A1 ラトケ嚢胞術後9年で、汎下垂体機能低下にて発症した下垂体膿瘍の

A1 ラトケ嚢胞術後9年で、汎下垂体機能低下にて発症した下垂体膿瘍の一例
桑名 亮輔1、和田 晃1、阿部 琢巳1、泉山 仁1、国井 紀彦1、飯田 昌孝1
昭和大学
症例は46歳男性。34歳時、両耳側半盲出現。37歳時、他院にて下垂体部の嚢胞性
病変に対して経蝶形骨的手術を施行されラトケ嚢胞と診断された。術後髄液漏に対
し修復術を施行。その3ヵ月後に視野障害が再度出現。MRI上、残存ラトケ嚢胞の再
増大を認め、開頭法にて嚢胞開放術、ommaya tube留置術を施行された。病理診断
はやはりラトケ嚢胞。その後経過良好であったが、44歳時、MRI上、再発を認めたが
無症状のため経過観察していた。46歳時の2004年2月、発熱、全身倦怠巻、食欲不
振、尿崩症が出現し他院に入院。神経学的には不完全な両耳側半盲を認め、内分泌
学的には汎下垂体機能低下症がみられた。MRI上、蝶形骨洞からトルコ鞍、鞍上部、
前頭蓋底にかけて不均一に造影される腫瘤性病変を認めた。保存的加療にて症状
は軽快したが、下垂体膿瘍疑いにて当科紹介となった。2004年8月、経鼻的膿瘍摘
出術およびommaya tube抜去術を施行。術中所見では、蝶形骨洞から鞍上部にか
けて、黄白色の膿が充満していた。Suction-irrigation systemを用いて膿瘍を可及的
に摘出した。Ommaya tube先端は膿瘍内には存在していなかった。蝶形骨洞内とト
ルコ鞍内の膿から大腸菌が検出された。以上より下垂体膿瘍と診断した。術後視野
障害は著明に改善し、経過良好であり独歩退院した。下垂体機能は改善せず、補充
療法を続けている。本症例では、蝶形骨洞および鞍内から同一の菌である大腸菌が
検出されたことより、副鼻腔炎がトルコ鞍内へ直接波及したものと推測された。ラトケ
嚢胞術後数年経過して下垂体膿瘍が発症し汎下垂体機能低下を来たした非常に稀
な症例であり、若干の文献的考察を加え報告する。複数回の経蝶形骨洞的手術後に
は下垂体膿瘍も念頭に置き経過観察する必要がある。
A2 自然消退した非機能性下垂体腺腫の1例
橋本 亮1、伊澤 仁之1、大野 晋吾1、西岡 宏1、中島 智1、池田 幸穂1、原岡 襄2
東京医科大学八王子医療センター1)、東京医科大学 脳神経外科2)
【症例】80歳、男性。【発症および経過】急性心筋梗塞の診断にて当院循環器内科に
て経皮的冠動脈形成術を施行し入院中に、軽度の頭痛および、発症時期不明の両
耳側の視野障害の訴えがあった。精査したところMRIにて鞍上進展を伴い、一部腫
瘍内出血を伴った非機能性下垂体腺腫と診断された。両耳側半盲と軽度下垂体機
能低下を認め補充療法を開始し、TSSを検討していた。経過中に原因不明の低ナトリ
ウム血症をきたしていたがナトリウムの経口摂取にて改善していた。診断から3ヶ月
後にMRIを施行したが、腫瘍の自然消退を認めており、視野傷害の改善を認めた。【
考察】急激な頭痛や視野傷害などの下垂体卒中症状に乏しかったものの、腫瘍の出
血、壊死により自然消退した非機能性下垂体腺腫の稀な1例と考えられた。
A3 経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術操作による骨折が原因となった髄液漏の一例
内田 一好1、千葉 俊明1、森嶋 啓之1、松澤 源志1、橋本 卓雄1
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科
Transsphenoidal approachによる下垂体腫瘍摘出の際、手術操作により頭蓋底部
に骨折を生じ術後髄液漏が発生した一例を経験した。症例を再検討し、原因、および
手術の注意点などを報告する。症例は、28歳男性。頭痛、および体重減少が見られ
たため当院受診した。血液検査では、成長ホルモン(GH)16.1ng/ml,IGF-1 886μ
g/mlと高値を示し、頭部MRIでは、トルコ鞍内に腫瘤を認め,GH産生下垂体腫瘍の診
断にて,経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術を施行した.術中,および術直後に髄液の流
出はみられなかったが,術後3日目立位時に髄液鼻漏が発生した.安静および腰椎ド
レナージを行うも改善せず,初回手術より約2週間後,再度経蝶形骨洞的に髄液漏
閉鎖術を施行した.術中所見ではトルコ鞍底開放部周囲の骨に亀裂が生じており,こ
こからの髄液の流出を確認した.トルコ鞍底開放の際に,骨ノミによる介達力がトルコ
鞍周囲に加わり小さな骨折が生じたために発生したと考えられた.蝶形骨洞およびト
ルコ鞍底の骨が菲薄している場合にはより慎重な手術操作が必要である.
A4 無茎性視床下部過誤腫の一手術例
長崎 弘和1、前原 健寿1、長谷川 毅2、青柳 傑1、大野 喜久郎1
東京医科歯科大学 脳神経外科1)、草加市立病院 小児科2)
<はじめに>視床下部過誤腫(hypothalamic hamartoma)は、真性思春期早発症や
、笑い発作などの様々なてんかん発作を特徴とする比較的稀な疾患である。近年、
視床下部過誤腫を有する難治てんかん患者に対する過誤腫そのもののへの外科的
治療の有効性が認識されつつある( Epilepsia:2003)。今回、WEST症候群にて発症
し、笑い発作や脱力発作を合併してLennox Gastaut 症候群に移行し、痙攣重責を
繰り返した、無茎性視床下部過誤腫の一例を経験したので、画像所見、脳波所見、
術式について考察を加え報告したい。<症例>9歳男児。生後3ヶ月より、左右対称
性に四肢の屈曲硬直、眼球上転をきたす数秒間の発作を連日7∼8回繰り返しwest
症候群と診断された。生後8ヶ月にて自然消失したが、同時期より数秒間持続する左
口角をつり上げる笑い発作が連日数回から数十回出現し、抗てんかん薬に抵抗性で
あった。言語中心の精神遅滞を認めた。3歳以後、全般強直発作ならびに脱力発作
など複数の発作型をきたし、けいれん重積を繰り返した。脳波では、前頭部中心に左
右同期した棘徐波複合と右後頭部に棘波の焦点ならびに右半球優位に広範性多棘
波の周期的出現を認めた。頭部MRIでは、第3脳室内に無茎性の視床下部過誤腫を
認め、middleおよびposterior hypothalamusへの結合が認められた。全摘出は困難
と考え、術中ナビゲーション下に前頭開頭、経終板、経第3脳室にて腫瘍部分摘出術
および脳梁部分離断術を施行した。術後1年たった現在、笑い発作を一度認めた以
外は発作消失し、QOLの大幅な改善を認めている。<考察>視床下部過誤腫では
症例毎に過誤腫の解剖学的位置関係を充分に熟知した上で、臨床症状、発作型を
考え、術式および治療のstrategyを考える必要があると考えられた。
A5 重粒子線治療後に肉腫様変化を来し,急速な増大を示した斜台部再発脊索腫
の一例
甲賀 智之1、原 貴行1、飯島 明1、川原 信隆1、桐野 高明1
東京大学医学部附属病院脳神経外科
我々は,術後重粒子線照射の6年後に肉腫様変化を伴って再発し,急速に増大した
斜台部再発脊索腫の一例を経験したので報告する.症例は53歳女性,1997年46歳
時に頭痛,構語障害で発症の斜台腫瘍に対し,1998年6月,当科にてtransoral
approachによる部分摘出を施行し,脊索腫と診断された.術後5260rd/16fxの重粒
子線照射を施行し,以降は外来にて経過観察されたが,画像上2004年まで明らかな
再発を示唆する所見を認めなかった.2004年6月,発声困難と嚥下障害の増悪,左
腰部痛を主訴に当科入院となり,斜台部腫瘍の再発増大と第12胸椎に新たな腫瘤
病変を認めた.斜台部脊索腫が胸椎転移を伴って再発したものと考え,はじめに
2004年7月胸椎病変の全摘出を行い,こちらは脊索腫との病理診断であった.斜台
部病変は前方は咽頭に露出し,後方は延髄を圧迫するように再発しており,MRI上7
月 か ら 8 月 に か け て の 1 ヶ 月 で 顕 著 な 増 大 傾 向 を 示 し た た め , 2004 年 8 月 ,
mandibular swing methodによる亜全摘術を施行した.斜台部再発病変については
,病理組織診断にて肉腫様変化が指摘された.8月下旬より左上下肢の全感覚低下
が出現し,MRIにて増大した残存腫瘍による延髄から上位頸髄への圧迫が確認され
た.その後も腫瘍の増大は著明で,四肢麻痺,呼吸障害および意識障害が進行し,
10月17日に死亡した.脊索腫はnotochordに由来する組織学的には悪性所見に乏し
い腫瘍であるが,全摘出の困難さから臨床的悪性度は高いと考えられ,術後高LET
照射の必要性および有効性が報告されている.しかしながら照射による悪性転化の
報告もあり,本症例も重粒子線治療による悪性転化を伴って急速に再発増大した可
能性が示唆された.照射後の脊索種に対しては,悪性転化を伴った再発に留意して
経過観察する必要があると考えられる.
