小学校における国際理解教育について

国際交流学習の成功の秘訣
小学校における国際理解教育について
松 山
抄
録
尚 文
②
世界を実感し,つながりの中で考える
ボーダレス社会が進む中,この世界を生きる子どもた
・テレビやインターネットでどんどんバーチャルな情報
ちにとって必要な国際理解教育のあり方や取り組む視点
を得ている子どもたちだからこそ,机上やバーチャルな
を考える。
学習では価値観をゆさぶることはできない。外国人との
<キーワード>
出会いや NGO 活動する人との出会いの中で考えていく。
異文化理解,自分理解,自国文化理解,
違いを豊かさに,3F+C,世界を知る,NGO 活動
③
自分・わが国を見つめる
・国際理解のためには日本人として,また,個人として
1
自己の確立を図っていかなくてはならない。自分を自国
はじめに
を大切にする気持ちが他国を大切にできることにつながる。
(1)私たちの世界は技術革新が繰り返される中,高度
情報化,移動手段の高速化等が進み,経済,社会,文化
(3)国際理解教育 の位置づけ
等さまざまな面で,ボーダレス化が進むと同時に,国際
国際理解教育は現指導要領の中では総合的な学習の時
的な相互依存の関係が深まっている。反面,国家間や宗
間に位置づけられている。総則の中の関連する部分を抜
教問題,民族問題等で紛争や争いが絶えない現実がある。
き出すと,
わが国の国際化の進展を考えると,子どもたちは今後,
2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらい
日常生活においても異なる文化や生活習慣を持つ外国の
をもって指導を行うものとする。
人々と接する機会が増え,相互に理解,協力しながら生
活することや,外国に出かけて異文化の中で仕事をする
(1) 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に
機会,外国社会の中で暮らす機会が増えることが予想さ
判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てるこ
れる。今や環境問題や食料問題等を考えても,世界との
と。
関係を抜きに考えることはできず,地球市民の一員とし
て,自分を見失わず,柔軟に対応でき,さまざまな人々
(2) 学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探
とコミュニケーションをとり,協働できる力が生きる力
究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の
として必要になってくると考える。そこで小学校段階か
生き方を考えることができるようにすること。
ら国際理解教育を系統的に指導していく中で,子どもた
ちに確かな力を育んでいくことが求められている。
3 各学校においては,2に示すねらいを踏まえ,例え
ば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総
(2) 小学校の国際理解教育 で大切にしたいこと
合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学
①
校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じ
違いを豊かにとらえる
・外国人とのいい出会いの中,異文化を楽しみ理解する
た学習活動を行うものとする。
とともに,異なる文化を持つ人々とコミュニケーション
となっている。
を図り,共感を持って活動すること。
これらのことを踏まえ,低中高に分けて実践例を織り
込みながら提案したい。
MATSUYAMA
Takafumi:大阪府箕面市教育センター(大阪府箕面市船場西 3-8-22)
- 17 松山尚文:小学校における国際理解教育について
