第 17 章 UNESCO の女子教育開発戦略の変遷と課題 塩田 恵 主要課題文献: UNESCO. 2003. EFA Global Monitoring Report 2003/4: Gender and Education for All: The Leap to Equality. Paris: UNESCO. ――――. 2002. Education for All: Guidelines for Preparing Gender Responsive EFA Plans. Bangkok: UNESCO Asia and Pacific Regional Bureau for Education. ――――. 2001. Thematic Studies: Girls’ Education. Paris: UNESCO. ――――. 1995. The Education of Girls and Women: Towards a global framework for action. Paris: UNESCO. 1. はじめに 開発分野における「女性と開発」の視点の導入は 1970 年代初期から 80 年代初期にまで 遡るが(江原 2001)、その後 70 年代の共通開発目標「ベーシック・ヒューマン・ニーズ(Basic Human Needs: BHN)」の充足を経て、90 年代の「持続的開発および人間開発」のアプロー チのもとで、女子教育が基礎教育とともにクローズアップされてきた 1 。そのため、教育開 発政策において女子教育が一つの重要なサブセクターとして広く認知され、実際に政策の 立 案 や 施 行が 大 規 模 に実 施 さ れ 始め た の は 1990 年 代 にな っ て か らの こ と と いえ る (UNESCO 1990; 1995/江原、斉藤 2001)。そして、その最大の契機は、国連教育科学文 化機関(UNESCO)、国連児童基金(UNICEF)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行(The World Bank)の共催により 1990 年に開催された「万人のための教育世界会議(World Conference on Education for All, 以下ジョムティエン会議)」であった。 UNESCO の女子教育教政策としては、特に 90 年代以降の「万人のための教育(Education for All、以下 EFA)」の動きのなかで、初期は「基礎教育普及下のアクセス・公平性・学習成 果におけるジェンダー問題」が指摘され(UNESCO 1992)、その後「女子教育の普及」や 「男女間格差の是正(gender equality)」などが目標とされるようになっていった(UNESCO 1995; 2001)。その過程で女子教育に関するさまざまな研究がなされ、報告書が発表されて きた。それらのうち、 『女子・女性の教育:グローバル行動枠組みに向けて(The Education of Girls and Women: Towards A Global Framework For Action. 以下、『女子・女性の教育』)』 (UNESCO 1995)、『課題別研究:女子教育(Thematic Studies: Girls’ Education. 以下、『課 題別研究』)』 (UNESCO 2001)、 『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4 年度版(EFA Global Motoring Report 2003/4: Gender and Education for All: The Leap to Equality. )』 (UNESCO 2003)などは、女子教育に関する包括的な見解が述べられており、UNESCO に よる女子教育戦略を理解するうえで特に重要であると考えられる。 本稿は、まず、これらの報告書の背景と主な議論の潮流を概観し、UNESCO がどのよう に現状と課題を分析してきたのか、そして現状に対してどのような戦略を提議してきたの 1 かに着目して、1990 年代半ば以降の UNESCO による女子教育開発戦略の変遷をたどる。 さらに、2000 年以降 UNESCO が EFA モニタリング機能を強化してきたことを示す『ジェ ンダーに配慮した EFA 計画ガイドライン(Guidelines for Preparing Gender Responsive EFA Plans. 以下、 『ジェンダー・ガイドライン』とする)』 (UNESCO 2002c)を取り上げ、その 可能性と課題を述べる。そして、最後にこれらの議論から UNESCO による女子教育開発戦 略の方向性を明らかにし、今後の課題を考察する。 2. UNESCO の女子教育開発戦略の変遷 ―報告書の比較分析をもとに 本節では、先に挙げた三つの報告書をもとに、1990 年代半ば以降における UNESCO の 女子教育戦略の変遷をみる。そのうち、 『課題別研究』は女子教育に焦点を当てて議論され た最新の研究報告書であるため、特に重点的に取り上げる。まず、それぞれの報告書の背 景と大まかな特徴を把握する。 『女子・女性の教育』 『女子・女性の教育』(UNESCO 1995)は、当時各国レベルで行われていた女子教育開発戦 略をまとめ、それに基づいて UNESCO が女子・女性の教育開発分野においてグローバル・ レベルでどのような活動を行っていくかという方向性を示した最初のもので、初期の UNESCO 女子教育戦略の特徴を把握するうえで貴重な情報を提供している。同報告書に記 された行動指針の具体性から、1990 年代半ばにして UNESCO が女子教育政策に関して単 なるレトリックではなく実施論を唱え始めたことがうかがえる。また、題名からうかがえ るように、同報告書は「女子」だけでなく「女性」にも焦点を当てて議論を行っている。 つまり、同報告書では、就学率や留年率、識字率における男女間格差を問題視したうえで、 女子教育―学齢期の女子のための教育―だけでなく、識字教育や生涯学習などの成人した 女性のための教育も含めた、二叉のアプローチを採るべきであると主張された(UNESCO 1995: 44)。この姿勢は現在まで保持されているが、最近は特に基礎教育の充足という観点 から、女子のほうにより重点が置かれている感がある。 『課題別研究』 『課題別研究 (Thematic Studies)』シリーズ(UNESCO 2001)は、2000 年の「世界教育 フォーラム(World Education Forum)」に先立ち、90 年代におけるEFA活動の見直しとして研 究され、発行された 2 。UNESCOは、このシリーズにおいてテーマ別にEFAの経過、現状、 及び今後の指針について議論を展開した。そのうえで「世界教育フォーラム」に臨み、 「ダ カール行動枠組み(Dakar Framework for Action)」を発表した。ちなみに、この会議におい て 2005 年までの中期達成目標、ならびに 2015 年へ向けた新たなEFA達成目標が定められ た3。 『課題別研究』シリーズは、主要なテーマごとに焦点を定めて分析を行っており、2000 年に仕切り直された 2015 年までの EFA の主要戦略を紐解くうえで意義深い。シリーズの なかでも特に『女子教育』は次のような背景から注目度が高かった。1990 年の「ジョムテ 2 ィエン会議」で EFA が採択されたが、90 年代を通して初等・中等教育への就学率が伸び悩 み、2000 年までに初等教育の完全普及という目標を達成できなかった。そこで、その原因 として特に女子の就学率の低さが問題視され、開発分野全体に広まりつつあったジェンダ ー主流化(gender mainstreaming)のもと、女子教育の重要性が指摘されるようになったの である。 同報告書は、EFA 運動が本格化した 90 年代の認識と比較しながら、女子教育を推進す る際に重要な点を指摘している。すなわち、①90 年代当初は教育へのアクセスのみに焦点 が当てられていたのに対して、アクセスだけでなく教育の質に関しても平行して議論をす ること、②ジェンダー差別の原因は現行の教育制度に由来するものであり、そのような制 度的なジェンダー・バイアスを取り除くこと、③女子教育戦略を強化するために、各政府・ 機関間における幅広いパートナーシップの構築、④政策施行前の注意深い分析、という 4 点が強調された(UNESCO 2001: 23)。 