
■ 貸付に関する革新
■ 金融関連サービスの革新
■ 助言に関する革新
ですが、その期間と対象範囲の設定は、極めて意
欲的です。この取り組みは、金融危機、紛争復興
及び自然災害等の当初予想していなかった外的要
因や、多くの借入国を対象とした CDF、PRSP 及
び HIPC に関連して他の機関との連携の必要性が
高まったことから、一層難しいものになりました。
比較的短い間に、大きな進展が見られたことは
事実です。ストラテジック・コンパクト(機構改
革)に基づいて、世銀は、業務内容にさらに力を
入れ、開発アジェンダをより一層重視し、知識基
盤を再構成し、組織としての能力を改革すること
を目指しました。業務の質の改善及び世銀の貸
付・サービス内容の拡大の点で、重要な成果があ
りました(表 1.2 を参照)。世銀の変革により、
「スプリング・ミーティング」の関連文書が初め
32
今日の世銀グループ
世界銀行年次報告 2001
例としては、教育・革新貸付、調
整可能プログラム貸付、IDA 保証、
単一通貨貸付、e−ボンド、制度・
ガバナンスの検査及び金融セク
ター評価
て公開され、IFC を含む世銀グループによる中小
企業向け援助が従来に比べて一段と調整されるよ
うになり、また、現地に駐在するスタッフの数が
増えたことで危機における借入国への対応が迅速
化されました。さらに世銀は、2001 年度の実質
純運営予算額を 1997 年度の水準にまで戻すこと
を約束しました。
他方、ストラテジック・コンパクト(機構改革)
で想定していた効率性の改善は、実現が予想以上
に困難であることが分かりました。新たな優先事
項とプロセスの数が増加して一層複雑になり、短
期的に業務コストが増加しました。監督コストも
増加しましたが、これは、質及びセーフガード・
財務管理などの受託者責任(fiduciary policies)
に関する方針の遵守に一層の重点が置かれたこ
表 1.3 優先事項への資金配分:世銀予算の中からの抜粋
(単位: 100 万ドル)
2001 年度
2002 年度
130
149
財務管理などの受託者責任(fiduciary)とセーフ
ガードに関する基準の引き上げ
貸付
94
101
アフリカ地域と南アジア地域における貧困削減の一層
の重視
国別経済・セクター調査
50
78
貧困状況評価、公共支出の調査、財務責任・調達の評価、
その他の重要な状況分析作業に必要なコストの増加
国別プログラム支援
55
61
低所得国を対象とした PRSP の作成、中所得国を対
象とした政策対話に関する支援の継続
質の保証
19
23
援助の質に関する基準の維持の重視、モニタリングと
評価の重視
54
42
金融・運営・企業向けサービスは、費用対効果の観点
から削減の見通し
プロジェクトの監督
(一部の)業務支援サービス
と、関係者との協議と情報公開を重視したことで
国別援助戦略(CAS)の作成コストが増加した
こと、PRSP 支援や金融セクター評価などのサー
ビスが実施されたことで多額の追加コストが発生
したこと、などによるものです(図 1.2 を参照)。
さらに世銀は、ストラテジック・コンパクト(機
構改革)の実現に重要な役割を果たしたスタッフ
がストレスを抱えるという、別の形のコスト上昇
に直面しました。ストラテジック・コンパクト
(機構改革)の実施を通じた経験は、戦略方針ペ
ーパー(SDP)と、2001 年度末に承認された
2002 年度の運営経費予算に反映されています
(表 1.3 を参照)。
世界銀行研究所(WBI)
「新らしい」世銀が特に重視しているのは、専
門知識の拡充とキャパシティ・ビルディングを通
じて、人々の能力を拡大することです。ストラテ
ジック・コンパクト(機構改革)に基づいて再構
築された WBI は、その他、研究/助言サービス、
テーマ別ネットワークに支援された「プラクティ