一番身近な遊びを取り上げ,剣玉やこままわし,お手
2
玉,おりがみ等の昔遊びが伝統的な日本の遊びであるこ
低学年生活科
とを知り,選択して練習する。
3F+C から自分たちの文化へ
低学年には異文化とのいい出会いを経験させたい。
昔遊びの達人は地域の高齢者の中にいらっしゃるので,
ゲストティーチャーとして迎えて指導していただくこと
国際理解教育で3F といわれるものがある。
で高齢者との交流もできるので是非取り入れたい活動で
FOOD(食),
ある。
FASHION(民族衣装),
FESTIVAL(祭り,
遊び,音楽,踊りなど)である。
これらの活動には子どもたちは興味を持って活動がで
<活動3>
昔遊び大会に招待しよう
きるので,出会いとしてはどんどん取り入れるべき活動
外国の方や地域の高齢者を迎えて昔遊び大会を開く。
である。他では Calture BOX もおもしろい。世界にはい
自分たちの練習してきた技を披露するとともに,外国の
ろいろな文化があり,生活道具等にもそれは表れる。例
人とともに楽しむ。
えば,モンゴルでは遊牧している羊の骨も子どもたちの
遊び道具である。南米ではバナナをつぶす道具がある。
このような活動を通して,人との出会いから世界を見
文化の違いを感じる生活用具等を箱に入れ,
「これは何を
るときの「窓」ができる。それぞれの国のニュースや特
するものでしょう。」と子どもたちと考えていく中で,他
集等を見たときにも,遠くの出来事でなく「ア!○○さ
国の文化を知るとともに自分たちの文化との違いにも気
んの国のことだ。」と親近感を持って情報に接することが
づいていける活動である。
できるようになる。
よく外国の方をゲストティーチャーとして来てもらっ
また,子どもたちは文化の違いを楽しむとともに,わ
て,料理を作って一緒に食べたり,ゲームをして遊んだり,
が国の文化にも気づいていき,伝統的遊びに興味を持ち,
衣装を着せてもらったりしてその国の話を聞くような活
伝統的な遊びの中でいろいろなスキルを身に付けていく
動が見られるが,これだけで終わってはもったいない。
ことになる。伝統的な遊びは努力や失敗の積み重ねで技
異文化との出会いは自分の国の文化への気づきの機会
が1つまた1つと高度な技になっていけることを体得で
でもあり,子どもたちが身に付けなければならないのは
きる。今の子どもたちにとって重要な我慢や忍耐を教え
自国の文化である。そこで外国人・異文化との出会いを
てくれる取り組みになる。高齢者とのふれあいも地域の
導入にするとともに,まとめの活動の意欲につながる次
教育力の再生に一役買うことになる。
のような展開の活動が重要であると考える。
また,世界を扱うときに日本の抱える在日韓国・朝鮮
人の問題を考えていく伏線として,初めにいい出会いを
意識しておくことも,高学年,中学校での展開に重要な
意味を持ってくると考える。
3
中学年
世界を知ろう
高度情報化社会になり,テレビで毎日世界中の話題が
放映され,例えばイラクのテロのニュースがリアルタイ
ムで流れる時代の中を子どもたちは生きている。
■ 実践例
目標
生活科「世界とつながろう」
世界の文化との出会いからわが国の文化に気づき,
現指導要領では,社会の学習で世界をきちんと取り扱
うのは6年である。しかし,4年や5年の教材にも世界
それを習得し発信する。
との関係はいろいろな場面で出てくる。
<活動1>
世界の国に興味を持ち,世界を見つめる基礎を育てる取
そこで,中学年の一番記憶力があり,意欲的なときに,
外国の人に出会おう(2H)
さまざまな国の留学生に学校に来てもらい,民族衣装
り組みを紹介したい。
を着て,簡単なその国のおかしを食べたり,あいさつ等
の言葉,遊びを教えてもらったりして実際に体験する。
■ 実践例1
世界の国を知ろう
各国の文化や特徴的なことを3ヒントクイズで楽しみ
<活動2>
日本の遊びの達人になろう(6H)
前回来ていただいた外国の方にお礼の会をするために
