研究活動を始める前の学部生のためのトレーニング教育

RSJ2014AC3G1-02
研究活動を始める前の学部生のためのトレーニング教育
○小水内俊介 近野敦 (北海道大学)
1.
はじめに
曲げセンサ
ロボット教育は,初学者を対象として工学やロボッ
ト技術に対する関心や知識を啓発することを目的とす
る場合が多い.ここでは,一定の知識を修得した大学
生を対象として,座学から実践へのステップアップを
目的とした教育について考える.講義や実習で学びう
る知識や技術は,研究活動で必要とされる水準とは隔
たりがある場合がある.実際のところ,研究室に配属
されたばかりの学部生がすぐに研究活動に取り組むの
はハードルが高い.
筆者らは,本研究室に配属された直後の学部 3 年生を
対象として,研究活動を始める前のトレーニングという
位置づけでプロジェクト型教育を実施している.対象学
生が学部 3 年生であることから本プロジェクトは “B3
プロジェクト” と呼ばれ,基本的に自由参加ではあるが
対象学生たちは自主的に全員参加している.2012 年度
に実施したプロジェクトの実施概要と成果を紹介する.
2.
B3 プロジェクト
2.1
実施内容
本プロジェクトの特色は,実際の研究活動に準拠し
た “分野横断的な課題” に “共同作業” で “計画から発表
まで” 一貫して取り組むことである.実施期間は年度末
の約 3 ヶ月間 (実働約 1 ヶ月間) とした.2012 年度の
課題は,センサ類を搭載したグローブによってユーザ
の手の動きを計測し,その計測情報に基づいてモニタ
に表示された CG を操作するというものである.本課
題には下記三つの要素が含まれており,参加学生 3 名
がそれぞれ一人一役を担当した.
• センサグローブの作成
• グローブと PC との間の通信
• PC 上での CG 描画
2.2
使用機材
図 1 に構築されたシステムの概観を示す.グローブ
は人差指と薬指に曲げセンサを,手の甲に 3 軸加速度
センサと 3 軸ジャイロセンサからなる 6 軸 IMU を
搭載している.これらのセンサは Arduino UNO に接
続され,計測データを PC に転送している.PC では
OpenGL を利用して CG を描画し,Arduino から受け
取ったデータに基づいて描画内容を変更する.具体的
には,ティーポットとそれを覆うキューブが描画され
ており,両オブジェクトは IMU で計測された手の姿勢
と同じように回転する.また,人差指の曲げ具合に応
じて両オブジェクトが拡大縮小され (ズーム機能),薬
指の曲げ具合に応じてキューブの透明度が変わり中の
ティーポットが見えるようになる (透過機能).本課題
では,試行錯誤の際の利便性や機材の再利用性を考慮
してブレットボードとジャンパワイヤを多用した.
第32回日本ロボット学会学術講演会(2014年9月4日~6日)
CG
6軸IMU
Arduino UNO
図 1 システムの概観
(a) ミーティング
(b) 成果報告会
図 2 実施状況
2.3 実施状況
毎週ミーティングを行うことで進捗と課題の共有を
図った (図 2 (a)).ミーティングの際には資料作成や発
表の方法についても指導し,成果報告会やその後の研
究報告のためのトレーニングとした.また,報告内容
に対して学生同士の質疑応答を誘導し,現状の課題や
今後の方針について議論することを習慣とした.この
議論に基づいて機材の実装方法などを随時変更するこ
とで,技術的な困難を克服し課題を推進した.結果と
して,構想通りのシステムを計画通りの期間で作成し,
本プロジェクトを完了することができた.
2.4 成果
本プロジェクトのまとめとして研究室内で成果報告
会を実施した (図 2 (b)).口頭発表だけでなく,出席者
が実機を体験できるデモも用意した.デモ実施時には
実機の動作不良を解決することができず,一度撤収し
たのち別室にて改めて出席者を集めるというトラブル
があり,準備段階の重要性を再認識する機会を得た.
本プロジェクトの終了後,参加学生は個人的に電子
工作キットを購入したり,Android プログラミングに
取り組んだりと,様々な方向で技術的な意識の向上が
見られた.
3.
おわりに
研究室配属直後の学部 3 年生を対象とした,研究活
動を始める前のトレーニングとしてのプロジェクト型
教育について紹介した.本プロジェクトの特色や実施
内容,使用機材,成果などを述べた.