共通ポイントプログラムの拡大 ~T ポイントカードの観点から~

 共通ポイントプログラムの拡大 ~T ポイントカードの観点から~ 指 導 教 員 名 : 水 越 康 介 准 教 授 氏 名 : 久 保 稔 枚 数 : 17 枚 目次
1. はじめに .......................................................................................................................... 1
2. 先行研究 .......................................................................................................................... 2
2.1 ポイントプログラム ................................................................................................... 2
2.1.1 ポイントプログラムの特徴 ................................................................................. 2
2.1.2 ポイントプログラムによるメリット ................................................................... 2
2.2 共通ポイントプログラム ............................................................................................ 4
2.2.1 共通ポイントプログラムの特徴 .......................................................................... 4
2.2.2 共通ポイントプログラムの現状 .......................................................................... 5
2.3 本章のまとめ .............................................................................................................. 6
2. 事例分析 .......................................................................................................................... 6
3.1 T ポイントカード ....................................................................................................... 7
3.1.1 導入期 (2003 年~2006 年:共通ポイントカードとしての普及) ................ 10
3.1.2 第 1 加速期 (2006 年~2008 年:データ共有による相互送客) .................... 10
3.1.3 第 2 加速期 (2008 年~2011 年:リアルとネットの連動) ........................... 12
3.1.4 変革期 (2011~:福利厚生への活用、ポイント一律付与からの脱却) ....... 14
4. 事例の考察 ..................................................................................................................... 15
5. まとめ ............................................................................................................................ 16
参考文献 .............................................................................................................................. 16
1. はじめに 今日、私たちの生活の中には、様々なポイントカードが溢れている。多種多様な企業が
ポイントカードを導入しており、ポイントが貯まれば値引きや商品との交換など多くのサ
ービスを受けられるので、一人で複数の店舗のポイントカードを所有する人も多く見られ
る。「ポイントカードはお持ちですか」や「ポイントカードをお作りしますか」という言
葉を耳にする機会は多い。今では当たり前のように使っているポイントカードだが、その
中には発行したお店でしか利用できない単独のポイントカードや、他の企業と提携し 1 枚
のカードで様々なお店で利用することができる共通ポイントカードが存在する。 今回、本論文で着目する共通ポイントカードだが、顧客の立場からすれば,ポイントを
ひとつのカードにまとめることができ便利なため共通ポイントカードの利用が拡大してい
る(海保[2010])。また、筆者は共通ポイントカードを利用できるコンビ二エンスストア
でアルバイトをしているが、ポイントカードを持っているか尋ねると、ほとんどの人がポ
イントカードを提示するのだ。共通ポイントカードの利用が拡大しているということは単
独のポイントカードよりも優れている部分があると考えられる。では、一体その共通ポイ
1
ントカードはどのように拡大し私たちの生活の中に溶け込んできたのだろうか。 本論文では、まずポイントプログラムと共通ポイントプログラムの現状について確認し、
次に T ポイントカードを例に取り上げ、実際にどのようにして世の中に浸透していったの
かを確認し考察する。そして最後に全体のまとめを行う。 2. 先行研究 2.1 ポイントプログラム 2.1.1 ポイントプログラムの特徴 ポイントプログラムは、商品・サービスの購入金額や利用頻度に応じて顧客に“ポイン
ト”を与え、そのポイントを次回以降の利用時にお金の代わりとして使うことができ、所
定のポイントを貯めると賞品や優待がもらえるというサービスである。日本ではポイント
制度、ポイント・サービス、マイレージ・プログラム、ポイントカードなどの名称で呼ば
れているが、海外では、マイレージ・プログラムは Frequent Flyer Program(FFP)、ポイ
ントプログラムは Frequent Shoppers Program(FSP)、すべてを含む広い概念としては
“Customer Loyalty Program” という用語が用いられているが、いずれにしろ、その狙