『EFA グローバル・モニタリング報告書』 2000 年に行われた「世界教育フォーラム」における「ダカール行動枠組み」では、UNESCO がEFAの各パートナーの調整役として、毎年事務局長のもと政治的関与と財政的及び技術 的な資源動員のため閣僚級会議(high-level meeting)を開催することが定められた。閣僚 級会議は、各国政府、市民社会、開発援助機関の高官により構成される(UNESCO 2000a: 10)。 そして、2001 年には『第一回EFA閣僚級会議報告書 2001 (High-Level Group on Education for All. First Meeting. Report 2001)』が提出され、そこでは各国の定量的および質的なデータが 示され、各国および国際機関がダカール・コミットメントを満たしているかどうかを評価 するため、毎年『EFAモニタリング報告書(EFA Monitoring Report)』を発行することが定 められた(UNESCO 2002a: 29) 4 。 過去にUNESCO主導でまとめられた各年度報告書には、1991 年より 2000 年まで発行さ れていた『世界教育白書(World Education Report)』があるが、『EFAグローバル・モニタ リング報告書』は、EFA推進のうえで目標や戦略に対する成果を報告するという意義を有 しているため、データはより細緻に亘り、EFAに関する議論もより焦点の定まったものへ と変化を遂げている 5 。このように、EFA目標達成に向けたモニタリング評価が徹底された うえでデータが研究され、数々の課題が議論されているという点で質が高い。特に、2003/4 年度版はEFAにおけるこれまでの功績に関してジェンダーの視点から検討しているため、 本稿で取り上げる意義が大きい。ただし、同報告書はUNESCOの見解を反映したものでは なく、多くの国際機関や各国政府や研究者により構成された独立した編集チームによって 書かれたものであるため(UNESCO 2003)、本稿において先の二つの報告書と比較する際、 同質のものとして扱うことへの限界がある。 同報告書は、まず基本的人権としての教育について論じ、女子・女性のための教育の社 会的、経済的な利益を明らかにした。そして、先述の 6 つのダカール目標に対するこれま での成果をジェンダーの観点から評価した。さらに、女子教育普及への阻害要因について 議論し、それらを克服して学習効果を高める政策が必要であることを主張した。また、現 在ではほとんどの国において教育サービスにおける男女間格差の是正が最優先事項として 認識されていることから、その目標達成のためにますます国際的な介入や組織間の協調が 3 望まれることが指摘された。このように、 『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4』 は、EFA において女子教育が重点化されていることを示している。 (1)現状分析 これらの報告書では、女子教育開発に関して現状分析がなされてきた。しかし、過去約 10 年間を通して論点となった領域は限られている。すなわち、UNESCO の女子教育開発の 現状分析に関する議論は、①女子の就学率の向上にみる女子教育の普及度、②女子・女性 の教育と社会経済的収益の関係、③男女間格差の分析、④地域別分析、の4点に集約され る。以下に、上記の区分にしたがって過去の議論を概観する。 ①女子の就学率の向上にみる女子教育の普及度 『女子・女性の教育』では、女子の就学率は世界中で一般的には向上したと報告された。 しかし、過去 10 年間で女子の就学率は男子のそれよりも多く上昇したという結果があるも のの、人口増加という側面を考慮すると「すべての女子に教育の機会を」との目標へ到達 するには不十分であると指摘された(UNESCO 1995)。 『課題別研究』では、世界の各地域において純就学率(Net Enrolment Ratios: NER)が上 昇している国が見られる一方で、全体としては必ずしも向上しているとは限らないと主張 された。その実証を試みると、先進国に関しては 1990 年までに完全普及に近い数値が出て いるが、開発途上国に関しては 1990 年の時点で男子が 85.6%、女子が 77.2%であった (UNESCO 2001: 6.)。そして、1990 年当時、2000 年に男子 87.9%、女子 81.5%という数 値が達成目標とされていたにも拘らず、2003 年の時点で男子が 85.1%、女子は 78.9%とい う状況であり(UNESCO 2003: 334-335)、確かに全般的には就学率の向上がみられない。 また、同報告書では、初等教育の純就学率は 1990 年から女子の数値が一定して上昇し ており、発展途上国全体を通して女子の上昇率が男子のそれよりも高いという結果が出て いる。この傾向は、特に東アジアとアラブ諸国において顕著に見られるが、同報告書はそ の上昇率は必ずしも加速化されていないと見解を述べた 6 。このような議論を基に、 UNESCOはEFA達成のために女子の就学率の加速化を重点化している。さらに、中等教育 の就学率は初等教育のそれよりも多く上昇している点も指摘されたが、その要因は、社会 における富裕層が不釣合いに子どもたちを中等教育に入れているか、調査の開始時点で初 等教育の就学率とは大差があったために上昇率としては必然的に大きくなる、という二つ の論しか述べられていない(UNESCO 2001: 6)。よって、この点についてはさらなる研究 の余地が残されているだろう。 『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4』でも、1990 年から 2000 年の間に初等 教育課程における男子に対する女子の就学の割合が 88%から 94%に上昇したという肯定 的な結果が報告された。特に、男女間格差の甚だしい地域において女子の就学率が男子の それより急速に上昇していることが指摘された。一方で、 『課題別研究』でも指摘されたよ うに多くの国では多大な努力にも拘らず少しの進歩しか見られないことも強調された (UNESCO 2003)。 ②女子・女性の教育と社会経済的な収益との関係 4 これらの報告書では、女子の就学率の向上を分析する際に、女子教育と経済的な収益が どのような関係にあるかという根本的な議論も頻繁に行われてきた。『女子・女性の教育』 では、さまざまな研究に基づき、女性教育と経済的な収益との関係について正の相関関係 があると記され、女性教員の女子の就学率向上への貢献についても議論された 7 。女子教育 と経済的な収益との関係については現在でも活発に研究されており、なかには懐疑的な意 見も存在する。例えば、黒田(2000)は「これまで、世界銀行を中心とした研究では女性 の教育は経済開発に対して男性の教育より大きな貢献をするとの議論がなされ、この考え 方は 1990 年代の援助思潮において広く受け入れられ、女子教育への援助額の増加を正当化 することに貢献した」が、実際には女子教育と経済開発の関係は次のような議論から「よ り複雑なものである」と指摘した(黒田 2000: 139) 8 。黒田(2000)は、従来行われてき た女子教育の経済効果に関する定量的な分析のうち、収益率分析とクロスナショナル分析 のいずれも正当性が低いことを立証した 9 。さらに、質的な分析も測定が困難であり、女子 教育の経済効果も各国の経済発展の段階によって異なる点を指摘し、一般化した議論が困 難であることを説いた 10 。このような議論も勘案して、我々は同報告書の意見をあくまで も 1990 年代の研究の主流を知るという姿勢で受け入れる必要があるだろう。 ③男女間格差の分析 そして、重要な論点の一角として、女子の就学率が向上しているにも拘らず就学におけ る男女間格差が縮まっていないこともしばしば指摘されてきた(UNESCO 1995 11 ; 2001)。 UNESCO(2003)によると、男女間格差とは、男女間における「良質な基礎教育への完全 で平等なアクセス(就学)と学業成績」上の格差を指す。特に、その領域における「ジェ ンダー公正(gender parity)」と「ジェンダー平等(gender equality)」の達成が重要視され ている 12 。その具体的な指標としては、教育の「量」と「質」を測るものがあり、一般的 に「量」は成人識字率や初等・中等教育における就学率、 「質」は初等・中等教育における 修了率、中退率、学業成績などで測られる。