A6 緩徐な増大を示した転移性脳腫瘍による腫瘍内出血の1例
青木 美憲1、周郷 延雄1、横田 京介1、近藤 康介1、原田 直幸1、根本 正章1、狩
野 利之1、大塚 隆嗣1、本多 満1、清木 義勝1
東邦大学 医学部 付属 大森病院 脳神経外科
脳出血の原因に頻度は少ないが脳腫瘍があり、半数は転移性脳腫瘍である。多くは
脳卒中様発作で発症し急性経過だが、今回我々は緩徐な経過をとった転移性脳腫
瘍による腫瘍内出血の1例を経験したので報告する。症例は50歳男性。2004年6月
胸痛・血痰、右口角より流涎あるも放置。8/18健康診断にて胸部レントゲン上右肺異
常影指摘され、当院呼吸器内科入院。8/19より構語障害出現、頭部CTにて多発性
脳腫瘍と診断、左前頭葉から側頭葉に軽度High density mass lesion認め腫瘍内出
血と診断。8/27より40Gy/20回の全脳照射開始したが、8/30より右上肢痺れ感出現。
9/2運動性失語出現。9/5意識レベルJCS10に低下。頭部MRI上左前頭葉腫瘍内血
腫増大認め、9/7当科紹介、緊急腫瘍摘出術行った。術中所見;脳表は黄色調を呈し
ていた。脳表に腫瘍認めず超音波装置にて腫瘍局在確認し穿刺行い陳旧性血腫約
80ml吸引除去した。その後皮質切開加え腫瘍壁を剥離摘出した。病理;新旧各
stageの血腫と、異常血管の増生を認めた。考察;慢性頭蓋内血腫は比較的稀な病
態とされ我々の渉猟しえた限りでは本症例を含め27例の報告がある。本症例では腫
瘍が嚢胞性病変であり、腫瘍壁が被膜様に作用したため出血が吸収されずに緩徐に
増大したと考えた。慢性頭蓋内血腫の予後は手術にて一般に予後良好だが、腫瘍内
出血では、急速に増悪する症例が報告されており、慎重な経過観察を行う必要があ
る。
A7 悪性神経膠腫に対するACNU投与後に間質性肺炎をきたした3例
田部井 勇助1、成田 善孝1、宮北 康二1、野村 和弘1、渋井 壮一郎1
国立がんセンター中央病院 脳神経外科
【目的】ニトロソウレア(ACNU)による間質性肺炎はよく知られているが、発症早期に
は呼吸器症状を伴わないことも多く、化学療法を継続するうえで注意が必要である。
我々は過去5年間に悪性神経膠腫に対しACNU投与後、重篤な間質性肺炎を併発し
た3例を経験したので症例検討を行い、早期診断、治療法について報告する。【症例】
症例1:68歳女性、脳幹グリオーマに対し局所放射線治療の開始日(day1)および
day40にACNU110mgを静注。2回目の投与4週後より全身倦怠、胸部不快が出現、
間質性肺炎を認めた。抗生剤、抗真菌薬、ステロイドパルス療法、人工呼吸器管理
を行うも呼吸不全で死亡。剖検にてカリニ肺炎と判明した。症例2:64歳女性、退形成
神経膠腫に対し生検後、局所放射線治療を開始。day1にACNU120mgを静注。
day28頃より発熱、CRP、LDH上昇、間質性肺炎を認めた。ステロイドパルス療法に
て軽快した。症例3:66歳男性、膠芽腫に対し生検後、局所放射線治療を施行。day1
、day36にACNU135mgを静注。2回目のACNU投与5週後に、意識障害、痙攣発作
にて救急搬送。低酸素血症、胸部レントゲンにて間質性肺炎、胸水貯留を認めた。ス
テロイドパルス療法、抗生剤にて呼吸全身状態は改善したが、肺炎像、LDH高値は
遷延した【結果】当科では過去5年間にACNUによる放射線化学療法を施行した神経
膠腫88例中3例(3.3%)に間質性肺炎を認めた。【結論】間質性肺炎は、稀なが
らACNUによる重篤な副作用として注意を要する。早期発見にはLDHの上昇が重要
であり、またカリニ肺炎などとの原因の鑑別を要し、症例によってはステロイドパルス
療法を開始することが有効であることが示唆された。
A8 術後早期に石灰化をきたしたglioblastomaの1例
石渡 雅男1、宮坂 佳男1、高木 宏1、福島 浩2
大和市立病院 脳神経外科1)、北里大学 医学部 脳神経外科2)
【目的】Glioblastomaは一般的に、放射線治療を含めて治療抵抗性の極めて予後の
悪い頭蓋内新生物である。今回我々は開頭生検術後、glioblastomaと診断し、放射
線治療後に腫瘍が石灰化した症例を経験したため報告する。【症例】63歳女性。主訴
は左半身の脱力。平成15年11月頃より左足のスリッパが脱げるようになった。12月
になり左上下肢の脱力感が進行した。平成16年1月には左半身の知覚障害が出現し
、1月10日当院紹介受診。頭部CTにて右大脳半球(放線冠∼半卵円中心)にリング
状の腫瘍性病変を認め入院となった。造影CT及びMRIでは腫瘍の周囲に浮腫を伴
うring enhance massを呈していた。全身検索にて頭蓋外悪性腫瘍の存在は否定さ
れた為、glioblastomaを疑い1月22日に手術を行った。Trans cortical approachにて
腫瘍を生検し、術中迅速病理にてglioblastoma。永久標本においてもグリア系の腫
瘍で壊死を伴い、血管内皮の増生等が認められることからglioblastomaと診断した。
補充療法として放射線治療を全脳60Gy照射した(2月15日∼3月22日)。リハビリも
行い、左不全麻痺は改善した。3月24日左半盲と左半身の知覚障害を後遺して独歩
退院となった。以後外来通院となったが、神経症状に悪化は見られず経過した。7月
21日の頭部単純CTにて腫瘍は縮小し、著明な石灰化を呈した。【考察】悪性グリオ
ーマにおいて、手術及び放射線療法の後、6ヶ月以内の早期に腫瘍が縮小・石灰化
をきたすことは極めて稀であると考える。若干の文献的考察を加えて報告する。
A9 側頭葉内側腫瘍による難治性てんかんに対し外科治療を施行した2症例
小泉 唯子1、栗田 英治1、田中 裕一1、渡辺 英寿1
自治医科大学 脳神経外科
側頭葉内側部の脳腫瘍による難治性側頭葉てんかんに対し,腫瘍摘出および扁桃
体海馬摘出を同時に行い,術後にてんかん発作が消失し良好な結果を得た2症例に
ついて報告する. 症例1は44歳女性.13歳時より既視感を認め,徐々に数分間の動
きが止まるような複雑部分発作が生じるようになり,抗痙攣薬で加療を開始した.19
歳時のMRIで右側頭葉内側部に嚢胞を伴う脳腫瘍を認めたが,その後増大なく手術
適応外として経過観察されていた.しかし複雑部分発作が頻発し、難治化したため
2004年5月,てんかん抑制目的に手術を施行し,脳腫瘍部分摘出と扁桃体,海馬頭
部,海馬傍回を摘出した.病理はganglioglioma,grade2であった.術後からてんかん
発作は完全に消失した. 症例2は26歳男性.16歳時より数分間の意識消失発作,
気分不快が出現した.21歳時に, MRIで右側頭葉内側部から側脳室内に伸展する
脳腫瘍を指摘され,脳腫瘍による側頭葉てんかんと診断され,抗痙攣薬で加療を開
始した.MRIでは腫瘍の変化は認めなかったが,次第に発作の頻度が増加し,2004
年8月,てんかんのコントロールを目的として,症例1と同様の手術を施行した.腫瘍
の病理はfibrillaryastrocytoma,grade2であった.術後からてんかん発作は完全に消
失した. 側頭葉内側部の脳腫瘍は,それ自体がてんかんの焦点になるのみでなく,
長期間のてんかん発作の持続により海馬硬化が生じるという報告がある.側頭葉内
側部の脳腫瘍に伴う難治性側頭葉てんかんでは,今回のように,腫瘍の摘出は適応
でない場合でも、てんかん抑制を目的に扁桃体海馬摘出を行うことが重要であると
考えられる。腫瘍が残存した症例であっても扁桃海馬摘出術によっててんかんは良
好にコントロールされた。
A10 脳腫瘍生検術における術中蛍光診断の有用性
山口 文雄1、高橋 弘2、寺本 明1
日本医科大学 脳神経外科1)、日本医科大学付属第2病院 脳神経外科2)
【目的】脳腫瘍生検術は定位的に行う場合得られる検体の量が少なく、また術中迅速
病理診断では必ずしも得られた検体を腫瘍組織として診断されないことがある。我々
は定位的脳腫瘍生検術において蛍光診断を行うことで確実かつ有効な組織を採取し
ているので報告する。【方法】対象症例は6例の脳腫瘍患者で、グリオーマ4例、悪性
リンパ腫2例である。術前5-aminolevulinic acid 20mg/kgを50mlブドウ糖液に溶解し
たものを経口投与。生検術はニューロナビゲーターを用いたframeless stereotactic
biopsyとした。target pointを任意に設定し、needle biopsyを行い、得られた検体に
405nmの青紫光を照射し、赤色の励起光が見られるかを観察した。【結果】対象症例
すべてで赤色の発行を確認できた。迅速診断でリンパ球浸潤としか診断されなかっ
た症例では、術後の永久標本による診断では悪性リンパ腫と診断された。【総括】標
的とする腫瘍が小さい場合、腫瘍組織が得られているかの確認をする上で蛍光診断
はゆうようである。また、術中迅速病理診断では得られた標本が腫瘍ではないとの回
答があることがあるが、赤色蛍光を確認することで確実な生検術ができていることが
判る。本方法は短時間に迅速かつ確実な脳腫瘍生検術をおこなう上で非常に有用で
あるといえる。
A11 小児眼窩内alveolar soft part sarcomaの1治験例
栗原 淳1、西本 博1、松崎 粛統1
埼玉県立小児医療センター 脳神経外科
【はじめに】Alveolar soft part sarcomaは若年者に好発する稀な軟部腫瘍であり、小
児では頭頚部、特に眼窩および舌に好発する。一般に長期予後は不良であるが、小
児眼窩内発症例では全摘出により予後が良好であると報告されている。今回我々は
小児眼窩内に発生したalveolar soft part sarcomaの1例を経験したので報告する。【
症例】7歳男児.眼球突出を主訴に当院を受診となる。初診時、左眼球突出を認めた
が、視力・視野障害、眼球運動障害は認めなかった。MRIにてT1、T2強調画像ともに
等信号、造影増強効果を呈する腫瘤性病変を左眼窩内に認めた。血管腫、横紋筋肉
腫、肉芽腫性病変を鑑別診断に腫瘍摘出術を施行した。腫瘍は眼窩外側到達法に
て摘出し、術後眼球突出は改善、また神経脱落症状の出現はみられなかった。病理
組織学には腫瘍細胞質内にPAS陽性ジアスターゼ抵抗性のクリスタリン構造を認め
ることからalveolar soft part sarcomaと診断された。術後、補助療法を行わずに経過
観察を行い、現在6ヶ月を経過するが再発は認めていない。【結語】小児の眼窩内に
発生したalveolar soft part sarcomaは予後良好な疾患であるとされるが、長期経過
観察中の転移症例の報告も散見され、今後注意深い経過観察が必要であると考えら
れる。
A12 Oligodendrogliomaを合併したmultiple sclerosisの一例
土橋 久士1、郭 樟吾1、大塚 俊宏1、田中 俊英1、沢内 聡1、沼本ロバート 知彦1、
村上 成之1、田中 実2
東京慈恵会医科大学附属柏病院1)、東京大学医学部2)
症例は42歳女性。頭痛、嘔吐、左同名半盲、着衣失行を主訴に当科受診。頭部MRI
にて右頭頂葉から脳梁膨大部にかけてT1強調像で等信号、T2強調像で高信号を呈
する径5 cmの腫瘍病変を認め、ガドリニウムでは造影されなかった。脳血管撮影で
は明らかな異常は認められなかった。診断とmass effectの軽減を目的に開頭腫瘍摘
出術を施行した。術後、同名半盲は残存したが頭痛、着衣失行は改善した。摘出標
本の病理組織学的所見は、大部分がマクロファージの浸潤を伴う脱髄性病変であっ
たが、一部にperinuclear haloを有する腫瘍細胞の集簇が認められた。遺伝子解析
に よ り 1p, 19q の LOH が 確 認 さ れ 、 oligodendroglioma (OG) に 合 併 し た