いはまさに顧客のロイヤルティ(忠誠)を得ること,すなわち顧客を自社に囲い込んで売
上高の増加を達成することにある(海保[2010]、120 頁)。 小売業・サービス業では多くの企業が独自のポイントプログラムを提供している。ビジ
ネスマンやよく旅行をする人にはお馴染みだが、日本航空や全日空といった航空会社では、
搭乗距離数に応じてポイント(マイル)を顧客に付与し,一定のマイルを貯めた顧客に無
料航空券や割引優待を行う、いわゆるマイレージ・サービスを提供している。ヤマダ電機
やビックカメラなどの家電量販店では,通常でも 10% という高いポイント還元が行われ
ており、顧客はそれを次回の買い物から使えるようになっている。その他の多くの業界で
も同様に 1% 程度の還元率でポイントプログラムが提供されている。ポイントプログラム
は大きく分けて、「プール方式」と「ノン・プール方式」の 2 つがある。プール方式は、
航空会社のマイレージ・サービスのように、所定のポイントを貯めたら賞品や優待を受け
る権利が付与されるもので、ノン・プール方式は家電量販店のポイントカードのように、
商品・サービスの購買時に付与されたポイントが次回の購買時から利用できる形式のもの
である(海保[2010]、122 頁)。 2.1.2 ポイントプログラムによるメリット 企業側がポイントプログラムを導入するメリットは、顧客のロイヤルティ(忠誠)を得
ること,すなわち顧客を自社に囲い込んで売上高の増加を達成することにある(海保
[2010]、120 頁)。例えばチラシ、割引クーポンの配付といった手段は、短期的には一端売
上げが上がったかのように見えるが、すぐに効果は落ち込んでしまう。どこのスーパーで
2
もチラシなどの販促活動は、すべての顧客に対して平等に展開してきた。しかし、これだ
と、“バーゲンハンター”を喜ばすだけで、売り手に利益をもたらさないこともあった。
また、市場の成長率が鈍化するにしたがって、従来からの広告宣伝・販売促進策だけでは
新規顧客の獲得が難しくなり、個別の顧客ごとの「囲い込み」を行って、彼らの継続的な
購買を促す方がよいのではないか、という考え方が広まったことがある。 顧客の囲い込みとは、既存顧客が他へ流出しないようにすると同時に、他から新規顧客
を迎い入れることであり、自社の商品・サービスを継続的に購入してもらうことで売上増
をねらうものである。ポイントが付くから、すでに貯めたポイントがあるから、といった
理由で,顧客が自社の商品・サービスの購買頻度を増やしたり、購買単価を上げたり、さ
らにはこれまで購買しなかったような関連品目まで買ってくれること、顧客の財布に占め
る自社商品の購買比率を高めることを企業は期待している。 さらに、ポイントカードによって顧客の購買履歴情報も得られるため、売れ筋商品の品
揃えを強化したり、付与するポイントを一時的に増やして来店を促したり、あるいは必要
以上のムダな値引きをせずに販売するといった、きめ細かい販売促進活動が行えるように
もなる。このような活動によって、自社に忠実な、優良顧客を増やしていくことができる
ようにもなる(海保[2010]、124 頁)。 また、安岡(2007)は企業のポイントプログラムの活用におけるメリットを以下の 4 つ
であると言っている。 1.「既存顧客の囲い込み」:貯まりやすさはもちろんだが、ポイントの使い道が魅力的で
あればあるほど、消費者は他ポイントへの乗り換えをしなくなる。つまり、囲い込まれる
ようになる。 2.「既存顧客の優良顧客化」:自社サービスの利用に応じて顧客をランク分けし、ランク
ごとに優待サービスを提供することで、一般顧客の優良顧客化が可能となる。また、単に
ポイントプログラムを導入するだけでも、お得感を感じた消費者が、普段以上に自社の商
品やサービスを購入してくれるという効果も期待できる。 3.「新規顧客の獲得」:貯まりやすく使いやすいポイントであるほど、消費者はそのポイ
ントに惹き付けられる。そしてそれは、顧客開拓をする際のチャームポイントとなる。特
に新規獲得のために、入会ポイント付与といった方策等がよく行われている。 4.「提携他社との相互送客」:他社が提供しているポイントとの交換や他社サービス利用
に対して自社ポイントの付与を行うことで他社と自社の顧客を相互に送り込む(相互送客
する)ことができる。なお、相互送客というのは、ポイントプログラムを提供する企業間
の相互交換・相互付与による提携である。ポイント・マイレージおよび電子マネーの企業
通貨を提供する企業が提携し合うことで、新たな顧客獲得に繋がり、その利用率や価値が
一層高まると考えられる。 3
2.2 共通ポイントプログラム 2.2.1 共通ポイントプログラムの特徴 共通ポイントは、従来のポイントカードと異なり、1 枚のカードで様々な店舗でためら
れ、現金の代わりとして用いることができる。有力企業が集まれば、顧客の囲い込みにつ
なげやすいと言われており。消費者にとっては提携企業ならどこでもポイントを貯め、使
うことができるため、単独企業が発行するポイントに比べて用途が幅広くなる。一方、企
業側にとっては、自社だけでは囲い込みや獲得ができなかった他社の消費者に、ポイント
を使ってアプローチすることができることがある。コスト面でも、自社で抱えると多く発
生していた固定費を変動費化でき、共通ポイントのブランドを活用することもできるとい
うメリットがある(安岡、[2009]、43 頁)。 日本の代表的な共通ポイントプログラムといえば、カルチュア・コンビニエンス・クラ
ブが展開運営している「T ポイント」や、三菱商事の完全子会社である株式会社ロイヤリ
ティ マーケティング(LOYALTY MARKETING, INC.)が発行・運用・管理する「Ponta」な
どが挙げられる。 T ポイントカードはもともとソフトレンタル店「TSUTAYA」のカードだったが,2006 年
10 月以降に他企業との提携をはじめ、2013 年 9 月の時点での T ポイント会員数は 4677 万
人にまで達している。T ポイントを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下
CCC)では、T ポイント・Tカードの発行・管理などを行う「カード事業」が成長している。
このカード事業の売上高は CCC 全社の売上高(2207 億円)の約 3%に過ぎないが、営業利
益(152 億円)への貢献度は約 13%にものぼっている。T ポイントのネットワークに参加
し、ポイントを発行する企業は CCC に対して「1%未満のシステム利用料」(『日経流通新
聞』、2008 年 5 月 26 日、1 頁)を支払っている。それが収益の柱となっているが、T ポイ
ントのネットワークとしての強みを利用した各ポイント・プログラムを自社運営する企業
では負債の部に「ポイント引当金」が計上される。CCC は提携先企業との精算勘定として
資産の部に「ポイント預かり預金」という勘定科目で約 10 億円(2008 年度)を計上して
いる。また、T ポイントの個人別購買履歴情報と提携先企業の POS(販売時点情報管理)