女子の就学率が上昇すれば男女間格差に関し て議論する必要はないという議論も存在する一方、『女子・女性の教育』と『課題別研究』 は、就学率以外も含んだ上記の全領域における男女間格差に焦点を当てるべきであると主 『課題別研究』は、世界的に就学率の男女間格差は縮まってきているがそ 張した 13 。特に、 の程度は地域により異なることを指摘し、さらにその他の領域における男女間格差を問題 視している 14 。このような教育のアクセス・質・マネジメント等における男女間格差の議 論は、年を追うごとに活発になってきている。 このような男女間格差を議論する際には、ジェンダー分析手法が使用される 15 。 『女子・ 女性の教育』では、そのうち女子・女性の教育に影響を与えるさまざまな要因が議論され た(図 1 を参照のこと)。 5 図 1. 女子・女性の教育に影響する要因 学校教育の質 政府の政策 学校教育の効用および便宜性 両親の態度 就学 学習者にかかる費用および経済的因果関係 社会的・文化的な考慮 両親の態度 学習者にかかる費用 および経済的因果関係 留年 女子・女性 の教育状況 学校教育の質および妥当性 学習者の成績 教師の態度および振る舞い 女子の性格と家族 成績 学校および学校教育の質 女子・女性の雇用機会 社会的・文化的な考慮 (出所)UNESCO 1995: 40 Figure 3-1 を基に筆者が翻訳のうえ作成 また、『課題別研究』では、女子教育普及の本質的な問題という認識のもと、現場(学 校)における男女の状況についても言及された。そして、好ましい状況として、 「教室また は学校内において、女子がリーダーシップを取れる環境」、「教員の時間や関心も含めて、 男女間で資源に対して平等にアクセスできる状況」、「女子の意志や学習に対する両親や教 員の理解のある態度」、「教員や生徒による女子への待遇」(UNESCO 2001: 7)などが挙げ られた。さらに、このような女子教育普及の質的側面に関しては未だに研究の途上であり、 今後教育制度や学校におけるジェンダー平等を達成するためにさらなる多くの情報が必要 であることも指摘された。 同報告書では、「就学傾向、中退率やジェンダー平等指標などにおける過去 10 年間の定 量的な変化に加えて、女子教育における論議の基本的な解釈も変化している」(UNESCO 2001: 12)ことも指摘された。具体的には、1)女子教育に関する国際的な関心の高まり、 2)女子教育普及における弊害を明らかにする議論から、どのように戦略を計画して施行す るかという議論への潮流、3)過去 10 年のネットワークやパートナーシップの構築ととも に、ジェンダー問題の複雑さや女性のエンパワーメントと民主主義/自由への根本的な問 いかけが強調されてきたこと、4)教育関係者が、女子教育普及への阻害要因を以前より深 く理解するようになったこと、5)女子教育共通の目的が、 「よき母の育成」から女子・女性 のエンパワーメントと主体性を助成することへと変化してきた点、などが挙げられた。 ちなみに、これらの議論を受けて、2002 年にはユネスコアジア太平洋地域教育局より EFA ジェンダーに配慮した計画の立案・実施・モニタリング評価に関するガイドラインが 6 提出されている(詳しくは次章に譲る)。このガイドラインはいわゆる EFA 国家計画のジ ェンダー分析の手法が述べられており、UNESCO の女子・女性の教育への重要な視点を表 している。 『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4』では、現状分析に先立ち「同等(parity)」 と「平等(equality)」を区別することの重要性が説かれた。教育における完全なジェンダ ー平等とは、男女間で同等の就学機会が与えられ、ジェンダー・バイアスのかかっていな い教授方法やカリキュラム、学術的な指導を受けることである。さらにより広範には、平 等な学習成果(academic achievement)と、獲得した資格や経験に基づきその後の生活にお いて平等な機会が与えられることである。このような前提のもと、同報告書では、現在の ジェンダー不平等分析として以下のような人権目標が示された。すなわち、1)社会や家族 の制約を含め、女子が学校へのアクセスを確保すること、2)カリキュラム、教授方法や学 習環境を通して、女子の特別なニーズを学校制度にどのように取り込むか、3)学校で、女 子がどのような成績を残し、またその成績が社会経済分野において男女間で平等な機会に 移されるか、という 3 点に関する教育の権利が唱えられた(UNESCO 2003)。 ④地域別分析 また、地域別分析に基づき各地域の特徴及び各国間の女子教育普及の格差を明確にした 点も、これらの報告書の特徴である。女子の就学率を上げて男女間格差を縮めるためには、 各国政府のもとで国別に対応策が練られなければならないことが一貫して指摘されてきた が、『女子・女性の教育』と『課題別研究』の地域別分析を比較すると、地域の区分がより 詳細化したことがうかがえる(6 地域から 8 地域へ。表 1 を参照のこと)。その変化を詳し くみると、『課題別研究』において、『女子・女性の教育』の「最低開発国(最も開発の遅 れた国)」というカテゴリーがなくなり、また、同じ大陸でも地方によって細分化される傾 向がある(例えば、 「アフリカ地域」が「北アフリカ」及び「サブサハラアフリカ地域」に 分割して説明されるようになった)。これらの変化から、UNESCO が世界各国の女子教育 開発の状態をより細分化した地域別で捉えようとしている傾向が読み取れる。この傾向は、 「それぞれの地域によって開発の段階が異なるため、それぞれの状況に応じたターゲッ ト・目標などの設定が必要である」(UNESCO 2003)という指摘につながるものと捉えら れる。今後は各国の経済的、文化的背景に起因した適当な策が取られるかどうかが一層求 められている。 表1.『女子・女性の教育』及び『課題別研究』における地域別分析の区分比較 地域別分析に おける区分 z z z z z z 『女子・女性の教育』(1995) アフリカ地域 アジア・太平洋地域 アラブ諸国 ヨーロッパ地域 ラテンアメリカ・カリブ地域 最低開発国 (出所)UNESCO 1995; 2001 を基に筆者が要約のうえ作成 7 z z z z z z z z 『課題別研究』(2001) 東アジア・オセアニア地域 南アジア地域 中央アジア・東ヨーロッパ地域 西ヨーロッパ地域 アラブ諸国・北アフリカ地域 サブサハラアフリカ地域 ラテンアメリカ・カリブ地域 北米地域 ⑤その他の指摘 最後に、上記の領域のほかに行われてきた論点について重要なものをまとめる。 『女子・女性の教育』では、1990 年「ジョムティエン会議」において提起された「女子 教育におけるアクセスと質の確保」と「(生涯教育なども含めたすべての教育を通した)女 子・女性のエンパワーメント」の必要性が説かれている。さらに、特に識字能力開発におい て、1994 年の UNDP 人間開発指標で明らかとなった「人間開発」の視点が女子教育開発の 根底にあること、政府と NGO の双方が女子教育政策に関わっていることなどが主張され た。そして、教育者に対するジェンダー訓練が急務であること、就学前教育(幼児教育) 普及の重要性、中等教育が最も女子の収入向上に貢献するという説に反して実際の中等教 育への女子の就学率は伸び悩んでいるという現状、高等教育を受けた女性は女子のロー ル・モデルとなるにも拘らず、高等教育における女子の科目履修には文化的な影響から偏 りが見られ、特に女子の人材育成が希薄となっている科学技術方面へのアクセスを高める こと、などが指摘された(UNESCO 1995: 9-17)。また、大方の援助機関が女子教育への予 算を増やしている一方で、その成果の大半は試験的なプロジェクトや単なる経験レベルに とどまっていることから、今後は援助機関が国家レベルのプログラムにまで貢献していく こと、難民や周縁化された人々への配慮、清潔な水・燃料・市場へのアクセスの向上、道路 の改善などに積極的に関わっていくことが指摘された(同上 18-19)。そして、最優先事項 として、1995 年当時初等教育におけるジェンダー問題は学校へのアクセスや留年に焦点が 当てられていたが、学校教育における躾という観点から女子が自信と知識をもてるような 配慮に関して議論することが掲げられた。同時に、生徒の学習態度への教員の影響に関す る研究や、政策決定など権力行使における女性の関与についての研究なども促進されるべ きであると指摘された(同上 38)。 