ス・コミュニティ(取り組み共有の場)」、及び情
報技術(IT)を利用した活動にも取り組んでい
ます。WBI は、世銀スタッフと世銀の借入国
(政策決定者、省庁のスタッフ、学者、さらに最
近では国会議員、ジャーナリスト、民間セクター、
NGO 及びその他のシビルソサエティの人々を含
む)が開発問題について学習することを支援して
います。2001 年度末の段階で WBI は、約 150 ヶ
国で 600 近くに上がる学習コースを通じて、年間
48,000 人にサービスを提供しています。これらの
プログラムは引き続き、遠隔研修、グローバル・
ナレッジ・ネットワーク、及び広範なパートナー
シップと新たな教育手法の導入により拡大される
予定です。この 1 年間に WBI は、借入国の関係
者が PRSP プロセスの作成・実施能力を高めるこ
とを目的として、「貧困と闘うためのプログラム」
備考
を作成しました。WBI のプログラムは、次のよ
うな効果を上げています。
■ パラグアイを対象とした 1 年にわたる汚職防
止プログラム(米国の開発援助庁が共同スポ
ンサー)に基づいて行動計画が作成され、同
国の大統領から承認されました。政府とシビ
ルソサエティは、この行動計画を実施するこ
とになります。
■ ある独立機関は、27 ヶ国における 10 万人の
生徒を結び付ける「ワールド・リンクス・プロ
グラム」の受講生が、新たな技能、知識及び
心構えを身につけたと評価しています。そし
て、ペルー、セネガル、スリランカ及びトル
コなどの国々から、このプログラムへの参加
要請が増えています。
■ コートジボアールで開催された PRSP フォー
ラムをの結果、参加 8 ヶ国の政府関係者とシ
ビルソサエティの代表は、それぞれの貧困削
減プログラムに関する協議を促進するために
地域ネットワークを確立しました。
■ インドの行政大学院は、当初 WBI と共同で
開発した住民移転政策のコースを現在では独
自に定期的に提供しています。
図 1.2 業務プロセスの単位コスト
(単位: 1,000 ドル)
344
308
307
128 135
67 74
97年度
01年度
0
貸付
監督
PRSPs
CASs
概 観
33
開発効果
3 つの観点からのプログラムの重点的対応を重視
ストラテジック・コンパクト(機構改革)の究
しています。世銀は、国別援助戦略(CAS)の
極の目的は、開発効果の向上でした。これに関し
中で、対象国の内部での重点分野を明らかにしま
ては、明らかに成果が上がっています。たとえば、 す。また、対象国を選択する場合には、所得、貧
人的開発、制度・機構の強化及び紛争後復興支援
困及び援助実績を重要な基準とします。さらに、
の分野で、世銀は次のような支援を行いました。
世界レベルの場合には、共通の優先事項と国際公
■ エチオピア: 400 万人に新たに保健・衛生サ
共財に関する優先事項を基準にします。なお、前
ービスを提供し、60 万人の児童(半分は女
述のペーパーは、包括的開発フレームワーク
子)が新たに学校に通えるようにする。
(CDF)に基づく貧困削減戦略、債務救済及び紛
■ セネガル: 2005 年までに、女性の非識字率
争復興の観点からの低所得国支援を重視すると同
を現在の水準の半分以下の 30 %にまで引き
時に、中所得国支援の面及び世界レベルでの世銀
下げる。
の役割を明らかにしています。
■ ブラジル:エイズ関連の死亡者数を 1993 年
比で 38 %減少させる。
パートナーの役割
■ メキシコ:保健サービスをまったく受けられ
戦略ペーパーは、国レベルと世界レベルの両方
ない人々の数を、1,000 万人から 150 万人に
でのパートナーとの協力が極めて重要であること
減少させる。
を指摘しています。政策対話から、世銀の国別援
