高密度配線板に対応する新規銅表面処理技術 (PDF形式、105kバイト)

U.D.C.
669.056.9.001.6:546.56:669.3:621.3.049:544.722.54:537.226.2
高密度配線板に対応する新規銅表面処理技術
New copper surface treatment technology for high density printed wiring board
山下智章*
Tomoaki Yamashita
**
長谷川 清
井上文男*
Fumio Inoue
Kiyoshi Hasegawa
次世代の電子機器用途として,複数のチップを配線ピッチ20 µm以下の高密度な配
線基板上に実装するシステムインパッケージ(SiP)が提案されている。これに使用
する配線基板の要素技術の課題として,①高速信号伝送に対応するための低誘電率絶
縁層の開発,②絶縁層と配線との密着性確保,③配線表面凹凸の低減などがある。
当社では,銅配線の表面粗さ(Rz)を数十nmレベルに均一処理でき,低誘電率樹
脂との接着性が良好な新規銅表面処理技術を開発した。本手法は,従来の酸化還元処
理の前に貴金属処理を付加したものであり,表面凹凸は従来処理と比較して1/10以下,
ピール強度は0.6 kN/m以上である。また,10 µmピッチ配線に本技術を適用した基板
は,85℃,85%RH,DC 5 Vの条件にて1,000時間異常がなく絶縁信頼性に優れている。
本技術は今後の高密度な配線基板の製造要素技術として期待される。
System in packages, which consist of several LSI chips mounted on a printed wiring board
(PWB) that uses wiring of a pitch less than 20 µm, are now being proposed for the next
generation electronic equipment. Such PWB will be constructed using low permittivity
insulator and flat-surface copper wiring, because the copper wiring transfers highfrequency signals. One of the challenges for elemental technologies in making such PWB is
to ensure the adhesion between the copper surface and low permittivity resin.
We have developed a new copper surface treatment method that changes the flat
surface into a uniformly rough surface having a level profile of a few dozen nm, to
enhance the adhesion at the interface. This method involves processesing noble metal prior
to the oxidation and reduction processes used in the conventional copper surface
treatment. This method will reduce the surface roughness to less than 1/10 that of the
conventional method, the peel strength will be more than 0.6 kN/m. Moreover, PWBs
made by this method with 10 µm pitch wiring showed satisfactory insulation reliability with
adequately high humidity test (no failure after 85 C, 85%RH, 5 dcv, 1000 h). We hope that
this method will become a elemental technology for making high density PWBs in
future.
〔1〕 緒 言
用化されているものは少ない。さらに前者では,①化学エッ
IT技術の革新に伴い,電子機器は大量の情報を伝送,蓄積
チング粗化と②酸化還元処理がある。①は表面粗さ;Rzが2.0
する必要にせまられ,半導体チップの超高集積化と高速信号
µm以上と大きく,その粗さを制御するのは難しい。②はRz=
化が進んでいる。このため,高密度実装技術が一層重要にな
0.5 µm∼0.7 µmであり,粗さの制御もしやすい。我々は,自
っている。このような背景から次世代の半導体パッケージと
社技術の蓄積の豊富な後者の,技術を元にRz=0.2 µm以下の