『課題別研究』においては、過去の女子教育政策の施行から得られた教訓が挙げられた。 以下にその論点を述べる。第一に、女子教育推進には、政治的意志(political will)が要求 される。従来さまざまな理由から教育を受けられなかった人々に教育を与えるようにする ためには、さまざまな政策・プログラム・計画が必須である。特に、ジェンダーに特化して 女子・女性を対象とする政策が有効であり、政策立案において決定権を持つ年配層の人々 が女子教育へ関与することが確保されなければならない 16 。第二に、女子教育推進におい て、その過程における女性の指導力が重要である。政府、宗教団体、NGO、教育界、法曹 界など、さまざまな場面が想定されるが、そのいかなる場面においても女性が指導者とし て力を持つことが女子教育推進に多大な影響力をもつ。教育の現場レベル(すなわち生徒、 教員、両親、コミュニティのメンバー、学校運営・行政など)、地方レベル、国家レベルで 女性によりリーダーシップが採られるべきである。第三に、女子教育推進のための会議や ワークショップ、ニュースレターなどは、課題を公的に知らせるため、また新しい研究や 経験を共有するために大いに活用されるべきである。第四に、新たなパートナーシップが 構築されなければならない。1990 年代には、政府や国際組織、企業、NGO、コミュニティ、 教員組織、生徒間におけるパートナーシップが形成され発達したが、今後はセクターを超 えたパートナーシップの構築が重要であると指摘された。女子教育に関連する分野―例え ば、水・栄養・衛生、所得向上、健康・栄養サービスなど―との連携も必要である。第五 に、長期的で一貫性のあるアプローチにするために、そして女子が排除されないような制 8 度改革を実施するために、制度的なアプローチが必要不可欠である。例えば、USAIDの女 子教育戦略が表すように、制度上の変化のためには女子学校の設立を推進するなどの特別 な施策が採られるべきである 17 。第六に、研究と信憑性の高いデータを確保することであ る。的確な情報は、政策立案者やプログラム作成者を効果的に動かし、啓発活動の際には コミュニティの主体性を促進させる。また、監督・進捗状況を査定する際にも役に立つ。 併せて、女子教育の進捗状況を測る質的な指標の開発も、今後研究開発が期待される分野 であると指摘された(UNESCO 2001: 16-20) 18 。 (2)女子教育開発戦略 次に、各報告書における具体的な女子教育開発戦略を比較し、その変遷を検討する。 ①『女子・女性の教育』 『女子・女性の教育』では、具体的な九つの戦略として、1)教育へのアクセス・質の向 上、 2)科学技術教育の普及、3)セカンドチャンスとしてのノンフォーマル教育・継続 教育(成人教育)の普及、4)生涯教育の基礎としての識字の普及、5)多様な役割を担う 大学の発展、6)支援的な社会経済環境の建設、7)NGO の経験の取り入れ、8)研究・協 調・情報ネットワークの強化、9)資源の流通、が挙げられた(UNESCO 1995: 39-49)。こ のように、非常に広範な視点が盛り込まれている。各事項のレベルもさまざまであり、問 題点を羅列しているという印象を免れない。これは、90 年代を通して女子教育の課題が 次々と「発見」された表れと見て取れる。これらの戦略の対象は、特に地方および周縁化 された都市部に住む女子・女性とされた。この視点は、対象はその状況に応じて柔軟にす るべきだとされる近年の UNESCO の姿勢とは若干異なると見受けられる。 ②『課題別研究』 『課題別研究』では、先述のように、女子教育政策から得られた教訓が 6 点挙げられた。 端的に述べると、1)政治的意志、2)女性のリーダーシップ、3)女子教育を支援するフォ ーラム、4)新たなパートナーシップの構築、5)組織的なアプローチ、6)研究と信憑性の 高いデータの重要性、である。さらに、近年の傾向に即して、女子教育開発戦略における 新たな挑戦分野が提示された。すなわち、近年の EFA 下における女子教育推進の高まりの なか、社会から除外された人々への関心も喚起されるという相乗効果が期待できるという 点である。今後は、既存の女子教育の範疇にとどまらず、広い視点から従来教育を受けら れなかったグループに対して焦点を当てたアプローチを発展していく必要がある。また、 女子教育普及を脅かす存在である HIV/エイズが急速に広まる現在、緊急に適切な対応が求 められている。そして、グローバリゼーションの下で甚大なスケールで貧富の差が拡大す るという現実のもと、貧困層の 3 分の 2 を占める女性への配慮も主張された。さらに、近 年の情報科学技術の発展に際して、女性は男性よりも恩恵を受けにくいという事実が浮き 彫りにされるなか、女性を情報科学技術の波ににどう取り込むかも課題である。イスラム 原理主義の世界中への広まりが克明になってくるなか、女子・女性のエンパワーメントや権 利が制限されることを防ぐことも必要だと指摘された。最後に、これらの試みが女子教育 にどのような影響を与えるのかを測るため、従来の統計的分析以上のものが必要で、構成 9 要素ごとに詳細に整理されたデータを確保することも主張された(UNESCO 2001: 16-21)。 そして、これらの対応は優先順位をつけて行われなければいけない。国際的な合意に基 づく対応はもとより、国家・地方レベルの分析のもと、それぞれの女子教育の普及状況に 応じて対策を講じることが求められている(同上 23)。全般的に、 『女子・女性の教育』と 比べて、戦略に柔軟性がみられる。 ③『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4』 『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4』でなされた議論のうち、ここではジェ ンダー戦略に関するものについて触れておく。過去の経験から教訓が議論され、以下のよ うな点が指摘された。まず、国家が EFA 推進のうえで先導的な役割を取らなければならな い。次に、教育だけにとどまらず他のセクターにおいても、女子の特定の教育需要を満た すために資源を再分配する方策が最優先されなければならない。第三に、EFA 達成におい て、多くの国が教育における差別の撤廃を達成するよう努力している現況のもと、それら の活動およびジェンダー平等への効果を説明づける複数セクター間の協調が望まれている。 そして、社会的な変化は遅くともこの過程に若い女子・女性を直接的に取り込まなければ ならない(UNESCO 2003: 189)。 さらに、国家政策による制度改革の重要性が述べられたうえで、EFA達成のための今後 の国家及び国際的な戦略について特にジェンダー目標に関する議論がなされた(同上 266-274)。まず、近年のEFAの定量的な進捗状況について指摘され、2005 年までの目標で ある「初等・中等教育課程におけるジェンダー平等」が不可能だと判断された 22 カ国につ いては 2015 年までに延長されたが、実際には 54 カ国(全体の 5 分の 2)がその延長され た目標すら達成できない状況にあると判断された。そして、この報告書において新たに用 いられたEFA開発指標(Education for All Development Index: EDI)によって明らかになった 低開発国にこそ焦点が向けられるべきだと主張された 19 。二点目に、ジェンダーに配慮し た教育戦略の必要性が再確認された。社会に根付いたさまざまな要因から、克服が困難な ジェンダー不平等の問題に対して、国家の採るべき役割、適した環境づくり、人的資源の 再配分への投資、HIV/エイズや紛争危機への取り組み、などが重要であると述べられた。 特に、NGOが女子教育に最適な環境形成へ積極的に関わることや初等教育の無償化などが 強調された。三点目に、EFA国家戦略のための指針が述べられた。良質な基礎教育を提供 するとき、国家には、拘束力をもつ立法、公平な長期投資、管理の行き届いた専門的な教 育戦略が求められている。各国及び各地域で開発状況が異なり、開発途上国の約 8 割の国々 が地方分権化の傾向にある現在において、各国政府には多様な戦略が求められている。こ れまでEFAに成功してきた国々の大まかな傾向として、民主的で強固な制度基盤があると いう点が指摘された。全ての国にこの特徴を倣うよう求めることに限界はあるだろうが、 UNESCOは暗にそれを主張しているようにも見受けられる。