multiple sclerosis (MS) と 診 断 し 、 ス テ ロ イ ド の パ ル ス 療 法 と procarbazine,
MCNU, vincristine の 3 者 併 用 の 化 学 療 法 を 行 っ た 。 MS の 病 期 に よ り
oligodendrocyteの浸潤は認められるが、本症例の如くMSにOGが合併することは極
めて稀であり、その治療法は確立されておらず、病理組織所見や画像所見を参考に
病態を考慮した後療法が必要であると考えられた。
A13 上衣下巨細胞性星細胞腫の弧発例
福谷 竜太1、 杉浦 和朗1、立澤 孝幸1、門山 茂1
東京労災病院 脳神経外科
25 歳女性、頭痛、霧視を主訴に外来受診、CT上右側脳室前角を首座とする脳室内
腫瘍を認め紹介入院。CT、MRI上内部に著明な石灰化を伴う。その他の脳実質には
、異常所見はなかった。顔面皮膚、その他全身に異常所見はみとめられない。開頭
摘出術を施行し病理学的にsubependymal giant cell astrocytomaの報告を得た。結
節性硬化症に伴わない弧発例であり稀な症例であるため、報告いたします。
A14 intra- and suprasellar sarcomaの1例
新田
勇介1、伊地 俊介1、森川 健太郎1、久保田 真由美1、溝上 泰一朗1、森本
正1、鈴木 一郎1、黒岩 俊彦2、武村 民子2、三島 一彦3
日本赤十字社医療センター 脳神経外科1)、日本赤十字社医療センター 病理部2)、
埼玉医科大学 脳神経外科3)
【症例】32才、女性【臨床経過】平成16年2月頃より、複視、嘔気、多飲多尿を認め、4
月上旬より視野狭窄に気づいた。4月22日、某総合病院神経内科を受診し、頭部CT
、MRIで第三脳室内にmassを認めたため当科紹介転送、入院となった。入院時、頭
部MRI上、トルコ鞍∼鞍上部∼視床下部∼第三脳室内を占拠する腫瘍を認め、水頭
症も併発していた。腫瘍による汎下垂体機能不全を考え、ホルモン補充療法を開始
したところ、前葉ホルモンの改善により、重症仮面尿崩症が顕在化した。5月5日、尿
崩症、水頭症、意識障害が急速に進行したため、5月7日に水頭症の改善とbiopsyを
兼ねて、緊急手術を施行した。右前頭側頭開頭により腫瘍生検及び
Ommaya reservoir留置を行った。病理診断は、astrocytoma grade 3であった。6月
7日、腫瘍の可及的摘出目的で、2回目の手術を施行した。大脳半球間裂経終板法
で視神経、視床下部に癒着の強い部分を 一部残して亜全摘した。病理診断は
sarcomaであった。術後詳細は全身検索を行ったが他に病変なし。細分類が不確定
であったが、頭蓋内原発のsarcomaとして残存腫瘍に対する放射線治療を開始した
。当初は局所照射60Gyを予定していたが、40Gy照射後の頭部MRIで腫瘍はほぼ消
失していた。意識レベル、視力視野障害、尿崩症も徐々に改善し、現在では軽度記
銘力障害とDDAVPの点鼻でコントロール可能な尿崩症を残すのみとなっている。【考
察】1.術前検索、各種免疫染色による病理診断により、非常に稀であるが頭蓋内原
発のsarcomaと診断した。2.残存腫瘍に対する放射線療法が著効を示した。3.他に
同様な報告がみられず、今後の経過に関して注意深い観察を要する。
A15 診断が困難であった硬膜発生の悪性脳腫瘍の1例
岡本 宗司1、園部 眞1、大谷 明夫2、中居 康展1、加藤 徳之1、杉田 京一1
独立行政法人 国立病院機構 水戸医療センター 脳神経外科 1) 、独立行政法人
国立病院機構 水戸医療センター 病理2)
患者は48歳、男性。平成15年9月22日、右側頭葉の脳内出血生じ、当院入院した。
脳血管撮影、頭部MRIでは脳内に明らかな出血源は認められず、保存的加療おこな
い、退院した。3ヶ月後の頭部MRIでは、血腫は消退し、造影MRIでは腫瘍を疑わせ
る所見はなかった。平成16年6月8日、右耳鳴を訴えて、当院再入院。頭部CT、MRI
にて出血部位にほぼ一致した右側頭葉に嚢胞を伴う腫瘤を認めた。腫瘍は外頚動脈
系から栄養されていた。6月18日、右側頭開頭で、腫瘍摘出をおこなった。腫瘍は、
白色で硬く硬膜と強く癒着していた。嚢胞内容は、キサントクロミーの液であった。病
理所見では、著明な多様性を示す上皮様配列をしめす腫瘍で、細胞異型性がたかく
、分裂像も多かった(Ki-67の陽性率は15%)。悪性グリオーマとの類似性はあったが
、壊死像、血管内皮の増殖や脳実質への浸潤がないことなど相違点が多く、組織型
の診断に難渋した。免疫染色上腫瘍細胞はCD56, 57, S100蛋白陽性であること、硬
膜内に悪性化する前の初期病変と思われる所見があったこと、血管支配が外頚動脈
系 の み で あ っ た こ と か ら シ ュ ワ ン 細 胞 系 腫 瘍 、 と く に 、 epithelioid
malignant peripheral nerve sheath tumorであると考えた。その場合、脳外科領域で
は文献的に脳神経由来の例が報告されているのみである。
A16 両側視床に首座をもつ胚細胞腫の1例
佐藤 允之1、高野 晋吾1、坪井 康次1、滝川 知司1、鮎沢 聡2、柴田 智行3、松村
明1
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 臨床医学系 脳神経外科1)、龍ヶ崎済生会
病院 脳神経外科2)、総合守谷第一病院 脳神経外科3)
診断に苦慮した両側視床に首座をもつ胚細胞腫を経験したので報告する。
【症例】25歳の男性。1年前より間歇的な複視を自覚していた。1週間前より嘔気、頭
痛みられ傾眠傾向となり来院。MRIで両側視床に増強効果の強い腫瘤を認め、閉塞
性水頭症を呈していた。他に右側脳室前角周囲にも小さな病巣を認めた。神経学的
には全方向で眼球運動障害、対光反射消失を認めた。内視鏡による第3脳室底開窓
術を施行、同時に視床内側部、中脳水道部を検索するも腫瘤性病変は認めなかった
。右前角にも腫瘤は認めなかったが、脳室下組織を生検した。生検組織は正常脳で
あった。髄液、血清中の腫瘍マーカー(HCG-β,AFP, HCG)はいずれも陰性であった
。多発性硬化症も考えステロイドパルス療法を施行し、病巣は一旦縮小するも再増
大した。MRIガイド下に右前角病変を生検し胚細胞腫と診断された。化学療法
(Cisplatin, Etoposide)を2コース先行して、拡大局所放射線照射を行なった。化学
療法3コース目を行い、腫瘍は消失した。発症後より1年の現在、画像上再発はなく、
眼球運動障害は改善したものの自覚的には複視が残存している。
A17 化学療法中に腫瘍内出血をきたした胚細胞腫の一例
小嶋 篤浩1、山口 則之1、奥井 俊一1、吉田 一成2
さいたま市立病院 脳神経外科1)、慶應義塾大学 医学部 脳神経外科2)
【緒言】頭蓋内胚細胞腫に対する治療法の主流は、化学療法および放射線療法であ
る。今回我々は、胚細胞腫に対する化学療法に伴い腫瘍内出血をきたした症例を経
験したので、文献的考察を加え報告する。【症例】24歳男性。平成14年頃より多尿お
よび女性化乳房がみられた。平成16年1月13日食思不振および傾眠にて入院した。
頭部CTおよびMRIにて側脳室および第三脳室を中心に径5cm大の占拠性病変が認
められた。脳血管撮影にて両側前大脳動脈より栄養される腫瘍陰影がみられた。ま
た、生化学検査にてα-fetoprotein 782.8 ng/ml(正常値<10 ng/ml)、 human
chorionic gonadotropin (HCG) 460 mIU/ml( 正 常 値 0-0.7 mIU/ml ) 、 β -HCG
1.4 ng/ml(正常値 0-0.1 ng/ml)であった。1月21日経脳梁アプローチにて手術を施
行した。腫瘍は易出血性であり、手術は部分摘出術にとどまった。病理学的検査にて
腫瘍は、腸型の腺管構造など内胚葉成分、未熟な軟骨組織など中胚葉成分、壊死を
伴い異型細胞が不規則なシート状ないし充実性胞巣を成して増殖している成分など
、多彩な組織を包含していた。以上の所見より、本症例は未熟奇形腫および胎児性
癌より構成される胚細胞腫と診断し、化学療法を予定した。2月9日カルボプラチン
(450 mg/m2) 投与8時間後より瞳孔散大し呼吸停止したため、以後の化学療法を中
止した。頭部CTにて腫瘍内およびくも膜下腔の血腫、広範な脳腫脹がみられた。3月
13日死亡後に施行した病理解剖にて腫瘍内に広範な血腫および壊死が確認された
。【考察】本症例において、カルボプラチン投与後にみられた広範な腫瘍内血腫およ
びくも膜下出血は、腫瘍の壊死に伴う出血に起因すると推察された。本症例は、化学
療法の合併症として広範な腫瘍内出血が起こりうることを示唆した。
A18 脊髄髄外進展を認めた脊髄原発胚細胞腫の1例
石毛 聡 1 、久保田 基夫 1 、渡辺 義之 1 、佐伯 直勝 1 、山浦 晶 1 、森 雅裕 2 、永井
雄一郎3
千葉大学 医学研究院 神経統御学1)、千葉大学 医学研究院 神経病態学2)、千葉
大学 医学部附属病院 病理部3)
脊髄髄内に原発し髄外に進展した,脊髄原発胚細胞腫の症例を経験したので,文献
的考察を加え報告する。【症例】21歳,男性。2001年12月より両下肢の感覚異常・痙
性対麻痺が出現し徐々に進行した。2002年7月,精査加療目的にて当院神経内科に
入院となった。脊髄MRIでTh7レベルにT1WIにて軽度造影される髄内病変を認めた
。 MS ・ サ ル コ イ ド ー シ ス ・ 脊 髄 腫 瘍 な ど を 疑 い 精 査 す る も 診 断 は 確 定 で き ず
,primary progressive MSの疑いにてsteroid pulseを行ったが,神経症状の改善は
得られなかった。2003年1月,再度steroid pulseを施行。診断確定のため生検を予
定したが,家族の同意が得られなかった。2003年8月,L1/2レベルに髄外病変が出
現したため,髄外腫瘍摘出術を行った。終糸より発生した腫瘍で,播種などの所見は
認められなかった。病理学的には腫瘍被膜は軟膜と連続し,腫瘍はtwo cell pattern
を示し,PAS, PLAP陽性,hCG陽性の巨細胞を認め,germinoma with STGCと診断
された。放射線療法(全脊髄36Gy, 局所 50Gy)および化学療法(PE療法)行い,
MRI上病変部は消失している。【考察】脊髄原発胚細胞腫は極めてまれで,本例を含
め13例が報告されているにすぎない。特に脊髄に原発し,髄外に進展した胚細胞腫
の報告は本例がはじめてである。本症例は神経症状に比し画像所見は軽く,脊髄の
腫大は認められなかった。非侵襲的に検査にて診断が確定できない症例では,早期
の生検が必要である。
A19 頸静脈孔神経鞘腫の小児例
立石 秀勝1、栗田 浩樹1、坪川 民治1、塩川 芳昭1
杏林大学 医学部 脳神経外科
症例は既往歴に特記すべき事項のない13歳の女児。2004年7月下旬より部活動中
右へ傾くと指摘され近医受診。CT上、posterior fossa mass、及び閉塞性水頭症を
指摘され、当科紹介となった。入院時、神経学的に軽度の左小脳症状を認め、MRIで
左小脳橋角部から大後頭孔におよぶ7cm大の一部heterogeneousな腫瘍を認め、
3D-CT上、左頸静脈孔、及び左舌下神経管の開大を認めた。頸静脈孔神経鞘腫の
術前診断で後頭下開頭腫瘍摘出術を施行し、jugular valveに浸潤した部分を除き、
腫瘍を亜全摘した。病理診断はschwannomaであり、小脳症状や下位脳神経麻痺を
認めず独歩退院した。NF例を除いて、小児期に発症するneurinomaは稀であり、特