データを組み合わせれば顧客に応じたマーケティングが可能になり、提携企業間の相互送
客の仕組みづくりによる販売促進活動なども可能になっているという(海保[2010]、139
頁)。 2010 年 3 月から開始した「Ponta」は、サービス開始当初はローソンのポイント・プロ
グラム会員約 1000 万人とゲオのレンタル・カード会員約 1000 万人の計約 2000 万人の会
員基盤を引き継ぎ、現在では、コンビニエンス・ストア(ローソン)、ソフトレンタル
(ゲオ)、ガソリンスタンド(昭和シェル石油)に加えて、外食チェーン、書店、ドラッ
グストア、百貨店、スポーツクラブ・ショップ、ファーストフード、旅行・ホテル、レン
タカー、通信販売などで使うことが可能である(Ponta の総合サイト)。 4
2.2.2 共通ポイントプログラムの現状 現状では T ポイントだけではなく、各業界の大手企業を中心とした陣営があり、年々、
発展・変化している。例えば T ポイントの提携先はかつてはローソンであったが、現在は
ファミリーマートやスリーエフが参加している。つまり、ポイントをベースとした企業提
携は、簡単に構築できる一方、解消も簡単であり、資本提携よりも手軽な提携ツールなの
である。そもそも日本では、航空会社の 2 大プログラムであるマイレージプログラムが、
日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)から発行され、2 社を中心に陣営が形成されていた
という経緯がある。これらは現在も強固な陣営ではあるが、ANA は T ポイントや楽天など
とも提携しており、大きく見れば独自に陣営を作っている。されに、ポイントプログラム
の提供で電子マネーの陣営も発展してきた。JR 東日本の Suica(スイカ)は、JAL と提携
し、JAL マイレージと交換することができたが、現在は ANA とも提携し、ポイントを経由
して電子マネーに交換できる。Edy(エディ)を運営するビットワレットは、楽天の子会
社となったが、当初は ANA と提携してマイレージを電子マネーに交換する礎を築き、KDDI
やヤマダ電機、千趣会などへのポイント付与を始め、スイカと競いながら、日本の電子マ
ネー企業として成長した。また、流通系でもセブン&アイ・ホールディングスの「nanaco」
(ナナコ)とイオン系の「WAON」(ワオン)が 2007 年 4 月に開始されて以降、加盟店を増
やし、陣営を築いている。電子マネー自体、チャージ(入金)の手段を多くすることで利
用を促し、流通の本業にも寄与させることで効果を発揮させた。こう見ると日本には、
様々な陣営がある共通ポイントだが、マイレージの発祥国である米国では、発行マイルの
7 割が発行されているが、それ以外の大きなポイントプログラムは少なく、クーポンなど
の即時的なマーケティングが受け入れられる文化が強い。欧州は共通ポイントが中心だが、
ドイツでは、流通最大手カウフホフが主体となっている「ペイバック」や、ドイツテレコ
ムを主体とする「ハッピーデジット」など主要なものに集約されている。韓国は日本に近
いが、発行規模は小さい(安岡[2009]、44 頁)。 つまり、日本ではポイント発行事業者が乱立しており、様々な陣営が入り乱れて提携を
している。また、共通ポイントプログラムには企業提携のツールとしての利用価値がある
ということである。 また、企業の財務会計における国際財務会計基準(IFRS)の導入が、共通ポイントの陣
取り合戦をさらに加速させる可能性がある(安岡[2009]、45 頁)。IFRS が導入されると、
これまでポイント引当金として過去の実績に応じて計上していた負債が、少なくとも該当
する 1 年の全額を繰り延べ収益としてポイント発行額が全額負債計上となると、利用され
る割合が低かったポイントプログラムは急激に負担が増え、バランスシートを大きくする
ため、経営数値に与えるインパクトも小さくない。また、全額負債計上といっても、1 ポ
イントあたりの価値を明確に算出する必要があり、財務上の計算がより複雑になる。そこ
でポイントプログラムにあまり力を入れていない、もしくは力を入れることのできない業
界下位の企業は、自社で発行するのではなく、共通ポイントに相乗りする可能性が高くな
5
る。そうすることで財務上の計算は単純に販促費としてポイントを購入した額を計上する
だけになり、運用面の負担も減る。つまり、コストの関係で独自にポイントを展開してい
る企業、または展開したくてもできない企業は共通ポイントプログラムに参入する可能性
があり、共通ポイントプログラムの方がコスト面では優れていると考えられる。 さらに、共通ポイントの顧客情報を握っているのは、発行事業者である。購買やポイン
ト付与・還元のような行動履歴も含めた顧客情報をマーケティングに活用するには、発行
事業者の力量が問われることになる。つまり、人間の行動をデジタルデータとして記録に
残す「ライフログ」の初歩としてポイント情報を活用し、マーケティング活動に利用する
必要がある。データの活用には発行事業者の力を借りることになるが、消費者の獲得やリ
ピート行動の促進は、自社のマーケティング活動の中枢でもあるため、どのように発行事
業者を活用していくか、常に検討していく必要があり、消費者に向けて、より便利でより
お得なイメージを訴求していくことが重要である(安岡[2009]、45 頁)。 また、小本(2007)はポイントカードが期待される効果を発揮するかどうかは、当然の
ことながら、ポイント付与が消費者にとって魅力的な購買誘引となり、その後の購買意欲
の向上につながるかどうかにかかっていると言っている。 2.3 本章のまとめ ポイントプログラムには顧客のロイヤルティを得て、自社に顧客を囲い込むという狙い
が存在していた。また、企業がポイントプログラムを導入するメリットは「既存顧客の囲
い込み」、「既存顧客の優良顧客化」、「新規顧客の獲得」、「提携他社との相互送客」であっ
た。また、ポイントカードにおいてポイント付与が消費者にとっての魅力的な購買誘引と
なり、継続購買につなげることが重要だということがわかった。 その中でも共通ポイントプログラムは特に顧客の囲い込みにつなげやすく、企業提携と
してのツールもはたしていた。また、コストの面でも共通プログラムは企業が独自に展開
しているポイントプログラムよりもすぐれており、そのため、共通プログラムに参入する
企業が増える可能性があるという。現在ではポイント発行事業者が乱立していて、様々な
陣営があり、互いに競争し合いながら成長している。しかし、共通ポイントプログラムに
はいくつかの課題もある。共通ポイントプログラムを展開する企業が共通ポイントの顧客
情報を握っているために、その顧客情報をマーケティングに活用するには発行事業者の力
量が重要になってくるということと、消費者に向けてより便利でお得なイメージを訴求す
ることである。発行事業者である企業はこれらの課題を実際どのように解決していったの
だろうか。また、共通ポイントプログラムがどのようにして拡大していったのか。3 章で