この主張の是非については本 論文では触れないが、同報告書によって国家戦略の指針が説かれたことが評価される。そ して最後に、国際協力において国際機関や二国間援助機関に何が求められているのかが議 論された(UNESCO 2003: 266-274)。世界の援助額全体が減少する傾向に加えて、効率性 の重視から、援助を最も必要とされる国々には効率性が低いという理由から援助が行き渡 らないという厳しい現実のもと、国際教育協力は可能な限り最貧困層に対して行われるべ 10 きである。低就学率の国、あるいは就学や識字において男女間格差の甚だしい国でジェン ダーに配慮した教育協力を行うことは、持続可能性のうえでも評価が高い。このような議 論は、現在のEFAの達成状況、特に女子教育の現状を把握するうえで加味されるべきであ る。 このように、UNESCO、さらにはグローバルなレベルの女子教育開発戦略は年を追うご とにより具体的なものへ、そして国や地域別の発展の違いも加味された、より柔軟性のあ るものへと発展してきた。1995 年の時点から比較すると、現在は戦略の焦点は確実に定ま ってきている(表 2 を参照のこと)。 表 2.各報告書によって指摘された女子教育開発戦略の比較 『女子・女性の教育』(1995) 『課題別研究』(2001) 『EFA グローバル・モニタリ ング報告書 2003/4』(2003) 政治的意志の必要性:ジェ z EDI によって算出された ンダーに配慮した政策・プ 特に援助を必要とする国 ログラム・計画立案、年配 に援助の焦点を当てるこ z 政治家の女子教育への関 と z 与の勧め z 国家の役割、適した環境 z 女性の指導力強化 づくり(NGO の参加、初 z 会議・ワークショップ・ニ 等教育無償化等)、人的資 z ュースレターなどの活用 源の再配分への投資、 z 新たなパートナーシップ z HIV/エイズや紛争危機へ 構築 の取り組みに重点的に取 主 z 制度的なアプローチの採 り組む z 択 z 各国の戦略の指針として な z 研究及び質の高いデータ z 立法の発展、公平な長期 戦 の確保 投資、専門的な教育戦略 z 立案を提示 (以下、新たな挑戦分野として) 略 z 女子以外でも教育を受け z z 国際的援助のあり方:最 られない人々に対するア 貧困国、特に低就学率の プローチの実施 国、就学・識字におけるジ z HIV/エイズへの配慮 ェンダー格差の甚だしい 国をターゲットに z 女性の科学情報技術への アクセスの確保 z 女性のエンパワーメント 促進 z 構成要素ごとのデータの 確保 (出所)UNESCO 1995; 2001; 2003 を基に筆者が要約のうえ作成。 (注)『EFA グローバル・モニタリング報告書 2003/4』については UNESCO 独自の見解でないために他 の二つと区別するべく斜体文字にしてある。 z 3. 教育へのアクセス・質の向 上 科学技術教育の普及 セカンドチャンスとして のノンフォーマル教育・継 続教育(成人教育)の普及 生涯教育の基礎としての 識字の普及 多様な役割を担う大学の 発展 支援的な社会経済環境の 建設 NGO の経験の取り入れ 研究・協調・情報ネットワ ークの強化 資源を流通させる z EFA 国家計画のジェンダー主流化戦略の発展 このような女子教育戦略の発展のなか、EFA 国家計画を立案、実施、モニタリングの際 にジェンダー分析するための指針が策定された。UNESCO には、EFA のコーディネーター 11 として、モニタリングのための指標開発に加えて国家計画の策定にも関わることが求めら れている。そこで、UNESCO は、 「女子・女性の教育」という視点から EFA 国家計画がジ ェンダーに配慮しているかどうかを査定する「ジェンダー分析手法」を開発した。2002 年 にユネスコアジア太平洋地域教育局から出版された、『ジェンダー・ガイドライン』 (UNESCO 2002c)は、その概要を端的に示している。これは、ジェンダーに配慮した EFA 政策立案を実現するためのガイドラインであり、教育におけるジェンダー平等を達成する ためにどのような政策立案が必要かということを提起するために定められた(UNESCO 2002c)。いわば UNESCO のジェンダーに対する観点を示しているともいえる重要な資料で ある。 先述のジェンダー平等を掲げるダカール目標(目標 2・4・5)の設定に加え、2000 年に タイのバンコクにおける「EFA2000 年評価のためのアジア・太平洋会議(The Asia-Pacific Conference on EFA 2000 Assessment)」の開催中に『アジア・太平洋地域の行動枠組み(The Asia and Pacific Regional Framework for Action)』が承認された 20 。それを受けて、この『ジ ェンダー・ガイドライン』は、ダカール目標の達成のための第一段階として 2002 年までに ジェンダーに配慮したEFA計画の策定が急務であると主張した。そして、女性団体や個人 の女性教育者が各国のEFA政策の策定や草案の過程に積極的に参加することの重要性を指 摘した。そのプロセスとして、 (1)包括的な現状分析、および関連する諸問題の識別を行 うこと、 (2)目標設定をし、その目標達成のための戦略を識別し、適切な行動計画を行う こと、(3)戦略に関するモニタリング・評価を行うこと、という三段階が定められた (UNESCO 2002c: 3)。以下に各段階の概要を述べる。 (1) 現状分析・課題の発見 第一段階として、女子・女性の教育における現状分析および課題の識別を行うためにジ ェンダーに配慮された問いが行われなければならない。初等・中等レベルのフォーマル教 育に関しては、アクセス・質と妥当性・マネジメントなどの問題に関する質問が必要であ る。まず、アクセスに関して、就学率・修了率に関する男女別・地域別のデータを分析す ること、最も進級が阻害されている学年について男女別にデータを分析すること、学校数 および配置に関して地域分析をすること、などが指摘された。そして、質と妥当性に関し て、以下のような項目が設けられた。①物質的な質の問題―男女別のトイレが確保されて いるか等―、②学校給食の有無、③カリキュラムの質の問題―ジェンダー配慮がなされて いるか―、④性教育の実施の有無、⑤学習環境に関して男女平等な機会が与えられている か、⑥通学路の安全性の確保、⑦教員養成において男女平等に機会が与えられているか、 ⑧カリキュラムがジェンダーに敏感かどうか、⑨学業成績の男女別分析がなされているか、 ⑩教員の評価にジェンダー・バイアスがないかどうか、⑪教科書や学習教材がジェンダー に敏感であるか、などである。さらに、マネジメントに関しては、全教育課程への女性の 参加、給与手当における男女平等、コミュニティとの協働などを確保することが掲げられ た(表 3 を参照のこと) 21 。 12 表 3.現状分析・問題発見のためのジェンダー分析 アクセス z z z 質と妥当性 z z z z z z z z z z z z マネジメン ト z z z ―チェックリスト 地域別、行政レベル別(例.州・省もしくは地区)、農村・都市別、性別、不利な立場にあ るグループ別の初等・中等教育における就学率・修了率は? 性別で分析した際、システムの促進のうえで最も批判的な段階はどれか(例.1 から 2 学 年、4 から 5 学年、初等教育から初期中等教育、初期中等教育から後期中等教育など)? また、その男女間格差の理由は何か? 地域別、人口分布別における学校数および配置はどうか?児童・生徒の登校に要する時間、 さらにそれが彼らの教育へのアクセスにどのように影響を与えるか?(地形・交通機関な どの要因も加味すること) 学校の物質的な質はどうか?建物は安全かつアクセスしやすいか?安全な飲料水と男女別 のトイレ施設が確保されているか? 学校給食はあるか? カリキュラムの質はどうか?どの程度適切なのか?ジェンダーに敏感であるか?いろいろ な意味で男子とは異なる女子の学外生活を勘案して作成されているか? 男女双方に対して性教育が行われているか? 男女に対してどのような学習戦略が採られているか?それらは違うか?もしそうなら、そ れらではどのような教育技術が使われているのか?教員や教育者はこれらの違いを重要視 するよう準備、もしくは訓練されているか? 学習環境の質はどうか?子どもに友好的で健康なものであるか?男女双方に挑戦の機会が 与えられているか?