松岡優介

受験業界に明日はあるのか
~熾烈な生き残り争い~
国際地域学部国際地域学科 3 年
1810100101 松岡優介
ステップ0 はじめに
私は現在、塾の講師のアルバイトをしている。また将来的には学校の先生を含めた教育
業界に就職したいと考えている、そのためもっとこの業界を詳しく知りたいと思い、教育
業界を分析することとした。また近年大学の進学率は 50%以上に上昇し多くの人が高校受
験や大学受験のために塾や通信教育、予備校を利用するようになり我々にとって身近な存
在となっている。
今回は関東地方で大きなシェアを誇る早稲田アカデミー(平成 22 年三月現在、売上 164
億円)
、静岡、愛知ではシェアトップとなっている秀英予備校(平成 22 年三月現在、売上
136 億円)を分析することとする。
業界の現状
尐子化の影響から日本の各地の学校でクラスの縮小や学校の統廃合などが進んでいる、そ
れと同じくして塾業界も急速に縮小しているように思われがちであるが、実はその縮小の
規模は極めて緩やかとなっている。その要因となっているのが中高一貫校を中心とした中
学受験者の増加が挙げられる。また、尐子化により親が一人の子供に費やすお金が増え塾
に子供を通わせる家庭が増えていることも考えられる。
しかしながら、尐子化の波は抑える事が出来ず今後は尐しずつ下降していくものと考え
られる。
企業の概要と戦略
(1)秀英予備校
本社:静岡県静 岡 市 葵 区 鷹 匠 2 丁 目 7-1
代表者:渡辺武
創立:1984 年 11 月 1 日
秀英予備校は静岡県、愛知県、岐阜県などの東海地域を中心に展開している学習塾だ。大
手 3 予備校を除いては東海地域でシェアナンバーワンを誇る。
「秀英は学力低下に真正面か
ら挑みます」をモットーに小学 2 年生から高卒生までを小中高一貫指導を行っている。
特徴として挙げられるのが「100%プロ講師」だ。秀英予備校では他の学習塾や予備
校と違い授業を行う講師がすべて正社員となっている。
また他県への進出に伴い福島県の学習塾東日本学院を完全子会社化、東海地区に止まら
ず、北海道、宮城県、福岡県など全国展開を進めている
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(2) 早稲田アカデミー
代表者:瀧本司
創立:1979 年 7 月 17 日
本社:東京都豊島区池袋二丁目 53 番7号
早稲田アカデミーは創業者が本業の傍ら始めた学習サークルがその起源となっている。
1985 年、商号を株式会社早稲田アカデミーとした。
「本気でやる子を育てる」という教育理
念のもと私立難関中学受験を中心に事業を展開している。実績として早慶付属中学合格者
数 12 年連続業界ナンバーワン、開成中学合格者数 3 年連続業界ナンバーワンなどが挙げら
れる。他の大手予備校とは異なり、講師自身がクラスの運営、生徒との面談等を行うのが
特徴である。
また尐子化、経済状況の悪化により個人消費の減尐の影響で教育業界自体が停滞する中
で「ゆとり教育から学力向上へ」という学校教育の方針変更に素早く対応し、公立中高一
貫校専門のクラスを創設、中学受験をしない小6生を対象とした企画の開発など新たな需
要の拡大を目指している。大学受験系では 2005 年に医療系学部対策の強化にため株式会社
野田学園を完全子会社化、新事業として明光義塾を運営する明光ネットワークジャパンと
資本業務提携、個別指導を専門に行う新たなブランドを創設した。これらの事業展開の結
果、総生徒数 27.448 名(前年比 102.2%)と新たな顧客の獲得に成功している。
3)注意事項、本レポートは 2008 年から 2012 年の秀英予備校、早稲田アカデミーの有価
証券を使用し分析した。また分析では連結経営という視点を重視し、各指標の算出は連結
データを使い行った。また、両社とも決算日は三月末日となっている。
ステップ 1 収益性分析
まず企業の総合的な収益性を測るために代表的な指標である、総資本事業利益率を見て
いく。総資本事業利益率は事業利益(営業利益+受取利息+配当金+持分法による投資損益)
÷使用総資本×100 で表す。
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図表1、総資本事業利益率(ROI)
図表1を見ると、秀英予備校は 2008 年から 2009 年にかけて低下が見られるがその後回復
