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ビジネスゲームによるコミュニケーションの改善実験

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ビジネスゲームによるコミュニケーションの改善実験
~
マーケティング部門と開発部門の相互理解促進 ~
岩井千明(青山学院大学)
An experiment of improvement to effective communication by business game
- Acceleration of mutual understanding between marketing division and R&D division Chiaki Iwai (Aoyama Gakuin University)
キーワード ビジネスゲーム、新製品市場投入、相互理解、MBABEST21, 問題解決
1. はじめに
今回の導入目的は会社組織内の問題解決指
1.1 問題の提示
向である。
本論の目的は問題解決指向のビジネスゲ
会社組織内の問題解決指向をテーマにし
ームの可能性を実証実験により示すことで
たゲーム開発事例として村山・越出・岡田
ある。実験の仮説は開発部門とマーケティ
(1992)の組織意思決定ゲームがある。ここ
ング部門という異なる部門の担当者が競合
では工具販売会社のマーケティング組織設
他社との競争環境で協働することにより、
計にあたり、ゲーミングシミュレーション
同一企業内異部門間のコミュニケーション
を実施したことにより参加者の暗黙知の共
が促進し短時間で相互理解を深めることが
有、明白化が図れたとしている。
できるというものである。
また白井(1994)は複数プレイヤーが参加
実証実験では次世代 DVD 市場投入のゲ
するゲーミングシミュレーション実験の問
ームを用いて被験者に調査票とインタビュ
題解決効果として議論の集約やコンセンサ
ーにより意思決定の効率化、情報の共有化
スの形成が容易となる点を挙げている。
など、企業の異部門間でのコミュニケーシ
ョン促進効果の調査、分析を行った。
組織内のコミュニケーション問題解決指
向ビジネスゲームの実証実験報告事例とし
て、長瀬(1999)は組織と個人の意思決定が
1.2 先行研究
ゲーミングシミュレーションを社会デザ
競争環境下で差があるかどうかを明らかに
するために、ビジネスゲームを 4 人合議群、
インに導入する目的として兼田(2005)は以
2 人合議群、個人合議群で実施し個人と集
下の三つの範疇を挙げている。
団の意思決定の差を明らかにしている。
·
問題解決指向
今回のゲームシナリオで用いた新製品の
·
科学理論指向
市場成功の確率を高める問題について
·
学習機会指向
Souder (1988)では産業財・消費財の 10 産
従来ビジネス分野のゲーミングシミュレ
業 53 社 289 プロジェクトのデータを分析
ーション導入目的としては教育分野での学
し、全体の約 6 割のプロジェクトで、マー
習機会指向を目的とするものが多かったが、
ケティングと R&D が軽度または重度の非
調和状態にあることが示されている。調和
予想される 6 社の電機メーカー(東芝、ソ
状態のプロジェクトは 9 割近くが成功し、
ニー、松下、シャープ、三菱、パイオニア)
重度の非調和状態のプロジェクトは約 7 割
の実名を用いた。
が失敗することが明らかになっている。
3. 実証実験プロセス
2. 実証実験のためのビジネスゲーム
3.1
被験者
実験に 用いた ビジ ネスゲ ーム
被験者もゲームになるべくリアリティ
MBABEST21 は柔軟に現実のビジネスケ
を与えるため文系理系の被験者(理系でメ
ースを用いて任意のゲームを開発すること
ーカー開発部門に勤務する社会人 6 名、文
が出来るフレームゲームである。今回の実
系で企業勤務経験のある MBA 学生 6 名、
証実験に用いたゲームの主な仕様は以下の
計 12 名)をそれぞれ 1 名ずつ組み合わせて
通りである。
行った。被験者はそれぞれ実務経験を持っ
ており、かつ開発担当者は全員理系(大学
競争型(アンドリンガーモ
院修士以上の学歴を持つ)で開発に関わる
デル)
業務を担当している。一方、マーケティン
ノンプログラミングフレ
グ担当は全員会社勤務経験のある大学院
ームゲーム
MBA 課程の学生であり、類似のゲームを入
商品
次世代 DVD
学時に経験している。両グループのメンバ
市場
日本市場(通貨はドル)
ーは互いに面識はなく、組み合わせも当日
会社数
6社
実験室で行った。
ゲーム進行
4 半期×4 回(1 年間)
入力項目
価格、国内生産量、設備投
ゲームタイプ
資、研究開発費、マーケテ
出力項目
実験手順
実験は全員が一つの教室で実施し、チー
ィング費
ム毎に入力用のパソコン 1 台と机を用意し
損益計算書、貸借対照表、
た。
キャッシュフロー計算書、
外生変数
3.2
ゲーム開始前にファシリテーター(筆者)
ランキングレポート
が 30 分程度ゲームに関する説明を行った。
金利、税率、市場成長曲線
配布資料二種類あり、資料 1 は実験計画書
であり実験の目的、被験者が果たしてもら
実験シナリオは被験者になるべくリアリ
ティを与えるために実験時点で想定される
日本市場における次世代 DVD の市場環境
のビジネスケースの調査を行ったうえで、
初期のプロダクトライフサイクルを想定し
た市場成長曲線、日本の金利や税率を用い
た。また社名についても開発競争に参加が
いたい役割、当日のスケジュール、調査票