は企業の事例を取り上げ検討していく。 2. 事例分析 共通ポイントカードが世の中に浸透していった事例として、日本で最大規模の共通ポイ
6
ントプログラムサービスを提供している T ポイントカードを取り上げる。次節で T ポイン
トカードの紹介をし、それ以降は T ポイントカードがどのようにして広まっていったのか
を T ポイントカードを展開運営しているカルチュアル・コンビニエンス・クラブ株式会社
(CCC)のニュースリリースや雑誌・新聞記事をもとに実際に確認していく。また、その
際、導入期、第 1 加速期、第 2 加速期、変革期と時期を分けて分析していく。 3.1 T ポイントカード 共通ポイントプログラムにおいて、2003 年から始まった「T ポイント」が一番人々に親
しみのあるポイントプログラムだろう。現在では、「T ポイント」の会員数は 4677 万人お
り、20 代の会員数が 2013 年 8 月末時点で 933 万人になった(『日経流通新聞』、2013 年
9 月 25 日、9 頁)。日本の 20 代の人口(2012 年 10 月時点で約 1330 万人)に占める割合
は 70.1%で、初めて 7 割を突破した。年代別の人口に占める保有比率は 30 代が 59%、40
代が 54%、50 代が 41%、60 代が 25%である。20 代の会員比率は 2008 年 3 月末時点で
50%未満だったが、コンビニエンスストアやファミリーレストラン、カラオケ店など利用
環境が広がり、普及が進んだ。また、飲食、レンタル、娯楽、ショッピング、不動産、ガ
ソリンと数多くの業種と提携しており、提携企業は 104 社、利用できる店舗は共通ポイン
トサービスの中でも最大の 6 万 1189 店舗となる(カルチュア・コンビニエンス・クラブ
株式会社 ニュースリリース 2013 年 9 月 20 日)。提携企業について、その内訳は、T ポ
イントを貯めることのできる提携先が 59 ヵ所、ポイントを貯めてかつつかえる提携先が
75 ヵ所、そしてポイントを交換できる提携先が 26 ヵ所となっている(図表1、2013 年 12
月現在)。 この背景には、2011 年より取り組みを開始している、地域に密着した街の中小店舗での
T ポイントサービス提供や、各地域でドミナントを形成しているドラッグストアやスーパ
ーマーケットとの提携強化、また提携企業の多様化が挙げられる(カルチュア・コンビニ
エンス・クラブ株式会社 ニュースリリース 2013 年 8 月 20 日)。 「T ポイント」に参入している企業をカテゴリ別に分類すれば、以下のように分類できる。 l エンターテインメント/趣味/スポーツ:映像・音楽・書籍、占い、カラオケ、ホ
テル旅行関連、カメラ写真素材、スポーツ l ショッピング/グルメ/ファッション:コンビニ、スーパーマーケット、ドラッグ
ストア、ネットショッピング、飲食関連、デリバリー、ファッション、眼鏡コンタク
ト l 生活/サービス:インターネット総合、複合商業施設、図書館、車関連、交通、
住まい暮らし、美容関連、ペット、クレジットカード、決済・金融サービス、人材サ
ービス(福利厚生) こう見ると、「T ポイント」は人々の生活に浸透していると言っても過言ではないだろう。
まず、人が生活していく上で必要な衣(服装、ファッション)、食(食事、食文化)、住
7
(住居、居住)といった“衣食住”に「T ポイント」が導入されている。 “衣”といえば、紳士服業界のトップである青山商事をはじめ、女性や子供向けアパレル
のワールド、若い者に人気のある ZOZOTOWN と提携している。“食”といえば、2004 年の
「T ダイニング」サービスを始め、ドトールコーヒー、ネットデリバリーの出前館、すか
いらーくの「ガスト」「バーミヤン」「夢庵」「藍屋」「ジョナサン」、「ロッテリア」、「牛角」
などの飲食店での利用を広がってきた。それに、2012 年 12 月からグルメサイトの「食べ
ログ」に飲食店の口コミを投稿した消費者に T ポイントを付与するサービスも始めた。
“住”といえば、お部屋探しのミニミニやアート引越センター、ライフプラン総合支援サ
ービスの「L-club」などで T ポイントサービスも提供されている。 さらに、「T ポイント」は“衣食住”だけにとどまってはいない。張(2011)によると日
本では生活の基本を“衣食住”というが、中国では“衣食住行”と言い、衣食住に加え、
移動手段も確保されることで、生活は成り立つという意味である。日本においても人々が
生活するにあたって交通手段は重要である。T ポイントサービスはその“衣食住行”の
“行”の部分にもサービスが開始した当時から参入している。共通ポイント「T ポイント」
として始まった当時から「ENEOS」や「ニッポンレンタカーサービス」などで T ポイント
サービスが提供されており、現在では、「オートバックス」や「東京無線」でもサービス
が提供され、その幅を広げている。 人々の基本生活の場面以外も、お客様のライフスタイルをより豊富にしたいと考え、
DVD・本を始め、旅行、カラオケなどの娯楽施設でも T ポイントサービスが導入された。
それに、顧客から見るポイントの魅力の一つ「使いやすさ」から見ると、T ポイントと交
換できる提携先も 26 社となっている。そして、消費者向けだけではなく、2011 年から企
業向けに T ポイントを福利厚生制度に利用するサービスも始まった。いわゆる、T ポイン
トは本当に人々の生活に浸透している(張 [2012]、21-22 頁)。 「T ポイント」は日本での初めての本当の意味での異業種統合的な共通ポイントとも言
える。共通ポイントカード普及の先駆けを担った存在でもあり、日本での最大の共通ポイ
ントプログラムといっても過言ではないだろう。 8
図表 3-1:T ポイント・T カードの提携先 貯める(59) moet moet、復刊ドットコム、
TAP-i (by 毎日新聞 + スポニ
チ)、WOWOW、レストランカラオケ・ シダックス、東急ホテルズ、RH ト
ラベラー (お土産通販)、エクスペ
ディア、T ポイント付きキャッシュ
パスポート、アマナイメージズ (写
真・イラスト素材)、TAGSTOCK (写
真・イラスト素材)、アルペン、ゴ
ルフ 5、スポーツデポ、ブリヂスト
ンスポーツ、T モール、食べログ、
キリンビバレッジ T ポイント自動
販売機、上海エクスプレス、ニュー
ヨーク、宅配弁当 菱膳、松花堂 円
山、寿司処 菱膳、洋服の青山、THE SUIT COMPANY、キャラジャ、レニュ
ー、武雄市図書館、三井のリパー
ク、ニッポンレンタカー、東京無
線、得タク(タクシー)、VIP ライナ
ー(バス)、ミニミニ、アート引越セ
ンター、アットホーム、MADO ショ
ップ (YKK AP)、Misumi グループ (ガス・水)、伊藤忠エネクス HL ネ
ットワーク・エコア、L-club、
Shufoo! (折り込みチラシ)、毎日新
聞、スタイルデザイナー (美容
院)、やる気スイッチグループ、ア
プラス、オリコ、ポケットカード、
Yahoo!カード、楽天 Edy、琉球銀
行、新生銀行、全日信販、T ポイン
ト付きアプラス家賃サービス、T ポ