して,システムインパッケージ(SiP)が提案されている。こ
均一な微細凹凸を形成する方法を検討した。この手法では,一
れは,微小な実装エリアに複数の半導体チップを搭載するた
旦銅を酸化剤で酸化して針状の結晶を析出させ,次に還元剤
め,使用する半導体実装用基板(以下,基板と略す)にはラ
で処理して銅の微細凹凸を形成する。その際,同時に基板の
イン/スペース(L/S)=10 µm/10 µm以下の微細配線が必要
樹脂表面が処理されて耐熱性の低下を引起すことがある。そ
1)
といわれている。
また,高速信号伝送に対応するためには伝
こで,本開発では,処理の低温・短時間化も検討した。
送損失の低減が重要であり,絶縁樹脂として低誘電率・低損
失率樹脂(εr=3.0以下,tanδ=0.01以下,以後,単に絶縁樹
脂と略す)の適用や表皮抵抗低減のための銅配線表面の平滑
化(表面粗さ:Rz=0.2 µm以下)も必要である。
〔2〕 実験方法
実験に用いた銅箔は18 µm厚の電解銅箔である。また,銅
の処理面とのピール強度を評価する絶縁樹脂には,3種の低
銅と樹脂の接着力向上には,銅に凹凸を形成する手法2),3)と
誘電率・低損失率材料(樹脂A:εr=2.9,tanδ=0.0055,樹
銅に化学的な結合を付与する手法4)がある。しかし,後者で実
脂B:ε r=2.9,tanδ=0.0050,樹脂C:ε r=2.8,tanδ=
*
当社 電子材料研究所 **日立化成エレクトロニクス 配線板材料部
日立化成テクニカルレポート No.48(2007-1)
13
0.0030)を用いた。図1に銅表面の処理条件を示す。凹凸を
形成する酸化処理と耐熱性および耐ハローイング性を向上さ
1 従来の銅表面処理
せる還元処理が基本であり,我々の新規銅表面処理では貴金
属処理を追加している。酸化処理の条件は,従来の標準条件
2 新規の銅表面処理
脱 脂
(85℃,180 s)と比較して低温・短時間(50℃,60 s)とし
た。還元処理は,3種類の還元剤(ジメチルアミンボラン:
酸 洗
DMAB,水素化ほう素ナトリウム:SBH,ホルマリン:
HCHO)を用い,従来と比較して低温・短時間(35℃,60 s)
とした。表面形状は電子顕微鏡(SEM)
,集束イオンビーム
貴金属処理
観察装置(FIB)で観察し,表面粗さ(Rz)は原子間力顕微
鏡(AFM)で測定した。銅表面電位はポテンショスタットで
測定した。また,処理した銅箔または基板を乾燥処理後に絶
酸化処理
50℃,
60 s
85℃,
180 s※
縁樹脂を接着処理して評価基板を作製した。銅箔ピール強度
酸化処理
50℃,
60 s
は初期状態と150℃加熱放置後を測定した。配線間の絶縁信
頼性については,L/S=5 µm/5 µmのクシ型パターンを用い,
85℃,85%RH,DC 5 Vの処理条件における絶縁抵抗値を測定
還元処理
DMAB:35℃,
180 s※
S B H:45℃,
300 s
HCHO:60℃,
300 s
した。
〔3〕 結果および考察
3. 1
還元処理
DMAB:35℃,
60 s
S B H:35℃,
60 s
HCHO:35℃,
60 s
酸化処理による表面形状と断面形状および銅表面電位
の変化
酸化処理後の表面形状,断面形状およびRzを表1に示す。
防 錆
従来の銅表面処理では酸化条件を低温・短時間にすると,銅
表面を被覆する針状の酸化銅(CuO)の生成密度が極端に低
乾 燥
下し,不均一な銅表面になる。一方,新規の銅表面処理では
低温・短時間でも,均一かつ微細な凹凸が得られることがわ
かった。次に,酸化処理時の銅表面電位を図2に示す。従来
接着処理
樹脂A,樹脂B:プレス加熱,樹脂C:スピンコート加熱
の銅表面処理では,浸漬時間が500秒まで初期の自然電位
(銅と酸化銅の混成電位)と変わらない。一方,処理温度
50℃の新規の銅表面処理では,約10秒で銅表面電位は0 V
※標準条件
(ほとんどが酸化銅の電位)を超え,0.3 V(完全に酸化銅が
被覆する電位)に近づく。従って,新規銅表面処理は,均一
でかつRz=0.2 µm未満の平滑な処理面が得られると考える。
3. 2
Fig. 1
還元処理による銅表面電位の変化
3種類の還元剤を用いた場合の還元処理時の電位変化を図
では,均一で微細な凹凸が得られる。
Table 1
Process of copper surface treatments
Our new copper surface treatment utilizes a noble metal process before the
3に示す。従来の銅表面処理でDMABを用いた場合,銅表面
表1 酸化処理後の表面形状と断面形状
および表面粗さ(Rz) 新規の銅表面処理
図1 銅表面処理工程 新規の銅表面処理は酸化処理前に貴金属処理を行
う。酸化処理と還元処理は低温・短時間化できる。
項 目
酸化処理条件
oxidization process. Oxidization and reduction can be processed at a lower
temperature and in a shorter time.
