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照明Organic Light Emitting Diode用ガラス基板

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Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 62(2012)
UDC:628.955:666.225
照明Organic Light Emitting Diode用ガラス基板
Glass Substrates for Organic Light Emitting Diode Lighting
中村伸宏*・和田直哉**・福本奈央***
Nobuhiro Nakamura, Naoya Wada and Nao Fukumoto
近年、有機EL(OLED)は、有機材料や素子構造の開発が進み、電力効率や寿命が改善されて
きており、次世代照明の有力な一候補となっている。しかしながら照明への適用にあたって大きな
課題が残されている。その1つは、電力効率であり現行照明に使われている蛍光管よりも低く、一
般照明として普及するには、大きな課題となっている。これを克服するために、様々な技術が開発
されている。例えば、燐光材料は蛍光材料と比較して、内部量子収率を25%から最大100%に向上
させることが可能である。一方で、一般的な構成では、励起発光の80%はOLEDパネル内にトラッ
プされ、これらは、素子或いは基板を伝播しているうちに金属電極或いはその他の構成薄膜により
減衰してしまい、大気中に取り出すことができない。励起発光に対して大気に取り出せる光の割合
を光取り出し効率と呼んでおり、光取り出し効率の向上が、OLED照明を普及させるための大きな
課題となっている。旭硝子では、光取り出し効率を大幅に改善することができる独自の“KIWI
technology”を開発した。本技術はOLEDを一般照明として適用するための切り札として期待さ
れている。
By improvement of the power efficiency and lifetime due to the developments of organic
materials and new device structures, Organic Light Emitting Diode(OLED)becomes one of
the most promising candidates for next generation light sources. However there are still
some critical issues for OLED lighting. The power efficiency is generally lower than that of
fluorescent lamp. Many approaches have been examined. Internal quantum efficiency can be
improved from 25% up to 100% by phosphorescent materials instead of fluorescent materials.
However about 80% of the emitted light is still confined in the OLED panel. Out-coupling
efficiency is defined as the ratio of the extracted light to the air to all of the emitted light,
and lower value of out-coupling efficiency is one of the most critical issues for the spread of
OLED lighting. AGC has developed a unique technology named“KIWI technology”to
dramatically enhance the out-coupling efficiency. This technology is expected to be a market
opener of OLED lighting for general usage.
*中央研究所KIWIユニット リーダー(E-mail: [email protected])
Principal Researcher of Research Center
**中央研究所KIWIユニット(E-mail: [email protected])
Researcher of Research Center
***中央研究所KIWIユニット 主席(E-mail: [email protected])
Senior Researcher of Research Center
−17−
旭硝子研究報告 62(2012)
1. はじめに
白色有機EL照明は、高効率、長寿命、低環境負荷
であり、次世代照明光源として期待されている。更な
る高効率化のためには、発光効率の向上、低電圧化、
光取り出し効率の向上が必須である。有機ELを構成
している有機層や透明電極の屈折率は、1.7から2.0と
高く、発光光が大気に出ずに、素子内部、或いはガラ
ス基板中に閉じ込められてしまい、大気に取り出され
る光は全体のたかだか20%程度である。光取り出し効
率を改善する方法として様々な手法が検討されている
が、それぞれを原理で整理するとTable 1のようにな
る。(1)光取り出し効率を大幅に改善した例として、
ガラス基板そのものに高屈折率のものを利用すること
(2)
(3)
これら
で、高効率有機ELを実現した例がある。
の例では、素子に閉じ込められた光を高屈折率ガラス