イント付きアプラスショッピングク
レジット、アウトソーシング、シー
エーセールススタッフ、メディカル
リソース 貯める・使う(75) TSUTAYA、蔦谷書店、
BOOKSmisumi、TSUTAYA オンラインシ
ョッピング、TSUTAYA DISCAS、
TSUTAYA ミュージコ、Gyao!、
TSUTAYA TV、エムティーアイ、
TSUTAYA.com eBOOKs、ネットオフ、
Yahoo!ブックストア、Ameba、
TSUTAYA.com kiwi、T-SITE GAME、
Yahoo!占い、カラオケ招福亭クレヨ
ン、コンフォートホテル、阪急阪神
第一ホテルグループ、yoyaQ.com、T
トラベル、Yahoo!とらべる、カメラ
のキタムラ、スタジオマリオ (写真
館)、カメラのキタムラ ネットショ
ップ (カメラ用品)、T プリント(ネ
ット写真プリントサービス)、パシフ
ィックゴルフマネージメント、ファ
ミリーマート、スリーエフ、マルエ
ツ、富士シティオ、レッドキャベ
ツ、プラッセ&だいわ、ヤオマサ、
ウエルシア、イレブン (ウエルシア
関西)、ドラッグイレブン、ドラッグ
ユタカ、ドラッグストア mac、金光
薬品、ZOZOTOWN、ファミマ.com、
Yahoo!ショッピング、LOHACO、GREEN DOG、ガスト、バーミヤン、夢庵、お
はしカフェ・ガスト、グラッチェガ
ーデンズ、藍屋、ステーキガスト、
ジョナサン、牛角、ロッテリア、ド
トール コーヒーショップ、エクセル
シオールカフェ、パステル、ガスト
の宅配、おはしカフェ・ ガストの宅
配、バーミヤンの宅配、ジョナサン
の宅配、出前館、HusHusH、 SHOO・
LA・RUE、コンタクトのアイシティ、
Yahoo!Japan/その他ネット提携サー
ビス、DAIKANYAMA T-SITE GARDEN、
T-SITE SHOPPING、ENEOS、オートバ
ックス、スーパーオートバックス、
ハウスコム、日立チェーンストー
ル、スルガ銀行 (張[2011]、21 頁をもとに筆者追記作成) 9
交換する(26) AAA、ANA、お財
布.com、近畿大阪
銀行、クラブネッ
ツ(CN ポイント)、
埼玉りそな銀行、
CM サイト、G ポイ
ント、JP BANK カー
ド、JACCS、十六銀
行、ちょびリッ
チ、DC カード、ネ
ットマイル、ブル
ーチッブ、ポイン
トインカム、ポイ
ントダウン、ポイ
ントボックス、
Potora、PONEY、マ
ネックス証券、三
井住友 VISA カー
ド、三菱東京 UFJ
銀行、モバトク通
帳、予想ネット、
りそな銀行 3.1.1 導入期 (2003 年~2006 年:共通ポイントカードとしての普及) T ポイントカードは当初、カードに入会した店舗でのみの利用しかできなかったが、
2003 年 10 月 1 日より株式会社ローソンが展開するローソン約 7700 店舗と、新日本石油株
式会社が展開する約 12000 ヶ所の ENEOS サービスステーション各店舗において、TSUTAYA
会員証を提示すると「T ポイント」がたまるようになった(カルチュア・コンビニエン
ス・クラブ株式会社 ニュースリリース 2003 年 9 月 18 日)。将来は両社が共同で顧客動
向を分析し販促やイベント活動を行うことも検討しており、ローソンはマーケティングの
効率化、CCC は顧客拡大を狙った。また、2004 年 4 月から 1 枚の会員証が全店舗で利用で
きるようになったが、これは CCC が、1 枚の会員証で全国どの店舗でも利用できるよう
「会員証を共通化して欲しい」というお客様からの要望に応える形で共通化に向けたイン
フラ整備を進めるためであった。つまり、T ポイントカードは 2003 年に提携企業において
利用できるという共通ポイントカードとしてうまれ変わり、複数のカードを持つ必要がな
くなり、利便性が向上したと言える。CCC は共通ポイントカードとしてうまれ変わった
TSUTAYA 会員証は単なるレンタル会員証ではなく、お客様の生活にとってなくてはならな
い「ライフ・スタイル・カード」としての役割を担うことを目指した。また、TSUTAYA 会
員証を保有することの価値を高めるために、 ポイント提携を希望する業種において積極
的にアライアンスパートナーを増やしていくことを目指したのだ(カルチュア・コンビニ
エンス・クラブ株式会社 ニュースリリース 2004 年 3 月 1 日)。 こうして共通ポイントカードとして始まった T ポイントカードは青山商事との連携によ
りさらなる拡大を始めた。 2006 年には、CCC が青山商事とポイントサービスの連携を始めたが、これによってポイ
ントサービスは割引手段から擬似マネーへと劇的な進化を遂げることになった(『日経流
通新聞』、2006 年 3 月 6 日、5 頁)。米国の航空会社が最初にマイレージサービスを初めて
から 20 年、当初は「ためやすさ」を競って各社は顧客の囲い込みにつなげようとしてい
たが、CCC はサービス同士に互換性を持たせ「使いやすさ」に重点を置き始めた。 CCC は 2006 年 2 月、青山商事とポイントサービスでの連携を始めた。T ポイントカード
を青山商事の店舗で提示すれば、買い物額に応じて「T ポイント」が付くようになった。
このポイントは数カ月後には青山商事の店舗でも使えるようになるという。さらに、T ポ
イントの提携会社は約 20 社に上り、顔ぶれも全日本空輸や三菱東京 UFJ 銀行、ローソン、
楽天、ニッポンレンタカーサービス、大手クレジットカード会社など幅広い。青山商事も
含めた提携企業でためたポイントやマイルは、Tポイントを介して他のポイントに変換で
きる。もはやレンタル店の「特典」という枠を超え、さながら「基軸ポイント」の様相を
呈してきた。 3.1.2 第 1 加速期 (2006 年~2008 年:データ共有による相互送客) 疑似マネーとしての性格を強めた T ポイントカードはデータ共有による相互送客により、
10
その拡大を一気に加速させた。(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 ニュー
スリリース 2006 年 11 月 15 日)。ファミリーマートやブックオフコーポレーションが相
次いで自社の顧客カードに T カードを採用、若年層から中高年層まで幅広い消費者情報を
持ち、有効な販促策を打てることが、多様な企業を引き付けた。また、ブックオフコーポ
レーション、ファミリーマートがそれぞれ、これまで独自に発行してきたポイントカード
を T カードに切り替えた。また、ブックオフの T カードの導入の狙いはポイント集計業務、
会員情報管理および会員データベースマーケティングにかかる煩雑な運用業務とコストの
低減と会員データベースを活用したマーケティング事業の拡大であった。 提携企業はポイントを付与するごとに、CCC に手数料を払わなければならない。それで
も提携に乗り出す企業が多いのは、T カードの持つ顧客の購買動向の分析力にあるという
(『日経流通新聞』、2007 年 9 月 17 日、5 頁)。その顧客の購買動向の分析力を示した