に頸静脈孔神経鞘腫は我々の渉猟しえた範囲では数例の報告があるのみあるが、
小児期の同部の腫瘍の鑑別診断として重要と思われた。画像所見、術中所見を中心
に、若干の文献的考察を加えて報告する。
A20 Cystic meningiomaの1例
仙北谷 伸朗1、浅原 隆之1、内田 幹人1、八木下 勉1、長沼 博文1
山梨大学 医学部 脳神経外科
髄膜種で嚢胞形成を伴う例は比較的稀である。当施設でも最近1例を経験したので
報告する。症例は29歳男性、H16年6月30日初発の全身痙攣で当院へ転院。神経学
的に活動性の低下を認めた。CT上左前頭葉内側面、大脳鎌に接するような2.5cm大
の軽度high densityの充実性massとそれと連続した2.5cm大の嚢胞性massを前頭
葉皮質下に認め、比較的広範囲に脳浮腫を伴っていた。MRI上充実性massはT1WI
で軽度LI(low intensity),T2WIで軽度HI(high intensity),造影効果は均一であった。嚢
胞内はT1WIでLI,T2WIでHI,DWIでLIで、嚢胞壁は造影された。脳血管撮影で両側
中硬膜動脈、左前篩骨動脈、左前大脳動脈から腫瘍濃染像を認めた。7/10から傾眠
、軽度右片麻痺が出現し、CT上脳浮腫の悪化を認めたため、グリセオール及びステ
ロイド使用し症状の軽減が得られた。7/26手術施行、嚢胞は腫瘍と連続し腫瘍に近
い嚢胞壁は肉眼的に腫瘍組織の存在が疑われたが、可視できた末梢側は薄い結合
識様であった。また嚢胞液は黄色調で、Froin陽性であった。嚢胞壁の多くは脳との
癒着が強く残存したが、充実性成分と付着部である大脳鎌は肉眼的に全摘出された
。術後経過は良好で神経脱落症状は消失した。病理診断はnecrosisと核のmitosisを
少量認め、atypical meningiomaと考えられた(MIB-1 LI 3.7%)。嚢胞壁の腫瘍側は
腫瘍細胞が多く認められたが、末梢側は少なかった。再発予防目的に局所で50Gyで
放 射 線 照 射 を 行 い 、 退 院 と し た 。 本 例 は peritumoral cyst を 伴 っ た atypical
meningiomaと考えられた。文献的に若干の考察を加え報告する。
A21 側脳室内metaplastic meningiomaの1例
杉山 一郎1、師田 信人1、平本 準1、香川 尚己1、松岡 健太郎2
国立成育医療センター 脳神経外科1)、国立成育医療センター 病理検査室2) 症例
は16歳女性。2001年頃から、食指不振、体重増加不良を認めていた。2002年からは
無月経となり、同年6月、14歳のときに当センター総合診療部に精査入院となった。
入院後頭部CT, MRIにて、左側脳室内に最大径8cm、多房性で内部出血を伴った嚢
胞性腫瘍を認めた。入院時両側眼底浮腫を認め、その後頭痛、瞳孔不同を呈したた
め、同年7月1日に準緊急で左頭頂開頭による腫瘍摘出術を施行した。腫瘍壁は血
管に富んでおり、一部脳室壁に強く癒着していた。また脈絡叢も巻き込んでいたため
、脈絡叢を切断して腫瘍を切除した。嚢胞内容は髄液様であった。腫瘍はほぼ全摘
で き た 。 術 後 経 過 は 良 好 で 16POD で 退 院 と な っ た 。 血 管 系 由 来 の
mesenchymal tumorと病理診断され、MIB-1陽性率も非常に低かったため、後療法
は施行せず外来で経過観察とした。経過観察中、脳梁にMRIで造影される小病変が
出現し、その後徐々に拡大傾向を示した。2004年6月には最大径3cmまで増大して
きたため、7月に再手術施行に至った。前回と同様の開頭で、ナビゲーション支援下
にて腫瘍摘出術施行した。腫瘍もほぼ前回同様の所見であった。再発腫瘍の起始部
と考えられた脳梁付近も含め全摘出した。術後経過は良好で、神経脱落症状なく
15PODで退院となった。病理では、腫瘍は血管が豊富で、粘液性や軟骨様の部分な
ど多彩な組織像を示し、脈絡叢から発生したmetaplastic meningiomaと診断された
。MIB-1は2%だったが、脳実質への浸潤を認めることから、grade 2となった。後療法
については現在検討中である。小児では髄膜種の発生頻度は低く、全髄膜種の
0.7%、小児脳腫瘍の2.2%にすぎない。しかし側脳室発生は全髄膜種では0.5∼
4.5%であるのに対し、小児では20∼30%を占める。またmetaplastic meningiomaは
低異型度髄膜種の亜型の1種に分類され、稀な髄膜種である。小児側脳室発生で、
脳浸潤を来した例はこれまで報告がない。若干の文献的考察を加えて報告する。
A22 モンロー孔付近から発生した髄膜腫の1例
木村 泰1、秋本 学1、阿久津 博義1、長友 康1、小松 洋治1
筑波メディカルセンター病院 脳神経外科
【はじめに】今回われわれはモンロー孔付近から発生した髄膜腫の1例を経験したの
で報告する。【症例】22歳男性。既往歴に特記事項なし。2004年5月に頭痛、嘔吐で
発症。近医で鎮痛薬を処方されていたが改善せず。精査で、水頭症を指摘され、当
院を受診となった。来院時の意識は清明で神経学的異常や全身状態に異常なし
。CTでモンロー孔にやや高吸収を示す15mm程度の腫瘍性病変と脳室内の石灰化
を認めた。またモンロー孔閉塞による右脳室の拡大もみられた。造影MRIで腫瘍部
分は均一な増強効果を示した。モンロー孔付近から発生した腫瘍にともなう閉塞性水
頭症の診断で右frontal transcorticalにapproachし、腫瘍を摘出した。病理組織から
髄膜腫と診断された。術後に水頭症の改善があり、経過良好で退院となった。【結語】
モンロー孔付近に発生した髄膜腫は稀であり、その鑑別診断、画像診断、病理学的
特徴に関し、自験例を含む過去の報告例について検討する。
A23 術前の腫瘍血管塞栓術が有効であった側脳室体部hemangiopericytomaの1
例
角 光一郎1、大高 稔晴1、村田 佳宏1、渡辺 学郎1、加納 恒男1、川又 達朗1、片
山 容一1
日本大学 医学部 脳神経外科学講座
【はじめに】頭蓋内にhemangiopericytomaが発生することは稀であり,脳室内に発生
例は過去に4例が報告されているに過ぎない.発生部位は,3例が側脳室三角部,1
例が第3脳室であり,側脳室体部に発生したのは,本例がはじめてである.側脳室体
部に発生したhemangiopericytomaに対して,術前の血管内手術による腫瘍血管塞
栓術が有効であった.【症例】65歳女性.3ヶ月程前より歩行障害、記銘力障害が出
現した。来院時,意識レベルはJCS I-2で、近時記憶障害,両下肢の深部知覚障害が
認められた.MRIでは側脳室体部にGdにて均一にエンハンスされる5 cm大の病変を
認めた.右椎骨動脈撮影では,左側の後脈絡叢動脈より栄養される著明な腫瘍陰影
が認めた.術前に,血管内手術にて栄養血管の塞栓術を施行後,
interhemispheric transcallosal approachにて腫瘍を摘出した.腫瘍は易出血性であ
ったが,術前の塞栓術のためか出血はコントロール可能であり,可及的に腫瘍を摘出
することができた.病理組織学的には,WHOが定めるhemangiopericytomaの診断
基準に合致するものであった.術後,放射線治療を行った.術前みられた歩行障害と
記銘力障害は徐々に改善され,術後60日目に独歩退院した.【考察】側脳室体部に
発 生 し た hemangiopericytoma の 1 例 を 経 験 し た . 側 脳 室 体 部 の 大 き
なhemangiopericytomaでは,限られた術野でpiece-mealに摘出せざるをえず,出
血のコントロールが困難なことから,術前に血管内手術にて腫瘍栄養血管を処理して
おくことが手術成功の鍵となると考えられる.
A24 Chordoid meningiomaの一例
三橋 立1、青木 彩1、大野 津介1、清水 崇1、猪原 正史1、植木 泰行1、新井 一2
東京都立広尾病院 脳神経外科1)、順天堂大学 医学部 脳神経外科2)
<目的>髄膜腫は1993年のWHO分類において11の亜型に分類されているが、
chordoid meningiomaはそのひとつであり、非常に稀な症例である。我々はその一例
を経験したので報告する<現病歴>67歳女性。患者は11年まえにくも膜下出血を来
たしたため当院当科において手術加療の既往歴がある。そのため定期的に外来通院
が行われていた。平成16年7月follow up目的のCTにおいて左頭頂葉部を中心とした
低吸収域が認められたため、精査を行ったところ、脳腫瘍が認められたため、手術加
療目的に入院となった。入院時において神経学的脱落所見は認められない。CT,
MRIなどの神経放射線学的所見で径17×17×16mmのextraaxial mass lesionと診断
し、腫瘍摘出術を施行した。術後経過は良好であり独歩退院をした。病理学的診断は
免疫組織学的診断などを加えて chondroid meningioma と 診 断した 。 < 考察 >
chordoid meningiomaはこれまでにもその報告例が存在するが、病理所見の特徴と
しては、myxoid matrixを背景として腫瘍細胞が索状あるいはシート状に配列した
chordoma に 類 似 し た 組 織 像 を 示 し て お り 、 免 疫 組 織 学 的 所 見 に お い て は 、
cytokeratin陰性、EMA, Vimentin陽性というmeninigomaの特性を示す。また鑑別診
断としてはchordoma, condorosarcomaなどが挙げられる。これまでの文献的考察を
含めて報告する。
A25 軽微な交通外傷によるplaque injuryからartery to artery emboliを来した一例
岩本 直高1、玉置 智規1、野手 洋治1、斉藤 寛浩2、佐々木 光由1、竹井 麻生1
日本医科大学多摩永山病院 脳神経外科1)、流山中央病院脳神経外科2)
【目的】軽微な交通外傷でplaque injuryからartery to artery emboliを来した一例を経
験したので報告する。【症例】58歳、男性、主訴:運動性失語.既往歴:喘息,大腸癌
.現病歴:乗用車運転中に他車に追突された,軽微な事故であり,頚部に軽度の屈
曲があったのみであり,後部バンパーの変形も無かった,近医で外傷性頚部症候群
と診断され保存的加療された.事故14日後に発語の減少をきたし,事故20日後に当
科受診した,受診時所見:血圧138/95,不整脈を認めず,意識は清明,他に神経学
的異常所見を認めなかった.CT,MRIで左前頭葉に皮質梗塞を認めた,頚動脈
3-D CTで左側内頚動脈に数珠状に50%の狭窄し血栓の付着を認めた,エコーでは
同部位はsoft plaqueであったが,頚動脈分岐部にはplaqueを認めず,内膜の肥厚も
認めなかった,動脈脈波速度も1700cm/secと強い動脈硬化所見は認めなかった.
経過:抗血小板剤を投与しつつ経過観察したが,3-DCT,エコーにてplaque内血栓
の状態が変わらず,artery to artery emboliの再発予防のためにCEAを施行した.
Plaqueは内頚動脈内に4Cmにわたり存在し,plaque内血栓を認めた.内頚動脈周
囲にはリンパ節が多数観察された.【考察】外傷性頚部損傷から,内頚動脈,椎骨動
脈に解離性動脈瘤をきたす症例の報告は散見されるが,plaqueに影響を与え
artery to artery emboli を 来 し た 症 例 は 稀 と 思 わ れ る . 我 々 は こ の 機 序
をplaque injuryと呼称したい,当日はその機序など文献的考察をふまえ報告する.