の記入要領、謝礼の内容を説明した。資料
2 は簡易版ゲームマニュアルであり、ゲー
ム進行方法、シナリオ、前提条件、勝敗の
判断基準を説明した。
ゲームに入る前にチーム毎に 15 分のミ
ーティング時間が与えられ、自己紹介、作
戦会議を行った。
ったものの、少数の否定的な意見もあり意
ゲーム進行は四半期単位で経営意思決定
見が分かれた。
「ゲーミングシミュレーショ
(製品価格、生産個数、研究開発費および
ンそのものの意思決定は一人よりもチーム
マーケティング費用の投資といった変数の
のほうが適切な結果が得られる」という評
決定)を行い、その都度財務諸表と全社の
価と「相互理解が促進したと」いう評価の
経営指標ランキングの結果を考察して次期
有意な相関は見られなかった。一方、イン
の意思決定を行うことを 4 回繰り返して 1
タビューではビジネスゲームを実施するこ
年間の経営を行うという実験を同じ日に 30
とによりパートナーとの相互理解が促進す
分の休憩を挟んで 2 回実施した。所要時間
るという評価が多かった。
は 1 回目が 70 分、
2 回目が 60 分であった。
6
企業内異部門間コミュニケーションの改
善効果を調査するためゲームの意思決定の
5
最中に計 4 回被験者に調査票に記入しても
4
らった。また 2 回目のゲーム直後に被験者
3
全員(N=12)に対し一人 10 分程度構造化
インタビューと調査票記入を行った。
2
1
4. 実験結果と評価
4.1 実験結果 1
0
チーム意思決定
ゲーム終了後の構造化インタビューの質
意見対立
意見共有
相互理解
図 1 ゲームによるコミュニケーション
問内容は、Q1「パートナーと相談すること
より、一人で考えるより良い意思決定がで
4.1 実験結果 2
きたと思うか」Q2「意思決定に当たり、パ
異部門の担当者の相互理解についてゲー
ートナーと意見の対立はあったか」Q3「意
ム進行につれて被験者の認識に違いが出て
思決定に当たり、パートナーと意見を共有
くるかを調査した。ゲームの意思決定の最
できたか」Q4「このゲームにより異部門間
中に計 4 回被験者に調査票に記入してもら
の相互理解は促進すると思うか」でそれぞ
った結果が図 2 の「チーム意思決定への評
れ 1 が否定、5 が肯定的の 5 点法で回答を
価(進行別)」である。質問「パートナーと相
してもらい、理由を尋ねた。
談することにより、一人で考えるより良い
まず、図 1「ゲームによるコミュニケー
意思決定が出来たと思うか」に対して、被
ション」に示すとおり Q1 チーム意思決定
験者の評価はゲームが進行するにつれて上
と Q3 意見共有(平均値
昇傾向を示した(順位相関で 10%有意)。こ
4.6)についてはほぼ全員が肯定的、Q2 意
のようにゲームが進行することに伴って
2.3)については解答がば
徐々に個人で意思決定するよりもチームと
らついた。本実験の主眼である Q4 相互理
しての意思決定のほうを次第に重要視する
解(平均値 4.1)では肯定的な意見が多か
傾向が見られた。
(平均値
4.6)
見対立(平均値
Q7チーム意思決定
3以下
回数
4
合計
決を目的としてゲームを行う場合、その目
的に特化したゲームの開発を行う必要があ
5
1
5
3
4
12
る。例えば社内の限られた資金をマーケテ
2
2
5
5
12
ィング部門と研究開発部門で取り合い、製
3
2
3
7
12
品の市場認知度と品質という異なる指標で
4
2
2
7
11
売上が決定するというような異部門間のコ
11
13
23
47
ンフリクトが発生するようなシナリオを開
合計
図2 チーム意思決定への評価(進行別)
発実施してその効果を検証することが必要
である。
4.3 実験結果総括
理系と文系という異なるバックグラウン
ドを持つ被験者同士を組み合わせそれぞれ
に開発担当、マーケティング担当という役
割を与えてその異質性の相互理解が可能か
実証を試みた。インタビューではほぼ全て
の被験者がパートナーのパーソナリティー
についての理解が促進したと回答した。ま
た、ゲームを通じてパートナーのどんな面
が分かったかという質問に対して多かった
回答は、以下の 2 点である。
·
パートナーの性格
·
異部門の達成目標や思考プロセ
スの相違
今回の実験ではお互いに面識のない開発
部門とマーケティング部門という異なる部
門の担当者が競合他社との競争というビジ
ネスシミュレーション環境下で協働するこ
とにより、比較的短時間(約 3 時間)で被
験者同士のコミュニケーションを促進し相
互理解を深めるという仮説を支持する方向
の結果が得られた。
5. 今後の課題
今回は既存の教育用ビジネスゲームを用
いて実験を行ったが、ビジネス上の問題解
参考文献
兼田敏之(2005)『社会デザインのシミュレ
ーション&ゲーミング』,共立出版
村山乾一・越出均・岡田好史(1992)「」経営
組織のゲーミングデザイン』, 日刊工業新
聞社
長瀬勝彦(1999)『意思決定のストラテジー―
実験経営学の構築に向けて』,中央経済社.
白井宏明(1994)「ゲーミング・シミュレー
ションによる企業診断」,『シミュレーショ
ン&ゲーミング』, 4(1), 129-137.
Souder, W. (1987) Managing New Product
Innovation Lexington Books.
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岩井千明 [email protected]
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