例として株式会社キタムラが運営するカメラのキタムラがある。2006 年 10 月にカード発
行業務を CCC に委託した写真専門店大手のキタムラは、カード統合後にコンパクトデジタ
ルカメラの購入客を調べたところ、成人式の間際に駆け込み購入する 19 歳女性という新
たな顧客層を発見した。キタムラの顧客層はもともと、40~50 代の中高年男性が中心であ
った。自社の顧客だけを分析しても若い女性の購入意欲はわからないが、TSUTAYA の顧客
も重ね合わせることで未開拓の客層をはじき出せたのだ。今後は「成人式の前に TSUTAYA
の会員向けにキタムラのポイント倍増キャンペーンを打つなど、効果的な販促ができる」
(北村常務)とみていたのだ。 カメラのキタムラの例のように CCC は提携企業先の POS データと連動して顧客の購買動
向を分析することで得られるデータをもとに T ポイントの加盟企業全体が相互送客しあえ
る仕組みづくりの提案に着手し、2009 年 3 月に約 8 億円を投入、新たな顧客分析システム
を構築した(『日経産業新聞』、2008 年、8 月 13 日、2 頁)。それに伴い CCC はファミリ
ーマートと共同で販促キャンペーンを実施した。ファミリーマートで T ポイントを利用し
たことのない人を対象にし、TSUTAYA で DVD を借りた会員にファミリーマートで使えるペ
ットボトル無料券を発行したのだ。会員の購買履歴を POS システムが把握し、レシートと
一緒にクーポンを発行する仕組みである。これにより提携する他社店舗も合わせ全国 3 万
拠点へ会員を誘導できるようになった。 このデータを活用した試みの一つであるレシートと一緒にクーポンを発行する仕組みに
ついては現在でも実施されている(『日経流通新聞』、2010 年、6 月 4 日、11 頁)。例え
ば、ファミリーマートで買い物をした T ポイント会員に近隣のTポイントに参加する「オ
ートバックス」などの店舗の割引クーポンを配布する。店舗のレジと T ポイントのサーバ
ーが連動し、クーポンの発行対象はその会員が最近利用していない店舗から選び出すとい
った仕組みにしている。 T ポイントカードは相互送客に重点を置いた、顧客購買動向の分析のツールになりつつ
あった。また、CCC の柴田励司最高執行責任者(COO)は T ポイントで得たあらゆる情報を
11
整理・分析することで「今までにない、高い効果の推薦機能をつくる」と述べている
(『日経産業新聞』、2010 年 1 月 6 日、1 頁)。柴田 COO が思い描くのは、推薦された商
品などに顧客が興味を示す確率を 70%以上に引き上げることであったという。通常の推薦
機能は閲覧、購入した商品に関連するモノやサービスの情報を流すだけで、効果が 10%未
満のケースも多かった。新機能で目指すのは、住所や年齢、性別などの個人の属性情報を
基に、提携企業の購入履歴などの情報を加え、行動パターンや嗜好を分析することである。
新推薦機能を活用すれば、例えばクーポン券を出す場合、いつ、どの加盟店で、どの商品
を対象に、どれだけ割り引くかなどを細かく指定できるようになる。それによって高い確
率で購買に結びつけられるとしている。 また、T ポイントカードの普及の拡大により、共通ポイントプログラムが浸透し始めた
第 1 加速期だが、この時期に単独でポイントサービスを展開していた企業が共通ポイント
プログラムに移行した企業が現れた。それがヤマダ電機である。ヤマダ電機は 2001 年に
パソコン専門業態の「デジタル 21」と家電製品を扱う主力業態の「テックランド」で、購
入額に応じた点数を次回の買い物に充当できるポイント制度を導入し(『日本経済新聞』、
2001 年 4 月 11 日、43 頁)、他企業と提携することなく、単独のポイントサービスとして
展開していた。しかし、2007 年に株式会社 AOKI ホールディングスとのポイントサービス
提携し、「AOKI」の全店舗で、購入金額に応じて、交換比率は 100 円で 1 ポイントのヤマ
ダポイントとの交換券を発行した。これをきっかけに共通ポイントサービスへと移行する
ことになった。また、「この度、更なるヤマダポイントの利便性向上を図るべく、全日本
空輸株式会社のマイレージクラブのマイルと相互交換を開始いたします。なお、家電量販
店と航空会社とのマイル・ポイント相互交換は業界初となります」(株式会社ヤマダ電機 ニュースリリース 2007 年 3 月 26 日)。とあるように全日本空輸株式会社ともポイント
サービス提携をし、現在では 25 社の会社と提携している(ヤマダ電機 HP)。 3.1.3 第 2 加速期 (2008 年~2011 年:リアルとネットの連動) CCC はリアルだけでなくネットの世界にも目を向け始めた。2008 年 CCC は、キタムラが
運営する通販サイトでも「T カード」を利用できるようにし、利用客の囲い込みを図った。
通販サイト「キタムラグループネットショップ」で購入額 100 円につき 1 円相当の T ポイ
ントを付与するというものだ。会員登録時に生年月日と性別を記入するほか、T カードの
会員番号を入力。既存の会員は専用ページでTカードの番号を打ち込むと更新できる。同
サイト上で販売するデジタルカメラやアルバム、記録メディアなど 3 万点が対象となった。
同サイトの売上高は 2008 年 3 月期が 10 億円にのぼり 2009 年 3 月期は 40 億円を見込んだ。
同社は T カードの効果で4億円の上積みがあるとみているという(『日経流通新聞』、
2008 年 11 月 7 日、9 頁)。提携先の店舗だけでなくネットでの購入客にもポイントを付
与するのはこれが初めてであった。 さらに、CCC は 2010 年 7 月にヤフー株式会社と包括提携を結んだ。目的は両社それぞれ
12
が強みとするインターネット上のネットワーク、リアル店舗でのネットワークにおける顧
客基盤およびプラットフォームを連携することで、各サービスの利便性向上、また、イン
ターネットとリアルにおける経済圏の共同構築であった(カルチュアル・コンビニエン
ス・クラブ株式会社 ニュースリリース 2010 年 7 月 14 日)。しかし、両社のメリット
は会員獲得や誘客効果にとどまらない。「2 社が手を結ぶことでマーケティングの新手法
が生まれる」と CCC の北村和彦取締役は強調する。同社は提携により、2 社のポイントに
会員登録する消費者の行動を、リアルとネット双方で分析する手段を手に入れる。例えば
ヤフーのバナー広告をクリックした T ポイント会員が実際に小売店でその商品を実際に購
買したかどうかが追跡可能となる(『日経流通新聞』、2010 年 8 月 27 日、9 頁)。 また、2010 年 10 月 4 日には T ポイントの会員登録をインターネット上で受け付ける「T
ログイン」という新サービスを始めた。ネット上で会員登録をすると 16 桁のネット専用
の会員番号が発行され、会員登録したサイト以外で買い物をする場合にも T ポイントを付
与されるようになったのだ。それ以外の特徴として、T ポイントカードを持っていなくて