A26 外傷性鼻出血に対する血管内塞栓術の有用性
仁木 淳1、鈴木 祥生1、倉田 彰1、清水 暁1、望月 崇弘1、宮島 良輝1、小泉 寛
之1、小澤 仁1、藤井 清孝1、菅 信一2
北里大学 医学部 脳神経外科1)、北里大学 医学部 放射線科2)
(はじめに)急性鼻出血に対しては、まず鼻腔パッキングを行い、それにより出血をコ
ントロール出来ない場合に塞栓術を行う事が一般的である。しかし、外傷性の場合、
鼻腔パッキングでは止血出来ないことも多く、早期に塞栓術を考慮しなければならな
いことも多い。今回、肝機能障害により、凝固機能が低下した患者の外傷性鼻出血に
対して塞栓術を施行し有効であった症例を経験したので、過去我々が経験した症例
も含め報告する。(症例)61歳男性。(現病歴)平成16年10月16日、飲酒し転倒、後頭
部を打撲した。10月19日頃より見当識障害が出現し当院来院した。CT上、左側頭部
急性硬膜下血腫の診断となり加療目的に入院となった。(既往歴)以前よりアルコール
多飲による肝機能障害を指摘されていたが未治療であった。(経過)入院直後、全身
性痙攣を起こし、SpO2 80代と低酸素血症を来した。ホリゾンの静脈内投与にて痙攣
は消失したが、低酸素血症は継続したため、経鼻エアーウエイを挿入したところ鼻腔
内から激しい出血を認めた。出血量は多く、呼吸不全は改善しないため、挿管し人工
呼吸管理を開始した。鼻出血に対し鼻腔パッキングを耳鼻科で施行した。来院時の
血液検査にて、血小板1.5万、PTINR1.62等重度の肝機能障害と凝固能の低下を認
めた。10月22日、血小板およびMAP、FFPの輸血を試みるも、止血しないことから塞
栓術を施行した。血管造影検査上、sphenopalatine arteryよりextravasationを認め
、両側IMA終末でプラチナボールおよびプラチナコイルを用いて塞栓術を施行した。
術後、鼻出血は完全に止まり、呼吸器から離脱出来た。(結語)鼻出血に対する塞栓
術は、内頚動脈との吻合や両側の血管の関与の可能性などの注意が必要であるが、
難治性鼻出血には非常に有用であると考えられた。過去に経験した症例も含めてそ
の有用性を報告する。
A27 左慢性硬膜下血腫に対するドレナージ術後に脳梗塞を合併した一例及び文献
的考察
油井 史郎1、星 道生1、各務 宏1、村瀬 活郎1、中務 正志1
済生会宇都宮病院
【目的】左慢性硬膜下血腫に対して穿頭ドレナージ術施行後に左大脳半球に広範囲
な脳梗塞をおこし、右不全麻痺と失語を呈した症例を経験したので文献的考察を加
えて報告する。【症例】40歳の男性。意識障害・片麻痺を主訴に来院し、左慢性硬膜
下血腫の診断で入院した。入院後急激に意識障害が進行し、穿頭ドレナージ術を施
行した。術後はドレナージは良好で頭部CT上でも慢性硬膜下血腫の十分なドレナー
ジがみられ、意識障害は回復したが、右片麻痺・失語(Broca type)が残存した。その
後の頭部CT・MRIでは左大脳半球の広範囲なまだら状の脳梗塞を認めた。右片麻
痺は著明に改善したが軽度の失語(Broca type)が残存し、リハビリ目的に転院した。
【考察】慢性硬膜下血腫に対するドレナージ術後に脳梗塞を合併することが稀にある
が、今回我々が経験した症例についてその原因などを文献的考察を加えて報告する
。
B1 脳底動脈窓形成部に発生した多発脳動脈瘤の一例
溝上 義人1、富永 二郎1、小田 真理1、熊坂 明1、高宮 幸人1、山本 美奈子1、石
黒 朋子1、石坂 秀夫1、松前 光紀1
東海大学 医学部 脳神経外科
〔目的〕脳底動脈窓形成の頻度は剖検例で1から5%前後とされている。今回われわ
れは脳底動脈窓形成部の分枝血管それぞれに動脈瘤を認め、破裂動脈瘤に対しコ
イル塞栓術を行った稀な一例を経験したので報告する。〔症例〕70歳 男性 〔現病
歴〕平成16年3月24日突然の頭痛出現し、意識障害(JCS200)も認めヘリコプター
にて搬入された。来院時はJCS2と意識改善し、明らかな神経学的局所症状は認め
なかった。頭部CT上後頭蓋窩に多いびまん性くも膜下出血を認め、緊急脳血管撮影
をおこなった、左VAGにて脳底動脈本幹部に窓形成部で腹側へ突出する16mm大
のLarge aneurysm および背側へ突出する2mm大のsmall aneurysmを認め、
右CAGにてIC-pcom部にsmall anerysm認めた。Large anerysm を破裂動脈瘤と考
え、同部のコイリングを行った。計18本のコイルにてほぼ完全閉塞が得られた
。Day 10にDIND認めるもHyperdynamic therapyにて改善。その後の経過も良好
でDay32に独歩退院となった。
B2 異なる場所に2度出血をきたした出血源不明のくも膜下出血の一例
野原 秀功1、上田 高志1、印東 雅大1、坂田 義則1、石井 一彦1、江口 恒良1
亀田総合病院 脳神経外科
症例は53歳女性.もともと頭痛持ちであったが特に既往歴はなし.2004年1月にいつ
もより強い頭痛を自覚し,頭部CT上左シルビウス裂に限局した少量のくも膜下出血
を認めた(Hunt and Kosnik grade II, WFNS grade I, Fisher group 3).入院精査を
行ったがDSA,3D-CTA上動脈瘤や血管奇形を認めなかった.その後臨床上も画像
上も再出血を認めず症状なく経過し退院,外来経過観察されていた.2004年10月に
子宮脱に対する手術目的で婦人科入院中に同様の強い頭痛を自覚.頭部CT上前回
出血と反対側の右シルビウス裂に限局した少量のくも膜下出血を認めた(Hunt
and Kosnik grade II, WFNS grade I, Fisher group 3).再びDSA,3D-CTAにて精査
を行ったがやはり出血源は同定されなかった.出血源不明のくも膜下出血で異なる
場所に出血を来たし,かつperimesencephalic hemorrhageを認めない症例は渉猟
し得た限りは報告がない.本症例について文献的考察を加え報告する.
B3 水頭症で発症した後大脳動脈瘤の一例
藤井 良輔1、大石 英則1、堀中 直明1、新井 一1
順天堂大学 脳神経外科
症例は49歳男性。現病歴は平成16年8月頃より歩行障害が出現し近医にて頭部CT
を施行した所、頭蓋内占拠性病変と水頭症を認め当院当科へ紹介入院となった。家
族歴に特記すべきことなく既往歴に統合失調症を認める。神経放射線学的診断では
、頭部MRIにて左四丘体槽に血栓化動脈瘤を示唆する所見を認め、中脳水道が圧
迫閉塞されており非交通性水頭症を併発していた。脳血管造影では左後大動脈P2
segmentに動脈瘤を認めた。治療は水頭症に対して第三脳室底開窓術を行った後に
、血管内治療にて親動脈塞栓術を施行した。術後は何ら新たなる神経学的脱落症候
をきたすことなく独歩退院した。後大脳動脈瘤は、くも膜下出血で発症することが多い
が稀に周囲構造物に対する圧迫症状を呈する。本症例では内視鏡と脳血管内治療
による非侵襲的な治療が有効であった。本疾患に関連する若干の文献的考察を加え
報告する。
B4 Third A2に合併した両側A1-A2脳動脈瘤の1例
嶋田 淳一1、武田 信昭1、黒須 明博1、天羽 正志1、浦上 信也2、大石 英則3、清
水 崇3
愛友会 三郷順心総合病院 脳神経外科1)、愛友会 三郷順心総合病院 放射線科
2)
、順天堂大学 医学部 脳神経外科3)
前 交 通 動 脈 近 傍 は 血 管 奇 形 の 多 い こ と で 知 ら れ る 。 そ の 中 で third A2 は 稀
なvariation である。今回我々は、third A2を有する患者に両側のA1-A2 junction に
発生した動脈瘤を認め、血管内手術により治療したので報告する。症例は67歳女性
。現病歴:平成16年7月9日午後1時30分頃、用便中に左片麻痺と左半身知覚障害を
自覚し改善しないため当院へ救急搬送された。CT上右視床出血を認められ入院とな
った。既往歴:20年前に子宮筋腫により慈恵医大で手術。昭和47年頃から高血圧を
指摘され近医にて内服治療を受けていたが平成9年に副腎腫瘍が発見され東京女
子医大病院で摘出術を受けた。治療経過:脳内出血に対して保存的加療を施行し神
経症状は消失した。ところがMRAにて前交通動脈瘤を疑い脳血管撮影を施行したと
ころthird A2に伴う両側A1-A2 junction 動脈瘤を認め9月1日にコイリング術を行った
。術後問題なく退院し、現在追跡中である。third A2は諸家の報告がみられるが、そ
れに合併した脳動脈瘤、それもmirror imageである症例は渉猟し得ず、極めて稀と考
えられ、ここに報告した。
B5 True posterior communicating artery aneurysmの一例
山口 浩司1、氏家 弘1、比嘉 隆1、堀 智勝1
東京女子医科大学 脳神経外科
True Posterior Communicating Artery Aneurysm の 一 例 True posterior
communicating artery aneurysmの発生頻度は0.1~2.8%程度と文献上報告されて
おり比較的稀なものである。今回我々、subtemporal approach and temporopolar
approach に て ク リ ッ ピ ン グ 術 を 行 っ た true
posterior
communicating artery aneurysmを経験したので報告する。症例は48歳男性。頭痛
精査目的にMRAを施行し脳動脈瘤を指摘された。3D-CTA上動脈瘤は右後交通動
脈から発生しているように思われ、脳血管撮影でも同様の所見であった。術前神経学
的異常所見は認めなかった。手術はsubtemporal approach and temporopolar
approachにて行った。P-comの起始部からたどっていくと上方向きにP-comから動脈
瘤が発生していることが分かった。術後右動眼神経麻痺を認めたが、その他神経学
的異常所見は認めず、MRIにて穿通枝領域の脳梗塞等は認めなかった。今回我々
はsubtemporal and temporopolar approachにてクリッピング術を行ったが、文献上
手術アプローチの記載のある17例の内13例が同側のpterional approach、2例が同
側のsubtemporal approach、2例が対側からのapproachであった。手術後なんらか
の異常な神経学的所見を認めたものは5例(25%)におよんでいる。その数字は一般
的な脳動脈瘤の手術のmorbidityと比較すると、非常に高いものである。それぞれの
approachにおける利点、欠点、その合併症の特徴を文献的考察を含め報告する。
B6 Segmental arterial mediolysisを合併した破裂脳動脈瘤の一例
廣野 誠一郎1、羽井佐 利彦1、加藤 貴弘1、大野 博康1、浅野 修一郎1、本間 秀
樹1、原 徹男1、近藤 達也1、蓮尾 金博2
国立国際医療センター 脳神経外科1)、国立国際医療センター 放射線科2)
症例は43歳の男性で、7年前に(右)中大脳動脈瘤破裂の既往がありクリッピング術
をされていた。平成16年7月24日、突然の頭痛、吐き気、嘔吐が出現し、救急車にて