日本の文化を紹介し楽しんでもらうことを目標に計画を
立て練習する。
- 18 学習情報研究 2007.3
ながら白地図に国の位置を色付けしていく。
(例)箕面市教育研究会小学校社会科部会で作成
第一ヒント
第二ヒント
第3ヒント
アメ
リカ
バスケットボー
ルやバレーボー
ルができた 国
自由 の女 神がある
国
メジャーリーグ
(イチロー松 井が
参加) がある国
中国
国 の 名 前が 世 界
の中心という意
味の国
12 億人住んでい
て, 世界一の 人口
の国
パンダや 孫悟空で
有名 です 。200
8年 には オリンピ
ックが 開かれる 。
イン
ド
0 を 発 見し た 国
で 算 数に 強 く
コンピュータを
つ く る 人が 多 い
国
ターバン やサリー
という民族衣装を
よく着 ている。
カレー で有 名な 国
イギ
リス
サ ッ カ ーや ラ グ
ビ ー の 生ま れ た
国
ピ ー タ ー パ ン や ハ リ
ーポッタ ーなどの
物語 の舞 台になっ
た国
ベッカム が生 まれ
た国
オー
スト
ラリ
ア
フライングドク
タ ー という 飛 行
機 で 診 察す る お
医者さんがいる
国。
オージービーフと
いう 牛肉 が日 本に
もたくさん輸 入さ
れている。
コアラ・ カンガル
ーのいる国
ケニ
ア
黒 人 の 国で マ サ
イの戦 士の 国
あいさつはみんな
ジャンボで 通じ る
サファリで有名
で, 野生 のキリン
や象を 見れ る国
6000 年前 にパ
ンを発 明し た国
ピラミッドや スフ
ィンクスがある 国
エジ
プト
ロシ
ア
ブラ
ジル
世 界 一 の長 い 川
の ナ イ ル川 が あ
る国
テ ト リ スと い う
ゲ ー ム の生 ま れ
た国
ピ ラ ニ アが い る
ア マ ゾ ン川 が 流
れている国
冬は 毛皮 の帽 子を
かぶらないと 脳が
凍るぐらい 寒い 国
リオ のカーニバル
というお 祭り が有
名でサンバ の国
■ 実践例2
世界の国旗を知ろう
国旗はその国の文化や歴史を図案化して表している。
いろいろな組み合わせで提示すると楽しく学習できる。
内容は6年生で扱ったほうがより効果的なものもあるの
で,2回に分けての指導も考えられる。
<提示例>
○日本・バングラディシュ,パラオ
○オランダとそれを理想にしたロシアとロシアの連邦国
○イスラム圏の国の特徴
緑色や月・星
○アフリカの国々の黒色に込めた思い
○イギリスの国旗とその影響を受けた国
○図案分け
縦2分割3分割
横3分割,十字
中学年の好奇心旺盛,記憶力最高の時期にこれらの取
り組みをすることで,多くの国を知り,そのことがきっ
世界一広い 国
サッカーワールド
カップで 優勝 した
国
かけで世界のニュースや身近に感じるようになるととも
に,クラスでも取り上げ,そのたびに白地図等で確認し
ていくことで子どもたちの世界認識が深まる。
日本
シャープペンシ
ルが生 まれた国
世界一石油を 輸入
している国
昔「 黄金 の国 」と
呼ばれた国
フラ
ンス
水よりワインの
方が安 い国
ナポレオンのいた
国
パリ のエッフェル
塔や凱旋門 が有 名
フィ
ンラ
ンド
携 帯 電 話を 持 つ
人 の 割 合が 世 界
一
ムーミン のお 話の
生まれた国
サンタクロースの
国
タイ
世 界 一 の米 輸 出
国
男の 人はみんな一
度は お坊 さんにな
る仏教 の国
日本 のやきとりや
エビ はこの国 のも
のが多 いよ 。
大韓
民国
世 界 一 の受 験 戦
争の国 で,大学試
験に遅れそうな
ときパトカーが
送ってくれるこ
ともある
冷蔵庫に キムチを
入れるところがあ
る国
ヨン 様や BoAや
草なぎくんの チョ
ナンカンの 国
スイ
ス
世 界 銀 行が あ る
国
どの 国と も仲 間に
ならない中 立の 国
アルプス の少 女ハ
イジの 国
国 が 二 つに 分 か
れていました.