■ 一部のカリブ海諸国:電話・インターネット
助戦略(CAS)の策定、貸付及びその他のサービ
の利用料金を最大で 50 %引き下げる。
スの計画と実施にいたる国別支援のあらゆる段階
■ グアテマラ:国の財政管理システムを合理化
において、借入国政府、シビルソサエティ、民間
し、予算内容をオンラインで閲覧できるよう
セクター及び多国間・二国間パートナーとの密接
にする。
な関係は、今や当たり前の事柄になりました。
■ ポーランド:汚職を大きな問題として取り上
IMF や国連(UN)などの主要な機関パートナー
げる。
との協力も強化されました。多国間開発金融機関
■ チュニジア:病院運営経費に対する国の負担 (MDB)との業務面での協力・調整も、大きく進
分を、69 %から 35 %に引き下げる。
展しました。また、いくつかの技術作業グループ
■ ルワンダ:内戦による約 130 万人の難民を正
は、(環境影響評価や財務管理から、汚職やジェ
常な社会・経済生活に復帰させ、同国の景気
ンダーに至るまでの問題に関する)アプローチの
回復を促進する。
一貫性、及び政策・手続きの統一を促進するため
■ ボスニア・ヘルツェゴビナ: 1990 年代初め
の努力を行っています。国際公共財については、
の悲惨な紛争の復興策として、小口貸付の供
各国政府、シビルソサエティ、国際機関、二国間
与を通じて 10 万人の雇用を創出する。
ドナー及び企業セクターとの戦略的提携が、世銀
■ 東ティモール:プロジェクトに基づいて、400
による業務の遂行上の基本となりました。多くの
の農村開発協議会を設置する。このプロジェ
分野において、国連機関、IMF 及び MDB との共
クトは、すでに地域住民が自ら選んだ 500 の
同作業が非常に重要になっています。主要な例と
サブ・プロジェクトに資金を拠出している。
しては、伝染病予防に焦点を当てた「予防接種と
ワクチンを提供するための世界同盟」、金融危機
の防止と管理を支援するための「金融安定化フォ
戦略フレームワークと将来の方向性
ーラム」(FSF)、気候変動問題に対処するための
戦略フレームワーク
「プロトタイプ炭素基金」、世界中の人々が開発に
2001 年度、ストラテジック・コンパクト(機
関する専門知識を学ぶための機会を拡大すること
構改革)の成果をさらに拡大することを目標とし
を目指した「グローバル・ディベロップメント・ゲ
て、戦略フレームワーク・ペーパー(SFP)と戦
ートウェイ」、後発開発途上国が国際貿易システ
略方針ペーパー(SDP)が理事会に提出されまし
ムに参画できるよう世界貿易機構(WTO)及び
た(9 頁参照)。これらのペーパーは、最も重要
他のパートナーとの協力などを挙げることができ
な公約となっている国際開発目標の実現を目指し
ます。
て貧困と闘う世銀の使命を再確認するもので、国
レベル及び世界規模での世銀の支援の基礎とな
将来の方向性
る、相互に関連する 2 つの柱を掲げました。投
本報告書の中に挙げたすべての成果をもってし
資・雇用・持続可能な開発のための環境を創造す
ても、世界の貧困との闘いに勝利するための道の
ること、貧しい人々に開発に参加する機会を与え
りはまだ遠いと言わざるを得ません。世銀グルー
ること、の 2 つです。戦略方針ペーパー(SDP) プには、果たすべき重要な役割があります。世銀
は、触媒的役割と国内、多国間及び世界レベルの
グループの財産は、堅固な財務基盤、経験と知識、
34
世界銀行年次報告 2001
表 1.4 IDA に対する累積出資・拠出金
2001 年 6 月 30 日現在
加盟国
米国
日本
ドイツ
英国
フランス
カナダ
イタリア
オランダ
スウェーデン
サウジアラビア
オーストラリア
ベルギー
デンマーク
スイス
ノルウェー
上位 15 援助国
その他の加盟国※
合計
単位: 100 万ドル
25,841.8