当院に搬送された。到着時、心室性不整脈もあり、意識レベルはGCS:E1V1M2。頭
部CTにて脳室内血腫、脳内血腫をともなうクモ膜下出血と診断し入院。脳血管撮影
にて前交通動脈瘤の所見を得て、翌日、開頭クリッピング術を施行。第13病日、突然
ショック状態となり、腹部CTにて腹腔内出血による出血性ショックと診断。次いで、腹
部血管撮影を行ったところ、上腸間膜動脈やその分枝にいくつかの小動脈瘤や不整
な血管拡張が見られ、segmental arterial mediolysis (SAM)に合致する所見であっ
た。横行膵動脈の末梢に出血源と思われる動脈瘤があり、その直前で塞栓術を施行
した。なお髄膜炎が遷延していたが、以前他院で施行されたLPシャントが髄腔内に
迷入していたので、異物除去の目的で抜去した。その後は全身状態も改善し、水頭
症に対しVPシャント術を施行。現在、記銘力障害はあるが、四肢麻痺などはない状
態である。
SAMは成人の腹腔内筋性動脈に発生する非常に稀な病変で、まだその原因につい
ては議論されているところである。病理学的には中膜が分節状に融解し、その結果解
離性動脈瘤を形成したり、腹腔内に出血したりすることをその特徴としている。破裂脳
動脈瘤とSAMとの合併は、この二つの疾患に何らかの関連があることを示唆してい
るのかもしれない。我々が渉猟したところ、破裂脳動脈瘤にSAMを合併した症例報告
はなかったが、今後、多発性嚢胞腎やマルファン症候群などのようにSAMが脳動脈
瘤と関係のある疾患になる可能性もあると思い報告した。
B7 A1 トラッピング後に再増大、再破裂を生じたA1 解離性動脈瘤の一例
恩田 英明1、山崎 直美1、森 伸彦1、宮沢 伸彦1、篠原 豊明1
甲府脳神経外科病院 脳神経外科
【はじめに】前大脳動脈水平部 (A1) をトラッピングした1ヶ月後に、動脈瘤の再増大・
再出血を生じたA1 解離性動脈瘤を経験したので報告する。【症例】42歳女性、頭痛
、意識障害で発症した Hunt and Kosnik grade 3, WFNS grade 2 のくも膜下出血の
患者。脳血管撮影にて左 A1 の中枢側の stenosis とACoA complex の中枢側で
明らかな分枝のない A1 部分に半球状の小動脈瘤を認めた。左A1 解離性動脈瘤
の術前診断で、左 pterional approach にて手術を行った。左A1はその起始部から
約5mm まで細く、その末梢側は拡張していて、ACoA complex直前のA1に前下方に
向く半球状の赤く壁の薄い小動脈瘤を認めた。A1の動脈壁には明らかな壁内血腫は
認められなかったため解離性動脈瘤の確診には到らず、半球状の小動脈瘤にクリッ
ピングを行い手術を終了することとした。硬膜の縫合を行っているときに深部より動
脈性の強い出血をきたし、再度A1部分を観察したところ動脈瘤の腹側のA1の壁から
の出血を認めた。可及的に全長にわたるようにA1をトラッピングし手術を終了した。
術後のMRA で両側A2 は描出され、左A1は認められなかった。意識障害と右片麻
痺認めたが徐々に改善した。術後1ヶ月に頭痛と嘔吐を生じ、頭部CT にて脳室内出
血を主とする再出血を認めた。脳血管撮影にて、トラッピングを行った部分より末梢
側の左A1に、右A1から造影される大きな動脈瘤を認めた。右pterional approachに
て2回目の手術を行った。ACoA complex直前から左A1が著明に拡大して動脈瘤を
形成し、動脈瘤本体は prechiasmal region に埋没していた。ACoAから左A2に血流
が保たれるように注意しながら、左A1の末梢側のトラッピングの追加を行った。術後
経過は良好で、血管撮影で動脈瘤の消失を確認した。【まとめ】トラッピング後にわず
かに残った動脈の解離壁から短期間に動脈瘤が形成されたA1 解離性動脈瘤の症
例と考えられた。
B8 脳梗塞で発症し、くも膜下出血を続発した後下小脳動脈解離性病変の一例
野村 竜太郎1、水成 隆之1、水谷 暢秀1、太組 一朗1、小林 士郎1、寺本 明2
日本医科大学付属千葉北総病院 脳神経外科1)、日本医科大学付属病院 脳神経
外科2)
頭蓋内解離性動脈病変は脳血管障害の中で0.4‐2.5%の頻度であり、比較的まれな
疾患と考えられてきた。しかしながら近年報告例が増加しており、その転帰は不良で
あることも多く、病態発生機序の解明、治療法の選択にはいまなお議論の余地がある
と考えられる。今回われわれは虚血発症した後下小脳動脈解離性病変が、経過中く
も膜下出血を来たした1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。症例
は54歳男性。左不全片麻痺が数時間で消失するという一過性脳虚血発作症状があ
り、翌日dizziness残存するとのことで当院内科受診。MRI(DWI)にて右小脳半球
にhigh intensity area認めるも、MRA上は狭窄病変など指摘できず、保存的治療目
的で入院となった。入院翌日、突然の意識消失あり頭部CTにてくも膜下出血を認め、
緊急脳血管撮影にて左後下小脳動脈の狭窄像を認めたため、再出血防止を目的と
して同日緊急手術を行った。術中所見としては、PICA dissectional aneyurysmであ
り、PICAは一部血栓化していた。PICA起始部と動脈瘤遠位部のtrappingを行い、
OA-PICA anastomosisを施行した。本症例のようにPICA単独の解離性病変をきたし
、くも膜下出血を続発するという病態は非常に稀である。椎骨脳底動脈系の虚血発
症例は経過中にくも膜下出血をひきおこす可能性があり、その転帰は決して良くない
ことから稀ではあるが見過ごすことのできない病態といえるだろう。
B9 治療に苦慮した脳動脈瘤症例(VA unionからBAにかけfenestrationを伴った破
裂脳動脈瘤)
杉山 達也1、石原 正一郎1、伏原 豪司1、佐藤 章1、松谷 雅生1
埼玉医科大学 脳神経外科
【はじめに】脳底動脈にfenestrationが存在し,同部にruptured aneurysmを合併した
症例を経験したので報告する.【症例】59歳,女性,既往歴に特記事項なし.夕食後
に嘔吐出現し,意識低下したため当科搬入.搬入時,JCS:200,GCS:E1VtM2で
,Brain CTにてFisher group 3のクモ膜下出血認めた.WFNS grade Vのため保存
的加療としていたが,翌日にはJCS:I-levelまで意識改善したため脳血管撮影施行し
た.脳血管撮影にて椎骨動脈union部から脳底動脈にかけてfenestrationを伴い,椎
骨動脈union部から前後にのびる二峰性のaneurysmを認めた.【治療方法】全身麻
酔 下 に 気 管 内 挿 管 施 行 し , 両 側 大 腿 部 よ り sheath を 挿 入 し , 両 側 sheath か ら
catheterを挿入した.Fenestration部の血管から左前方向きと右後方に向いた2ヶ所
にaneurysmを認めた.破裂側は左前方向きのものと考え,先ず 左前方向きの
aneurysm neckにmicrocatheter固定させ,GDC計7本用いてcoiling施行し,閉塞さ
せた.次に右後方に向いたaneurysmに対しはballoonを用いてneck plasty施行しつ
つ,GDC計7本にてcoilingし,閉塞させた.【結果】血管造影にてaneurysmの消失を
認め,術後に神経症状の悪化なくJCS:I-levelであった.徐々に離床し,歩行退院に
至った.【考察】椎骨脳底動脈unionから脳底動脈にかけてfenestrationを伴った症例
は稀であり,fenestration部のにaneurysmを認め,endovascular therapyにより良好
な結果を得られたので報告する.
B10 脊髄硬膜動静脈奇形(spinal d AVF)硬膜外nidusを最初に処理した一例
野中 康臣1、伊藤 昌徳1、三科 秀人1、園川 忠雄1、大石 英則2、新井 一2
東京都保健医療公社東部地域病院1)、順天堂大学脳神経外科2)
【症例】66歳男性【主訴】両下肢筋力低下、歩行障害【現症】H15.12月頃、一過性の
下肢の(両側)脱力感、歩行困難、一過性の尿の出しにくさを認めた。歩行障害が増
悪し、MRI施行、spinal AVFを疑い、当科外来を紹介。脊髄血管撮影施行後、経過観
察中。歩行障害、排尿障害が増悪、入院となった。【神経症状】対麻痺MMT5-、長時
間の立位は困難、歩行失調を認めた。腱反射;両側亢進感覚障害;L1以下の軽度感
覚障害。【画像所見】MRI:T2WI T9∼L1領域髄内背部に高信号域、髄液腔に
worm like flow void。脊髄血管撮影: T7脊髄根動脈から流入Single coil状の血管陰
影 あ り 、 dura
lAVF と 診 断 し , 手 術 を 選 択 し た 。 【 手 術 】 6.22 手 術 。 左
側T678Hemileminectomy施行。まず、肉芽様の髄外nidusをfeeder遮断後摘出した
(病理所見供覧)。次いで、硬膜を開けると脊髄表面のred vesselは青色化しており、
micrdoppler上信号は検出されなかった。硬膜貫通部でdrainer閉塞を行い手術を終
了した。【術後】足がかるくなり、明らかに歩行しやすくなった。術後MRIでは髄内高信
号は消失していた。術後2週間にて独歩退院、3ヵ月後の血管撮影ではdAVFは消失
していた。【考察結論】脊髄硬膜動静脈奇形(spinal d AVF)は硬膜貫通部でdrainer
閉塞が手術の原則であるが、硬膜外nidusを最初に処理した一例を経験したので、若
干の考察を加え報告する。
B11 前頭蓋底硬膜動静脈瘻の一例
冨田 丈博1、中島 伸幸1、橋本 孝朗1、佐野 哲郎1、秋元 治朗1、三木 保1、原岡
襄1
東京医科大学 脳神経外科
【はじめに】硬膜動静脈瘻の中で前頭蓋底部のものは頻度が低いが、出血の危険性
が高いといわれている。今回、出血で発症した前頭蓋底硬膜動静脈瘻を経験したの
で文献的考察を加えて報告する。【症例】56歳の男性。めまい、頭痛に引き続き意識
障害が出現し救急搬送された。搬送時、意識レベルJCS 300、瞳孔不同(右4.0 左
6.0)、対光反射は消失していた。頭部CTにて左前頭葉の脳内血腫および左硬膜下
血腫を、脳血管撮影では両側前篩骨動脈が前頭蓋底で動静脈短絡を認め皮質静脈
から上矢状洞に流出する硬膜動静脈瘻を認めた。両側前頭開頭で両側から硬膜に
入り込む流入動脈を焼灼、左前頭蓋底にあった拡張した静脈は硬膜側で焼灼し、手
術は終了となった。術後の血管撮影で、右前篩骨動脈から微細な血管網を介して動
静脈短絡の残存を認めたため再手術で血管網を焼灼した。その後、徐々に意識は改
善傾向を示した。【考察】前頭蓋底部の硬膜動静脈瘻は静脈洞を介さずに直接頭蓋
内静脈に逆流するため、非常に出血の危険性が高い。治療は直達手術で流出静脈
を起始部で確実に処理することが必要であるが、今回のように流入動脈の微細な血
管網を処理する事も重要である。これらの病態、治療に関して考察を加える。
B12 内頚動脈遮断が原因と考えられる高度内頚動脈狭窄症を呈した1例