し、安定している。一方、早稲田アカデミーは 2008 年から 2011 年にかけて大幅な低下が
見られる。
図表 2、総資本(単位:百万円)
図表3、事業利益(単位:百万円)
2008 年
売上高
2009 年
2010 年
2011 年
2012 年
100%
100%
100%
100%
100%
売上原価
84.75%
87.60%
85.09%
86.14%
86.69%
売上総利益
15.25%
12.40%
14.91%
13.86%
13.31%
販売費及び一般管理費
12.18%
11.04%
10.74%
9.70%
10.23%
営業利益
3.07%
1.36%
4.16%
4.16%
3.08%
受取利息
0.55%
0.57%
0.60%
0.61%
0.61%
受取配当金
0.01%
0.00%
0.01%
0.02%
0.02%
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持分法による投資損益
事業利益
0%
0%
0%
0%
0%
3.64%
1.94%
4.77%
4.79%
3.70%
図表4秀英予備校の事業利益の構成
2008
2009
2010
2011
2012
100%
100%
100%
100%
100%
売上原価
71.48%
73.83%
75.07%
75.92%
74.60%
売上総利益
28.52%
26.17%
24.93%
24.08%
25.40%
販売費及び一般管理費
19.83%
19.17%
20.03%
20.72%
20.90%
営業利益
8.69%
7.01%
4.90%
3.35%
6.03%
受取利息
0.04%
0.03%
0.02%
0.01%
0.01%
受取配当金
0.04%
0.01%
0.00%
0.02%
0.07%
0%
0%
0%
0%
0%
8.76%
7.05%
4.92%
3.39%
4.57%
売上高
持分法による投資損益
事業利益
図表5早稲田アカデミーの事業利益の構成
図表4,5は売上高を 100%とした際の指数を示したグラフである。図4の秀英予備校を
見ていくと 2009 年の営業利益、事業利益が大きく減尐していることが分かる。その理由と
して同年度に行われた九州地区、北海道地区への事業拡大が考えられる。秀英予備校は新
規開校のキャンペーンとして九州、北海道、宮城県の新規開校した校舎で授業料 0 円キャ
ンペーンを実施し、新規の顧客獲得を狙った。そのため次年度ではある程度の数値の回復
が見てとれる。
一方早稲田アカデミーも 2008 年から営業利益、事業利益の低下が見られる。これは売上
総利益の減尐にも関わらず、販売費および一般管理費、売上原価の増加が考えられる。
塾、予備校において売上原価の中身は人件費や賃借料である、つまり早稲田アカデミー
は新規校舎の開校を進めていったことが分かる。
次に自己資本利益率(ROE)を見ていく。これは当期純利益を株主資本で割ったも
のである。株主から見た収益性の指標であり、株主が出資した資本をもとに、どの程度の
利益をあげたのかを測定する。
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図表6、自己資本利益率(ROE)
図表 6 は秀英予備校、早稲田アカデミー両社の自己資本利益率の推移を表したグラフで
ある。秀英予備校は全体を通して 0%以下であることが多く、とても低い水準にある。また、
2010 年から 2011 年にかけて大きな減尐が見て取れる。早稲田アカデミーは 2008 年から
2011 年までに 10%以上の大幅な減尐がみられる。また数値に差があるものの 2010 年から
2012 年にかけては秀英予備校と似たような数値の変化をとっている。
次に、この変化の原因を追及するために自己資本利益率を構成している当期純利益と株
主資本を見ていく。
図表7、当期純利益(単位:百万円)
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図表 8、株主資本(単位:百万円)
図表 7、図表 8 を比べてみると自己資本利益率と当期純利益の動きがよく似ていることが
分かる、また株主資本は秀英予備校に若干の減尐があるもののとりわけ大きな動きは見る
ことができない。
では、なぜ秀英予備校は 2011 年にこれほどまでの減尐を見せたのだろうか。秀英予備校
は平成 19 年に株式会社東日本学院を連結子会社とし福島県で事業を展開している、また全