24,078.1
12,309.0
8,013.1
7,468.5
4,767.5
4,410.0
4,026.4
2,770.6
2,158.2
1,810.0
1,759.0
1,457.3
1,398.6
1,371.3
103,639.4
5,084.7
108,724.1
構成比(%)
23.8
22.1
11.3
7.4
6.9
4.4
4.0
3.7
2.5
2.0
1.7
1.6
1.3
1.3
1.3
95.3
4.7
100.0
※ 他の出資国及びドナーに関する完全なリストは、「世界銀行年次報告 2001」第 2 巻「財務諸表及び付表」の 75 頁に記載されている IDA の「特別目的財
務諸表」を参照。
グローバルなネットワーク、客観性を担保する独
立性、持続可能な開発に必要な要素を統合する力、
そして借入国にサービスと資金を提供する能力で
す。世銀は今後とも、すべての開発分野に対する
グローバルな「現状分析」能力を維持すると共に、
従来以上に選択性を高めて「実行」能力を発揮し
ていくことを目指します。そして質を重視する文
化をはぐくみながら、効果の向上を引き続き優先
します。世銀の援助は、国に主体を置いた支援が
中心ですが、複数国を対象とした支援やグローバ
ルな問題にも慎重に対処します。政策支援やキャ
パシティ・ビルディングの分野では測定が困難で
すが、世銀業務の成果の測定も、透明性を備えた
方法で結果を報告することと同様、重要なことで
す。
戦略フレームワーク・ペーパー(SFP)に明記
されているとおり、世銀の援助は雇用の拡大と持
続可能な成長を実現する鍵となる健全な投資環境
を創造するために、ガバナンスと制度的・政策的
構造(インフラに関する規制制度を含む)を重視
します。同様に、人々への投資や、一部では地域
社会主導の開発を通じて人々に開発に参加する機
会を与えることも重視しています。貧しい人々の
資産の増加、ジェンダー間の平等の促進及び最も
脆弱な人々の保護はすべて、貧困削減のための活
動の中心となります。投資・構造調整貸付は、政
策制度の構築のための健全なプログラム、キャパ
シティ・ビルディング及び政府のコミットメント
の上に成り立ちます。
各機関のそれぞれの利点を生かしたパートナー
シップは、国、地域及びグローバルなレベルで進
展を図る上で重要なものです。今では、貧困削減
のためには何が必要なのかに関して、かつてない
ほど、世界的なコンセンサスが形成されています。
世銀は、先進国と貧困国との間で、それぞれの役
割を分担するための「協定」を結ぶことを提案し
ました。先進国は、開発途上国からの輸出に対し
てその市場を開放し、最貧困に対して債務救済と
緩やかな条件での新規貸付を行う必要がありま
す。これに対し開発途上国は、経済成長の促進と
援助の効果的な活用のために健全な政策・制度環
境を確立し、経済成長の恩恵を貧しい人々も確実
に享受できるようにする必要があります。国別援
助戦略(CAS)は、借入国政府、IMF、MDB、
国連、二国間機関、民間セクター及びシビルソサ
エティと協力して、借入国のプログラムを支援す
るための世銀のビジネス戦略を定めます。2001
年末までに合意が見込まれる IDA の第 13 次増資
交渉は、世銀の今後の援助活動の重要な方向性を
決定することになります。IDA 援助国(表 1.4)
は、援助の効果を拡大するための方法を検討して
きました。IMF との協力は、今後とも非常に重
要になります。MDB との協議のアジェンダには、
援助方針の統一化と、対象国の社会的・構造的問
題を考慮した上での分業が含まれています。国際
公共財に取り組む上での国連との役割分担は、共
通の課題です。世銀は柔軟性をもって、他のパー
トナーが比較優位性を有することが明らかな分野
では、そのパートナーの支援にまわります。
概 観
35