初等・中等教育においてロール・モデルとなりうる男性・女性教員が いるか?参加やリーダーシップ形成において男女平等に機会が与えられているか?もしそ うなら、どのように?学校・教室運営は男女双方に対して安全で養育的、セクシャルハラ スメントの無い環境になっているか?もしそうならどのように?そうでない場合は何が問 題か?学校見学の頻度や監視の質に男女間格差がないか?もしあるならなぜか? 男女ともに学校まで安全に通えるか?安全で信頼性が高く手頃な交通手段が可能で、徒歩 通学の困難な男女がそれらを利用できる状況か?教室には十分な空間が設けられ、社会の 掟に対応し、なおかつ男女双方にとって快適なものであるか? 男女が平等にスポーツ、芸術、音楽などの課外活動に参加しているか? 教員養成、事前研修、再教育研修、現職研修の質はどうか?さまざまな研修において男性 と同様に女性の教員・ファシリテーターが参加しているか?それらの訓練はジェンダーに 敏感な方法で行われているか?もしそうなら、例を挙げること。教員養成カリキュラムは ジェンダーに鋭敏化されているか? 学業成績を評価するためにどのような制度があるか?それら成績結果は性別や農村・都市 別に分析されているか?さまざまな科目で男女の成績に違いはあるか、さらに学年を追う とどうか?もし違いがあるならなせか? 学習者に対する教師の評価はジェンダー・バイアスがかかっていないか?女子は科学技術 の分野の指導を受け、能動的・受動的など態度のいかんを問わず同分野の教育を奨励され ないということはないか?また、男子にはどの分野に進むことが奨励されているか? 教科書やその他の学習教材の質はどうか、またその入手具合はどうか?教科書やその他の 学習手段において男女平等に扱われているか?それらの教材を通してどのような女子・女 性または男子・男性のイメージが発されているか?そのような性別の描写が学習者にどの ような影響をもち、特に若い児童の場合には自我・性格・職業選択の形成にどのような影 響があるのか? さまざまなレベルの教育において女性の参加の割合は?彼女たちはすべてのレベルの教育 マネジメントにおいてどのような職に就いているか?彼女たちは専門開発やキャリア開発 に関して平等なアクセスをもっているか?彼女たちは専門開発プログラムに参加するのに 適した待遇や給与をもらっているか?女性がそれらの訓練を受けるために家庭内の役割を 軽減するための方法が採られているか? マネージャーにとって住宅手当などを含む給与手当は男女平等で適切か?住宅手当を含む 給与手当が教員にとって男女平等かつ適切であることを保証する制度は確立されている か? 行政官や教員が得られないときの補強のための人材開発の措置はあるか?その措置の投入 として関係者(両親やコミュニティを含む)が関与しているか? (出所)UNESCO 2002c をもとに筆者が翻訳のうえ作成。 13 (2)目標設定・戦略の特定 このような教育セクターのジェンダー分析を経て、EFA 計画においてジェンダー平等が 明文化されなければならない。そのプロセスとして、まず、参加型手法に焦点をおくセミ ナーやワークショップなどを通して、EFA 計画策定に関わる人々がジェンダーに配慮する よう保証する必要がある。そして、ジェンダーの観念は計画策定・施行・評価すべての過 程において制度上に盛り込まれる必要がある。さらに、EFA におけるジェンダー平等の進 展をモニタリングするために、ジェンダーに特化した指標が明確化されなければならない。 国家レベルにおいては、EFA 目標に加えて国毎に特別な目標・期限を設定し、そのための 適切な戦略を立てる必要があるだろう。その際、持続的発展のために、国家教育政策のジ ェンダーの主流化が主要な戦略となる。このため、具体的な施策は国に任せるとしても、 学校から行政管理にいたるまでさまざまなレベルにおいてジェンダーを認識するためのス キルトレーニングを行うことが有効となるであろう。また、ジェンダー主流化のためには、 地方のニーズや成人と子どもの男女が置かれた現実を把握するためにジェンダー分析が求 められる。教育関係者が的確な対応ができるよう、慎重かつ常時の分析が必要である。 (3) 施行・モニタリング・評価 ジョムティエン会議の開催依頼、これまで概観してきたように、EFAのもとでさまざま な女子教育に関する試みがなされているが、計画されるものの結局実行に移されることが 無く中途半端な結末に陥るケースが多々あると報告された。それらの大半は、資金や人的 資本の不足が原因となっているが、同時に政策策定者のジェンダー平等に対する意識の欠 如、制度的にフォローアップする監視機関の欠如なども原因と考えられる。したがって、 国家には施行期間中のフィードバックを保証する、継続的に評価するための監視機構を設 立することが期待されている。そして、政策策定者には、教育における男女間格差やジェ ンダー不平等の削減に向けた政策立案や、既存の政策の改定が求められている。また、指 標の開発やデータの収集・分析は、政府が戦略を設定するうえで情報を提供するという点 で必要不可欠な機能といえる。UNESCOの提示する 18 の指標は定量的な男女間格差に関す る国家の進展を監視する役割をもつが、それらに加えて、国家はそれぞれのジェンダー平 等の目標を達成するため指標や代理指標を規定して、その進展をモニタリングしなければ ならない 22 。例えば、学業成績における男女間格差の動向、中等・職業訓練・高等教育レ ベルへの男女の移行の変化、政策決定に参画する女性の人数、民間セクターにおける経営 者クラスの女性の人数、などが測られる必要がある。 施行の段階において、ジェンダーの主流化を果たすための方法は、表 4 のとおりである。 14 表 4.教育におけるジェンダー主流化の方策 z z z 過程 さまざまな協議やコミュニケーションに基づ き、ジェンダーに配慮した EFA 計画を推進す るための総合的な戦略を採る(例.最重要プ ログラムのジェンダー平等化、ジェンダー平 等に関する市民団体への投入等) EFA 国家計画を施行・モニタリング・評価す るため、制度のキャパシティビルディング、 ジェンダーオリエンテーション、トレーニン グなどを実施する 政策対話を行い、政策決定やその過程、施行 においてジェンダーの観点に基づいた制度行 政上改革に関する合意を得る。 z z z z z z z ジェンダー平等のための制度的な政策や枠組 みにおいて政治的関与を強める ジェンダー主流化戦略を施行するため教育省 の財政計画における資金・資源の分配を確証 するべく教育国家計画やその他の国家政策文 書を再検討する z z z z z 手段 教育セクター内に、常駐のジェンダー専門家 を含む政府顧問委員会を設立する 市民団体諮問委員会を設立する。既にある場 合は既存組織に女性団体の代表者やジェンダ ー専門家が含まれていることを確証する。 教育セクター内でジェンダー・コンサルタン トを雇用し、学校レベルから政府高官レベル や行政官レベルまでの実施者および地方行政 官など関係者にジェンダー主流化トレーニン グを提供する 助言、敏感化、推進、他部署・課との協調の ための資源(人材および財源)を有するジェ ンダー部署を設立する 教育制度のさまざまなレベルにおいて、ジェ ンダーの視点をもつプロジェクト施行・フォ ローアップチームを設立する 国家諸省庁において、ジェンダーに焦点を当 てたネットワークを構築する 優先事項の決定、教育セクターにおけるジェ ンダー平等達成の経済的費用の見積を行う ジェンダー平等に関する指標の開発 すべての教育文書においてジェンダー主流化 を集積化させる 諸省庁からの資源動員 (出所)UNESCO 2002c: 15-16 を基に筆者が翻訳のうえ作成。 そして、モニタリング・評価の段階では、表 5 のような過程と手段が求められている。 表 5.ジェンダーに関する EFA 目標の達成に向けた進展の評価方法 z z 過程 ダカール目標(目標 2・4・5)の達成に向けた 進展のフォローアップ 指標(量・質)およびジェンダーに敏感な EFA の施行方策の開発 z z z z 手段 調査報告機構の設立 量的・質的な指標の特定 段階別の開発成果の特定 x 年間のダカール目標(目標 2・4・5)を達成 するための資金を割り当てる (出所)UNESCO 2002c: 16 を基に筆者が翻訳のうえ作成。 このように、UNESCO が提示する『ジェンダー・ガイドライン』からは、UNESCO が EFA モニタリング機能の一環として EFA 国家計画のジェンダー化を積極的に施行しようと する姿勢がうかがえる。