従来の銅表面処理
新規の銅表面処理
85℃・180 s
50℃・60 s
50℃・60 s
0.5 µm∼0.7 µm
40 nm∼60 nm
20 nm∼40 nm
Surface shape, cross-section shape
and surface roughness (Rz) after oxidation
process
A uniform surface with a fine profile was
表面形状
obtained when the new copper surface
treatment was applied.
断面形状
表面粗さ Rz
14
日立化成テクニカルレポート No.48(2007-1)
縁樹脂で240h後でも目標値を上回った。なお,初期値はすべ
0.6
新規の銅表面処理50℃
て0.6 kN/m以上であった。
従来の銅表面処理85℃
次に新規の銅表面処理において,3種類の還元剤で処理し
0.4
電位 V
(ag/agCl)
た場合のピール強度を同様に評価した(図5)
。いずれの組
み合わせでも初期値0.6 kN/m以上,加熱処置後でも0.4 kN/m
0.2
以上を得ることができた。
3. 4
0
配線間の絶縁信頼性
絶縁信頼性の試験結果を図6に示す。新規の銅表面処理を
従来の銅表面処理50℃
適用した基板の配線間の絶縁抵抗値は1,000時間後も1.0×109
−0.2
Ω以上である。この値は,従来の銅表面処理と比較してほぼ
−0.4
0
500
1,000
1桁高く,優れた絶縁性を示している。この理由として,配
1,500
線間のスペースが5 µmと狭く,従来の銅表面処理では凹凸が
浸漬時間(s)
1 µm強の場合もあるため,実際の配線間スペースはさらに狭
図2 酸化処理時の銅表面電位 酸化処理時の銅表面の電位変化から,銅
くなるためと推定している。
表面の酸化銅の生成を確認した。新規の銅表面処理は,低温かつ短時間で銅表
面を酸化銅で被覆することができる。
Fig. 2
Copper surface potential during the oxidation processing
The generation of copper oxide on the copper surface was confirmed by the
surface potential change during the oxidization process. The new copper
surface treatment can cover the copper surface with copper oxide under a
lower temperature condition and within a shorter time.
0.0
HCHO
従来の銅表面処理
電位は70秒後に−1.0 V以下に低下することから,酸化銅が金
−0.4
電位 V
(ag/agCl)
属銅に還元されたことがわかる 3)。しかし,SBHの場合では
金属銅に還元されるまで300秒を要し,HCHOの場合は金属銅
に還元できないことがわかる。一方,新規銅表面処理の場合,
最終的な電位は還元剤の種類の影響で若干異なるが,いずれ
も10秒で金属銅に還元できることがわかった。新規の銅表面
HCHO
−0.8
SBH
DMAB
−1.2
処理の場合,銅表面に付与された微量の貴金属が各種還元剤
新規の銅表面処理
−1.6
に対し触媒として作用し,短時間で金属銅に還元できたと考
0
100
200
えられる。
3. 3
SBH
DMAB
400
300
還元時間(s)
絶縁樹脂との接着性
図3 還元処理時の銅表面電位 還元処理時の浸漬時間に対する銅表面の
各種の表面処理と絶縁樹脂の組み合わせで接着性を評価し
電位から,銅表面の酸化銅が銅に還元されることを確認した。新規の銅表面処
た。DMABを還元剤とした場合の150℃で加熱放置した時のピ
理は,いずれの還元剤でも10秒以内に酸化銅を金属銅に還元することができる。
ール強度変化を図4に示す。従来の銅表面処理は,酸化処理
Fig. 3
Copper surface potential during the reduction process
を低温・短時間にすると,いずれの絶縁樹脂でもピール強度
The change of copper oxide into copper on the surface was confirmed by the
が放置時間とともに低下し,240時間後では目標値の0.4
copper surface potential change during the reduction process. The new copper
surface treatment can reduce copper oxide into copper within 10s for every
kN/mを下回った。一方,新規の銅表面処理では,すべての絶
図4 ピール強度に及ぼす150℃放置
の影響(1) 新規の銅表面処理はいず
Fig. 4
Influence of high temperature
(150℃) treatment on peel strength (1)
When the new copper surface treatment
was applied, the peel strength was higher
than the target value (0.4 kN/m) after 240 h
in a 150℃ environment for every regin
ビール強度(kN・m−1)
に目標値(0.4 kN/m)以上の銅箔ピール強
度を得ることができる。
樹脂A
1.2
れの樹脂を用いても,150℃・240 h放置後
reducer tested.