国展開の一環として宮城県をはじめとした東北地方にも校舎を開設していった。そのため
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災、福島原発事故により甚大な損失を被ることとなってし
まった。
さらに、ROE は売上高当期純利益率(当期純利益÷売上高×100)、総資本回転率、
(売
上高÷総資本×100)
、財務レバレッジ(総資産÷株主資本)の三つに分ける事が出来る。
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図表 10、総資本回転率(単位:回)
図表9、売上高当期純利益
まず、図表 9.10 を見ていく。まず目につくのは ROE と売上高当期純利益率のグラフの
形がよく似ていることが分かる、また総資本回転率をみると秀英予備校が 0.5 を推移してい
る低い値となっている。これらの表を見る限り ROE には売上高当期純利益率が大きな影響
を与えていると考えられる。
図表 11、財務レバレッジ
自己資本比率の逆数である財務レバレッジをみると早稲田アカデミーの方がその値が大
きく他人資本の割合が大きいことが分かる。
ステップ 2 安全性分析
次に安全性分析に移る。ここでは両社の資金調達や投資状況を連結キャッシュフロー計
算書を見ながら考えていく。その後、安全性に関する各指標である流動比率、当座比率、
自己資本比率、固定長期適合率、インタレスト・カバレッジ・レシオを見ていく。
図表 12 は両社のキャッシュフロー計算書 2 年分の主要項目をまとめたものになっている。
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連結キャッシュフロー計算書
秀英予備校
20011 年
早稲田アカデミー
2012 年
2011 年
2012 年
1、営業活動によるキャッシュフロー
税金等調整前当期純利益
-2,031,113
337,526
375,914
948,079
802,779
722,356
509,351
579,813
1,987,605
-
-
その他の資産の増減額
0
0
12,699
113,433
その他の負債の増減額
0
0
-63,501
243,225
940,744
723,154
967,281
1,477,350
投資有価証券の取得による支出
0
0
-328,351
-10,000
投資有価証券の売却による収入
-
5,467
51,551
-
有形固定資産の取得による支出
-287,370
-100,832
-204,978
-377,672
有形固定資産の売却による収入
0
0
-
554,218
無形固定資産の取得による支出
0
0
-191,535
-140,652
敷金及び保証金の差入による支出
-105,804
-125,497
-180,052
-180,652
敷金及び保証金の回収による収入
459,008
476,423
14,976
54,176
投資活動によるキャッシュフロー
-2,245
224,527
-845,658
-25,401
短期借入金の純増減額
-733,020
55020
-
△100,000
長期借入れによる収入
1,170,000
-
436,000
200,000
-848,990
-847,954
-104,280
-295,610
配当金の支払額
-80,396
-80,804
-207,672
-208,161
リース債務の返済による支出
-79,633
-96,972
-207,672
-208,161
-612,072
-970,711
57,635
-782,449
-
-
-
-
326,426
-23,029
179,258
669,499
減価償却費
減損損失
営業活動によるキャッシュフロー
-
2、投資活動によるキャッシュフロー
3、財務活動によるキャッシュフロー
長期借入金の返済による支出
財務活動によるキャッシュフロー
現金及び現金同等物に係る換算差額
現金及び現金同等物の増減額
図表 12(単位:千円)
1、 秀英予備校
営業活動によるキャッシュフローを見ていくと約72億円と減尐となった、これは今ま
で半期分諸経費を月額徴収に変更したために前受金が減尐したためである。投資活動によ
るキャッシュフローを見ると、新校舎の建設を抑えることによって有形固定資産の取得に
関する支出が減尐した結果、約22億円と大幅な収入獲得となった。財務活動のキャッシ