ベ ル リ ンの 壁 が
あった 国
シャウエッセンな
どの ウインナーや
ビール で有 名
ベンツや BMW,
ポルシェ ,フォル
クスワーゲン など
車で有 名
まう。子どもたちに課題を自ら発見させ,追求したくさ
ドイ
ツ
チリ
ロビンソンクル
ー ソ ー のお 話 の
もとになった島
のある 国
モアイ像 で有 名な
イースター島 があ
る国
南アメリカ大 陸に
ある 世界一細長い
国
や動物の絵が描いてある。この投票用紙を提示し,
「どう
サウ
ジア
ラビ
ア
石油の埋蔵量世
界一の 国
イスラム 教の 聖地
メッカがある国
で, 200万 人も
の人がやってくる
アラビア 半島 の8
0%をしめる国
イタ
リア
フェラーリ など
スーパーカーの
国
昔か ら栄 えた 国で
コロッセオなどの
遺跡 など 有名 なロ
ーマがある
ピザ やスパゲティ
ーなどこの国 の料
理は有 名
4
高学年
世界とのつながり
高学年では,国際理解教育においても問題解決的な学
習の深化が望まれる。そのため,低中学年のような楽し
い出会いや文化の違いだけでなく,資料等で南北問題な
ど富の格差の問題や教育や識字の問題,開発途上国の実
態等も公平な視点で資料提示し,ワークショップ等の参
加型の手法も取り入れ,主体的に学んでいくことが必要
である。
しかし,子どもたちは初めから世界の識字率等の表を
出しても「へーそうなんか。」と単なる知識で終わってし
せる展開を組む必要がある。
例えば,バングラディッシュの選挙の投票用紙には魚
してこんな投票用紙なんだろう。」と投げかけていくと,
識字の問題に気がつき,実態の話も興味を持って学ぶこ
とができる。最近は「世界がもし 100 人の村だったら」
の影響で世界の子どもの特集番組もいいものが多い。し
かし,子どもたちにとってテレビの中は何が起こっても
不思議でない世界なので,家で見るだけではインパクト
は少なく「へーこんな国もあるんだ」で終わってしまう。
やはり教材は教師の問いかけで子どもの意識を喚起し,
- 19 松山尚文:小学校における国際理解教育について
問題意識を芽生えさせてから,映像等を扱うと,子ども
にとって重要な意味を持った学習につながる。「少年兵」
<活動3>
ボランティア体験
寄贈するための絵本にスペイン語のシールを貼る体験
や「ストリートチルドレン」の問題は子どもたちがしっ
をする。作ったものを実際に NGO 団体がペルーに寄贈。
かり考えてくれた教材である。しかし,いくら深く扱っ
写真等を撮ってきてもらい,帰国後報告会。
(このような
ても本当の意味で実感は伴いにくい。
団体の場合,ビデオレターや手紙等も取り組める可能性
そこで提案したいのは,地域の中の,海外の子どもた
ちの支援をしている NGO・NPO との連携である。
箕面市では箕面市国際交流協会(MAFGA)が,子どもの
未来応援キャンペーンとして学校教育で国際理解教育の
もある。)
子どもたちは自分の作ったものや集めて送った絵本や
楽器をもらって喜ぶ外国の子どもたちの姿の写真を見る
と,本当に NGO 活動の意味を体感することができる。
支援をしていくことの趣旨に賛同くれた NGO 団体による,
「NGO 出前講座」という取り組みを行っている。
以上,小学校での国際理解教育の一例を提案させてい
実際に世界のためにがんばっている人々との出会いを
ただいた。稚拙な実践例ではあるが,少しでも子どもの
作り,その持っている学習素材や資料,取り組み等を教
未来を応援し,地球市民を育てる日々の国際理解教育実
師がコーディネートし,活動につなげていくと,子ども
践の参考になれば幸いである。
たちにとって意味のある取り組みになると考える。箕面
市教育センターの研修でも NGO 団体と一緒に授業案を作
る研修等にも取り組んでいる。NGO の方もこんな展開が
できるのかと勉強になったと双方にとってメリットとな
っている。
■ 実践例
総合的な学習の時間
「バーチャルペルー 旅行をしよう」
講師:ペルーの子どもへの支援をしている NGO
<活動1>
文化の違いを楽しむ
カルチャーボックスクイズ(グループで対戦)
写真等を見せながらペルーの文化や学校の授業,
世界遺産等を説明(バーチャルペルー旅行)
体験してみよう
衣装,食べ物,遊び等
食べ物例(文化の違いを感じるもの)
アロスコンレッチェ(お米を使ったお祭り菓子)
フリフォーレス(豆の塩味煮物)
質問タイム
<活動2>
ふりかえりカード
ペルーの子どもの現実を知り,NGO の活動
を知る
フォトランゲッジ(働く子どもたち)写真の一部を隠し
たものから想像することで課題を持つ。
就学率,識字率,子どもの様子,徴兵制等について説明
ビデオ(ペルーの子の一日)日本との対比
遊び等も
NGO のボランティア活動を紹介(ビデオ)
ペルーの子どもたちのたくましさ,自立している人間的
なすばらしさも伝える。
- 20 学習情報研究 2007.3