基板内に導入し、これを基板表面に設けたテクスチャ
構造や散乱層を用いてその方向を変えることで、光取
り出し効率を改善している。しかしながら、高屈折率
ガラス基板の製造を考慮すると、原料が高価であり製
造コストが上がってしまうことから、安価に供給する
ことは難しいと考えられる。また高屈折率基板に散乱
層やマイクロレンズ形状を付与することもコストアッ
プ要因となる。そこで、散乱層付き高屈折率基板と同
等な構造を安価に製造できれば、光取り出し効率を大
幅に改善し、高効率有機EL照明の普及に大きく貢献
できることになる。旭硝子では、独自技術である
“KIWI Technology”を用いて、散乱層付き高屈折
率基板と同等構造を有する基板を作製して、光取り出
(4)
(5)
(6)
本報告
し効率を改善することに成功している。
では、このKIWI Technologyによる光取り出し基板
について紹介する。
Table 1 Technologies for Improvement of Out-coupling
ガラス基板として安価に入手可能なソーダライム基
板を用い、その上に高屈折率ガラスで構成される散乱
層を形成する。この基板上にボトムエミッションタイ
プの有機EL素子を形成し、動作させた場合の光伝搬
挙動は以下のとおりになる。まず有機EL発光層から
出射した光は、通常のガラス基板上素子の場合では、
そのおよそ半分が素子とガラス基板界面で全部反射さ
れ、ガラス基板中に入らない。一方Fig.1の構成では、
散乱層を構成するガラス材料の屈折率が、有機EL構
成膜の屈折率よりも高い為に、全反射せずに発光光を
散乱層に導入することができる。次に散乱層に入った
光は、散乱物質により散乱され、その方向を変える。
散乱は、散乱断面積、平均自由行程、散乱角で特徴づ
けられるが、これらは、散乱物質の大きさ、屈折率、
密度で制御することができる。ここで散乱された光の
うち、大気に出射できる光以外は、散乱層/ガラス基
板界面或いはガラス基板/大気界面で反射して再び素
子方向に戻されるが、素子の金属電極での反射によっ
て、再度散乱層に導入され、その角度を変えることが
できる。このように大気に出射できずに素子に戻った
光も逃さずに大気に出射させることが可能となるた
め、高い光取り出し効率が可能となる。
2.2 高屈折率散乱層
上述のコンセプトを具現化するための要件を、Ray
trace simulationを行い検証した。モデルを単純化す
るために、ガラス基板の屈折率を1.55、有機層、透明
電極の屈折率は1.90、金属電極の反射率は80%とし
た。散乱層については、厚さを15μm、散乱物質は気
泡(屈折率1.0)を想定し、その直径は1.0μmとした。
なお発光層からの放射光は指向性がないものとし、干
渉の影響は無視した。発光光のうち、ガラス基板前面
から取り出された光の割合を光取り出し効率(OCE:
Out-Coupling Efficiency)と呼ぶことにする。Fig.2
に散乱層マトリクス部の屈折率を変えた時の、光取り
出し効率の変化を示す。
2. 光取り出し基板の原理と構成
2.1 原理
光取り出し基板の構成及び原理をFig.1に示す。
Fig.2 Refractive index dependency of OCE.
散乱層マトリクス部の屈折率が、有機膜、透明導電
膜の屈折率より低くなると、光取り出し効率が急激に
低下することが分かる。一方散乱層マトリクス部の屈
折率が、有機膜、透明導電膜の屈折率より高い場合に
Fig.1 Principle of KIWI Technology.
−18−
Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 62(2012)
示している。散乱層が形成された基板を作製するた
め、開発したガラスを粉末にして、ソーダライム基板
上で焼結させた。焼結したガラス内部には閉じ込めら
れた気泡が存在しており、散乱物質の働きを示す。気
泡は屈折率が1.0であるため、母ガラスとの屈折率差
が大きく散乱断面積が大きい。したがって効率良く光
を散乱する。気泡の平均粒径は0.7μmであり、数密
度は1.3×107(mm-3)であった。散乱層の膜厚は15μ
mと厚く、外観は曇りガラスに似ている。外観写真を
Fig.5に示す。焼結したガラス表面は原理的に非常に
平滑であり、平均算術粗さ(Ra)で0.18nmであった。
AFMによる表面観察例をFig.6に示す。以上から屈折
率が有機EL構成膜より高く、散乱粒子を内在させか
つ表面が平滑な散乱層を、高屈折率のガラスを一般的
なガラス基板上で焼成することによって作製すること
が可能である。これら3つの特徴、
(1)高屈折率、
(2)
厚膜形成、
(3)表面平滑性は、どれもガラス材料、プ
ロセス固有の利点を活かしたものである。また照明用
有機EL作製プロセスでは、通常は、透明電極にITO
を用いており、そのパターニングにはエッチングを適
用しているのが現状である。照明パネル全体を均一に
発光させる為に、ITO電極は低抵抗であることが必要
であり、そのため、高温で成膜することが求められ
る。一方でITOエッチングでは塩化第二鉄と塩酸の混
合溶液や、硝酸と塩酸の混酸が用いられる。このよう
に照明用有機EL基板には、耐熱性や耐薬品性が求め
られるが、今回開発した高屈折率散乱層は、いずれの
条件も満足しており、従来の製造プロセスを用いて有
機ELを作製することが可能である。
は、屈折率が高くなるにつれて、光取り出し効率はわ
ずかに低下するものの、大きな変化は見られない。こ
のことから、散乱層マトリックス部の屈折率は、有機
膜、透明電極と同じ或いは大きいことが望ましいこと
が分かる。Fig.3に、散乱粒子の大きさ及び密度を変
えた時の光取り出し効率の変化を示す。
Fig.3 Size and density of the scattering center dependency
of OCE.