さらに、それらの分析手法や具体的なチェック項目は、実現性と いう意味において高く評価される。一方で、UNESCO にはこのようなガイドラインを示す ほかに、実際の各国政府の政策立案を常時モニタリングすることも課されている。このガ イドラインの実際の有効性は、各国政府がいかに吸上げ実行に移すかにかかっているため、 モニタリングの発展は欠かせない。ただし、UNESCO がこのような分析手法を提示したこ とは、確実に女子教育開発政策の推進上大きな一歩であり、今後、このような形態で国家 と協調・連携を図っていくことがより一層期待されているといえる。 15 4. 今後の展望 ―結びにかえて このように、近年の報告書及び研究の比較分析から、UNESCO の女子教育開発戦略の潮 流が理解できる。それは、多少粗い言い方になるが、内容が広範なものからより具体化し てきたという変化、そして、国や地域ごとに状況が異なることへの配慮から、国家戦略(政 策立案から施行まで)の優先化がなされているという変化である。 UNESCOは、各国の女子教育開発をEFA促進の名のもとにグローバル戦略として位置づ け、統一化した目標、指標を設定することを通して推進してきた。その詳細は本論で述べ てきたとおりである。しかし一方で、先述のようにさまざまなケースに応じて国別あるい は地域別に指揮を執る必要性も議論されてきた(UNESCO 2001; 2003)。これらの「統一化」 及び「現実的な政策策定、施行における地方分権化の強化」の二方向への発展こそが、EFA における女子教育戦略の要であると捉えられる。そして、そのバランスや方法が未だ暗中 模索の状態にあるといえないだろうか。また、基礎教育拡充の施策のもと、各国の教育開 発レベルを統一化したものさしで測ることへの批判がなされているが、そのような批判は、 先のUNESCOの二方向における後者の方向性への助長を促す類のものである 23 。各国の抱 える状況の多様性、そして各国主導で各国あるいは各地域の状況に合わせて適切な政策を 採ることの重要性を認識したEFA上半期を経て、このような批判はEFA運動の下半期にお いて重要な視点となることが予期される。 これらの議論を踏まえると、UNESCOは今後のEFA達成のために、国際機関としての役 割、すなわち指標の開発などに表される「各国データを統一化して比較する」ことに尽力 すると同時に、各国のEFA活動あるいは女子教育政策にどれだけ裁量を任せて柔軟に対応 できるかが求められていると考えられる。その際、国際機関や二国間援助機関には、E9 や 近年のモニタリングにより明らかになったEFA達成に最も遠いとされる国々(『EFAグロー バル・モニタリング報告書 2003/4』では男女間格差の著しい国々と指摘された)に対する 制度開発への協力が引き続き求められる 24 。 また、国家との協調・連携という点では、過去 UNESCO により行われた EFA 国家計画 のジェンダー化戦略が提示されたことが意義深い。今後は、国家の「実践」に対するモニ タリング評価の発展が求められている。 最後に、今後のUNESCOの女子教育開発戦略への示唆として、ジェンダーに配慮した政 策立案・施行、組織改革、国際協調と並んで、女子教育の普及度を測る指標の確立の重要 性を強調したい。特に女子教育の普及度を測る指標の開発に必要不可欠なものとして、女 子教育の教育経済学的見地からの研究などは重要である。先述のように、過去の女子教育 に関する経済学的研究では、発展途上国の社会経済開発における女子教育の効果を立証す るべく、 「女子教育が男子教育に比べて経済開発に有用か」との問いかけが論じられてきた。 澤田(2003)は、直接女子教育に焦点を当ててはいないものの、貧困削減という視点から 発展途上国における教育開発に関わる諸問題についての最近の経済学的研究をまとめ、教 育が経済に果たす役割を、 (1)教育への需要、 (2)教育成果の生産、 (3)教育の収益率、 (4)教育の経済成長への貢献、の 4 点に分類し、それぞれの近年の研究を概観し分析上 の問題点等を議論している(澤田 2003: 16-17) 25 。このような分析手法の研究は、今後女 子教育開発をモニタリング評価するための指標の確立に寄与すると思われる。このように、 16 女子教育開発の領域において、今後は経済学的見地のみならず社会学、政治学、心理学、 文化人類学などを含む幅広い見地からの研究が求められているといえよう。UNESCOの女 子教育戦略は、そのような多角度からの研究によって、また新たな進化を遂げることであ ろう。 <注記> 1 教育分野では、それまでの高等教育重視から、識字率の向上、基礎教育の普及、発展に関連する技術訓 練の実施などが定められ、70 年代後半から本格的に実施に移された(江原 2001)。なお、「女性と開発」 に関するアプローチの変遷(WID及びGAD)に関しては田中(2002a)も参照のこと。 2 本稿で取り上げる『女子教育』の他に、主なものとして『人口増加への挑戦(Achieving Education for All: Demographic Challenge)』、 『識字・成人教育(Literacy and Adult Education)』、 『学校保健(School Health and Nutrition)』などがある。 3 ダカール会議における 6 つの目標とは、以下の通りである。1)特に最も立場が弱く不利な立場にある 子どもたちに対する包括的な就学前ケアおよび教育を拡充・向上させること、2)2015 年までにすべての 子どもたち、特に女子、困難な状況下の子どもたち、少数民族の子どもたちが義務・無償化した良質な 教育へのアクセスを有し、修了することを保障すること、3)適切な学習および生活技能プログラムへの 公平なアクセスを通してすべての若者と成人の学習ニーズが満たされるよう保障すること、4)2015 年ま でに成人、特に女性を中心にして成人識字率の 2000 年の水準から 50%改善すること。すべての成人向け の基礎・継続教育への公平なアクセスを向上すること、5)2005 年までに初等・中等教育での男女間格差 を解消し、2015 年までに教育におけるジェンダーの平等を達成。特に良質な基礎教育への女子の完全か つ平等なアクセスと学業成績の確保に焦点を当てること、6)あらゆる側面における教育の質を改善。す べての分野、特に識字能力・計算能力、基本的生活技能の面で、測定可能な学習成果が達成されるよう エクセレンスを確保すること」(UNESCO 2000a: 8, para. 7)。 4 第二版(2002/3 年度版)以降は『EFAグローバル・モニタリング報告書』の名へ変更され出版されてい る。 5 例えば、より多くの国のデータがEFA指標に即するかたちで掲載されるようになった。 6 ただしこの主張に関して、同報告書では経年別データを記載していないため、そのまま鵜呑みにするこ とには危険性がある。 7 詳細は、UNESCO 1995: 10-11 および 16-17 を参照のこと。 8 世界銀行のサカロポロス(Psacharopoulos)は世界各地で行われた教育分野の収益率分析の結果を集約 して鳥瞰分析を行い、女性に対する教育の社会的収益率の方が男性の社会的収益率に比べて高い傾向が あるとしている(黒田 2000: 133)。 9 クロスナショナル分析は収益率分析と並んでこれまで頻繁に用いられてきた、教育と経済発展の関係を 示す研究手法である。これは、教育を独立変数、経済発展を従属変数として相関分析、回帰分析の手法 を用いて両者の関係を分析する研究手法である。1993 年にキングとヒル(King and Hill)により教育の男 女間格差は経済成長に負の影響を与えるとの研究において用いられたが、この研究の立証性は低いとの 見方もある(同上 134-135)。 10 黒田は、結論として「女性が教育を得ることによって経済活動により大きな貢献をできる状況をつく ることの重要性」、「女性の教育に投資するだけではなく、女性に対する就労上の性差別を無くし、家事 や育児と女性の就労の問題を社会がいかに解決していくか」という点を挙げている(同上 139)。 11 『女子・女性の教育』 (UNESCO 1995)では、ラテンアメリカやカリブ海地域に比べて、特にアフリカ、 アジアやアラブ諸国における男女間格差が問題視されていた。 12 UNESCO(2003)によると、ジェンダー公正(gender parity)は、初等中等教育における女子と男子の 平等な参加を達成することを目的としている。