阿部 肇1、越智 崇1、山田 明1、山田 正三1、臼井 雅昭1
虎の門病院 脳神経外科
内頚動脈狭窄の原因は、動脈硬化によるものが一番多いとされている。今回我々は
くも膜下出血時のproximal controlとして内頚動脈起始部を遮断し、その部位が高度
狭窄を呈した症例を経験したのでこれを報告する。症例は66才女性、平成15年1月
に 左 IC-PC 動 脈 瘤 の 破 裂 に よ る SAH 発 症 、 他 院 に て 手 術 が 行 わ れ 、 こ の 際
にproximal controlとして左内頚動脈起始部を遮断した。術後経過は良好で独歩退
院した。入院時の脳血管撮影にて脳底動脈先端部の動脈瘤が疑われ、その精査に
ついて同年11月当院脳血管内治療科を受診した。特に脳底動脈瘤は認めなかった
が、左内頚動脈起始部がメッシュ状に造影され、また頚部エコーにてもflowが弱いた
め手術適応と考えCEAを施行した。術後の検査では特に問題は認めなかった。瘢痕
性狭窄と考えられ病理組織学的にも瘢痕性病変であった。これらのことから、内頚動
脈遮断を行った症例についてはフォローとして頚動脈狭窄の有無を確認する必要が
あると考える。
B13 第三脳室海綿状血管腫の一手術例
久保 篤彦1、山本 勇夫1、田邉 豊1、坂田 勝巳1、菅野 洋1
横浜市立大学 医学部 脳神経外科
海綿状血管腫は中枢神経系のいずれの部位にも認められる血管奇形であるが、そ
のほとんどはテント上に発生する。今回われわれは腫瘍内出血を繰り返した第三脳
室海綿状血管腫の一例を経験し、anterior transcallosal approachにより一塊として
全摘出し良好な結果を得たので、文献的考察を加え報告する。症例は47歳男性。起
床時の前頭部痛と尾骨部痛で発症、近医で鎮痛剤を処方されたが頭痛および頚部
痛が軽快しないため発症一週間後に当科初診。意識清明であったが、項部硬直を認
め、頭部CTでは第三脳室に限局した脳出血を認めた。MRIにて海綿状血管腫と診断
し保存的加療を行っていたが、発症三週間後に突然の意識障害(20/JCS)が出現し、
再出血および急性水頭症を呈していたため、緊急脳室ドレナージ術を施行した。その
二週後interhemispherical transcallosal approachによりinterforniceal routeで第三
脳室へ到達すると、腫瘍は左側壁に強く癒着していた。腫瘍を一塊にして摘出した後
、中脳水道の開存を確認し手術を終刀した。術後は良好な経過を得ている。第三脳
室に発生する海綿状血管腫は極めて稀である。治療法として、保存的加療、手術に
よる摘出術および放射線療法が考えられるが、本例のように出血を繰り返す例や、
大きな血腫を伴う例、神経脱落症状のある例に対しては手術の良い適応であり、今
回のapproachは脳の損傷を最小限にとどめ得る良い方法であった。
B14 脳腫瘍との鑑別が困難であった脳内血腫の1例
佐藤 健一郎1、青木 和哉1、木村 仁1、上田 守三1、鮫島 寛次1、高橋 啓2
東邦大学 医学部 大橋病院 第2脳神経外科1)、東邦大学 医学部 大橋病院 病
院病理学2)
脳出血は通常突然発症するが,今回我々は,1ヶ月半の経過で神経症状が徐々に悪
化し,脳腫瘍の腫瘍内出血との鑑別が困難であった症例を経験したので,文献的考
察を加え報告する。症例は77歳男性,前立腺癌のため治療中であった。平成16年6
月上旬より左顔面神経麻痺が出現し,徐々に悪化した。7月に入って左片麻痺が出
現した為関連病院を受診し,CT,MRIにて脳出血と診断され保存的加療を行ったが
,脳浮腫の増強,神経症状の悪化を認めた為,脳腫瘍腫瘍内出血を疑い,当院紹介
入院となった。CT,MRI,ガリウムシンチ,タリウムシンチ,血管撮影を施行したが確
定診断に至らず,開頭摘出術を施行した。腫瘤は灰白色で比較的硬く,境界明瞭で
容易に全摘出できた。病理所見では石灰沈着を認め,新旧の出血を示しており,血
管腫などは認められなかった。摘出後は速やかに臨床症状,脳浮腫とも改善し独歩
退院した。病理学的にも出血源は同定できなかったが,特異な臨床経過を示した本
例を,若干の文献的考察を加え報告する。
B15 クモ膜下出血で発症した術前診断が困難であった視神経血管腫の一例
白水 牧子1、立見 智子1、石井 映幸1、清水 聡子1、藤巻 高光1、中込 忠好1
帝京大学 医学部 脳神経外科
(目的)今回我々は視野欠損を伴うくも膜下出血で発症した視神経血管腫の症例を
経験した。 術前の画像診断で、出血源の診断が困難であり脳動脈瘤以外の原因も
考慮し手術を行った。病理診断は視神経血管腫であった。この症例について若干の
文献的考察を加えて報告する。 (症例)37歳男性。数日間で進行した頭痛と視野障
害を主訴に眼科を受診。視野検査にて1/4盲を認め、頭部単純CTで左視神経周囲
の脳槽に限局する高吸収域を認めた。当科紹介となり、くも膜下出血と診断、脳血管
撮影術、MRIを施行した。脳血管撮影でRt. A1-A2 junctionに動脈瘤を疑わせる所見
があった。MRIでは左視神経周囲の出血と、左視神経内にやや不均一な高信号域を
認め、鑑別診断として血管奇形、腫瘍性病変によるくも膜下出血も考慮し、手術を行
った。
手術は右前頭側頭開頭で行った。動脈瘤は認められなかったが左視神経外
側から視交叉にかけて膨大し、出血により変色していた。同部位を切開すると血腫が
認められ、これを除去した。 一部に線維性組織があり病理に提出したところ
cavernous angiomaであった。術後、視野欠損はやや改善、独歩にて退院となった。
(考察)視神経卒中の原因としてcavernous angiomaは比較的稀である。今回、出血
が視神経周囲に限局していたこと、視野欠損を伴うが血管撮影上疑われた動脈瘤は
数mmであったことから腫瘍性病変、血管奇形の可能性も考え、造影MRIを行った。
その結果、左視神経内の不均一な病変の存在を認め、血管奇形等の可能性も考慮
し手術を行うことができた。 (結論)くも膜下出血にて発症した視神経血管腫につい
て報告した。視神経血管腫は比較的稀な疾患である。術前の画像診断で、出血源の
診断が困難であったが、視束に沿った出血を伴うクモ膜下出血の場合、本疾患も考
慮して手術をすべきものと考えられた。いくつかの特徴から血管奇形等の可能性も考
慮し、手術を行った。
B16 稀な画像所見、術中所見を呈した小脳血管芽腫の一例
嵯峨 伊佐子1、林 拓郎1、宮崎 宏道1、石山 直己1
平塚市民病院 脳神経外科
〔緒言〕小脳血管芽腫の典型的な画像所見は,大きな1つのcystを形成する壁在結節
の像を呈し,後頭蓋窩に発生する血管芽腫のうち約65%がこのタイプである。また,
cystを持たない充実性の所見を呈するものが約25%とされ,その他,cystのみである
もの,充実性の結節の中にmicrocystsを持つものがそれぞれ数%ずつ報告されてい
る。また、外科的摘出においては、壁在結節の全摘出とcystの開放が通常の方法で
ある。今回,画像上いずれの分類にも属さず、特異な術中所見を呈した小脳血管芽
腫の1例を経験したので報告する。
〔症例〕67歳,男性。主訴は失調歩行,高度のふらつき。MRIでは左小脳橋角部に長
径約5cm,T1にて低信号,T2にて高信号を呈し,内部には数個のcystを有する均一
に造影される腫瘍を認めた。経過,血液所見,全身シンチから,悪性腫瘍は否定的
であった。左後頭下開頭腫瘍摘出術を施行し、術中所見は易出血性であるが,白色
の充実性腫瘍であり,迅速病理は神経鞘腫を示唆する所見であった。QOLを重視し
,頚静脈孔付近の腫瘍は残し,piecemealに摘出しnearly total removalとした。術後
、小脳症状は消失したが,病理診断では,典型的な血管芽腫の所見であった。術後
のMRIでは,腫瘍の外側部に一部残存を認めるのみで,再増大は認めていない。
〔考察〕小脳血管芽腫の画像所見は,Constansらによって4タイプに分類されている。
ま た , Lee ら も 3 タ イ プ に 分 類 し て い る が , い ず れ も , cyst with mural nodule ,
solid formの2タイプが大部分を占めている。本症例は,充実性の腫瘍本体の内部に
数個の比較的大きなcystを持つタイプで,いずれにも分類されず,また血管芽腫であ
りながらpiecemealに摘出可能であった比較的稀な1例と考えられた。
B17 腰椎flavum cystの一例
宮崎 親男1、朝本 俊司1、土居 浩1
東京都立荏原病院 脳神経外科
【症例並びに経過】86歳、男性。intermittent claudicationを主訴に当科受診。精査の
結果、L5/S1の右側硬膜外にcystを疑わせるmass lesion並びにL4/5に変性に伴う
canal stenosis を 認 め た 。 術 前 の MRI 、 CT-myelography で は 、 cystic lesion
はligamentum flavumに発生したcystがもっとも考えられた。【治療】高齢ではあった
が、生活年齢が若く、もともとのADLは十分に自立していたため、外科的治療の適応
があると判断され、L5のlaminectomy及びL4/5並びにL5/S1のflavectomyを施行し
た。術中所見では、L5/S1のligamentum flavumの表面にはcystは存在しなかったが
、割面にて術前のMRIどうりのcystic lesionが認められた。【術後】経過は極めて良好
で、claudicationは著明に改善しADLも従来のように自立し、独歩退院した。Cystの
病理所見は、いわゆるganglionで、synovial cystとは異なるものであった。【結論】
Ligamentum flavumに発生するcystの報告は過去にいくつか散見されるが頻度的に
は極めて珍しい。いわゆるJuxtafacet cystの一つであるが、発生機序等を含め、本疾
患に対する詳細な報告をしたい。
B18 成人発症した脊髄係留症候群の一例
奥田 宗央1、糸川 博1、野田 昌幸1、鈴木 龍太1、浅井 潤一郎1、長島 梧郎1、松
永 篤子1、張 智為1、遠藤 秀1、藤本 司1
昭和大学 藤が丘病院 脳神経外科
【はじめに】脊髄係留症候群は、脂肪腫・肥厚した終糸・先天性皮膚洞などにより円錐
や馬尾が係留され、成長や脊柱の動きに伴う脊髄の正常な上昇が妨げられて、成長
期や脊椎の加齢変化に伴って発生する症候群に対して用いられる呼称である。しば
しば小児期に発症するが、成人期になってから発症した症例の報告も散見される。今
回われわれは、成人期に発症した脊髄係留症候群の一例を経験したので報告する。
【症例】34歳、女性。生下時よりL2レベルの皮膚隆起と、その尾側にdimpleを認めて
いたが、神経症候は認めず、30歳時には正常分娩による出産を経験している。33歳
頃から両側下腿後面の違和感が出現し、翌年には両側足底部から下腿後面にかけ
て、疼痛が出現した。転倒による左足関節捻挫を機に、近医にて加療を受けるも疼
痛が遷延したため精査したところ、CTにてL2およびL3の椎弓破裂を認めた。MRIで
は同部背側に脂肪腫を認め、脊髄が脂肪腫に付着する形で係留されていた。この症