いずれの散乱粒子径でも最適密度が存在する。これ
は、散乱粒子が少ないと、発光光の角度が変化せず
に、素子内部或いは基板内部を伝搬、吸収されてしま
うため取り出し効率が上がらず、逆に多すぎる場合に
は、散乱が強すぎて、後方散乱により金属電極に吸収
されてしまうためと考えられる。これらの結果から高
屈折率ガラス中に適切な密度で散乱粒子を分散するこ
とができれば、光取り出しを改善できることが分か
る。最適な構成を具現化するに当たっては、散乱層用
ガラス材料及び散乱層形成プロセスが重要となる。
2.3 散乱層用ガラス材料及びプロセス
我々は、上記要件を満たすための独自の散乱層用ガ
ラス材料を開発した。ガラス組成はLi2O-B2O3-Bi2O3P2 O5を主成分とし、これに屈折率を上げるための成
分を添加したものである。屈折率はnd(578.6nm)
で2.01、分散はアッベ数νd=で19.0である。この散乱
層用ガラス材料の屈折率と有機ELの代表的な構成膜
の屈折率をFig.4に示す。
Fig.5 Appearance of the substrate with the scattering
layer.
Fig.4 Refractive index of OLED elements.
このように可視光全域にわたって散乱層用ガラス材
料が他の材料よりも屈折率が高く、全反射により素子
内に閉じ込められる光がないように設計できることを
Fig.6 Surface image of the scattering layer.
−19−
旭硝子研究報告 62(2012)
3. 光取り出し基板の効果
3.1 光取り出し効率
前章で述べた散乱層付きガラス基板上に有機EL素
子を作成して光取り出し効率を評価した。ここで作製
した素子はITO(150nm)
/α-NPD(100nm)
/Alq 3
(60nm)
/LiF(0.5nm)
/Al(80nm)である。ここで、
α-NPDは、N,N-di
(1-naphthyl1)
-N,N-diphenylbenzidine
でありAlq3は、tris(8-hydroxyquinolinato)
aluminum
(III)である。なお、光取り出し効率の評価において、
リファレンス素子は構成によって干渉条件が異なり、
その結果正確な比較ができなくなるため注意が必要で
ある。上述の構成は、干渉条件が最適化されたもので
ある。同一素子を散乱層付きガラス基板上にも作製し
た。発光素子の面積は2mm2であり、散乱層は発光
素子を中心に10mmφの円形状に作製した。リファレ
ンス及び散乱層上素子に1mA印加した際の発光の様
子を、それぞれFig.7、Fig.8に示す。
Fig.9 Light emission spectra of the OLEDs on glass
substrates(Reference and Development sample)
.
発光のスペクトルは、リファレンス、光取り出し基
板いずれを用いた場合でも530nm付近にピークを有
しており、発光色に大きな差がないことが分かる。つ
いで輝度計を用いて、輝度の角度依存性を測定した。
その結果をFig.10に示す。
Fig.10 Angle dependency of luminance
Fig.7 EL pattern on the conventional glass substrate.