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ュフローを見ると支出が増加しているがこれは設備投資の抑制により、長期借入金の返済
が進んだためである。
2、 早稲田アカデミー
早稲田アカデミーの営業活動によるキャッシュフローでは当期純利益の増加により大き
く増加している。投資活動のキャッシュフローでは差入保証金、統合新システムとしての
開発費用としての無形固定資産の取得が原因で大きな減尐となった。財務活動によるキャ
ッシュフローでは長期借入金の返済、自己株式の取得の増加により大きな支出となった。
次に流動比率、当座比率、自己資本比率、固定長期適合率、インタレスト・カバレッジ・
レシオを見ていく。
図表 13 、流動比率
図表 14、当座比率
まず短期的な支払い能力を示す代表的な比率である流動比率(流動資産÷流動負債×
100)
、当座比率(当座資産÷流動負債×100)を見ていく。また、流動比率は 200%以上、
当座比率は 150%以上が好ましいとされている。
両図表をみると秀英予備校、早稲田アカデミーともに好ましい数値に到達はしていない。
しかしながら、どちらの比率も早稲田アカデミーの方が数値が大きく、安全性は秀英予備
校に比べてとても高いことが分かる。また、早稲田アカデミーは 2011 年から 2012 年の間
で大きく数値を伸ばしている。これは 2012 年に大きな利益を得たために所有する現金が増
えたためである。
次に長期的な支払い能力を示す代表的な比率である自己資本比率(自己資本÷総資本×
100)
、固定長期適合比率(固定資産÷(自己資本+固定負債)×100)を見ていく。
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図表 15、自己資本比率
図表 16、固定長期適合比率
自己資本比率が高いということは利子を支払う負債が尐ないことを意味し、経営の
安定度が高まるとともに外部の債権者にとっての安全度が高いことを意味する。
図表 15 をみると秀英予備校が終始数値が高く、負債の割合が尐ないことが分かる。
次に固定長期適合比率を見る、固定長期適合比率はその値が 100%以下であることが
望ましいとされている。図表 16 を見ると両社とも値が 100%を超えていることが分か
る。秀英予備校は値がほぼ横ばいであるが早稲田アカデミーはこの五年間で尐しずつ
値を下げていることが分かる。
以上のことから両社とも短期、長期の支払い能力は理想的な数値に達していないが
どちらとも徐々に改善傾向にある。また多くの値は早稲田アカデミーの方が優れてお
り、安全性は早稲田アカデミーが高いと考えることができる。
図表 17、インタレスト・カバレッジ・レシオ(単位:倍)
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安全性分析の最後にインタレスト・カバレッジ・レシオ(
(営業利益+受取利息+受取
配当金)÷支払い利息)を見ていく。この数値は支払わなければならない利息の何倍
を稼いでいるかを表している。早稲田アカデミーは自社の営業利益の低下から 2011 年
までに大きく値を落としている、これは先ほど触れた売上原価の上昇が原因である。
また 2012 年には数値が大幅に回復している。秀英予備校を見るとこの値が極めて低く
停滞を続けていることが分かる。
ステップ 3 効率性、安全性分析
次に効率性、生産性を分析していく。収益性の部分で触れた総資本回転率をもっと
詳しく見るために 4 種類の資産に分け、その資産ごとの回転率を見ていく。4 つの資
産は棚卸資産、有形固定資産、売上債権、投資その他の資産である。なお、棚卸資産
は 2009 年度より会計基準が変更されたため以降秀英予備校は商品、貯蔵品の和で計算
し、早稲田アカデミーは商品及び製品、原材料及び貯蔵品の和で計算しその解を棚卸
資産とした。
図表 18、棚卸資産回転率(単位:回)
図表 19、有形固定資産回転率(単位:回)
まず棚卸資産回転率(売上高÷棚卸資産)を見ていく、図表 18 を見ると秀英予備校、
早稲田アカデミー両社とも大きな変化は見られない。また秀英予備校は早稲田アカデ
ミーに比べ 2009 年を除くすべての年度で在庫水準の値が高いことが分かる。
図表 19 の有形固定資産回転率では早稲田アカデミーが秀英予備校の 3 倍以上の値で
推移していることが分かる、これは秀英予備校の校舎の多くが自社物件であるのに対