例に対し、SEPモニタリング下に脂肪腫の摘出ならびに脊髄のuntetheringを行った。
術後、膀胱直腸障害は出現せず、両下肢の疼痛も軽快した。現在1年5ヶ月が経過し
たが、疼痛の再発や神経所見の悪化は認めていない。【まとめ】脊髄高位に存在する
脂肪腫によって生じる脊髄係留症候群は、終糸に存在する場合と比べ手術操作が複
雑となりやすく、surgical outcomeの悪化する例が報告されている。本症例では幸い
spinal cordを損傷することなくunthetheringすることができ、術後神経所見の改善が
得られたが、文献的には術後数年間の経過が良好でも長期的な予後が悪化する例
も報告されており、今後も長期にわたる経過観察が重要と考えられた。
B19 特発性脊髄ヘルニアの1例
長岐 智仁1、藤巻 広也1、鈴木 智成1、登坂 雅彦1、齊藤 延人1
群馬大学 大学院医学系研究科 脳脊髄病態外科学
(はじめに) 特発性脊髄ヘルニアは硬膜に生じた欠損部に脊髄が陥入することで脊髄
横断症状が生じる希な疾患で、近年報告が増えつつある。外科的治療を行った1例
を経験したので画像所見と手術所見について文献的考察を加え報告する。 (症例)
症例は44才女性、数年前より右下肢の感覚異常、左下肢の筋力低下、腰痛などが生
じ近医にて腰椎椎間板ヘルニアの手術を施行された。その後も両下肢の感覚異常と
筋力低下が進行性であり精査目的に当科受診。胸椎MRIにてTh5/6レベルに脊髄の
"く"の字型の前方変位を認め、特発性脊髄ヘルニアと診断した。手術を施行すると硬
膜欠損部は胸椎腹側部に存在し14 x 5 mmの大きさの楕円形で辺縁はsmoothであ
った。陥入した脊髄と硬膜との癒着は少なく容易に剥離された。硬膜欠損部分
をGOATEXを用いて形成した。術後、術前同様両下肢の感覚異常と筋力低下が残
存した。(結語)当症例は、症状の進行を防ぐことはできたものの、著しい改善は得ら
れなかった。今後、その診断と手術戦略について十分検討する必要がある。
B20 頚椎に発生した線維性骨異形成の1例
土屋 掌1、金 太一1、中島 美智1、豊田 富勝1、谷島 健生1
東京厚生年金病院 脳神経学科
線維性骨異形成は線維性結合組織と未熟な線維性骨により構成される骨腫瘍類似
疾患である。骨のどの部位にも起こりうるが、大腿骨、脛骨、骨盤、肋骨などの頻度が
高く脊椎に発生するのは極めて稀である。今回我々は頚椎に発生した線維性骨異形
成の1例を経験したので報告する。患者は52歳男性、主訴は頚部痛。8ヶ月前より左
手脱力を自覚していた。1ヶ月前に 急激な頚部痛を自覚、他院にて頚椎MRIで脊椎
腫瘍の可能性を指摘され当院紹介受診。特記すべき既往歴、家族歴はなし。神経学
的には左上肢不全単麻痺 (MMT4/5)
頚部∼両肩部の疼痛、両上肢のしびれ
、C5-T2までの痛覚過敏、便秘、頻尿傾向を認めた。頚椎X線では第4、5椎体の著
明な骨破壊があり、MRIではC4/5椎間腔、椎体前面、脊柱管内にT1 low T2 high,Gd
でenhanceされるmassを認めた。Angiographyでは病変部に一致して著明な濃染像
を呈した。画像所見から鑑別診断として転移性脊椎腫瘍、脊椎炎等を考えた。腫瘍
マ ー カ ー 、 炎 症 所 見 は 陰 性 で あ っ た 。 Anterior cervical decompression
(C4 verterectomy) 施行。Piece by pieceに腫瘍を摘出。チタン製のPYRAMESH、
プレートを用いて前方固定した。病理診断はFibrous dysplasiaに炎症所見を伴って
いるという結果であった。術後神経学的所見は改善。Follow up のX線、MRIでは椎
体の固定と脊髄の除圧は良好。術後1ヶ月で退院となった。頚椎の椎体破壊
、Angiographyでの濃染を認め転移性脊椎腫瘍等との鑑別に難渋した1例を報告し
た。今後鑑別診断の一つとして考慮に入れる必要があると考える。
B21 segmental spinal dysgenesisによる著明な脊髄圧迫を認めた1例
中野渡 智1、関戸 謙一1、佐藤 博信1、山本 勇夫2
神奈川県立こども医療センター1)、横浜市立大学 医学部 脳神経外科2)
我々はL1-2レベルにsegmental spinal dysgenesisにより、脊柱管が変形・狭窄し、
脊髄が右後方へ偏位・圧排を認めた1例を経験したので報告する。 症例は生後2ヶ
月の女児。生下時、腰背部に径4×5cm大の皮下腫瘤と両側内反足を認めた。L3以
下の運動麻痺とDTR消失あり。画像上、L3以下に脊髄脂肪腫とL1-2椎体椎弓の前
後方向の分離変形による脊髄の偏位・圧迫所見を認めた。 日齢6日目、L1-2椎弓
切除・除圧術施行。L1-2椎体の前方部は余剰骨で脊椎の安定性は保たれていなか
った。術後、腹臥位安静保持し、今後は整形外科でL1-2内固定術予定である。
脊
椎椎体の奇形はsegmental spinal dysgenesis等として報告が散見されるが極めて
稀で、今回文献的考察を加えて報告します。
B22 眼サルコイドーシスの経過観察中発症した神経サルコイドーシスの一例
大倉 英浩1、寺西 功輔1、大供 孝1、畑下 鎮男1、上野 日出男1
順天堂大学附属順堂浦安病院 脳外科
視力障害にて発症した神経サルコイドーシスの一例を経験したので報告する。症例:
24才、男性。主訴:左視力障害。現病歴:2004年2月、入社時検診にて両側肺門リン
パ節腫脹(BHL)を指摘され、肺サルコイドーシスと診断された。同時期の眼科的検査
にて、雪玉状硝子体混濁、軽度の血管周囲炎を指摘され、眼サルコイドーシスと診断
されたが、非活動性病変と考えられ点眼薬にて経過観察がなされた。同年5月頃より
左視力低下を自覚、精査加療目的にて入院した。既往歴:特記事項無し。神経学的
所見:左視力は指数弁、左対光反射消失。左眼底所見:鬱血乳頭(-)、血管炎(-)、肉芽
腫 (-) 。 髄 液 検 査 : 初 圧 130mmH2O, 無 色 透 明 、 細 胞 数 4/3( 単 球 の み ) 、 蛋 白
35mg/ml, 糖63mg/ml、ACE0.2 IU/L、細菌培養陰性。画像所見:胸部レントゲンで
は以前指摘されたBHLは消失。頭部CTにてトルコ鞍上部脳槽に、約1.5cm大、等吸
収値を呈する腫瘤。脳室拡大無し。頭部MRIではT1では等信号、T2では等-高信号
を呈する多結節性腫瘤で、造影後ほぼ均一に増強。また、大脳半球間裂、左側頭葉
穹隆部に増強される小さな腫瘤。頚部リンパ節生検による病理組織学的所見:類上
皮細胞からなる肉芽腫であり、組織学的にサルコイドーシスと診断。治療経過:ベタメ
タゾン6mg/day投与開始から1週間後、左矯正視力 1.2、対光反射迅速。MRIにて
腫瘤の著明な縮小を認めた。ステロイド減量後、症状悪化なく退院。外来にてステロ
イド投与継続中である。結論:サルコイドーシスの経過中に、視機能障害が進行した
場合は神経サルコイドーシスの迅速な鑑別診断及び治療が重要である。
B23 術前多発性脳腫瘍と鑑別が困難であった脱髄病変の1例
古屋 優1、松森 隆史1、吉田 浩1、榊原 陽太郎1、田口 芳雄1
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 脳神経外科
症例:61歳、男性。2ヶ月前より進行する記名力障害・右不全片麻痺・右知覚鈍麻を
主訴に来院。頭部MRIにて脳浮腫を伴い造影増強効果を有する傍側脳室腫瘍性病
変を認め入院となった。中枢神経系原発悪性リンパ腫・転移性脳腫瘍を念頭に、第2
病日にopen biopsyを施行した。病理所見では脱髄変化のみであった。第3病日に行
った脳脊髄液検査にてIg G 5.9mg/dl、オリゴクロナールバンド陽性を示した。これら
の結果から多発性硬化症が強く疑われ、第3病日、第17病日にステロイド・パルス療
法を行い右不全方麻痺、知覚鈍麻は改善を得たが、記名力障害は残存した。第59
病日、独歩退院となった。脱髄疾患の画像診断において、まれに脳浮腫を伴うリング
状造影増強効果を呈し、多発性脳腫瘍との鑑別に苦慮する症例が報告されている。
今回われわれは術前、多発性脳腫瘍と診断したが、病理学的・免疫学的検索により
多発性硬化症と診断された一例を経験したので、その臨床的特長など文献的考察を
含め報告する。
B24 動眼神経麻痺で発症した梗塞性下垂体卒中の一例
武川 麻紀1、高里 良男1、正岡 博幸1、太田 禎久1、早川 隆宣1、今江 省吾1、菅
原 貴志1、山本 崇裕1、宮脇 博基1
独立行政法人国立病院機構災害医療センター
症例は75歳男性。2004年8月、突然の頭痛と左眼瞼下垂で近医受診し、動脈瘤疑い
で当科外来紹介受診。CTでトルコ鞍部にmass lesionを認めた。MRIT1強調画像で
は 辺 縁 で high intensity 、 中 心 で low intensity を 示 し 、 T2 強 調 画 像 で は 不 規 則
にlow∼iso intensityを示した。脳血管撮影では動脈瘤等の異常血管はなく、腫瘍濃
染像もみられなかった。入院時神経学的には瞳孔不同(右2.5mm、左4.5mm)、左対
光反射消失、左眼瞼下垂、外転以外の左眼球運動障害がみられた。下垂体腺腫に
伴う出血が疑われ、同年9月6日経鼻的下垂体腫瘍摘出術施行した。摘出組織は黄
色∼暗赤色の糠粃様の組織であり、血腫はみられなかった。経過良好で独歩退院さ
れ、退院後徐々に動眼神経麻痺は改善していった。病理組織学的には壊死組織が
中心であり、下垂体腺腫内の梗塞巣と考えられた。下垂体卒中の多くは虚血性であ
るが、卒中様の症状で発症する症候例では出血性であることが多い。今回、我々は
稀な梗塞像を呈した症候性下垂体卒中の1例を報告した。
B25 脳神経外科における新たな術中画像診断の試み-アンギオ装置によるCTスキ
ャン画像入江 是明1、村山 雄一2、高尾 洋之1、荏原 正幸1、石橋 敏寛1、佐口 隆之1、阿
部 俊昭1
東京慈恵会医科大学 脳神経外科1)、東京慈恵会医科大学 脳神経外科 脳血管内
治療部2)
我々は, risk hedge を最大のコンセプトとする脳血管障害治療専用手術室を2003
年11月に開設し,脳血管造影から血管内治療,開頭手術までをone-bedで患者の移
動なしに施行している.この手術室に,Soft Tissue Visualizationと呼ばれるアンギオ
装置によるCTスキャン機能を国内初で導入し,これまでのアンギオ装置では不可能
であった頭蓋内の詳細な断層撮影を手術中に試みた.対象は,脳動脈瘤コイル塞栓
術,脳動静脈奇形塞栓術,頚動脈ステント留置術,頚椎前方固定術,頚椎椎弓形成
術を施行された患者,合計10名で,MDCT(multidetector computed tomography)画
像と比較し評価した.その結果,骨,石灰化病変およびX線不透過性物質は明瞭に
描出され,比較的厚い血腫,脳室,小脳テントおよび大脳鎌は視認可能であった.少
量の出血は確認が困難だった.今後,低コントラスト領域での画質向上が課題である
が,術中診断としてSoft Tissue Visualizationは単純かつ有用であった.今後,モダリ
ティとしての需要は高いと考えられる.