このように測定された全角度において、散乱層付基
板を用いた方が、高い輝度が得られる。この値を積分
することにより全光束が得られ、リファレンスに対し
て光取り出し効率が1.8倍改善したことが分かった。
また、我々は、さらなる錯乱物質の最適化を進めてお
り、焼成中に母ガラスから析出させたBiPO4結晶を散
乱物質とすることにより、光取り出し効率を上述の緑
(6)
最近の
色素子で2.0倍まで高めることに成功した。
開発では、散乱粒子として、最適な屈折率、粒径の無
機粒子を用い、白色素子を用いて2.1倍を達成してい
(7)
Fig.11に外部量子収率(EQE)のホール輸送層
る。
(HTL)厚さ依存性を示す。
Fig.8 EL pattern on the scattering layer
リファレンス素子では、素子発光部からのみ光が出
射しているが、散乱層付きガラス基板では発光部で輝
度が増加している上に素子周辺の散乱層からも光が取
り出されている様子が分かる。その時の発光スペクト
ルをFig.9に示す。
Fig.11 HTL thickness dependency of EQE
−20−
Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 62(2012)
3.2 その他の効果
開発した光取り出し基板には、光取り出し効率の向
上の他にも、いくつかのメリットがある。第1は、外
観である。光取り出しフィルムを最表面に形成する場
合では、最表面に形状を有しており、光沢のある外観
は得られない。一方本光取り出し基板では、散乱層が
ガラス基板内部に形成されるため、照明パネルの表面
は通常のガラス表面である。そのため、照明パネル表
面は光沢を有しており、ガラスの持つ光沢感を損なわ
ない。第2には信頼性が高いことがある。散乱層はガ
ラス成分で形成されておりかつパネルの封止エリア内
部に選択的に形成可能なため、高い信頼性を有する。
次世代照明光源として高寿命は必要条件であるためこ
のインパクトは大きいと言える。第3のメリットは、
色味の角度依存性が小さいことである。上述の素子の
色度の角度依存性をFig.12に示す。このようにリファ
レンスに比べて、色味の角度依存性を抑制することが
できる。照明光源において色調が見る角度によって異
なるのは望ましくなく、これを抑制できることが望ま
しい。
Fig.13 Normalized spectra of reference OLEDs
Fig.14 Normalized spectra of the OLEDs on the scattering
layer.
ここでは各25サンプルの出射スペクトルを規格化
して重ね書きしている。リファレンスではスペクトル
が素子膜厚のばらつきに対応してばらついているが、
今回開発した散乱層付きガラス基板では、スペクトル
のばらつきは極めて小さい。これは、リファレンスで
はITOとガラス基板の屈折率差が大きく、両者の界面
での反射光が干渉の原因となっているのに対して、散
乱層付きガラス基板では、透明電極であるITOの直下
に屈折率が近い散乱層を設けているため、この界面で
の反射が抑制されるためである。さらに散乱層は15
μmと厚く、かつ散乱性を有しているため、干渉を引
き起こさない。これにより、透明電極などの膜厚がば
らついたとしても、スペクトルは影響を受けず安定し
た発光スペクトルを得ることができる。この効果によ
り色味の安定した有機ELパネルが供給可能となるだ
けではなく、製造マージンを大きくすることができ、
歩留まり改善によるコストメリットにも貢献すること
ができると考えられる。
Fig.12 Angle dependency of color
第4は、色味のパネル間ばらつきを抑制できること
である。有機ELは、屈折率の異なる薄膜を積層して
形成するため、出射光のスペクトルは色素からの発光
光の本来のものとは異なり、多層薄膜による干渉が影
響している。そのため、薄膜の膜厚がばらついた場合
には、出射光のスペクトルが変化し、色味が変わって
しまう。人間の視覚は白色の色味に敏感であり、その
ような色味のパネル毎のばらつきは、容易に視認され
望ましくない。リファレンス及び散乱層上素子におけ
るパネル間のスペクトルばらつきをFig.13、Fig.14に
示す。
4. まとめ
高屈折率ガラスで形成された散乱層付きガラス基板
を用いることによって、有機EL素子で課題となって
いる導波光を大気中に取り出し、光取り出し効率を改
善した。また、散乱を用いて色味の角度依存性を抑制
し、更に素子内部の干渉を抑制することから、色味の
パネル間ばらつきを抑制できることを確認した。我々
は、これらの効果から、本技術をKIWI Technology
(Killer technology for Waveguide and Interference
of OLED lights)と命名した。我々はガラス素材のユ
ニークさを活かしたKIWI Technologyをさらに進化
させて有機EL照明産業に貢献したいと考えている。
−21−
旭硝子研究報告 62(2012)
̶
参考文献 ̶
⑴ 三上明義ほか, 有機EL技術開発の最前線, p.222(2008)
⑵ Reineke et al., Nature vol 459, p.234-238(2009)
⑶ A. Mikami, Proceedings IDW09, p.447-450(2009)
⑷ N. Nakamura et al., SID09 Digest, p.603(2009)
⑸ 和田直哉ほか, 第50回ガラス及びフォトニクス材料討論会講演要
旨集, p.43(2009)
⑹ 福本奈央ほか, 第51回ガラス及びフォトニクス材料討論会講演要
旨集, p.38(2010)
⑺ N. Wada et al., SID2012 Digest, p.922(2012)
−22−
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