して早稲田アカデミーの校舎は賃貸物件が多くこのような差が生じたと考えられる。
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図表 20、売上債権回転率(単位:回)
図表 21、投資その他回転率(単位:回)
図表 20 の売上債権回転率(売上高÷売掛金)を見ると秀英予備校の数値がとても高い事
が分かる。つまり、早稲田アカデミーの方が多く売掛金を保有しているということだ。
次に図表 21 の投資その他の回転率(売上高÷投資その他資産)では秀英予備校は変化が
尐なく早稲田アカデミーは売上高の減尐から 2011 年まで数値を下げていることが分かる。
効率性に関してまとめていくと、以前に触れた総資本回転率では早稲田アカデミーの方
が高い数値となっていた。さらに、これを細かく見っていった各回転率では売上債権回転
率では秀英予備校が上回っている。つまり、早稲田アカデミーは売上高に対して売掛金を
多く保有していることが分かる。
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ステップ 4 成長性分析
成長性分析では売上高、総資本、営業利益、自己資本を 2008 年度の値を1として格変化
図表 22、秀英予備校の成長性(単位:倍)
最初に秀英予備校の成長性から見ていく。総資本は変化がないものの営業利益の増減が
激しくなっていることが分かる、理由として 2009 年の授業料 0 円キャンペーン、2011 年
の東日本大震災が考えられる。
図表 23、早稲田アカデミーの成長性(単位:倍)
次に早稲田アカデミーの成長性を見ていく。営業を利益以外の項目はこの 5 年間で若干
のプラス成長となっているが営業利益は 2012 年に尐し回復しているが結果的に大きく数値
を落としてしまっている。理由として 2008 年以降のリーマンショック、東日本大震災によ
る授業の中断にともなう損失などが考えられる。
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成長性をまとめていくと両者の理想的な右肩上がりの成長とはなっていない、特に秀英
予備校は全体的に下降を続けている、また早稲田アカデミーは営業利益の減尐があったが
売上高や総資産が若干の増加傾向にある。
ステップ 5 グループ経営分析
次にグル―プ経営分析を行う、最初に連単倍率から見ていく、ここでは総資本、売上高、
営業利益、当期純利益の4つを分析する。連単倍率は分母に単体数値、分子に連結数値を
とり、親会社に対してグループ会社の貢献度を図るものである。また、数値は1を超えれ
ば超えるほど、親会社以外のグループ会社の貢献度大きくなる。
図表 24、連単倍率(秀英)
(単位:倍)
図表 25、連単倍率(早稲田)
(単位:倍)
図表 24 から見ていく、すると秀英予備校の連単倍率の数値は売上高、総資本、営業利益
は 1.0 を安定して推移していおり変化が見られないが当期純利益は 2011 年度に-1.0 倍にな
るなど大きな低下が見られた。理由として連結子会社である株式会社東日本学院が福島県
を中心としているために原発の事故の影響により授業を行うことができずこのような大幅
な低下につながったと考えられる。そのため授業を再開している 2012 年度は数値を回復し
ている。また、そのほかの関連会社として有限会社シューエイがある。
次に図表 25 の早稲田アカデミーを見ていく。早稲田アカデミーも同様に当期純利益が大
きく推移しているが売上高や営業利益にあまり変化が見られない。また、早稲田アカデミ
ーの連結子会社として株式会社野田学園があり、
「野田クルゼ」の名称で医療系を含む理系
全般の大学受験予備校を運営している。
次に、事業別、地域別のセグメント経営を見ていく。どちらも授業を主体として展開し
ている企業のため塾経営だけで全他の 90%以上を占めている。
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図表 26、秀英予備校の売上高
図表27、早稲田アカデミーの売上高
図表 26 は秀英予備校のセグメント別の売上高である。小学部、中学部を中心に事業を展
開しているが他の進学塾との違いとして中学受験を考えていない小学生や進学校への進学
を考えていない生徒たちが多いことが特徴である。また、東海地方や九州。北海道などの