一方、ジェンダー平等(gender equality)とは、男女間の 教育の質を確保することを目的としている(UNESCO 2003: 285)。 13 しかし、現状では教育の「質」に関して重要性は認識されているものの実際の測定には改善されるべ き問題が多く、指標の開発やデータの確保などが急務となっている。特に、EFAのリードエージェンシー として、EFA達成のための 18 の指標(ジョムティエン会議の「基礎的な学習のニーズを満たすための行 動枠組み」で定められた達成目標への進捗状況を測るためのもので、『EFA指標の開発に関する会議およ 17 び提議報告書』 (Report on the Meeting and Proposals for the Future Development of EFA Indicators, 2001)に詳 しい)に関して、質的指標の開発を主眼とした一層の発展が求められている。 14 例えば、南アジアとアラブ諸国は 1990 年の時点で最も格差のひどい地域として挙げられるが、同地域 の純就学率の上昇をもってしても、ジェンダー格差を縮めるには至らず、むしろ 0.7%その差を広げてし まったという結果がある。ラテンアメリカやカリブ海地域では 1990 年での純就学率は高く、男女共に更 に向上が見られるが、ラテンアメリカにおいて男女間格差は 0.5%開き、現在では東アジア・オセアニア 地域よりも思わしくない数値となっている。教育における男女間格差の是正が一筋縄にいかないことを 物語っている。東アジア・オセアニア地域は初等教育における純就学率もほぼ完全に達し、男女間格差は 1.0%に縮まっている。アラブ諸国も 5.0%へとその差を縮めており、前進が見られる。サブサハラ地域に おいては、男女間格差の変化に乏しく、過去 10 年間に男女間格差が最も大きい地域となった(1990 年に は南アジアとアラブ諸国に次ぐ 3 番目であった)(UNESCO 2001: 6-7)。 15 さまざまな大学、開発関連機関やNGOなどがジェンダー分析手法について独自のガイドラインやマニ ュアルを作成しているが、そのおおまかな基本的な枠組みとしては、例えばハーバード大学及びカナダ 開発援助庁(Canadian International Development Agency: CIDA)が示すように、「1.生産活動に関する状 況分析、2.開発資源に関するコントロール(管理・所有)とアクセス分析、3.影響を及ぼす外部要因 分析」に分類される(田中 2002b)。 16 その他、「政策環境は適当か、変える必要があるか」、「適切な数の人々が対象となっているか」、「(政 策)施行に関する弊害は何か」、「問題は適切に突きとめられているか」、「提出された解決法は監督され 評価されているか」、などの問いが各国レベルでなされるべきであると主張された(UNESCO 2001)。 17 具体的な施策として、1)女子の居住地の近くに学校を設立する 2)学校のスタッフに女性教員を含 める 3)女子に友好的な制度 4)コミュニティのオーナーシップと参加の強化 5)学校の費用を削減 させることが挙げられた(UNESCO 2001)。 18 2003/4 年度版の報告書ではEFA開発指標が導入された。94 カ国については 2000 年のデータを用いたこ の指標による測定が可能となっている。その分析からもジェンダー同等の変動がEFA達成において最も効 果的であることが明らかになった。 19 EDIとは、「UPE (Universal Primary Education)、ジェンダー平等、成人識字率、学校の質を測る代理の指 標であり、上記の配分はそれぞれ公平に加味され、EFA6 つの指標(ダカール目標)のうち4つの指標下 における国家の平均的な進捗状況を測る粗い指標」である(UNESCO 2003: 266)。 20 「教育制度を通して、就学・学業成績・修了;教員養成・キャリア開発;カリキュラム・学習訓練・ 学習プロセスにおける制度に由来する男女間格差を撤廃することが肝心である。これには、女性の平等 およびエンパワーメント達成のための道具として教育の役割を正しく認識することが求められる。」と記 されている(UNESCO 2002c: 2)。 21 なお、この区分における「マネジメント」には、国家、地方、州、学校レベルにおけるマネジメント 全般が含まれている。 22 UNESCOは、1990 年後半に各国のEFAの進捗状況を評価するために、『EFA2000 評価 (EFA 2000 Assessment)』が行われた。それにより、UNESCO統計局は、各国統計局に先述の 18 の指標に関するデー タを提出するよう要請した。具体的な 18 の指標郡は、UNESCO Institute for Statistics 2001: 31-32 にて確認 のこと。 23 金子(2003)は、日本の経験に基づいて初等教育の発展を政策的な観点とあわせながら段階的に理解 しようとした論文を執筆しているが、その中で「現在の国際的な合意、運動であるEFAにおいては、すべ ての国に一律の目標が与えられているだけで(中略)発展段階論的な視点が欠如している」と指摘し、 そのために「各国において、適当な時点で適切な政策に志向する機会を見失わせ、教育の質の悪化など の結果をまねきかねない」と指摘している(金子 2003: 40-41)。 24 E9(Nine High-population countries)とは、世界でも特に人口密度が高く開発が困難である国々を指す。 バングラデシュ、ブラジル、中国、エジプト、インド、インドネシア、メキシコ、ナイジェリア、パキ スタンの 9 カ国から成る (UNESCO 2003: 412)。また、同報告書では、初等教育・中等教育における男女 間格差に関する 2005 年・2015 年の目標到達見込みを、 「2000 年に既に到達した国」、 「2005 年までに到達 される可能性が高い国」、 「2015 年までに到達する可能性が高い国」、 「2015 年までに到達しない恐れのあ る国」に分類した。そのなかで両方の教育課程における達成可能性の低い国が 12 カ国挙げられた(ブル キナファソ、コートジボワール、ジブチ共和国、エチオピア、インド、イラク、マダガスカル、モンゴ ル、モザンビーク、パプアニューギニア、セントルシア、トルコ)(UNESCO 2003: 109)。 25 (1)に関して、教育需要の決定について主に投資の観点から既存研究がまとめられた。(2)に関して、教 育の生産活動としての教育生産関数をめぐる議論がレビューされた。(3)に関しては、教育の収益率の推 計方法、推計結果、さらには計量経済分析上留意すべき諸問題について議論された。(4)に関して、マク ロレベルにおいて実現する経済発展に対する教育の貢献について議論された。 18 <参考文献> 江原裕美、2001、「開発と教育の歴史と課題」、江原裕美(編著)、『開発と教育―国際協 と子どもたちの未来』、35-100 頁、新評社。 金子元久、2003、「初等教育の発展課題―日本の経験と発展途上国への視点」、米村明夫(編 著)、『世界の教育開発:教育発展の社会科学的研究』、28-41 頁、明石書店。 黒田一雄、(2001a)、「教育投資における優先順位の決定と世界銀行―収益率分析とクロス ナショナル分析の成果と限界」、江原裕美(編著)、『開発と教育―国際協力と子どもた ちの未来』、257-269 頁、新評社。 ――――、(2000b)、「発展途上国における女子教育の教育経済学的考察」、『国際教育協力 論集』3(2):133-141 頁、広島大学教育開発国際協力研究センター。 斉藤泰雄、2001、「基礎教育の開発十年間の成果と課題―ジョムティエンからダカールへ」、 江原裕美(編著)、『開発と教育―国際協力と子どもたちの未来』、301-320 頁、新評社。 澤田康幸、2003、「教育開発の経済学―現状と展望」、大塚啓次郎、黒崎卓(編)、『教育と 経済発展:途上国における貧困削減に向けて』、13-48 頁、東洋経済新報社。 田中由美子、(2002a)、「『開発と女性』(WID)と『ジェンダーと開発』(GAD)」、田中由 美子 他(編著)、『開発とジェンダー エンパワーメントの国際協力』、28-41 頁、国 際協力出版会。 ――――、(2002b)、「ジェンダー分析」、田中由美子他(編著)、『開発とジェンダー エン パワーメントの国際協力』、42-56 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