も、登録した T ログイン ID を使用することでインターネット上で T ポイントが貯めて、
使えること、ひとつの ID とパスワードで複数のサービス導入サイトでログインできるよ
うになったことがある。 T ログイン ID により、各サイトごとに別々に必要だった ID の登録及びログイン認証が
T ログイン ID ひとつで済むようになり、ID、パスワードの管理が便利になるだけでなく、
面倒な個人情報の登録・変更手続きが 1 度で済むようになった。また、既に T ポイントカ
ードを持っている人でも、T ログイン ID に T カード番号を登録するとリアルな店舗だけで
なくネットの利用でも T ポイントを T カードに貯めたり、T カードに貯めた T ポイントを
使ったりすることが可能になったのだ。これにより、T ポイントカードはさらに利便性を
高め、導入からわずか1ヶ月で T ログインサービスの登録者数は 100 万人を超え(カルチ
ュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 ニュースリリース 2010 年 11 月 8 日)、CCC
のインターネット戦略はますます加速していった。 こうして、ネット上での利用の基盤を作ってきた CCC は 2010 年 7 月に提携を結んだヤ
フーとインターネットの利用客と実店舗での相互送客を見込んだ新たな戦略に着手した。
それが両社のポイント制度の T ポイント一本化である。当初はヤフーのネット通販で買い
物した時にヤフーのポイントと T ポイントの好きな方を選べる仕組みだったが、両社のポ
イントはそれぞれ残り、利用者を相互送客するまでには至っていなかった。 「ヤフーのネットで店舗の情報を提供し、ポイントを介して来店を促せる」と CCC の増
田社長が言うように、このポイントの一本化で CCC はヤフーが提供するネット上のサービ
スを通じて加盟店への誘客が可能になり、一方、ヤフーも実際の店舗での利用情報も詳し
く把握できるようになり、個人情報に配慮しながら、ターゲットを絞ったネット広告など
につなげられるようになった。ヤフーの会員は通販やオークションなどのネットサービス
で T ポイントがもらえ、ためたポイントは加盟店で使うことができる。T ポイントの会員
13
は買い物でためたポイントをヤフーのネットで使える。ネットと実店舗の両方で買い物や
サービスを利用して同じポイントがたまれば、消費者のメリットは大きくなる(『日本経
済新聞』、2012 年 7 月 15 日、11 頁)。 3.1.4 変革期 (2011~:福利厚生への活用、ポイント一律付与からの脱却) 導入期、第 1 加速期、第 2 加速期を経て人々の生活に浸透してきた T ポイントサービス
は変革期を迎える。 CCC は 2011 年 5 月に日産総工株式会社と提携し、T ポイントを日産総工の福利厚生プロ
グラムにおいて提供した。契約企業が社員の T ポイント会員番号を CCC に申請すると、社
員にポイントが付与され、社員が受け取ったポイントは 1 ポイント=1円に換算し、全国
3 万店以上の加盟店で買い物に利用できる。企業は社員に配布されるポイント分のお金の
ほか、入会登録料やポイント発行手数料などを CCC に支払うという仕組みだ(『日本経済
新聞』、2012 年 4 月 5 日、10 頁)。この T ポイントを福利厚生に活用するアウトソーシ
ングサービスを「T ベネフィット」と言う。「CCC は、T ベネフィットを通じて従業員の経
済的側面や精神面などの環境を整え、従業員満足度を向上させていきます。さらに、従業
員一人ひとりが能力やスキルを十二分に発揮して、就業定着や育成を図ることのきっかけ
となり、帰属意識の創出となることを期待いたします。そして、今後もライフスタイルの
中でも重要な要素である働くというシーンにおいて、T ポイントの新しい価値創造の実現
を目指してまいります」(カルチュア・コンビニエン・クラブ株式会社 ニュースリリー
ス 2012 年 4 月 5 日)、とあるように、CCC は今までコンビニエンス・ストアやスーパー、
ガソリンスタンドなど小売企業が中心顧客であったが、新たな顧客企業の開拓に挑み、そ
の結果 T ポイントに新たな付加価値が生まれたのである。 そして、もう一つの変革がポイント一律付与からの脱却である。CCC が現制度を導入し
た 2003 年以降、利用金額 100 円あたり一律で 1 ポイント(付与率は 1%)というポイント
の仕組みは約 10 年間変わらなかったが、2013 年 10 月からその仕組みが変わることになる。 新たな仕組みは店舗で書籍の購入や DVD のレンタルなどをした日数に応じ翌月の共通ポ
イントの付与率を 1.5%、1%、0.5%に変えるというものだ。これを「TSUTAYA ランクア
ップサービス」といい、具体的には前月に 5 日以上利用すれば利用金額 200 円あたり 3 ポ
イントを付与。3~4日は同 2 ポイント、2 日以下は同 1 ポイントと差を付ける。共通ポイ
ントは一律のポイント付与を基本にしてきたが、TSUTAYA が成功すれば、他に広がる可能
性もある。CCC の 9 月の会員の利用実績では、約 3 割に最も高い付与率が適用されるとい
う。CCC は利用頻度で付与率が優遇される制度の導入で来店増につなげ、1 年後に高付与
率の会員を全体の 5 割に高めたいと考えている。結果として負担するポイント原資は増え
る見込みだが、CCC が今夏に実施した顧客アンケートでは 8 割以上が利用状況に応じたポ
イントサービスを希望した(『日本経済新聞』、2013 年 10 月 2 日、12 頁)。 つまり、利用額に応じた一律から、利用頻度に応じて 3 段階に分け最大 3 倍の差がつく
14
ようにしたのである。こうしたサービスを導入した背景には、CCC が T ポイントカードの
会員を対象に行ったアンケートで 8 割以上の会員が利用状況によるサービスを希望してい
たことがある(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 ニュースリリース 2013
年 10 月 2 日)。また、「Ponta」や楽天との競争の激化により、利用増によるさらなる顧
客囲い込みを狙ったことも挙げられる(『日本経済新聞』、2013 年 10 月 2 日、12 頁)。 4. 事例の考察 ポイントプログラムには「既存顧客の囲い込み」、「既存顧客の優良顧客化」、「新規顧客
の獲得」、「提携他社との相互送客」の4つのメリットがあったが、T ポイントカードにお
いては特に「新規顧客の獲得」と「提携他社との相互送客」に効果を発揮したと考えられ
る。また、この効果を発揮する際に重要となったのは POS データと連動して顧客の購買動
向を分析することで得られる膨大なデータの活用であることがわかった。相互送客の点で
は、CCC はカメラのキタムラとの提携をきっかけにファミリーマートと提携することでリ
アルのデータ、ヤフーと提携することでネットのデータとリンクすることで実現していっ