樹脂B
樹脂C
1.0
0.8
0.6
目標値
0.4
0.2
tested.
0.0
0
120
240
360
0
120
240
360
0
120
240
360
放置時間(h)
酸化処理条件
還元処理
50℃・60 s
DMAB
85℃・180 s
DMAB
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従来の銅表面処理
新規の銅表面処理
15
図5 ピール強度に及ぼす150℃放置
の影響(2) 新規銅表面処理は,試験
樹脂A
せにおいても,150℃・240 h放置後に目標
値(0.4 kN/m)以上の銅箔ピール強度を得
ることができる。
Fig. 5
Influence of high temperature
(150℃) treatment on peel strength (1)
When the new copper surface treatment
was applied, the peel strength was higher
ビール強度(kN・m−1)
したいずれの還元処理剤と樹脂の組み合わ
樹脂B
樹脂C
:DMAB
:SBH
:HCHO
1.0
0.8
0.6
目標値
0.4
than the target value (0.4 kN/m) after 240 h
in a 150℃
environment for every
0.2
0
120
240
360
0
combination of reduce and regins tested.
:DMAB
:SBH
絶縁抵抗値(Ω)
360
0
120
240
360
:HCHO
次世代の半導体実装用基板で解決すべき課題となる銅配線
1013
の表面粗さの低減を検討した。貴金属処理を適用した酸化還
1012
元処理によって,配線表面にRz=0.02∼0.04 µmの均一かつ微
新規の銅表面処理
1011
小な凹凸を形成できることを見出した。また,各種の低誘電
率・低損失率絶縁樹脂との接着性を評価し,150℃,240 h放
1010
配線断面の
イメージ
従来の銅表面処理
108
240
〔4〕 結 言
1014
109
120
放置時間(h)
目標値
0
置後でも0.4 kN/m以上のピール強度を有することを確認した。
さ ら に , L/S= 5/5 µmの 配 線 間 の 絶 縁 信 頼 性 試 験 ( 85℃
500
85%RH,5 V,1000 h)でも絶縁抵抗値が1.0×109Ω以上と良
1,000
好であることを確認した。
試験時間(h)
試験条件:L/S=5/5
(μm)
85℃, 85%RH, DC 5 V
(謝辞)
図6 各種銅表面処理を適用した基板の配線間絶縁信頼性試験結果
新規の銅表面処理を用いた基板は従来の銅表面処理を用いたものよりも優れた
絶縁抵抗を示した。
Fig. 6
Insulation reliability test result of PWB applying various types of copper
本研究は,新エネルギー・産業技術総合開発機構 基盤技術
研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)からの委託研究
によって実施されたものである。
surface treatment
PWBs adopting with our newly developed copper surface treatment showed
superior insulation resistance to those adopting the conventional surface
treatment.
参考文献
1)2003年度版日本実装技術ロードマップ,電子情報技術産業協会発
行,
(2003)
2)2004 ECB Technology p. 467(2004)
3)中祖 昭士:多層プリント配線板用内層銅箔処理,表面技術,
No. 2,p. 58,
(1994)
4)江尻 芳則他,新規回路部材に関する基礎知識,化学工学会 第
36回秋季大会講演要旨集(2003)
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