地方を中心に展開しているため潜在的に存在している大学受験を希望する高校生の需要を
取り込めていないことが大きな課題となっている。
また、その他の教育事業として映像資料を使った「遠隔ライブ授業」、近年教育業界のト
レンドである個別指導などがある。また、秀英予備校は前講師が正社員であるために、他
の塾と比べ人件費がとても高く、経営を圧迫していた。この「遠隔ライブ授業」の導入に
より人件費を削る戦略をとっている。
早稲田アカデミーも秀英予備校と同様に小学部、中学部だけで 90%ほどの割合を占めて
いる。また高校部は全体の 10%にしか満たないが昨年比と比べると 10.9%の大幅な成長と
なっている。その他の事業として社会人研修事業である「教師力養成塾」を展開し売上高
は前年比 16.8%と大きな成長を見せた。また、個別指導事業として株式会社明光ネットワ
ークジャパンと資本業務提携を行い「早稲田アカデミー個別進学館」を開校、そのほかに
も事業エリアがかぶらない地方の進学塾とも提携し事業を拡大している。
以上のことから早稲田アカデミーは本来の小学部、中学部以外の様々な分野に事業を拡
大していることが分かる。
ステップ6 総合評価
最後に、現在の株価が一株当たりの株主資本の何倍であるかを示したPERと総合評価
として現在の株価が一株当たりの利益の何倍かを示すPBRを見ていく。
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図表 29、PBR(単位:倍)
図表28、PER(単位:倍)
まず、図表 28 のPERから見ていく、PERの一般的な基準としいて 14~20 倍とされ
ており秀英予備校は 2012 年度で 20 倍近くにまで数値をあげており、基準をクリアしてい
ると考えられる。逆に早稲田アカデミーは 2012 年度に 10 倍以下と大きく数値を下げてい
る。次にPBRを見ていく、PBRは株価純資産倍率のことでPBRの値が高ければ株価
も高く、低ければ株価も低いということになる。また数値の目安として 1.0 以上であること
が望ましいとされている。
図表 29 を見ると早稲田アカデミーは全体で 1.0 倍を割り込むことがなく下降気味である
が安定して推移している。一方、秀英予備校は 0.4 倍から 0.2 倍を推移しており秀英予備校
は市場で大変厳しく、低い評価であることが分かる。これは赤字経営が続き信頼性が欠け
ているからだと考えられる。
最後にこれまでの分析のまとめをしていく。また、両社の格付けをしている会社が見つか
らなかったため格付けの項目は割愛している。収益性では総資本の値以外では早稲田アカ
デミーが優れており、2011 年以降ではほぼすべての値で上昇傾向にある。安全性分析では
固定長期適合比率以外の値ですべて早稲田アカデミーが優れているという結果になった。
秀英予備校も尐しずつ改善が見られるがまだまだ低い値である。効率性では売上債権回転
率以外で早稲田アカデミーが勝っている。また秀英予備校は売上債権回転率の値が優れて
おり売掛金が尐ないことが分かる。成長性分析では早稲田アカデミーは緩やかな上昇傾向
にあるが、秀英予備校は下降気味である人件費の削減などでもっと営業利益を高めていく
必要がある。グループ経営では連単倍率は両社とも 1.0 倍を推移している。セグメント分析
では秀英予備校は大学受験生の獲得が課題であった。また、早稲田アカデミーは新事業に
着手しており新しい顧客の獲得を目指している。
今後の課題として秀英予備校は負債の返済が急務である、新しいシステムを使うなど経
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費の節約に努めているが結果はまだ十分とはいえない。
早稲田アカデミーは地方の進学塾と提携しながら事業エリアを拡大していくべきである。
以上の分析の結果から秀英予備校に比べ早稲田アカデミーは大変優れており、市場でも
その評価は高い、しかし、秀英予備校はすでに全国に展開しており今後の伸びが期待でき
る。
参考資料
伊藤邦雄『ゼミナール会計入門第9版』日本経済新聞出版社、2012 年
秀英予備校 http://www.shuei-yobiko.co.jp/
早稲田アカデミーhttp://www.waseda-ac.co.jp/
業界動向 search.com http://gyokai-search.com/
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