たと考えられる。 また、企業が独自のポイントプログラムを導入するのに機械を導入するための管理費用
がかかる(張[2011]、26 頁)。管理費用というのは、ポイントプログラムを導入するため
に、ポイントカードの発行や、そのカードのデータを読み取るためのカードリーダー、あ
と読み取れたデータの分析などで費用がかかる。共通ポイントプログラムに参入した企業
は、ポイントプログラムの運営を CCC のような企業にアウトソーシングすることで、ポイ
ントプログラムにかかわる大きな出費が削減でき、T ポイントを導入した企業は、CCC に
対して一定のシステム料を払わなければならないが、それでも自社独自のポイントプログ
ラムを運用するよりコストが低いだろう。実際にブックオフは T ポイントへの参入の目的
をコストの削減としていた。また、共通ポイントプログラムに参入したわけではないが、
コストの影響でポイントサービスから撤退した例にユニクロがある。ユニクロは 2000 年
から 2002 年にかけて無期限のポイントカードを発行していた(『日本経済新聞』、2008 年
11 月 25 日、17 頁)。2000 円の買い物ごとにポイントが貯まり、30 ポイント貯めると 5000
円分の買い物ができるというものだったが、2007 年 8 月末に廃止になった。これに対して
小本(2007)はコンビニやスーパーの割引率が 1%であることに対し、8%と高い割引率で
あったが、ポイント交換のためには多額の追加購入が必要になり、交換が実現できるまで
の時間が長く、追加購入を促す強い誘引にならなかったと指摘している。また、海保
(2010)は発行枚数が多くなりコストの面で経営を左右する要因となったためだと言って
いる。独自で展開するポイントカードの発行枚数が多くなると引当金として負債の部に積
みましておく必要があるため、やはりコストが影響して発行を停止したと考えられる。こ
うしてみるとコストの面でもメリットがあると言える。さらにこの廃止に伴い消費者との
間でトラブルも起きた(『日本経済新聞』、2008 年 11 月 25 日、17 頁)。岡山市の主婦 B 子
15
さんは「廃止以来、店に行かなくなった」と言う。B 子さんは 2007 年 4 月に 30 ポイント
を得たが無駄になった。ユニクロは「終了の告知を店頭とホームページで半年以上前から
していた」と理解を求めたが、B 子さんは「何度も通ったのに気づかなかった」と憤った
のである。つまり、ユニクロはコストによるポイントサービスからの撤退により一部の消
費者との信頼を失ってしまったとも言える。 T ポイントカードの歴史を見てみると、どうやら大きく分けて導入期、第 1 加速期、第
2 加速期、変革期の 4 つに分けることができるようだ。導入期においては共通ポイントサ
ービスとして拡大を始め、青山商事との連携により疑似マネーという価値を提供した。ま
た、第 1 加速期ではカメラのキタムラとファミリーマートとの提携によりデータ共有によ
る相互送客の仕組みをつくりあげた。さらに、第 2 加速期ではヤフーとの提携によりリア
ルとネットでの相互送客を実現させた。そして、変革期では福利厚生として T ポイントを
活用することを始め、10 年間変わらなかったポイント一律付与の仕組みも変更した。共通
ポイントプログラムの課題としてマーケティングに活用するには発行事業者の力量が重要
になると安岡(2009)は述べていた。事例を追っていくとリアルとネットの連動や福利厚
生での利用、ポイント付与率の一律付与からの変更など、発行事業者である CCC はその課
題に対し常に解決しようと取り組んできたのではないだろうか。また、共通ポイントプロ
グラムである T ポイントカードは擬似マネーや顧客の購買動向データ、企業提携としての
ツールなど様々な付加価値を生み出しながら、数多くの業種と提携しながら世の中に浸透
していったことがわかった。 5. まとめ 本論文では、共通ポイントプログラムがどのようにして世の中に浸透していったのかを、
CCC が運営する T ポイントカードを例に上げて明らかにしてきた。また、その際にポイン
トプログラムのメリットや共通ポイントプログラムの課題に対してどのように取り組んで
きたのかを確認し考察した。 また、本論文では共通ポイントプログラムの例として T ポイントカードを例に上げたが、
現在、競合となっている Ponta カードや同じ共通ポイントプログラムであるマイレージ・
プログラムについての考察はしていない。今後はこれらを相互に比較し共通ポイントプロ
グラムについてより深く考察することを課題とし、さらに拡大するであろう共通ポイント
プログラムの動きを注意深く観察していきたい。 参考文献 海保英孝(2010) 「ポイントプログラムをめぐる経営の諸問題について」『成城大學經濟
研究』 第 187 号、119-148 頁。 小本恵照(2007) 「進化するポイントカードとその将来性」、ニッセイ基礎研レポート、
ニッセイ基礎研究所、1-8 頁。 16
張寅心(2011) 「共通ポイントプログラムと参入企業の目的に関する考察 -関係性マー
ケティングの観点から-」、首都大学東京大学院経営学研究科修士論文。 安岡寛道(2007) 「企業通貨におけるポイント・マイレージの現状と将来性」、『日本大学
大学院総合社会情報研究科紀要』、No.8、113-124 頁。 安岡寛道(2009) 「T ポイント vs ポンタ 共通ポイント 2 大陣営の行方」、『エコノミス
ト』、2009 年 12 月 8 月号、43-45 頁。 『日経流通新聞』、2006 年 3 月 6 日、5 頁 『日経流通新聞』、2007 年 9 月 17 日、5 頁 『日経流通新聞』、2008 年 5 月 26 日、1 頁 『日経流通新聞』、2008 年 11 月 7 日、9 頁 『日経流通新聞』、2010 年 6 月 4 日、11 頁 『日経流通新聞』、2010 年 8 月 27 日、9 頁 『日経流通新聞』、2013 年 9 月 25 日、9 頁 『日経産業新聞』、2008 年 8 月 13 日、2 頁 『日経産業新聞』、2010 年 1 月 6 日、1 頁 『日本経済新聞』、2008 年 11 月 25 日、17 項 『日本経済新聞』、2001 年 4 月 11 日、43 頁 『日本経済新聞』、2008 年 11 月 25 日、17 項 『日本経済新聞』、2012 年 4 月 5 日、10 頁 『日本経済新聞』、2012 年 7 月 15 日、11 頁 『日本経済新聞』、2013 年 10 月 2 日、12 頁 Ponta ホームページ:http://www.ponta.jp/ (2014/01/21 閲覧) T ポイントと T カードの総合サイト「T-SITE」 :http://tsite.jp/ (2014/01/21 閲
覧) カルチュア・コンビ二エンス・クラブ株式会社 ホームページ:http://www.ccc.co.jp/ (2014/01/21 閲覧) ヤマダ電機 ホームページ:http://www.yamada-denki.jp/point/ (2014/01/21 閲覧) 17